平和と国際法
第1回:戦争を禁止する
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根 岸 陽 太 (西南学院大学法学部)
大阪弁護士会 国際人権個人通報実現協議会 国際人権法連続講座
2025年1月30日(木)
はじめに-改めて平和と国際法を問う
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左:「戦場のピアニスト」:第二次世界大戦中に破壊されたポーランド・ワルシャワの街並み
右;アナドル通信社(トルコ):2023年以来の武力紛争で破壊されたパレスチナ・ガザ地区の街並み
有名な映画のワンシーンです。
どの都市でしょうか?
国際司法裁判所の手続でスクリーンに投影された画像です。
どの都市でしょうか?
はじめに-市民目線の期待と失望
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「国際法は国際社会のルールだから、国々が遵守することで平和をもたらしてくれるはずだ。」
「国際法は国々によって遵守されておらず、戦争を止めるために機能していない。」
期待
失望
はじめに-専門家目線の応答と批判
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「ほとんどすべての国々は、ほとんどすべての時に、ほとんどすべての国際法原則、ほとんどすべての自らの義務を遵守している。」
ルイス・
ヘンキン
「裏返して読むと『いくつかの国際法規則は、時によっては、いくつかの国々によって遵守されない』という意味になるだけでなく、遵守されない国際法規範があまりに重大である場合について何も語らない」。
(例:武力行使禁止原則と例外としての自衛権)
「国際法が規制を及ぼすべき事態に関する国際法規則がいっかな存在しない場合についても、この命題はまったく関知しない」。
(例:集団的安全保障制度における拒否権行使)
最上敏樹
はじめに-国際「法による支配」?
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【具体例】
ロシアによるウクライナ侵略
イスラエルによるガザ地区侵攻
はじめに-市民目線の内省と展望
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「国際法を通じて、弱者を支え、活気を配るような『法の支配(rule of law)』をもたらすために、市民として平和に貢献できるだろうか。」
「国際法は、強大国の『力の支配』に寄与してしまう側面もある。だからといって捨て去ってしまえば、暴力によってすべてが決まってしまう。」
展望
内省
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連続講座の内容
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はじめに――国際「法による支配」
おわりに――国際「法の支(え)配(り)」
本日の内容:戦争を禁止する
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第1節
国連憲章に至る
戦争禁止の流れ
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Peace Palace stained glass windows Great Hall of Justice - First window, Prehistory
国連憲章に至る戦争禁止の流れ
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伝統:正戦論から無差別戦争観へ
ハーグ平和会議〜国際連盟規約:戦争の手続的規制
国連憲章(1945年)
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国連の権力構造・目的-手段関係
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国連憲章下の集団安全保障体制
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第5章〔安全保障理事会〕
25条:加盟国は、安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意
27条3項:[手続事項以外]のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。
→ 常任理事国のみが有する拒否権(veto)により否決
第6章〔紛争の平和的解決〕
第7章〔平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動〕
39条:安保理が「平和に対する脅威(threat)、平和の破壊(breach)または侵略(aggression)行為の存在を決定」
41条:非軍事的強制措置:「兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定する」
42条:軍事的強制措置:「国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとる」
43条:特別協定にしたがい、加盟国は「兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させる」
→現在まで特別協定は締結されず、国連常備軍の構想は実現せず
第2節
冷戦中の東西
対立と戦争禁止
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Peace Palace stained glass windows Great Hall of Justice - Second window, Time of Conquests
朝鮮戦争と「平和のための結集」決議
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UN記念公園
(韓国・釜山)
当時の国連総会
写真:Visit Busan; United Nations
第二次中東危機とPKOの誕生
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ダグ・ハマーショルド
事務総長
平和維持活動(PKO)
写真:United Nations
冷戦期における拒否権の常態化
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写真:朝日新聞2022年9月8日;チェコ政府観光局
「ナパーム弾の少女」被写体のキム・フックさん
ソ連の侵攻に抵抗する
チェコスロヴァキア市民
第3節
冷戦後の米国
覇権と国際法
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Untitled (Mural for Peace) United Nations Security Council
湾岸戦争と「武力行使の授権」
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写真:Getty Images
安保理決議678号の投票
人道危機と「保護する責任」
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NATO空爆の影響
「保護する責任」報告書
写真:Radio Free Europe; ICISS
米国によるアフガニスタン・イラク侵攻
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9.11同時多発テロ
米国・イラク戦争
写真:Britannica; Der Spiegel 20 March 2013
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Peace Palace stained glass windows Great Hall of Justice - Third window, Present
第4節
現代の多極的
覇権と戦争禁止
ロシアと中国による国際法秩序への挑戦
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ロシアによるクリミア併合
南沙諸島のガベン礁埋立
写真:New York Time 20 September 2022; 時事通信 写真特集
シリア内戦と安保理の停滞
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アレッポでの文民被害
写真:BBC 1 March 2017; New York Time 8 April 2020
化学兵器使用の蓋然性
ロシアによるウクライナ侵略
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写真:New York Times 4 April 2022
侵略非難決議を歓迎
ブチャでの虐殺
ハマス急襲・イスラエルのガザ侵攻
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写真:CNN 27 March 2024; NYT 12 January 2024
国連特別報告者フランチェスカ・アルバネーゼ氏
南アフリカによる弁論を応援するパレスチナ人
おわりに
国際「法の
支(え)配(り)」
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Peace Palace stained glass windows Great Hall of Justice - Fourth window, Future
戦争を禁止する:負の側面
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戦争を禁止する:正の側面
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【市民目線の多層マルティラテラリズム】
①安保理型:非常任理事国(E10)
②総会型:平和のための結集決議、説明責任追及
③現業型:《手に触れうる/目に見える国連》(最上)
④司法型:第三者を伴う争訴手続・勧告的手続
⑤公衆型:弱者に連帯する市民の抗議・抵抗運動
毎日新聞2023/10/31
毎日新聞2024/10/5
『現代思想』寄稿から引用
世界各地で起きる武力紛争を目の前に、日本国憲法が「全世界の国民(all peoples of the world)」の平和的生存権を確認したことの意味を問う。(猫塚義夫・清末愛砂『平和に生きる権利は国境を超える--パレスチナとアフガニスタンにかかわって』(あけび書房、2023年)
「もっぱら制裁メカニズムに着目して法を捉えるのは不十分である。憲法や国際法が発展してきたのは、国際であれ国内であれ、時には自己を犠牲にしながらも、人びとが基本的権利の実現に向けて行動してきたからである。そのような発展を捉えるためには、制裁メカニズムとは別に、人びとがどのような理念にもとづいて行動してきたかという側面に目を向けなければならない。」(松尾陽教授(名古屋大学・法哲学))
写真:朝日新聞デジタル
出典:あけび書房
おわりに-日本から危機と平和を見る
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根岸陽太・二杉健斗・平野実晴「ロシア・ウクライナ紛争(2022年)国際法情報ページ」
根岸陽太「イスラエル・ハマス紛争(2023年10月7日〜)国際法情報ページ」
根岸陽太「訳者補遺:ロシア・ウクライナ危機における国際法言説――『ルールに基づく国際秩序』の擁護・批判・改革」ジャン・ダスプルモン(根岸陽太訳)『信念体系としての国際法』(信山社、2023年)
根岸陽太「国際法と学問の責任――破局を再び起こさないために」『世界』977号(2023年)
根岸陽太「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出停止――集団的懲罰とジェノサイドの禁止に違反する可能性」『憲法研究所オピニオン』(2024年2月13日)
根岸陽太「ウクライナ情勢-人道・人権・難民との関係――(改訂版)」国際法学会エキスパート・コメント No. 2024-5
根岸陽太「(脱)構成的権力としての平和的生存権--国際人権と日本国憲法に内在する抵抗」『憲法研究』13号(2023年)
根岸陽太「ガザ地区におけるジェノサイド条約適用事件――共感共苦のナラティヴと国際司法のガヴァナンス『人権判例報』8号(2024年)
根岸陽太「国際連合の原罪と贖罪――『法による支配』から『法の支配』へ」『現代思想』53巻2号(2025年)
講演者の関連論文
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