COVID経済危機の軽減:
すぐに動け、必要なことは何でもやれ[1]
(ダイジェスト版)
2020/03/18版
原文:https://voxeu.org/content/mitigating-covid-economic-crisis-act-fast-and-do-whatever-it-takes
リチャード・ボールドウィン&ビアトリス・ウェーダー・ディマウロ編
山形浩生hiyori13@alum.mit.edu による端折り&翻訳
発表時期もあり、話はヨーロッパ政府が何すべきかがほとんど。で、主張はみな同じ。
これ以上のことを言っている論説はアジア諸国の対応解説と最後の二本以外はない。
目次
1. いまのところ、まずまず:そしてこんどはモラルハザードを恐れるな 4
3. 的を絞った大規模施策でコロナウイルスの経済的影響を抑える 7
4. イタリア、ECB、そしてユーロ危機再演回避の必要性 9
5. EUはコロナ危機の中心にいる加盟国を絶対支援しろよ 10
9. 中国をコロナと経済メルトダウンから救う:経験と教訓 15
13. COVID-19: ヨーロッパに危機救済プランを 23
20 コロナは世界金融危機と同じかもっとひどくなるかも 32
リチャード・ボールドウィン&ビアトリス・ウェーダー・ディマウロ
光学蛙殿の全訳は以下にあるので、いい加減な要約を信用しない賢者たちは以下を参照:
もうコロナは中国やイタリアだけの問題ではなくなってきた。感染者の推移は以下の通り。G7では日本だけ例外チックな動き。
あと、なんか押さえ込めたように見えるところも安心しちゃだめみたいよ。いろんなシミュレーションやると、第二波がくる可能性は結構大。中国とか、それをきちんと心配して手を打ってるよ。シンガポールも警戒してる。
で、重要なのは、山をならして平準化して、医療キャパを超えないようにすること。キャパ超えると、いまのイタリアみたいな見殺しトリアージの地獄になるよ。でも、病気をおさえこむとその分だけ経済を止めることになって、不景気の山は大きくなっちゃう(グリンカス論考参照)
で、コロナの経済ショックは以下の通り。
それに対処するには、とにかくあらゆる手を尽くさないといけない。基本は
それぞれについて本書に論考あるから見てね(訳者:……どの話も同じことしか言わないけどね)。最も大胆なのは、6章のヘリマネの提案(訳者:でも思いつきレベルだよなー)
すでに財政出動は各国いろいろやってる。いちばんすごいのは香港でGDPの4%超もやった(訳者:それにひきかえ、いちばんやってないのは日本。桁がちがう、それも二桁ちがうって情けなや。)
で、ヨーロッパどうする?やることとしては
ではEUはどうやって負担するの?
まだまだ話は終わりじゃないし、今後も展開は続くよ。続報待て!
Charles Wyplosz
これまでの各国の対応は、最初は尻込みだったけれど、突然大胆になって、だいたい専門家の提言に沿ったものになったので、まずます。でもその導入方法が重要。特に、多くがモラルハザードを抱える手法だから批判うけやすいけど、恐れるな。
とにかく様々な支援は必要になる。それはボトルネックに集中させるべき。たとえば医療保険のない貧乏アメリカ人とか。モラルハザードとか言ってないで支援すべき。現在直面しているのは、経済危機であって金融危機ではないけれど、金融危機にならないよう中央銀行が支援しろ。
二重底の危機は避けたい。特にヨーロッパ。たとえば2008年金融危機の後でユーロ危機がきたみたいなのはいや。国際協調はいいけど、国内ボトルネックには効かないから注意。でも国内対応に必要な資金のための国際的な融資やユーロ債をモラルハザードのために拒否するのは愚か。ECBは無条件で各国に資金提供すべき。
おしまい。
ピエール=オリヴィエ・グリンカス
今回、医療崩壊起こさないように感染曲線のピークを平準化しろって話は聞いてるよね。
で、平準化できた場合のマクロ経済的な含意は? 実は感染曲線が平準化したら、それだけマクロ経済的な不景気曲線は急なものになってしまう。平準化させるための在宅勤務とかできない人も多いし、経済全体に急ブレーキがかかるから。金融危機ですら、失業率のピークは10%。いまの経済完全ストップは、ヘタするとそれよりひどく、50%くらいの人が働けずに実質失業になりかねない。これですら楽観シナリオ。
だから不景気の曲線も平準化が必要。次のようなイメージね。
さっき言った通り、この両者は背反するのよねー。
で、心配すべきかってことだけれど、そうでもない。
中央銀行が流動性提供できるし、家計や企業の苦境は救える。すると景気曲線は青に近づく。やるべきことは:
1. 労働者が失業せず、給料もらえるようにしてね。そのために企業に補助金を!
2. おなじことだが企業が破産しないように、返済猶予とか考えろよ
3. 不良債権が増えるから、それで金融危機にならないようにしろよ。
いろいろ制約あるけれど、なんとかなるんじゃないか、とは思う。そもそも、各種施策のためのお金を借り入れる金利は死ぬほど安い。ドカドカ借り入れして支援するなら、今でしょー! 財政赤字なんかどうでもいいよね。
あとヨーロッパ人は、「これだからイタリアは」とかいうのやめれ。そのうち他にも広がるよ。ユーロ債出して金を調達しろ。そのためのヨーロッパ安定化メカニズム(ESM)だろ。「コロナ債」とか出して欧州の団結を強調しようよ。GDPの1-2割くらい出そうぜ。
おしまい。
ギータ・コピナス (IMF)
すでにコロナの影響のでかい国では経済被害が目に見えるものになってる。サービス部門のほうが影響でかそう。
コンテナ船のキャンセルも相次いでるし、航空会社は大打撃を受けてる。的をしぼった支援が必要。
IMFも、できる限りの支援ができるようがんばりますわよ。
おしまい。
(訳者:Yer, right…)
オリヴィエ・ブランシャール
イタリア政府はすっごいがんばってるからいじめないで。すでに大量の財政出動してるけど、別に債務の持続性は脅かされません。そこらへん、ECBがイタリア財政を支援してあげてね。無条件で。
直接の資金補助(OMT)とかもあるし、これも使って欲しいけど、時間かかるからね。ECBだけだよ、ここで踏ん張れるのは。ECBは一国の負債は33%しか持てないという規制があるけど、そんなの踏みにじろう。そうしないとまたユーロ危機の再演だよ。
おしまい。
アルベルト・アレシナ&フランセスコ・ジアヴァッツィ
イタリア、がんばってるしツキの問題もあるけど、やっべーっす。まずは病院のキャパ増やしましょう。それから経済危機なんとかしよう。
コロナで失業する人はいない、とイタリア財務大臣が言ったけど、もし失職したら転職まで失業手当一杯出そうぜ。世帯にも何らかの保証して消費を維持させよう。でもイタリアは財政きついから、ECBが支援しよう。TLTROプログラム復活とかはいい方向だね。
イタリアは財政的にきついけど、EUはそれでとやかくいわずに支援しようぜ。
おしまい。
ジョルディ・ガリ
まずは減税とか補助金とかで直接支援だよね。でもそれで政府の財政がきつくなるから、EUの出番かな。ECBは金融支援しないとダメだよ。最後の手段だ、といって尻込みする人がいるけど、今はまさに最後だろうに。
おしまい。
Stefano Ramelli and Alexander Wagner
コロナに関する話はやたらに増えてきた。
でもって、株式市場もそれなりの反応を示して、1月から2月にかけて暴落してます。
こう見ると、産業別に勝ち組と負け組が出てきてるよね。エネルギーとか輸送は下がり、ヘルスケアとかテレコムとかはむしろ上がってます。
あと中国との関係によっても株式市場の反応ははっきりしてる。
てなことで、株式市場の反応は早いね。しかも、そんなパニックはなくて、一応冷静にセオリー通りの反応になってる。あと、今後の不安拡大には懸念があるみたいね。
おしまい。
Shang-Jin Wei
中国のコロナウイルス拡大の鍵が二月第二週か第3週だと予言したけど、その通りだったでしょ、うっしっし。で、教訓十カ条。
おしまい。
Yi Huang, Chen Lin, Pengfei Wang and Zhiwei Xu1
中国は経済を救うためにいろいろやりました。新規の件数推移はこんな具合:
中国国内の分布を見ると、まあ武漢がでかいよな。
で、すぐに武漢とかの各地の都市封鎖までやったよ。それ以外にもいろいろやってる。
また発生後にもいろいろやった。
特に中小企業は売上半減とかざらだったので、要望に添っていろんな施策をやった。要望もたくさん聞いた。中小企業からすればこれはForce Majeure なので国がいっぱい支援した。
また産業部門ごとにもいろんな差がある。宿泊業とか最も影響が大きい。
中小企業向けには景気回復までの時間稼ぎが重要。中国では三月くらいに影響が衰えてくるので、4月には平常営業に戻るはず。それまで食いつないでもらう施策をする。
国際的には反グローバリズムがこれで加速したりするとやべーので、すばやく、透明性のある活動をして、マクロ経済的にはとにかく手段を選ばない。
おしまい。
ジョナサン・アンダーソン
中国での経済活動は明らかに衰えてる。活動指数と公式GDPの推移を見て。
問題は、すでに国内がかなり債務付けになっていること。また経常黒字もかなり下がってきている。将来的な景気回復も、かなりヨタつくだろう。各種政府の施策はあるけれど、効果は怪しいことがデータからうかがえる。それにまだ不確定要因がいろいろあるよ。
おしまい。
ダニー・クワ
シンガポールの対応成功は、経済政策、しっかりした政治リーダーシップ、専門的な証拠に基づく知識の組み合わせによる。
1月2日 保健省が警告を出し始めて、翌日から空港で体温スクリーニング
1月23日 最初の症例、その後2月頭までにすべての症例は武漢と関連あり
1月末 濃厚接触者は隔離、低リスクの人は自主休職など自主隔離
2月4日 初の域内感染
2月7日 疫病発生対応状況が、黄色から赤に格上げ。隔離その他の新しい対応
経済面では、ものの数週間で2020経済成長見通しが1%引き下げ。
2月半ば コロナ関連休職による企業や自営業の収入補償
2月半ば 予算案に緊急で史上空前の40億シンガポールドルの対策予算が組み込み
1月以来 保健省はウェブサイトでずっと明確なメッセージを公表
全症例の詳細な追跡実施
2月7日 首相がテレビでアナウンス、その後も一貫した情報提供
おしまい。
Inkyo Cheong
韓国の推移
政府は大規模検査と追跡アプローチで対応。検査キットの生産体制も急速に整えた。おかげで検査件数は他国に比べてきわめて多い。
経済的な影響は大きく、商業その他がほぼ停止。政府は低所得世帯の生活費負担、中小企業むけに「緊急マネジメント」基金を設立。ただし申請から補助取得まで2ヶ月もかかるので、あまり成功していない。予算は手当したが施行は4%。
工業の崩壊を避けるために手を尽くす必要がある。金銭支援とともに新産業への投資促進を行う規制緩和が必要。また輸出企業には外貨流動性支援も必要。また外為の支援も必要。医療対応と同じくらい活発な経済支援しないと。
おしまい。
Agnès Bénassy-Quéré, Ramon Marimon, Jean Pisani-Ferry, Lucrezia Reichlin, Dirk Schoenmaker and Beatrice Weder di Mauro
コロナに対してヨーロッパはまともな対応できてないし、ヨーロッパ全体の傘も、不十分とかいう以前にそもそも存在していない。今回の危機はいくつかフェーズがある。
フェーズ1:中国ショック(1-3月)。中国がヤバいことになってGDPの4%くらいがきつい。
フェーズ2:特定産業の乱れ(2月-)。観光、航空業、ホテルなんか。せいぜいGDPの5%
フェーズ3:全面的な騒乱(イタリアでは3月頭から、その他欧州は1-3週間後) 学校閉鎖とか鎖国とかのでかい対応で経済社会全体が大混乱
フェーズ4:回復(5-6月から) V字回復だろうけれど対応にもよる。
適切な政策対応はこのフェーズにもよる。第1フェーズなら一部に補助金出せばいい。第2フェーズは、納税期限を遅らせたり部分的な失業対策とか。第3フェーズはもっと全面対応で中小企業の資金援助や失業対策や家計の直接補助やあれやこれや。
第4フェーズは、ショックが定常化しないようリバウンドを大きく助けないと。
で、第2フェーズまでは流動性供給が重要、第3フェーズからはそれに加えて倒産防止をがんばらないと。
こんな状況だと、EU経済金融問題評議会は、コロナ問題対応の公共支出を2020年公的支出から除外すべき。また各国がGDPの数パーセントもの金額を借り入れられるよう危機救済プランを実施すべき。各種の緊急対応についてEUが負担するような総合的緊急パッケージを用意すべき。その資金は既存EU基金、EU予算の再配分、EU予算外の加盟国の協力。
またバックアップ計画として一部の国で金利が上がりかねないので、ECBのOMTを活用しよう。
おしまい。
Luis Garicano
ヨーロッパはいろいろヤバくなってきて、各種債務デフォルトの可能性が高まり、ヨーロッパ企業のクレジット・デフォルト・スワップの価格をみるとデフォルト確率38%だって(3/12)
だから、5千億ユーロのパッケージ(ドイツ財務相の表現だとバズーカ)を提案。ウイルス対応、ヨーロッパ経済安定、雇用維持を狙ったもの。
(訳者注:中身同じなのでもういいでしょ。医療支援、生活と失業対策、倒産対策のための財政出動です。数字の中身についてもあまり細かい詰めはなし。)
その財源としては
おしまい。
フィリップ・R・レーン(ECB)
状況はかなり厳しいけど、一時的なものと見ている。だからECBとしての対応は三つ。
今回の一件は短期だと思ってるから、それで慌てて金利下げるようなことはしません。
おしまい。
Christian Odendahl and John Springford
(訳注:絵に描いたように同じことしか言ってないので割愛)
Ugo Panizza
イタリアはいろいろ突出してます。
でも症例が増えるにつれて財政パッケージもいっぱい投入してるのよ。
学校の閉鎖とかも集会禁止とかもかなり急いでいれたんだけどね。
イタリアはもともと経済的にヤバくて、そこへコロナがきてかなり苦労してる。財政的にもきついし、観光業がでかいので打撃も大きい。また経済の中で中小企業比率や自営業者比率が高いのもきついんだ。銀行システムとかもヤバい。
だからEUがもっと助けたほうがいいと思う。ECとECBもっと助けろ!金融危機が起こらないようにしてくれ!
おしまい。
Peter Bofinger, Sebastian Dullien, Gabriel Felbermayr, Clemens Fuest, Michael Hüther, Jens Südekum and Beatrice Weder di Mauro
今回の危機は中国発ながら世界的な需給ショックに発展した。その相互関連はこんな感じ。
(訳注:日本のお役所が好きそうなポンチ絵だけど、大した中身はないので細かく見る必要なし。需給がいろいろつながってます、というだけ)
状況がもとに戻れば金融危機よりはすぐに回復しそう。だけど未知数と課題は大きい。
医療の機能維持が最優先。ウイルスを抑えるのが重要。そのためには、退職した医療関係者を呼び戻せ。医療関係者の子供の面倒をみてあげろ。医療関係の生産を見直せ。公共部門の人々を医療に投入しろ。
経済政策は、企業への流動性供給を優先。景気刺激は、ウイルス拡大を促進しないように。危機が終わったら、景気刺激パッケージをやろう。
ECBは最後の貸し手役をがんばれ。銀行の流動性を確保しろ。株式の直接購入で株式市場の底上げしてもいいぞ。ヘリマネはむずかしいよね。
ドイツは財政赤字少ないから、いまこそ緊急事態ってことで財政均衡にこだわるな。ドイツ政府は無制限の流動性供給にコミットしてる。
さらに倒産防止も必要。法人税減税とか、損失先送りとか。消費税下げてもあまり意味はなさそう。
企業救済やってもいいけど、中小企業多いから事務費用がかさむよ。でも大企業相手ならやる必要もあるかも。
おしまい。
ソーステン・ベック
積極的にファイナンスもがんばって、金融規制が循環促進にならないようにしよう。今年後半になると銀行が資本不足に陥りそうなので、そこであんまり厳しいこと言わないようにしたい。いまこそヨーロッパの結束をみせて、ECBがんばれ。
おしまい。
Nora Lustig and Jorge Mariscal
今回の危機は2008年世界金融危機と似たところがある。世界的広まり、各国とも最初は甘くみてたけどすぐに巻き込まれたところとか。だから金融危機の後と同じようなすごい対策が必要になりかねない。
おしまい。
Jason Furman
目先の対応を惜しまず医療対応をがんばろう。
おしまい。
ピネロピー・ゴールドバーグ
医療対応がんばろう。その後で経済政策しよう。
でもコロナのおかげでテレワークとかeコマースとかが普及してよい結果もあるかも。あと、プライバシー面では悪化するけど、株価が暴落すると金持ちの資産が減って格差は減るかも。ただしリモートワークできる人とできない人の格差は広がるかも。
おしまい。
アダム・ポーゼン
コロナを口実に経済ナショナリズムが台頭している。国内でも各種買い占めがひどいし、国際レベルでも排外主義的な話が平然と出ている。そんなのを許してはいけない。そのためにいくつか国際協調の余地がある。
おしまい。
ポール・クルーグマン
コロナみたいなものがいずれくるのはわかっていたはず。その目先の対応策はさておき、長期的にこうした事態の再演をさけるための施策を考えよう。それは以下の通り。
これは基本的に、長期停滞の話。長期停滞を避けるために、低金利のいまこそ大規模投資をしろ、というのがサマーズらの話だった。それをやっておけば、コロナに対処するだけの余裕がアメリカにはあったはず。景気も回復し、金利もあがって対応余地ができる。
これまで長期停滞と低金利には非伝統的な金融緩和で対応してきたけれど、イマイチ効果がない。だから大規模な永続的財政投資をしよう。
なぜ返済しなくていいのか? だって日本はGDPの200%の債務を抱えてもデフォルトの気配がないし、金利も上がっていない。アメリカだって何も問題ないはず。流動性の罠にはまっているので、それはまったく問題にならないし、この財政支出で流動性の罠から抜け出せれば万々歳。この支出で長期停滞のヒステリシスを避けられて生産性が上がったら、それだけで元がとれる。
これは日本がお手本になる。昔の日本さん、バカにしてすみませんでした。流動性の罠はアメリカも欧州もまともに対応できてない。ここらでアメリカがドーンと抜けだして、コロナみたいな問題が今後繰り返し起きても大丈夫なようにしておくべきでは?
おしまい。
[1] 許可?権利?とってねえよ。チクれば?