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Economic Geography and a Theory of International Currency:�Implications from a Random Matching Model

2023年9月3日(日)金融班委員会夏合宿

 福田慎一(東京大学)、田中茉莉子(武蔵野大学)

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本研究の目的

  • 国際金融市場において、米ドルは取引額で他の通貨に対して依然として支配的となっている。
  • 本研究では、なぜ米ドルが国際取引において唯一の交換手段となっているのかを説明しうる新たな理論を提示する。
  • 貨幣のサーチ理論を用いることで、交換手段としての国際通貨の流通に対してミクロ的基礎付けを与える。

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  • 米ドルのシェアは90%近い。�表1 通貨別の外国為替取引高

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Data: BIS (2019)

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  • 米国外においても、米ドルのシェアは70%を超え、半数以上で90%超となっている。

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Data: BIS (2019)

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本研究の概要

  • 米ドルが支配的な国際通貨である理由を明らかにする理論モデルを構築する。
  • 具体的には、Lagos-Wright modelを開放経済に適用し、EUと米国の経済地理(米国がEUの西に位置すること)を導入する。

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Lagos-Wright model

  1. 昼: 分権化された市場
  2. 欲求の二重の一致がない ⇒ 交換手段としての貨幣の役割
  3. ランダムマッチング ⇒ Kalai bargaining

  1. 夜: 中央集権化された市場
  2. ワルラス市場⇒ 貨幣の役割はない。
  3. 各経済主体は貨幣保有量を望ましい水準に調整する。

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売り手

買い手

φ d(m)

q(m)

φ = 財を基準とした貨幣の価格

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開放経済における先行研究の限界

  • 複数均衡
  • どの通貨が国際取引に使われるかを決定するメカニズムがない。
  • 米ドルが支配的な国際通貨である理由を説明できない。

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  • 先行研究と異なり、経済地理が国際通貨の選択に影響を及ぼすことを示す。
  • さらに、分権化された市場で取引が行われる時間帯をオーバーラップさせることで、均衡選択の問題を解くことに成功している。
  • 開放経済版のサーチモデルでは複数均衡が存在するが、本研究では経済地理により単一均衡となることを示す。

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  • 2国2通貨モデルを構築する。
  • 地域 1 (EU) and 地域 2 (米国)
  • ユーロ, i.e. mE, and 米ドル, i.e. mD.
  • 異なる立地により、各地期の経済主体は異なる時間帯に活動を行う。
  • 2タイプの取引が存在する。
  • 国内取引 :同じ地域で国内の経済主体に出会うとき
  • 国際取引 :異なる地域の経済主体に出会うとき

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  • 各市場ではランダムマッチングが行われるとする。
  • 国内の経済主体とマッチするときには、国内通貨が法貨であるため、国内通貨のみが用いられる。
  • 外国の経済主体とマッチするときには、ユーロかドルのいずれかが用いられる。

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モデル

  • 取引のタイミング

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  1. Day 1: EUの経済主体のみ活動する。国内の分権化された市場で取引を行う。
  2. Day 2: EUと米国経済主体の両方が活動する。国際市場で取引を行う。
  3. Day 3: 米国の経済主体のみ活動する。国内の分権化された市場で取引を行う。
  4. Night: 両国のすべての経済主体が中央集権的な市場で取引を行う。

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仮定 (1)

  1. 各地域において、売り手は私的財と公共財の取引をそれぞれ確率 ρ と 1- ρ で行う。
  2. 国際市場でマッチした場合、私的財の取引を行う売り手は、期待効用を最大化する通貨を選択する。一方、公共財の取引を行う場合には、必ず自らの地域の通貨を選択する。

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仮定 (2)

  1. マッチする確率は、分権的な国際市場より、分権的な国内市場の方が高いとする。 p > p*
  2. Day Iの期首に、経済主体は確率0.5で買い手に、確率0.5で売り手になるとする。

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カギとなるサブ期間: Day 2

  • Day 2 における国際市場
  • EUの売り手が米国の買い手とマッチする。  Day 3(米国の国内市場)では取引を行わない。
  • 米国の買い手EUの売り手とマッチする。 Day 3では売り手となる。
  • EUの買い手米国の売り手とマッチする。 Day 3(米国の国内市場)では取引を行わない。
  • 米国の売り手EUの買い手 とマッチする。 Day 3では買い手となる。

⇒ 均衡では、ドルのみが取引に用いられる。

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2つの重要な命題

  • 命題 1: 分権化された国際市場で私的財の取引を行う場合、マッチした米国の買い手がユーロよりも米ドルを保有しているとき、マッチしたEUの売り手は米ドルを選択する。
  • 命題 2:分権化された国際市場で私的財の取引を行う場合、マッチしたEUの買い手がユーロよりも米ドルを保有しているとき、マッチした米国の売り手の交渉力が弱ければ、米国の売り手は米ドルを選択する。
  • これら命題は、分権化された国際市場での私的財の取引において、米ドルのみが使用されることを示唆している。

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命題1の経済的直観

  1. 米国の買い手がユーロよりも米ドルを持っているため、EUの売り手はDay2に米ドルを選択する。Day2後、EUの売り手はnightの中央集権的な市場で米ドルを交換する。
  2. 米国の買い手にとって、Day 3よりもDay2に購入する方が高い期待効用を得られるため、米国の買い手はオファーを受け入れる。
  3. EUの売り手と米国の買い手との間の私的財の取引では、ドルのみが取引に用いられる。

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命題2の経済的直観

  1. 米国の売り手にとって、Day 3の国内市場においてユーロは無価値であるため、米国の売り手はDay 2では米ドルを選択する。
  2. EUの買い手にとって、オファーを拒否すると効用を得られないため、EUの買い手は米国の売り手のオファーを受け入れる。
  3. 米国の売り手の交渉力が小さければ、米国の売り手とEUの買い手との間の私的財の取引では、ドルのみが取引に用いられる。

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ダイナミックプログラミング

  • EUと米国の経済主体は期待効用の割引現在価値を最大化する。
  • ノーテーション
  • EUの買い手は米ドルを m1D 保有し、ユーロをm1E 保有する。
  • 米国の買い手は米ドルを m2D 保有し、ユーロをm2E 保有する。
  • 財1単位当たりの米ドルの価格を φD 、ユーロの価格を φEで表す。

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貨幣市場での均衡

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結論

  • EUと米国が立地を除いて対称であるとしても、米ドルは唯一の均衡における国際通貨となる。
  • 重要な点は、活動する時間帯が毎日EUから米国に移動していることである。
  • DPを後ろ向きに解いているため、 米国の経済主体の決定がEUの経済主体の決定に影響を及ぼすことになる。

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  • このため、米国の経済主体が最後の時間帯に米ドルを使用する限りにおいて、EUの経済主体は自らが活動する時間帯においても米ドルを使用するようになる。
  • このことは、各地域の地理的特徴が、国際取引において米ドルが支配的な交換手段であることの理由を説明できることを意味する。
  • 米ドルが単一均衡における国際通貨であることから、米国の経済主体はより高い効用をえることができる。
  • 米国の経済主体は、経済的ではない地理的特徴により経済的な利益を得ているといえる。

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