データ駆動型社会と医療現場
社会動向 第2章
学習目標
医療がデータ駆動型へ移行している背景と、その意義・課題を理解する。
到達レベル
学習内容
【基本】
【発展】
あらゆる価値の中心にデータが位置する「データ駆動型社会へ」
・現代は、あらゆる分野でデータが価値創造の中心となるデータ駆動型社会へ移行しつつある。
・日本の未来コンセプトは「Society5.0」であり、その中核技術は、サイバー空間(情報)とフィジカル空間(現実)を融合させるサイバーフィジカルシステム(CPS)である。
Society5.0:人間中心の社会を目指す日本の未来像
・狩猟(1.0)、農耕(2.0)、工業(3.0)、情報(4.0)に続く第5の社会。サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する「人間中心の社会」。
・第6期科学技術・イノベーション基本計画では、Society5.0の実現に向け、「一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」を未来像として設定。
段階 | 社会の名称 | 主な特徴 |
Society 1.0 | 狩猟社会 | 経験と勘に基づく生存活動 |
Society 2.0 | 農耕社会 | 生産と共同体の形成 |
Society 3.0 | 工業社会 | 機械による大量生産と分業 |
Society 4.0 | 情報社会 | コンピュータとネットによる情報処理 |
Society 5.0 | データ駆動・人間中心社会 | AIやデータ解析を通じて社会課題を解決する新たな社会構造 |
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/society5_0.pdf
CPS : サイバーフィジカルシステム
現実世界(フィジカル空間)の情報をセンサーなどで収集し、サイバー空間でAIなどを用いて解析、その結果を再びフィジカル空間へ最適にフィードバックする仕組み。
医療分野におけるSociety5.0の目指す新たな価値の事例
保健医療分野では、医療や生理計測などの多角的なデータをAIが解析し、病気の早期発見やロボット支援へと繋げる未来が期待されている。 これにより、個人の健康寿命延伸と介護・医療現場の負担軽減を同時に実現する社会の仕組みを目指している。
内閣府資料(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/society5_0.pdf)を元に生成AIで作成
医療DX(デジタルトランスフォーメーション)
定義:
保健・医療・介護の各段階で発生する情報やデータを、最適化された基盤を通じて共有・標準化し、国民の予防を促し質の高い医療・ケアを提供するよう社会や生活を変革すること
具体的な目標:
① 国民の健康増進
② 切れ目ない良質な医療の提供
③ 医療機関の業務効率化
④ IT人材・システムの有効活用
⑤ 医療情報の2次利用環境整備
政府は医療DXの推進方針として、「医療DX令和ビジョン2030」と呼ばれる政策群を示しており、①施設を越えて患者情報を共有する「全国医療情報プラットフォーム」の創設、②電子カルテ情報の標準化(HL7 FHIR等)、③診療報酬請求業務のDX、を一体的に進めている。
医療DXを構成する主要な施策
オンライン資格確認
電子処方箋
標準型電子カルテ
診療報酬改定DX
マイナンバーカードを保険証として利用し、資格情報・薬剤情報を確認。重複投薬防止と業務効率化に貢献。
全国プラットフォームと接続可能な標準仕様の電子カルテ。システム相互運用性を確保。
処方・調剤プロセスをDX。
重複投薬チェックで医薬品の
安全性を向上。
共通算定モジュールの提供により医療機関のシステム改修負担を軽減
施策名 | 位置づけ・概要 | 主な内容・機能 | 期待される効果 |
オンライン資格確認 | 医療DXの基盤 | マイナンバーカードを健康保険証として利用し、資格情報・特定健診情報・薬剤情報等を確認 | 適切な医療提供、重複投薬防止、受付業務の効率化 |
電子カルテ情報共有サービス | 全国医療情報プラットフォームの中核 | 診療情報提供書、健診結果、患者6情報、患者サマリー等を医療機関・薬局・本人が共有 | 医療の継続性向上、地域医療連携の強化 |
標準型電子カルテシステム | 情報共有を前提とした基盤整備 | 全国医療情報プラットフォームと接続可能な標準仕様の電子カルテ | システム相互運用性向上、医療機関の導入負担軽減 |
電子処方箋 | 診療・調剤プロセスのDX | 処方箋の電子化、直近処方・調剤情報の参照、重複投薬等チェック | 医薬品安全性向上、患者利便性向上 |
医療費助成のオンライン資格確認 | 公費医療分野のDX | マイナンバーカードを医療費助成受給者証として利用 | 窓口確認の簡素化、自己負担計算の正確化 |
予防接種事務のデジタル化 | 公衆衛生分野のDX | 接種対象者確認、電子予診票、費用請求・接種記録管理のオンライン化 | 医療機関・自治体業務の効率化、記録精度向上 |
介護情報基盤の構築 | 医療・介護連携の基盤 | 介護情報を本人同意の下で医療機関・介護事業所等が共有 | 医療・介護の連携強化、サービスの質向上 |
医療等情報の二次利用 | 研究・政策活用基盤 | 医療情報の二次利用に関する制度設計・基盤検討 | 医療研究・政策立案の高度化 |
診療報酬改定DX | 医療機関業務のDX | 共通算定モジュール、公費・地単公費医療マスタ整備 | システム改修負担軽減、算定ミス防止 |
医療DXの各施策
全国医療情報プラットフォーム(参考資料)
EBMからRWDへ
厳密なRCTによるエビデンスを尊重しつつ、RWDを用いて意思決定を拡張することが現代医療の鍵となります 。
多様な臨床データの利活用は、希少疾患の解析やコスト削減を実現し、持続可能な医療提供体制の構築に寄与します
EBM (Evidence Based Medicine) | RWD/RWE (Real World Data/Evidence) |
根拠 無作為化比較試験(RCT) | 根拠 日常の診療現場で収集されるデータ |
強み 高い内的妥当性(厳密な環境) | 強み 高い外的妥当性(実臨床を反映) |
限界 対象患者が限定的(高齢者が除外されがち) | 利点 希少疾患の解析、時間・コスト削減 |
位置付け 伝統的なゴールドスタンダード | 位置付け EBMを補完し、意思決定を拡張 |
EBMの成果と限界
EBMは強力なツールですが万能ではありません。この限界を保管するために、実臨床から得られるRWD(リアルワールドデータ)の活用が期待されています。
成果
・科学的根拠の確率
RCT(無作為化比較試験)などにより、
治療の有効性・安全性を客観的に検証
・標準化への推進
個人の経験則への依存を脱却し、ガイド
ラインに応じた医療の均てん化に貢献
限界
・実臨床との乖離
厳格な条件下の試験結果は、複雑な現実の
患者にそのまま適用できない場合がある。
・対象の偏り
高齢者や多病併存患者は試験から除外され
やすく、データが不足しがち
活用される医療データの種類
①診療データ
電子カルテ内の検査結果、
処方、画像所見など
②ゲノム・オミックスデータ
個別化医療の基盤となる遺伝子情報
③行政・支払データ
NDBに集積されるレセプト情報、特定検診結果など
④個人ヘルスデータ
PHR、ウェラブルデバイスからのライフログ、患者報告アウトカム(PRO)など
病院内での診療データだけでなく、行政のレセプトや個人のライフログ、ゲノム情報など、多種多様なデータが統合されつつあります 。これらを一次利用(診療)だけでなく、適切な加工を経て二次利用(研究開発・政策)へ繋げることで、新たな医療価値が創出されます 。
医療データ利活用による展望
画像診断支援
AI搭載のプログラム医療機器(SaMD)が医師の読影を補助し、見落とし防止や診断精度向上に寄与。
個別化医療
オンライン診療
ゲノム情報やライフログデータを活用し、患者一人ひとりの遺伝子変異などに合わせて治療法を最適化。
ICTの活用により、地理的制約のない医療アクセスを実現
AIなどの新技術は診断の精度を高め、患者一人ひとりに最適な治療を提供する個別化医療への道を切り開くことが期待されています。
データ駆動型医療の実現に向けた課題
技術的課題
倫理的・法的・社会的課題(ELSI)
人的課題
技術、倫理、人材育成という複合的な課題に対し、社会全体で取り組む必要があります。
医療従事者に求められるリテラシー
求められるスキル
求められるマインドセット
医療従事者は単なるデータ利用者ではなく、質の高いデータの「生成者」であり
倫理的配慮のもと技術を社会実装する「担い手」となることが期待されます。
医療データ活用の国内外の事例
国内外で蓄積された医療ビッグデータは、今や次世代の創薬や予防医学、
そして持続可能な社会保障制度を支える不可欠な資源となっています。
英国(Biobank)
100万人規模の多様な
参加者によるプレシジョンメディシンの
実現を目指す。
米国(All of US)
50万人のゲノム・健康データを研究者に公開し、がんや心疾患の研究を加速
NDBやMID-NETを活用した分析や東北メディカル・メガバンクによるげのむコホート研究が成果
日本(NDB、東北メディカルメガバンク)
まとめ