福島原発事故の影響と
低線量被曝について
2013年6月1日
ハカルワカル広場勉強会
資料作成:二宮
残存している事故の影響
事故前平均値:0.035uGy/h
最近の平均値:0.045uGy/h
この差:0.01uGy/h
事故前平均値の約30%
増加分はどこから来ているのか
福島から飛んできた放射性物質があちこちにくっついて残っている。そこからガンマ線が出ている。
ガンマ線は空気中を100m程度は飛ぶ。
風雨の影響で移動
濃縮される場所ができる
屋根やコンクリート部分などにあった放射性物質は水に流されて移動する。
福島由来の放射性物質
I131(ヨウ素131)半減期8日
これはもうなくなっている
Cs137(セシウム137)半減期30年
Cs134(セシウム134)半減期2年
残存している放射性物質のほとんどがこれ
Sr90, Pu239など
ゼロではないが非常に微量、核実験由来の残存物と区別がつかない程度
放射性セシウムとは何か
原子核の崩壊に関する簡単な基礎
原子核の構成員は「陽子」と「中性子」
α線、β線が出ると原子核の構成が変わる
アルファ線
ベータ線
γ線が出る時は原子核の構成は変わらない。エネルギーだけを放出する。
ガンマ線
ガンマ線もいろいろ違うエネルギーのものが複数飛び出すことが多い
ガンマ線1
ガンマ線2
ガンマ線3
Cs137からBa137へ、この段差のエネルギーを放出しながら崩壊する。エネルギーはベータ線とガンマ線として放出される。
ガンマ線は外部被曝で、ベータ線は内部被曝で問題となる。
ベータ線:0.0886MeV(27.3%), 0.415MeV(2.51%),0.658MeV(70.2%)他
ガンマ線:0.563MeV(8.4%),0.569MeV(15%),0.605MeV(97.6%), 0.796MeV(85.5%), 0.802MeV(8.69%), 1.365MeV(3.0%)他
セシウム134だとかなり複雑
Cs134からBa134へ崩壊するが、この段差はCs137からBa137への段差の倍近く大きい。その分放出するエネルギーは大きく複数のガンマ線が放出される。
この黄色矢印の線はガンマ線
ベータ線は薄い金属板で遮蔽できる程度の透過力で、水中なら数ミリ、空気中なら数メートル程度しか飛ばない。
ベータ線で外部被曝することは?
強烈に汚染されたものに接触すればベータ線熱傷や、皮膚がんの影響を与えたりすることがある。
原発で働く作業員などには問題になる。福島事故処理中にベータ線熱傷になった作業員が触れた水は数百万ベクレルの汚染。
一般の人がこの様な汚染物質に近づくことは通常ない。
ガンマ線による外部被曝
ガンマ線は自然放射能からも出ている
コンクリート等建材の中には様々な自然放射能が存在していてそこからガンマ線が出ている。
大気中にはラドン及びその崩壊物の自然放射能、宇宙線由来の自然放射能などが存在していて、そこからガンマ線が出ている。
土壌中には様々な自然放射能があり、そこからガンマ線が出ている。
事故前からあった0.035の分、
これがほぼ自然放射能由来のガンマ線
事故前からあった自然放射能からのガンマ線被曝に比べて東京の今の生活では30%余分なガンマ線被曝を受ける。
これは果たして有害なのか?
自然放射能からのガンマ線による人体への影響が無視できるほど小さいなら、30%増しでもどうということはないのか?
無視していいわけではない。自分にとって許容できるリスク増加かという話。
放射線による被曝はそれがどんなに小さくても有害。(ホルミシスなどの異説もあるが、ICRPですらそういう説は取らない)
自然放射能からの放射線であっても有害なのは同じ。
自然放射能環境から30%の増加で10万人あたりに1人くらいのガンが増加するかもしれない。それがガンマ線被曝のせいだとわかることはない。
「影響がない」と「影響が見えない」は同じではない。
ICRPの許容量とは
年間1ミリシーベルト
原子力産業の恩恵
自然放射能より影響が小さいことは何も正当化しない
自然放射能からの被曝
原発由来の被曝
生きるために必要なリスク
原子力産業からの恩恵
原子力産業からの恩恵など実はない
自然放射能からの被曝
原発由来の被曝
生きるために必要なリスク
過去からの負の遺産
原発事故への責任
内部被曝を考える
体内に放射能を摂取した時に、
ベクレル → シーベルト
の換算がよく行われる。
この換算にはICRPの預託実効線量係数なるものが使われる。
問題はこれが正しいのかどうか。
しかし、難しすぎて普通は誰も考えようとしたり、説明しようとしたりしない。
信じるものは救われる、正にそれ。
まずは、その数値を見てみる。
核種 | 半減期(年) | 0-1才 | 1-2才 | 2-7才 | 7-12才 | 12-17才 | 大人 |
Cs134 | 2.06 | 2.6×10-8 | 1.6×10-8 | 1.3×10-8 | 1.4×10-8 | 1.9×10-8 | 1.9×10-8 |
Cs137 | 30.0 | 2.1×10-8 | 1.2×10-8 | 9.8×10-9 | 1.0×10-8 | 1.3×10-8 | 1.3×10-8 |
預託実効線量係数 経口摂取:食べる
数字は、1Bq摂取した時に何Svの生涯被曝に相当するかを表す
Cs137を100ベクレル食べた時
大人の場合
100×1.3×10-8 = 1.3×10-6 = 1.3マイクロシーベルト
これは1.3μSv/hのところに1時間いたというのと同じ。
食品で100Bq/kgが検出されたら、ハカルワカルでは大騒ぎになるが、それを1kg食べてもたかだかこの程度の被曝量。
乳児を除けば、子供はむしろ影響が小さい。
1mSvに相当する分は何ベクレルか?
1×10-3 ÷ 1.3×10-8 ≒ 77000
100Bq/kgの食品を毎日2kg、365日食べても
まだ、73000ベクレル
年間1mSvというのは
「外部被曝+内部被曝」
なので、内部被曝だけで1mSvを使い切るわけにはいかない。しかし、半分置いておくとしても
1日100Bqなら問題無し。
核種 | 半減期(年) | 0-1才 | 1-2才 | 2-7才 | 7-12才 | 12-17才 | 大人 |
Cs134 | 2.06 | 7.0×10-8 | 6.3×10-8 | 4.1×10-8 | 2.8×10-8 | 2.3×10-8 | 2.0×10-8 |
Cs137 | 30.0 | 1.1×10-7 | 1.0×10-7 | 7.0×10-8 | 4.8×10-8 | 4.2×10-8 | 3.9×10-8 |
預託実効線量係数 吸入摂取:吸い込む
(影響最大のゆっくり吸収されるタイプ)
吸い込む方はやや厳しい、食べる方に対する比
核種 | 半減期(年) | 0-1才 | 1-2才 | 2-7才 | 7-12才 | 12-17才 | 大人 |
Cs134 | 2.06 | 2.7 | 3.9 | 3.2 | 2.0 | 1.2 | 1.1 |
Cs137 | 30.0 | 5.2 | 8.3 | 7.1 | 4.8 | 3.2 | 3.0 |
1~8倍程度で、10倍にもはならない。
人間が激しく呼吸をして、1時間に約1m3 程度吸い込む。
トンネル工事現場で塵肺等の健康被害を避けるための目標が3mg/m3 。厚労省ガイドライン
24時間トンネル工事現場で激しく呼吸して吸い込む量でも100mg以下。(kgより4桁低い)
1万Bq/kgの土埃が舞っていても一日に1Bq吸い込むのは並大抵のことではない。
これらを考慮すれば、吸引の影響は経口摂取に比べて無視できるほど小さい。
話がそれるが、
2011年3月15日は世界が違っていた
3月15日午前10時〜11時、この時ヨウ素とセシウムで数百ベクレル/m3に及ぶ環境となっていた。この時間帯に外でおもいきり遊んでいたら数百ベクレルの内部被曝をした可能性がある。
ICRPの預託実行線量を計算すれば、せいぜい年間許容量の1/20程度ではあるが、1時間で吸い込む量としては大変な量になっていた。
以上、ICRPの預託実効線量係数を正しいと信じるなら、100Bq/kgの食品の基準値は妥当。
一般に流通している食品をあまり気にせず食べていてもほとんど健康被害はない。
土埃の吸引による影響力が多少大きいとしても、所詮は吸引する量が桁違いに小さいので、問題にならない。
ICRPはこの表の数字をどうやって決めたのか
国際放射線防護委員会(ICRP)の 放射性核種の体内摂取に伴う線量評価モデル について、日本原子力研究開発機構 栗原 治
こういう参考になる文書があるが、かなり難解
端的に言えば、
この見積りが正しければかなり奇跡では?
総合的な結論としての「預託実効線量係数」はかなりあやしい。(これに頼って内部被曝を評価することはおすすめできない。)
部分的には参考にできることはたくさんある。
常に「これは正しいと結論されていることでない」
ということを念頭に入れて参考にすればよい。
疫学的調査による検証を通して結論の正しさについて議論されるべきだが、疫学的調査の結果が少なすぎる。少ない結果だけに頼るのは危険。
セシウムを含む食品を毎日摂取しているとどのくらい体に蓄積してしまうのか
前述のICRPの評価の一部にある生体半減期が正しければ、それの1.4倍が蓄積量になる。
毎日1Bqのセシウムを摂取し続け平衡状態になった時の蓄積
3ヶ月:23Bq, 1才:19Bq, 5才:30Bq,
10才:53Bq, 15才:117Bq, 大人:143Bq
これを体重で割ったらkgあたりになる。
この資料では想定体重でkgあたりの蓄積量を表にしている。
恐ろしい話だが、
人間をミキサーにかけて1kgの検体を作り測定器にかければこのkgあたりの蓄積量が計測されるはず。
預託実効線量はあまりにも「どんぶり」だから、
この体内蓄積量をもとに健康被害を評価するのは一つのやり方。
ICRPのモデルから算出された生体半減期を使って計算されているのであり、「正しいと結論されているわけではない」のは同じ。
WBCとか尿検査などとの整合性がある程度は検証されているだろうから、預託実効線量係数よりはあてにしていい数字であろう。
体の中に何ベクレルまで蓄積するのを許すか
これで、毎日食べるものに対する注意の仕方が決まる。しかし、再び基準のない世界。
バンダジェフスキー氏はこの記事によると
「小児の臓器と臓器系統では、50Bq/kg以上の取りこみによって著しい病理学的変化が起きる。10Bq/kg程度の蓄積でも、特に心筋における代謝異常が起きる。」と言っている。
正しいかどうかはわからないが、おそらくこれが一番厳しい評価であろう。
一番厳しい評価をする人が10Bq/kg程度でも危ないと言っているのだから、その半分の5Bq/kg程度で考えてみる。
10才で30kgの子供が、5Bq/kgで蓄積すると、体全体では
5 × 30 = 150Bq の蓄積になる。
前ページにある生体半減期からの評価では、10才だと、毎日1Bqの摂取で53Bq、毎日3Bqで159Bq。
毎日3Bq以下が5Bq/kg以下にするための目安になる。
毎日3ベクレル食べると、365日で
1095ベクレル。
10才の子供の預託実効線量係数を適用して計算すると、
15マイクロシーベルト。
これは1ミリシーベルトの1.5%でしかない。
「1日3Bq以下」は難しい数値か?
ハカルワカル広場で測定しても限界値10Bq/kg。
人は毎日1kg~2kgくらい食べる。
1日10Bqくらいの摂取はチェックしきれない。
しかし、一般的に市場に出回っている食品はそれほど汚染されていない。(厳しく監視は必要)
不検出であればたいてい、2Bq/kg以下。
たまに5Bq/kgなどを食べてしまうのは防ぎきれないがめったにないだろう。
限界値10Bq/kgを越えるようなものを避ければ、
ドカンと大きな摂取をすることは避けられる。
「1日3Bq以下」はそれほど難しくない
ICRPの結論なら100Bq/日
バンダジェフスキー氏の指摘からなら3Bq/日
この3Bq/日~100Bq/日のどこかに自分なりの目標値を置いたのでいいのではないだろうか。
内部被曝に関しても、自分の天秤で判断
自然放射能からの被曝
原発由来の被曝
生きるために必要なリスク
過去からの負の遺産
原発事故への責任
次の世代がこんなことにならないようにしたい
自然放射能からの被曝
原発由来の被曝
生きるために必要なリスク
過去からの負の遺産