学区のため池に生息していた絶滅危惧ⅠB類のカワバタモロコの子孫たちの保護・繁殖活動を中心に行ってきましたが、現在はそこから活動を広げ、私たちの地域の、豊かな自然を未来へつないでいくための活動も始めています。平成3年から始まったカワバタモロコの保護活動は、市内最後の生息池から休耕田をお借りして作った池へ150匹を移した時から受け継がれています。池は「モロコの池」と名付けられ、自然科学部で保全し続けてきました。近年、休耕田の水路が整備されず老朽化してきました。集中豪雨などにより水路の氾濫が起きるため、池の保全がかなり大変になってきています。そこで、自然災害、人間活動などによる影響などあらゆる事態を考え、屋内の水槽や屋外のバスタブでも保護しています。昨年度、初めて屋内水槽での産卵・ふ化に成功しました。今年度は、5月から8月まで毎日産卵とふ化を確認し、現在は昨年度を上回る数の仔魚が元気に育っています。そこで、昨年生まれた稚魚の一部を保全している池へ放流しました。捕食者の存在する自然に帰すことは、稚魚を危険にさらすことにはなりますが、それが本来の姿であると考え、無事を祈りつつ帰ってもらいました。一部は、研究も兼ねて水槽で保護しています。今年の仔魚が昨年よりたくさん成長すれば、来年はさらに多くの稚魚を池に帰していけます。
また、昨年度、カワバタモロコと共に池に生息している他の魚は、なぜここにいるのかと疑問をもったことをきっかけに調査を行い、カワバタモロコ以外の希少生物が生息していることがわかってきました。県内で希少淡水魚の保護・繁殖に力を入れている水族館を訪問し、池の魚の写真を確認していただいたところ、希少生物やその可能性がある魚だと教えていただきました。そして、「魚たちは季節を感じて生きている」ということや、「魚は自分では水槽や人工池にやって来ない、人間が連れてきたのだから責任をもって最後まで大切にしなければならない」ということをあらためて教わり部で再確認しました。もし、現在市内で自然に生息していない希少生物であるなら絶やすわけにはいかない。そうでなくても、ずっとこの池で命をつないできた魚たちはカワバタモロコ同様に守らなければならないと考えました。そこで、池での混生を確認した魚たちを数匹ずつ屋内水槽で飼育し始めました。新たに3種類、ミナミメダカ、ホトケドジョウ、そして、希少生物の可能性があるモツゴです。この春、これらすべてが産卵・ふ化しました。現在大切に飼育し、今後も保護・繁殖活動を行っていくことを計画しています。
魚たちの保護と池の保全活動のなかで、池にシカやイノシシが来ていることがわかりました。地域へ目を向けると、自然環境はどんどん変化しており、私たちは、保護する魚たちのためにもっとこの地域の自然環境に目を向けていかなければならないと強く思いました。そこで、地域を流れる二つの川の調査を行い、私たちの目線で環境について調べ始めました。現在、学区内では大規模な商業施設の建設が進められています。多くの人が訪れ、私たちの地域に活気が出ることはよいことだと思いますが、30年前の開発でため池がなくなったように、田んぼが減り、自然環境に変化が起きるのではないか心配しています。特に川の一つは、建設中の商業施設の横を流れています。そこは、生息する生物が多くとても豊かな川です。現在は、必ず環境に配慮した開発が進められますが、私たちもCODパックテストによる水質調査、どんな指標生物がいるのか、特定外来生物はどうか、前回と川の状態は変わっていないかなどを観察し記録し始めました。このような調査の結果を継続して残し、地域社会への働きかけをしていく方法を考えています。実際に7月に行った調査で、特定外来生物のオオフサモが繁殖していることがわかりました。水質を悪くするという報告がある外来種です。もう一方の川では重点対策外来種のオオカナダモが見つかりました。金魚などの水草としてホームセンターなどで手に入る植物です。どちらの植物も、人間により何らかの形で持ち込まれたと考えられます。また、条件付き特定外来生物のアメリカザリガニは両方の川に生息しています。近隣の市の河川ではミナミメダカが見つからず、特定外来生物のカダヤシが多いと聞いています。私たちもミナミメダカは発見できていませんが、今のところカダヤシも発見されていません。二つの川に群れでたくさん泳いでいるのはカワムツでした。この地方では山間部のきれいな川でよく見かける魚です。水質汚染に弱い魚ということなので、今は両方きれいな川と言えます。この河川調査の結果をまとめたものを地域の環境に興味をもってもらうために校内に掲示しています。
また、地域の河川の紹介として、校内の水槽で「学区の川に生息する魚」を展示し、生徒や職員、来校者の方にも地域の自然環境に関心をもってもらえるようにしています。実際に、地域の年配の方が来校され、「昔はよく釣った。」と話されているのを耳にしました。地域の人みんなに環境保護に対する関心をもってもらいたいと、中学校から地域へもっと広げる方法はないかと考えています。保護している魚たちの繁殖が軌道に乗りつつある今こそ、私たち自身も魚たちのために地域へ目を向けていく予定です。
学区内には「北山湿地」という湿地群があります。市民でも知らない人が多い場所ですが、自然が残されたとても良い場所で、貴重な自然の観察を楽しむために訪れる人がいます。市の環境施策課の方やボランティアの方の指導を受けながら月一回の保全活動のお手伝いを行っています。中学生なので力仕事や草を刈る仕事を任されることがよくあります。刈り取った草はそこに放置せず、湿地から離れた山の中に捨てに行きます。理由は、湿地は本来栄養の少ない土地なので、刈り取った草をそのままにしておくと、それらが栄養となってしまい、湿地本来のものではない植物が生えてしまうからです。保全するためには栄養がある方がいいと単純に考えてはいけないことを知りました。こうして地域の自然を守るため、多くの部員が参加しながら学んでいます。
このようなさまざまな活動を地域に知らせ、豊かな自然環境を地域全体で守っていきたいと思い、現在、広報活動の方法を模索中です。まずは河川の環境調査や、保護しているカワバタモロコについて学区へ発信をしなければなりません。この夏、広報活動の新たな道ができました。学区内には小学校が4校あり、そのうちの2校では、カワバタモロコが飼育されています。今年度、その中の1校の3年生が、授業でカワバタモロコについて学習をし始め、私たちの活動について話を聞きたいという連絡がありました。子供たちが調べていたところ、東海中学校がカワバタモロコについて活動していることを初めて知って驚いている。インターネットで調べると、説明の言葉や漢字が難しいので、小学生にわかるように話してほしいということでした。それを聞いて広報活動が足りていないと感じました。この機会を次の時代へ伝え、地域に広めるきっかけにしていきたいと考えています。私たちの地域で、カワバタモロコが希少生物であることを知らない人や、この魚を知らない人もたくさんいます。何もしなければ、東海中学校の自然科学部しか知らなくなる可能性があります。今後、地域の野生生物に対する関心が薄くなれば、希少生物や、その他の野生生物たちが気づかないうちにこの地域での絶滅を迎えるかもしれません。池にやってくるシカやイノシシもここに住んでいる野生生物です。人間が開発を進めた結果、生活圏が重なってしまい、害獣とされてしまうのは納得がいきません。そうならないように中学生から地域の大人、これから襷を受け継ぐ小学生へ地域の野生生物の現状を伝え、共存できるように広報活動をしていきます。