CRITIQUE OF
EVOLUTION
THINKING
進 化 思 考 批 判
AIIT
2022-06-26�10:00-10:20
Matsui Minoru & Ito Jun
AIIT
69 JSSD
5C - 04
In his recent Evolution Thinking Tachikawa presents his view of evolution that diverges from the contemporary, Darwinistic approach to evolutionary biology.
Here we point out the fundamental differences between the standard, variationist view of the evolutionary process and his transformationist one, through the vital distinction of biological, random mutations and cultural, sometimes non-random mutations, together with the population thinking, or lack thereof.
�
We listed more than 250 problematic descriptions in the book and suggested ideas for improvements for future revisions.
1
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
2
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
を批判
著
太刀川英輔 (2021) 進化思考: 生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」. 海士の風. 512p Image via Amazon Accessed 2022-03-27 and profile photo from @NOSIGNER
太刀川英輔さん
NOSIGNER
非常に高名なデザイナー、JIDA理事長
誰でも創造的になれる思考法、「進化思考」の「提唱者」�サロンを運営している
広義の同窓の先輩といえなくもない、私の出身Radović研究室の前身、隈研究室出身なので�
☟隈先生も本書を大絶賛
『進化思考』
PHPの第30回山本七平賞[1]を受賞するなど高い評価
[1]: 山本七平賞の歴代の受賞著者の例:竹田恒泰 高橋洋一 門田隆将 石平 なんか見覚えがあるね 受賞作の例:『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(第23回)『なぜ私は韓国に勝てたか』(第25回)『この命、義に捧ぐ――台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(第19回)おもしろそうだね
長谷川先生、絶対1ページも読んでないでしょ本書…
Abstract
3
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
本書を批判したのは我々が最初ではない。本発表の貢献は、1文化進化学の観点から批判したことと、2より詳細に批判したこと
☝ “『進化思考』は科学書ではなく[…]神学の大系” “叙事詩”
本書を擁護する方もいるんだ…と思ったのですが、これらレッテルが擁護のわけがなかった
☝ “どこから突っ込んでいいのか混乱する怪文”
ほんまそれ�この記事に背中を押され本発表を決意
作者横山さんには本発表に助言を頂きました
Dagaraptor (2021) 「進化思考」のモヤモヤポイントまとめ➡︎修正記事アップしました (Accessed 2022-03-24)
Contribution
☝ “生物学 ’風’ なアナロジー”
☜ のFacebookポストについたコメント
4
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
—1.1
—1.2
—1.3
—2.1
—2.2
—2.3
—3.1
—3.2
—3.3
5
1
2
3
著者の主張
事実
我々の主張
間違いだらけ
進化学理解の欠落
疑似科学を義務教育に
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
間 違 い だ ら け
1
6
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
著者は、生物の進化の考えを創造にあてはめて�『進化思考』を構築した、と主張している
—1.1
1.1
ではこの進化論の考え方を、私たちの創造にあてはめてみるとどうなるか | —p45 |
自然のなかにこそデザインの本質があるという確信 | —p49 |
7
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
しかし『進化思考』は進化学の用語を
誤用・乱用しており、
—1.2
1.2
ベイツ型擬態の「嫌な相手」は「有毒」なことであり、食べると不味い、ということで、「強いふり」ではない。強いふりは直前の「トラカミキリはアシナガバチにとても似た外観を獲得している」のmimicry(標識的擬態)の例が妥当だったのに、何故余計なことを書いてしまったのか理解に苦しむ。 (伊藤)
有性生殖がなぜ進化したのかは非常に興味深い進化学上の課題で、未だに定説はないため、「もちろん」と言い切れるほどに(本来の意味での)適応かどうかはわからない。その証拠に、ミジンコのように有性生殖をやめて進化の袋小路に追いやられた生物もいるし、植物も多くが単為生殖に移行している。非常に長期的にはミジンコには進化的に未来がないとされていたと記憶するが、生物進化は長期的なビジョンを持たない。なので、同じ趣旨のことを書くとすれば「多細胞生物の大部分がなぜコストのかさむ有性生殖を採用しているかの解明は進化学上の難問で、いくつもの仮説が提示されているが、そのどれにも共通するのは『こんなに成功を納めているからには、きっとそのようなコストを上回る適応的な利得があるからだろう』という適応主義的な作業仮説だ」だろうか。(松井)
天敵にとって嫌な相手に化け、強いふりをするタイプの擬態はベイツ型擬態 | —p107 |
有性生殖の生物がたくさん存在しているのは、もちろんそこに適応的な優位性があってのことだ | —p453 |
分類学は、系統全体を一つの生物の身体と考えて解剖する学問だと言い換えてもよい | —p267 |
分子生物学の台頭によって、いきなり系統の順番がわかるようになった | —p267 |
8
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
科学的に妥当とは言い難く、
—1.2
1.2
理由だと考える理由と、仮にそう考えるとしてもその仮説の妥当性が全く理解できない。ここは明らかに誤りであり、以降この誤りに立脚して論を重ねていくのだとすれば、すべて無意味であろう。また「道具」とは「疑似的な進化だ」(p47)ったのではないか。「生物は、自分自身の身体を、自ら望んで進化させることはできない」ので「道具」を作る、という話だったのだが。 (伊藤)
正解と正確は違う。真の系統樹(仮にそれがあったとして!)に達することはできなくても、新しいデータや精密なデータを追加したり、過去の解析の誤りを正したり、より精密な仮定をおいたアルゴリズムの開発などにより、より正確にすることはできるはずだ。 (松井)
この言語と遺伝子の類似性こそ、言語によって人が道具を発明し、自らを進化させられた理由だと考えると、創造と進化が似ている理由が氷解する | —p80 |
系統樹に正解はない | —p284 |
9
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
基礎的なリサーチに欠けている
—1.2
1.2
誤り。遺伝子の利己性、個体の利他性という題名にするべきだったかと後悔している、とドーキンスが述べている(たしか)とおり、個体は遺伝子にとって利己的である範囲内に限られるものの利他性を獲得できる、というのがドーキンスの主張である。著者は利己的な遺伝子を読んでいないか、満足に理解できていない。 (松井)
チンパンジーはMonkeyではなくApeなので尻尾はない。
種の起原がダーウィンとウォレスによって発表されたということになっている。p270図14-3, p274も。(松井)
かつてリチャード・ドーキンスは、個体が種全体を保存する本能(群淘汰)を否定し、個体の利己性が進化を生み出すと説いた —p474 |
チンパンジーには尻尾があり、ヒトにはない | —p119 |
『種の起源』[...]チャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ウォレスが発表した[...]論文 | —p44 |
10
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
ここでの目的は、本書に細かな、罪のない誤植がいかに多いかを示すことではない
そうではなく、いかに本書が基礎的な知識とリサーチ能力に欠けた著者によって書かれ、基礎的な知識とリサーチ能力に欠けた編集者によって出版されているかを明らかにしたい
チンパンジーにしっぽがないことくらい調べればすぐにわかる
種の起源がダーウィンの単著であることすらチェックしていない
本を500ページ書く前にググるべきだったのでは…
これらの知識・リサーチ不足は本書の根幹をなす理論にまで及んでおり、説得力のないヨタ話に
Photo by @oxomckoe (2022) Accessed 2022-06-18
1.2
11
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
改善すべき点を250以上にわたって指摘したリストを作ったので、第2版で記述を大幅に改訂してください
—1.3
松井実、伊藤潤 (2022) 『進化思考』批判. Zenn books Accessed 2022-06-15
☝「改訂版でこの本をよりよくしたい」とご本人も仰っている…が、我々が期待するような方向での改訂は望み薄😩
発表に先立ち、問題点指摘リストを公開した☟
が、著者からはいいね*1以外反応なし
*1: のちに取り消される😇
1.3
☝本を読むときの正誤表としてもご活用ください!
12
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
進 化 学 理 解 の欠 落
2
13
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
著者は、『進化思考』が進化の考えで
人間の創造を解明した初めての試みだ、と主張している
—2.1
2.1
創造性をここまで体系化できたものは[...]�まだ世界に存在していないと自負 | 書籍予約DM |
卓越した先人たちが探求を重ねても、創造における進化論はまだ確立されていない | — p53 |
変異と適応を繰り返すのは、生物学的進化も創造的思考も同じだという気づきによって、この謎は氷解する | — p53 |
ひょっとすれば、これは大きな発見なのではないか | — p53 |
14
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
しかし、文化の進化のメカニズムは
学術分野で解明が進んでいる
—2.2
2.2
中立進化
neutral evolution
文化浮動
cultural drift
自然選択natural selection
性選択
sexual selection
集団遺伝学
sexual selection
行動生態学
sexual selection
伝達�バイアス
transmission biases
進化
言語学
evolutionary linguistics
進化�人類学
evolutionary anthropology
進化�心理学
evolutionary psychology
文化�進化学
cultural evolution
蓄積的な文化進化
Cumulative Cultural Evolution
蓄積的な文化進化
Cumulative Cultural Evolution
伝達�連鎖実験
transmission chain
伝達�連鎖実験
transmission chain
斜めの�伝達
oblique transmission
文化
系統学
cultural phylogenetics
進化系統学
evolutionary phylogenetics
社会的ネットワーク
social network
進化�民族誌学
evolutionary ethnography
写本推定
文化疫学
cultural epidemiology
アトラクター/内容バイアス
cultural attractors / content biases
動物の
文化進化
cultural evolution in animals
進化消費者心理学
evolutionary consumer psychology
進化考古学
evolutionary archaeology
進化�適応環境
Environment of Evolutionary Adaptedness
二重相続理論
dual inheritance theory
15
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
『進化思考』に文化進化学の知見を
—2.3
2.3
☝著者も文化進化学はちゃんとチェックしている
この記述自体は全くそのとおり
文化進化学も生物学も真理の探求を目的とする、「知りたい」を原動力とした理学(science)なので…
生物学の知見を活かした遺伝子工学のようなものはあるが、
それに対応するような、文化進化工学/進化設計というものはまだ存在しない
著者のやらんとしていることは非常によく分かる が、生物学を無視した遺伝子工学がありえないように文化進化学を無視した文化進化工学はありえない
文化進化論的な考察には、『進化との類似性を創造に活かす具体的な手法[...]』を提示する理論は皆無だった | — p51 |
理学�natural science | 生物学 進化生物学 | 文化進化学 | 芸術/創造性 creativity | デザイン学 |
工学�applied science; engineering | 遺伝子工学 農学 医学 | まだない | デザイン applied creativity | デザイン工学、構造力学、 |
16
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
10:50- ポスター会場PC-06にきてください、本物の文化系統樹をご覧にいれますよ…
こんなの☞
Evolution Thinking, Image via NOSIGNER Accessed 2022-06-23
2.3
生物の系統樹を書くための生物系統学を応用した文化系統学というものがある
「もの」についてなるべく正確にデータを集め、それを科学的に妥当な方法で系統樹にする方法がすでに確立している
創造の系統樹は、私達が納得のいくまで調べて、間違いを恐れず忠実に描けばよい | — p285 |
17
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
ダーウィン以降の進化観を採用して
2.3
著者の進化学の理解は完全かつ全面的に間違っていて、ダーウィン的な変異主義variationismではなく、ダーウィン以前の変態主義transformationism的な進化観を採用している
2.3
適応によって枝が剪定され、ある方向に伸びていく[...]その先にあるのは、最適に向かうデザインの収束だ[...]中心にはコンセプトとなる軸が[...] | —p60 |
環境は [...] 激変することがある。そこで生き残るのは、 [...] 偶然にも変化に柔軟に対処できたものだ | —p338 |
性選択によって、生物は偶発性を高め、生き残れる可能性を向上させた | —p339 |
18
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
しんかは いきものが へんかすることじゃないよ!
それは へんたいだよ! ポケモンのしんかは しんかじゃないよ!
やったね! (2020) わかんないよ‼️
2.3
19
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
デザインにはダーウィン的な変異と�ラマルク的な変異があるので、区別して
2.3
生物の変異はランダムのみ
文化の変異にはランダムと非ランダムの2種類
☜意図せず行われる、ランダムに生じる文化的変異
個人的な学習(非社会的な学習)で行われる変異、誘導された変異
本書ではこの2種類の変異がごっちゃに
@videobird Accessed 2022-06-20
2.3
20
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
自らが提唱する「解剖」を
エラー/変異にも適用して
2.3
デザインの世界においても「エラー」はSlipsとMistakesの2種類に分類済み (米Donald A. Norman1935-と英James Reason1938-)
ドナルド・ノーマン『誰のためのデザイン?(The Psycology of Everyday Things)』(1988)
2.3
« Slips »
“適切なゴールを形成できたのに�実行するときにめちゃくちゃに�なってしまった”
« Mistakes »
“間違ったゴールを立ててしまった”
※2013年の増補改訂版(The Design of Everyday Things, revised and expanded edition)ではさらに細分化されたが、基本はSlipsとMistakesの2つ
ご存知ノーマンはAppleのUser Experience Architect's Officeを立ち上げた人物、
リーズンは航空工学や医療分野で用いられている「スイスチーズモデル」を考案した人者
21
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
疑 似 科 学 を
義 務 教 育 に
3
22
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
著者は進化思考を義務教育に導入すべきだと
主張している
—3.1
3.1
時空観学習の四つの観点は[...]子どもたちにとって[...]武器になる[...]早い段階で提供することが大切ではないか | — p212 |
私の目標の一つは、時空観学習[...]を[...]義務教育のカリキュラムに導入してもらうことだ | — p212 |
最新の生物学をもとに創造性教育を再設計すれば、素晴らしい教育が出現するだろう | — p478 |
23
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
しかし、子どもは進化思考が
科学的に妥当かを判断できない
—3.2
大久保 (2018) 教育の場における疑似科学と教師の批判的思考との関連. 日本教育心理学会第60回総会発表論文集. Accessed 2022-06-18
3.2
(理想的な)おとな
水からの伝言
進化思考
EM菌
ゲーム脳
江戸しぐさ
科学的な知識
24
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
最悪、本はこのままで良いというか諦めているので�子どもに誤った進化学を広めるのだけはやめるべき
—3.3
大人にも・学術にも、もちろん悪影響はあると思う:
進化学とデザインの関連に興味を持った初学者がデザインの進化を非科学的なアナロジーにとどまるものであると誤解する
進化学に関して誤った理解をもった人が増える
本書に勇気をもらってさらにデザイントンデモ本が増える
「デザイナーってこんなのばっかなのか?」と思われそうで心配(なので業界内での自浄作用を示したい気持ちもある)
宗教は20歳になってから
科学→宗教の順、逆はナシ
3.3
それを止めるのが学術に携わる者として最低限の責務だと思う
進化思考の布教は、
自らの責任で疑似科学を受容できる大人を�相手にサロンでやってください
25
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
では何を読むべきなのか
ジェフリー・ミラー (2017) 消費資本主義!; ジョセフ・ヘンリック (2019) 文化がヒトを進化させた; アレックス・メスーディ (2016) 文化進化論
Conclusion
1 デザインがわかる
進化消費者心理学
自分がいかに優れた人かを示すためにデザインを買い、デザインをつくる
2 人類の進化がわかる
進化人類学
文化の進化が人類の身体を進化させ、人類の進化がまた文化の進化を生む
3 文化進化学がわかる
文化進化学
この学術分野でどんな理論が構築されてきて、どんな実証が行われているか
→
→
26
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
変化「せられる」デザインって何…?
なんか複雑っぽい、難しっぽい、
考えたっぽい言葉で煙に巻くのやめませんか?
進化思考も日本デザイン学会も、�ブリリアントっぽい言葉で平凡なことをしている
平凡な言葉でブリリアントなことをやるべき
Original (2022)「マンガを布教する時に“全巻貸す”は絶対ダメ」大学の宗教研究者に“布教ノウハウ”を聞きに行ったら推し活でのNG行為が明らかになった Accessed 2022-05-19
Conclusion
「進化は、偶然だ」p200
「進化は[...]壮大な結果論なのだ」p200
「道具とは[...]擬似的な進化だ」p47
27
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
皆様へのお願い
本書を読むなら指摘リストを片手に批判的に読んでください�読もうとしている知人・読んだ知人にも知らせていただけると嬉しいです
設計と進化の関連じたいは非常に面白いものなので、
文化進化学を基盤に一緒に研究しませんか
全面的に間違った疑似科学を子どもに教えようとしている
高名なデザイナーを見て見ぬふりせず、学術に携わる者の
最低限の責務としてこれに反対してください
Conclusion
1
2
3
28
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
Appendix
表紙の元ネタ☞
Kara-Lis Coverdale and LXV (2015) Sirens. Umor Rex.
Design & layout by Daniel Castrejon
Cover photograph by Cody Cobb
29
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
本発表の対象
対象としない視聴者
著者、出版社(海士の風)と担当編集者
進化学に興味のあるデザイン学関係者
本書を読んでモニョった人/感銘を受けた人
本書の記述の科学的妥当性に興味がある人
本書の記述の科学的妥当性に興味がない人
進化学と設計の関連に興味がない人
Appendix
30
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
サロン?
進化思考 Accessed 2022-06-15
Appendix
31
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
デザイン学会の中では�たぶん一番の進化屋
建築(慶應理工)�→デザイン(千葉大院)�→文化進化(千葉大院)�→富士通デザイン�→フリーWeb開発者�AIIT助教��日本でおそらく最も本書の主題に近い研究をしている発表者から批判
本日の参加者の中では�たぶん一番の生物屋
園芸(東大農、東大院)�→建築構法(東大工)�→デザイン(千葉大院)�→西川�→建築史(東大院)�AIIT准教授
☝第一回文化進化学会で�質問しているところ
☝トマトの茎頂分裂組織で�花芽形成が観察されたところ
Appendix
32
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
では、なになら科学的に妥当なのか:�①進化するのは生物だけではない
—2.2
1分で理解する進化:
“思考活動である創造行為は、生物進化と何も関連がありません” Dagaraptor
→確かに2者間の差異は数え切れない。しかし進化のメカニズムに関しては共通点が多い。単なる表現上のアナロジーではなく、理論やツールの援用ができる。実際、文化進化学はそれで数々の発見をしてきた
“[本書]に書かれているのはラマルキズムである用不用説や定向進化説” Dagaraptor
→それはそう。しかし、人間が意図して改善するものはラマルク的であると言って問題ない。生物進化は全くラマルク的ではないのは確かだが、ラマルク的であること自体は進化を妨げない。生物進化は進化の1インスタンスに過ぎないと考えるのがユニバーサルダーウィニズム。現在の、人間の創造の学術的なコンセンサスは、「ラマルク的変異もダーウィン的変異もどちらもある」
Dagaraptor (2021) 「進化思考」のモヤモヤポイントまとめ➡︎修正記事アップしました (Accessed 2022-03-24)
33
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
②文化も進化する
—2.2
探求しているものはとてもよくわかる:
たしかに文化進化学の応用版はまだない
理学�natural science | 生物学 進化生物学 | 文化進化学 | 芸術/創造性 creativity | デザイン学 |
工学�applied science; engineering | 遺伝子工学 農学 医学 | まだない | デザイン applied creativity | デザイン工学、構造力学、 |
| | | | |
| ダーウィニズムとの関連 | 科学的に妥当か |
ラマルキズム/用不用説(1809-1900 RIP) | | 否定された。ネオラマルキズムとか出てきたが相手にされてない |
ダーウィニズム(1860-1950) | 遺伝子も見つからなかった頃の進化学。ラマルクを否定しにかかったが十分な証拠が揃っておらず、しばらく論争は続いた | 発展解消。現代の主流生物学のご先祖様。量子力学の時代にニュートン力学が意味を持つように、今も学術的な意味はある。 |
ネオダーウィニズム(1950-) | 現代の進化生物学。ヴァイスマンバリア、セントラルドグマによりラマルキズムを否定 | 生物学を自然科学とお認めになるなら、そうです👩🔬 |
ユニバーサルダーウィニズム(1970-) | ドーキンスが進化学を生物学以外にも拡張・適用しはじめた | 無数に下位ブランチ分野があり、ものによっては怪しい気がする…(音楽理論とか経済学とか…) |
ミーム学(1980-2005✝ RIP) | ドーキンスが提唱。ユニバーサルダーウィニズムの一部。ラマルク的な人間の創意工夫を認める | 論としては今でも興味深く学術的な意味も未だあるが、ミーム学じたいは大して功績を残さず文化進化学にとってかわられた。科学コミュニティにも一応一定程度受け入れられたが |
進化心理学(1990-) | ネオダーウィニズムではないが(ユニバーサル)ダーウィニズムではある。 | 妥当。 |
文化進化学(1985, 2005ー) | ネオダーウィニズムではないが(ユニバーサル)ダーウィニズムではある。ラマルク的な人間の創意工夫を認めるし、ダーウィン的な偶発的エラーによる創造も認める | 妥当。最近の学術界での一大流行。めちゃ面白いので皆やろう |
『進化思考』(2021-) | あるように書いているが…😣 | 😅 |
34
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
③デザインは文化の一部なので、デザインも進化する(が、人工物は進化しない)
—2.2
30秒で理解する私の博士論文🏃♂️💨
学生にデザインしてもらって進化させたら、ほとんどの条件で淘汰圧が検出できませんでした(2017年デザイン学会第64回研究発表大会)(第一回文化進化学会発表)(公聴会スライド 本文)
→設計の相当部分は中立進化なのでは?
詳しくはこれ見て→
松井実 (2021) デザインはランダムプロセスか:第11回AIITフォーラム Accessed 2022-03-24
創造に活かす具体的な手法=工学(engineering)であり、人為的選択、品種改良、遺伝子工学、農学
進化学がデザインの何に役立つか
デザイン学には、デザインをより深く知るという理学的な真理探究のアプローチと、デザインをよりよくしたいという工学的な欲求探求のアプローチがある。文化進化学のデザインへの適用は前者であり、たしかに本書が指摘するように、「文化進化論的な考察には、『進化との類似性を創造に活かす具体的な手法[...]』を提示する理論は皆無」(p51)といわざるを得ない。デザインが進化していることがわかり、様々な方法でメカニズムを解明したからといって、一足飛びによりよいデザインを体系的に作り出せるようになるわけではない。「である」から「であるべき」は導き出せないとよく言われるが、進化学もまた優生学から人種差別まで様々に曲解されてきた歴史を持つ。
では何の役に立つのかというと、私は色々あると思うが、今回の発表の文脈においては、本書のような誤解と無知にまみれた文化と進化の関連についての言説をdismissすることができる、というメリットが明らかに挙げられる。デザイン学はたいしたものを何も生み出しませんが、デザイン学による悪い理由付けから我々を守ってくれます。”the utilitarian motivation for the natural sciences is that can make us healthier, happier, and more comfortable. The utilitarian motivation for the social sciences is they can protect us from bad social-science reasoning. It’s a lesser thing, but that’s what we’ve got, and it’s not nothing.” - Andrew Gelman
Gelman, A. (2021) The social sciences are useless. So why do we study them? Here’s a good reason: Statistical Modeling, Causal Inference, and Social Science. Accessed 2022-06-07.
35
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
わたしは本発表の対象者なのか?
[1] 抜粋。ほんものは30問
[2] ハーバードに進学した人やハーバード在学生はほとんど含まれていないそうな
Appendix
次に出題するシュタルマンのクイズ[1]を解いてみてください
ハーバード主催のサマースクールにおいて、米国の高校生・大学新入生[2]に出題された問題です
解答する気が起きないくらいの方は本発表の対象外です
他の発表を聞きに行かれることをお勧めします
36
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
シュタルマンのクイズ �Q1の解答をチャット欄に入力していただければ大変うれしいです あとでこの問題の理解に関連する本書批判を説明します
時間があればQ2もどうぞ 私はQ2間違えました😩
Shtulman, A. (2006) Qualitative differences between naïve and scientific theories of evolution, Cognitive Psychology, 52(2), 170–194
Q1:
「孤島で新種のキツツキが発見された!�彼らは平均して3 cmほどのくちばしを持っていた。キツツキの唯一の餌は、平均して樹皮表面から4.5 cmの深さに巣食う虫であった。彼らの子孫は、親に比べてどのような特徴を持つと考えられるか?理由も述べてください」
Q2(おまけ):
「2100年にキツツキの子孫のくちばし長さを測ったら、�平均で3 cmから4.5 cmになっていた。とはいえ、くちばしが4.5 cm以下の個体もいたのだが、そんな平均以下の彼らは、100年前のどのタイプの子孫と考えられるか?�理由も述べてください」
�解答のフォーマット例(べつにわかればなんでもいいです):
「答えはX。〜〜〜だから」
さまざまに間違っていたほうがこの発表的には面白いので、心の赴くままに理由まで書いてみてください�
37
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
二種類の回答例 黄組さんは変異主義者 青組さんは変態主義者
答えはC。子孫はその親に比してランダムに異なるから。
答えはC。環境は変異の方向に影響しないから。
答えはC。一世代だけでは実際に変化が始まるには十分ではないから。
答えはA。長いくちばしが生存に必要だから。
Shtulman, A. (2006) Qualitative differences between naïve and scientific theories of evolution, Cognitive Psychology, 52(2), 170–194
Q1:
「孤島で新種のキツツキが発見された!彼らは平均して3 cmほどのくちばしを持っていた。キツツキの唯一の餌は、平均して樹皮表面から4.5 cmの深さに巣食う虫であった。キツツキの子孫は、親に比べてどのような特徴を持つと考えられるか?理由も述べてください」
Q2:
「2100年にキツツキの子孫のくちばし長さを測ったら、平均で3 cmから4.5 cmになっていた。とはいえ、くちばしが4.5 cm以下の個体もいたのだが、そんな平均以下の彼らは、100年前のどのタイプの子孫と考えられるか?理由も述べてください」
答えはA。より長いくちばしを持つタイプがより繁殖しやすいと考えられるから。
答えはA。より長いくちばしはどちらのタイプにとっても有益だから。
答えはB。平均より短いくちばしを持つ鳥の特徴が受け継がれたから。
答えはC。進化はランダムだから。
答えはC。一世代だけでは実際に変化が始まるには十分ではないから。
答えはA。長いくちばしが生存に必要だから。
答えはC。子孫はその親に比してランダムに異なるから。
答えはC。環境は変異の方向に影響しないから。
38
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
ダーウィンの進化は変異主義�本書は変態主義
変異主義
変態主義
クイズの回答が黄組→変異
クイズの解答が青組→変態
39
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
完全に一致
40
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
裏表紙だけでなく、表紙も間違いだらけ😇😇😇
漢字「思」の成り立ちとして小児の脳(田)と心臓(心)が組み合わさったものであるという説を採用しているように見える。「思」はWiktionaryによれば会意形声文字であり、本書で表記されているような会意文字としては説明されていない。意符が心、声符が田のもととなった囟(もしくは異体字の𦥓(u26953)による形声文字とも)であるとされる。
ゲルマン祖語thantazがthinkの語源であると書いている。Online Etymology Dictionaryによると、
> Old English þencan "imagine, conceive in the mind; consider, meditate, remember; intend, wish, desire" (past tense þohte, past participle geþoht), probably originally "cause to appear to oneself," from Proto-Germanic *thankjan (source also of Old Frisian thinka, Old Saxon thenkian, Old High German denchen, German denken, Old Norse þekkja, Gothic þagkjan).Old English þencan is the causative form of the distinct Old English verb þyncan "to seem, to appear" (past tense þuhte, past participle geþuht), from Proto-Germanic *thunkjan (source also of German dünken, däuchte). Both are from PIE *tong- "to think, feel" which also is the root of thought and thank.
とあるので、ゲルマン祖語であれば*thankjanか*thunkjanを語源としてあげるべきだろう。(アスタリスクはその語が理論的に再構築された、推定されたものであることを示す。この理論的な再構築には文化系統学がしばしば用いられるようだ。私は同様の祖先形質の復元を松井(2021)スイスアーミーナイフの文化系統学的分析で行った)。thinkの語源についてはハイデッガーも古英語のthencan - to thinkとthancian - to thankが関連していることを指摘している(たとえばPurino (2020) A Revisiting of Heidegger’s Thinking-Thanking and Zen’s Non-rationalityにある。ハイデッガーの原著の英訳はたとえばここのp139で読める)。
thantazその2: それではいったいどこからthantazがでてきたのかと思って調べてみると、「日本にいながら英語・英会話力爆上げ」さんによる英単語「thought」の語源や由来というNote記事のみがthinkの語源としてthantazを紹介している。私は英語の専門家でも言語の専門家でもないが、このNoteの記事で紹介されている語源は少なくともOnline Etymology Dictionaryでは全く説明されていないたぐいのものがいくつかみつかるため、これを参考にしてはいけないのではないかと感じている。
思その2:思の田は赤子の脳であるとしている。囟はひよめき、赤子の頭蓋骨にある泉門のことであり、「脳」の右下の字源ではあるものの赤子の脳のことではない。これが形声文字もしくは会意形声文字であるとすれば声符である囟は「音だけ」で意味を持たない。
heartという血液のポンプを「気持ちを司る臓器」であるとしている点も現代の知識に照らし合わせて言えば妥当ではないと思う。文学的表現であればもちろん話は別だが…。
41
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
めちゃくちゃ😇
というのが適応思考であるとしたら、適応思考は進化学で言うところの適応とは無関係である。デザインの淘汰には、生物進化とはやや異なる淘汰のフェーズがある。遺伝子プールの大きさは任意の集団にとって考えられるのと同様、大きなスケールでは、市場などの資源をめぐる大規模なシェア争いがあり、いわゆるダーウィニスティックな競争が大きな集団レベルで行われる。あるスマホのモデルが他社のスマホモデルのシェアを食ってしまう、など。これはデザインにとっては「本番」の淘汰環境である。野に放たれたデザイン案の成否を握るのは多数の、財布を握った消費者によるドル投票であったり、ある部署が提案したものが社内の他部署に拒絶されるような企業内などでの淘汰もあるだろう。あるプロジェクトである人が提案した案ではなくもうひとりの同僚の提案した案が採用されるようなデザイン室での淘汰もありえる。これは実験的な淘汰であり、いわば品種改良する際などの「誘導的な変異guided variation」であるが、同時に「これを市場という野に放ったらこのような反応があるはずだ」という、より大きな規模でのバイアス(選択ともいう)の予測をしている点で、前述の「本番」とは違う、実験的な、模擬的な環境である。意識的に行われるなかではおそらく最も小さな実験室による耐久試験が、個々人のなかにある。ここではいくつものアイディアが生まれるが、実現性や面白さ、伝えやすさ、他人に伝えたときの評価など様々な要素が勘案され、問題がないと判断されたときのみ、口や手などを伝って体外に漏れ出る。そのため、もし「意志をもって、意図をもって、方向性をもって新しいデザイン案を考えつく」ことを懐中電灯でたとえているのならば、それは誘導的な変異であって、適応ではない。繰り返すが、自然選択は集団的な現象であって、ここでいう自然選択とか適応がどのレベルの単位(どのフェーズのアイディアなのか)なのかを説明しない限り理解できない。
よくわからない。変異するだけでなぜコントロールがよくなるのか?適応度地形において、生物(より正確には生物の遺伝子)は適応度地形の全体を理解していなくても、一部さえ理解していなくても、適応度地形のより高いところへ登っていけるのが生物進化のアルゴリズムのプロセスとしての根幹である。それに対して、たしかに人間による文化形質の創造においては、ある程度適応度地形を理解していることがある(たとえば、鉄ではなくチタンを使えば同じ重さで強くできる、など。さらに高度に、スマホを薄くすればより売れる、などの理解もありうるだろう)。そのため方向性をもたせた変異、「誘導された変異」を生み出すことが可能な場合がある。このように適応度地形を不完全ながらも把握(コントロールがよくなる現象)できるためには様々な筋道があるが、たしかに教育や訓練によって適応度地形を他の人よりもより正確に把握できるようになることはある。しかしそれは「変異的に玉を投げ続ける人」だからとは限らない。その意味で、「リサーチだけで創造を生み出すのは不可能」と断言する意味がよくわからない。リサーチも適応度地形の(より)正確な把握には役立つことがありうる。ランダムな、あてずっぽうな変異に関しては、意図しないコピーミスなどの「文化的変異cultural mutation」という概念があるが、ここでのカゴの考えとはかなり違った考えであるように思うので割愛する。 (松井)
物質文化における自然選択に比するべきものはドル投票、つまり市場での受容だと思う(他にも、生殖や発生の時点での自然選択に比するべきものとして前述のデザイン室内や発案者個々人の脳内から外へでるときの自然選択はある)のだが、そうではなくアイディア発想段階で「おのずと生じる」「必然的に起こる」とされているのがよくわからない。
非常に惜しいところまできている…!その吟味こそはたしかに自然選択に比することのできるフィルター、篩のひとつだ。しかしそこには、対立するいくつもの他の考えを想定し、その集団の中でどれをしゃべるか、という吟味をして選ばれている、という、集団的かつ意識的(無意識なものでも別によいのだが)なプロセスであるという説明が必要だ。また、この吟味は、アイディアが市場で成功するかとか、アイディアが社内で承認されるかとかの適応度地形上の争いではなく、個人の頭の中での適応度地形上の争いなので、いわば争いのステージが違うことも説明しなければならないと思う。なんにせよ、カゴと球のアナロジーは進化の観点からいうと絶望的にわかりにくいというか端的に言えば完全に間違っているのでぜひとも改善を望む。
「コントロールが良」いかどうか、はエラーの発生率の問題であるが、あらゆる可能性を試す、あるいはパラメーターを変化させる、のが「当てずっぽうでも玉を投げまくる」ことである
42
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
一応出版社による正誤表もでていますが……
☝ 直さないんですか…?
43
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
p307「そもそもヒトは、わかってもいないことを、わかったつもりになる生き物だ」
大川ぶくぶ ポプテピピック via Amazon
Takeru Ichii (2021) 建設的相互作用の論文を読むと「完全に理解した」を完全に理解できる。そして効果的なペアプログラミングの心得。 Accessed 2022-03-25
44
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
まとめ:DawkinsによるE. O. Wilson批判書評の末尾を借りて
“As for the book under review, the theoretical errors I have explained are important, pervasive, and integral to its thesis in a way that renders it impossible to recommend. To borrow from Dorothy Parker, this is not a book to be tossed lightly aside. It should be thrown with great force. And sincere regret”
– Richard Dawkins, E. O. Wilsonの The Social Conquest of Earthを評して
Richard Dawkins (2012) The descent of Edward Wilson. Prospect Magazine. Accessed 2022-03-31. Image via https://crypto-app.tokyo/uranai/?share=SDoA
via Shorebird (2012) E. O. Wilsonの新刊「The Social Conquest of Earth」についてのRichard Dawkinsによる書評:「The Descent of Edward Wilson」 Accessed 2022-06-07
拙訳:「そしていま評している本はというと、ここまでで説明してきた理論的な誤謬は深刻かつ至るところに及んでおり、本のテーマの根幹に関わるため、本書の推薦は不可能だ。ドロシー・パーカーの言葉を借りれば、この本は粗末にポンと捨ておいてよい本ではない。�本書は力いっぱい投げ捨てるべきだ:深い悲しみとともに」
ドーキンスは「[宗教的だが全く科学的でない言説を]信じる者は頭がおかしいか、馬鹿なのか、無知なのかどれかだ」とも言っている。そして、「無知ignoranceは罪ではないが、大きな声でいうものでもない」とも(映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』)。
45
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
とはいえ、気にし過ぎかも
この本は零細出版社がしばしば出すトンデモ本の一種
TwitterやNoteで「進化思考」と調べても、まともな人はさすがにこんな疑似科学は信じていない
知人デザイナーに聞いてもほぼ無風、シニカルな反応しかない
本書の主題が私の専門分野だから過剰に反応しているだけかも…�
近藤暁夫 (2018)「ポップ地政学」本の掲載地図批判. 日本地理学会2018年春季学術大会 (Accessed 2022-02-24)
☝本発表の直接のきっかけ “「ポップ地政学」本の掲載地図批判”より
トンデモ本批判を学会で発表してもいいという先例 みんなもっとやりましょう
大企業の研修で著者のトンデモ理論を聞かされている方々の心中は察して余りあるが、各自でなんとかしてください
46
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
「フレームワークは歯ブラシみたいなものだ
誰もが持っているが、他人のものは誰も使いたがらない」
そもそも批判criticismsは科学のプロセスの根幹 批判critiqueは設計のプロセスの根幹
本書が嫌いなわけでも太刀川さんが嫌いなわけでもないです。意見や提案への批判を個人の人格の批判や攻撃だと解釈される方が稀にいらっしゃるので念の為
「誰が言ったかではなく、何を言ったかを重視する」
私も進化学なんもわからん勢なので、偉そうなことは言えないのですお客様の中に進化生物学者様がいらっしゃったら、本書を読んで批評を発表していただきたいです、が、いないのではないかと思っているので私がやります
Framework is like a toothbrush; everyone has one, but nobody wants to use anybody else's.
著者は他人の歯ブラシを数本口に入れ、�めちゃめちゃにして使えなくしてから�「これは俺のものだ」と言っている
やめて
47
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking
(All good kumrads you can tell
by their altruistic smell
e. e. cummings, kumrads die because they’re told)
“すべての良き仲間を言い当てることができる
その利他主義的な匂いによって”
詩でも科学的な直感がある
e.e. cummings, kumrads die because they’re told, via american poems accessed 2022-04-05, trans. from Dawkins, 利己的な遺伝子, 増補新装版 p455
48
Matsui Minoru & Ito Jun
26 Jun 2022
69th Annual Conference of JSSD
Critique of Evolution Thinking