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政策立案

パターン・ランゲージ

「政策の作り方」についての言葉

Local Think tank Generative Commons

新潟県新潟市職員有志

新潟県新発田市職員有志

ver1.0 2020年6月

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はじめに

行政職員にとって、政策立案は、身近なようで身近ではない微妙な距離にある存在です。

毎年度、程度の差こそあれ、誰もが政策立案に関わっていますが、政策立案そのものについて議論されることはほとんどなく、機械的にしょうがなくこなさなければならない作業のようになっています。

しかし、政策立案は本来、そこで働く職員の思いを表現していく極めて創造的な行為ではないでしょうか。

本書は、政策立案の方法論を現場職員の思い・言葉からまとめ上げたものです。

職員の日々の苦労から紡ぎあげた仮説ですので、学術的な正しさは無いかもしれませんが、そうであるからこそ、現場で悩む職員が政策立案について考えるきっかけになっているのではないかと考えています。

全世界に大きな影響を与えたコロナウイルスは、科学的な知見と人間個人との価値観が日々ぶつかり合う中で、政策はどうあるべきなのか、どうコミュニケーションをし、どう作られるべきなのかという問いを私たちに突きつけています。

政策立案のあり方は、以前から議論されてきたものであり、その意味で古いテーマですが、継続的に改善し続けるべきものという点では、永遠に新しいテーマでもあり続けるものでもあります。今回のコロナウイルスからも、政策立案として学び、次の時代につなぐべきものも少なくないはずです。

この仮説が、みなさんの政策立案を考える「たたき台」として使われ、政策立案をより良いものにしていく一助になれば幸いです。

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目次

政策立案パターン・ランゲージとは

政策立案パターン・ランゲージの全体像

政策立案パターン・ランゲージ

【参考】1年間の政策立案プロセス(タイムライン)

政策立案パターン・ランゲージの作成プロセス

策定メンバー

Local Think tank Generative Commons について

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政策立案パターン・ランゲージとは

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政策立案パターン・ランゲージとは

【素材】職員自身が持っているナレッジ

パターンをつくる素材は、職員自身が持っている政策立案についてのナレッジです。

政策立案プロセスについて、「こうやるとうまくいく」「本来こうあってほしい」と職員が思っていることを言葉にしたもので、現場の職員が実践的に使える内容・言葉にすることを意図しています。

【性質】検証・改善されつづけるべき「仮説」

そのため、言語化されるものは「仮説」です。それは、「正しい答えではない」という意味もありますが、それ以上に、パターンについて語ってみたり、パターンを実際に使ってみたりしながら、検証・改善すべきものであるということです。

政策立案パターン・ランゲージとは、「パターン・ランゲージ」の形式で、「職員自身が持っている政策立案についてのナレッジ」を「仮説として言語化」したものです。

【形式】パターン・ランゲージ

アウトプットの形式として、「パターン・ランゲージ」(※1)を用いています。これは、建築家クリストファー・アレグザンダーが住民参加のまちづくりのために提唱した知識記述の方法です。アレグザンダーは、町や建物に繰り返し現れる関係性を「パターン」と呼び、それを「ランゲージ」(言語)として共有する方法を提案しましたが、それが、ソフトウェア開発などの「非物理的なもの」や、さらには組織・対話などの「人間行為」についての知を言語化する方法として用いられるようになってきました。

今回は、その表現形式を用いて、政策立案の方法論を言語化しています。

(※1)本書の別ページで、パターン・ランゲージの概要を整理しています。

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(参考)パターン・ランゲージとは

出典:CreativeShift

パターン・ランゲージは、状況に応じた判断の成功の経験則を記述したもので、成功している事例の中で繰り返し見られる「パターン」が抽出され、抽象化を経て言語(ランゲージ)化されたものです。そういった成功の“秘訣“ともいうべきものは、「実践知」「暗黙知」「センス」「勘」「コツ」などといわれますが、なかなか他者には共有しにくいものです。パターン・ランゲージは、それを言葉として表現することによって、ノウハウを持つ個人がどのような視点で、どんなことを考えて、何をしているのかを、他の人と共有可能にします。

●優れた点は?

  1. 「言葉」として対話の中で使うことで、「秘訣」を共有できます。
  2. 「言葉」がなければ見えない現象を、認識することができるようになります。
  3. 自分の経験をいかしつつ、他の経験を取り入れることで、その人らしさを肯定しながら成長することを促します。

●どういった方法なの?

「パターン」は、いわば文法のようなものをもっており、決まったルールで書かれます。どのパターンも、ある「状況」(Context)において生じる「問題」(Problem)と、その「解決」(Solution)の方法がセットになって記述され、それに「名前」(パターン名)がつけられる、という構造をもっています。このように一定の記述形式で秘訣を記することによって、パターン名(名前)に多くの意味が含まれ、それが共通で認識され、「言葉」として機能するようになっているのです。

●マニュアルとどう違うの?

現在、多くの領域では、理念(スローガン)とマニュアル(行動指示)の間をつなぐ言葉がありません。そのつながりは、その文化に長くいる者には見え、体現できるものの、経験の浅い人には大変難しく、理念に則った日々の行動を行うことはなかなかできません。

パターン・ランゲージは、理念とマニュアルの中空を結ぶ「言葉たち」です。理念に結びつきながら、行動は示しません。それにより、どのように行動することで、よい「質」を生み出していけるかを考えることができるようにつくられています。

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作成した問題意識・目的

なぜ「政策の作り方」をつくろうとしているのか、という背景について述べたいと思います。

●政策立案に関する知の技術的側面への偏り

「政策の作り方」に関しては、これまでにも学術的な検討も行われていますし、関連の書籍も多数出されています。それらからは学べることは多いですが、「分析の仕方」や「データ活用の仕方」など政策立案の技術的な側面に焦点が当てられているものが中心です。政策立案に強い関心を持つ職員には読まれているかもしれないが、そのような職員は一部であり、現実の政策立案そのものを変える素材になりえていないのではないかと感じていました。

実際の組織においては、人間関係(その意味での政治性)や組織の慣習・カルチャーなど、政策立案プロセスに影響を与える様々な要素があるのであり、政策立案プロセスの質を高めるには、分析の仕方などの「技術的な知」のみならず、「技術的ではない知」も作っていかなければならないのではないかと考えています。

●政策の作り方についての共通言語がない

もうひとつは、「こうすれば良い政策が作られるだろう」という「政策の作り方について仮説」がないままに、もしくは、そのような仮説が組織として共有されることがないままに、なんとなくの空気感だけで政策や事業が作られているという問題があります。

仮説がなければ、ふりかえったり検証されたりすることもなく、改善されることはありません。その結果、盲目的に同じやり方を作業的に続けてしまっているという現状があるのではないかと考えています。

これらが、私達が政策立案パターン・ランゲージを作成しようと考えたきっかけ(問題意識)です。

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作成した問題意識・目的

職員が、状況に応じて最適な振る舞い方を選択し、

行動しやすくなるための「素材」を作りたい

  • 画一的なマニュアルでは、複雑化する社会・組織の状況に対応できない
  • 一方で、公共政策学などの学問的知見も、現場に適用しづらい。

各自の経験の中に眠っている暗黙知を

ある程度汎用性がありそうな粒度で言語化していく

(特に、なぜそれが大事なのかという「Why」を)

そのような問題意識から、私達は「職員が、状況に応じて最適な振る舞い方を選択し、行動しやすくなるための「素材」を作ること」を目的としました。

パターン・ランゲージという形式を選択したのも、それが理由です。

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使い方

この政策立案パターン・ランゲージは、以下のようなケースで活用いただければと考えています。

●年度当初に、政策立案の計画を立てるときに

新しい体制になった年度のはじめ。1年間の政策立案・事業検討をどう進めていくか、この政策立案パターン・ランゲージをもとに係・課・部の単位で検討をしてみてください。本書のパターンが唯一の正解ではないので、各組織・各業務にあった最適な「政策の作り方」を生み出していただきたいと思います。

●年度最後のふりかえりに

過去1年間に行ってきた政策立案・事業検討をふりかえる素材として、政策立案パターン・ランゲージを使っていただければと思います。パターンに記載された内容と比較して、1年間やってきたこと・やり方はどうだったか。部署のメンバーと一緒に対話をしてみてください。

●研修に

研修の素材として活用いただくのも有用かと考えています。

たとえば職位別の研修で使用し、それぞれの現場で行われている政策立案をふりかえったり、さらには、政策立案パターンそのものをつくることも、より良い政策立案のあり方を考える機会になります。

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政策立案パターン・ランゲージの全体像

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政策立案パターン・ランゲージの全体像

今回、作成した政策立案パターン・ランゲージの全体像は右図です。

このパターンは、参加メンバーの課題意識から抽出・作成し(※1)、最終的に「経験・学び」「市民との対話」「ビジョン」「事業」「組織」の5つのカテゴリーにボトムアップに分類したものです。

ですので、良い政策立案を行う上で不足している論点がある可能性はありますが、今後も随時アップデートしていきながら、より納得感のある構成・内容にしていく予定です。

秘伝のタレ

【経験・学び】組織や個人が経験したり学んだことを次の世代に繋いでいくための知恵

暮らす人たち、働く人たちの、多様な思い

北極星を探す

事業を育む

組織を未来に繋ぐ

【市民との対話】市民や民間企業など、外部の人達と対話をする際の知恵

【ビジョン】進むべき方向性を見つけるための知恵

【事業】事業をより良いものにしていくための知恵

【組織】組織が有機的に連携し、価値を生み出していくための知恵

(※1)政策立案パターン・ランゲージの作成プロセスについては、本書の別ページで詳細を記述しています。

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政策立案パターン・ランゲージの全体像

秘伝のタレ

  • 市民と行政との対話に必要な「余白」
  • お互いの期待値をそろえる
  • パートナーとの、より良い付き合い方

暮らす人たち、働く人たちの、多様な思い

北極星を探す

組織を未来に繋ぐ

事業を育む

  • 「計画vs現場」に陥らない柔らかい計画をつくる
  • 「この事業は本当に効果が出るのか・・・?」の不安解消のススメ
  • データは嘘をつかない。捏造しない限りは。
  • 着込んだ服を一枚ずつ脱ぎ捨てる
  • “爆弾”が爆発しないように
  • 普段からの対話
  • 他部署と連携する第一歩
  • ビジョン
  • 行き先を示されてはじめて、走ることができる
  • 目標に疑問をもったときの評価指標づくり
  • チャレンジの通過点としての目標値設定
  • 秘伝のタレを継ぎ足す
  • 同じステージの上で踊る
  • ありたい職員像を言葉にする

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政策立案パターン・ランゲージ

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各パターンの構造

次ページ以降で記載している各パターンは、以下の構造で整理しています。

左側に「タイトル」や「イメージ」を記載し、右側に「①ある状況」で「②問題が発生している」が「③解決策」を実施することで「④ある望ましい結果」を導くことができるだろう、ということを記載したものです。

タイトル

パターンの内容をイメージで表現

パターンの内容に関連のある言葉を紹介

パターンが発生する状況

そこで発生している問題

問題の解決策

問題を解決することで期待される結果

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秘伝のタレ

  • 秘伝のタレを継ぎ足す
  • 同じステージの上で踊る
  • ありたい職員像を言葉にする

●経験・学び

組織や個人が経験したり学んだことを

次の世代に繋いでいくための知恵

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秘伝のタレを継ぎ足す

みんなの情報をみんなで蓄積していく。

担当者が業務を引き継ぐときに、自信をもって次の人へ渡し、渡された人は自信をもっていきいきと新しい持ち場で仕事をはじめたい。

▼その状況において

自分が誰とどんな仕事をして、どのような結果になったのか、日々記録をしておかなければそれらの大切な情報はどんどん埋もれてしまいます。組織で仕事をしている私たちですが、それぞれの情報は十分に共有されていないように思います。情報が埋もれたままでは、次の人にうまく仕事を引き継ぐことができません。

▼そこで

日々の業務には背景や目的、求められる成果があります。それを担当者が理解して他のメンバーとも共有できるように「業務カルテ」を作ります。

業務カルテには誰と、どんな仕事をして、どんな結果が出たのか、記憶が埋もれてしまわないうちに、記録していきます。

さらに、何がうまくいったか、何がうまくいかなかったか、うまくいかなかった原因は何か、次の打ち手は何か、担当者自身が何について悩んだのか、その時の状況も残しておくことにします。

▼その結果

3月に異動を命じられ、わずかな時間で引き継ぎ書を作るのでは、ストレスも大きいですが、業務カルテを日々更新しておくことは、引き継ぎする側の負担を平準化すること、次の担当者にとってカルテは大事な道具となるでしょう。

担当者はたった1人かもしれませんが、業務カルテは先輩たちの知恵をつなぐ「秘伝のタレ」のようなもの。新しい素材を継ぎ足すことは、自分自身の経験を増やしていくことにもつながります。

じぶんの記憶をよく耕すこと。

その記憶の庭にそだってゆくものが、人生とよばれるものなのだと思う。

(長田弘「記憶のつくり方」)

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同じステージの上で踊る

「チームの型」と「個々の個性」と。

チームとしてより高いレベルの知識をもって仕事をしたい。

▼その状況において

少ない人員で業務を回しているなどの多忙な環境においては、結果として「属人化」してしまうケースがあります。およそ2~3年で人事異動が行われる行政の職場では、マニュアルがうまく引き継がれないこともしばしばです。結果、その担当者が不在のときには、過程や方法が見えない所謂「ブラックボックス」状態に陥ってしまい、円滑な業務の遂行に支障をきたす場合があります。

▼そこで

多様なメンバーが集まる職場ですが、同じステージでパフォーマンスができるように、基本の動きを共有します。業務過程やノウハウを可視化・共有して「型化」することで、別の担当者であっても該当業務を同様に遂行できる状態を目指します。

同時に、個々の個性を表現することも重要です。変化が激しい時代の中で、同じことを繰り返しているだけでは現状の維持すら難しい状況ですが、そこで大事なのは、行政で働く個人の感性と想いです。まちや社会のことを感じ取る。それは「型」にはできない部分です。

▼その結果

「チームの型」を共有しながらも、「個々の個性」を表現することで、変化に対応できる「チーム」を作ることができ、その結果、市民サービスの向上につながるでしょう。

そのためにも、<秘伝のタレを継ぎ足す>ように、みんなの経験を残して、次の世代に引き継いでいきましょう。

体という側面を見れば、生物は循環器系、消化器系などの<亜全体>(サブホール)で構成される全体であり、その亜全体は器官や組織などより低次の亜全体に分岐し、さらにそれは個々の細胞に、その細胞は細胞内の小器官に・・・とつぎつぎ分岐していく

(アーサー・ケストラー「ホロン革命」)

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ありたい職員像を言葉にする

組織と個人で共につくる、ありたい職員像。

次世代の職員を育てていきたい。

▼その状況において

組織として、人材に投資をしていくという意識が薄く、形だけの研修が長年繰り返されています。一方、個人レベルでも、思いがある職員は、自ら組織の外に自ら学ぶ機会をもとめて行動していますが、そうではない職員は、学ぶべきことを学ばないままに肩書だけがあがっていってしまうという状況が生じています。

▼そこで

組織としても、個人としても、どういう職員になってほしいのか/なっていきたいのかということを言葉にします

素敵な地域を創っていくために、どのような人材になってほしいのかという組織のビジョンを明確にした上で、一方、職員個人としても、どんな職員になっていきたいのかということを言葉にします。個人の思いを受けて、組織のビジョンを見直しても良いでしょう。

職員研修の一環として、職員同士の対話などを通じて「ありたい職員像」を自ら定義し、宣言するのも面白いかもしれません。

▼その結果

ありたい職員像が明確になることよって、様々な場で学びが生まれやすくなります。上司が部下に教えるだけではなく、部下が上司に教えるような形もあるかもしれません。また、部署・組織・地域を跨いだ学びも生まれやすくなり、結果、そのような連携が必要となる政策・事業を実施する際の土台にもなります。

この学びのプロセスが、<同じステージの上で踊る>際の型となり、<秘伝のタレを継ぎ足す>際のタレになっていきます。

現代社会をタフに長く生き抜くためには自分の学びのスタイルを常に模索することが重要だ。

言うまでもなく学びは学校で終わるのではなく、一生かけた営為なのだ。

(上田紀行編著「新・大学でなにを学ぶか」)

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暮らす人たち、

働く人たちの、

多様な思い

  • 市民と行政との対話に必要な「余白」
  • お互いの期待値をそろえる
  • パートナーとの、より良い付き合い方

●市民との対話

市民や民間企業など、

外部の人達と対話をする際の知恵

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市民と行政との対話に必要な「余白」

想定どおりにいかない可能性を受け入れる。

市民と対話をしたいけど、うまくいかなかったり、怖いというもどかしい気持ちがあるとき。

▼その状況において

いまの「市民と行政は、お互いにお互いを信頼できない状況になってしまっています。「行政はなにもしてくれない」「市民は不満しか言わない」...と。そして、そのような不信感が前提にあるためか、行政が開催する対話の場も形式的なものになってしまい、行政も市民も、お互いの本当の思いを知ることができていません。

▼そこで

「対話」というものは、お互いの関係で成り立っているものであって、行政だけに問題があるということではありませんが、対話の場がお互いにとって有意義なものとなるためには、行政が「この結論に導かなければならない」「このやり方でやらなければならない」という慣習・価値観を捨てる必要があります。対話をすることの意味は、想定どおりにいかない可能性を受け入れることにあります。

「対話の場を多様な形で用意する」「結論が変更できるタイミングで対話を行う」などによって、行政の意思を説得するための対話ではなく、お互いを理解し尊重するための対話=「余白を残した対話」を築いていくことができれば、行政にもメリットがある対話になります。

▼その結果

市民の声は、本来、行政がやっていることに対して正統性を付与してくれるものです。結論ありきではない、市民が求める対話の場を作ることで、市民は行政の取り組みを後押ししてくれる存在になるはずです。

対話の場を作っていく上では、<お互いの期待値をそろえる>で書いていることをあわせて実施していくことで、余計な不満・批判をなくし、建設的な対話を行うことができるようになります。

公共政策は一般に純粋は知的分析の産物ではないし、そのようなものとすることもできない。

端的にいって政治過程の産物にほかならない。

(足立幸男「公共政策学入門 民主主義と政策」

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お互いの期待値をそろえる

対話で作る、お互いに期待する役割。

明確に、具体的で肯定的な行動を促す言葉で要求を表現することで、わたしたちがほんとうに望んでいることがはっきりする。

(マーシャル・B・ローゼンバーグ「NVC:人と人との関係にいのちを吹き込む法」)

市民の人とやりとりする中で...

▼その状況において

「行政は何もしてくれない」という言葉を投げかけられたり、逆に「市民は何もしてくれない」と思ってしまうことがあります。

▼そこで

できないことはできないと、はっきり伝えましょう。

本来できないことを、取り繕って前向きな返事をしたり、あいまいなままにしてしまうのは、市民も行政側もお互いに不幸です。なぜなら、期待した市民から、また「行政は何もしてくれない」と指摘されるだけだから...

一方で、同様の感情を市民に対して持ってしまうときは、行政が市民に対して過剰な期待をしていないか確認するようにしましょう。地域は市民と一緒に作っていくものとはいえ、行政ができることに限度があるように、市民がやれることにも限度があります。

また、期待を相手に伝えるときは、「やってほしいこと」だけではなく、「なぜそれを期待するのか/お願いするのか」という理由を必ず伝えましょう。「理由」は、お互いの期待値をそろえる上で、とても重要な要素です。

▼その結果

まず、お互いの期待値がそろうので、相手に幻滅することもなくなるため、不要な批判もなくなります。さらに、お互いの期待値についての対話は、地域における市民と行政の役割をアップデートし続けることにもなります。

社会が変化していく中で、市民・行政はそれぞれ何をすべきか、お互いに何を期待すべきなのかということを対話し続けましょう。

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パートナーとの、

より良い付き合い方

パートナーを知るためのアンテナを。

新規事業や、今までやっていた事業の見直しが必要で、外部の人達の協力を得て進めた方が目的達成に近づくような事業を行うとき。

▼その状況において

外部の人と事業の内容を検討する際、関係者が固定化(特定の年寄やエリアの人など)していると、事業の進め方が特定の人や団体の考え方に左右され、事業の内容が単一的・局地的になってしまいます。そうなると、事業を実施しても波及効果が小さく、想定していた問題や課題の解決に結びきません。

▼そこで

事業推進における関係者との関わり方を、関係者から承認を得るだけでなく、共に取り組む仲間であると、先ずは自分の意識をバージョンアップさせましょう。

その上で、目的を達成するために協力を得たい関係者は誰か?そのような人材は存在するのか?と考えて、アンテナを張りましょう。なお、人材を探す際には、その人の特徴(年代、経歴、立場、考え方、ステークホルダーなど)を知ることも意識することが大切です。特徴を知ることで、実際に話をするときに上手くいく可能性が高まります。「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」と孫子の兵法でも、その重要性を説いています。

しかしながら、地域に人材がいないことも考えられます。その場合は、域外の人材にも目を向けて、また、域内の人材の可能性を広げるように教育機会の充実にも努めましょう。

▼その結果

外部の人と力を合わせることによって、車の両輪の如く、はたまた掛算のように、良い取組となっていくでしょう。事業の効果も高まり、そして相互の学習機会にもなり、より持続可能な取組となるのではないでしょうか。

私とは「私と私の環境」である

(宇田川元一「他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論」)

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北極星を探す

  • ビジョン
  • 行き先を示されてはじめて、走ることができる
  • 目標に疑問をもったときの指標づくり
  • チャレンジの通過点としての目標値設定

●ビジョン

進むべき方向性を見つけるための知恵

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「問い」としてのビジョン

答えではなく、問いを探す旅。

権力は問いのプロセスを腐敗させる

(ハル・グレガーセン「問こそが答えだ!」)

行政組織や地域として目指している方向性が分からずに困っています。

▼その状況において

ビジョンは誰かが作って提供してくれるものという他者に対する依存があったり、また、ビジョンを提示することを求められるトップも適切なビジョンを提示できていません。ここには、ビジョンの内容以前に、そもそもビジョンとはどのようなものかということについての共通認識がないのかもしれません。

▼そこで

「こっちを目指していれば良い」という意味でのビジョンは、価値観が多様化し、変化が激しい現代においては、もはや存在しないかもしれません。

むしろ、必要なのは、何について考えればよいのか、何について対話すればよいのか、何について調べればよいのかという「問い」ではないでしょうか。さらにいえば、そのような問いを探すプロセス自体がビジョンが持つ本質的な意味なのかもしれません。

ビジョンというものを固定的な答えとしてではなく、行動しながら問い自体を探す動的なプロセスとして捉えた上で、職員同士や地域の人たちと対話をしてみましょう。

▼その結果

そのように考えることで、「ビジョンを与えるもの」と「ビジョンを与えられるもの」という2者対立的な関係ではなくて、共に作っていくものになるでしょう。

そして、ビジョンとはなにか、ビジョンはどう作るとよいか、、、というビジョンの内容の前提となる対話が生まれていきます。

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行き先を理解してはじめて、

走ることができる

互いに理解できる言葉でゴールを示す。

行政組織は限られた財源でも人がちからを合せて事業を進めていきたい。私たちは行政職員として自分のちからを発揮して地域に貢献したい。

▼その状況において

私たちはさまざまな事業や活動をとおして、地域の暮らしを支え、その中で生きています。

行政活動の一つひとつが市民と地域に欠かせないものであるはずですが、行政の仕事がどのような効果をあげているのか、その成果の確認は十分であるとはいえません。

顧客である市民と同じ方向を向いて、行政サービスを提供することができているでしょうか。

▼そこで

私たちが走って向かうゴールを、互いが理解できる言葉で示し、走りながらその方向が正しいのかを互いに確認するということを習慣にします。

このゴールが私たちの組織における「ビジョン」であるといえます。

▼その結果

人は行き先を理解してはじめて、走ることができます。

少し立ちどまったとしても、次に踏み出す方向が分かっているから、自信をもって進むことができるでしょう。行き先が分かっているから、人より先に進んだとしても、焦らずに仲間を待つことができるはずです。

サービスを提供する行政職員一人ひとりがそのちからを「行き先」にしっかりと向けてはじめて、行政組織が地域に貢献する存在になることができるでしょう。

優れたビジョンは、未来への洞察と自らの信念の上につくられている。

であるからこそ、未来を夢見たい私たちのエネルギーを結集する力を持っているのです。

(江上隆夫「ザ・ビジョン」)

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目標に疑問をもったときの

指標づくり

お互いに事業を理解するための指標。

事業を計画する段階で、事業実施の目標を考えるとき、現状の評価基準で事業実施の効果を図れるのか、疑問を持ったとき(また、新規事業を実施する際に、目標/評価の指標を考えるとき)

▼その状況において

現在行われている事業評価は、定量的・一面的・短期的なものであることが多いです。このような指標は、市民や議会の人にもわかりやすく実施した効果を評価してもらうことができますが、この評価にとらわれすぎると、事業の手段と目的を間違ってしまうことがあります。

また、評価に対する疑問を抱いたままだと、目標を達成しようというモチベーションもあがらず、やらされている感覚に陥ります。

▼そこで

まずは、事業の目的を整理して、あるべき姿を考えましょう。その後、これまでの定量的・一面的・短期的なものだけでなく、質的・いろいろな角度から・長期的な視点で評価できる指標を考えましょう。評価できる指標が考えられたら、それにあう目標を設定しましょう(これを繰り返し、様々な評価指標がそろってきたら一覧化して各部署で活用できるようにしてもよいでしょう)。

さらに、この事業では「なぜこの評価の指標を取り入れたのか」を根拠をもって説明できるように、職場の上司や部下と一緒に共有しておきましょう。

▼その結果

評価の指標を考えることで、手段が目的化してしまい、非効率的な事業実施となることを防ぎます。さらに、評価の指標について根拠をもって説明できるため、事業を実施する側は説明しやすく、説明を受ける側の市民や議会にとっては理解しやすくなります。また、本当に実現させたい事業の効果を自ら考え決定することで、モチベーション高く事業を進めることができます。

目標が限定合理に陥らないために、従業員相互がその役割を正しく認識する必要があり、マネジメントはそれを促す必要があります。それは情報公開だけでは決して得ることのできな信頼関係の構築が不可欠です。

(広木大地「エンジニアリング組織論への招待」)

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チャレンジの通過点としての目標値設定

評価のためだけではなく。

とある問題を抱えた状況を、複数年で改善させる事業の担当になった。

▼その状況において

数年間の先まで見越した進め方が難しい。問題を抱えた状況を良くするって、どういうこと?なかなかイメージができないし、フワッとしていると感じてしまう。数値設定しても、達成できるのかも不安だと感じてしまう。

▼そこで

状況が良くなっている状態を頭でイメージすることも大事ですが、加えて、その状態に対して幾つかの指標を設定し、イメージを具体化しましょう。

行政だと控えめな数値を設定することが多いですね。しかし民間側ですと、こういうこともあるようです。「目標は高めに設定せよ。目標はあくまで目標で、それに向かってチャレンジする営みが重要だ。そうすれば結果はついてくる」と。目標値の設定には組織風土も影響してきますし、そのうえで社内の合意をとりましょう。また、目標値はバックキャスティング、つまり、最終目標からの逆算して順番に達成できるような目標を年ごとに設定しましょう。

▼その結果

行政では色々な数値目標が設定されますが、目標値の意味をより考えていくことで、仕事への納得感や達成感を得ることができるでしょう。

目標値を設定して仕事をすると、目標を達成した場合、達成できなかった場合が出てきます。その結果がどうあれ、一喜一憂しないようにしましょう。良いやり方と、良くないやり方を振り返りましょう。前述したように「チャレンジする営み」の通過点として、捉えていきましょう。

OKRはノルマを課すためではなく、自分が本当にできることを学ぶためにある。失敗は、高い目標に向かって挑戦しているというポジティブな指標だ。

”ムーンショット”を目指せば、たとえ月までたどりつけなくても、きっと壮大な眺めを楽しめる。

(クリスティーナ・ウォドキー「OKR」)

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事業を育む

  • 「計画vs現場」に陥らない柔らかい計画をつくる
  • 新規事業の有効性の評価「この手法は本当に効果が出るのか・・・?」の不安解消のススメ
  • データは嘘をつかない。捏造しない限りは。
  • 着込んだ服を一枚ずつ脱ぎ捨てる

●事業

事業をより良いものにしていくための知恵

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「計画vs現場」に陥らない

柔らかい計画をつくる

「変えるべきではないもの」と「変えるべきもの」。

当初立てた計画が、社会情勢の変化やそれに伴うステークホルダーの変化に対応できていないとき。

▼その状況において

社会情勢の変化や、修正・未達成を想定していない計画では、実際に事業を実施する際に全く意味のないこと、必要とされていないことをやっているということになってしまいます。

最初にたてた数値を中心とした目標絶対視してしまうことで、市民からも喜ばれず、仕事をしている当事者(職員)としても全く楽しくない事業になってしまいます。

▼そこで

計画策定時には、未来を見据えた上で「普遍的に変わらない目的」と「情勢に応じて変化させる目標・アプローチ」をわけて考えましょう。そうすることで社会情勢に応じたフィードバックが可能な計画となります。

また、モデル事業や社会実験といった、短期的・実験的なアプローチで情勢の変化やそれに対する施策の効果を見える化することが、計画の修正を促していく上では有効です。

▼その結果

計画が社会情勢の変化を柔軟に反映させることで、より社会のニーズに対応した施策を展開できます。また、修正や変化を前提とした積極的な行政運営が可能となります。

スクラムの基本的な考え方はシンプルだ。プロジェクトを立ち上げたら、ときどき、自分たちは正しい方向へ向かっているか、顧客の要望に合っているか、定期的に確認してみようというものだ。

さらに、今していることをもっと改善する方法がないか、さらにうまく、速く進めるやり方はないか、そしてそれを妨げているものがあるとすれば何なのかを考えてみる。

(ジェフ・サザーランド「スクラム」)

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「この事業は本当に効果が出るのか・・・?」の不安解消のススメ

試しに小さくやってみる

「この事業は有効だ!」と堂々と説明するにはどうしたらいいか、担当者が悩んでいるとき。

▼その状況において

そもそも、新規事業は、取り組みの有効性(本当にこの事業が課題解決に向けた有効な手段なのか)を示す根拠が不足しています。

また、事業の実施による効果が「どのような指標」で、「どのぐらいの期間」で出てくるかを示すのも難しく、上記で記載した不安・疑問を払拭するのは難しいです。

▼そこで

これを解決するための方法は、各種研究機関による研究結果、他都市事例、専門委員会の報告に基づく検証などが考えられますが、最も有効な方法は、試しに小さくやってみること(モデル事業の実施)です。実際の実施結果ほど、確かで信頼できる情報はありません。

試しに小さくやってみることによって、事前に有効性が確認できなければ提案を中止することが可能であり、必要以上の投資を行わずに済むなど、損失を本格実施よりも抑えることができます。

▼その結果

事業の本格実施前に、モデル実施という形で事業の有効性を確認できるので、事業説明の説得力・信頼度も高まり、事業が円滑に進みます。

そして、そのプロセス自体が、市民と対話をする重要な一つの場にもなります。

プロトタイプの目的は検証です。

目指すべき目標は、ユーザーがインタラクションを行えるようなものを作ることです。これを通じて仮説を検証し、仮説の正誤を確認できることが求められます。

(リチャード・バンフィールド「デザインスプリント」)

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データは嘘をつかない。

捏造しない限りは。

So what? Why so?

手も金も回らないのに、色々な要望が出てくる。

▼その状況において

色んな人が、色んな要望を言ってくる。もちろんどれも正しいし、全部できれば一番いいのはわかっている。しかし、制約もあるのでそんなことできない。色んな人。納得いくように説明しないといけないけども、感情的になってきそうで、ちょっと嫌だ。

▼そこで

相手の背景を知ることも大切ですが、データを使った説明で、そして根拠を基に優先順位を提示しながら、納得感を作り出しましょう。数字や過去の経緯などをデータとして捉えて説明することで、自信を持って結論付けられるでしょう。

ロジカルシンキングの言葉で「So what? Why so?」という決まり文句があります。「だから何? それはどうして?」というような感じです。結果と根拠を述べましょうということです。「私は○○と思います。理由は●●だからです。」というような話し方において、●●のところにデータが入ってくると、より説得力が出てきます。何故ならば、数字は(捏造しない限り)嘘をつかないからです。

▼その結果

当たり前のようですが、日々の仕事のなかでデータをもとにして結論を作ることは意外と少ないかもしれません。やっぱり意識して慣れることですので、是非やってみてください。

そうすることで、「あ、そうなのか、それじゃあ私の提案は3番目か。まぁ他の案件もあるし。でも忘れないで3番目にやってくれな。」と、分かってくれる人が増えるのではないでしょうか。

感情や思い込みによる政策から、根拠に基づいた政策を作ろう。

大切なのは、その解釈が正しいかどうかではない。

その根拠が正直にデータに根ざした発想か否かなのである。

(川喜田二郎「発想法」)

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着込んだ服を

一枚ずつ脱ぎ捨てる

シンプルに仕事をする。

何もしなくても仕事は増えていく。やることが多すぎて、時間的にも精神的にも余裕が無い。

また、求められている業務が増えても、同僚・部下は増えない。一人ひとりの作業効率をあげる必要がある。取り扱う業務に関わらず、どの部署も「事務の省力化・スリム化・効率化」を考えなければいけない。

▼その状況において

効率化・スリム化が評価されない文化。「効率化=サービスの質を下げる」というネガティブなイメージがあります。

とにかく前例踏襲至上主義。もしかしたらプロセスを「削る」ことを嫌う風潮があるのかも...

▼そこで

一人ひとりが「時間 対 効果」の考え方を改め、着込んだ服を一枚ずつ脱ぎ捨てるように事務をスリムにしましょう。

まずはそれぞれの時間の使い方を可視化するために、どんな業務にどれだけの時間を費やしたか、記録をつけましょう

次に、「何をするか」の計画を立てるのと同じくらい、「何をやったか」のふりかえりを慎重に行います。振り返りのポイントは、仕事の量・質と要した時間のバランスは適当だったか。そして実施したタイミングは適切だったか。これらについて、職場の上司・同僚とともに振り返り、仕事の進め方の見直しを行います。

このとき、仕事を「ただ減らす」のではなく、業務の「重要度」で優先度を決めるよう、仕事の進め方を見直しましょう。「緊急度」ばかりを重視していては、いつまでも仕事の引継書は作れないし、倉庫整理もできません。

▼その結果

そうすることによって、細々とした雑務から解放され、疲弊しにくくなります。また、時間、お金、モチベーション、体力、精神力など、やりたいことができる余力が生まれるでしょう。

都市のために都市を縮小するのではなく、私たちの持つ小さな目的のために、主体的に都市を使いながら縮小する。

(饗庭伸「都市をたたむ」)

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組織を未来に繋ぐ

  • “爆弾”が爆発しないように
  • 普段からの対話
  • 他部署と連携する第一歩

●組織

組織が有機的に連携し、

価値を生み出していくための知恵

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“爆弾”が爆発しないように

力を合わせて、みんなで解決。

自分の部署だけでなく、他の部署とも連携・協力が必要な、縦割りを超えて組織横断的な仕事をするとき。

▼その状況において

「この業務は、あっち?こっち?」「ここの担当は誰?誰?」といった事業を進めるうえで必要となる部署間のやりとりが、「これは、そっちがやるべき!」「うちではない!」と押し付け合う対立的な構造となり、物事がスムーズに進まなかったり、最終的に良くない結果を招いてしまう。

▼そこで

先ずは、みんなが関わることで、より良い成果につながることを認識しましょう。そして自分の中で、事業の大きな目的やお互いの事務分掌を確認して、根拠に基づいて「どうあるべきか、誰が何をすべきか」を整理しましょう。

また、お互いの信頼関係を構築しておくことも大切なので、道端で話をしたり、日頃から他部署の職員とのコミュニケーションをとるように意識しましょう。

▼その結果

自分で調べたり、書き出してみることで、幅広い選択肢を得られますし、そうすることで落ち着きを取り戻すことができます。本当はみんな良い仕事をしたいと思っていますが、忙しかったり、他に気が回らないのかもしれません。

しかしながら、感情のぶつかり合い、押し付け合いでは、なかなか上手く進めることができません。前向きな姿勢で良いイメージを共有しながら、対立構造や押しつけあいを突破する方法を見つけることができれば、みんなで良い成果をあげることができるでしょう。

対話の本質は「話すこと」ではなく、「聴くこと」

(中原淳「ダイアローグ 対話する組織」)

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普段からの対話

鳥目線での対話、虫目線での対話

組織内の部署間で対立構造が生じているとき。

▼その状況において

組織として進むべき方向性は統一されているのが理想ですが、役所が担う役割は多岐にわたるため、目的が異なるそれぞれの部署がその部署のみの利害を目的としてしまう状況が見られます。部署間での対立構造は様々な弊害を生じさせ、業務効率や市民サービスの低下へつながります。

▼そこで

各自が達成しようとしている目的が「市全域>市役所>部署」のどのレベルでの目的か、より広域な視点で考える必要があります。

また、それぞれが目指す方向性の違いをなくすためには、前提として互いが持っている情報、おかれている状況や背景を、対話により共有することが必要となります(形式的な情報、表面的な数値等のやりとりだけでは認識に違いが生じます)。

こうした対話は予算要求や議会など、短期的な目的が生じる時点だけでなく、日常的なやりとりとしておこなわれることが望ましいです(表面的には成果が表れませんが、こうしたプロセスを省くことが上記のような問題の発生につながります)。

日常的なやりとりをする際、「鳥」が空を飛ぶように全体を把握する視点と、「虫」が土の細かいところを把握するような視点の両方を行き来すると良いでしょう。

▼その結果

「鳥」として地域全体・組織全体のことを見ながら、「虫」のように担当している事業の詳細を見ることで、自分の事業と他の部署の事業がより良い関係を作りやすくなるでしょう。

その結果、協力体制が構築され、難しい状況にも一体となって対処できる組織となります。

Organizationはその組織を担ってゐる人々が、行動の各瞬間に恰もはじめて新しい問題に対する如く決断しつつ組織を動かしてゐる限り、進歩的であり生命がある。

組織が主体から分離して客観化し、その中の人が組織に身を委ねて慣習的に、無意識的に組織によって規定された仕方で行為する様になると、その組織は凝固し、生に対して阻害的に作用する。

(丸山眞男「自己内対話」)

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他部署と連携する第一歩

相手の困りごとを聴く。

成果を出すために、他部署と連携して事業を行う必要がある、連携の指示があったが、連携をどのようにしていいかわからないとき。

▼その状況において

そもそも連携した経験がないため、どのように連携をしていいかわかりません。

連携しようとしたときに目的やビジョンの共有・設定方法がわからないこと、共有のための対話の方法もわからないことで、自部署の範疇だけで考えて行動してしまい、目的・達成したい成果に向かって進めず敵対してしまうことがあります(例えば、自部署の仕事を増やさないために仕事の押し付け合いをする)。

▼そこで

まずは、相手(他部署)の困りごと、達成したいことはなんなのかを聴くこと(ヒアリングすること)が重要です。そしてヒアリングをもとに、言語化・具体化して、目的や課題を整理した企画提案を行います。

それをベースにして他部署と対話しながら事業の実施に関係部署から意見をもらいながら進めることで、目的やビジョンの共有を行うことができます。

連携のきっかけづくりとして、所属部署の以外の人と、研究グループや勉強会などで交流し、視野を広げることも大切です。

▼その結果

事業に関わった部署が手を取り合い、お互いにハッピーな業務ができるようになります(成果が出る、実績になる、仕事がラクになる、ムリ・ムラ・ムダが減る)。

そして、良い結果がでたという経験を得ることで、別の事業でも連携の可能性を考えられるようになります。

会話を実りあるものにするには、話すこと以上に、聞くことを大切にしなければならない。

会話において、「聞く」という行為は、相手の「受容」を意味する。

(鈴木秀子「心の対話者」)

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【参考】1年間の政策立案プロセス

(タイムライン)

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新潟市役所:政策立案プロセスのタイムライン(概要)

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新潟市役所:政策立案プロセスのタイムライン(整理する前のもの)

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新発田市役所:政策立案プロセスのタイムライン(1/2)

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新発田市役所:政策立案プロセスのタイムライン(2/2)

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政策立案パターン・ランゲージの作成プロセス

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政策立案パターン・ランゲージの作成プロセス

|ステップ①|

現状認識の共有

参加者同士の現状認識を合わせるため、政策立案プロセスについての「事実」と「感じていること(問題点・良い点)」を共有します。

|ステップ②|

論点抽出

左記ステップ①で洗い出した情報をもとに、実際にパターン化したい論点を抽出します。

|ステップ③|

発想

左記ステップ②で抽出した各論点について、どのような問題が起こっていて、どのように解決しうるか、ということを対話をしながら検討します。

|ステップ④|

文章化

左記ステップ③で検討した要素を文章化します。

|ステップ⑤|

実践

作成した文章を実際の業務の中で実践し、パターンの改善が必要なところがあれば随時アップデートをする。

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ステップ① 現状認識の共有

事実を時間軸で整理する

事実を整理する方法として、今回のプロジェクトでは時間軸(タイムライン)での整理をしています。

時間軸で整理する理由は以下です。

  1. 起こったことを思い出しやすいため
  2. 事象と事象の関係性(因果関係)を理解しやすくなるため

時間軸で整理することで、出来事の全体像が整理しやすく、事象の因果関係も把握しやすくなります。

そこで「こうなったのは、これをしたからだ」という因果関係の仮説を発見することができれば、それこそが、パターンをつくる重要な素材になるものです。

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ステップ① 現状認識の共有

事実と価値判断

このプロセスのもう一つの意味は、「事実」と「価値判断」を分けた議論を促すことです。

これらは意図的に分けて議論をしなければ、たとえば「○○が10月に行われている」という発言があったときに、それが「事実」なのか「価値判断(問題)」なのかが分からなくなり、以降の議論の土台が崩れます。

たとえば前ページの図のような形で、事実(黄色)と価値判断(赤色・青色)を分けて、各自の現状認識を共有しましょう。

■赤色:現状のプロセスにおける問題点

■青色:現状のプロセスの良い点

政策立案のパターン・ランゲージを作成していく上で、この「現状認識の共有」は最も重要なプロセスです。実際の政策立案プロセスを改善したい場合、この「現状認識の共有」を行うだけでも大きな意味があると考えています。

みんなバラバラのものを見ている

なぜ、このプロセスが一番重要なのでしょうか。それは、同じ部署でも、さらには隣同士の席でも、それぞれが政策立案プロセスについて見ているものは全く異なっているからです。見ているものが異なっていれば、そもそも対話が生まれることもなく、チーム・組織として改善が行われることもありません。

まずは「できるだけ同じものを見ること」。

それが、このプロセスの最大の目的です。

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ステップ② 論点抽出

ステップ①で現状認識を共有できたら、つぎは、パターン化していく論点を抽出します。

ステップ①で「問題点」と「良い点」をあげていますので、それらをベースに「パターン化して他の人に伝えたい/次の世代に伝えたい」と思うもの(論点)を抽出します。

たとえば、「問題点」であれば、それを改善するやり方を見出して他の人に伝えたいと思うもの、「良い点」であれば、すでに良い形で実施できているのでぜひ他の人にも伝えたいと考えるもの、などが論点になります。

各自が「これはパターン化したい」「伝えていきたい!」という強い思いを持つものをあげていきましょう。

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ステップ③ 発想

次に、パターン化する対象として抽出された論点ごとに、具体的にどのようなパターンにしていくのか、ということを検討します。それが、この発想フェーズです。

ここでは、「ステップ④文章化」の準備として、パターンの基本的形式である「状況」「問題」「解決策」「結果」のそれぞれについて文章化する要素(種)を発想します。

この政策立案パターン・ランゲージを作成した際には、次ページをパターンの要素を検討する際の補助資料として使用しています(※1)。検討メンバーは、この次ページの補助資料を見ながら、メンバー2-3名の対話によって、1つずつパターンの要素を抽出しました。

(※1)次ページの補助資料は、今回の検討のために作成したもので、一般的には正しいものではないかもしれません。今後は、パターン・ランゲージの学術的研究なども参照しながら、より良い方法論を確立していきたいと考えています。

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どのような状況で

パターンが発生する状況を記載

①状況

どのような問題が発生しているのか、

発生しうるのか

  • 【具体化】その問題によって、「誰が」「いつ」「どこで」困っているか
  • 【要因】その問題はなぜ発生しているか(なぜ、なぜ、なぜ、、、と深ぼる)
  • 【関連】その問題が引き起こしている別の問題はある?

②問題

その問題が起きないようにするためには、どうしたら良いだろうか?

③解決策

その結果、どんな素晴らしい状況に?

そもそも、どんな未来にしたい?

  • 【さらにその結果】どんな状態が期待できる?
  • 【未来】どんな未来にしたい?
  • 【関連】これが実現できることで、影響を与えそうな別の要素はある?

④結果

そのような問題が発生しているのはどのような状況か

ある状況で

どのような問題が発生しているか

その解決策が実行できなかったら、どんな問題が発生する?

そのためには、

何をすればよいか

その結果、どんな未来が実現するか

解決するためには?

抽象化

具体化

ある解決案

それは、

つまり...

それってつまり、

どういうこと?

だとすると...

だとすると、

こんなことも?

行動化

そのために、

まず何を...

【例】部署の業務を対象に、一年間のタイムラインを作成

【例】同じ「情報」や「言葉」を共有することが大事

【例】

部署の業務に関する用語集を作ってみる

解決策にもレイヤーがある

【例】部署全体だとハードルが高いので、仲の良い人とやってみる

ステップ③ 発想

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ステップ④ 文章化

次は、パターン化した論点の要素を文章化していくプロセスです。

今回は、打ち合わせの中で、文章の骨格となるところを整理した上で、最終的な文章化は参加メンバー各自の作業として行いました。

「書いてみる→読んでみる→書き直してみる→読んでみる、、、」ということを繰り返しながら各自が納得する文章を作ったという形で、現状、方法論的なものは見いだせていませんが、文章化の意義についてはKJ法の提唱者である川喜田二郎さんが語っている言葉が参考になります(右記)。つまり、文章化の作業によって、追加のアイデアが生まれたり、論理の矛盾に気づきやすくなるということです。

今後も、継続的に文章を見直して、より納得感がパターンにしていきたいと考えています。

たとえば図解すると、一応はいかにもわかったような気がする。ところが、図解の意味を口のなかでつぶやいてみるとときどき説明がつながらず、行き詰まる。そのときに図解の誤りを発見し訂正するきっかけができる、ということは暗示的である。

なぜなら、つぶやくということは、一種の鎖状発展の関係認知法だからである。また、つぶやきとか会話と同様に、文章を書くというのも、その鎖状発展である。(略)したがって文章化したならば、図解のときにもっともだと思った理解のしかたについて、ときどき誤りを摘発することができるわけである。

(出典:川喜田二郎「発想法」、p128)

人間は手を動かすことによって、新しいアイデアを思いつく。このことは文章化の段階だけでなく、グループ編成の場合にも、A型図解の場合にも同様によくおこることである。たんに頭で考えるだけでなく、手を動かして作業をするということが、アイデアの触発にたいしてひじょうにプラスに働くものである。

(出典:川喜田二郎「続・発想法」、p105)

図解の利点は一目で全体構造がわかることである。けれども、一つの大きな弱点がある。つまり全体構造のなかで、要素と要素のあいだ、すなわち図解における島と島のあいだがどういう性質の結びつきをもっているのか、その結びつきの鎖の性質が、なおはっきりしないということである。そこでこの鎖の声質を明らかにしつつ、さらにあらたな発想を付け加えるためには、どうしてもB型(注:典型は文章化のこと)が必要になってくる。

(出典:川喜田二郎「続・発想法」、p99)

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ステップ⑤ 実践

政策立案パターン・ランゲージの作成プロセス。最後は「実践」です。

パターンに「完成」はありません。

作成したパターンは、政策立案をより良いものにするための、その時点の仮説に過ぎず、むしろ、実践を通じてアップデートしていくことが最も重要です。

<秘伝のタレを継ぎ足す>のパターンで書いているように、毎年の政策立案プロセスで経験したこと・学習したことをパターンに継ぎ足して、当事者に生きる「知」にしていくことができればと思っています。

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策定メンバー

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策定メンバー

地域シンクタンクGenerative Commons

新潟県新潟市

職員有志

新潟県新発田市

職員有志

米山 知宏

石本 貴之

渡辺 秀太

高野 旭

小林 愛実(イラスト担当)

佐藤 正宗

中田 裕希

広田 直登

井上 大輔

新潟県

職員有志

三木 康平(イラスト担当)

伊藤 治仁

蒲木 みゆき

佐藤 憲明

関川 美樹

井上 一樹

長谷部 直子

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Local Think tank Generative Commons

について

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Local Think tank Generative Commons(ComM) について

地域がより力強く、魅力的であり続けるためには、

第3者から与えられる「知」ではなく、

地域で暮らし、働く人達自身が「知」を生み出し、

それを次の世代に引き継いでいくことが不可欠です。

Local Think tank Generative ComM は、

地域の人たちとともに、地域にとって必要な「知」(Commons)を探索しながら共に生み出していくこと(Generative)を目的とした地域シンクタンクです。

今回の「政策立案パターン・ランゲージ」だけでなく、

これからも、地域にとって必要な「知」を生み出していきます。

ご関心がありましたら、ぜひ下記宛にご連絡いただければ幸いです。