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放射能勉強会資料

2016年6月作成、1016年8月改訂

ハカルワカル広場 二宮志郎

(この資料を無断で活用してくださることは大いに歓迎します)

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気をつけておきたいこと:事実と評価を混同しない

事実

  • 放射能汚染はあるのか
  • 放射能汚染はどの程度なのか
  • どういう放射能汚染があるのか
  • 食品の汚染はどの程度なのか
  • 土の汚染はどの程度なのか

評価

  • 放射能の健康への影響
  • 放射能の自然界への影響
  • 食品は安心して食べられるのか
  • 子どもは屋外で遊べるのか

「正確な事実+正しい評価」は簡単ではない。�評価には多分に政治的思惑が入ってくる。

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福島事故の影響はあるのか

まずは、この単純な事実に注目したい。

それを知るには、事故前の汚染状況と事故後の汚染状況を比較する必要がある。

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1957年からの

測定データ

原子力規制庁

環境放射線データベース

http://search.kankyo-hoshano.go.jp/

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東京における

セシウム137の降下量

福島事故前について

調べてみる

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1950〜1960年代

核実験の影響が激しくあるのが見える

1963年6月に最大降下量を記録

1986年4月26日の

チェルノブイリ事故の影響が見える

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セシウム137の降下量

福島事故後も

検索期間に含めてみる

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前のグラフと縦軸スケールが変わっていることに注意

2011年分の数値が大きいので、

核実験の影響分がほんの僅かに見える。

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土壌がどのくらい汚染

されたのか、

関東における草地の

汚染状況を調べる

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  • Cs137の半減期は30年
  • Cs137は土壌に吸着される

土壌中のCs137は

繰り返される降下分が

積算値として出てくる

降下が止まれば

長期間で指数関数的減少

核実験は長期間にわたり繰り返された

福島事故の放射能飛来は3月末の数日間のみ

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核実験は何度も繰り返された結果、降り積もった放射能は蓄積していき、100Bq/kgに及ぶ土壌汚染を生んだ

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地上核実験が禁止され、長い年月の間少しずつ減っていった。

やっと核実験が始まる前のレベルに近づいていた。

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一回の原発事故が積み上げた汚染量はすさまじい

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事故を繰り返すとこういうことに…

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ハカルワカル広場の

測定結果を見る

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  • 2012年: 1280
  • 2013年: 927

測定検体数

Cs137 (Bq/kg)

Cs134(Bq/kg)

2012年

164

143

112

2013年

170

124

78

2014年

76

94

45

2015年

59

111

44

東京都の土壌検体数とCs137・Cs134平均値

Cs137検出値で10Bq/kg以下と1000Bq/kg以上を除く

測定総検体数

  • 2014年: 446
  • 2015年: 415

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ハカルワカルの測定結果でも東京の土壌はCs137の汚染が100〜200Bq/kg程度

このほとんど全てが福島事故由来

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そもそも

セシウム137, セシウム134

というような放射性物質

とは、一体何なのか?

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原子核の崩壊

基本を知るために

少しだけ物理の勉強

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原子核の構成員は「陽子」と「中性子」

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α線、β線が出ると原子核の構成が変わる。原子が別物に変わる。

アルファ線

ベータ線

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γ線が出る時は原子核の構成は変わらない。エネルギーだけを放出する。

ガンマ線

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空気中数センチまで

空気中数メートルまで

空気中数百メートルまで

アルファ線

ベータ線

ガンマ線

3種類の放射線

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通常の原子は、こういう放射線を出さない。

放射性の原子は極一部

  • 自然放射能
  • 人工放射能

として存在。

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人工放射能は、人類が核反応によって作り出してしまったもの。

核反応のほとんどは、

核爆発原子炉内で起こる。

そこで発生する人工放射能にはたくさんの種類のものがある。

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福島事故で放出された放射能

福島事故で放出された放射性物質にはいろいろなものがある。

経産省は2011年6月、10月(改訂)にそれを公表している。

食品への含有量が規制されているセシウム以外にもいろいろあるが?

核種 放出量(PBq、10の15乗、1000兆)

キセノン133 11000

テルル127m 1.1

テルル129m 3.3

テルル131m 5

テルル132 88

ヨウ素131 160

ヨウ素132 0.013

ヨウ素133 42

ヨウ素135 2.3

セシウム134 18

セシウム137 15

ストロンチウム89 2

ストロンチウム90 0.14

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  • 半減期が短い(短期間でなくなる)
  • 放出量が非常に少ない
  • 人体への影響が非常に小さいとされている

これらのものを除外していって、やっかいなものとして残ってくるのが

セシウム137, セシウム134

他の人工放射能の影響がないわけではないが、これらに比べて小さいと見られている。

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セシウム137

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陽子:55

中性子:82

陽子:56

中性子:81

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セシウム134

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ガンマ線もいろいろ違うエネルギーのものが複数飛び出すことが多い

ガンマ線1

ガンマ線2

ガンマ線3

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ベータ線:0.0886MeV(27.3%), 0.415MeV(2.51%),0.658MeV(70.2%)他

ガンマ線:0.563MeV(8.4%),0.569MeV(15%),0.605MeV(97.6%), 0.796MeV(85.5%), 0.802MeV(8.69%), 1.365MeV(3.0%)他

セシウム134だとかなり複雑

半減期2年

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500keV

1000keV

ガンマ線のエネルギーがいろいろある

250keV

750keV

ガンマ線スペクトルとは、このようにガンマ線のエネルギーを横軸にとり、どういうエネルギーのガンマ線が出ているかをグラフ化したものを言う

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ガンマ線を測定して

核種の存在量を調べる

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500keV

1000keV

250keV

750keV

この部分を調べれば、特定のガンマ線のエネルギーを放出する核種の存在量が推測できる

そのようなある特定のエネルギーのガンマ線だけ調べるということが可能なのか?

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500keV

1000keV

250keV

750keV

細い幅の窓の中だけ調べることができれば、特定のエネルギーのガンマ線だけ検出できる

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500keV

1000keV

250keV

750keV

窓の幅が広いと近くにある目的外のガンマ線も誤検出する

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10万円程度の安価な測定器ではできない

100万円程度あるいはそれ以上の高価な測定器を使えばできる。窓の幅を狭くできるものはより高価。

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NaIシンチレーション測定器でCs134とCs137が同量程度混在しているところのスペクトルを見るとこのようになる。(最近はCs134のピークは見えにくい。)

Cs134

Cs134

Cs137

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ハカルワカル測定データ例、柿の木の皮(2016年4月16日測定,Cs137:156Bq/kg, Cs134:44Bq/kg)

Cs137, Cs134のピークがしっかり観測できる。Cs134の605はわかりにくい。

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ハカルワカル測定データ例、原木椎茸(2016年3月15日測定,Cs137:43Bq/kg, Cs134:18Bq/kg)

Cs134のピークはほとんどわからない。自然放射能も含まれているので、Cs137のピークもわかりにくい。

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自然放射能について

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自然放射能は大別して2種類

  • 半減期が億年単位で地球誕生時にあるものがまだある

ウラン238(半減期45億年)、カリウム40(半減期12億年)、トリウム231(半減期140億年)等

  • 宇宙線によって生成された放射能

炭素14(半減期5700年)、ベリリウム7(半減期53日)等

これらの放射性物質の中には、次々に崩壊してまた別の放射性物質を作るものがある。ウラン238はその代表。

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出典: http://www.ne.jp/asahi/kibono/sumika/kibo/note/naibuhibaku/img/uran-s10.gif

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U238

Pb206

何度も何度も放射線を出す

途中で早く進んだり、遅く進んだり、

最後の鉛206に行き着くまで数十億年の長い崩壊の道のり

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途中で出てくるラドン222は、よく知られているラドンガス。

ラドンガスは、タバコの次に肺がん要因になっている危険物質。

自然放射能だからと言って、安全なものであると考えていいわけではない。

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自然放射能から受ける自然放射線は場所によってかなり違う

日本の自然放射能は世界平均に比べるとかなり低く半分程度で、年間1ミリシーベルト程度の被曝に相当。さらに国内でもかなり差がある。

空の高いところに行くと宇宙線由来の放射線の影響が強くなる。国際線の飛行機は高い空を飛ぶので、機内の放射線レベルは高い。10時間くらい乗ればレントゲン一回分くらいの被曝をする。

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A

B

新宿百人町、大気中の放射線量データから

Aが福島事故以前のレベル、Bが福島事故後半減期の早い放射能の影響が消えた後のレベル。

B-Aの分だけ事故の影響がまだ残っている。

Aの部分はほぼ全てが自然放射能の影響

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Aの部分が場所によって変動する度合いに比べて、B-Aの部分が小さければ、

「まぁー、その程度の追加被曝は許せるだろう」

ということで、追加被曝年間1ミリシーベルト以下という基準ができている。あまりきちんとした根拠とは言えない。

それが許せる範囲かどうかという評価は置いておいて、福島事故の影響による外部被曝としての追加被曝が東京ではその程度の範囲内であるという事実は確か。

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外部被曝を考える場合

アルファ線のことは考えない

紙一枚で止まるから人の体までまず来ない

ベータ線のことも考えない

体の表面付近以上に入ってこない。

事故後の原発作業員・第五福竜丸船員はベータ線熱傷になったが、高レベルの死の灰が皮膚に付着するということは普通ない。

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ガンマ線による外部被曝

まず、積算被曝量がどの程度になるのかを見積もることが重要。

基本的には「体で吸収するガンマ線の線量がどれだけか?」という問題。

ただし、それがそう簡単ではない。

年間1ミリシーベルト基準に比べてはるかに小さいことが明らかな場合は、それほど厳密な見積もりは不要。仮にやっても無意味であろう。

これは体に影響する

これの総量が知りたい

これは体に影響しない

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微量内部被曝について

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体内に放射能を摂取した時に、

ベクレル → シーベルト

の換算がよく行われる。

この換算にはICRPの預託実効線量係数なるものが使われる。

問題はこれが正しいのかどうか

はっきりしていることは、これは100%「評価」の領域の話であり決して「事実」を語っているわけではない。

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まずは、その数値を見てみる。

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核種

半減期(年)

0-1才

1-2才

2-7才

7-12才

12-17才

大人

Cs134

2.06

2.6×10-8

1.6×10-8

1.3×10-8

1.4×10-8

1.9×10-8

1.9×10-8

Cs137

30.0

2.1×10-8

1.2×10-8

9.8×10-9

1.0×10-8

1.3×10-8

1.3×10-8

預託実効線量係数 経口摂取:食べる

数字は、1Bq摂取した時に何Svの生涯被曝に相当するかを表す

Cs137を100ベクレル食べた時

大人の場合 100×1.3×10-8 = 1.3×10-6 = 1.3マイクロシーベルト

これは1ミリシーベルトの1/769。

表の数値からは、乳児を除けば、子供はむしろ影響が小さいことになる。

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ICRPがこの表の数値をどうやって算出したかは、少しややこしい話になりすぎるので、ここではしない。

端的に言えば、

  • 人間の体をモデル化して、部品に分ける
  • セシウムが各部品にどのように分布するかを見積もる
  • 同時に各部品からどのように排出されるかも見積もる
  • 各部品がセシウムの放射線から受けるダメージを見積もる
  • それら全ての見積りを総合して体全体が受けるダメージを見積もる

この見積りが正しければかなり奇跡では?

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総合的な結論としての「預託実効線量係数」はかなりあやしい。(これに頼って内部被曝を評価することはおすすめできない。)

部分的には参考にできることはたくさんある。

常に「これは正しいと結論されていることでない」

ということを念頭に入れて参考にすればよい。

疫学的調査による検証を通して結論の正しさについて議論されるべきだが、疫学的調査の結果が少なすぎる。少ない結果だけに頼るのは危険。

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では、何を見て判断すればいいのか?

まず、体に何ベクレル取り込んでしまったのか、その事実をできるだけ正確に把握するように努める。

小さな変動は気にしないで、一ヶ月でどのくらい取り込んだか、一年間でどのくらい摂取したか、そういう量を把握するように努める。

それがわかれば一日あたりの平均摂取量が見積もれる。

その数値をもとに考える。

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これもまたICRPの評価の一部ではあるが、

人体がどのくらいの速度で摂取したセシウムを体外に排出してくれるかを示す生体半減期なる数値がある。(こちらの数値は預託実効線量の様に推測に満ちたものではないので、もう少し信用できるだろう。)

これを使えば、毎日1Bqのセシウムを摂取し続け平衡状態になった時の蓄積は、

3ヶ月:23Bq, 1才:19Bq, 5才:30Bq,

10才:53Bq, 15才:117Bq, 大人:143Bq

これを体重で割ったらkgあたりになる。

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底に穴のあいた容器に上から水を注ぎ始めると、

底から流れ出る量より上から注がれる量が多い間はどんどん容器に水がたまる。

容器の水位が上がってくると、じょじょに底から流れ出る水量も増えていく

あるところまでたまると、底から流れ出る量と上から注がれる量が同じになる。そうなると水位は上がりも下がりもしなく一定を保つ。

容器を人間の体と見て、上から注ぎ込まれる水を毎日食べる放射性セシウムだと見る。

容器に一定量たまる水が、体内に溜め込む放射性セシウムに相当する。毎日食べる量が変化しなければ、この量は一定を保つ。

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その数字が50Bq/kgを超えるとかなりやばい、

10Bq/kgあたりから少しやばい範囲になる。

というのが、チェルノブイリの被害者の臓器を調べたバンダジェフスキー氏の結論。この説が正しいかどうかは不明、単なる「評価」の一つでしかない。

もっとも厳しく評価する学者の説でもってしても安全な領域に入れば、その時はかなり安心してもいいのではないか。

そう考えるなら体内蓄積が10Bq/kgに比べてずっと低いレベルにあれば、一応安心してよさそうである。

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乳児の場合は別にしての話で、

  • 1日あたりのセシウム摂取量を3ベクレル以下に抑えれば、最も厳しい学者の説でも安心領域�
  • 1日あたりのセシウム摂取量を100ベクレル以下に抑えれば、ICRPの説で安心領域

このあたりを参考にして、後は自分なりに考えて自分にとっての基準値を適用すればいいだろう。

ちなみに、東京の2016年時点で、普通にスーパーなどで食材を調達して、平均の1日あたりセシウム摂取量が3ベクレルを超えることはまずないだろう。

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最後に、

もう一度、許容量について考えてみる

許容量というのは、

「これ以下は心配いらない」という量ではなくて、

他にいろいろ得られるものがあるから、

「これくらいはがまんして受け入れよう」という量。

得られるものが何か、失うものは何か、一人ひとりがよく考えてみる必要がある。

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ICRPの許容量とは

年間1ミリシーベルト

原子力産業の恩恵

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自然放射能より影響が小さいことは何も正当化しない

自然放射能からの被曝

原子力由来の被曝

生きるために必要なリスク

原子力産業からの恩恵

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原子力産業からの恩恵など実はない

自然放射能からの被曝

原子力由来の被曝

生きるために必要なリスク

過去からの負の遺産

原発事故への責任

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次の世代がこんなことにならないようにしたい

自然放射能からの被曝

原発由来の被曝

生きるために必要なリスク

過去からの負の遺産

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身の回りの土などを測定することで、

福島事故の影響を見つめ続け、

さらに新しい事故の影響などないかに目を配り、

ばらまいてしまった放射能とどう対処していけばいいのか、

未来の世代に対してできることは何なのか、

そういうことを考え続けるために、

ハカルワカル広場を活用してください。

そしてできたら一緒に支えてください。

八王子市民放射能測定室 ハカルワカル広場

〒193-0053 東京都八王子市八幡町5-11 八中ビル2F

電話:042-686-0820 http://hachisoku.org

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ハカルワカル広場では、

  • 身近な場所の土壌を定期的(数カ月〜1年に1度程度)に測定
  • 掃除機のゴミパックをためていき測定可能な量(ぎゅうぎゅう詰めて500cc程度)になったら測定
  • ゼオライトを雨樋の排水口に設置して微量放射能を濃縮させて定期的(一ヶ月〜半年に1度程度)に測定

といった取り組みを行いながら、身近な放射能の存在に目を光らせる活動を行っています。

どなたでも参加できます。

正式手続きの上で参加してくださる方の測定は無料で行っています。