簡易放射線量測定器でできるだけ良い測定を行うコツ(第2版)

                                            (2011.07.10版)

(随時加筆修正を行います.最新版は http://bit.ly/jCpLvz でご確認ください. また,誤りを見つけられた方は文末の連絡先よりお知らせください.旧版はhttp://bit.ly/jp6KZ4にあります.)

 以下の文章は安価に入手できるポケットタイプの簡易放射線量測定器を少しでもうまく使うために,一般的な測定機器の扱い方を放射線量測定器(ガイガーカウンター等)にあてはめて記述したものです.放射線量測定器は普段皆さんの使測定器(体重計や体温計等)に比べ,実は少々扱いの難しい面があります.ここでは,この“ちょっと気難しい”測定器を少しでもうまく使うために気をつけたいことをまとめています.

 放射線量計測という,なじみの無いことを始めて行う場合には本来は講習会等で測定器使用方法の実地指導を受けるのが良いと思っていますが,まだ誰もが講習を受けられる環境が整っていないことや,さまざまな制約から講習を受けるのが難しい人がいると思われることからこの文書を作成しました(なお,筆者は放射線計測の専門家ではありません).


注意! 以下の文書は無保証です.この文書により生じたいかなる損害の責任も執筆者が負うことはできません.自己責任での利用をお願いします.


<1.測定を始める前に>

 (1.まず,測定の目的を決めましょう)

 この文章を読まれているのは,身の安全のために放射線量測定器をお持ちである(あるいはこれから買おうとされている)方だと思います.効果的な測定を行うには,目的をはっきりさせ,それにあわせた測り方をする必要があります.例えば,次のような目的があるのではないでしょうか.

a) その場所が安全かどうかを見極めるために場所毎の放射線量(線量当量率)を測りたい

b) 放射性物質が集まっている場所がないかどうか調べたい

c) 今現在,いつもよりたくさんの放射性物質が飛んできていないか確かめたい

d) 食品が安全かどうか確かめたい

 これらの目的に応じて適当な測定方法が違ったり,必要な測定器が違ったりしてきます.

 また,測定結果を自分自身だけで使うのか,他の人にデータを見せて比較するのか,といった違いも重要です.測定の項では,それらの目的に応じた注意点を記載しています.

 (2.測定器の説明書を読みましょう)

 測定器には説明書が付属していると思います.説明書にはその機器を正しく使うための重要な情報が記載されています.必ず説明書を読み,指示通りの方法で測りましょう.例えば,「値の読み取りは1分待ってから行う」,等と書いてあります.

 また,一口に放射線と言っても様々なものがあります(各放射線の性質や,どの物質からどのような放射線が出てくるかについてはこちらにまとめてある資料等を参考にしてください.防護のためにも是非知っておく必要のある知識です).市販の簡易測定器で測れるのはその一部です.何が測れて,何は測れないかということは説明書を読んで把握しておく必要があります.

 

 (3.測定の限界を知りましょう)

 簡易放射線量測定器は放射性物質に関して何でも測れる万能の測定器ではありません.例えば,その測定値の変化を見て,空気中に放射性物質のチリが存在するかどうかを確かめるのは困難です(これを調べるにはダストモニタと呼ばれる専用の装置が必要です).食品中の微量の放射性物質を検出することもできません.また,たとえα線を測れる機械であっても,どのような種類の放射性物質があるかを調べることもできません.簡易放射線量測定器は基本的に外部被曝量を把握するためにγ線の量を測定するための測定器であると考えるのが良いでしょう(なぜα線やβ線について述べず,γ線の測定用と述べているかは<その他>で説明します).

 さらに,誤差の問題もあります.どのような測定機器にも必ず誤差があります.市販の放射線量測定器は一般的には比較的誤差の大きな測定器です.例えばある測定器のカタログに,「測定誤差:±20%」,といった情報が記されていたとします.この例では,ある値を測る時に,80%~120%まで,つまり最大1.5倍も値が違ってくる可能性があるということです(それに加え,放射線を出す物質(核種)が異なると全く値が変わってきます).

その他にも,測定方法からくる誤差も含め,さまざまな要因による誤差が測定値には入ってきます.例えば,測定時の周囲の状況にも左右されますし,測定時の温度が異なれば誤差が生じる測定器もあります.これらの誤差が合わさると考えると,極力同じように測っても値が2倍~3倍ぐらい違っても不思議ではありません.値のちょっとした変化に一喜一憂するのではなく,どれぐらい変化があって当たり前か(測定の限界)を知り,それを超える変化があった時には注意をする,といった扱いが必要になります.また,他の人と測定値を比べる時には特に注意が必要です(限界の目安の求め方,比較の際の注意点は後ほど述べます).

<2.基本の考え方と共通の注意点>

 

 (1.測定条件をそろえる)

 どのような測定においても,データを比較するためには,比較したい部分(変化させる部分)以外の条件は極力そろえるというのが大前提になります.たとえば,場所毎の違いを調べたい場合は,比較をするすべての測定において地面からの距離や測定器の傾き(細かく言えば持ち方,体からの離し方も)等を同じにする必要があります.また,放射線量の時間毎の違いを知りたい場合にはそれらに加え,置く場所を一定に保つ必要がでてきます.

 測定時の高さをそろえたいとき,例えば機械本体におもりのついたタコ糸等(引っ張っても伸び縮みの無いもの)を結びつけ,その長さを測定したい高さとあわせるとよいかもしれません.タコ糸の先のおもりを地面に接触させて測るようにすればメジャーを持ち歩かなくても毎回の測定高さを正確にそろえることができます.もし持ち運びが可能であれば,長さ1mの棒を使うのが最適です.塩ビパイプや,園芸用の支柱の使い勝手がよいようです.長時間測定時の腕の疲れも多少軽減されます.

 また,他の人と値を比較したいときは条件をそろえることにより一層気を使う必要があります.たとえば,地面からの高さが違うデータ間では直接の比較はできません.

 測定条件をどのように設定したかは,測定値そのものと同じぐらい重要な情報です.必ず記録して,測定値と一緒に示すようにしてください.

 (2.測定値が安定するまで待ってから読み取る)

 放射線量測定器はある一定時間内に検出部に飛んでくる特定の放射線の数をカウントし,それを被曝の強さ(線量当量率,μSv/h等の単位で表示される)に換算して表示するものが一般的です.放射線が出てくる現象は確率的なもののため,正確な測定を行うためにはこの一定時間は測定器を同じ場所に置き続けて測る必要が出てきます.測定器の中には安定まで5分程度を要するものもあるようです.測定の際には測定値が安定するまで待ってから値を読み取るようにしましょう.

 (3.測定機器のコンディションを保つ)

 放射線は目に見えないため,放射線を出すチリが機械に付着していても気づきません.一旦チリが付着してしまうと,それ以後はそのチリが出す放射線を余分にカウントしてしまい,測定結果が高めになってしまいます.これを防ぐために,機器をビニール袋等に包んで使うようにしてください.放射線(γ線)はビニール袋を素通りするので,何重に包んでも値に影響することはありません.

 チリの付着の疑いがある時は適宜ビニール袋を新しい物に交換してください.また,ビニール袋で保護しても,地面に直接置くとチリがついてしまうので,測定器をビニール袋に包むのとは別に,食品用ラップや古新聞等を地面に敷いてから測定機を置き,毎回新しいものに交換するぐらいの配慮が必要です.

 もし,既に測定機本体にチリが付いてしまっている疑いがあれば,エアダスターという名前でホームセンター等で売られているゴミを吹き飛ばすスプレーをかけると改善するかもしれません(注意:マイカ窓は非常に弱く,エアを吹き付けることで破損する恐れがあるのでこの方法は使えないと思います).ただし,隙間からチリを機器内部に押し込んでしまってかえって悪くなる可能性もあります.エアを吹く時は斜め浅い角度から吹き付けましょう.

<3.最初に測りはじめる時に>

(1.測定値のばらつきを確認してみましょう(再現性の確認))

 まず,同じ場所,同じ測定条件で繰り返し何度か測定し,値を記録してみましょう(できれば10回ぐらい.多いほど良い).1度目の測定の後,通常の使い方で(普段,測定毎に電源を入れて1回だけ測っているのであれば一旦電源を切って入れなおす.数回の値を平均しているならその間電源を入れたままで測る←後者を推奨),極力同じ測定方法となるようにして数度の測定を行ってみます.これらで得られた値の平均を取り,毎回の測定値がどれぐらい平均値と違ってくるかを確認しましょう.これが,その測定器を用い,あなたが測定するときの測定値のばらつきのおおよその目安です.

少し専門的な話になりますが,厳密にばらつきを管理するには多数回の測定結果から「平均値の実験標準偏差」(Aタイプ不確かさ)を求める必要があります.こちらにあるツールに同一条件下での10回以上の測定結果を入力することで容易に「平均値の実験標準偏差」や95%信頼区間を求めることができます.この値を実験結果と一緒に記すことで他の人がデータの質を判断できるようになります(平均値の実験標準偏差の求め方について詳しく知りたい方は「初心者用不確かさセミナーテキスト」のAタイプ不確かさの項を参照してください).

 同じように測っても値にばらつきが出ることがわかれば,細かな値の変化を気にしすぎることがなくなります.また,自分の行った測定を評価するとき,このばらつきを大きく超える変化があった時は意味のある変化であると言えます(他人のデータと比較する場合は別の注意が要ります).

 測定結果を他の人に示す場合,個別の測定データに加え,このばらつきの評価を行った方法と結果を一緒に示すことで,あなたの測定したデータがより有効なものになります.

(2.目的にあわせ測定方法,手順を決めましょう.)

 目的にあわせ,どの場所をどのような手順・頻度・方法で測定するかという,測定戦略を決定します.決めるべきことの一つが1条件の測定時に何回の測定を行い,平均をとるかがあります.放射線の放出は確率的な現象であるため,どのような測定器であっても測定結果にばらつきが生じます.特に,検出部の感度が低いと値のばらつきの大きくなることは原理上も避けられません.一方,測定値のばらつきはn回の測定結果の平均を取ることで1/√nになることが知られています.

 つまり,ばらつきが大きい測定器の場合には測定回数を多くし,平均とることでばらつきを減らすことができます.信用できる値を得るためには最低5回程度の測定を行い,値を平均すると良いでしょう(厳密な測定をする場合は目標測定精度と測定の不確かさから測定回数を決める必要があります).また,平均を取る場合には測定値が互いに独立していることも大事です.60秒間の放射線計数値を平均して値を表示するタイプの測定器の例では,1回目の測定と2回目の測定の間には60秒以上の間を置くのが正しい方法です(途中で電源を切る必要はありません).(念のため補足しておくと,表示値が30秒間の平均で出るものは60秒の間隔を空けなくても30秒毎の測定値を平均すれば問題ありません.逆に,過去60秒間の平均を10秒毎に表示するモデルでは60秒の間隔をあけないと正しい平均になりません.)

<4.測るときに>

目的別に注意事項があります.

目的 a) その場所が安全かどうかを見極めるために場所毎の放射線量を測りたい

 このような目的のためには,既に多くのデータが取られ,比較が容易な1mでの測定をまず行うのが良いと思います(低い場所で測る場合でも最初に高さ1mで測定した後,低い場所で測定し,両方の結果をあわせて記すことをお願いしたいと思います).地点間の比較を行う場合,測定高さ等,測定場所以外の条件を極力そろえて測定してください.γ線は空気中では減衰しにくく,100~200m程度の距離を進むとされています.そのため,測定値はこの範囲内にある建物や設置物,起伏等の影響を受けることがあります(地域的な線量の差を知りたい場合はできればグラウンドのような開けていて平らな場所が良いでしょう).また,少し場所を移動して数度同じように測定してみてください.これで値があまり変わらない時は,その平均値をその場所での測定データとして良いでしょう.逆に,値が大きく変化するようだと,データの扱いには慎重さが必要です.狭い範囲で値の高いところ,低いところが生じているかもしれませんし,測定条件のそろえ方が悪いのかもしれません.

一般的なガイガーミュラー管(GM管)式の測定器を用い,1m以下の高さで測定する場合には測定値が不正確になる場合も多く特別の注意が必要です.放射性物質から出るβ線は空気中で1m程度の高さまで達しています(逆に1mの空気層で減衰するので防御が容易です).一方,GM管の中にはβ線に対する高い感受性を持っているものがあります.そのため,1m以下の高さ,特に地表近くではβ線の影響を強く受けて測定器が本来よりはるかに大きな値を示し,γ線量が正確に測れなくなってしまう場合があります.切り替えレバーカバーでβ線を遮断して測定を行える機種であれば説明書にしたがってγ線のみを測定する状態にする,そうでなければ後述するアルミケースによるβ線遮断実験を行い,影響を受けることが確認された場合にはアルミケースに入れて測定をする,といった手順をふまないと地表近くのγ線量を正確に測ることはできません.

このように地表近くのγ線量だけを正確に測る方法が良く分からない場合(β線遮蔽の方法が良く分からない場合)は1m高さでγ線量を測ることを一般にはお勧めします.小さなお子さんのおられる場合等,地表でのγ線量を評価したい場合には1m高さのγ線量を正確に測り,地表ではその数割増し(学校のグラウンドでは1cm高さでの線量は1m高さの3割り増しというデータがあります)であると考えて対策を行う方が不正確な測定を行うより合理的です.なお,局所的に汚染されている場所ではこの限りではありませんので,正確にγ線のみを測れる状態であれば地面近くを直接測ることは有効です.

 このようにして得られた場所ごとの放射線量データを比べる時には,同じ条件で測ったデータ(最低でも測定高さがそろっていること)の間で比較をしてください.条件が違うものを比較して意味のある結論を導くのは困難です.

 また,データの記録と公表を行うにあたっては,測定条件等についてできるだけ詳細な記録を取り,必ず併せて記すようにしてください.測定日時,場所(再び同じ場所で測定できるレベルの記録),地面の状態(アスファルトか土か草地か等),測定条件等.

目的 b) 放射性物質が集まっている場所がないか調べたい

 線量計の別の使い方として,放射性物質の多い場所を特定するために用いることが考えられます.雨どいの水の出口,側溝,水溜りのあった場所等に放射性物質がたまりやすいことが知られていますが,そのほかに線量の高い場所があるかもしれません.このように,ある狭い範囲の放射性物質の量の大小を知りたいときには,先ほどの目的a)とは全く逆の使い方をすることになります.まず,地面ごく近くで測ることになるので,放射性物質を機器に付着させないよう特に注意が必要です.さらに,β線は空気中で余り遠くに飛ばないことと,GM管式の測定器がβ線を検知することを利用して,場所の絞込みが効果的に行える(近づけたときの数値変化が大きく出てわかりやすくなる)可能性があります.当然,数値の大きくなる位置の近辺に放射性物質が多くあると考えます.しかし,この場合は測定数値の変化は信用できても,値の数字そのもの(値の絶対値)は信用できません(α線やβ線まで測定する測定器の場合大きな値を示しますが,その数字をμSv/hで表現される空間線量とするのは間違いです.数値の公表は控えた方が良いと個人的には思います.他の方が参考にできるものでもありません).大きな数字が出たからといって,驚かないでください.なお,この方法は汚染箇所の特定のための方法であり,対策後の最終的な線量確認はγ線量で評価する必要がある点に注意してください.

目的 c) 今現在,いつもよりたくさんの放射性物質が飛んできていないか確かめたい

 このようなデータを取りたいときは,全く同じ場所,同じ条件で測定することが一番重要です.測定値を継続的に記録し,最初に行ったばらつきのレベル以上の大きな変化があった時には注意が必要です(逆に,ばらつき以下の変化は気にする必要はありません).

このようにして得たデータのばらつきや変化を分かりやすくする良い方法が測定値をグラフに描くこと(可視化とも呼ばれる)です.グラフ化を行うことで,数字の並び見るのに比べて遥かに多くのことが直感的に理解できるようになります(方法は別の項で述べます).

 また,測定条件をそろえ,変化を見るという意味では,公的機関での測定の方が据付型で場所等の測定条件の変化がなく,感度の高い機器を使っていることから精度が高くなるのが一般的です.値そのものではなく,変化をみたいのであれば近くの観測点のデータを参照するのも有効です.

目的 d) 食品が安全かどうか確かめたい

 食品に含まれるごく微量な放射性物質を検出する目的に使える,安価に入手できるポケットタイプ放射線測定器は私の知る限りありません(あれば教えてください).また,周囲からの放射線を遮ることのできる環境での測定が必須になります(外から来た放射線と食品から出る放射線を区別するため).さらに,非常に高価な専用の測定器で測定したとしてもその場ですぐ値がわかるようなものではありません.このことからも分かるように,食品の安全を確認する目的で簡易型の放射線量計を買うのは無駄になるのではないかと思います.

<5.自分の測った値はどれぐらい信用できるのか-他の人と測定値を比べられるのか?>

 このように,条件をきちんとそろえ,できるだけ正確になるように測った自分の測定値はどれぐらい信用できるのでしょう?これだけ気を使って測定したのですから,自分だけでその測定値を活用するのであればかなり良いデータになっていると考えられます.ただし,信用して良いのは値そのもの(絶対値)でなく,「ある特定の場所を基準とした,その場所の放射線量の倍率」であるとか,「ある特定の日時に比較した,現在の放射線量の倍率」といった,同じ測定器を用い,同じ人が測ったデータ間の倍率での評価(相対値での評価)の部分だけです.「信用できるのは倍率での評価だけ」と言うとがっかりされるでしょうか.がっかりする必要はありません.単一の測定器で条件を整えて継続的・多数点で測定したデータの相対変化の情報はとても有用です.

注:測定器の表示下限付近の低線量域では(<8.その他>の項で述べる)自己ノイズの影響で倍率での評価も不正確になる場合があります.この場合,どちらが高い/低いといった,相対的な大小関係でのみ評価することになります.

 測定値そのもの(絶対値)はどれぐらい信用できるでしょうか.公的機関の発表する値と一致するでしょうか?

 放射線量測定では測定条件が異なると測定値は全く異なってしまいます.「測定時には条件をそろえてください」,「測定値を出すときは測定条件も書いてください」と繰り返し述べたのはこのような理由からです.測定条件が同じ測定結果の間でしか直接の比較はできません.測定条件が違うので,「自分の測定した値」と,「他で発表される値」が違っても当然です.

 では,測定条件をあわせれば違う機器で測った値でも比較は可能でしょうか?実はこれも簡単ではありません.どんな測定器にも1台1台特性の差(個体差)があります.特性の差がある測定器間での比較には特別の注意が要ります.いつでもちょっと軽めに表示される体重計と,重めに表示される体重計,それぞれで測った値を直接比べることができないのと同じです.さらに,放射線量測定は難しく,厳密な精度管理が難しいために体重計に比べはるかに大きな誤差を機器そのものが持っています.この機器間の差の問題を解決するのが,次に述べる校正という作業です.

<6.測定機器の校正>

(1.校正とは?なぜ行わないといけないの?)

 2つ以上の測定器の結果を直接比較するためには校正と呼ばれる作業が必要になります.

測定器は(たとえ同機種であっても)1台1台,“癖”を持っています.例えば,ある機器では本当の値より5割ぐらい高い値を示す,ある機器では2割ぐらい低い値を示す,といった“癖”です.この機器固有の“癖”を把握し,正しい値を得られるように補正する作業が“校正”です.校正を行って初めて,異なる測定器間での値の比較ができます.

校正の簡単な例は,複数の時計(これが測定器にあたる)間での時刻合わせ(これが校正作業)です.時刻合わせをした時計を使えば,時計のずれから来る行き違いも発生しません.逆に,大きくずれている時計を持つ2人が自分の時計の正しさを前提に話をすると混乱してしまいます.

同様に,校正されていないずれの大きな放射線量測定器の値を見比べて高い/低いを論じても間違いのもとになります.

  (2.厳密な校正)

 厳密な校正は,測定器を国家標準と照らし合わせてその誤差を確認する作業になります(時計で言えば日本標準時と比較してずれを確認する作業に相当します).標準に合わせて校正されている測定器間であれば,ある限定された範囲(校正を行った特定の条件に限定し,さらに不確かさを限界として)で値の直接比較ができます.このような厳密な校正を行うためには,校正サービスを行っている事業者に校正を依頼する必要があります.しかし,費用は個人用線量計がもう一台買えるほどかかりますし,校正の限界は測定機器の不確かさ(最初に求めたばらつきの様なものだと思ってください)が決めてしまいます.さらに,校正は単一の放射線源,代表的にはCs-137 γ線源を用いて行いますが,現在問題となっている地域では様々な核種からの放射線が複合していることもあり(現在は短寿命核種が減り,主にCs-137やCs-134が寄与していると考えられるようですが)厳密な校正を行っても正確な被曝量を知ることはできません.そのため安価な機器を用いている個人が厳密な校正を行うのは費用対効果が低いのではないかと思います(それでも本来は校正を行うべきですが).

 しかし,対外的に信頼できるデータを公表しようとされる方は校正作業が必要です.校正サービスの利用を検討してください.登録校正事業者が校正した測定器にはその結果を示す校正証明書が発行されます.

 (なお,厳密な定義での校正は調整作業を含みませんが,一般には調整作業を含めて校正または較正と呼ばれることがあるのでこの文章ではあえて区別せずに記述しています.)

 (3.妥協策としての簡易相対校正)

以下で述べるのは正式な校正のセオリーを外れた方法であり,厳密な測定を行う立場からは認められないものです.本来は校正により国家標準との関係が確認されていなければその絶対値は信用できない,という大前提を再確認の上,参考程度にお読みください.

では,個人レベルでの測定データは比較できないのでしょうか?グループで測定を行う場合等,複数の機器がある場合には以下に述べる簡易な校正を行えば(測定誤差を考慮の上)それら機器間で相対的に値を比較することが可能になります.時計で言えば,2つの時計の時刻合わせをすれば,日本標準時と全くずれていてもそれらの時計を使う人の間では困らない,といった状態です(外の人が関係する場合にはやはり国家標準との校正が必要です).

  1)同一機種間の場合

 同じ機種間であれば,その機器の持っている基本的な特性はおおよそ同じであると考えられ,機器固有の誤差を校正すれば機器をまたいでの相対的な比較が可能になります(注意が必要なのは,この方法で絶対値が正しくなるわけではありません.同一機器でのデータの扱いと同様,倍率や値の相対的な大小での評価が可能になるという意味です).具体的な相対校正の手順は次のようになります.

  1. さまざまな条件を設定し,各測定器を順に入れ替えながら測定した測定結果をできるだけたくさん集める(値が上下に大きく振れている方が望ましい).
  2. 測定データを比較し,両者の間に一定の関係性があることを確認する(おそらく簡単な比例関係になるはずです.たとえば,機器Aの値は機器Bの値のいつでもほぼ1.23倍になる,等.但し,低線量域では比例関係に加えて機器の自己ノイズによる定数成分も考慮が必要)
  3. 2.で求めた関係を測定結果に適用する.適用の結果,機器間で同じ値になることをもう一度確認する

このように求めた関係を適用して補正すれば以後は両者の値を相対比較することが可能です.逆に,一定の関係性が見られない時や,関係が比例関係からかけ離れている時は単純な校正は困難です(測定方法が悪い,測定機器が故障している,その他原因を探る必要があります).

 なお,相互に校正する機器のうちの1台が国家標準との間で校正済みであれば,その機器の値に他の機器の値をあわせることで他の機器の値もある程度信用できるものとなります.

   2)異機種間の場合

 この場合,特性の違いから問題が出る場合があり,注意が必要です.例えば,

などのケースでは,測れるものがそもそも違うので,違う値を示して当然です.このようなケースで両者の数字を校正により無理やりあわせるとかえって不正確になってしまいます.このようなことを行ってはいけません.現実に想定されるケースとして,空気中では短距離で減衰するβ線も地面近傍ではまだあまり減衰しておらず,β線を拾う機種と拾わない機種の間で測定値が大きく異なる,といったことが考えられます.

 異機種間の簡易校正を行う場合,最低でも,

を満たしていない場合には測定器の校正を行うことはできません.逆に,このような問題をクリアした機種間では,基本的な特性が類似であると判断できるので “1)同機種間の場合” と同様の簡易校正を行います.

(4.校正に関するその他の事項とまとめ)

 校正の話はかなり難しいものとなりましたが,自分の持つ測定器はある一定の癖(それも結構大きい可能性がある)を持っているということ,他者との比較を行う場合には,その癖の把握が必要だということを認識していただきたいと思います.

やっかいなことに,これらの機器固有の癖は時間と共に変化することが十分起こりえます.そのため,精度を要求する測定では一定期間毎の校正も必要になります.また,非常に古い機器を使っている場合は劣化による狂いも考えられます.もし測定器を比較する機会があれば,同じ場所を同じように測り,値に大きな違いが無いかを確認してください.

長くなったので校正に関してもう一度まとめると,以下のようになります.

(余談)

校正とまでいかなくても,機器のチェックが行える体制を行政で整備できないでしょうか?

<7.データの活用>

 ここまでの項を読まれて,良い測定データを得るのはとても大変だと思われたかもしれません.しかし,このようにしてきちんとした手順を踏んで得られたデータは立派な“科学データ”です(これは,そのデータに誤差が無いという意味ではありません).その中に誤差が含まれるという前提を忘れず,正しく扱うことで非常に有益なものとなります.これらのデータの整理と活用方法の例を以下に述べます.

 (1.データの整理)

 これまで述べた方法で取ったデータはかなりの量になってしまうと思います.これらを上手く整理するためには表計算ソフト等を使うと良いでしょう.平均を出したり,ばらつきを確認したりすることが簡単に行えます.また,ほとんどの場合,グラフ化機能も備えています.市販のものを活用しても良いですし,無料で使えるOpenOffice.orgというソフトもあります.googleドキュメントのスプレッドシートでは他の人との共同作業も可能です(相互に機器を校正したグループのデータを一括して公開することは大きな意味があります).詳細については近くの詳しい人に尋ねてみてください.

 (2.データの公開)

 多くの人と共有することでデータはその価値を高めます.公開することも検討してみてください(無理をする必要はありません).一方,データを公開するにあたっては,様々なことに気を使う必要があります.以下の点を考慮してください.

  0)プライバシーに注意!

 情報公開にあたっては,プライバシーへの配慮を忘れないでください.自分のプライバシーだけでなく,他人のプライバシーのことも気遣ってください.

  1)測定データを公開する時は,必ず測定条件を併記する.

 測定条件が記されていないと測定データの価値はほとんど失われてしまいます.できる範囲で詳細に記してください.測定を行った日時,場所,測定高さ,測定地点の地面の状態(土かアスファルトか草地か/濡れていたかどうか等),周囲の建物等の状況,天候,測定の詳細(3回測って平均を取った,等),グループでの測定の場合は測定機器の識別番号,測定者の識別情報(実名でなくても通称や,“測定者A”等で良い),その他,測定した時に気づいたことを何でも(後で役立つことがあります).

  2)共通の測定条件も記しておく

 最初に行ったばらつきの確認(再現性の確認)時の全ての測定値を(設定条件と共に)そのまま全部(10回の繰り返しを取ったとすると,10回の測定値を全部)書き記すことはとても重要な情報を与えてくれます.このデータはぜひ参照しやすい場所に示してください.これがあなたの測定の信頼度を証明します.他に,測定器の機種名や,校正を行ったかどうか,校正を行った場合はどのような方法と手順で行ったか,等の情報はとても重要です.

  3)加工前のデータを全部出しても良い

 データの取り扱いはデリケートなものになります.もし,あなたがデータの取り扱いが難しいと感じた時は,測ったデータを全て未加工のまま表計算ソフトに入力した結果を公開してしまってかまいません(むしろ,その方が他の方がデータを読む場合に好都合である場合もあります).但し,この場合でも必ず実験条件等の記述は忘れないようにしてください.記述が無いとせっかくのデータも活用できなくなってしまいます.

  4)データの取捨選択には注意

 明らかに測定ミスをしたデータを載せる必要はありませんが,公開するデータの取捨選択の仕方によってはそのデータを活用する人の判断を狂わせてしまうことがあります.支障がある場合を除き,原則的に測定したデータは全て公開する方が良いでしょう.

  5)他の人が使いやすい形でデータを公開する

 データの公開方法は色々な方法がありますが,それに加えてデータの整理の項で紹介した表計算ソフトで作成したファイルをそのまま公開すると他の人がそのデータを活用しやすくなります.使いやすい形で元のデータを公開すると詳しい人が分析をしてアドバイスをくれたり,多くの人に役立つデータに加工してくれるかもしれません.

 このようにして様々な人が集めたデータを整理して共有するためのWebサイトもあります.

 (3.データをグラフ化してみましょう)

 データのばらつきや変化を分かりやすくする良い方法が測定値をグラフに描くことです.グラフ化を行うことで,数字の並び見るのに比べて遥かに多くのことが直感的に理解できるようになります.グラフ化機能はほとんどの表計算ソフトに内蔵されており,簡単にグラフを作ることができます.また,データを視覚的に見やすくする“可視化”と呼ばれる加工もあります(グラフにするのも可視化の一種です).

 グラフ化や可視化の詳細解説は他の専門の方に譲り,ここではその例をご紹介したいと思います.元データの数字の羅列と,可視化されたデータの違いを見てください.

1)グラフ化の例

 (元データ)

福島県で発表している「環境放射能測定結果・検査関連情報」から参照できる各種データ(例えば,県内各地方放射能観測値(第XXXX報)等)を有志の方が入力されたもの

 (グラフ化されたもの)

oxonさん:放射線量率モニター更新中

  http://d.hatena.ne.jp/oxon/20110318/1300381733

2)データ処理と可視化の例

 (元データ)

福島県で発表している「環境放射能測定結果・検査関連情報」から参照できる

「福島県内の学校での放射線量調査」(http://www.pref.fukushima.jp/j/schoolmonitamatome.pdf) と

福島県環境放射線モニタリング・メッシュ調査結果(4/12)(4/13)(4/14)(4/15・16

および,3/30~4/19 に測定された20 km 圏内の 178 箇所の測定

(このデータを元にデータ処理を加え,可視化されたもの)

oxonさん:福島県内 4,400 箇所の放射線量を可視化して、ついでに年間積算被曝量も推定してみた

  http://d.hatena.ne.jp/oxon/20110429/1303810008 (データ処理方法の詳細な解説もあります.)

適切なデータ処理と可視化の威力を実感していただけたでしょうか?ここまでの作業は専門の方でないと難しいですが,自分のデータを元にグラフを書くのはどなたにでもできます.特に,同じ場所での時間的な変化を見たい場合には力を発揮するでしょう.

(グラフ化,可視化の手法については私より詳しい人がたくさんおられると思います.どなたか良い解説を紹介していただけないでしょうか.)

<8.その他>

本文中に盛り込みにくかったものはこちらにまとめて書きます.

 (1.ここまでの話がとても難しいと感じたら?-講習会に参加するか,大学理系学部の卒業生に相談してみましょう)

 何事も百聞は一見にしかずです.もし今後機会があれば測定方法の講習会に参加してみてください.良いデータを得る作業は確かに少々手間がかかり,細かな気配りも必要ですが,一度経験してしまえば難しいことではありません.この文書中の解説では難解に見えることでも,講習会で実際に行えばすぐに理解できると思います.

 また,大学の理系学部の卒業生(特に大学院の修士や博士課程まで行った人)にとって,この文章に書かれているような丁寧なデータの扱いもごく普通に行われているレベルのものです.もし計測方法やデータの扱い方で分からない事があれば相談してみてください.専門分野が違うのでちょっと予習の時間が必要かもしれませんが,きっと力になってくれると思います.

(2.なぜγ線だけはかるの? α線やβ線も一緒に測らないのはおかしくない?)

 γ線はさまざまな物質を通り抜けるため遮蔽が難しく,人体においては皮膚を通り抜け,体内の器官にまで影響を及ぼします.一方,α線やβ線は適切な遮蔽をすることで比較的容易に外部被曝を防ぐことができ,万一人体に照射された場合でもその影響は体表面にとどまります.そのため,外部被曝の評価に関してはγ線の量を正確に測定する必要があります.

 また,「放射線対策をするために線量測定を行う」という目的志向の観点から見た場合,必ずしもβ線の量を直接測る必要は無いのです.今回の原発事故で放出された放射性物質の核種構成比はどの地点でも非常に似通っていることが報告されているようです(NHK「ネットワークで作る放射能汚染地図」より).このようなケースの場合,γ線の量におおよそ比例してα線やβ線を出す物質があると考えることができます.また,α線やβ線を出す物質に特化した放射線対策というのは現在取られておらず,γ線量の多いところは対策をとると考えればわざわざα線やβ線も加えた形で測らなくてもよいのです(さらに,これらが混ざった形で測定される測定器ではγ線の量を見誤ってしまいます).もちろん,測らないことは存在しないこととは違うので,高いγ線の検出された場所にはそれに応じてα線やβ線を出す物質も多くあるに違いないと考えて適切な対策をとる必要があります(内部被曝対策等).

 さらに,距離によりその強さが急激に変わるα線やβ線を同時に検出器に拾ってしまうと,わずかな位置のずれが測定結果に大きな誤差を及ぼしてしまい,正確な測定が困難になるので,測定技術の面からも問題が生じます.

(追記2011/07/06)

・γ線だけ測る理由として,Sr-90等の特殊な例(β線のみ放出)を除き,今回の原発事故で放出された放射性物質はγ線とβ線の両方を出すことが挙げられます.Sr-90のみが存在する状況と言うのは通常考えられないのでγ線の量を測ることで放射性物質の存在を知ることができます.気になる場合は各地での核種分析結果のSrとCsの比に注目しておくと良いでしょう.

・アルファ線を放出する核種は非常に重く,飛散・拡散の様子は現在問題となっている放射性セシウム等とは異なっています.そのため,α線核種の分布はγ線の量からは推定できないため,α線の部分に字消し線を入れました.今回の”原発事故由来の”アルファ線核種(ウランやプルトニウム等)は原発敷地内で見つかった他は,そのごく近傍で存在の可能性が示された程度(NHK ETV特集 ”続報 放射能汚染地図” より)の様です(現在行われている土壌調査で正確な分布が把握されると思われます).

(3.機器の示す値が小さなところ(機器の測定範囲の下限付近)では測定器の誤差は大きい)

 一般に,測定機器はぎりぎり測定できるかどうかという小さな値のところでは測定誤差が大きくなります(放射線の測定の場合,検出数が少ないと原理的にばらつきが大きくなることが知られています.そのため有感体積の小さな低感度GM管では特にばらつきが大きくなります).100kgまで測れる体重計で0.5kgのお肉の重さを測っても(一応針は振れますが)あまり正確には測れないのと同じです.例えば,東京で簡易の放射線量測定器を使って空間放射線量を測定しているのはこのような状態です(大きく数値が上がる状態での測定はこの限りではありませんが).

さらに,放射線量測定器は機器固有のノイズ(自己ノイズ)があり,放射線がほぼ存在しない環境でも一定以下に数値が下がらないといったことが起こりますリンク先では「買ってはいけない」と書いてありますが,個人的には限界を理解して使う分にはよいのではないかと思っています.他の機種でも多かれ少なかれ同様のことが起こっています).この自己ノイズは常に時放射線量測定値に上乗せされ,数字を大きく見せてしまいますが,低線量域ではその大きさが無視できなくなります.一般にGM管式のものは自己ノイズが大きい傾向にあるようです(やっかいなことに,自己ノイズの大きさは同一機種でも1台1台違います).

これらの問題を考えあわせると,安価なGM管式の線量計で低線量域(例えば0.3μSv/h以下)の数値をある程度の精度で求めるのは一般にかなり困難です(仮に求められたとして,次に述べる自然放射線分を引くのを忘れないでください).ちょっと測ってみました程度のもの,特に絶対値はあてにならないのでそういったものを見て心配しすぎない方が良いと個人的には思っています(積算線量を計算する場合は低線量域にも対応し,なおかつ校正された測定器での測定結果を見て考えましょうということです).

(4.自然放射線の問題)

 原子力発電所からの放出の影響が全く無くても,世界中のあらゆる場所にはもともとある程度の自然放射線(バックグラウンド放射線)があることが知られています.また,その量は地域によって多少の差があります.放射線量測定器はどんなに高性能なものでも原理上自然放射線と人工の放射線を区別することができず,両者の和を表示します.つまり,測定した放射線量値から先のWebページ(注の部分までお読みください.別途宇宙線の分を考慮する必要があります)に示された自然放射線量を引いた値が人工の放射線量になります.この値が十分小さい場合は平常時に比べても人工放射線量さほど増えていないということです.安心してください(自然放射線の分を差し引くのを忘れて心配されている方がおられます).また,先に述べた低い数値での精度の低さの難しさを考え合わせると,この様なわずかな放射線量を正確に測定するのは非常に難しい作業になりますが,もともと放射線量が少ない領域のことなので問題にはならないでしょう.

なお,平常時のバックグラウンド放射線量が正確にわかっているケースでは,それを差し引いた値を発表することがあるようです.バックグラウンドを引いたものか,含まれたものかのいずれの表記をしているかという点には注意する必要があります.

(5.半導体方式の線量計は携帯電話等電波の影響を受けるらしい)

 半導体方式の放射線量測定器は電磁波の影響を受けやすいとのことです.各機種ごとの取り扱い上の注意は説明書に書かれているので,必ず説明書を読みましょう.

    出路静彦 他, “携帯電話機の高周波電磁場が電子ポケット線量計に及ぼす影響”  

    http://wwwsoc.nii.ac.jp/jrsm/j-paper/j2-1-3.pdf

(6.測定器はできれば原理を知ってから使いましょう)

 本当は「必ず原理を知ってから使いましょう」と書きたいぐらいです.同じ放射線量測定という目的のための測定器であってもガイガーミュラー管(GM管)を用いたもの,シンチレーション式,半導体式と原理の異なるものがあり,測定の目的に対し得意・不得意があります.単純ではない測定を行う場合や,他の測定データと値が大きく違う時など,測定に疑問が生じた場合には測定原理を確認してみましょう.原理を説明したページには特徴や利点・欠点も記されていますし,測定がうまくいかない原因が見つかるかもしれません.

(7.他で発表された測定値と全く違う値が出るのだけどどうして?-モニタリングポスト問題)

 皆さんが自分で測られた値が,公的機関や他の人が測定した値と全く違うということが起こるかもしれません.なぜでしょう?ここまでを読まれた方はもうお気づきだと思いますが,測定条件が違うから,あるいは,機器の特性が異なるから,というのがその答えです.

 モニタリングポストや,モニタリングカーを用いて公的機関が行う測定では高い場所で測定されたものがあります.そんなに高い場所で測定しても人への影響を正しく測定できないのでは?(あるいは値を小さく見せようとしているのではないのか?)という疑問を持つ方もおられるかもしれません.しかし,高い場所で測定するのには(目的に応じた測定をするための)合理的な理由があるはずです.そもそも,モニタリングポストは被曝量管理のためにあるのではなく,変化の傾向を見るものであるということを踏まえたうえであえてその数値について考えてみます(以下は多少の推測も入っています).まず,γ線は地面から少々離れてもあまり減衰しません(つまり,高い場所で測っても極端には値は変わりません.広い平坦な場所に柱を立てた場合,理論計算では18mと1mでは2倍程度だそうです).また,γ線は空気中で100~200mほど飛ぶため,その範囲にある放射性物質から来るγ線の合計量を測ることになりますが,建物等に遮られるとその分は検出できなくなります.もし低い場所,特にビルの谷間等で測定すると建物の遮蔽により測定される放射線量が低くなってしまうかもしれませんし,局所的な放射線量の大小の影響も受けやすくなってしまいます.この様な要因により測定値が変化することを考えると,一概に高いからだめ,人と同じ高さだから良い,とはならないのです.事実,新宿の場合は18mと1mでの実測値にあまり差がありません(→ここの一番下の図).この程度の差であれば,高いところで測定し,(実測の比較データ等から求めた)適当な係数をかけて地面高さの数値を推定したり,広域多点測定の結果を利用して他の地点での値に換算する方が安定して妥当な値が出ると考えられます.(土埃の吸引等による内部被曝についてはダストモニタで測定するか,これまでのデータから妥当な推定をし,別途加算することが必要です.モニタリングポストが高い場所にあるのは,これら内部被曝を測るためのものではないためだ,とも言えます).

 では,地面近くの低い場所で測ることに意味は無いのでしょうか?これこそ個人用の放射線量測定器の出番だと思っています.どんな場所に放射性物質が集まりやすいのかを調べ,適切な対策をとるために測定器を活用すると良いかと思います(繰り返しになりますが,β線も検出するGM管式の線量計を用いて地面近くで測った時に出る大きな数値はSv/h単位での正確な測定値ではありません.発表を控えるか,発表するときにはその旨をはっきりと注意書きをするようにしましょう).

(2011/07/06  機器の特性の違いについての追記)

外部被曝を評価する実効線量(Sv)の推定方法については,空気吸収線量(単位:Gy)をSvに換算する方法と,人体表面からの1cmの深さで受ける線量として評価した1cm線量当量(これ単位がSvで表わされる)を実効線量とみなす方法の2つがあります.モニタリングポストと線量計の間で数字の乖離が見られる場合,この違いが原因である可能性があります.詳細は以下を参照してください.

小型放射線測定器(DoseRAE2)とTCS-166 との測定値の違いについて(東京都健康安全研究センター)

 http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/tonai/chigai20110622.pdf

また,公的機関で行われている調査で多用される日立アロカ社製のシンチレーションサーベイメータには吸収線量率(Gy/h)を測るモデル,1cm線量等量率(Sv/h)を測るモデル,両方を切り替えられるモデル(TCS-171B等)があるので,いずれの値として測っているか注意が必要です.なお,福島県内で行われているサーベイメータを用いた測定では1cm線量等量率測定モードに機器を設定して測っているとのことです(福島県災害対策本部の回答).

(8.アルミケースを用いたβ線の除去)

 上の項目とも関連しますが,GM管を用いた放射線量測定器はβ線とγ線が混在する環境ではγ線量だけを選択的に測るのが一般に困難です.その対策として,測定器を数mm厚(3~4mmあると良いようです)のアルミケース内に収め,β線を遮蔽することでγ線量だけを測ることができると考えられます.また,特性の違いにより校正が困難だった機器間の校正が可能になるかもしれません.この方法を用いる場合,次のようなプロセスで確認を行いながら慎重に行ってください.

  1. まず,β線の影響を受けない1m以上の高さで,アルミケース有りと,アルミケース無しでの線量測定を行い,値が変化しないことを十分に確認する(数値が小さくなると危険を適切に検出できなため).
  2. 1. を確認後,地表近くでアルミケースの有無で値が変わるか確認する.変わる場合,β線を拾っていると考える.ただし,検出特性はβ線とγ線で異なるので,アルミケースの有無による数値の差がβ線量とはならないことに注意.

<残る問題>

測定時の建物や人等の遮蔽効果の問題.何がどれぐらいの位置にある場合にどの程度の影響が出てしまうか(これは全然分からないので専門家のアドバイス求む)

<参考文献(Web)>

β線の窓(ガイガーカウンターでの放射線量の正しい計り方)

東京大学 早野龍五教授が図や具体的を交えて放射線量測定上の注意点等を解説されています.必見です.  

http://togetter.com/li/136232

・モニタリングポストについて

公的機関等から発表されている値は何をどのように測っているものかが詳しく解説されています.

http://ftp.jaist.ac.jp/pub/emergency/monitoring.tokyo-eiken.go.jp/monitoring/sokutei/sokutei.html

・「初心者用不確かさセミナーテキスト」

値のばらつきを評価する方法を解説した資料をダウンロードできる.特にAタイプ不確かさを解説したページが重要.測定値のばらつき具合(実験標準偏差,平均値の実験標準偏差)を求め方が解説されています.

http://www.nmij.jp/~mprop-stats/stats-partcl/uncertainty/text.html

team nakagawa による測定

        他の測定との比較,値のふらつき,測定点高さの影響,β線の影響等が検証されています.

        http://tnakagawa.exblog.jp/15529167/

・福島大学放射線計測チーム

        放射線測定のプロの測定手順が示されています.

http://www.sss.fukushima-u.ac.jp/FURAD/FURAD/data-map-datail.html

・放射線量測定とその活用例

福島県立安積黎明高等学校敷地内の放射線量推移について

http://www.asakareimei-h.fks.ed.jp/housyasen_4_25.pdf

 (最新情報はトップページ http://www.asakareimei-h.fks.ed.jp/ からたどってください.)

・仮説実験授業研究会による放射線測定器の説明

少し下にスクロールすると同じ場所で放射線測定器が全く違う値を示す例が見られ,機器校正の必要性がよくわかります.

http://www.kasetsu.net/radioatom.htm#%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E6%B8%AC%E5%AE%9A%E5%99%A8

・放射線測定器校正におけるトレーサビリティと不確かさ 斉藤眞弘

http://homepage3.nifty.com/anshin-kagaku/sub071218saitoh_ESI.html

・校正登録事業者の検索

http://www.iajapan.nite.go.jp/jcss/lab/index.html で,放射線・放射能・中性子にチェックを入れて検索

・不確かさの入門ガイド

http://www.nite.go.jp/asse/jcss/pdf/koukaib_f/ASG104-03.pdf

・独立行政法人産業技術総合研究所  放射線計測の信頼性について

http://www.aist.go.jp/aist_j/rad-accur/

・放射線関連量のトレーサビリティ体系

http://www.aist.go.jp/aist_j/rad-accur/confidence/index.html

・ガイガーカウンター相談室(ガイガーカウンターSHOP)

Q and Aで良い情報を提供してくださっています.復興を願っております(←5/6より業務を再開されたそうです).

http://www.sawadaya.org/geigerQ&A.htm 

・放射線測定器の種類と一覧

放射線測定器を選ぶとき,どう選べば良いのかと,機種一覧を記されています.

http://www.mikage.to/radiation/detector.html

(また,同じ方が各種解説やツール類も用意してくださってます.→http://www.mikage.to/radiation/

・個人用のサーベイメーターについて

【備えあれば】ガイガーカウンター 52機種スペックをまとめてみる【憂いなし!?】

個人用のサーベイメーター(放射線測定器)の性能を整理,比較されています.

http://matome.naver.jp/odai/2130192683969299601


もし使える部分があるようならこの文書は自由に使っていただきたいと思っています(今後も改訂や誤りの修正が入ると思うのでオリジナルファイルへのリンク(短縮URL:http://bit.ly/jCpLvz)はどこかに記載していただくようお願いします).匿名なので権利を主張する気もありません.校正の項より後の部分は私の専門から離れつつあり,話を広げすぎても収拾が付かないので私が記述するのは測定機器の使い方までにとどめたいと思います.これを超える範囲については他の専門の方にお願いしたいと思います.

(2011.4.28)


以上, clear_wt  (e-mail: clear.wt@gmail.com ,  twitter: http://twitter.com/clear_wt)