韓国と中国のSTEAM教育
2020年8月26日(水)STEAM夜話 Vol. 2
杉山昂平(東京大学大学院 情報学環 特任研究員) khsugiyama [at] g.ecc.u-tokyo.ac.jp
報告の概要
→ アメリカ発祥のSTEAM教育が各国でいかにローカライズされているのかを概観する
STEAM夜話 Vol.1 のおさらい
アメリカSTEAM教育の2つの源流
| ジョーゼット・�ヤックマン Virginia Tech | ロードアイランド・�スクール・オブ・デザイン RISD |
提唱者 | 技術科教員 | 美術大学 |
教育目標 | ホリスティック� (調和,自己実現) | イノベーション |
Artsの内容 | リベラルアーツ | 美術,デザイン |
2006年に初めて「STEAM」を提唱
バージニア工科大学修士課程在籍中に提唱
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ヤックマンによるSTEAM教育の理念
科学と技術は,工学とリベラルアーツから解釈され,全て数学の言葉に基づく(Yakman 2008: 22)
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2010年代に「STEM to STEAM 運動」を牽引
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RISDによるSTEAM教育の理念
STEM科目である科学,技術,工学,数学だけでは21世紀が求める息を呑むようなイノベーションは生まれません(中略)では,STEMにArtを加えてSTEAMにするとはどういうことでしょうか?問題解決力,大胆不敵さ,批判的思考力,ものをつくる技能――私が日々RISDのキャンパスで目にしているのは,アメリカがイノベーティブであり続けることを可能にする技能なのです(Maeda 2013: 1)
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ディスカッションをふまえたまとめ
→ 韓国と中国はどのような立ち位置をとっているだろうか?
韓国のSTEAM教育
創意・融合型人材の育成として
10年の蓄積があるSTEAM教育
2007 | キム・ジンス教授がバージニア工科大学で交換教授中に�ヤックマンからSTEAM教育を知り『技術教育学会誌』で紹介 |
2009 | 国家カリキュラムが改訂され融合人材の育成が志向される |
2011 | 第二次科学技術人材育成支援基本計画において融合人材の育成が教育政策の課題となり,本格的にSTEAM教育が研究開発される |
2015 | 国家カリキュラムが改訂され,引き続き融合人材の育成が志向される |
キム・ジンス教授――韓国STEAM教育の伝道者
2015年改訂国家カリキュラム( 교육부 2015)
このカリキュラムは韓国のカリキュラムがこれまで追求してきた教育理念と人間像に基づき,未来社会に求められる能力を育成することで,健全な人間性を備えた創意・融合人材を育てることに焦点を当てる�(総論 > カリキュラム構成の方向 > カリキュラム構成重点))
生徒の融合思考を促進するために,教科内や教科間での学習内容の結びつきを考慮するような指導を行う(総論 > 学校教育課程編成及び運営)
STEAM教育の背景にある課題意識(Hong 2017)
STEAM教育によって科学技術への興味と創造的思考力を育てたい
→ ヤックマンのホリスティック教育やRISDのアート・デザイン思考のような色合いは薄い.Artsは学習意欲を高める補助的道具(安東・金 2014)
STEAM教育の実施状況(Hong 2017)
→ 中教審において高校での導入が議論されている日本とは対照的
STEAM教授・学習スタンダード → 問題解決重視
KOFACによる指導案の研究開発
学習活動例「ドローボットが描く水彩抽象画」
1時限目 美術 | モンドリアン《赤・青・黄のコンポジション》を鑑賞 作品に登場する造形要素が何かを考える → 直線と色 → ロボットは絵を描けるだろうか? |
2,3時限目 技術 数学 美術 | Neopia社のNeoBotを組み立てる NeoBotにペンをつけ画用紙上を直線に動かして線を描く NeoBotが線を描く速さ(時間,距離)を求める 画用紙に残された線にペンでさらに線を加え,水彩絵の具で着色することでモンドリアンの絵を再現する |
中国のSTEAM教育
情報技術による教育の新形態として
情報技術に文脈づけられたSTEAM教育
2012 | 北京景山学校で「Scratch言語教育交流会」が開催される |
2013 | Scratch言語教育交流会の発展形として浙江省温州中学校で�「第1回STEAM教育イノベーションフォーラム」が開催される |
2016 | 教育部による「第13次教育情報化5ヵ年計画」の主要な課題として学際的学習(STEAM教育)が言及される |
2017 | 中国師範大学から『中国STEAM教育発展報告』が出版される |
第1回STEAM教育イノベーションフォーラム
「情報技術教師かつ研究者」な主催者たち
第13次教育情報化5ヵ年計画(2016年)
4.主要な課題
(六). 情報技術と教育との融合を深め,教育だけでなく人を育てるプロセス全体へと貢献する
適切な領域において新しい教育モデル――「メイカースペース」,学際学習(STEAM教育),メイカー教育――への情報技術の応用を積極的に探索し,生徒の情報活用能力,創造的な意識,イノベーション能力の向上に努める必要がある(中华人民共和国教育部 2016)
STEM教育と区別されないSTEAM教育
『中国STEAM教育発展報告』(郑葳 2017)
メイカー教育と区別されないSTEAM教育
谢作如による回顧
“STEAM教育”の実施状況
→ 授業自体を外注しているケースが多いらしい
学習活動例「SCSメイカー教授法」(傅骞 2015)
ストーリーの紹介 Story | 自宅でガス漏れ事故が起きてしまった.家の安全性を実現することは大事なことである(感情を駆動する物語を導入する) |
単純な課題の模倣 Copy | 教師が制作した単純なガス警報器を模倣して制作する(単純な課題模倣によって能動的な姿勢に転換させる) |
知識の要点の説明 Sate | 空気の状態の入力と警報音の出力という制御に関する包括的知識を説明する |
拡張的な課題の模倣 Copy Extended | 聴覚と視覚を同期させたアラーム機能を実装したアラームシステムを制作する(この段階はスキップしてもよい) |
イノベーションを刺激する指導 Stimulate | 家の安全性はこれで達成できるだろうか?と刺激してより創造的な電子作品の設計に向かうようにする(新たな知識を導入したり,これまでの制作物を評価したりして刺激する) |
共同課題の完成 Cooperation | 家の安全を実現する作品を個人または共同で制作する |
作品の共有 Share | できあがった作品を共有する |
まとめ
韓国と中国によるSTEAM教育のローカライズ
参考文献
韓国に関するもの
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中国に関するもの
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質疑応答
まとめ