札幌市の
「敬老健康パス」
問題について
2024年3月作成
松田たかし
概要
札幌市の保健福祉局は、1975年から運用されている「敬老優待乗車証」
(以下敬老パス)の運用を変更し、
「敬老健康パス制度」素案を2023年11月15日に報道発表。
その後同年12月から2024年1月にかけて市内10区にて意見交換会
(パネル展示及び説明会)を開催。
しかしながら、提示された素案に関しては、
現行敬老パス利用者からの反発が強く、
理解が得られたとは言えない状況である。
秋元市長は、移行期間の設定や、新旧制度同時併用、
ポイントプレゼント案など五月雨に対策案を提示している中、
市民団体が制度移行反対の署名活動を開始。
本稿では、問題点の整理と、議論するべきと思われる点をまとめていく。
現行の敬老パス
交付対象者
利用できる公共交通機関
札幌市にお住いの70歳以上の方を対象に、
外出を支援し、明るく豊かな老後の生活の充実を図るため、
1,000円~17,000円の自己負担で、
10,000円~70,000円分の公共交通機関の利用ができます。
札幌市内に住民登録があり、引き続き居住している満70歳以上の方
敬老優待乗車証には次の2種類があります。
いずれも市内での乗り降りにのみ利用でき、市内から市外、市外から市内の乗車には利用できません。
1 敬老ICカード
・市営地下鉄、市電、中央バス、ジェイ・アール北海道バス、じょうてつバスで利用できます。
・乗継料金が適用されます。※このICカードが一般的に言う敬老パス
2 敬老乗車証(回数券)
・夕鉄バス、ばんけいバスで利用できます。
・敬老ICカードがなければ、交付を受けることができませんので、
事前に敬老ICカードの交付申請が必要です。
現行敬老パスチャージ額詳細
現行の敬老パスの事業規模推移
敬老健康パス制度の素案
札幌市では、令和4年度に策定した「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン」において、
生涯を通じた健康づくりや社会参加の場の充実に向けた取組を推進し、
市民の健康寿命延伸を目指すこととしております。
健康寿命が長くなることは、自分らしく生きていける期間も長くなるということです。
そのような意味でも、市民一人ひとりにとって健康寿命を延ばしていくことに意義があり、
市としてもこれまで様々な取組を推進してまいりました。
こうした取組のひとつとして、既に多くの高齢者の健康増進に寄与している
「敬老優待乗車証(敬老パス)制度」を「敬老健康パス制度」へと発展させ、
高齢者の健康づくりや社会参加のきっかけを一層後押しするとともに、
これまでよりも多くの人が参加できる制度としていくことを目指し、
このたび素案をまとめたところです。
敬老健康パス制度の概要
なぜ敬老健康パスなのか?
要約すると
意見交換会での市側説明の要約
公平なサービスと言えない。
現行敬老パス対象者平均チャージ額(11,431円)
を上回る為、十分賄える試算である。
市側説明に対しての私の疑問点:1
敬老パス対象者は、いわゆる「寝たきり」の方も含まれる為、
現在の利用率であることは、市側も認識している。
にも関わらず、敬老健康パスで突然歩いてポイントを稼げるようになる理由は無い。
また、健康寿命向上が目的ならば70歳以前から取り組むべきではないか?
長年SAPICAでJRが利用できない問題に関して具体的にどうやってJRやタクシーに
利用拡大を行うのか?の問に対しては現在検討中とのこと。
対象者平均チャージ額は、分母にチャージ額0円が含まれる。(11,431円)
チャージ者のみ平均は、26,461円では?との問には、渋々認める
今回の制度変更は、事業予算削減の為ではない。
あくまでも市民の健康増進施策であり、利用率向上が目的であるとのこと。
上記に対して、区別の敬老パス利用者割合を把握しているのか?
との問に把握はしている。しかしながら公表はされない。
70歳以上の就業者が雇用元から交通費(非課税)を支給されているのに、
敬老パスを利用することは言わば脱税にあたらないのか?の問に対しては、
市側も問題認識はしているものの、打開策が無いとのこと。
市側説明に対しての私の疑問点:2
令和6年度予算から読み解くと、
アプリ開発費予算7億円!
また、チャージ停止に伴う
システム改修費用2億円!
敬老パスのチャージは、
敬老パス到着→チャージ額申請書記入送付→
市役所から完了通知→最寄りの郵便局でチャージの流れだが、
単に郵便局の窓口業務を停止する為に2億円もの費用が必要なのか?
また、上記費用合計9億円は事業規模で言えば2割に相当するが、
事業規模内なのか、別なのかも不明。
何としてでも2026年に開始したい謎?
説明会当初は、あくまでも素案であり市民の理解を得ながら幅広く意見聴取をし、
内容を精査していく様な雰囲気であった。
しかしながら、全区での説明会を終えると、移行期間を設定するやら、
同時併用で始めるやら、はたまた高齢者にはポイントをプレゼントする等々、
2026年開始ありきとしか思えない展開である。
とにかく秋元市長の任期2027年までに始めてしまえと言うようにしか思えない。
また、アプリは開発だけでなく、管理費用も発生するはずであり、新たな随契の予感。
つまり、新たな天下り先の開発の様にしか思えないのである。
全体像に対して私の考察
ネットでの反響では、今回の健康敬老パス移行に対しては賛成意見が多い。
いわゆる「老人を甘やかすな」的な風潮である。
だが、事業規模が変わらないことをもっと広く伝えると同様の意見になるだろうか?
それよりも、他自治体千葉、静岡、浜松、広島の4市は、
2007年以降に同様の制度を廃止している。
仙台市では、現在財政圧迫を理由に自己負担10%→25%への議論を行っている。
札幌市も増え続ける事業費に対しての議論が必要であると考える。
また、交通行政的な視点で見た場合、市内10区での公共交通期間格差が大きく、
そこを埋める為の手段として長年敬老パスが使われてきた経緯があるように思う。
若年層であっても、敬老健康パスに移行することで、家族の送迎等に駆り出される
可能性があり、移行に否定的な意見も出ると思われる。
例えば長距離通院で敬老パスを利用している方向けの
市が運営する通院専用バスなどでフォローすることは考えられないのだろうか?
利用者負担を上げて事業費を圧縮し、その分を子育て政策に振り向ける等の
議論は考えられないのだろうか?
資料等:1
| 令和2年 人口(人) | 面積(㎢) | 令和2年人口 集中面積(㎢) | JR駅の数 | 地下鉄駅の数 | バス停の数 | 他交通機関 |
中央区 | 248,680 | 46.42 | 23.13 | ※2 | 10 | 240 | 市電 |
北区 | 289,323 | 63.48 | 36.98 | 9 | 5 | 256 | |
東区 | 265,379 | 57.13 | 31.74 | 1 | 5 | 198 | 空港 |
白石区 | 211,835 | 34.58 | 24.03 | 2 | 6 | 139 | |
厚別区 | 125,083 | 24.38 | 16.67 | 3 | 3 | 138 | |
豊平区 | 225,298 | 46.35 | 21.69 | 0 | 7 | 138 | |
清田区 | 112,355 | 59.7 | 18.62 | 0 | 0 | 143 | |
南区 | 135,777 | 657.23 | 20.01 | 0 | 3 | 201 | |
西区 | 217,040 | 74.93 | 24.95 | 3 | 4 | 135 | |
手稲区 | 142,625 | 56.92 | 21.86 | 5 | 0 | 134 | |
区別の公共交通機関現状
※札幌駅は、住所的には北区だが、実質的に中央区換算。
※札幌駅は住所的には北区だが事実上中央区でもあると解釈
資料等:2
令和4年度区別交付対象者敬老パスチャージ状況
※札幌駅は、住所的には北区だが、実質的に中央区換算。
資料等:3
令和4年度区別交付対象者敬老パスチャージ状況グラフ
※札幌駅は、住所的には北区だが、実質的に中央区換算。
資料等:4
区別病院(一般診療所)の数
※札幌駅は、住所的には北区だが、実質的に中央区換算。
資料等:5
令和2年度区別70歳以上割合
※札幌駅は、住所的には北区だが、実質的に中央区換算。
資料等:6
コロナの影響はあったが、高齢就業者は増加傾向
資料から読み取れること
資料から読み取れるのは、各区の公共交通機関格差等が利用率や、
チャージ金額の差に出ていると思われる。
中央区は、区内人口に占める70歳以上の比率が最も低いにも関わらず
2万円以上のチャージが平均以上の結果となった。
地下鉄、バス以外に市電の存在が大きいと思われる。
南区は、バス依存度の高さと、区内人口の70歳以上が最も高い為、
2万円以上チャージが平均以上で、7万円チャージ額で全区最高となっている。
手稲区、清田区は地下鉄が無い為か、全体的に平均以下のチャージ額。
白石区と豊平区は、地下鉄駅数、バス停の数、70歳以上比率が近いのだが、
利用率に結構差があり、これは地形や高低差などの影響なのかもしれない。
敬老健康パス導入の謳い文句が「高齢者の外出云々」とか言うが、
医療機関への外出利用が少なからず影響していると推察できる。
その事を踏まえると70歳からの健康寿命延伸には異を唱えたい。
少なくとも介護保険被保険者となる40歳から施策を取るべきである。
健康施策と交通施策を同じ土俵で議論されること望む。
今は保険福祉局だけが矢面に立ち進める事に強い違和感を感じている
ありがとうございました
2024年3月4日作成
松田たかし