1951年のヴェネチア国際映画祭で、黒澤明監督の『羅生門』がグランプリを受賞しました。この受賞により日本映画に対する評価が国際的に高まり、『羅生門』が52年にパリで公開されると、監督の黒澤明をはじめ出演した三船敏郎や京マチ子もフランスでその名が知られるようになりました。そして京マチ子が主演した『雨月物語』が53年のヴェネチア映画祭で銀獅子賞を受賞、またカンヌ映画祭では54年に『地獄門』がグランプリを獲得、60年には『鍵』が審査委員賞を受賞しました。そこで京マチ子は日本では、「グランプリ女優」と称されることになりました。フランスでは52年から60年にかけて彼女の出演作品8本が劇場で公開されました。
それでは京マチ子はフランスで、どう見られたのでしょうか。発表では彼女の出演作品に対するフランスの新聞・雑誌の言説を検証し、作品の評価や彼女の演技、演じた女性像がどのように受け止められたかをジェンダーの視点を交えて考察します。またフランスでの受容と日本側の意向や観客の反応を比較検討し、そこに生じた誤解や齟齬、またそれらを生み出した社会的・文化的背景についても考えてみたいと思います。発表では『雨月物語』、『地獄門』、『楊貴妃』、『鍵』のフィルムの一部を、参考資料として上映する予定です。