【9】渡邉辰五郎と人格教育�―実践的教育と近代的理念が交差する最前線―�
日本衣服学会 第76回年次大会
鵜殿篤(東京家政大学)
渡邉辰五郎
渡邉辰五郎と人格教育―実践的教育と近代的理念が交差する最前線―
渡邉辰五郎(1844–1907)�千葉県長南町生。奉公で身につけた技術をもとに長南小学校で裁縫授業を開始し、掛図・教授書を著して一斉指導法を確立。1881年に和洋裁縫伝習所(現・東京家政大学)を創設。女子師範学校等でも教鞭を執り、生涯に4万名を指導した。明治40年没。
近代裁縫教授学の父
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渡邉辰五郎の語られ方
渡邉辰五郎と人格教育―実践的教育と近代的理念が交差する最前線―
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新治韜堂編(1929年)『渡辺辰五郎翁伝』
造衣/造人
戦後の家庭科教育・女子教育の先行研究
技術/良妻賢母
渡邉辰五郎(1881年 和洋裁縫伝習所創設)
技術
木下竹次(1916年)『裁縫新教授法』
人格
矢田部順子(1908年)『再訂裁縫教授法』
普通教育
日本近代教育学説史と裁縫科教育史
渡邉辰五郎と人格教育―実践的教育と近代的理念が交差する最前線―
1870年代
模索期
M.M.スコット�一斉教授の開始
1880年代
開発主義
高嶺秀夫・伊澤修二�知識ではなく「力」の育成
1890年代
ヘルバルト主義
ハウスクネヒト・谷本富�品性の陶冶という教育目的
1900年代
新教育
吉田熊次・乙竹岩蔵�「人格」の完成
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渡邉辰五郎
矢田部順子
木下竹次
東京女子師範学校在学中にヘルバルト主義に触れることは考えにくい。�教員として在籍中にヘルバルト主義を身につけたと推測される。
どこから着想を得たのか、極めて謎が多い。
辰五郎の語られ方についての仮説
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戦後の裁縫科・家庭科研究
戦前の「良妻賢母主義」に対する反省。
事実として、裁縫科は女子にのみ課せられた。
「人格教育」といっても、良妻賢母主義女子教育の文脈に回収されることとなる。
造衣の術
造人の術
知識・技術の伝達(instrction)
人格形成(education)
専門教育としての裁縫科
普通教育としての裁縫科
渡邉辰五郎
存命中は一言も「人格」について語っていない。あるいは良妻賢母主義に関する言及も極めて少ない。
良妻賢母主義を想起させる「人格教育」についていっさい語らず、もっぱら技術の伝達に力を尽くした辰五郎を高く評価。
辰五郎は人格教育を考えていなかったか?
渡邉辰五郎と人格教育―実践的教育と近代的理念が交差する最前線―
江戸時代から続く伝統
近世においても裁縫を学ぶことは単に技術を習得することではなく、人間形成に深く関わるものと考えられていた。丁稚奉公を通じて裁縫技術を身につけた辰五郎が、この近世的な在り様を無視していたとは考えられない。
人格と環境の未分化・融合状態
近代以前の世界では、日本やアジアに限らず、人間というものの存在は、世界から切り離されて独立自存する「人格」という形ではなく、世界に埋め込まれて対象と一体化したものと考えられていた。個人の人格と仕事の対象を切り分けることはそもそも不可能である。
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辰五郎にとっては、自分の仕事や周りの環境と切り離された形で「独立自存」しているような「人格」「個人」という在り様を考えることがそもそもできなかったのではないか。一方、技術を身につけることは自分が埋め込まれている環境や世界にも力を及ぼすことであり、世界から切り離された形で単に「人格」を形成する以上の教育的意義を持ちえた(持ち得る)のではないか。
より発展的な展開
渡邉辰五郎と人格教育―実践的教育と近代的理念が交差する最前線―
教育学説史と教科教育史の融合
裁縫科や家庭科に限らず、各教科教育史と教育学説史・理論史との乖離は大きな問題だと考えられている。辰五郎を中心とした裁縫科教育史の研究は、裁縫科の側から教育学説史に新たな視点をもたらすきっかけとなり得る。
人格教育・教養教育の原理的考察
大正新教育以降、平成に入るころまで、教育の世界では「教養教育」の重要性が自明視されてきた(平成以降、教育政策的には冷遇されつつある)。しかし教養教育とは一線を画しながらも「造人」の術として語られるようになった辰五郎の教育実践は、教養教育とか人格教育という概念に対して原理的な反省を迫るものになるのではないか。
近代的「個人」の在り様への反省
近代は、世界から切り離されて独立自存する「個人」「人格」というものの存在を前提として社会(資本主義・民主主義)を作ってきた。しかし「地球環境の持続可能性」など近代が知らなかった観点から、近代的個人の在り様やそれを前提として社会の在り方そのものが反省されつつある。辰五郎の教育実践は、おそらく何らかのヒントを与えてくれる。
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