経口中絶薬に関する要望書
2023年2月13日
厚生労働省 加藤勝信 殿
当会は、1997年に経口避妊薬(低用量ピル)の認可を目指して設立され、以後20余年、女性の「性の健康と権利」を推進するために活動してまいりました。
WHO(世界保健機関)が「安全な中絶法」として推奨している経口中絶薬についても、本邦では使用できない状況を憂慮し、国内承認を心待ちにしておりました。
2021年12月22日、製薬会社ラインファーマにより「初期人工妊娠中絶における経口中絶薬(ミフェプリストン+ミソプロストール)」が、承認申請されました。速やかに認可され、より安全な国際標準の中絶法の選択肢が増えることを、大変期待しております。
しかしながら、その運用について、いくつかの懸念と要望がございます。
——―———― 記 —―————
1)中絶費用の適正化
:自己負担額の無償化もしくは海外並みの低価格化を求めます。
経口中絶薬による中絶費用について、一部報道では「従来の人工妊娠中絶手術の費用(妊娠初期:約10万円、妊娠中期:約30万円程度)に準じた価格設定となる可能性がある」とされており、大きな懸念を抱いております。
従来の外科的処置による中絶に対し、内科的処置である経口中絶薬による中絶費用は、安価なものであるべきです。経口中絶薬を必要とするすべての女性にとってアクセスしやすい薬剤とするため、薬剤の価格はもちろん、中絶完遂までのすべての費用を含めた自己負担額が、海外に比較して高額なものとならないよう、厚生労働省による指導・監視を求めます、
参考:
・WHOの「必須医薬品リスト」における平均価格:ミフェプリストン(1回分)平均8.52ドル(約937円)ミソプロストール(200㎍1錠×4)平均1.38ドル(約151円)https://www.who.int/selection_medicines/committees/expert/22/applications/s22.1_mifepristone-misoprostol.pdf?ua=1
・ミソプロストール単剤の、国内での薬価:29.2円/錠(消化性潰瘍等の治療薬「サイトテック®」として)。
また、平成24年発行の厚生労働白書によれば、社会保障は「国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民にすこやかで安心できる生活を保障することを目的として、公的責任で生活を支える給付を行うもの」(社会保障制度審議会<社会保障将来像委員会第1次報告>(1993(平成5)年))とされています。女性にとって日常的に起こり得る、妊娠・出産、流産、中絶は、本来は社会保障の対象であるべきです。新たな社会保障制度の策定及び運用により、経口中絶薬や避妊を含めた妊娠関連費用全般を無償化することを求めます。
2)服用管理:経口中絶薬の自己管理を求めます。
WHOの「安全な中絶」では、経口中絶薬は女性が自己管理できる薬剤であり、医師の面前での服用や、観察目的の医療機関滞在は不要とされています。
経口中絶薬の治験は「正常な妊娠と確認した上で、医師の前でミフェプリストンを服用し、一度帰宅し2日後に再び医療機関を訪れミソプロストールを服用し、子宮内容物が排出されるまで医療機関で滞在」というプロトコルで行われましたが、承認後は、服用する女性が自己管理できる運用が重要であると考えます。服用後に起こる出血や、起こり得る合併症、緊急時の連絡先などの情報提供を徹底し、安心安全に使用できるような、国際標準に基づくガイドラインの策定を求めます。
3)関連する医療行為の保険適応
:中絶が完遂しなかった場合の医学的処置や疼痛管理等に係る費用の保険適応を求めます。
現状では、流産処置のための子宮内容物遺残等、緊急時対応を含む医学的処置は保険診療とされています。しかし、中絶による子宮内容物遺残については、流産と同様の処置であるにも関わらず、保険適応外とされています。
経口中絶薬服用後に必要となる医学的処置及び、疼痛管理のための服薬等は「治療」行為であり、流産処置と同様に保険適応とすることを求めます。
4)処方医の要件:入院設備を有さない医療施設でも処方可能とすることを求めます。
前述のとおり、経口中絶薬の治験では「子宮内容物が排出されるまで医療機関に滞在した」とされていますが、認可後の運用に関しては、必要とする女性がよりアクセスしやすい薬剤とするため、入院設備を有さない医療施設でも、経口中絶薬を処方可能とすることを求めます。
5)法整備
:配偶者同意の撤廃、指定医制度の変更など、母体保護法の抜本的な見直しを求めます。
現行の母体保護法は、従来の中絶方法が外科的処置であることを前提に策定されたものです。経口中絶薬の認可により内科的処置による中絶が可能になることに伴い、母体保護法の抜本的な見直しを求めます。
母体保護法では、人工妊娠中絶は指定医師のみが行うとされており、その医療施設の設備基準は「原則として入院設備を有し、救急体制を整えること。ただし、中期中絶を行う場合は、必ず入院設備及び分娩を行いうる体制を有すること。」とされています。経口中絶薬については入院は必ずしも必要ではなく、指定医師以外の医師の処方を可能とするか、設備基準の変更が必要と考えます。
また、母体保護法第14条により、人工妊娠中絶には原則として配偶者の同意を得ることが要件とされています。しかし、経口中絶薬による中絶は、その作用機序から考えると、子宮内容物を排出して自然流産に近い現象を起こすものであり、月経コントロールの一環とも考え得るものです。したがって、経口中絶薬は女性自身の意思にのみ基づいて服用されるものであり、DV被害や性被害などの条件によらず、全ての配偶者同意が不要と考えます。