ICRPの評価値をもとに
内部被曝を考える
2012年7月7日
ハカルワカル広場お茶会用資料
作成:二宮 志郎
体内に放射能を摂取した時に、
ベクレル → シーベルト
の換算がよく行われる。
この換算にはICRPの預託実効線量係数なるものが使われる。
問題はこれが正しいのかどうか。
しかし、難しすぎて普通は誰も考えようとしたり、説明しようとしたりしない。
信じるものは救われる、正にそれ。
まずは、その数値を見てみる。
核種 | 半減期(年) | 0-1才 | 1-2才 | 2-7才 | 7-12才 | 12-17才 | 大人 |
Cs134 | 2.06 | 2.6×10-8 | 1.6×10-8 | 1.3×10-8 | 1.4×10-8 | 1.9×10-8 | 1.9×10-8 |
Cs137 | 30.0 | 2.1×10-8 | 1.2×10-8 | 9.8×10-9 | 1.0×10-8 | 1.3×10-8 | 1.3×10-8 |
預託実効線量係数 経口摂取:食べる
数字は、1Bq摂取した時に何Svの生涯被曝に相当するかを表す
Cs137を100ベクレル食べた時
大人の場合
100×1.3×10-8 = 1.3×10-6 = 1.3マイクロシーベルト
これは1.3μSv/hのところに1時間いたというのと同じ。
食品で100Bq/kgが検出されたら、ハカルワカルでは大騒ぎになるが、それを1kg食べてもたかだかこの程度の被曝量。
乳児を除けば、子供はむしろ影響が小さい。
1mSvに相当する分は何ベクレルか?
1×10-3 ÷ 1.3×10-8 ≒ 77000
100Bq/kgの食品を毎日2kg、365日食べても
まだ、73000ベクレル
年間1mSvというのは
「外部被曝+内部被曝」
なので、内部被曝だけで1mSvを使い切るわけにはいかない。しかし、半分置いておくとしても
1日100Bqなら問題無し。
核種 | 半減期(年) | 0-1才 | 1-2才 | 2-7才 | 7-12才 | 12-17才 | 大人 |
Cs134 | 2.06 | 7.0×10-8 | 6.3×10-8 | 4.1×10-8 | 2.8×10-8 | 2.3×10-8 | 2.0×10-8 |
Cs137 | 30.0 | 1.1×10-7 | 1.0×10-7 | 7.0×10-8 | 4.8×10-8 | 4.2×10-8 | 3.9×10-8 |
預託実効線量係数 吸入摂取:吸い込む
(影響最大のゆっくり吸収されるタイプ)
吸い込む方はやや厳しい、食べる方に対する比
核種 | 半減期(年) | 0-1才 | 1-2才 | 2-7才 | 7-12才 | 12-17才 | 大人 |
Cs134 | 2.06 | 2.7 | 3.9 | 3.2 | 2.0 | 1.2 | 1.1 |
Cs137 | 30.0 | 5.2 | 8.3 | 7.1 | 4.8 | 3.2 | 3.0 |
1~8倍程度で、10倍にもはならない。
人間が激しく呼吸をして、1時間に約1m3 程度吸い込む。
トンネル工事現場で塵肺等の健康被害を避けるための目標が3mg/m3 。厚労省ガイドライン
24時間トンネル工事現場で激しく呼吸して吸い込む量でも100mg以下。(kgより4桁低い)
1万Bq/kgの土埃が舞っていても一日に1Bq吸い込むのは並大抵のことではない。
これらを考慮すれば、吸引の影響は経口摂取に比べて無視できるほど小さい。
以上、ICRPの預託実効線量係数を正しいと信じるなら、100Bq/kgの食品の基準値は妥当。
一般に流通している食品をあまり気にせず食べていてもほとんど健康被害はない。
土埃の吸引による影響力が多少大きいとしても、所詮は吸引する量が桁違いに小さいので、問題にならない。
ICRPはこの表の数字をどうやって決めたのか
国際放射線防護委員会(ICRP)の 放射性核種の体内摂取に伴う線量評価モデル について、日本原子力研究開発機構 栗原 治
こういう参考になる文書があるが、かなり難解
端的に言えば、
この見積りが正しければかなり奇跡では?
総合的な結論としての「預託実効線量係数」はかなりあやしい。(これに頼って内部被曝を評価することはおすすめできない。)
部分的には参考にできることはたくさんある。
常に「これは正しいと結論されていることでない」
ということを念頭に入れて参考にすればよい。
疫学的調査による検証を通して結論の正しさについて議論されるべきだが、疫学的調査の結果が少なすぎる。少ない結果だけに頼るのは危険。
セシウムを含む食品を毎日摂取しているとどのくらい体に蓄積してしまうのか
前述のICRPの評価の一部にある生体半減期が正しければ、それの1.4倍が蓄積量になる。
毎日1Bqのセシウムを摂取し続け平衡状態になった時の蓄積
3ヶ月:23Bq, 1才:19Bq, 5才:30Bq,
10才:53Bq, 15才:117Bq, 大人:143Bq
これを体重で割ったらkgあたりになる。
この資料では想定体重でkgあたりの蓄積量を表にしている。
恐ろしい話だが、
人間をミキサーにかけて1kgの検体を作り測定器にかければこのkgあたりの蓄積量が計測されるはず。
預託実効線量はあまりにも「どんぶり」だから、
この体内蓄積量をもとに健康被害を評価するのは一つのやり方。
ICRPのモデルから算出された生体半減期を使って計算されているのであり、「正しいと結論されているわけではない」のは同じ。
WBCとか尿検査などとの整合性がある程度は検証されているだろうから、預託実効線量係数よりはあてにしていい数字であろう。
体の中に何ベクレルまで蓄積するのを許すか
これで、毎日食べるものに対する注意の仕方が決まる。しかし、再び基準のない世界。
バンダジェフスキー氏はこの記事によると
「小児の臓器と臓器系統では、50Bq/kg以上の取りこみによって著しい病理学的変化が起きる。10Bq/kg程度の蓄積でも、特に心筋における代謝異常が起きる。」と言っている。
正しいかどうかはわからないが、おそらくこれが一番厳しい評価であろう。
一番厳しい評価をする人が10Bq/kg程度でも危ないと言っているのだから、その半分の5Bq/kg程度で考えてみる。
10才で30kgの子供が、5Bq/kgで蓄積すると、体全体では
5 × 30 = 150Bq の蓄積になる。
前ページにある生体半減期からの評価では、10才だと、毎日1Bqの摂取で53Bq、毎日3Bqで159Bq。
毎日3Bq以下が5Bq/kg以下にするための目安になる。
毎日3ベクレル食べると、365日で
1095ベクレル。
10才の子供の預託実効線量係数を適用して計算すると、
15マイクロシーベルト。
これは1ミリシーベルトの1.5%でしかない。
「1日3Bq以下」は難しい数値か?
ハカルワカル広場で測定しても限界値10Bq/kg。
人は毎日1kg~2kgくらい食べる。
1日10Bqくらいの摂取はチェックしきれない。
しかし、一般的に市場に出回っている食品はそれほど汚染されていない。(厳しく監視は必要)
不検出であればたいてい、2Bq/kg以下。
たまに5Bq/kgなどを食べてしまうのは防ぎきれないがめったにないだろう。
限界値10Bq/kgを越えるようなものを避ければ、
ドカンと大きな摂取をすることは避けられる。
「1日3Bq以下」はそれほど難しくない
ICRPの結論なら100Bq/日
バンダジェフスキー氏の指摘からなら3Bq/日
この3Bq/日~100Bq/日のどこかに自分なりの目標値を置いたのでいいのではないだろうか。
3Bq/日以下に関してもいろいろ議論はあるだろう。
最後に、
「1日何ベクレルまで」
などということを考えなければいけない事態、
それがかなり異常。
この異常が「異常」でなくなり「平常」になったらそれはこの世のお終いの気がする。
ICRPも内部被曝評価もいらない世界にしたい。
その日まで「測定室」は必要だ。