田うゑのことば

あをきてこひのみし雨の、五月ふつかといふあしたより、雲もみな地に落てふりきぬ、風さへそひて、虎のうそふくなし、竜のみ空ゆくがごと、ひるはしらみに、夜もすがらに、おどろ/\しけなるも、あかつきにはなこりなくなぎぬ、いのゝ(なの)めの明ゆく田のもをみれば、きのふには似つゝもあらね、目のかぎりは水たゝへて、蛙いとかしましけれど、こは天のたまものなる里ち路也けり、をのこもをとめも家に有限りはこばれ出て、田うゝる手わざをかしげに、ひなふりうたひつれてなまめくなかに、うしおふ叔父がさせいほうせい南、いとむくつけき、ひげくろき田長の早苗とる/\語るは、ことしなんなりはひは心いきたる、おのれらがちからをも入れずで、あめの恵みのまに/\うゑたてし事よといへば、翁さびたる人のいふ、何がしの里人は、かばかりのみとしにもなへひとすぢだにあかりてぬ迚、をちこちにもとめありき給ふとや、いとかなしき事よ、四海みなはらからとさへ聞ものを、このうゑくさそと斗りにても、わかちおくらんとまめだちてきこゆ、三日四日五日にはなへてうゑをはりぬ、なほ御社に年こひしたてまつるなん、いとうれしきとしなりけらし、            打魚

        蛙なく沢田の道に水こしてうゑも残らす五月雨の空

すしてふものをよくし給ふよし、聞え給ひぬ、いとかたじけなきものゝ、けふはれいのむねをやきてくるしく侍るにえまからず南、ほゐなき事、夕さりまかりて御ゐやことたいまつらん、あなかしこ、

                                                                  四月菜糖

              桂子のぬしへおくるふみ

きそはまめなる御あるしし給ひしいとうれしくなん、れいの腹みつるまゝにたふへしぞいやなき、さるはいろの君もことなくもなく、帰り給ふらん、五月雨のはれまえ給ひしぞ、かしこくものし給ふよとほぎたいまつる、師もおのれよりよきに聞えよとなん、なほ御ゐや言は御まのあたりに南、あなかしこ、

                                                                  打  魚

ゆめにとひこし給ふと見し人の来まさぬに、

        うちわたす夢の浮橋これやこのふみかよふべきさがにそ有ける

きのふはうれしき御あるじぶりになん、いほりには月の夜すがらにかへりつきぬ、さて御ふみかへしたいまつるを、ひとつ二つ思ふ意をかいそへ侍るが、罪ゆるしてよ、猶つちさへさけぬべきあつさを、たいらかに過いたまへかし、刀自のきみ、太郎君にも、よきにつてこと聞え給へ、あなかしこ、

        栗やのぬし                                                    秋なり

やそうちかはのあじろもる人にはあらぬを、打魚とかいつけて、そをこゝのことばに、うつとなんよぶ事は、此人のこのめるあそびによりてなりける、されどあみなせそてふ、おほきひじりのおきて給ふを、ゆめわするゝことなかれ、あなかしこ、

                                                            無腸隠士

        よひ名給ふによめる

ありそ海におふるなのりそ名のらすは誰かかつきの海人とやは見ん  うつな

            かく聞ゆるについてよめる

こゝろさしふかくも染よ紫の名高のうらのいその名のりそ              秋なり

けふなん雨さはりにてえおはすましく、さるは身さいはひなきを見わづらひはへる、みふゆの君はいまたにや、此雨にかなたいてたち給はゝいかはかり過かたうし給ふらん、いとわしくこそ、いほりのなかめはのとけき日にもまさりけに、おもしろきを見せたてまつらむそほゐなき、東坡の雨を喜ふ亭をさらにかひ得たるこゝちするは、いとほこりかにあらんかし、

  なほ/\としの君へも、よきに聞え給へかし、炭も柴もあはたゝしくあらねと、わすれ草うゑ給ふな、

  あなかしこ、

        坐隠のぬし                                                        秋なり

秋もやゝすゝしきに、御見さはりもなうたひらやかに過い給ひぬなん、いとめてたき事、せのぬしにも、ことなくもなくますよと、ほきたいまつる、さるは、きそよりまかり給ひぬとは聞え侍れと、何くれとにきはゝしきに、えまうてすなん、御やとりのうちは、いほりにも歩ませ給へ、しかすかにせんさいもいと

(四オ)あれたきまゝに、みるものもなう侍れと、たひねはおなし宿ならんそ、あはれならんかし、あなかしこ、

  八月十まり三日の日                                                  打魚

            原田の刀自の君

  野外月

秋の夜の更行まゝに月さえて衣手寒し春日のゝはら

  くまなき月をなかめて                                                うつな

長月の月影きよくすめる夜はほしのはやしのくまさへそなき

  同し心を                                                            孝基

長月の月の光のあかきにはいな葉もかけをはらむなりけり

  しくれをよめる

山ちかき里にしをれは神無月けふも時雨のはれつくもりつ

  神無月の頃みのをにまうてゝ紅葉を

月てらすをのへにさけふ鹿の音のかへるもをしきみねの紅葉たきを

ぬきてちる玉かとそみるみねよりもおちくる滝の糸のみたれに

  宿山寺

やま寺にやとりしぬれは滝川のおとにそゆめをむすひかねつる

  甲午ノ年  歳旦  父の六十一をことふき奉りて

ことしよりなほいく千代といはふらしときはかきはゝ松にのみかは

  年ノうちに春たちける日よめる

としのうちに春はたてともあしひきの山ちは雪にうつもれにけり

  年のくれに宿のうめの花の咲けれは

あつさ弓はるはまかきにちかけれはうめのはなさへほころひにけり

  ふるとしのしはす十まり二日に雪のふりけれは

みよしのゝ山の杣人すりつみし真柴かうへにこふるはつゆき

  舅君のかくれ給ひて、ことし七めくりのけふにあたり給ひけれは、うからやからつとひてたむけ給ふに、おのれはたゝ何事もまうさてかくなん、

うめの花みるにつけてもおもふかなさくやとゝひし人はいつらは

  おのれかいとこなりける人、こたひ西とまつとなんいへる里に住所をもとめ給ひ、万代ふともくちせぬ田畑をさはにものし給へは、いやさかえにさかえ給はん事をほきたいまつりて、

かゝみ川水のなかれの清けれは万代迄のかけそ見えける

                ほきのことば                              秋なり

くれなゐにゝほふはうへなうめの花としのうちにもむつきゝぬらし

をのこゝにさへますは、まさきつらすゑなかく、ときはかきはのいくひさに、ほきたいまつる、あなかしこ、

          しはすよき日

                藤氏のぬし誰申給へ

                    いたみのことは                          秋なり

花のちりかて、月のかたふくにたくへて、おいをなけきつゝ、世のあはれてふことはりは、身ひとつにしめていふめるも、なほゝゝもたらぬ人のことはゝ、おのか心やりはかりにやと、ふかくもおもひたらすなむ、七くさのたからも、われはなにせんにとなけきしをこそ、いにしへ今のあはれをとゝめたるこゝろなるへけれ、何こともゆめのことに、はたゆめならぬかなしさをよみてたてまつる、あなかしこ、

        ふる衣なれこしとしははるけきをきのふにかはるあきのはつかせ

        秋かせはくさ木のうへとおもひしにかねては人をさそふあらしか

        あめつちの神にいのりしますら雄のこゝろくたけてけふをいかにせん

            としのきみにまうしおくる

        そのはらにおひにしものをはゝ木々のありやなしやはなにゝまかへる

            ふみ月九日

              かつらのぬしたれ申給へ

むかし、あかたすみするをとこありけり、なま/\なる事を人にかたるとて、なにはなる人のもとへ、しは/\行かよひけり、それかあたしことを聞て、わらへことにすとて、まめ人たれかれ、此家に集りきけり、此をとこさるをもしらて、れいの口あみおもたくも、そこにもちいたしけるほとに、日やゝたけにしかは、はるかなる野をこえてたとりきにける、この野はぬす人あなりなと、人のいひおとしけるほとに、やすからすなんおもひける、日くれ雨さへふりくれは、いたうゆきなつみてみち/\よめる、

        わたつみのそこひを人のしれはやにあしたゆき迄ゆきもかよはん

この野にたてるぬす人これかかへしゝける、

        難波なる身をつくしつゝかよふともあしかるわさはかひやなからん

これをきゝていたうわひしかりけるまゝに、野にたつおにはものともおもはてかへりきにける、                                                                    秋なり

              おしてなにはなる蒹葭堂のことば

天津み神のみことに、豊葦原千五百秋瑞穂之国とは、吾大八洲はおしなへて五のたなつもの、八束穂の足穂の瑞穂におひさかゆる、とつ国にまされるをたゝへませるにて、いつくをわきてのたまふにはあらされとも、はたくより浪速のあし、葦かちるなにはとその名おへるには、ことか中になにはの国なもいやさかえにさかえたりしや        ちこなる、〓原の宮にはつ国しらしましゝゆ、十まり七つぎのすめらみこと、おしてる浪速高津宮に天の下しらしましゝより、あめのます人ますに、子うまこは、葦の根のたえすひろらにひろこれる如、家ゐはあしの葉のしけらにしけれるなして、いやさかえにさかえ、かまとのけふりはいよゝ国ぬちにみてるをおもへは、かくうつしきあをひとくさ、しけかるへきさがになもないけらし、その[以下欠]

師かをり/\書すて給ひし文ともをとりでゝ見れは、天邪かるひな路に草枕せられしことをはしめ、よろこひかなしみにつきて、それか心やりをなんし給ひしくさ/\のまめことなりけるを、いとめつるものから、おのか手ならふたつきにもとかいつみて一巻となしぬれと、しかすかに師かゆるしなきみそかわさにしあれは、文字のたかひ、かんなのあやまれる、こゝらおほからん、たゝなかめの屋のながめくさなるは、問たゝすへきかたもなきをや、安永四のとしむつき、ふちのうつなしるす、