〔煎茶関係歌文稿〕

   ◆茶を翫ふ人に示す

酒に代て誰いにしへに遊ひけんにごれる世にもすみてあらばや

酒に酔へば濁りて泥の如し、茶にゑへはすむ、仙に通すとや。さらは、清ます、にごらす、いつれにも酔はてあらまほし。我はすむと濁るのあひたに、とむかしもいひし人のありき。

                         秋翁七十一歳書

                               [印]

   ◆尾張門人大館高門へ答ふ

噫我老ぬ、何玩ひて世にはあらむとする。まなこやみ/\ては、ふみよみ、言えらひせん事のかたくもあるか。さらは、野山に出ましりなんには、杖つきたかへて、まろふへし。酒わかきよりいみ/\しく、茶こそ久しき友なりしを、是たに色をあやまり、味はひをさへわかためぬは、此友にたに疎まれぬる事よ。老は誰しもかゝ覧ものをと、思ひしつりをる此頃、尾張の人の文あり、披きて見れは、陳昌其の茶略と云書を、我机に置つるを、去年の春もていきて、桜木にゑらすとて、手をえらひて書清めさせしを、一わたり閲てよとて、こせし也。あたへしや、奪はれしや、とまれかうまれ、わかき人のしわさは、花ゝしくこそあれ、よしや写たかへつとも、我せしにあらねはとて、やかての便にかへしやるなへに、教ふるにはあらていひやる。常に品をえらひて、独すゝろひ、人にもすゝめつゝ、昔いまの事とも思出、かたりも合すほかは有ましきを、吾十歳はかりいにしへ、人にいさなはれて、かゝるに似たるさかしらして、二とちのいたつら言を世にほこらしくせし。思へは取かへさまほしきをは、後おもひあはせよかし。遊外高処士は、みつから茶を売と呼れしかと、まことには茶に隠れて、世を玩はれし也。されはよ、其品の定め、器もののかたちなと、是に心を致されしに非す。梅山秘録のあらまし言、故さと人の、翁かかたみとて蔵めたるほうもちを看るにも、しられたりき。大枝流芳は、色、香、味はひを闘かはせ、水をえらひ、うつはのすきに心を尽せし、青湾茶話を見てくしるく、且、雅遊漫録、くらふ山なとは、をこの好ものから、隠るゝを名にて世にあらあはれまくせし人とや云へき。又我友なりしあしの屋のぬしは、茶を弄はれしもさるものから、よろつの道に名を聞えあけて、海の外にさへひゝきかよはせ、唐、やまとのふみ等、棟木、うつはりにささふはかり積をさめしかは、世になく成んて後に、おほけなくもかしこくも、吾妻の大殿のみことたふはりて、物学ひのつかさ人の御家にえらひて蔵めさせ、禄の黄かねこゝはくくたし賜へりしことの、世にめつらなるおもておこしなりし。されは、いまそかりし世には、其名をきく人々、海をわたり山をこえつゝ問来たるに、しくるとあくとに人を送りむかへつゝ、たち居いそはしかりし也。さは、かきりを忘れ、あたはぬと云し数をさへ打かさねて、むさ/\しかる也。さてしも隠るゝにはあらぬ身の、暇多かれは、是玩ひしことゝもあなくりとめつゝ、かいあつめし中に、水のえらひのためし、さみたれ、秋の雨なむ、烹るに宣しなと、試み顔にいひしは、おろそけなりき。雨はなへて味あまきか、濁りおもき也。くさりついゆるもすみやかなるもて、かしこの〓中の水のあしきから、是をさへよしとすよと今おほしやらるゝなりき。又、近き比は、遠き国々より都の水をはろ/\荷はこはせるは、いかに試みてよしとやする。一夜のほとたに気はおとろへ、味をもかふるものを、何某の大徳の行ひさまをおきてし中に、硯の水、朝毎にあらためよ、と教へし也。あらたに汲て烹よとは、誰ゝもしるされしを看すやはある。山路ふみこえ、海なす川をわたり、関のとさしをゆるされては、うみのまゝなる物やは有。薬にこそたま/\陳きにおよひて気はけしと云品はあれと、それもそ、もとのまゝならぬしるし見するなりき。凡、物の中には、水こそ淡々しけれ、よき人のましらへにたとへ、又、まことに清きかきりなるは、香も味はひもなしとは、聖達たる人にくらへて言なり。此り、たゝ水は近きにえらひて、遠きを思はされ、すむをおのれはつとむとも、ひと日一夜を過し、まいて月をこえては、いかてもとの心な覧。茶の品のえらひは、老おとろへし我こそあれ、心すが/\しく打しつもりておこなひたらむ人は、浪花入江にすますとも、其よしあしはわいたむへし。是よりこれ中流の水也なと、まことならしとうたかはるゝも、稟得しさがならは、打もたして徳をらむ。さはかりのいたりはまなひえとすも、あはし、憩しなとは、こゝろみてむ、すけるにさかしく、いむにおろそ気なる、是も親のたま物也。彼百さとをはろ/\になひ運はせつる人は、名をのみたふとて、まことにはこゝろみさるなるへし。佳茗佳人に似たりむと云。水のまことにすみるは、ひしりの君にくらへていへるには、一きさみをやくたりたらむ。昔は此遊ひにふけりしかは、今は烹るついてをさへたわすれては、此ふみ鐫らせて行はるゝも、うれしからすなんある。わかき人よ、我言にあらす、よく聴て心とせよ。蘇子膽云、除煩去膩、世固不可以無茶、然暗中損人、殆為不少、昔人云、白茗飲盛後、人多患気、復不患黄、雖損益相半、而消陽助陰、益不償損也。蘇子、老にては、みつから烹るを、ねもころにまらうとにすゝめ、おのれはもちひたまはさりしと聞く。損益を心にふかくしるしとゝめられしは、よろつ老たる人のあそひなりき。よく/\おもひて玩へよかし。耽るはよからす、狂ふにいたりては、なに事もおのれをそこなふへし。

                       あなかしこ、ゆめ/\

文化二年みな月、岡崎の竹間裏に、あつさゝけてやとれ(る)ほとの、手ならひわさなり。所ゝあやまりつを、書きよめむかいたましさに、たゝこのまゝにてなむ。

                       餘斎七十二歳書(花押)

 ◆清風瑣言興讌歌

   陳昌其茶略得趣八章

   山窓涼雨

山風は小雨ましりに吹入て庵の北まとゆふへすゝしも

   対客清談

心あれや人をとゝむと降雨にかたりはてねは夜は更にけり

   躡屐登山

里に出てかへる坂道をふみなれし低きあしたに足は忘て

   扣舷泛棹

春の雨をゆたにたゆたに漕出て沖の鴎よ友舟にせん

   竹樓待月

おとたてし竹の瓦のむら雨ははれてまたるゝ山のはの月

   草榻迎風

折ふせしくさ葉の牀は風まちておのと起たつ秋の庭もせ

   梅花樹下読離騒

いにしへの人かも我は梅かゝのかをれる窓に文をひらきて

   楊柳池辺聴黄〓

柳おふる池の堤を行かへりきけともあかす鴬のこゑ

                      七十三春試筆無腸(花押)

   ◆〔茶は煎を貴とす〕

茶は煎を貴とす。点は次也。煎は気を賞し、点は味を愛す。茶神清也。是を転磨して点服するには、人毎ならすとも胸膈に滞る。味の気に劣る所也。煎三〓を度とす。点濃きはわつかに三啜、薄きは二〓に止まる。煎点ともに、度を過るは癖也。蘇東披云、除煩去膩、世固不可以無茶、然暗中損害人、殆為不少。此語常に心に置へき者也。茶の人を損害すと云は、多飲必陰を助け、陽を消するに至りて気疾の患ありとそ。然とも、人の強弱天に稟て、損益亦多少有へし。又、人の茶を損害することあり。今の点茶家、専ら舜〓禹〓の獲かたきを募りて、茶韻水味のえらひ疎か也。煎家は茶具新調を喜ふ。是茶神の清韻に叶ふへし。点家は珍器に其価巨万に代へ、吾獲たりと誇るは清からす。本是玩器は高貴の分上に有て、損害有へからす、庶民倣ひて分度を忘る。豪富といへとも、終に財崩れ家を失ふ。人の茶を損害すと云は是也。其あらそひや、博奕の徒に等し。茶神清なり、故に、濁に触るれは損害速かなり。点家亦此意味を得て玩へは清し。東坡又云、佳茗似佳人。この句を味はひて、煎点いつれに遊ふとも可也。慎ますは有へからす。

                         瑞竜山下病隠茶仙子

                               七十三歳書

   ◆蘇東坡茶説

除煩去膩、世固不可以無茶、然暗中損人、殆為不少、昔人云、白茗飲盛後、人多患気、復不患黄、雖損益相半、 消陽助陰、益不償損也、吾有一法、常自玲之毎、食已輒以濃茶嗽、口煩膩既去、 脾胃不知風肉之在歯、胃得茶嗽滌之、乃尽消縮不覚脱去、不煩刺桃也、 歯性便苦豚、此漸 望密蠢、毒自己然率、用中茶下茶、其上茶自不常有、間数日一啜、亦不為害也、此大有理 、人罕知是故詳記。

 是説最可以聴、然人性各稟得、有陰陽過不足、 性胃火熾、居常飲習過度、未知有其損害、今已七十余載也、然癖疾向化、不可以説者 。

                              余斎病隠(花押)

   ◆茶か稗言

品種以宇治信楽為最第一。時々手製試。悉皆佳于烹点。甘渋濃淡各有所好。可倣翁自在之茶。 式点法 古者 之茶奴。玩器手造悪物。然是実子中有能伝者一二子。舜亦吾奴。茶朋。松扉常関。垣下流泉。立春靄烟。寒梅且鼻つんぼ。鴬囀至夏山最可聴。春雨蛙鳴。園中款冬不可 。細雨叩葉寂寥甜。杜 二三朝。庭上授花。熱湯潅洗。塩油少浸。虫吟鹿鳴。明月。自初夏至晩秋。落葉。雪竹破裂。除夜松風。

                         瑞竜山下無腸

                              七十五齢書

   ◆茶の詞章

茶をチヤアと呼事、其声の因て出る所をしらす。此種酒につきて愛玩し、詩賦の興、和漢に盛也。たゝ国風には、字音をよまぬ事とす。たま/\春の若くさと云しは拙也。我も、春の木のめをつみて煎て、とよみしかと、思へは拙也。ことしの春の試筆に、

  うは氷春をとちむる谷水をぬるめりといひてけさはくまさん

  あかつきにいつも汲水たきらせて煎る茶をけさは春の初花

  濁らしと世はのかれめと谷水にちやを烹て心すますはかりそ

  酔といへは同し乱をすゝる茶にしはしも心すみてあらはや

  世の人に苦し渋しといとはるゝ飴やなつなにたとへられしを

  あめ薺たとへしや何からき世をしのふは苦き茶にあらしとふ

  すみ濁るはしにあらなやと云し人茶にも酒にも心あらしな

谷水は此山の最勝院の滝の末の、こゝを流過る也。一にはこまの滝と云。朝々とくおきて汲は、いさゝかも塵垢なし。水原より七八丁をきたれは、烈気和して甘味を出す事、長流の性也。常に〓水器を備へて、塵垢を去しむ。謝霊運の井に代てといはれし流は、いかなりけん。さて、此哥とも宜しきと云にはあらす、かくいへは、我口に叶ひて、しらへあしからす思ゆるまゝに、字音こは/\しくとも、其物の色香をめて言せさらんや。海棠、芙蓉、山仙、茶、梅、又、菊はからよもきと云名あるを、必しも、初めにならひて字音によみ、桔梗の和名蟻の火吹、いやしきとなへと忌て、きちかうと云、芍薬をえひす草、連翹をいたち艸、いはゝ云るへし。鎌くらの大臣の、八重の紅梅咲にけり、とありしは、いとよし、とある翁のほめられたりき。

〔こは上田餘斎老人の瑞竜山下にすまはれし頃、いかなることか有けん、心さむしもといふ哥よみて、年ころの著書、論説の草稿とも、残なく古井の底に沈られしを、隣のをとこの聞つけて、みそかに引上し中のその一ひらを、おのれ故よしありて、伝へもたりしなり。一日花月庵を訪へは、米麦茶湯の式とか呼て、人々つとへる筵になんありけり。主翁のおのれにむかひていへらくは、茶と字音もてよめる歌とも四五首、今の世に名たゝるやんことなき御方々にねきなとしつゝ、をれは庵におさむれと、大かたは異名をのみ用ひて、いまた世に名たゝる博士のきはみあけつらはれしさたをきゝ得ぬは、口をしきことにあらすや、といはれしを聞て、おのれふと老人の此稿本のことを打出しかば、主翁、優曇華のはなの便きゝつけたらんけはひしよろこひて、いかて一目見せてよ、とあるから、つゝらこの底より捜り出て示しゝを、いたくめてくつかへり、これをあかしに茶と読ことを、遠長き世まてもおしひろめまほしなし、と狂へることく、しきりにこはれぬ。けにや、此道にしうねきなる高処士三世と常にほこらるゝもむへなるかなと、さすかにいなみかたくて、召にうなつくことにはなりぬ。同くは、伝へしことのよしをも、一筆書つけてよ、このしりにゝしりてんと、あるまゝを、銅駝城西の隠士和田三樹、浪花の御津のむなき谷のかりいほにしるすは、天保七年霜ふり月九日になん。〕

   ◆茶侶十五個

  松扉常関

誰をかもむかへん門とおもふには松の戸さしをあくる日もなし

  垣下流泉

たに水のもとのこゝろになかれ来てむかしにあらぬ影をみるかな

  立春靄煙

我庵をけさかすむとや九重の宮のみや人立出てそ見む

  老梅樹二基 しかれとも鼻つん菩

香にかをる花にこそあれ老ぬれは色をしるへにたてる木の本

  鴬囀初夏最可聴

山さとにすみつきしよりうくいすを夏かけて鳴鳥としりにき

  春雨蛙鳴

はるさめにかはつこゝたく吾宛の池に水草は青やぎにけり

  園菜款冬雨叩葉寂〓

そほふりてふきの広葉をうつ雨にけふおもしろとながめくらしつ

  杜鵑二三朝

朝夕にをきかへり鳴けほとゝきすかましといひし人もありしを

  庭上橘花熱湯一洗塩油少漬

たち花にのみさけ香に(に)ほへ実ならぬ世には待事も無し

  虫〓

秋の野に昔は袖(を)しほりつゝ分にしものを庭の虫のね

  鹿鳴

あはときくをのへのしかのそなたより月出て我庵を照せる

  明月自初夏到晩秋

てるつきは陰にこめしをもみちゝり木末あらはに影のさやけさ

  落葉

里中に紅葉散しき道もなし迷はでかへる墨そめの人

  雪竹破裂

ゆきふりて静なりしをたかむらに岩さく神ややとりしにけん

  除夜松風

なか神は年のひとよにめくりはてゝたが罪はらふ松かせのおと

                       瑞竜山下無腸老隠拭盲眼書焉

   ◆〔ほんの茶非の茶の歌〕

ほんの茶、非の茶、宇治の非のちゃは、誰しも飲めと、色に香に、むかしゝのはしや、高雄、とかの尾のほんの茶は、さそな、色も香も、清たき川の水のしら波の、あはれ昔しのはし、

〔こは、上田無腸翁、朝茶の酔いすゝろきに、声おかしくうたひ遊はれし歌なりけり。翁世を去り給ひしより、三十三年におよへる辛丑六月廿七日に、同志のものいさなひあひて、東山なる西福寺に詣て来つ。手々に携し香花、茶菓を、しるしの石の前に備へつとひて、誰か廻向せよ、といひあへと、経、陀羅尼を誦する事の覚束なくて、たれよかれよとおし遣るうちに、年老たるかすゝみ出て、此歌をなんうめき出ける。是を上なき追善にこそと、たれも/\、うちかへし/\うたふ。おくれて参り来し人々も、これうたはて叶さる事とやおもひ給ひけん、しりえにつきてうたひ/\て、後は大声にそなりぬ。

其歌かきつけてよ、忘るゝにそなへんとあるまゝ、あらまし事をも、ともに拙筆もてしるせるは、彼導師めきたる、老人、不空庵のあるし三樹  [印]〕