林にあそふ鳥の、やとりところえて、おひさかゆる草木の花、人の友垣のかたらひも、おのれ/\かこのめるにひかれて、こゝろはゆくめり、ちゝ母に別れたいまつりての世には、うからはらからたのみつへきかほかめるにも、思ふをあかし、憂さうれしさをかたりなくさむなん、いとゝほしき、たゝまかりねちけたにせすは、おのかむき/\しわさいかさまにもあれな、今や老らくの世にかへり見れは、こゝの入江の〓か散夕風、心さむらにおほしゝめりしをも、大かたにさいたてたりしに、たゝひとり世にとゝまれるは、上田の翁なり、我には齢いつゝはかりおくれたまへと、よろつにこゝろさとく、兄とも推ゆつるへかめる、常に国ふりの〓をよみて、ひとりたのしとせる、其した書めくもの、あまたつゝら箱につみ入、我まへにもて来て、これなん年月に刈つみし礒廻の藻屑なり、もとより蘆原のしけゝき小屋におひ出て、ひちりこにそみたるあやしのこと草は、久方あふき望御あたりには、あま彦のよひつたふましく、またおなし民草の中には、ほむともおとしむとも、なに心してとおもへは、ひとつものに耳過しつゝ、年は経にけり、君と我、土をつみて城をかまへ、竹にまたかりてかけはしりし昔より、何のたかふゝしなくて、相おいの今まてゆきかひ問かはしぬるには、哥よませたまはすとも、おのかひかこゝろをしられまゐらすには、見せたいまつりて、ひと言をたにをかしとおもはれなん、いとうれしき、見をへて後に、はし一くたりにても書くはへてよと聞ゆ、あなわつらはしとはおもふ/\、百たらすのとし波よせかへりて、交らひし人のためには、国つ罪こそかしこけれ、我犯さぬ天つゝみを、老か痩ほねいたきまて、おほせらるゝともとてなん、かしら髪禿なる筆に、此こと打出こそすれ、哥やふみや、露はかりも学はぬみちは、みよし野のよしとも、あしからねのあしかるとも、あけてはいふへくもあらぬを、古ことの葉にならひてそ、世人さためよ、ゝひとさためよと云、亨和二年の秋、ふなきほふ堀江のわたなへの岸なる生島の叟記す、

附言

一、此集は、翁時々のあはれにつき、且事に臨みて口すさばれし、哥や文や、物話、道ゆきぶりを、紙のはし、ものゝ裏などにかいつけらりしを、取つどへて、えらぶとはなしについてられたる也、この比かたり給はく、思はずよ、七十と云齢をかぞへつめるは、うつゝの夢路のたどりとや云べき、いでや、今歳を老が世の限りに、打みだりし事ども皆しをへ、筆とるわざも、かしこきながら、獲〓のためしに、けふよりよりのちは、きのふの我にはあらで、みどり子のわきまへしらぬ遊びして、世をのどかにも終らばやとて、それの御寺に、おきつき所をさだし、かつ柩をさへつくらせて、此ふみ等をも、した書のまゝに納めてんと、うち/\おきて聞ゆ、おのれ、翁にしたしく交り遊ぶなべに、はし%\読見し事のあれば、翁をしれる人々と心あはせて、是を桜木にさすべくとてなん、御寺にまゐりて、はかりことすを、翁聞つけて、うたて、をこわざするかな、世にはひわたらんはどは、必しも有まじきしわざ也とせいせらる、いなや、此ぬしはすでに世を見はてゝ、今はおはさずとこそ聞つれ、我もの顔にのたまへる、いとあやしきと云、翁打もだして、我刀に疵かうむれるよとて、長き息つぎつゝ、ゐざり入りたまひぬ、一、  ふみの名の由は、常に机のかたはらに、あさらなるつゞらごをかいおき、人来たればみせじとしかまへらるゝを、れいの翁がつゞらごよと、ねたくいひあへりしもて、今は呼ことゝなりき、

一、哥や文や、翁の齢にしてはいと少きは、わかくておはせし昔は、よろづ打たはれがちに、まめ/\しき道に心ざしもあらざりき、四十と云年より、よみ書ならひしという物がたり、べちにまち文と題せられし一巻あるを、こは恥あることゞもありとてゆるしなし、さは四十を初めの手習の、それすら黄岐の術のいとまを偸みたる遊びなれば、うべも多かるまじく、大方はしるしもとゞめられざりしを、七十をかぎりのわざに、つゞらごの中、又こし方かゝることのありきなど、むかし今、前しりへなく書なめつゝ、猶それの所の障子にかゝるを見し、誰屋の壁になど、友垣の告聞ゆるをもかきあつめつゝ、六まきとなりき、翁、此道に門をひらきて、しるしらぬをいざなふにあらねば、よしやあしやのほめそしりをもいとはれぬもて、其人がらをも世の人見たまへかし、

一、木にのぼすまじき巻々猶多かれど、ゆるしなきには、題号をだも書あらはさず、翁の常言に、命はかぎりあり、知るは涯なし、かぎり無きにしたがふは危しと云古ことをずんじたまへる、うべことわりとは聞つる也、

文化紀元三月是の日、昇道杜多、岡崎の竹間裏にしるし侍る

目録

          自  序

古人云。文章窮而後工。非窮之能工也。窮則門庭冷落。無車塵馬足之嬲。事務簡約。無薄書酬応之繁。親友断絶。無徴逐遊宴之忙。生計羞渋。無求田問舎之労。終日閉門。兀坐与書為仇。欲其不工不可得已。不独此也。貧文勝富。賎文勝貴。冷曹之文勝於要津。失路之文勝於登第。不過以本領省而心計間耳。到聖人。拘困演易。窮厄作経。常変如一。楽天安土。又不当一例論也。適有此語。聊足以暢間情焉。頃一夜夢。垢面短鬚之老翁来伝。兄也薄命不遇。去郷土離六親。無居無産。自恣為狂蕩。而乗間作文。然句々皆寒酸憂愁。世塗之人誰不以蔽目哉。夫前人慷慨之言。各自愛才舞文。解悶発憤者矣。兄也不然。居常読書有感。将以安不遇乎。抑亦遇不遇。共天地間之動物。人稟之性。不可以為如何巳。故来慰問云。覚後思之。冷落失路。為之窮厄。則不可楽。為之命禄。則何以憂耶。余之薄命。乃耄而無居無産。惟是愚盲浅識之嘆。終日閉門。兀坐乗筆。雖不勝富勝貴之文。聊以為消間之策耳。享和壬戌晩春。〓{甲+鳥}頭乞〓翁鶉無常居士。拭盲眼書之。

                                            浪速  竹窓森世黄書

藤簍冊子  一        題云藻屑

すみの江の浦のはま藻のよる時々なること草どもを、荷田の信よしの家の屏風に、えらぶとはなしにかいすさめる哥、

都辺はちまたの柳園の梅かへり見多き春に成にけり

大原や春日の神もゆるさなん子日の松は森のした草

我宿の梅の花さけり宮人のかさしもとむと使こんかも

折はやと立よる梅に鴬のゆるさぬ声をおとろかすかな

とのい人よるをすからの梅かゝのしきりに薫る明やちかけん

思ふ人こんといふまに梅花けさの嵐に散初にけり

          花林朧月

桜さく春の林は久方の月のかつらも花曇りして

          禅林寺にて

さくらさく此山陰の夕曇り空さへ花の色にまかひて

高砂のをのへにたてる桜はなはやも嵐のさそひやはせん

夕日陰かゝやく峰のさくら花けふもなかめてくるゝ庵かな

          大田南畝子のあつまにかへらるゝを送る

風あらき木曾山桜この春は君を過してちらはちらなん

あほの山をのへのさくら尋来ていせまてと誰も思ひこゆ覧

故さとを荒るやとゝへは菫草すみうくもあらぬ垣ね也けり

よし野川かはつ妻よふ夕暮に宿かる我もひとりねにして

宮の中は男をみなも白袴の衣ゆゝしみ夏立にけり

郭公夕かけていつも朝妻の片山岸に鳴といふなり

くもり日のいはせの森の時鳥あなかま鳴てうとむとも聞

橘のみえりの里のほとゝきすぬかぬ玉なる音をも鳴かな

鴬の古巣の谷は氷とけいつか青葉の陰となりにき

かく山のをのへに立て見わたせは大和国はら早苗とる也

さなへとる時には成ぬをとめらか難波すか笠紐はつけてん

五月雨は降ともゆかな墨江のみとしろ小田の早苗取見に

山彦のこたへて悲し我岡のともしのねらひあやまたぬかも

けふも又よそにと見しを上蔀おろすまもなき夕立の雨

あすか河嵐吹そふ夕たちにたきち流るゝ淵せはなしに

なてしこの花の盛の久しきに初秋風も吹といふなり

藤原の三井の清水はむすはなむ天の香山影も見えけり

初秋の朝けの風を身にしめて思ふにかなふ比にも有かな

女郎花さかのゝ原に堀つれてたか宮つこそ夕いそきする

男花ならぬかたこそなけれ大原や野中古道分まよひては

大空に光みちぬる秋の夜も月のところはさやけかりけり

紀の海の南のはての空見れは汐けにくもる秋のよの月

          かふ内の国くさかの里に在し時

生駒山影また峰に別れぬを浪花の海は月に成けり

出て入山のあなたのをちこちに身をし分ても月を見てしか

天原秋の夜わたり照月のひかりをさまるあかつきの空

蘆か散秋の入江の夕やみに光とほしくとふほたるかな

此夕へ雁鳴わたる山城のふしみのわさ田刈や初けむ

信濃路を迎へこしより荒駒のあらき心もなれもこそすれ

御狩野はきのふと過し草村にいつちのかれてなく鶉かな

袖たれて秋のと山をなかむれは紅葉にけりな時雨せぬまに

津の国のこや野をゆけは露霜に小草花さき葉はもみちせり

峰にたつ鹿の八声のひまはたゝ紅葉吹おろす風の音かな

秋よりも時雨/\て木枯しの冬にうつろふ雲の立まひ

          松か崎にて

しくれの雨はやくも降て大比枝や小ひえにかゝる雲と見しまに

          奈良に遊ひし時

春日野の時雨の後のけふなれや山はみなから紅葉しにけり

          高雄山

奥山の岩垣紅葉此ころはあした霜おき夕へ散かふ

枯かつらたくれはたゆる百済野の萩の古枝の真柴ゆふとて

はふり子か清むる跡に木葉散て神のみたらし氷ゐにけり

          枯草原晨霜

此朝け茅生も薄も枯ふして霜の原野は見るへかりけり

          井中住せし時

寒き夜を明しかねてそけさ見れは生駒か嶽に雪の積れる

舟きはふ音も聞えす堀江河かきくらしふる雪の夕へは

こやの野に宿りてましを夕つけて降雪悲しゐなのふし原

          雪峰寒月

有明の月の光りは埋もれて峰しろ妙の雪のふりはも

御幸待て野山の神もつかふらし鳥立もらさぬ朝かりの場

広沢の水にうきねてをし鳥の羽きる音を聞夜寒しも

田上の河への家に宿からんあしろの波に千鳥しはなく

宿りする宇治の橋本さよ更て中の河洲に鳴は千鳥か

かそふれは年はあまたに積つるを猶をさなきは心也けり

          鳳闕

思へともおもひやはえん色に香に左のさくら右のたち花

          旧都

古しへの高津の宮にたつ民は万代まてとつくりけんかも

          里

九重にとなりてすめる里人は宮馴てしも物はいふなり

          貴公子

よき人のなかき心は初春のうら/\照す日影なりけり

          武士

弓矢おひいさ駒なめて物のふの花見かてらに鳥狩する岡

          僧

墨染に裁ぬふわさのなくもかなうき世の門はあけすあらまし

          市賈

畝火山木末にさわく朝鳥のさきに群たつ軽の市人

          散人

花鳥の色にも音にもほたされて暇ある身のいとまなき哉

          松

足引の遠山松をみさくれば嵐にたへて年も経にけり

浪にふし岩根にたてる松の声須磨の浦山昇りくたりに

風をいたむ渚の松に波かけて下葉のもみち沖に出にけり

古葉落霜にはまたき凋まねは秋こそ松の盛なりけれ

つゝらふみ  一

春歌

          立春

久かたのはてなき空に朝霞たなひきわたり春たつらしも

春霞立野ゝのへの神やしろむかふ朝日はけふを初に

去年よりも姿を見せてけさそ鳴竹の林の鴬のこゑ

          立春霞

風はやき山はけしきを立かへて横川の杉に霞たなひく

我こそは面かはりすれ春霞いつも生駒の山に立けり

          迎春東郊

ひんかしの野に出て見れはにしこりの近き里からけさはかすめる

          田舎住せし時春のあしたに

のとかなる日影はもれて笹竹にこもれる〓も春は来にけり。

          春盤に五穀を盛てくはへし哥

うけ持の神代なからの田なつ物年の初に見るかたのしさ

          元日に子日ありし年、垂水の神岡に、松ひきて遊ひし哥  神祠在本国豊島郡

あら玉の、年のあしたに、めつらしき、初子のけふを、むなしくも、宿にあらしと、新草の、もゆる野こえて、岩そゝく、たるみの神の、岡のへに、上りて見れば、遠山は、霞にゝほう、朝雲に、田鶴鳴わたり、遠しろき、三国の河に、舟余波不、人しも見えす、瑞垣の、下ゆく水の、音さむみ、衣をさむみ、刀自も我も、五十かうへの、百足ぬ、老にしあれは、我為に、おふる小松の、根をはえて、千本さかゆる、引つれて、しるしもあれやと、菅の根の、永き日くらし、夕雲の、雪をさそへは、風さえへて、衣をうすみ、肌さむみ、家路を遠し、かへらなんいさ、

          反哥

子日する野辺の小松に降雪の白髪つくまて年は経なゝん

          元日宴

けふよりそ事たつ春の位山次/\たまふ千代のさかつき

          白馬節会

今そ引馬のつかさのあゆみまてあなおもしろの駒といふ也

          賭弓

真手つかふ弦音たかし的形のうらめつらしき春の朝庭

          早春哥

みなせ河さゝれに雪の降つみて春の水花下通ふらし

春来てもとけぬ汀の岩むらにいつ波かけて氷ゐにけむ

春の雪あかきにくたき信濃なる菅のあら野の駒いさむ也

雪とけし岩田の小野の春日影道ゆき人も若菜つむらし

仇守る飛火絶にし春日野にたゝ新草のもゆるをそ見る

一夜来て旅寐うれしき故郷のあれし垣ねにもゆる若草

柳もえ蘆つのくみて津国のなからの堤ひとのいきかふ

          梅

此里は梅の林にこめられてかをるものともしらすそ有ける

江をわたる梅の追風香をとめて花の所に舟はよせなん

おなしくは梅の木本とめてまし埋みそまとふ春のたき物

梅花香にかをらすは霞こめ雪にうもれて春も過なむ

かへし着る夜の衣にしめる香は君かこてふにゝたる梅かな

雪分て昔の友をとひくれはよし野の里に梅も咲けり

曇り日はことにそにほふ梅の花風吹とつる深き霞に

鴬の鳴からしたる朽めより立枝うれしき梅のはつ花

野鴉の羽吹の風に散されし名残の枝の梅かをるなり

空さえて香こめに風のおくりくる雪と梅とをわきて見なまし

梅香峰をくたりの林には里に出しとうくいすのなく

我岡の林の梅を宮人の酒にうかへて我にたまはす

山かつのくたく薪にゆるされて立枝あまたの岡のへの梅

梅花風にちる毎鴬の笠とられたるこゝちやはする

          鴬

高円の野へ見にくれは新草に古草ましり鴬なくも

かけろうのもゆる春日の小松原鴬遊ふ枝うつりして

宿しめてねよけにも有か鴬の梅のこまくら我にかさなん

春の野の鵙の草くき誰見ねとおとろき顔に鴬のなく

鴬は枕の窓に影見えて春日なくさむ竹のした庵

          柳

大寺の門辺にたてる古柳土はくまてに枝は垂にけり

九重もちかくやなりむ道広きゆくてにもゆる春の青柳

一葉よりうかへならひし河舟をつなく岸根の玉の緒柳

          紅梅

此殿の八重のくみ垣枝こえて紅ふかき梅のさかりは

二月や八重咲梅の紅にうたて灰さす野辺のあくた火

          春雨

こちかせのけぬるき空に雲あひて木の芽春雨今そ降くる

けふ幾日晴ぬ雲間にのとかなる日影をこめて春雨そふる

面しろく雨ふるからに春の夜をみしかしと思ふ初也けり

春雨に着ならし衣かたしきて柴のおき火を埋みかねつも

          菴春雨

稀にとふ人をやとして春雨のよるをすからに語る庵かな

          春雨枕に雫す

春の夜の雨もる山にやとりして枕にちかきしつくをそ聞

          春月

みよしのゝ花遅けなる年たにも河せ朧に月はかすめる

三島江や玉江の水も濁るなりかすみてうつる春のよの月

しらま弓張てかけたる月影はみつれといく夜晴ぬ霞か

          桃花

春の水あさくなかるゝ片岸はもゝの林の山もとの里

折花におなし色也あら染のあさらの衣まくり手にして

          春日遊墨江

蘆原の、みつ穂の国を、中におきて、外行波の、千重浪の、ゆたのたゆたに、五百津船、千船をのせて、神代より、天のさくめの、跡とめて、入くる船は、玉はやす、武庫山風を、追かせに、夕へはなして、明たては、生駒高峰を、吹おろす、嵐のかせに、朝ひらき、漕てそ出る、大伴の、三津の浜辺に、ありたゝす、神の御前の、住の江の、いつはあれとも、春の海、奈呉の浦へに、家わすれ、拾へる玉を、くゝつ持、手たゆきまてに、をとめらか、裳のすそぬらし、みつ汐の、夕さりくれは、あはと見し、淡路の島も、霞こめ、ほのにも見えす、あしたつの、かへるあし辺は、汐さゐに、さわく入江を、漕たみて、行ちふ船は、蜑ならぬ、難破をとめの、家路ゆく船、

          反歌

なこの海の余浪の玉藻我からん汐満来とも沖にをれ波

          桃花

いつはらぬ春の日数をかそへ来て山のさくらは咲そめにけり

巻向の桧原杉むら霞けりほのに桜の色にこほれて

ひな曇る桜かもとを立くれはみとりの空にかをる春かせ

思ふことあらぬ枕に花の香のあさらに薫る春の明ほの

しはしとてたゝすむ花に相坂の関はゆふへの戸さしせしかな

桜花さけるを見れはかほよ人衣にとほるひかりなりけり

さくら戸をおし明かたの空見れはけさもをのへの花曇して

          山路花

おくれしとおひこし人にあはぬかな心そらなる花の山ふみ

舟うけて誰ものゝ音を遊ふらんあらしの山の花の木かくれ

夜にかくれ逢にし人に花山の道にゆきあふおもなしや我

          海辺花

須まの浦の礒山桜咲にけり波こゝもとに立くとや見ん

風待てとまりする舟礒山に咲ちる花の日数へしかな

汐なれし生田の杜の桜花春の千鳥も鳴てかよへる

          雨中花

打むれてきのふは見しを桜はな雨しつかなる陰となりにき

さくら花うれしくも有か此夕へ嵐にかへて小雨そほふる

  客来問吉野之花時答登山両回山水最奇絶其多花之処坂嶝開豁人跡絡繹、可謂清雅乏矣、思夫上古飛鳥藤原之世々、春秋〓行幸、美其山河之美、而臨水営宮、雖見田猟捕魚之御遊、更無望雲踏雪之轍、故好古士到于那処、則懐古以永言也、又問、翁嘗咏花、専用那処者如何、答、凡題詠春花秋月、采摘其地、以調風姿、猶之生旦上場、雖使人歓娯悲涙、比之良人世態動譟、則所感固浅矣、春花粉飾、妹子遇雨、怱失其美焉、那処山水最奇絶、但遊以花時者俗士耳、今教道以数言

                其  歌

空に見つ、大和島根の、国原ゆ、雲井に身ゆる、みよし野に、打ちこえくれば、遠しろき、川音さやけし、舟よはう、六田の岸の、柳原、風に靡ける、河のへえを、上りてくれは、花くはし、雲に埋める、麓辺の、秋津の小野の、岩村の、中切とほし、行河は、瀬々にむせひて、たきちあふ、水のまにまに、棹とりて、くたす筏の、岩にふり、みたるをあやな、をちこちの、岸にたゝすみ、我見れは、水に影ある、山吹の、重ねの衣、とき洗ひ、ほすいとまなみ、山風に、桜吹まき、帯にせる、象の小川の、みなわなし、河せに落て、滝波に、乱るゝみれば、風にみに、ちりやはまかふ、いにしへの、かたりにつたふ、とつ宮は、こゝとしきへは、三舟山、常ゐる雲を、振さけて、見つゝしぬへる、夏見河、よとめる末は、ゆう花の、ぬさの手向か、さなくたり、瀬おりつ姫の、河社、とゝろ/\に、ひゝきあふ、水のたきちも、広きせに、流れてゆたに、浅花田、深みとりなし、木綿畳、千村の絹は、天にます、たくはた姫の、神わさか、妻よひかねて、夕河に、かはつとよめり、とき人の、よしと見ましゝ、みゑし野の、ゑしのゝ山は、峰高み、河遠しろし、昔見し、春の盛を、おもほゆるかも、                  反哥八首

芳野川々隈ことに水泡なしよとめる花を昔見しかな

桜花うきて流るゝ跡見れは象の小川はまことさやけし

白雲はあしたにはれて三舟山夕ゐる峰の風のしつけさ

夏見川よとせなからしさしくたす筏か声のはやも霞める

河かみの国栖の里人春こすはとはれぬ宿と思ひたらまし

大滝をくたけて落る白波の音は嵐のたえまなきかな

夕蝦秋をさかりの声ならはたのめて又も我かへりこん

宿かさぬよし里ならは秋つのゝ岩かね枕夜を寒くとも

        題吉野宮

名くはし、よしのゝ国は、山つみの、守てませれは、山なみの、よろしき国そ、よき人の、よしと見ましゝ、滝つ瀬は、清き河内そ、しかれこそ、大宮人は、春花の、咲のをゝりに、鴬の、声をとめつゝ、秋霧の、晴ぬまよひに、暇なく、瀬々を乏み、いきかひて、見れともあかす、遊ひせし、秋つの小野の、とこ宮は、とこにはあらて、夏見川、なかるゝ水の、立やかへらぬ、        反哥

御舟山常ゐる雲のつねならは滝の宮古は今もあらぬか

        禁庭花

山里にあらぬ色香の桜花かよりかくよりそふ光かな

御渠水花そ流るゝ大宮の内にも春はとまらさりけり

        花頂山のふもとに住そめし春

すまて我見やはさためん栗田山泡たつ雲はさくら也けり

        花下遊

石川のこまのたはれ男花に遊ひぬしある人の帯なとらしそ

        嵐山花  三章

たには路をくたる筏の岩にふり幾瀬くたけて花はみるらん

大井川くたす筏の跡たえて夕への波に花ちりうかふ

大堰河岸の桜の影くれて月になりぬる波のひかりは

        老木花

年深き桜か枝は苔むして松を友なるよはひをやへん

        山寺花

葛城や高まの山の峰の寺寒き日影に花も咲けり

あはと見て帰るそはかなをとめらか門ゆるされぬ寺の桜は

谷わたる道はあらねといとふりし寺こそ見ゆれ花にこもりて

          古墳花

しめはへし苗代小田に影見えて年ふる塚の花も咲けり

          瓶花

かめにさす花はきのふの山つとをとひ来て人のけふも見はやす

          山里花

山さとは夕暮さむし桜花散はそめねと匂ひしめりて

          愛鳥篇

打なひく、春去くれは、百鳥の、さまよふ野辺は、新草の、もゆる垣ねを、誰しめて、すむ人たのし、あし引の、山の庵に、むら肝の、心すませは、かたらはん、人とほしきを、庭もせに、桜花さけり、ふゝむより、散はつるまで、風をいとひ、雨をそ怨む、春ことに、我をたのめて、明たては、閨戸遅しと、夕やみは、ほのに見えつゝ、言とひを、我にはすなり、花くはし、桜のめてと、いにしえの、遠つ飛鳥の、すめらきの、ことあけませし、にきたへの、衣とほりて、にほはせる、神のみことの、ゑまひにも、くらへおとらぬ、花妻の、あれをたのめる、里に出は、人恋よらめ、家のあらは、人とひくへみ、山口に、宇部やすゑんと、岩波の、千ゝにくたけて、思ひをそする、よしゑやし、恋はよるとも、袖はへて、とひもくへきを、朝されは、霞かくりて、夕つけは、霧の籬の、妻こめに、面輪も見せし、かにかくに、遠つあすかの、すめらきの、言挙ませし、花くはし、桜のめての、姫神の、いろ香おもほゆ、庭もせの、我花妻よ、散こすなゆめ、          反歌

桜花あかぬなけきを我すれと一夜の風にかさふしも

なかゝれとたのみこそせぬ桜花一よの風にちらむものかは

          落花

散まてとたのめし庭の花にうき暁かたのむら雨の音

桜ちる木の本見れは久方の星の林に我は来にけり

とめこしな花に初瀬の山おろし春もはけしきならひ也せは

山かせの吹とはなしに玉たれの外面に花のけさは散くる

竜田彦風を守りの神山におのか時とや散さくら花

朝鳥のこゆる羽風になからをのへの桜散初にけり

よしの山岩のかけ道春ゆけは滝つかふちのに花散うかふ

行くれて独のみ見る春の夜の月に花ちる志賀の山越

時鳥なくへくなりぬ花はみな散せし雨の名残ある空

桜花散を心のはてにして残る日数の春ははるかは

根にかへる花としいへはたのまるゝ又くる春も梢にそ見ん

          花遅し

花おそき桜か本をとめくれは青根か峰の外陰なりけり

けふとくるゝ日数にもれてみ山には遅けにもあらぬ花咲にけり

花桜かさねて匂ふ袖の色に春をとゝむる雲のうへ人

          すみれ草

あすもこん菫花咲春の野の芝生かくれに雉子鳴なり

          雲雀

春のゝはひはりの床と思ひしを空にやとりの夕暗の声

          賀茂の翁のよりめし

霞たつ春野ゝひはり何しかも思ひあかりて音をや鳴らん

          是につきて

冬の野の枯生に交る草の床にいつ立空と雲雀鳴らん

          翁も思ひありけなり我もしかりとや人聞らんかし

夕されは蝦なく也飛鳥川瀬々ふむ石にころひ声して

          躑躅花

みよしのは青葉にかわる岩陰に山下照しつゝし花さく

          藤花

神松にかゝれる藤も手はふれんいてや引てふ大ぬさにして

春と夏こなたかなたに咲藤の花やいつれになひく成らん

大原野の春日の社に詣はへりし時、藤の花の、松にいとおもしろくかゝりたるを、我すさの童の、何の心もなくて折つみけれは、里の子らか、それは神の木也、たゝりやあらんと云に、おとろきて泣かなしむを、とりて、ふとまへにさゝけ、よみて奉れる、

折と見は罪はかしこし大直日見なほし給へぬさの手向に

          牡丹を人々とよめる

色にこそ物おもはすれおほけなく国傾けに咲る花かは

          楊太妃一捻紅を

いさゝめのいろにそみても其君の面影見する花の名たてに

          浅紅                                          信美

花にそむ人の心の深み草薄くなれゐの色にゝほへと

          白                                            布淑

めてたくも咲みてるかなしらかさね粧ひけたかき花の君にて

          白帯紅                                        黙軒

曙の薄花さくら忘れめやほたにのいろにゝほはさりせは

          深紅                                          敬儀

呉藍の色ゆるされしふかみ草あてなる種にいかておひけめ

          朱砂紅                                        益

ませの内にあけなる玉や敷たると見えて花咲深み草かな

          紫                                            間斎

時めける濃紫の一もとにうへも貴盛しき花と社みれ

夏歌

          更衣

わた殿をいきかふ裾もかろけ也夏立けふのきぬの追風

人妻の是や卯月の夏衣馴れはかふるならひ有世に

          新樹

奥深く分しかへさの山口は青葉しけりて夏立にけり

いとはやも蝉鳴陰と聞つるは青葉にこもる滝の水音

          加茂祭

けふてへは高きいやしき葵草かけて神世をしのひつるかも

加茂山の神のおまへの駿河舞袖に桂の風もかをれる

          かきつはた

身におはぬつかさのいろの杜若きぬに摺つけ思ひ出に着む

          時鳥

時鳥待をならひと夕かけて山のいほりに長居せしかな

待またぬ宿をわきてや忍音にさよ杜宇鳴てわたれる

橘の嶋の御門にとのいして山ほとゝきす聞ぬ夜もなし

世を捨て思ふことなき暁に山ほとゝきす鳴て過なり

こゝた鳴里にはすめと時鳥初音はいつもうれしとそきく

我宿をいつ過しけん敦公有明の月にをちかへりなく

人やとすこゝは庵そほとゝきす此あかつきの声なをしみそ

我袖にかけてをうれし時鳥卯花山のあかつきの露

敦公またぬ隣も聞やせし人のけはひのしのゝめの空

夏の夜の月におくれて出ぬれと山時鳥をちかへる声

旅にしてさよ時鳥聞我をしのひて妹かいねかてぬかも

高野山槙の木立のほとゝきす此夕暮もあはれとそ思ふ

時鳥をしまぬ声を今そ鳴おのかさつきのさみたれの空

大荒木の杜にやとりて高々といむことなけに鳴ほとゝきす

植はてし山田の長か門に来てしこほとゝきす何をなくらん

花の枝の青葉立くき此ころは時鳥なく志賀の山こえ

さみたれは夜中に晴て月に鳴あはれその鳥/\

高砂のをのへ落くる時鳥きくやひゝきの灘わたるふね

信濃路は野をあまた也杜鵑菅のあら野を名乗てそ鳴

          夏草

伊吹山させもか草の茂けれは打散露も雨とふりつゝ

山里は垣ほのひまのあらけれは内外もあらす茂る夏草

むな分て行や牡鹿の跡もなく茂りにけりな夏草の原

          早苗

五月雨を思ひのまゝにせき入て小田のますら男さなへ取也

さみたれは継てふらねは近江の海磯回の早苗植そ足しつ

          夏月

松風のおと羽の山を越くれは夏ならぬ夜の月澄わたる

夏河に光をみせて飛魚の音するかたに月はすみけり

          夏夜

夏はたゝよるなき里と思ひけり立のいそきの草の枕に

          涼み

入つとふ千船のひまを漕出て夕涼みする浪花人かも

水音は絶し名こその滝殿に夕へすゝしき風も吹けり

都をは夜こめに出て朝日山あさ風すゝし宇治の河つら

          蛍

芦茂み葉うらにすかる夏虫の隠れてもほの見ゆる光は

わた殿の下吹風の冷かにてせき入し水に蛍とひかふ

此夕へ引やわすれし蛍火の光に見ゆる門の板はし

          蝉

明ぬれは樗花さく葉隠れにやめは次るゝひくらしの声

鳴せみのやとりの松の木本にもぬけの衣の風に吹るゝ

          照射

夏山のともしのかゝり打しめり雨うちそゝく明ほのゝ空

宵のまの月はかくるゝ雨もよにともし雲やくしからきの峰

          扇

夏ならぬ絵かきすさへるかはほりのそれも涼しき花のくさ/\

          鵜飼

御舟近く波を焦せる篝火に鵜のとる魚の数も見えけり

          西山夏雲

夕ことに峰なす雲はくつをるゝ花にあたこのあらき山風

          清水むすふ

旅人のいく度ひてゝむすふらん泉の河の夏のわたり瀬

          ゆふたち雨

かき濁し岩こす波もやかてすむ清滝川の夕たちの雨

夕立の軒のやとりを始にてうれしき老か友もとめけり

湊入の五手の船は早きかも漕そけてくる沖のゆふたち

風はやみ鞭さすかたに雲落て我駒嘶ふ野路の夕立

秋にまた色はならはぬ葛の葉の裏吹かへすゆふ立の風

          夕顔

たそかれにほの見し花はしら/\と有明の月の影に残れる

          撫子

朝寐髪かき撫子の花の上の露のしはしもめかれすそ見む

          藤原の宇万伎ぬしの手向を、洛陽三条の三宝寺の御墓に、烟に上て奉れる哥、

鳥か鳴、あつまの国の、武蔵の海、大江の水戸に、高殿を、高知まして、天の下、まをしあつかり、すめろきの、みことのまゝに、民草を、靡けたまへは、物部の、八十氏人は、夜の守、昼のまもりと、かしこみて、つかへまつれり、国つちを、たひらの宮の、大城には、みこともち人、わりすゑて、外のへまもらひ、すめろきの、日々のみことを、はゆまして、まをしたまへり、中のへは、千々の軍を、こめおきて、弓取しはり、千はや人、たはわさやすと、夜の守、昼のまもりに、召くはふ、天のかな機、足玉も、手玉もゆらに、神の織る、しつ屋のうしは、卯の花の、うきこともなく、出てこし、道の空より、煩ひの、神やつきけん、手束弓、杖につきつゝ、中の重に、さもらひしさへ、時鳥、来鳴五月の、さみたれの、はるゝ日もなく、末つひに、打こやしぬれ、さね床の、夜をすからに、故郷の、家をそしのふ、昼はもよ、息つきくらし、みな月の、照日を闇に、逝水の、過てむなしき、あら玉の、来経ゆく年を、手を折て、かきかそふれは、十あまり、三とせに成ぬ、すへもなく、ねのみしなかゆ、おきつき所、

          反哥

  いにしへをけふにむかへて忍ふともいや年さかるあすの日よりは

          夏祓

  唐崎のみそきははてゝたか里に袂すゝしみ漕かへる船

  大ぬさのしからみかけてとゝむとも流るゝ夏の夕はらひ哉

秋歌

          初秋

  紀国の室のわさ田の穂むきよりけさ吹わたる西の秋風

          晴砌風梧脱

  軒ふかき玉の砌の苔の上に夜のまの秋の桐の一葉は

          七夕

  天河舟さす棹のさはれやは月のかつらの花散みたる

  あまの々波高し夜こもりにかへすはすへな明けは面なし

          残暑

  朝かほの〓まぬほとに降晴て雨より後の秋のあつさは

  暮なはとたのめし秋の空見れは風吹とつる西の八重雲

          秋蝦

  秋されは下のやしろのみたらしに人まを待てかはつなく也

          稲妻

  秋立ていく日もあらぬに風をいたむ窓よりもるゝよひの稲妻

  いなつまの光ならすは暮はてゝ野中の松をそこと見ましや

          秋風

  吉野山紀の路にかよふ道ゆけは笹分る野ゝ秋のゆふ風

  村雨のはるゝ浅茅の露原にぬれてや秋の風は吹らむ

          初秋十七夜、三井寺の高きに上りて、月を見る、

  照月の影は浪もて砕けとも光は海をわたるなりけり

          あした湖上の楼に遊ふ

  白雲に心をのせてゆくらくら秋の海原思ひわたらん

          秋野

  君か家の壁草かりに野に出れは花盛なる秋にも有かな

          萩花

  朝なさな露たにおもき萩か枝の末ふすまてに雨のふれゝは

  あさ露はまたき下葉に消のこる野寺の庭の秋芽の花

  萩か枝の末はさゝれに流あひて波も花なる野路の玉川

          女郎花を植て、孫思〓を思ふ

  あまた植て、人や妬めるをみなへし老を養ふ色香とを見よ

  花ことに露を結へる女郎花心こまかに見るへかりけり

          槿花

  一日てふそれも栄を朝露のひるまをまたぬ野辺の皃花

          ふち袴

  花々に色はまけぬる藤はかま野はみなからの香に匂ひけり

  香にめてぬ人こそなけれふち袴誰にゆるして花の紐とく

          鴨頭草

  つき草にすらまく衣をめうつしにあやな千種の色にまよへる

          紫苑

  我ならぬあた名もよしやしこ草のしこちし人もなき世也せは

          苅かや

  風わたる野路のかるかや下折て穂に出し秋のかひやなからん

秋の日の峰に入さを待かねて草村ことにすたく虫の音

虫のねの多かる方に露分て野路の棚はしいくつこえけん

矢田の野の浅茅にすたく松虫の鳴音をとめて我立まとふ

こにこむる友をしのひて松虫の野にさそふとや諸声に鳴

庭草に鳴にしものを〓うたて夜寒の牀にちかよる

        虫声非一と云事を

つゝりさせ我機おらん秋のゝにいとまをなみの声々

        秋夕

思ふことありとはなしに悲しきは秋のならひの夕くれの空

        傷岡雄之亡妻歌

夏過ぎて、秋は来ぬらし、吹風の、めにし見えねば、朝影を、涼しと人の、夕暮は、さひしかりけり、荻の葉の、音はさやきて、蟋蟀の、鳴声きけは、いにしへの、人のあはれ

と、いひ次し、時にはなりぬ、其秋の、あはれちふことを、我のみの、身にしおふかは、妹なねは、秋たつ空の、すゝろにも、よみち小国を、何しかも、古さとのこと、立ていにし、むなしき牀に、とゝまりて、いかにせよとか、男しもの、腋はさみたる、はらから

の、緑児とゝもに、泣子なす、したひなけかひ、こいまろひ、足摺しつゝ、まとふらん、人こそあはれ、あすよりは、いかにせましや、年月を、長くともひて、かたらひし、ことの悔しき、妹なねは、よみちふ国に、さきたちし、うなゐはなりに、あひ見つゝ、手携はりて、遊ふらん、面影をたに、見まくほり、枕によれと、いねかてに、夢もむすはす、荻の葉に、秋風さやき、こほろきの、鳴よひ/\の、さね床そあれ、

          霧

みかの原夕こえくれは泉川いつこわたりも見えぬ秋霧

朝霧の海の玉藻と見しは此ふもとに茂き杉のむら立

おほつかな浜名のわたり霧こめて引馬のうまや朝立かぬる

        河内の国に人をとむらひし時、道の空にて読る、

伊駒根の雲は嵐に吹落て麓の里をこむるあま霧

        河内のくさかと云里にやとりてあるほと

我すめと門たゝくへき人もなし此山寺の秋の夜の月

        月哥

山のはにさし出る月の影見れは西を初の秋ならなくに

我すれる花田の衣のつき草の色なる空に月すみわたる

千里まて照せる影とゆふ波の汐のたゝへに月さし昇る

秋の月あふきてのみもありかてに筆の林を分煩ふ

世のうさを昔になして月見れは秋を盛りと詠むはかりそ

かそえ聞秋てふ秋の声絶て月影高く夜は更につゝ

ひとへ山隔つ都は秋の夜の月を賑ひ見るものにして

        山月

世に出る道は絶にし山住の月のあはれは秋はかりかは

        峰月

ねさむれは比良の高峰に月落て残る夜くらし志賀の海つら

        田家月

いはけなき里のわらへか夕まとひ月に指さし門遊ひして

        故郷月

ほともなくうつりしゆけは長岡の故さと寒く月はてるらし

        秋夜遊墨江哥

にきはやひ、神のみことの、〓なし、漕こし船ゆ、空に見つ、大和嶋根の、青柳の、かつらき山も、生駒峰も、常ゐる雲は、秋風に、伊吹はらひて、月読の、出ましの空は、夕霧の、立も昇らす、住の江の、敷津にたては、あからひく、入日のかけに、沖見れは、網引綱ひく、礒回には、小船釣する、秋の葉の、風のみたれに、岸見れは、あらゝ松原、よる浪に、根毎さらせり、白鷺の、ねくらをほのに、夕闇の、くるゝと見しを、月よみの、神の尊の、出ましの、みさきをはらふ、秋風も、身にししまねは、汐みつる、清き浜辺に

秋の夜の、ふくるをしらに、あそひす我は、

          反哥

伊駒ねにいさよふ月を波の上の中空まても見つゝあそはん

照月にあられ松原ひま見れはかつらの花のつちに散しく

          月前述懐

秋風に月すむ夜半の白雲をはらへとかゝる吾心かな

夜ひ/\に月は出ぬかなくさまぬ心の隈をてらすはかりに

          井中住せし時

たゝならぬ雲のけしきに門たてゝすはされはこそ野分ふく風

          詣八幡山放生会歌

秋風は、日にけに吹ぬ、白露は、朝に夕へに、浅茅原、玉と見るまて、おきそふと、人のかたれは、うつせみの、世わたるわさの、いとまあらは、いきて見ましと、思ふ空、安からなくも、たまさかに、立出けらし、堀江川、舟きほひつゝ、夕河の、みをさかのほり、漕ゆけは、秋はもなかの、十日あまり、四日の夜よしと、月影は、高くさし出ぬ、伊駒山、常ゐる雲は、秋風に、晴み曇りみ、岸つたふ、水陰草に、鳴虫の、声をしきけは、かにかくに、秋そかなしき、衣手に、露はそほちて、波の路、遠く来にけり、ぬは玉の、夜さへ更ぬれ、月読の、光のさやに、見さくれは、我心さす、八幡山、神さひ立り、此夜らや、神いさめすと、宮つこら、参りつとひて、白妙の、袖ふりはへつゝ、須売神の、出ましの道は、岩かねの、こりしく道そ、級たてる、さかしきみ坂、たひらけく、あゆみ行めり、神遊ひの、三くさの笛は、春鳥の、百千の声と、打ならす、鼓の音は、あま雲の、よそにとゝろく、神のおとの、をちに聞えて、諸人の、心そすめる、掛まくも、かしこけれとも、いはまくは、たふとかりけり、しらぬ火の、筑紫の蚊田に、あれましゝ、そか跡とめて、里の名を、宇〓とたゝへて、永き世に、あれつきけらく、大神の、おほみ心は、遠しろき、河内の国の、軽島の、あきらの宮に、天の下、治めたまへは、たく衾、しら伎の国も、言さやく、百済も高麗も、草木なす、風に靡きて、年のはに、八十船うけて、貢もの、奉るなへに、もろこしの、賢き道の、ふみともを、よみて聞ゆと、から人も、つかへまつれは、万世の、今のをつゝに、伝へ来て、大御代ことの、すめみまの、神なからしも、みはかりに、えらひとらして、国民を、ゝさめたまへは、そか法に、天のます人、益も、さかゆく事は、此神の、おほみ心そ、いはまくも、かしこかりけり、掛まくも、たふときろかも、しぬのめの、ほから/\と、天の原、朝霧こもり、出る日は、此いつきます、すめ神の、遠つみおやと、あかめます、大日霊女の、神なから、天照します、御影そと、あく世もあらす、拝みつるかも、

          雁

てる月に雁のまれ人なきわたる我まつ友はこよひこなくに

とふ雁のゆくへは霧にうつもれて鳥羽田の千町夕暮にけり

たか衣かりかね寒く鳴なへに月見し庵も戸さしせる哉

          擣衣

里はまたねぬ声す也から衣うつの山辺をこえて来つれは

何くれとかたりつゝけて蘆垣の隣へたてす衣うつなり

里はあれて尾花露ちる夕暮に秋をうつらの衣うつおと

人やりの我古衣うつ音を麓の家に聞夜寒しも

寐よとつくかねより後に音更て人待かてらころもうつ也

          小鷹狩

むさし野の尾花高かや踏しをり小鷹手にすゑ行人や誰

          鹿

月かゝる梢の紅葉散はてゝ牡鹿のたちとあらはなりけり

霜の上におきふしゝけきさを鹿の鳴声毎に我もねさめて

時雨して宿りやはせしさよ中におとろく軒の鹿の一声

しかりとてあはせし夢か野にひとり妬きをおのと恨む斗そ

声のみや独月見る窓の前にをのへの鹿の影も落くる

          奈良に遊ひし時

もみち葉をとめつゝくれは春日野の男鹿の床に我も宿れり

          紅葉

朝戸明て宿りの野辺を見わたせは近き林に紅葉色つく

大原や里の中道秋ゆけは青葉ましりにもみち散しく

とめこしをかひなくそ見る山寺の早き戸さしの庭のもみちは

九重の秋は西より紅葉かさしてかへるみや人

庭の面に乱て遊ふ沓おとのありやと見しも散紅葉かな

荒乳山関路の北のもみち葉に雪か時雨か雲の立まふ

大あらきの森の下草時雨にも霜にもあはてもみつるやなそ

山里の稲ほす賎か門むしろ時雨ぬけふは紅葉散しく

          遊箕面山歌

神代より、いひ次けらく、天地の、始の時ゆ、持わきて、大山つみの、なしませし、いつこはあれと、雨にきる、みのおの山の、谷間ゆく、清きかふ内は、真榊の、枝にかけし、鏡なす、そこひもすめり、此山に、鎮もる神の、にき神と、見てや過なん、真木たいぇる、峰の岩かね、切とほし、落くる滝は、天の原、ほろにふみあたす、いか槌の、音にまかけれ、此山を、牛はく神の、あらみ魂かも、

          滝の肩に紅葉一木立り

うつせとも影はとゝめす落たきつ岩垣紅葉色深きさへ

          秋のはて

秋もはや廿日みそかと手を折て山の紅葉を思ふ比かな

久方の天の河原も影きえて秋の夜くらく雁鳴わたる

豊年の新なめまつる神の前にぬさわ散して秋はいぬめり

          秋はつる日、信よしの家に、庚申をまつらるゝにいきあひて、哥よめといふに、読る、

枕にはよらぬ習ひのこひよしも秋のわかれをかねてをしまん

          かえし                                    信美

たか宿も枕によらねこよいとて行秋さえもまとまさりけり

つゝらぶみ  一

つゝらふみ  二

冬哥

世の事は聞えぬ冬の山里にけふもしくれの音つれそする

音たつる時雨もしらていなこきの夜声賑ふ冬の山里

苫上て夜のほと見れは友船のそなた時雨て波さわくなり

霜にのみ心つくしのきせわたにうたて時雨るゝ秋菊の花

片岡のもりて日影はさしなから木葉をさそふ夕時雨かな

          蘆菴しくれのやりとりして其あした傘もたせこされしにいひやる

むら時雨ふるにとなれる笠の山かさてそ君をとゝめましもの

          落葉

森深き神の社の古簾すけきにとまる風の落葉は

散はてゝその木ともなき冬枯に一葉名残の色は見えけり

有馬山落葉に道は埋ぬ君かみゆきの跡たえしより

          遊佐保山哥

神な月、時雨の常に、佐保の内は、露霜さむみ、こゝに来て、住しへもへは、草木すら、しなえうらひぬ、靫おへる、伴の男広き、大伴の、ますら武雄か、山路にけふは、袖ぬらすかも、

          霜

おきわたす霜の絶まと成にけり今朝は落たる野路のたな橋

          氷

夜のほとにふりしや雨の庭たつみ落葉を閉てけさは氷れる

信濃路のかしこきみ坂こえくれは氷をわたる海も有けり

          霰

宮木ひく杣かゝりねの板ふきに霰音きくさよの寐さめは

          霙

みそれふり夜のふけゆけは有馬山井出湯の室に人のともせぬ

          おくら江の堤を冬ゆく

風わたる枯葉に朝の霜消て芦の穂しろし淀の大沢

何にこの茎葉とゝめし花蓮浪もこそめの色に見えしを

          冬月

さゝなみの滋賀の海面月冴て氷に浪のたつかとも見ゆ

雪ふると見し夜の雲は名残なく晴て更行月のさやけさ

池の面にとつるとそ見し月影は空にさやけくこほる暁

更科や姨捨山の風さえて田ことに氷る冬の夜の月

          神な月の比、宇治の橋本にやとりしあした

風もなき朝立霧のそれをさへ流て早き宇治の河なみ

          冬枯

冬枯て荒のみまさる管はらや伏見も西のみやこなりしを

散はてゝ寒けに靡く枝ことに芽はりて見ゆる門柳かな

かつまたの池の蓮の枯茎に風吹わたるあした寒しも

千鳥なくすま山陰の浜つゝら浦つたひしも冬枯にけり

          雪

故郷はいかに降つむけふならん奈良のあすかの寺のはつ雪

ひとゝせの昔に山里をけふとはすはと雪ふみまよふ

大原の岡のお神かふらす雪大和国はら道もなきかな

杉かへを雲は走りて吉野なる樫の尾上にはたれ雪降

大空を打傾けて降雪に天の河原はあせにけんかも

誰か恋のつひの夜かれとなりぬらんけぬか上ふる雪の道芝

たには路に打こえくれは野も山の照る日なからにはたれ雪降

鯨よる浦山松につもる雪波にけたれて又ふりつもる

呼かはす声を便に夕こゆる山路をしらす雪のふれゝは

          雪浅し

いつしかとまたれし雪を旭さす松の雫に見るかわひしき

          雪深し

聞しより思ひしよりも冬深き雪のしたなる越の旅ねは

故郷の難波江いかに寒からん鴨の河原に雪のふれゝは

根芹おふ田井の水渋の色なから氷れる上に雪のつもれる

但馬なる雪のしら浜風さえて猶降つもるゆきのしらはま

冬深み雪ふりつけは三越路の松の木すゑは道のしは草

積雪のとゝろに崩る山陰は朝戸をおそき里の門/\

          感懐

九重に八重降つめるしら雪の下に埋れて老や朽なん

沫雪のあはれは老か思ふ事つむとはすれと下崩れして

          狩

大君の御鷹あはすと狩杖の音高しもよ野路のふし原

          水鳥

巨椋の入江の小船槽はたちかへれはうかふをし鳧の声

風ならは閨戸に聞を静なる空に嵐のあちのむら鳥

池の嶋松のさえたにゐる鴛の妻呼かねて波の上におつ

          翠池浮鴨

おのか名の青波たてゝ冬の池にこゝたうかへる鴨といふ船

          千鳥浦つたふ

須磨の山の松吹風や送るらん生田の浦にちとり鳴なり

大井川冬は嵐の山松の影見る淵に千鳥なく也

          網代

夜舟こく宇治の河波さわくらし網代にかゝる氷魚の乱は

打かけし波さへ氷るあしろ木を守あかすらん宇治の里人

          冬の梅

こぬ春にあらぬ物から待ほとを梅は心にまかせてそ咲

難波江や西吹冬の浦風にそむけてひらく梅の初花

枯芦にこもれる沼の岸見れは花寒けなる梅の一もと

ひらくやと冬の北窓明見れはふゝめる梅に雪のかゝれる

          仏名

声清くとなふる御名を頼まれて身は罪なしと思ひ社なれ

御名となふ夜ゐの法師かあけ衣明て出とも誰かとかめむ

          追儺

年ことにやらへと鬼のまうてくる都は人のすむへかりける

          歳暮

谷水の音羽の川も氷ゐてよとめと年はとまらさりけり

老らくは安きことなり年月のくるとあくとの跡につきては

          田舎に有し時

世中にさはらて年も暮にけり八重葎さへ枯し垣ねは

          としの暮に、荷田信郷とひ来て、めつらしく、都の春を迎へらるゝ事よ、客中の歳暮よみて聞せ給へ、翌まうてんとていぬ、試みらるゝにやと僻こゝろするに、日暮て、信美の来られしに、筆とりてよとて、つゝめきし哥

うつせみの、世は海にかも、我はもよ、棚なし小船、沖辺ゆかは、風をいたみか、澳つかい、とりかてぬかも、ありそ辺は、波のさわけは、辺津械も、とりえぬかもや、人皆は、しかにはあらしを、我はもよ、世のしれ人そ、難波江の、蘆の八重葺、ひまもなく、物をそ思ふ、こゝろから、すみかさためす、草枕、たひとあはれと、都人の、見らくをやさし、水な月の、あつきひるはも、夏虫の、ほむしの衣、一重こそよき、夜はもよ、露にぬれつゝ、秋されは、ひちこそまされ、天河、あふきて見れは、月影は、満てそかくる、我齢、我世もしかそ、長月の、夜寒になれは、雁かねの、おほふ翅に、もる霜に、はたへ氷れと、冬きぬの、神も守らす、やれくたつ、しくれの雨の、ふる衣、身にとりまとひ、ぬる夜まれに、わひつゝそある、しかはあれと、世は海なれは、大船に、真〓しゝぬき、わたりする、人のうけきも、喜ひも、我はしらすえ、み冬尽、春はちかけと、西の市に、立も走らす、ひんかしの、市にも出す、あし引の、山辺の家に、庭雀、うすゝまりをり、かた塩を、取つゝしろひ、さす鍋に、湯わかし酌て、あら玉の、来へゆく年を、むかふとやきく、          右寛政五年六月、漂然来京師、茲歳冬十二月廿八日夜賦之、

          歳晩夜坐感懐

此年や、何そのとしそ、この夜らや、いかなる夜らそ、あら玉の、来へゆく月日、老か身に、たへぬ重荷を、弱車、かけてしのへは、いにしえは、うけきか中に、喜ひも、有経し事を、白浪の、跡なき方に、過し来て、今のうつゝの、よろこひに、うけきかそふは、我のみか、豊蘆原の、久方の、天のます人、おのか世の、よけきにあかねは、悲しひを、むかひの岡の、桜花、咲のをゝりに、ぬは玉の、一夜の風に、散か過なん、其花の、みさかりのこと、やすみしゝ、国のはたてに、あふき見て、阿部橘の、とこ宮と、思ひたのみて、夜の守、昼のまもりの、をとめらか、赤裳曳はへ、神の如、つかへませしを、此年は、何そのとしそ、あら玉の、来経ゆく月日、暮はてゝ、月もかくれぬ、其月の、入ぬるかこと、闇夜なす、黒き御車、とゝろかし、よみちふ国に、出ましの、御供の人も、鶴はみの、にふ色衣、にふゝにそ、あゆみやつかると、をろかみの、心もあらねは、弱車、ひかれも出す、葎生の、門さしこめて、此夜らを、もりてそあかす、懸まくも、かしこけれとも、玉きはる、命なにせん、老か身に、翌を春とも、おもほえす、あはれ/\と、此夜らを、なけきてあかす、かしこけれとも、

            反哥

立さへもしよもつ平坂岩くえてとほらふ道といつか成けん

弱車とほらふ道そたのまるゝ老かこゆへきよもつひら坂

          右

国母御葬送之大路、与寓居相近、因有斯作、

          年かへりて、む月のおほやけ事とも、皆とゝめさせたまふか、二月ついたちをはしめに、御ためし、しき/\行なはせ給ふと、もり聞たいまつりて、

年きりと思ひし花も咲にけりにほひおくれて見ゆる物から

          客舎感懐

年といへは、月日あまたに、春霞、秋たつ狭霧、ほとゝきす、鳴や五月の、さみたれの、けふをいく日と、長きけに、いふせくも有か、神な月、しくれの雨の、晴雲、雪にこもれる、此まてを、久しとをいへ、其年を、十はた三十、四十ちふ、老の初めも、いつのまに、遠さかりぬれ、百足す、経ぬる齢は、海にある、物とし聞を、天雲の、よそにはあらて、おのか身に、積つるやなそ、山河の、七瀬よとます、此年も、暮果ぬめり、何すとか、世には有りけん、うつし身と、我思はねは、花の如、栄ゆる人の、今まても、世にはあらしと、住の江の、浜によるちふ、白玉の、忘れてそある、宿さへも、とはるをやさしみ、松の戸を、さなしかためて、釘さして、入れしとそすまふ、此戸ひらくな、こゝにある子よ、

          反哥

浦嶋かゆたなひく白雲の天にもゆたかな老においては

          其二

年てへは、明る暮ると、一とせを、一日のことに、いひつゝも、過るをゝしみ、新らしき、春をむかふと、よき人の、家のためしに、清まはり、ゆまはりしつゝ、神にねき、こと穂咲して、うからやから、にきひゆきかひ、たぬしきを、へめとそいはふ、内日さす、宮のとのへの、水鳥の、鴨の堤に、草枕、かりほにはあれと、六年まて、おき居ふしなれ、世の人の、なすわさしらす、鹿しもの、ひとりある子も、打たのむ、せなに別れて、ぬは玉の、衣着まとひ、ゝたふるに、後の世たのむ、すへのすへなさ、

          反歌

生死のふたつの海の中つ瀬にかゝりてあまた年も経にけり

雑歌

          天

八百万千よろつ神の神ことも天先なりて後とこそきけ

          日

久方の日のたてぬきに春秋をあやに織なすたく機の神

          星

闇たにも忍ふさはりとさやけきは天のかゝせ男あしき神也

          雲

晴雲る人の心にくらふれは雲の迷ひはかこと也けり

          暁雲

よしの山雲にまかへる花さけは花にもまかふ暁のくも

          雲有帰山情

まかはしと花にわかれて小初瀬に夕へはかへる春の浮雲

          青靄

浅みとり我まつ染て春の色を野山に見する朝霧かな

          煙霧

夕暮の霧の籬の嶋松は烟にたてる真しはともみゆ

          雨

三芳野の山に入にし人とへは花にも雨はさはらさりけり

          露

白露に消はおくれぬあた物の命を人はたのむなりけり

          風

巻向の桧原さやきて吹風に初瀬をとめの袖かへる見ゆ

思ひつゝけふも暮ぬる都辺に山風さえて出かてにする

          山

ふたら山あつまの空と聞つるを茂き御陰はこゝにし有けり

阿耨多羅我たつ杣を始にて比枝の山彦よはぬ日もなし

万代の国の鎮めのふしのねをあふけは空にうつしみの神

田子の浦や千尋の底には走出のふしはあふきて高きのみかは

高ねこそ時をもしらね春されは青柴山に霞たな引

消てふる雪かちりけむみな月のふしのすそのゝ夕立の雨

庵原の清見か崎に朝晴て不二は秋こそ見るへかりけり

箱根路の雪路分て真しらねのふしの高峰を空にみるかな

          谷

誰か来て住つきにけん山深き谷のひとつ屋煙たつ見ゆ

          原

下野や那須の筱原しのふとも都は遠しあゆめわか駒

          野

むら雨の名残は草に埋もれて野末の小川音まさるなり

          海

こしの海は浪たかゝらし百船のわたりかしこき冬は来にけり

伊豆の海を漕つゝくれは浪の小嶋よ見えかくれする

わたつみのそこともしらぬとまりして袖には波のかけぬ夜もなし

          海上眺望

もろこしを出て幾日の波の上に不二の高ねは見ゆと社きけ

          河

津国にありといふなる玉川は卯花くたす流なりけり

          滝

岩根よちかつらにかゝり越くれは落滝つせの水かみにして

散花は水沫に消はてゝとはに流るゝみよしのゝ滝

          池

かふ内なる狭山の池の広けれは稲葉かりつむ舟も見えけり

道ゆかはとひても見ませ笠ぬひの真管刈てふまのゝ古池

          皇都

神なからえらひ定めて国土をたひらの都今さかりなり

九重の内外に遊ふ鴬の春はくるれと古巣忘れて

          神社

神まつる黒木の殿のかり初を松の一木に造けるかな

里近き野中にたてる神社木深からねと茂りあひにけり

          寺院

小初瀬の寺の長屋のかり枕夜ころになしむ鐘の音かな

墨染のくらまの寺と聞つるは雪にあかるき山路なりけり

今はもよ片われ月の九重に東の寺のにしにたつ見ゆ

あかつきはうれしとを聞かねの音を夕への寺にあはれすゝめる

          門

門広き人の情を見聞には交りかたきものにさりける

          隣

たのめかし壁の隣のともすれはあふさきるさにうたて世の中

          宿

朝とくと思ひし宿を鴬の鳴音ほたしに出かてにする

          田廬

引はえし山田のひたの縄朽て守にしまゝの岸のふせ庵

          窓

余所はまた暮もはてぬを森陰にふみゝる人のまとの燈火

法の師のおこなふ窓の紙やれて頼める西の風は寒しも

          竹窓夜雨

ねさめては文見る窓に植竹の葉をうつさ夜のむら雨の音

          軒

軒並ぶ都のにしの錦織おとたかしもよ静なる世に

          関

あふ坂のゆるさぬ関にたゝすみて時雨をよそに過しつる哉

          僧

木葉うくあか井は雪に埋もれて仏のつかへ今朝そ怠る

          翁

百年をかそへもしらぬ古翁此一さとの神とかしつく

          若子

弓箭おひ君か御幸のみさきおふわく子うつくし我聟にせん

          樵夫

大木曾や子来岐曾の山の深けれは真木の杣ひとこゝた入てふ

          漁夫

ちぬの海の浪まにうかふ桜鯛網引や花をちらすなるらん

          懸想

山川の岸に根はへる藤かつら思ひかけては橋とならめや

          疎くなる

玉たれの子簾にかゝれる葵草かれ/\秋にあはんとやする

          夜ひとりをり

君は今は越はてぬらん立田山なかむる峰に月は入にき

          名をかる

たつ名をはよそにおふせてかつ歎くそれを便に人や恋よる

          堪へしのふ

あまりにも老ぬる人の心かなとはねと恨むふしも見えぬは

          三年たゆる

三とせこぬ便をきけは東路の草の枕に妻もとむてふ

          月へたつ

今こんといひしも久し我ならて親をおもはゝ早かへりこね

          一夜へたつ

隔つるは一夜はかりのさね床に心つからや塵のつもれる

          不逢

たらちねのゆるせし我を人ことの千名の五百名にあはぬこの此

          片想

中々に思はすもあらぬ風の音の聞こえてくるしかた恋にして

          弓による恋

引ならすとのいか弓弦音更て誰か上ならんうしと告也

          機による

千々わくる糸の乱や高機の空なる人もこゝろあひては

          糸に寄

神ことのたゝりにかけてくる糸のたへは次んよ恋なみたれそ

          荻に

乱れあふをきの葉風のさや/\に人そいふなる夜にはかくれよ

          女郎花に

堀植えてかひある花は女郎花くねるも我をたのむ也けり

秋もはや末野のはらのをみなへし人にをられん時も過にけり

          ないかしろ

さりともとたのむこゝろも我からに芥河にそ身を流しつる

          怠り

おこたりは我とうらみん綱引きてあふ夜あはぬよ心見しから

          夢

思はぬも夢の枕とふおもふに見えて早もさめなん

            竹与心倶空

ためすとも直き心はおのつから竹とゝもにやむなしかるへき

            野渡無人舟自横

冬枯の野川の風を身にしめてあはれやひとりわたり呼声

            世人結交用黄金

交りをこかねにむすふ世の人のつひのこゝろそつねなかりける

            白眼看他世上人

よの中の人をさくれはおのつから塵なき庭の松の下臥

            悔教夫婿覓封侯

何にかく出し立けん劔太刀名のをしけくも今はあらなくに

            調与時人背、心将静者論

我をしる人しなけれは我しらぬ人に見すへきこと草もなし

          元興寺の僧のならへる

鷹すゑて分る野山に引犬のさときは人にうとまれそする

        画題  初夏晩来微雨                              澄月

よしやふれ此夕くれは時鳥旅たちぬへき雨もよのそら

                                                      蘆菴

緑そふ小雨やくらき木隠れにほの見え初る窓のともし火

                                                      蒿蹊

舟とむる江の波くれて打そゝく雨にまたれつ山ほとゝきす

                                                      立斎

橋見ゆる野川の岸の夏木立暮ゆく色も雨をふゝみて

夕つけて水に音なく降雨は卯花くたす初めなりけり

          海鳥暮天舟泊図

名もしらぬ沖の小嶋の礒枕夕浪さわき秋の風ふく

          漁舟図天地一釣竿の心を

海はらにたゝ一筋の釣の糸の外にうつさしおのかこゝろを

          月下草露のかた

更ゆかは霧やむすはん白露の光を寒み月すみわたる

          山田に喬松立り

植はてし山田の岸のひとつ松影いとはるゝ時は来にけり

          小松に雪かゝりりたる

さかの山弟ねのけふも風さえて小松かうれにつもるしら雪

          毛毯胡鬼の子

  鴬の軒端の声を始にて百千とり/\遊ふ春の日

          河柳三日月

涼みとる淀の里人河そひての柳似落る月を見るかな

          鶺鴒石上に遊ふ

いその上におりゐるほともいとまなき教に遊ふ庭叩かな

          池水氷り千鳥群とふ

冬の池のさゝ波とつる暁にこほらぬ声を鳴千鳥かな

          紅葉散鹿の足跡あり                                  蘆庵

此秋も行てかへらぬ跡見れは我さへもねに鳴ねへらなり

                                                        蒿蹊

もみちはゝ猶散しけやさを鹿の跡をさつ男のめにたてぬまて

  暮て行秋をゝしかの跡とめて深山に我もかえろとそなく

          屏風に殿つくりの上を時鳥鳴て過

との守のとのい人かも滝口に名乗て過るさよほとゝきす

          たかき山の雪つもり月空にすむ

しら山をおろす雪吹の風の上に冬の夜中の月すみわたる

          楠公讃

君か思う君にありせは剣太刀ときし心のかひそあらまし

君こそは君をしらされ天地の神ししれらはしらすともよし

ほまれある名をはあふきて大方は君か心を知らぬなりけり

          浦島子

古郷と思ひしものを年へてはしらぬ国にも我はきにけり

          東方偸桃

すましきは盗也けり幾千とせ後の世まてもかたり伝えて

          六歌仙

言の葉も人のほまれもおのつから六つてふ数にあふやなになり

          陶淵明

秋菊の露のおきふし安き身をなと世に出て立やまとひし

          能因窓よりかしらさし出したる

いつはりを我心からゆるされて迷うか道のはてしらぬそら

          蓮性倒騎

西をさす心のかたはたかへとも背かてのりの道あゆむ駒

          西行猫の火炉手にすゑたる

杖笠の外には何をから猫の火とり灰のかゝる身にして

          雪中常磐子

降雪に羽くゝみかぬる夜の鶴悲しき声も天に聞えむ

          子原女の柴に腰うたけ煙くゆらせたる

休らひてあたにくゆらす烟草それも真柴の空になひきて

          旅人雨を凌つゝつれたつ

みやし野の花に心のいそかれて雨やめてともいはて行らむ

          廬山雨

白雲の上のいほりと思ひしを夜るをすからの雨の音かな

          緑毛亀

こきとても緑の衣の位山おふてふ亀の名こそをしけれ

          鶴むれとふ

鳴わたる天の鶴むら声なくは空めの秋の風のしら雲

          松に月かゝれり

月すみて松に声なき秋の夜は緒すけぬ琴の遊ひ也けり

          比枝に雪つもれり

真しらねの日枝のみ雪の暁はふし見ぬ老か思ひ出にして

          老梅

なへてとふ人もあらしな故なさとの老木の梅の春の初はな

          立雛

別れすむ教え習はぬいにしへの河洲の鳥に遊ふさま見よ

          明烏

夜からすとたのめし声をいきたなき枕に明るしのゝめの空

          其かたと云に

朝妻に泊する舟寒からしたえす伊吹の山おろしの風

          早友迫門の図

うみ苧なす、長門の国と豊国の、中のわたりは、はや友の、神のまもれは、百船の、小戸の汐あひ、潮まちて、真かちしゝぬき、風待て、漕ぎこそわたれ、此神の、相うつなへは、鯨うく、大海原の、西をさし、北へ廻らせ、よくゆきて、好もそ帰る、此浦の、磯回に立て、人さはに、居ぬる里を、たにの浦と、名には聞えて、かしこしや、海をたのめて、背ともなる、山には畑うち、塩木こり、寒きよひ/\波の上に、千鳥妻よふ、蛋の子の、いつちとまりと、漕こねは、妻待かぬる、枕辺に、波の音さわき、あとへにわ、山風さえて、いく夜あかすも、

          反歌

わたのそこのにきめかねる夜は荒塩の干るもみつるも神のまに/\

          見神崎遊女宮木古墳作歌

うつせみの、世わたるわさは、はかなくも、いそしかりけり、立走り、高きいやしき、おのかとち、はかれるものを、ちゝの実の、父や捨けん、はゝそ葉の母か手はなれ、世のわさは、多かる物を、何しかも、心ゆもあらす、たをやめの、操くたけて、しなか鳥、猪奈の湊に、よる船の、かち枕して、浪のむた、かよりかくより、玉藻なす、靡きてぬれは、うれたくも、悲しくもあるか、かくてのみ、有はつへくは、いける身の、生りともなしと、朝よひに、うらひさふしみ、年月を、息次くらし、玉きはる、命もつらく、おもほえて、此神崎の、河隈に、夕汐待て、よる波を、枕となせり、黒髪は、玉藻となひき、むなしくも、過にし妹か、おきつきを、をさめて

よゝに、かたり次、いひつきけらく、此野辺の、浅茅にましり、露ふかき、しるしの石は、たか手向そも、

            右遊女入水之事見円光大師伝記

          賀荷田信美之新室歌

掛まくも、かしこけれとも、いはまくも、あやにたふとき、すめみまの、神の尊の、御心を、たひらの宮と、定めまし、御代の嗣々、老松の、千歳なせれは、枝葉おひ、根はひ広こり、天雲の、上につとへる、臣達の、末にまゐ出て、夜の守、昼のつかへに、雲に乗る、竜の尾をふみ、鵲の、橋をわたりて、かしこしと、身もたな知らす、汐干の、か田の氏人、いさをあれは、此大宮の、とのへなる、鴨の河岸、つきならし、岩根とりなめ、真木柱、えつり壁草、はこひもて、造れる家は、さき草の、さきてまさきく、うみの子の、末のすゑまて、住次ん、始おこせは、大鳥の、羽かへはせしな、河のへの、いつ藻の花の、いつも栄えむ、

          反歌

つい立る君か新室諸人のほく豊御酒に歌たのしせな

        送佐々木真足東行哥

あつま路は、はるけかりけり、わたつみの、へた行道を、海わたり、河舟よはひ、ぬてゆらく、馬に鞭さし、真木立る、山をもこえて、ゆく人も、のほりやはえん、雲たにも、いゆきははかる、不二の峰を、何にたとへん、打ちよする、駿河の国と、なまよみの、甲斐にうしはき、伊豆相模、国のこと/\、立きそふ、高峰こと/\、八尺瓊の、五百つつとひを、緒に貫て、きすめる玉の、あな玉は、ふたつやはある、天にます、玉のおやちふ、神わさに、造りみかきて、立出の、峰にとこしく、つむ雪の、光かかよふ、走出の、麓の海の、田子の浦に、ゆふ花さけり、みすまるの、玉拾はすは、浪の穂の、ゆふ花つみて、浜つとに、もてこ我せこ、帰りこん日は、見ぬ老か為、

          小沢蘆菴をはしめてとひゆきし時、翁さうの琴、橘の経亮やまことかきあわせ、あるしせられしに、よめる、

山さとの二木の松の声あひて秋のしらへは聞へかりけり

          かへし                                翁

山陰のふた木の松の秋の声人に聞るる時もまちけり

          二木の松とは、この庵の庭もせに、年深きか立るをもていひよするなりき、翁世を去れし時にも、

玉琴の緒はたちしかは君か庵のふた木の松よたた秋の声

          南禅寺の庵に有し時                    翁

君かすむ宿の水音聞つれは濁るこころもあらはれにけり

          かへし

我庭のさされ石こす谷水のすむとはかりは人目なりけり

        年の暮には、いつも炭を切て贈らるるに、よみてかへせし哥、

うつみ火のすみつきかたき都にも思ひおこす友は有りけり

          かへし                                翁

思ひやるかひこそなけれ埋火のすみつきてたたひさにあれこそ

          河内の国にとひゆく人のありて、はろ/\来たりき、こその秋、なき人をここに伴なひこし事を思ひ出て、すすろに打なかれつつ

身は同し家にありとも物思ふ心をいつち宿りかへてん

          とし月うとかりし人のもとより、度々おとつれすれと、聞えぬはいかにそや、うらみつへきものそといひおこせしに、

なか/\に我怠りをしるへにてうれしき人の心をそ見し

          といひしかは、心とけぬとなん、又のたよりにいひこせしなり、すみかさためす、をちこちしあるくを、今はいつこにと、人のとひけれは、

風の上に立まふ雲のゆくへなくあすのありかは翌そ定めん

          とこたへしかは、爪はしきして、憎きものにいふとなん聞えし、又長柄の浜松陰に、かりほつくりてすむとて、

むすふより荒のみまさる草の菴を鶉の床となしやはてなん

          庵を鶉居と名付しは、聖人鶉居〓食の謂にあらす、鶉は常居無しと云によれるなり、此いほり、にある夜ぬす人入て、いさゝかある物をかつきもていにけり、あしたおもふ、

我よりもまつしき人の世にもあれはうはらからたちひまくゝる也

          其入し壁のこほれを、窓に作らせて、盗窓と名つけて、風を入る便りよしと人にかたり  しかは、あなしれ/\しとて、あしく云とも聞し、

          岡男鳥と云しは、友垣の中に、物ら  問かはしつゝ、いとうれしきかたらひ人なりしに、病して、俄に失しかは、打泣つゝ、

我こそと思ひさためて捨し世の人におくれんものとしらすて

          まさのりと云しも、まめかたりする友なりしか、打つゝきてはやう死けり、えかたき人々をさいたてゝ後は、友とてもとめす成ぬ、

脱かへん一重衣もあらてたゝ露置きそふる秋にさりける

          或人、世に有わひて、云こせる、

ゆく末の遠きをさても忘られて身のひとつたに今は給わせ

          と聞えしに、よね一斗をおくりて、

行末もあすの便もしらぬ身のひるまはかりは過せとそ思ふ

          岩井何かしと云謡曲の上手の、七十の賀をもとめ来たられしかは、よみてあたふ、

鴬のねくらの竹のふしはかせ世の長人とはふへらなり

          しるしらぬ人の、齢つめりとて、いはひの哥こふ毎に、いつも贈れるうた、

かきりなくよはひたもちて春秋を千々万代とかそへても見よ

          あるやんことなき御かたに、時々参りて、物ら聞えたいまつるなへに、わつかに散とゝまりしふみともを、めなし鳥のやくなき物から、取あつめ奉るとて、よみてくはへし哥  、

今はたゝ老波よするくつれ岸ふみとめよとも頼む君かな

          御かへし、ろくにそへてたまひつれと、かしこけれはしるさす、

          四天寺回禄  三章  雲水とは五層の浮図の名也

雲水もやけか亡ふとまたき世をしるせしふみにありやあらすや

名そまこと荒にしをかの冬枯の昔にかへる風のおとかな

はしめ有し昔の時を人は見し今の終にあふかゝなしき

          船

から〓を五手にたてゝ四つの船わたりしみ代の例しのはゆ

空かすむ難波の海の朝なきに帆手打つれて出る舟人

          車

ひんかしにたつ市見れは小車のはこふ秋物ところせきまて

          馬

中々に翅は折れん一日にも千さと行てふ甲斐のくろ駒

          牛

五月雨の晴まもとめてすきかへす水田のあゆみうしこそ見れ

          犬

夜ひ/\に垣もる犬におとされてにくゝも妹を思ひこそなれ

戸さしせぬ野寺の門にふしなれて稀にそ犬の何をとかむる

          猫

たか家をはなれてこゝに迷ひこしとゝむ一夜になるゝから猫

          猪

ふみ迷ふふしのすそ廻の真かや原あら猪のかよふ道は見えけり

          鯛

安濃の浦の鯛つる蜑かけふもまた釣ほこりては酒にかふらむ

          鯉

淵ふかくすむとはすれと淀舟の棹にそ鯉のおとろきをして

          鱸

出雲なる松江の鱸秋風に姿を見せて立るしら波

          鯨

松浦かたかよふ鯨の跡みれは天路にけふる八重の汐風

          蟹

蘆原のことは茂くてかひなけに世にすむ我と人も見るかに

津の国のなにはにつけてうとまるゝ芦原蟹の横走る身は

          蛛

世の中はかくこそ有けれ軒わたる蛛の巣かきに秋の風ふく

軒こほれ瓦砕けて古寺の蛛の網にも月のかゝれる

          鴛

かゝ鳴てよふへはかへる荒わしの翅にしのく筑波やま風

          鳩

野分吹風にはねきり飛鳩の宿りまとへと友ははなれす

          雀

二むらの竹の臺のねくら鳥とのい呼おこす雪の朝声

          色をわかちて、人々とよみける中に、

花にさき絹に染つく紅のうつろふ色を見はてすもかな

          常に茶を煎てあそひ敵とするに、よめる、

あかてしも春の木の芽を摘て煎て心は秋の水とこそすめ

          東坡云、佳茗似佳人、

すむといひ清しと云もよき人の常とし聞けはあかぬ我友

          茶如接高貴之人、失度其悔不可帰、

天しるや真名井の水のえらひなきくひの千度はしれ人の友

法に入法を出すはあちきなくすむも濁りて終の世や経ん

          空也堂の法師、茶筅の哥乞しに、

草木にもあらぬを竹の穂になひき末はみとりの波も立けり

          茶盒子をつくりて、其土色もて、冬衣と名つけたるに、

こく薄くかさねても猶冬きぬの神まもらね寒けなりけり

          香煙一嘘遣悶と云事をよめと云に

憂き事を空の烟にふきやれは垣ねの夏の草やなになり

          河内の尼、足袋ぬひておくりしに、

浅沓のあさましきまて老ぬれは此たひを世の限とそ思ふ

          かへし                                          唯心尼

あさくつの浅くは君をたのまねはなと此たひや限なるへき

          伴蒿蹊の女の、とみの病にむなしきと聞て、

よはひとて人のいはふは憂きことの数そふ年のつもるなりけり

          翁の齢、我には一とせをこえさせしかは、いとほしさにいひやりけるなり、むかし今をおもひめくらすに、唐の郭汾陽、この国にては、皇后宮大夫とし成卿をおきて、終の世まて、うき事しらす、富とよはひと、ためしなく聞えたるはあらすなん侍りき、

          冬の夜のなかきをかこつ老をあはれみて、かたはらに在人の、何くれとなくさめかねつるあまりに、光源氏の物かたりを、つふ/\とよみて聞ゆ、一夜に一まき、或は二巻、長きはふた夜三よにも、巻々の終ることに、是かあたひに、哥よむへく云、いなまてよみつるか、そのこゝろをやたかへつらんもしらす、いみしきをこわさなりけらし、

          桐壷

よひのまにはかなの月は入にけりねためる雲をかけしなからに

          帚木

さま/\に定めあらそふ人の上にはては心もさみたるゝ空

          空蝉

やり水のほまれの門をひき入る車は恋の重荷なりけり

          夕顔

けやすしと思はゝなとてよりて見ん明るをまたぬ夕かほの露

          若紫

九重の北山さくら咲にけりかけし霞も名残なき空

          末摘花

中川にことよき橋をわたされて見るめなき野を分もこしかな

          紅葉賀

もみち葉の光をけふは照そへて千秋と君をいはふへらなり

          花宴

かすむ夜もしつえやすけに手折らるゝ薄花桜色にゝほひて

          葵

わりなしやねたさひとつのうき瀬には人をも身をも沈めつる哉

          さか木

神風の伊勢はそなたとさし櫛のさしてのらねは恋のしけゝん

          花散里

色は香にまけてにほへる橘の花散宿もたえすとはまし

          須磨

心から身は山かつにやつせとも猶こりすまのうらなけきして

          明石

都にもひゝきの灘の汐あひにかつく白玉誰にさゝけむ

          澪漂

忘らるゝ身はかつしれと墨江の浜によりこしかひは有けり

          蓬生

藤なみのかけてまつとはとひてしる露ふる宮の門のしるしに

          関屋

心にはゆるせし関にあふ坂の山した雫袖ぬらしけり

          絵合

須まの浦にすみはゝてしと絵にうつしことにかこちてけふを待けり

          松風

うつり来て我宿なから明石かたなれし岡辺の松のあらしか

          薄雲

さりし世をむなしき空にかへり見る心のおによ我をいさなふ

          朝皃

あさかほの花田は色をふかむれとうつらておける庭の白露

          をとめ

をとめ等かつれまふ衣の音さえて夜や更ぬらん庭火しめれる

          玉かつら

筑紫路をいかになれとか立出て都にも世をうみやわたらん

          初音

雪分てけさ谷出し鴬の方には声もこほらす

          胡蝶

春の日をくるゝにあかて飛蝶のゆくへは花のちりのまかひに

          蛍

見ゆをいとひ見えぬをうらむ夏虫の光は人の為ならなくに

          常夏

稀に遊ふ庭のまうけの水うまやとこなつかしき花のゆふへはえ

          かゝり火

まとはせし箱のふたみのあひかたみおほふはゝかな何のみたれそ

          野分

玉たれの小簾の見いれに心さへすさひにけりな野分てふ風

          行幸

小塩山みゆきのためし野にみちて打ちる雪に御鷹よふ声

          藤袴

たき合すけふのきそひは秋ふかき野にぬきすてしきぬにや有らし

          真木柱

葎おふ壁のこほれのかたつふりはひかゝりてはゆく方もなし

          梅か枝

鴬の巣立の鳥は久かたの雲井にいまや名のる一こゑ

          藤末葉

大嶋のなるとならすと夕舟のからきわたりも風を待えて

          若菜上

猶わかきけこそゝひぬれ春のゝにつむ菜を君か老のはしめに

                下

みちのくにいくつか来にけんたならしの琴は緒たえの橋と成にき

          柏木

そむきても世に在ふへき心にはまけてはかなき人のかなしさ

          横笛

取つたふよゝのかたみの笛竹のふしたかへりとなけきてそよる

          夕霧

迷ひ入こゝろの奥も霧こめてしのゝみたれの小野の山ふみ

          御法

花やきしつかさのきぬと見し色は野辺の煙の雲のむらさき

          幻

春さむみ淡たつ雲にかくろひて光はいつら峰のしら雪

          匂宮

昔にはぬしこそかはれ梅さくらにほひおくれぬ春は来にけり

          紅梅

折てやる花に心をそへつれはこをはいく春見ませとそ思ふ

          竹河

みたれ碁の右まけたりと聞からにめてし桜はちりぬともよし

          橋姫

都にもいろをあらそふ秋なから人香なつかし宇治の山里

          椎か本

あはれ君世をうち山の奥深くほたしの綱はたちて入けん

          総角

情あるひともつらしな蓮葉の上に心をのせし身なれは

          早蕨

法の師の是をたき木にかへてつむ野のつくし〓し山の早蕨

          寄生

見まさりにかく咲花を根分してむすま〓ほしき園の白菊

          四阿

打ちつけに其人かたをかいまみのあやしとも思社なれ

          浮舟

河しまにいさよふ波のいかにしてふたゆく心せきやとゞめん

          蜻蛉

それとたに思へとすへな宇治川の玉藻になひく妹かくろ髪

          手習

おのか上をよそに聞きてはかつなけくたかゆるさねは死なぬ命そ

          夢浮橋

有てなき世の常をしもわたらへはなきかありてふいめのうき橋

つゝら冊子  二

つゞらぶみ  三

  秋山記

 あきの山見にとにはあらで、此三とせかほど、足びきのやまひにかゝづろうて、世のわたらひも何もはか%\しからぬ。

 かゝるを、昔は、但馬の城の崎のゐで湯にしるし見しかば、こたびもまたおぼしたてるを、しりに立てくる人も、としごろふかうそみしことあれば、ともにとて、はゝそ葉のおほせのまゝにめしつるゝなりけり。

 長月の十日あまり二日といふ日かど出す。

 したしき友垣の女の許より、

「あすなんときこえ給ふにぞ、ゆくりなくもおもふたまふる。

玉鉾の道もたえ/\にとか、おぼつかなさゝへそひて、胸つぶるゝぞわりなき。

        朝なゆふなゝれにし君が出てゆかば何わざをして月日過さん

秋風もいたう身にしむころにしも侍れば、いとよういたはりて、御こともなくかしこにいたり給ひね、此あつごえたるもの、いとあら/\しげなれど、山里の朝よひしのがせたまはんにはとてなん」と、聞こえしに、

情ある人のこゝろをつくし綿、身にそへゆかばさむけくもあらじ。

うべしも天の羽ごろもと奉りぬるは、こゝろざすところなん、山陰の国にて、いといたう寒き所なりける、須磨の海ずらいかにながむらん、明石のとまりはさぞなと、誰々もうらやみ聞ゆるにぞ、まづかのわたり歴つゝゆかばやとて、西をさす、草のまくらのをかしきは、芦屋川の松陰にしばしおりゐて、土くぼかなるに、小石をつみて、木葉松笠打くべつゝ、茶を煎て遊ぶ、鶴煙を避るといふ句のこゝろしたり、かしこくも小がめひとつはもたせたりけり、

 蘆の屋の蜑のたく火のそれかとて、道ゆき人も過がてに見む、

日高けれど、住よしの里にやどりぬ、すまの浦伝ひする今日は、海の面なごやかに、百船のゆきかひ、かりごものうち乱れつゝ、渚には釣ほこりて遊ぶを見れば、この礒山松の色も、人々のまなこもひとつみどりなる、さえ有人も口とづるわたりを、まいて打出べうもあらず、此つれたる人の、いにしへ光源氏の君の、罪なくてさすらへたまひしと云跡はいづこぞ、巳の日の高汐とは、この海の荒たるにこそ、けふのにはよきには、さることいかでかとおほゆるを、かゝるところにも、年月ねんし過させけんよなど、打うめきかなしがる、いと聞にくしとにや、齢のほど五そぢにたらぬ法師の、おなじ松陰にあるが、にらまへるやうのつらつきして、この都人よ、さるあだしことを、まさなげに打ものがたりたまひそ、彼式部とかは、あとなしごとゆゑ/\しく作り出たるむくひに、おそろしき所に繋がれ、永劫の苦しみをうけたるぞかし、もろこしにても、かうやうのことかけるものゝ報ひなんいと罪深しかし、羅氏が三代まて唖子をうみしなども云、かまへて/\信ずまじき文ぞと聞ゆ。

おもひかけず、めざましうこそ有けれ、法師もおなじ道ゆく人なれば、行〃物がたりしつゝなぐさむ、いとかたじけなきことおほかりけり、只今の御さとしこそ、世に珍らしくも承り侍れ、されば彼物かたりは、仏の教のたふときにも、むねおのづからかよひ、うつゝの世にも、かしこきいましめと成ぬるよし、昔の人〃のろうじおきてつるを、いかさまにおぼしわきて、かうまてくだし給ふらむ、そのことわり、かたはしばかりも承らばやと云。

さればよ、道〃の文のことわりとく人は、あながちにも其旨深からんとては、とざまかうざまにもてつけていひしらふほどに、はて/\は、もとつこゝろにもあらぬ私言をさへとりはやす也、此物がたりのことわり云なん、わきてこなる、しかのみならず、式部は石山の仏のへん化也と、いとくるはしきまでほめなせるを聞けば、おのがかしこむみちのあなひにもやと、あたら眼をついえたるが、今はとりかへさまほしき年月なりけり、さるをかゝるまめごと、いかでをみなわざならん、父の為時が筆くはへしと云は、しひてあが仏とあがむる人の、ぬしなき眼なりき、そもつばらにかへし見ば、我ことまたずも、おのづからさとりぬべきものぞ、其一つふたつをかたらん、先光君の人がらいかにぞや、かたちのめでたきはいふもさら也、才のほどもいにしへに競ぶべきはかたくぞある、ほんじやうのまめだちたる、交野の少将には笑はれ給はんよと云、よく見れば、あらずなん、ひたぶるに情ふかく、したしきにもうときにも、万にゆきたらひておぼゆれど、したには執ねく、ねぢけたるさがなんおはす、薄ぐもの御ことは、人皆罪ふかしとこそ見れ、空蝉の裳ぬけのきぬも、猶わかきほどゝゆるすべきを、前さい宮、玉かづらの、うたてもてわづらひ給ふは、親ざまあしきわろ人なるを、世の中まつりごちては、文王の子、武王の弟とずんじたる、いと聞にくし、右衛門の督のから猫のかよひ路は、心とまらぬあたりにさへ、いかゞ岩ねの松よこたへん、ゆるしなき眼に、人のこゝろをやましめ、野分のあしたのかいまみは、親子の中らひにだに、しうねきこゝろづかひも何事ぞや、それがあまりのわれたる戯ごとも、此君の情しきは、世の人には過けんかし、さるを、須磨のさすらへ、おのれ罪なしとおぼしたるは、教泣き山〓の心とやいはん、又桐壷の帝の、此世ばかりはさてもあらめ、神さりましても、〓愛慾のまなこ明らかならず、汝は罪なき身を、いかでかかるありそに〓んとやすると、都にあまがけりては、朱雀のみかどの曇りなきを、いかりにらみて、御光をなやませ給ふは、さしもさとりなき御神にぞましませる、〓月夜のしひたるさざめ言、王命婦をせめありくなどは、いかめしき国つつみならずや、夜居の僧が〓舌、老やぼけたる、光にや〓たる、大学の君ぞ、いみじき有職にて、まめ人の名をほむるかと見れば、小野の夕霧分迷ふは、友垣のまことなし、見よ/\、筆のすさびのさかしきままに、此源氏の君ぞ、人の国なる聖達にも、をさをさをとらじのまけじ心もていひなしたる、恋の山にはくしだをれ、口かしこきがうたてけれ、かうやうの筆つきなん、をみなのめめしきほん性にてこそあれ、されど言のあやに妙なる、心ばへの巧なる、このたぐひのものには、やまともろこしにもならびなきを、もししひてこれが徳見んとならば、雨夜のものがたりに、大かたの人の心のくま、名残りなくあなぐり出たれば、かへりて読見ん人の、しず心の〓なきをいましむる教ともなるべき、おほよそよろずのことも、私ごともてことわりなさむには、あやしうひがめる心も、直くまめ/\しく取なすべかめり、さるわざのうたてさよ、我仏の道も、あやしうめずらかに説なすはかたはなり、此物語も、其世のさまのまばゆきかぎりを、きら/\しくうつし出たれど、其遠からぬ世にみだれたるを見れば、まめ人のいかで推〓くべき、今のおほん時ばかりかたじけなきは、住しへよりも稀なれば、君をあふぎ奉るあまりには、己がどち喜びするいとまには、読て遊ふべとすぐ/\しく聞えたり、心ざすかたのたがへるには、行手にわかれぬ、〓しりへに立てゆかまほしく、ことごとひまなぶべき法師なりけり、からす崎とか〓わたりの、清き渚におり居て、時過るまであさりをり、日も山のはならんはと〓に、

  暮るるともいとはんものか燈火の明石のうらにむかふ旅寝は

大蔵谷といふ所にやどる、こよひなん世こぞりて月見る夜なる、所がらただにやあらんとて、浜辺に出たれば、月花やかにさし出て、風波いささかもたたず、さすがに海ずらは、青にびの衣着たるには、かのはひわたるほどといへど、こしかたは、夜ぎり立こめて見えず、あはと見ながらも、淡路のしまはたださしむかひて、かち路や有と思ふばかり也、

浜づとにとて、

  うら風に雲吹はれて長月のながき夜わたる月のさやけさ、

或人もよめる、

        いづこにも露おく袖をこよひしも月にあかしのうらの旅寝は

さてしも浜風をひきしかば、あしたはあゆみぐるしくて、をちこち尋も見ず、曾根崎の社にまうづ、けふぞ新なめ奉る日なりとて、おそく詣つれば、何わざもえ拝み侍らず、此広前の松陰に、潮の涌が如く人立こめて、叫びのゝじる、何ごとぞと見たれば、すまひが庭の、今ぞ手合せすと聞ゆ、この国のたぢから男は、けふ/\と待つけたれば、きそひ立、西ひんがしと、百手つがひ定めたるべし、見る人もえいや声をつくりて、おのれ/\が引かたをたのむ、いといさましな、足よわきものは、岡にのぼり、木の枝にさがりてあやうげなり、あるが中にも、老たる人の、いときなきものを背におひて、いかで/\是見んとする、人ひし/\と立並たれば、岩ほおさくに似て、いとけなきがいたう物おびえして泣、いといたう危うし、残の齢いつまでとか、かゝる物見はする、此うま子しら玉ともかしづくらん、おしうたれば、いかばかりか泣まどはん、世に憎きものゝかぎりなりける、やがて事はてしよ、雲井とゞろく声して、人立さわぎ、山も動き出る如くなるも、わかれ/\に散行ぬ、それが中にけふのぬき出ならめ、勝ほこり、大路ふみはらゝかし、人おしわきゆく、ねるはたが子ぞとことゝはまほしく、見る人も是羨むなん、いみじきめいぼくなりける、こよひ豆崎の宿にて、夜べの浜風名残なやましきに、此家のあげまきが、かたゐものと、何ごとをかからがひて、声高なるほどに、隣むかひなるも出来て、口〃なるは、雨蛙のやうにて、あはれかたみに〓つきやすと、心ならねど、あつかひわざもよしなければ、さうじ引たてゝこもりをり、いつしか心のかぎりいひはてゝ、別れ/\に打しづまりぬ、よべもこよひも、ねられぬ草の枕なりけり、行〃て、播磨の国何の郡とか、西光寺野とて、いとひろきあら野に来たる、行手百丁ばかりと云、西も東も南も山立並て、目もはろ%\なり、行〃稲葉そよぐ風も吹たゝず、小草花咲、小松おひ、芝生がくれの沢水に、鳥どものうきて魚をくふ、此けしきえいはず面しろし、雨いさゝか打そゝぎくるに、遠山は見る/\雲立こめて、風まぜにふりみふらずみ、人のいきかひもあらずなりぬ、色〃の花ども、露を帯てうるはし、くらゝりんだう、をみなへしのなごりなる、よめが萩のはな、しら菊のよろぼひながらかんばしき、大和なでしこは濃からねど、時過したるがあはれなり、つゝじ花、あざみのかへり咲、いひつゞくれば、春夏秋のくさ%\を、花一時のながめしたるがあはれなり、尾花ぞしげくまねきあひたる、をり知がほにてなん、さるとりいばらの赤玉かゝやしけれど、ゝらばおよびやそこなはん、是かれ摘はやして、手づかにあまりぬ、あかずおもしろきに、立ぬるゝうさも

わすれて、        雨そゝぎ風吹立て秋の野の花のひもとく時は来にけり、家もあらなくにと、人々わびしがるにぞ、人里もとめて、昼の物くひなどして、出れば、日ははや西に傾けり、辻川と云は、市川のみなかみにて、いと大きなり、瀬々の岩むらに、むせび流るゝ水の音のすざなしきは、雨のやがてにやある、左みぎに山立なみて、ながめいとよし、嵐山、大井のわたりのおもかげよといへば、吉野川、六田の淀瀬にやと云、いづれによするとも、鮎この頃くだりぬらんといへば、あらず、この川なん生野の谷々より落くれば、かの山のしろかね吹気のしたゞりには、たえてえすまぬと云、さればこそこれが劣りたると云、館(やかた)と云は、いともわびしき、山里也、家どもむつかしげなれど、暮はてしかば、こゝにとさだむ、打見しよりも、住たるさまよしめきて、よろづ心ありげに、粥などもきようしてくはす、こゝをやかたと云は、誰殿の夢の跡にや、赤松山名のむかしがたり有べし、あるし呼いでゝもとむれば、只此国のかうの殿の、往しへこゝのとのみに委しからず、臥べき所ははしの間まれば、山風吹入て、すゞろ寒けなれど、望の夜の影あらはにさし入て、をのへの松風、軒端ゆく水の音にひゞきあひて、をかしき旅ねなりけり、あかしのうらの夜あそびかたり出れば、或人、        浦波のゆたに見しよの月よりも、猶山里はのどけかりけり、波風こそたゝね、いとはるけうて、しづこゝろもなかりしと云、いとをさなめきて、山ふところなる所は、月はやく見えず成ぬ  つとめて、雨の余波の道芝露けく、身にしみておぼゆ、但馬の国に入ぬ、栗賀と云郷に、よき茶有と聞て、其家に入、寔や、仙霊と云名は、懸まくもかしこき、はこやの山のかひより賜はせしと聞侍るには、道行づとにもとめて出つ、        朝さむにめさまし草をもとめては、山路の露金おきてゆくなり、さて故郷いでゝ、七日と云に、心ざす所に来たる、なやと云所より、かろき船もとめて漕れゆく、このあひだ、山も川も、ゝと見したゝずまひながら、昔は春山の霞こめたる空の気はひも、己が齢も、いとわかゝりしほどなりき、今や廿年ゝろには、朝たつ河霧の、おぼつかなさゝへそひて、古きをしのぶ涙ぞ、秋のしぐれめきたる、江山皆_旧游とずんじつゝ行、いにしへ堤の中納言の、こゝに湯あみすとて来られし時、夕月夜おぼつかなきをとよみませし、二見のうらは、此わたりなりと云を聞て、ある人、        けふいく日とりも見なくに玉くしげ、ふたみのうらのあさ明のそら、それは播磨なるをこそいへ、往しへこゝに来る人は、難波津に船びらきして、かしこを経つゝ、加古の島など云あたりより、かちゞをこゝには来ぬらん、所のさまを見るに、しか名づくべきにもあらず、見わたせば、霧のひま出る〓舟の、かいさをとり/\に、いづこにあさりすとかこき出る、いとすざましき秋の江には、是ばかりにぎゝしき詠もあらずなん、きの崎に来て見れば、やどりは昔ながらにて、もと見し人はあらず、たまたま、君われをわすれずやと云を、見れば、むかしの人なり、髪ひげまだらなる翁の、かなたよりも、我をいかに浅ましとか見らん、あるじと云も、あげ巻なりし人の、今はおよずけて、昔物かたりなどす、れいの局してすます、故さと人もこゝに在て、とふらひ来たるにぞ、旅ごゝちすこしわするゝようなり、こゝにつどひたる人は、都なるも田舎なるも、男も女も、朝夕にとひかはし、馴むつびて、打みだりゐやなきは、かゝる世界とぞおぼゆ、むかひのつぼねに住人有、難波人と聞ゆ

四十あまりと見ゆるをんな君に、六十過たる皺ふる人ひとりかしずきたり、この翁、あるじのもとに来て、我たのめる人は、男君にわかれたまひて、三年こなた、いたうおもひくづをれつゝ、人に立まじりて給ふをうたてきものに、山住などおぼしたゝせたまへりき、太郎子のなぐさめかねて、おのれにあつらへ、こゝにすかい出たゝせ給へる也、ことゞもあらばうしろみせ給へと云、何事をも承らん、うしろやすくおぼせとこたふ、此女いかさまにも世をうんじたると見えて、人に見ゆることをもえず、ひたやごもりにたれこめて、湯あみなどもをさ/\せず、よろずにつゝましう、操有人とぞ見ゆ、かたちなどもかたほならず、ひたぶるになよびかに、やせ/\といろしろく青みて、む月の半の梅の、垣ねに散こぼれたらんにほひしたり、この隣しめしは、並びの国の峰山といふ所の法師なり、よはひたかく、じちやうにて、いさゝかもみだりたることなく、あしたゆふべにも、湯壷の中にても、阿弥陀ぶちの御名をとなへやまず、有がたきおこなひ人なり、湯あむいとまには此山にたゝせます、やく師如来、観世音の御堂を拝みめぐりたまへりき、ひたやごもりの君も、けふは物の気のひまありとや、此法師にいざはれて、かしこにまうづ、道のほど、後の世のことなどまめやかに教へさとし給ふに、罪とがの恐ろしとにや、くりことはてしなく問奉りつゝ、かへりて、しはふる人、何ごとにかあらん、いと腹あしく、すざましきまなこつきして、このふた心人よ、いづこに中やどりやしたまへる、斧の柄今はすげかふべし、あの木のはしにすかされたまふよ、さるあだ/\しさもしらで、こゝろのかぎり御宮づかへし奉ることの悔しさよ、今はやくなきおのれが、こゝに侍て何せん、たゝ今たゞ難波に出立侍らんとて、旅はゝぎとうでゝ、いとあはたゝしく、声しはがれ、ふるふ/\、おもゝちほてりたるに、猶鼻のさきに、ひら柿ばかりのものはれあがりて、あかくついえたるにはてりまけたり、をんなおどろきまどひつゝ、あが君/\、なにごとをかゆくりなく聞え給へる、ふるさと出て道の空より、御心のうれしさを聞え給へるに、千賀の浦なみよせかゝるこゝちしてひるまなき袖も、君が思ひにほして日ごろふるものを、むら雨すぐるばかりのいとまに、さるあだ浪のかかるべきかは、すぢなきぬれ衣うちきせて、つひの世見はてじとや、あはつけくすてたまはゞ、こゝの海にもいりね、あのほうしいみじきおこなひ人なり、すゞろなる物うたがひして、仏の御罰かうふりたまはんこと、おん偽いとかなしきをとをゝ/\となく、あの木のはしがかうべとりたりとて、何の報ひかある、ひく方にの給へるが、いよゝうしろめだきとて、あかき鼻いらゝぎ、蜂ぶきたる、いとあさまし、此やどりなる人〓、これを見きゝて、みなあきれまどひて、やがてこの郷に、千名の五百名は立にけり、いとむくつけ、さるのちは人にもはひかくれず、おもなげにもあらで、たゝひゝな立ならべたるやうにてぞ有ける、このをんな何ばかりの人ぞ、きぬなどなれたれど、いやしげにもあらず、いつき子もゝたりとや、けいしなども具し、うからやからも広しとや、さる人〓まていみじきはぢあたふるなん、女ばかりゆるしがたかりけるものはあらじ、女はた此頃は目をいたくやみて、いぶせくはれあがり、物などもつや/\いはず、打ちふしたり、気のゝぼりたるにこそ、峰山の法しぞ、前の世のむくひにやと、打うめきをる、いといたはしきことゝ云、わかき人は、されどうし

ろめだくやおはすらむなど云、かゝるはて/\の国にても、人のものいひさがなさよ、雨は時じくにふりて、日数へにけり、今日いくかぞとゝへば、夜にはこゝのよと云、山おろし梢吹ならしつゝ、おどろ/\しく、幾夜寐ざめがち也、山里は雨さえ夜さえあらしさへ、よに似ぬうさのひまなかりけり、又おもひつゞけて、いを寐ねは夢てふものも夜がれして、たよりほどふる故さとの空、はゝその葉のいかにさふ%\しくてやおはすらん、かう捨奉りて来ぬる罪かしこし、かなたにも山里いかにわびしからんなど、思ひおこせ給ふべし、いとかたじけなきことを、こゝなる人となげく、此ひとも打ながめつゝ、中空の雲のまよひにたぐへつゝ、たびねの袖は時雨ひまなき、とぞかこつ、ふゆはまだきに、あられのたし/\と音して、いといたう寒し、夜べはみぞれなどもふりたると云、物のおとも聞わくべからぬ宿なりけり、染もはてず散もはじめぬ山陰に、はやくも冬のけしき立けり、かんな月に成ぬ、風吹あれ、雨は夜ひるふる、日の影今はわすれにたりと、人ゝわぶる、丹後の国の人のかたれるは、なべてこのならびの国は、西の風吹くれば、冬は必しもかくて日頃ふる也、さなきだにも、雨は都あたりよりもおほくふるを、わたくし雨とはいひならはす、又雪ふれば、三さか五さかもふりつむと〓、聞にさえすゞろ寒しな、夜なか過るほど、雁の〓わたるを聞て、さよ中にかり鳴わたるとこよ出て、つらにおくれし雁なきわたる、五日といふあした、からうじて日のさし出たるを、影わすれし人ゝ、立さうどきつゝ、山によぢて岡見やせんと〓、河辺に釣や垂ましと〓、心ゝにさだめかねつるを、あり〓の小貝ひろはんと〓に、皆かたまけて出立、じやぎりもなきひろき海の、雲と浪のけぢめも見ぬ浜辺に来たる、はやくの人の、雪のしら浜とよみし所と聞ゆ、げにも、まさごはそれか降つみたるようになん、里人は高野の浜とよべり、けふはのどかにて、海はたひらかなりと〓も、よせくる浪は、山もこゝに動きくるようなり、かゝるさかひは見ぬ人のみにて、たゞあきれにあきれて打望めり、しろき帆あまた見ゆ、此見るがうちに千さとや行、雲に入と見れば、又追くるが見ゆ、心玉しひもそらにたぐへゆくかと思ゆ、浦の神の丘にもぼりて、〓わりご小がめとり散して遊ぶ、此よする浪は、たゞこゝもとに打かけらるゝこゝ地す、れいの人に、いかにながむやとゝへば、おそろしさに、気のゝぼりてとのみに、物もいはず、天のはら八重の〓路を吹こして、なごろ高野の浜の夕風、浦人教ふ、此東にさし出たるをかしま山と申す、又あの〓なすは、隣の国の経が岬也、是がさへて、猶〓方は見えず、うしろなる山にのぼれば、西の方は、隠岐の島雲ゐに見ゆると〓、万里の秋に驚くと〓しは、かゝる境にやによぼひけんとぞ思ゆ、渚におりて、貝ども拾ふ、色ゝの染物して、世にもきようらなり、人皆あきなげにて、〓ゆたかにたてといはましをとつゞしるうたふ、老もわかきも、をさなごゝろしてくらべあらそふ、まくる人ひとりもあらあで、いとかひ有遊びとやいはん、わたづみのたむけのちぬさ散みだり、渚に秋のにしきをぞしく、こゝ地あしといひし人も、これに生出て、とめくれば雪のしら浜名のみして、千くさに玉の色は見えけり、こゝに驚るゝは、〓をとめら四人して、ちひさき舟〓かへりたるが、やがておりつれて、この浮だからを、やすやすと渚に引あぐると見しほどに、おなほ/\荷ひもて来て、この真砂のうへにおきすゑたり、浪のとりていねばかくはすなりとぞ、おにのすだきてなすにや、いとめざましくぞある、かへる山、七日の夜の月にきほひつゝ、くらぶの山路ならでこえく、いと嵯峨しな、        山高みあらしのうへに身をのせて、空にさやけき月を見るかな、又の日の夕さりより雨ふりて、きのふなんうどん花の遊びせしと、人〃喜びあへる、すむ軒のかへでのもみぢ、夜のまにあさましう散はてぬ、山もはた、        苔深き庭はもみぢの散しきて、紅くゝる冬の山ざと、ゆふ月のおもしろきに、さゝの浦まであゆむ、こゝに庖丁が家有、此桜のおばしまに肘をかけてながむれば、山の影江に沈みて、水の面のをぐらきに、〓の立ゐる声〃、釣舟のこぎてかへる、是や満壁山水の堂と打ずんじつるにも、から歌ならはねど、        水国陰山秀、江村楓樹稀、日〓風浪湧、漁父収魚帰、俄に雲おこりて、霰ふり、風もはげしう吹、        冬の夜は雲の絶まに月さえて、あられ音あるさゝのうら風、月またさやかに、時雨も打そゝぎ、道ほどをかしき夜也けり、そ夜過るより、吹かぜ家をゆすり、雨もあられもたゞふりに降て明ぬ、        木葉うく山下水、心とけずも日数へにけり、又、かくてのみ住はつべくば山風の、はげしぎ音もうたてからましとぞおもふ。

けふもおなじ空にて在わびぬ、十一日の夜、猶けしき立てさふ%\しきに、何くれの物がたりして遊ぶ、里人何がしとふらひ来て、いでや新らしき草はひ一つ奉らん、やがてきその夜のことなれば、我郷の者すら、此夕づけて承るを、まろうどのおまへに、おのれよりさきにかたれるものは侍らじ、さいつ日まうでたまふ、竹のゝ浜に住て、いとまずしきものゝむすめの、まゆごもりにてあるが、この里の何がしが家につぶねする男と、いつのほどよりか、いとかなしういひかたらひけり、男時ゝかよひけるを、あるじの翁腹あしき人にて、聞き付て、ゆるさゞりけり、さは心にもあらで、かれ%\になりにけり、女いたう思ひわづらひつゝ、今は露ばかりのあだものを、あふにしかへばとて、いとさがしき山路を、母のまへよくいひこしらへて、出立くる、春の夜の月の朧なるに立かくれて、亥の一つばかりに、からうじてこゝに来けり、男いとうれしうて寐にけり、短夜なれば、物らいふほどもなくて、おきて行を、男おぼつかなさに、しりに立てゆけど、こゝらの坂路を隔たれば、かしこまでえいかで、山の手むけに手をわかちてかへりく、かくてぞ時〃かよひける、いともかなしき契なりけり、さみだれのはれまある夜、れいのたど/\しからでこえくるに、山のたむけ過るほど、草たかくしげりあひて、風そよげるよと見る/\、いはほなりと見しもの、むく/\とおきあがりて、こなたざまにむかふを見れば、あないみじ、あなおそろし、大口の真神といふものなりけり、あなやといへど、人げとほければ、いかゞはせむ、たゞわななく/\、しりへにゐざるを、神ゆるすまじき眼つきして、くひつくとぞ見る、かぎり也と思ひて、このまへにうつぶし、額(ヒタヒ)に手をすりあはせて、いとかなしき声して、大神聞しめせ、生ての世に、命ばかりいつくしきものはあらぬを、それにかへんものは、思ふ男にあふことのうれしき也、蜑の子なれどたをやめなるを、神のしめ給ふさがしきいは根ふみこえて、夜とも昼ともわかずいきかふなん、身をあたらしとにもあらず、されど道の空にてくはれんことの口をしき、男の許にいきて帰らんほど、しばし給へ、よぎ道(ヂ)たになきものから、明ぬさきにこゝにまうでゝ、必奉らん、神にてましませば、偽るともはたのがるまじきをと、国の守にうたへごと申がごとく、なく/\いふ、聞入たるにや、打ゆるび、くひつかんけしきなし、さてこそたふとき御神にてましますれ、やがて奉らんとて、はひ/\もそこを逃去、はたますらを心して送らんに、うけひしことそむけりとて、男をもともにくらはんがいとほしき、たゞなほざりにて別れんをと思ひ定めて、又あふべきにあらねば、かぎりなきとおもふにぞ、さめ%\となく、男いぶかりてとへど、よく/\ねんじてあかさず、たゞ母のおもきかん当にのたまへば、しばしはえこそ参らじ、さは浦よりおとにわすられなんことのかなしきことゝ、涙とゞねかねたり、男、さることいかで思ひしるべき、あなはかなげ、天の川瀬はへだつるとも、誰故にかみだれんものれひたすらに身をぬすみて、疎からず問ゆかん、そも遠からぬほどにと、いひなぐさめて別れぬ、都の人ならば、あはれなる言の葉などもよみかはすべきを、さるものいひもしらねば、明ぬきさきにと出たつ、女、ことひなん夢路たどるやうにて、なく/\くる、心だましひもきえ%\なる、此たむけにのぼりつくに、かきけちて、物も見えず、いかに聞わきつらん、いぶかしけれど、命得たるうれしさに、山をはやくゝだりぬ、さすがに恐しうて、しばしはたゆるやうなりしが、猶はたえあらで、ある夜また出たつ、人に聞つることや有りけん、あじかと云物に、あざらけきもの、何やくれやとり入て、かづきもて来て、かのたむけなる岩ほをはらひ清めて、机しろとなし、このにへつ物をおきならべ、峰にむかひて、手をすりぬかをつき、ひとりごとにうけひごとするやうは、あが大神/\、かしこき御耳ふりたてゝきこ

虎の口まぬがれしと云は、正しう此ことなるべし、さて男にあひて、このこと打いでんには、はたますらを心して送らんに、うけひしことそむけりとて、男をもともにくらはんがいとほしき、たゞなほざりにて別れんをと思ひ定めて、又あふべきにあらねば、かぎりなきとおもふにぞ、さめ%\となく、男いぶかりてとへど、よく/\ねんじてあかさず、

たゞ母のおもきかん当にのたまへば、しばしはえこそ参らじ、さは浦よりおとにわすられなんことのかなしきことゝ、涙とゞねかねたり、男、さることいかで思ひしるべき、あなはかなげ、天の川瀬はへだつるとも、誰故にかみだれんものれひたすらに身をぬすみて、

疎からず問ゆかん、そも遠からぬほどにと、いひなぐさめて別れぬ、都の人ならば、あはれなる言の葉などもよみかはすべきを、さるものいひもしらねば、明ぬきさきにと出たつ、女、ことひなん夢路たどるやうにて、なく/\くる、心だましひもきえ%\なる、

此たむけにのぼりつくに、かきけちて、物も見えず、いかに聞わきつらん、いぶかしけれど、命得たるうれしさに、山をはやくゝだりぬ、さすがに恐しうて、しばしはたゆるやうなりしが、猶はたえあらで、ある夜また出たつ、人に聞つることや有りけん、あじかと云物に、

あざらけきもの、何やくれやとり入て、かづきもて来て、かのたむけなる岩ほをはらひ清めて、机しろとなし、このにへつ物をおきならべ、峰にむかひて、手をすりぬかをつき、ひとりごとにうけひごとするやうは、あが大神/\、かしこき御耳ふりたてゝきこしめせと申す、今まうづるは、親のたま物にあらず、〓に神の賜りし命なり、さきの夜の御徳には、何わざしてむくひ奉らん、まづしければ、いさゝかのたからもゝたらず、此さゝぐるおほんべは、物のけがれなく、おのが心のかぎり也、ねがふは御心をなごして聞しをせと、千たびぬかづきつゝ、こゝにこえて、さてれいの〓またでかへりくるに、取なみしもの残なく、〓〓(あじか)のみぞ打散したる、いとたのもしうて、こん夜も又奉らんとて、躍いさみつゝかへりく、この後はいさかひごとに、おきつ物のかずをつくして、かづきまうづるに、あしたは跡なくなんはた有ける、こゝに竹野の浜のこなたなる、松本と〓里に、山賊のやもを住にて有が、此女をけさうして、時々いひよれど、さるまめ人もたりしかば、いたく綱びきて、一ことをもこたへず、山がついとつらしと思ひて、この女のかしこにかよふときゝて、ある夜、たむけの岩陰に待ふしたり、女、かゝるをもしらで、れいの物かづきてこゝを過るを、山がつふとゝらへたり、聞えつることいつまでとか、いとさがしきみこゝろの、猶思ひたへがたくて、こよひさだかに承らばやと、あながちなるにぞ、こゝに人と〓べくもあらず、うち/\親のゆるせしにぞ、かうしのびにかよふところの侍る、君がおそきみ心に、今はいらへがたくなん、こゝゆるして通させ給へと〓、こよひの関守いかで過しやらん、しひてもほゐとげんとてこゝに待つれ、ひたぶるに心づよくは、命うしなひてんと、おそろしき眼していひおどろかしつゝ、つよくとらへたり、命めすともいかでしたがはむ、あが御神/\、この〓追たまへとさけぶ/\、山〓ことのこゝろもしらねば、猶しひ言きこえむとするを、此をのへより走りくるものゝ有て、山がつかこむらのあたりを、骨までつよくゝひつきたり、あなやとさけびて倒る、女、あが御神/\と申す/\、山を逃くだる、山がつはむなしくゝひつくされしとなむ、いとめづらしきかたりぐさならすやと、いと口とくかたり出たり、聞人みなおどろきあへるに、かれはたけきものゝ中にも、ことにさがあしく、いとたのもしげなしとこそいへ、されば世をおそそるわろ人のうへにたとへて〓めるを、又かゝるも有けりといふ、あはれさるあしきたぐひのひとも、まげて打頼まんには、其為にまめだちたるしわざも有とや、さりとも、其人ながくよる蔭ともたのまれがたくなん、昔欽明天皇の御代のはじめ、山城の国深草の里に、秦の大津父と〓人、あきものあまたつみもて、伊勢の国へ行時、道に二つの神くひあひて、血にまみれしにいきあひたり、大津ち志有がたき人にて、馬よりおりて、情しく此たゝかひをあつかひ、血にぬれしをまでぬぐひつゝ、引わかちやりしとなり、其比帝の御夢に、此人なしのぼし給へと、神の告をみそなはしゝかば、国々にもとめて、召上され、何の徳をかなしつるとゝはせ給ふに、しらず侍る、たゞこの頃かゝることなん侍りきと奏す、聞しめして、それが報(ムクヒ)したる也としろしめして、大蔵づかさにめさせ給へりしとぞ、かゝるさがなきものも、我為あしからぬには、かくむくひよくすなり、まいて世の為よからぬ人も、大けなく袖打覆はんには、あなたふとゝ陰たのむらんかし、されば大き聖の者は、たかきいやしき、よきあしきも、なべて木草の花の咲にほへるを見そなはし給ふが如く、うるはしきをめで、虫ばめるを切すかしなどしてこそ、恵ませ給ふらめ、いと有がたきみ心ばへならずやといへば、人皆いみじがる、おのれぞはかせめきてをこがましかりける、雨はいよゝ降つゞきて、かしらさし出べくもあらず、あした、山の井のもとに来て見れば、        雨ふかみけさは岩井の水こへて、山下しづく音まさるなり、十五日は、うぶすな神のかんいさめする日なり、一さと立さうどきてにぎはし、れいは九月の九日なるを、其よひ八日の夜に、里人どち酔ごゝちに、いちばやくあやまち出たれば、やがておほやけに召捕れけり、さるさはりにて、怠らせしを、けふなん行はせらる、牛の時にわたらせ給へり、今朝より雨はれて、日の光さへそひたれば、きら/\しく拝まれさせ給へりけり、れいはみやびかなることゝも多かるを、こたびはつゝしむべきにて、何事もおだしくてやみぬとなり、神もおほやけにはけおさるゝことゝて、別当のいたう打うめかるゝとなん、山里人はよろづに古代にて、いと有がたかりける、いざよひの月いとよくみがゝれ出たり、親のたまへりし日数、今はみちぬれば、猶やましさの名残有にも、あすなん出立べきにて、宿の別れさへ今さらにおぼえて、夜ふくるまで月をながめをり、        冬枯の梢にかけて久形の、桂の花を軒に見るかな、つとめてやどを出、あめもひま有空也、久美の入江に来たる、いとおもそろき所なり、れいの物おぢする人あはれがるは、波てふものゝいさゝかもたゝぬがうらすしとや、〓舟二人して漕出とて、あなうたて、あの雲なんたゞ今ふりく、あはれすくせなきわたらひかなとわびごとするを聞て、此心よわき人の、        見るめにもまづぞ涙はさしぐみの、入江にぬるゝ〓ならぬ袖

雨猶なごりをしむか、追くるが如くにふりく、いとわびし、野中といふ郷の岡のべに、秋の色こく薄く、むら松の中に立まじりたる、こも見過しがたくて、        時雨には袖こそしぼれもみぢ葉よ、風よりさきに我見はやさむ、柏木ならでも守ます神は有けり、天のはし立、まだ見ぬ人々のしるべして、この道芝はわくるなりき、あふちの嶺より、与謝の海ばらいとよく見ゆ、岩滝と云浦辺に、小き舟かりて、こぎわたり来て、此〓立の上をあゆむ/\物がたりす

この国の風土記に、与謝の郡はやしの里に、天のはし立といふは、長さ二千二百廿九丈、ひろさ九丈あまりとしるされたり、さてこれを天の梯立といふいはれは、伊邪奈岐いざなみの大神、天のうき橋にたゝせまして、  矛(ヌボコ)もて、わたのそこをかきなし給ひ、この国つちをつくりはじめ給へりと云、そのうき橋の、天よりおちて、こゝに跡とゞめしと云へり、むかしも来て、けふまた此崎のなれるかたちを見るに、さるいはれ有べき物とも見えず

こは人の力もて造りなせる、今の世に陂戸(ハト)とかよべる物よと見定めつるはいかに、はやくの世より事好むものゝ、かゝるおよづれごとして、世をまどわすぞかし、心あらん人来て見よ、石をたゝみてつめるさま、内海の有かたち、国の利にこそなしつらめ、又是につきては、天の真井もこゝに有と云、いよゝうけられぬをさなごとなれば、たづねも見ず、廿とせのむかしこゝにあそびしこと有、けふまた来るも命なりけり、ある人はいたうめでゝ、        ふみゝんとおもひかけきや白波の、上にわたせる天のはし立、都なりせばとは、昔もねきごとせし、うべもいひ給へるはとあはれがる、ざえのほどこそくらぶべからね、めゝしさのみかはらざりけり、とかくこそいへ、こゝをおきていづこならんとて、        いくそたび松の千年もおひかはり、とこ波よする天のはし立

夕日の浦は、文殊師利の御寺のあたりを云とや、名のをかしさに、  おきつかぜさむき日ねもすいさりして、ゆう日のうらにかへる釣船、

西の方をば枯木の浦と云は、昔細川の法印このわたり領し給ひし時、よしの山の桜を

うつし植させしが、其後跡なく枯朽しかば、さる名呼そめしと云、花と人と共にむなし

かれど、猶今の世にしのびまゐらする君也けり、ゆく手の〓〓に、網引する子等が、え

いやさらなどをかしき声あはせて、たぐ縄くりよする、いとめずらしみて、これ見はつ

べくたゝずめば、月出るまでもといふに、さまではいかでと、この腰うたげし石に、か

いつけて立さる、

  与謝の海や夕しほかけて引綱のつなでのゆたに物もひもなし、

こよひ宮津にやどりて、有明月の夜ごもりにこゆるは、この国にふたつなき高嶺なり、ふかうの嶺と云、降くる雨にきほひつゝ分のぼる、たか輿(コシ)の中だにしとゝにて、登りはつれば、風に晴て、うさをさむさにかへてくだりて、こゝにむかしおにの住し

と云大江山は、やへ山隔てゝおくまりたる方に、〓山高く見さけらるゝ、変化のあやし

くおそろしかりし事、源の頼光朝臣のたけかりしことゞもを、物かづくものらが語りつ

ゞくれと、耳とゞめてかいつくべきにもあらず、こえてのこなたに、天照すおほん神の、岩戸ごもりませし跡なりと云は、したゝかなる巌に、むせぶたき浪の音すざまし、そのかみおほん神のおましの岩床なりと云へり。

こゝもゝてつけごとにて、たふとくもおぼえず。

神山のもみぢ葉今は散つきしも、猶かつ%\見ゆるさへ、嵐にきほひて目もあやなり。

        神かぜにいぶきちらして紅葉せし山より冬はふかくなるらん

大神の宮居有。

又とゆけの大神もたゝせます。

社伝也と云を聞ば、此国の鎮座をはじめと申せど、いぶかしきは、垂仁天皇の御代に、やまと姫のみこと、大神のしづもりますべき国もとめありき給ふに、近江美濃の国々を歴て、伊勢にいたります時、御神、姫みことに告たまはく、「この神風の伊勢の国は、とこよの浪、しき波よする国なり。

かたつ国のうまし国なり。

この国にをらまくおぼす」とさとし給ふまゝに、もゝ船わたらへの郡、さく鈴いすゞの河上に、宮造りし給へりしと云こと、日本書紀をはじめ、何くれのふるき文等に載ていちじるかりけり。

又こゝのいはれは、延暦の儀式帳に見えたり。

天てらす大神、真木むく玉木の宮の御代に、伊勢の国わたら会の宇治のいすゞ川のべに、大宮づくりましゝ後に、雄略天皇の、大みゆめのさとしかうふり給ひて、丹波の国、比治の真名井が原よりうつらせまし給ふよしをしるされしかば、うたがひなく、こゝは豊食の大神の御跡なるべし。

見わたせば、山ひらけ、川長くながれて、天の真な井が原てふ、いにしへをとゞめし国がたになんある。

社伝寺記にしるせることゞも、国史古記録にたかべへるが少からず。

しかすがにぬさちらして、けふまでつゝみなかりしを、ゐや申奉る。

福智山の宿のむつかしげさに、いぎたなき朝出しつれば、けさおく霜はわきて見にしみて思ゆ。

よしみの竹田と云郷は、家づくりのまことに、よしめきたるに、都とほからずおぼゆるは、夜べのわびねの心づからにやあらん。

ここなる人の、物いふとなしに、        よしみの竹田過がてにする

と、さゝやかに聞ゆるに、        難波人芦火たく屋をしのぶにも

とゝりあへずかいつく。

右手の山にそひて、煙のたつがにぎはしく見ゆるをとへば、氷上の黒井といふ。

この聞ゆる郷は、おやおほ父達の住たまひし古さとゝ、かねて機しものから、かゝるつい手につけて尋ゆかましを、母刀自のいかに待わびたまふらんとおもひ棄て、こくりやうの坂道にかゝる。

丹波の国にはふたつなき高嶺と云。

誰も/\足なければ、かづかれてこゆ。

又のあした、霜の痛くふれるを、れいの物わびする人、        おく霜のしろきを見れば旅路へし我なれ衣のいとゞ物うき、肩のまよひも浅ましけれど、秋過ぬれば、つゞりさせとも声せぬ、枯生の道を分迷ふにも、いとゞ故郷のはるけさに、今一夜ふたよも、八千夜しふべきこゝちしてなむ。

つゞら冊子  三

                文化三年寅穐発行

                              江戸  須原屋平助

                      書林        大坂  大野木市兵衛

                              京        小川五兵衛

                                    菊屋源兵衛

----------$ つづら3.txt ( lines:1294 ) --------------------< cut here

----------^ つづら4.txt ( date:95-05-15 time:00:00 ) ------< cut here

歌と云もこと也、ふみというも言也、事しあれは言にでる、是をこと挙といひしかいにしへ也、其事のよろこひうれたきにも、うたふにあかす、こちたきには言をつらねてつばらかな覧とす、是を文といふ、歌てへと、事につぃきて長くもみじかくも、ことの数定まらぬかいにしへ也、哥垣たてゝしらべあはするには、春の鴬の囀に、あなたぬしとも、人皆耳かたふくるよ、中とみのをらび声、物まをしのによほひ、秋鹿のつま恋に、ちかきにたけく、遠きにかなしけなるものか、されは事おほきは言永はへて、あまといふ雁のつゝらゝなしては、蜑のたくつなゆるひたはめる、事少なきには板屋うつあられの玉の声、冬のもみちの風の散かひに、彼も是もおのつからなるものとしられてこそ、言はつらぬへけれ、なかきこゝろを短く、事すくなきをは長はへたらむ、ほとほとかたきわざにしも有か、千さと行竜の馬も、あまりにおひ荷はせた覧には、あゆぬにたふましくや、から猫の毬ころはせてたはるゝ如に哥もふみのあそはめ、歌といふもこと也、文といふも言也、いつれをか安きにおかぬ、いつれかおろそけならむ、小車のふたつの輪かたかたにして道ゆかんやは、言かよはんやは、ことにあけてによほひ、言をしらべてうたふ、是を語霊のさきはひとも、又こと玉のすくるとも、いにしへ人はたふとびてなもいへりける、ほたる飛小草川のへにやとりする旅人云、

都図羅冊子  四

        落葉  ある御方の御もとめに奉る

いにしえより、春秋に心々なることを、あらそひざまにあへるなん、いともはかなけれ。

をりにつけ事に臨みては、常有べきことかは。

我は春のあした、あきのゆふべにまされりといひし人は、そらに飛たつ蘆たづの、まさ目のどけく、哥ごゝろをさへいざなふよと見しなげきなり。

花もひとつに霞まれてとよみて、秋の月めづる人々にむかひしは、女々しからぬまけじ心のおどろかるゝなりき。

秋山ぞ我はといひしをこそ、ひたぶるにこめいたるさがとおぼさるゝなれ。

又何某のおとゞの、ことよくすかいたまへるをば、すぐ/\しき操もて、つよく綱びかせたまひし、こや秋に打しづもりまかせるかしこさよ。

山がつ等があやしう常なき心には、まだわかうて、物のあはれ辨まへざるほどは、春の花の林、百千とり%\の囀りに、深き山ぶみをもはらおぼし立ちたるに、やう/\物の心おぼし知りては、其かた怠りざまになりぬるを、老のはじめにて、人あまた立こみたる所は、けのぼり、心おちゐねば、陰の休らひも、なげの旅寐も、あはならず成んて、秋の野山にまじるかたをなんのどけうおぼえしが、かく老くだちては、また若がへるにはあらで、夕べならぬにも、秋はたゝ゛さふ/\しくて、今一たび春にあひて死ばやと思ふは、心のひたとおとろふるにこそ有けれ。

此殿の御もてあそび草は、よろづ老らかに、御よはひのほどには、似げなく打しづもりませば、秋にみこゝろをとゞめさせたまふなへに、おまへの庭の風の末に、色よきをえらびとらして、うるはしきこしの国紙に、おしとゞめさせしが、いともかたじけなく、かたゐ翁めしでゝ、はしに物書べくおほせたうぶ。

いみじくにほひなき言は、立田姫の思はんがやさしきを、さりとていなみたいまつらん事のかしこさに、くらきまなこ見はたけて、朽葉一ひら拾ひとりて、かいつけてさゝげたいまつる哥、        風にちるかるきもみぢのいろ/\は千秋にあかぬ君が御為に

  寛政十二年の冬、おまへに在てつかうまつり侍りき。

十雨言

五日に一たび風吹、十日にひとたび雨ふると云、聖の御代のためにしぞ云めるを、一年すぐるほどのつい手をしも見れば、む月立て、人の心を春にあらたむるにはあらで、鴬のはつ音のおとづれ、梅の南の枝にほころびそむるとこそ見れ、山々に霞かゝれるも、夕づけてなん見ゆるも、立まふ雲は猶冬の名残して、〓雪の梢どもにはつ/\かゝれど、土に落ては、つみにがてなん見ゆるも、都辺は照日ながらに、日ごとうちゝるを、山里いかならん、思ふもすゞろ寒けしや、其ほど過にては、木の芽春雨けふいく日ふり次て、野は、ふるくさににひ草まじりて萌出れば、四つの沢水もやゝ満ぬへし、みよしゝ花にとて旅立人の、あまぎぬ打かつきて、散や過なんと、心あはたゝしくわけのぼるぞわりなき、又たれこめてこもりをる人は、春のものとなかめくらしつゝ、酒あたゝめさせ、友なき夕べは、家〓自呼いでゝ、くみかはし、あそび敵とするこそ、よそめもいとたのしけれ、若きほどは、これをはぢらふさまなるも、中々になまめかしき、山もはた、おそきもはやきも、嵐にさそはれて、桜の花はちりつきぬべし、夏の林の緑に染ますに、夕べをつぐる鐘の音さへ、打しめるばかりにふるは、袂すゞしきはじめ也けり、垣ねのうの花の、雪ならばなどや〓みくだつらん、短夜の月のあゆみいとゝきやうなるに、小雨打こぼしつゝゆく雲のかゝれるかと見るに、時鳥の一声捨て、又遠方に二声三こゑ、かすかに聞ゆるも嬉し、田子の裳すそのひぢりこにそみつゝ、早苗とりはたす、五月雨のはれまのいそぎを、さとつゞきに、何とやらうたひつるゝ、いとにぎはしな、やす川すゞか川などの岸のをちこちに、あすやはるゝと、心の外の旅寐する人、いかにわびしからん、〓鳴木かげのやどりに、汗をぬぐひ岩まの清水をむすびてあかぬ人の、行つかるゝさまなるに、風さと吹くる跡より、黒き雲の追しきて、降くるむら雨は、瓶にたゝへし水をくつがへすが如くに、御格子おろせ、簾よなと立さうどきつゝ、見たまへれば、大庭のしらまなごは、〓浅川の瀬に流れあひて、殿守のともの宮づこら、こゝかしこ御垣のくま〓にはひかくるゝなど、いとめざましな、落滝つ瀬の水上にはしらぬ濁の、いはほをこえ、岸をくづしつゝ、みかさまさると見しも、たゞ片時にながれ落て、水陰草の露おもげなへふしなびきあひたる、けさよりのあつさわするゝ夕べ也けり、初秋の空に横たはりて、星の契へだつてふかたり言うは、唐土人のまこと偽はしらねど、文に書、哥につくりてもてはやすを、こゝにも、ならの葉のはやき昔より雨ざはりやすと、打まねび出たるはかなげなり、大かたのとしなみを見れば、夏秋のあひだは、山田沢田水そゝぎかねて、ことしの秋いかならんと、夜をひるに次つゝ、男等立走り、池沼も小川も、あせはつるまでせきあぐる此頃、空に乞ひ、神にいのりつゝ、夜もいをねず、鐘つゞみの声、里々とゞろきあひ、焼(たく)かゝりのほのけは、をち(四ノ五才)かた野辺のくま%\をさへかくれぬものにてらし、雨たばれなど、声々によびのゝじる、かつはかなしく、かつはいさましげなり、やがておそろしげなる夕雲の、空に立ちみて、降くる雨は、玉うちなどする音して、風吹そひ、林をゆすり、河波をあげ、とぶ鳥は翅をゝられ、蛙の哥もしばしは声なくなん、さは思ふにかなふけふぞとて、里ごと家ごとに、千秋よろづ代をうたふたのしさよ、唐土にても、かゝるに、雨をよろこぶてふ文かきて、世に写し伝へし例もありき、風は野分こそかなしけれ、ながめと降かへては、いとさふ%\しき秋になん、八月十日あまりのそらの雲のまよひ、人の心をなやましうするよ

文つくり哥よむ人の、はらめるこゝろをたがへ、酒くみ、舞あそばんのをかしわざもむなしからめ、望の夜の更行までも、軒のしづくのつれなく音するは、誰も/\思ひきゆらんかし、暁がたのおぼつかなき空に、雲間もりてきら/\しき影をば、大からの人は見ずてやあらん、立待居まちして見る月は、すこし〓そこなはれこそすれ、待恋し夜にいかでおとりなん、夜はいつにまれ、村雨過し名残の雲に、はかなくさし出たらん影に、垣ねの草の露、玉とちり、しぐれとそゝげるこそ、いとも/\あはれとはなかめらるれ、打かはす雁の翅のひまもりて、木末に滴するばかりなるは、こや長月のしぐれの雨なるべし、山の色のはつかにそむると見るに、こゝかしこ山めぐりしてふる雨は、すゞろ寒げなり、かむな月の雲のけしき、宮古も田舎もおなじさまにはるゝ日なきは、これや時じく雨のよしなるを、其頃すぎにては、みぞれとふり、雪あられとこりて、枕をおどろかし、窓のもとに夜ふくるまでふみよむ人の、心すさびをもよほすなん、いとあはれとおほゆる、恋する人ばかり、時をもいはず、いつの夜も/\、これがさはりをかこてるこそ、いともなまめかしう、かつは物ぐるほしからめ、この心ひとつは、老がわかゝりし昔より、露も思ひしらぬかなしみなりけり、

   其二

冬は年の余り、夜は日の余り、雨は陰のあまりなり、文読人は、此三つのあまりもてなると云、かたり言にはいへど、老がたぐひのおろかものは、たゞいたづらに、埋火に炭たきつぎ、春の木芽を煎つゝ、飽ずすゞろひをるおのれは、何をして齢たもつらんとはおもふものから、まなこくらく、歯落ちつきて、何をかよみ、なにをか語らん、雨をなつかしきものにするは、家とみ、人多くもたりて、賑はゝしきあたりにも、友垣のとひくる道をたえ、家の業などもさへられて、宿にのみこもりをり、文をよみてはいにしへをしのび、鳥の跡はかなう書すさび、或はいつきむすめに琴かきならさせ、酒あたゝめ、よきものとりなめて、日ねもす、夜すがらならむ、いとたのしき、あしたよりおきいでゝ、夕暮過るまでも立走りても、たつるけぶりたえ%\に、人の情をだにうくるよしなきものらは、たゞ打うめき、つら杖つきて、つれなしやこの雨とながめたらん、いとはかなし、やどりなきかたゐものらは、こゝかしこの軒、木陰などにくゞまりをり、むさき髪かきなで、ふたつの乳、ふたりの子にふゝめて、難波すが笠破たるを打かづき、空さしあふぎては、けふをいかにせんとわびしがるさま、いとかなしき、高き御あたりのありさまはおもひかけねば、おぼししられぬを、祭の日、馬も御車も、なへて雨衣打かづけ引出たる、けふの御使ざねをはじめ奉り、哥づかさ、御随身、小舎人、わらは、仕丁なんどにいたるまで、大がさめせきにかくれかねて、しとゞにぬれつゝ、脛(はき)たかくかゝげて、あゆみなづめるを、これ見るとて出たつ人も、けふはいとすくなく、さふ%\しげにて、かいつらね出給はんを、見るめのくるしげに、あへがたうも見奉らぬ、いと心ありや、東路なるわたり瀬の、高浪をあげ、岸をこえては、国の守のまゐりまかれるも、わりなくさへられては、ものゝふのたけきこゝろも、たわやめにうみつかれ、千さとゆく駒も、鼠のごとくつながれゐたる、何も/\無徳にこそ見ゆれ、人またぬ家には、若き女どもまどゐして、古代の絵ども巻かへしつゝ、あるは石はじき、へん次、見あわせなどして遊ぶ、かゝる夜にこそ、ぬす人どもはたよりよしとや、下ゑみしつゝ打入らめ、あはれ/\、老がまづしき菴には、ほしきものもたらねは、かれら入てぬすまんともせず、燈火かゝげあかし、文よみ、手ならひはかなう書すさびて、あかときしらずおきあかしたる、昔のしのばしきは、林にやどる目なし鳥の、今の身のうきことになん、

          花園              題上田耕夫東山第

そのゝ花々に戯れて、あかぬさまなる胡蝶の、眠をおどろかして、蜂と云むくつけものゝ、いと腹だゝしげに、いぶきちらしつゝ、飛来て云、いにしえの世には、南山の蕨(ワラビ)東門の栗(クリ)、おつる梅、その実いくららなど云て、浅はかに花の色香をのみなつかしめる例はなかりき、世うつり、人の心あだ/\しければ、眼を青くし、鼻をさがしがるこそ、うたてめゝしき心ざまなれ、おのがともはしからず、昔の陶隠居がまめ心をまなび、憇きを吸もくらひもしつゝ、腹みたんひとをつとむる也、汝はかは虫のおそろしきよりなりたるをわすれ皃に、今のかたちのなよびやかなるにほこりて、人の目おこらせたらんことをつとむるよ、あなつらにくと云、蝶は長き袖たれて、いとも聞にくしかし、人とても、このめる道に名を揚、そしりをもゝとむとや、ましてあなづらしきおのがたぐいひの、さるわきまへやはある、たゞ心のすゝめるかたにたはふれて、命生んにはしかじ、何がしとか聞えしねぢけ人を、口に蜜して、心にはり有とたとへしは、誰が上ぞや、さあれ、誰々も親のうみて給ひしまゝなるをいかなせん、物とがめしていたくなさいなみそとて、かなたの枝にうつりぬ、木末の小鳥どもの、このことわりをうべ/\しとにや、花に実に、おのがこのめるかたに、あかれ/\にいきぬ、花にあかぬ人の家には、鳥虫さへもあかぬ遊ひして、争ざまなることはすなりけり、

        花ありて住やはつきしすみつきてうつしや植し山本の庵

また此頃、栲亭源子の、愛花人の詞を見せらる、其詞、

野史載、大江佐国者、性太愛花、嘗有六十余回看不足、他生定作愛花人之句、没後其子某夢、父来告白、我今化為胡蝶毎春遊于花園、某不堪感慕、多種花木、塗密于花房以供養群蝶云、其事極奇、而詞不見全篇、因竊補之、続以後事、命日愛花人詞、一花看損一花新、占断百花領九春、六十余回看不足、他生定作愛花人、他生不待更為人、〓蝶居然是後身、歳化成千百億、酔芳〓了前因前因方了旧園花、作寝牀香作家、昨夜分明来入夢、不知何蝶是爺聚芳迎蝶意何深、手取蜂糖仔細淋、休問恩情知也否、這般難得憶親心迷惑三生芳樹霞、癡心未必笑他家、即今我亦値華甲、花巳満園又買花

このことまこといつはりをしるべからねど、誰采出てむかしをしのぶ人もなかりしに、君常に花めづるさがのおはせるには、相憐みて、この詞はつがるゝなるべし、さはおもひをやるほど、我や蝶やのふることの、香を嗅ぎ、露をなめつゝ、花にこゝろをあそふらん、我もこれにいさなはれては

  夢に入うゝにはまた身をかへて春はこてふと花につげゝん

  それとだに親のつかへをたのめては、花の日数のをしまるゝかな、

  開元遺事に、

(漢文省略)

  花に驕る君がゝほよをにくしてふ、翅の風にうちてゆくらん、

  手につめばゆかしき袖のいろにつく、こや粉てふとて人のめづらん、

新撰字鏡といふ文に、蝶をかはひらごとよみたるを、和名抄には、蛾をひゞると見えしが、あづまにては手ひら子と呼とも聞し、蛾は蝶に小きを云となれば、ひとつ物にてぞある、堤の中納言の物がたりの、虫めづる姫君の巻に、かは虫のおそろしきを手にすゑさせ給ひて、蝶とて人のめづるも、是がなるなり、よろづのもの、其をはりまで見はてゝこそと見えたりき、さは鳥毛といふかはむしのなれるもて、かはひらごとはよぶか、しかすがにこれのみにはあらで、園蔬の葉、三つがふたつは蝶となる、故に字は葉にしたがふと云り、又鳥足といふものゝ、根は〓〓となり、葉蝶となれりとや、又百合の花かならずなれりと云、猶さま/\にくげなる虫のなりかふるを、昔の井中住に見たりき、又虫や木草の葉のみならず、人もなる也、荘周大江の翁もこれになりにたるなりけり、其佐国といふ人は、御堂の関白どのゝおふせことたうびて、万葉集をよみて奉りしとも聞侍るには、此集よみふける我も、あやし、死ては人の園にや遊ぶへきと、いとはかなき思ひこそせらるれ、

  さま%\に色ある衣の袖はへて、恋すてふとや花にたはるゝ、

                  年木

          とし木こりつむといふことをよめる、        唯心尼

  たき木こる峰の手斧のおときけばほど/\としもくれはてぬめり

あら玉のとしをおくりむかふるわざこそ、千年のいにしへ、今のうつゝ人も、かはらぬよろこびはすなりけれ。

春のまうけ、つかさ/\のきぬはかまの色あひ、ゆほいかに、あらたならんがめでたし。

民草もおのがほど/\につけて、染ぬひする、めでたし。

貧しきは解あらひてうずるいそぎのあはれながら、そもよろこびする心ばへなん、おろそげならずめでたし。

よね積はえ、もちひ臼づき、海の物山のもの、何くれとおくりかはす、あかずたのしき。

おはら賎原、大江山いく野の道を、都にかづきもてはこぶ年木のにぎはしきを見れば、蜀の山兀たらんといひしをさへおぼゆるかし。

此あるじなん、今年五十のよはひを、事なくつゝみなくて、このとしもくれぬるを、悦びのあまりに、まろうど設くべき新室二間立そふるとて、手斧つちの音いと賑はしく、加茂の河瀬のあまびこに呼つたふるこそ、年むかふる中にはことにはえ%\しきを、待事なき翁さへ、打ゑみさかえ、いとたのもしうおもへたまへらるれ、むな木、うつばり、柱、簀の子の板荷ひ入るを、工みの長がおもひがねに造りたるわざの、いともかしこき、もろこし人の、不材の木天年に終ると云しを、ことわりなるものに思ひしめりしが、今おもへば、あはつけきいたづらごとなり。

其ねぢけゆがみし木も、はた斧にくだかれては、御釜木をはしめに、賎が朝ゆふの煙にたきほろぼさるゝをおもへ。

和泉の杣がひきたつる宮木はもとよりなん、今このつくる家居の新しきが、子うまごの裔のすゑらまで住みわたらんを、何かは命みじかきといはん。

打出て見れば、山づみのゆるさぬ谷峰もあらず。

こりくだき、かづきつれて、都にもてはこぶを見よ。

不材の木の天年をまたぬことかくの如し。

此新室のついたつる柱は、あるじが心のふとしき也。

千木ゑづりのしげきは、あるじがこゝろのにぎはひ也。

かくつくりたてゝは、幾春をかむかふらん。

迎へて先到るまろうとは、ひんがしより来たる、朝彦の君也けり。

        此家のたつるはしらの枝/\はたかとし木にか宿につむらん

  右賀荷田信美新室詞

        御嶽さうじ

今歳、寛政十一年の春三月それの日、役の優婆塞行者の一千年にあたらせたまひき、おほけなきみことのりして、神変大菩さつの御名を贈らせ給へりとなん、千とせのゝちに、光をかゝげさせ給ふことのかたじけなさのそひたまへる事を、誰もたふとみ奉るなりけり。

大和の国かづら木の郡、芽はらの里にうまれさせ給ひて、いときなきよりも、道に御こゝろざしふかく、かたちはうば塞ながら、す行世の人にこえ、孔雀明王の法をうまくおこなはせ、まこと雲風に乗り、かくれ神をつかはしめ、吉野葛木の高ねを常のすみかにて、凡天が下のけがれなき所には、いきて住給はぬもあらずとなん。

韓国(カラクニ)のむらじ広足といふ人、つねにしたしく参りて、をしへかしこみつゝつかうまつりしが、後には、其才の高きを忌憎みて、時の帝に、うばそくこそうち/\天の下押しらんのきたなき心有と奏せしかば、やがて伊豆の島国に流しやり給ふこと、文武の御巻のそれの年にしるされたりき。

おほけなく、一たびは国つ罪にあたらせしかど、まかことにしも侍りしかば、やがての世より今にいたりて、うつゝの事、後の世のこと、この御蔭をひたぶるに頼む人多かりき。

昔は御嶽さうじ、順ぎやくの道たがひて詣しとや。

今は世こぞりて、芳野を山口にのぼる。

是なん、往しへの秋山の、ぎやくの峰の坂路也ける。

翁三十あまりの古しへ、此高根にのぼらまくのすゞろごゝろして、年ゝまうづる行ひ人のしりに立て門出す、八月三日のあした、猶あつけさの名残に、道芝は真砂のやけに焼て、あなうらをさすばかりに、あゆみぐるしかりしをさへ思し出られぬ、大和川のつぎ橋中絶て、水無きかちわたりす、藤井寺にまうづ、門の前なる水うまやに入て、昼の物とう出たるに、憎し

蝿のむらがりてけがすを、修行のはじめにかゝること物のかずならじとおぼす、土師寺に詣づ、この御神のことを、こゝにつたへ給ふは、国つぶみにあらぬことゞものいぶかしきを、さるいはれの有りつらめ、我見たるものには、いまぞかりし御時は、竜の雲に乗て、大虚に登るごとくに、つかさ位みこゝろのまゝなりしかば、たそやいみ憎みて、あらぬ御とがめをばかうむらせ給ひき、三清公の革命のいさめいれさせ給はましかば、はるけき観音寺の鐘に〓ざめかなしませ給はじを、みかくれさせて後は、天の下に惜み奉りし余りに、光の御子のとみにはかなくならせしこと、大宮の内に鳴いかづち災ひ有しことゞもは、此御たゝりぞと〓およづれ言の、大路にまでいひあへりしかば、やがてもとのつかさくらゐにかへり給ひ、世を経て後、ひだんのおとゞ、又太政大臣をも贈らせしが、またほどなくて、大富天神といはひまつるべく、御使給へりしことも見えたり、天満大自在天神と嵩めまつるは、いつのみよのかしこみにや、博からぬ眼にはかけても〓まじく、いみじき御罰かうむるべきを、産砂神にてましませば、あはれみゆるさせたまはんかし、先此旅路つゝみなかれと、ぬさちらしかけて、寺を出れば、南の方わづかにして、ほん田天皇のにさゝきにいたる、里人はこん田と横なまれるよ、此大宮所なりし、軽島のあきらの宮はいづこぞ、此国のこのあたりには、丘陵のあまた見ゆるが、こと%\御墓どころの名や有るべきを、空にはおぼしさだめがたくて過ぬ、古市といふも、此さとつゞの市町也、細川畠山の軍の君のこもりし大城の跡も有べし、もとめても見ず、石川郡の石川、継橋してわたる、こゆればあすかべ群也、壷井の〓と申すは、源の頼義、よし家朝臣の御たま屋なり、阿妻の大とのゝみおやの君達にてましばせば、いとしもつくりみがゝせ給ふへき由ある所也、上宮太子の級長の御はか、いとたふとし、こゝを〓れ、かしこをたて、後あらじのみことには似ず、いかめしき御跡也、山しろ王の御みづからわなゝきて、跡を絶せ給ふにはかなふべくおもへど、こも御罰かうむるべきにや、いとくろう成しかば、山はえこえず、山口なる春日の里にやどりぬ、蚊のいと多きに、帳はやれまよひて、いを〓られず、この〓わり子にむらがりしえわろきものにまさりて、いとつらし、こもす行にからきにやかぞふべき、いとうれしきこと、からきことはわすれぬものから、三十とせまりの昔を、おろ/\にもおぼし出られて、この筆のあゆみはすなりけり、つとめて竹の内の山道こゆる、雨いさゝか降そゝぎて、〓笠の下に汗なかれ、いとくるしげなり、行手に柿本の里の柿の本寺と〓に、人丸の御墓、石ぶみも立りと〓、此神の御跡とめて、歌聖伝といふ文かいあらわせしに、こゝもたしかならぬものなれば、いきても見す、〓原寺、よぎ路なれど詣づ、菩さつの若うておはせし御かたちをうつしとゞめしは、世にも稀らなりと〓、今木の里を過、こゝの古物がたりは、花の頃吉野の山ぶみせし、岩橋の記に書出たれば、おなしことおもひ出べくもあらず、車坂こえて、よし野川の辺に出づ、山のたゝずまひ、水の流、いとおもしろし、岸陰草にすだくは、機おりが鳴音よ、河内女の窓のあたり過らん思ひせらる、巨勢野の方より、我あとべより、追くるが如、金がう杖とりいかめしくつき鳴らし、都田舎ひとつ声して、南無がうざ大ぼさちと、高くさけびをらびつゝ来る、うたてなどつゝめかば、うちも殺しつべし、こも修行のひとつにねんじて追はれゆく、むつ田のわたりに来て見わたせば、柳ちる六田のよどの岸陰に、秋を時とて鳴かはづかな、こゝにて河〓離と〓事す、河におりて、かみつ瀬ははやしなど、ひとりごちてみそぎす、これにこゝろのあらたまりて、山路にかゝる、此行手、建武の帝の、都をこゝにうつし給ひし時の作り道なりとや、昔は飯がひの方より登りしとか、蔵王権現に詣づ、ふん怒の御かたち三柱、夕暮のほのにはいとも恐しな、こよひ吉水院の前なる家にやどる、相枕の行者たちは、はやりかにたけ%\しく、物がたりからがふが如に、隔のさうじ取やり、知しらぬどちもいとむつまじげにて、やう/\眠ほどに、〓ぶきや、あがきや、夜すがらにて、貝鐘たえず耳驚かすが如、すがうの数〃にはたふべけれど、忘れては何しにと打うめきて明しぬ、夜ごめに出るは、此宿のみにあらず、松あまたともしつれて、南無がうざ谷峰にとよめかしつゝ登る、此ゆくも、きのふも、物となへよと教ふるは、文字の数こそ〓のやうなれ、こゝろ言がらもえ心うまじきを、〓羅尼などのやうにてぞ、其時すら、今一うたもおぼし出んやは、安禅寺にのぼりつく、西上人の、やがて出じとの三年の跡とゞめしを、来て見れば、こゝならめとは思へど、こゝろもなくてつくりしかば、今はなつかしくもあらず、我に事たる山の井はあとなくて、筧をとく/\とおとしかけたるはうたてし、青根が峰、こゝよりさしむかひてのぞまるゝ、宇婆〓が旅ねの床ぞあはれなる、青根が峰の苔のさむしろ、御獄によちのほる、南無行者が声あとさきにかまびすしく、しばし杖とゞむべくもあらず、いはほをはひ、かづらをたよりに、或ははし立をつたひてのぼる/\、いとさがしきがあひだも、をちこち見さけ、くだしも見れば、此来る道〃、高くあふがれし山〃峰〃は、原野田畑のようにて、たゞ高見山ぞさゝげ出されたる、〓腹、小天上、大てんじやうなど、恐ろしげなる名も、追のぼされつゝ、かね掛と〓〓の本にいたりて見れば、こゝなん山のつかさなりける、久方の光こそあれ、ゆく雲も吹風の音も、我より下の物にぞ有ける、西のゝぞき岩と〓は、いくちひろしらぬ谷の深きにさし出たる〓なり、さし〓けば、白雲その下を走り過るひま/\に、をぐろう見ゆるは、此ふかきにおひ茂る松杉のむら立なるべし、す行どもこゝに押おろされてさいなまるゝ、さいなまれて、今より親兄によく仕へんとて、手をすりてわぶる、いとも見るめの恥かしきは思はぬなるべし、御堂にまうづるまでに、まがり路を行〃、みなおこなひする所〃のつい手、今忘れたり、ひんがしの〓岩、蟻のとわたり、べう等石、いつれも/\からきめ見する所也、す行等が、おそろしきに、身を冷、足は土をふまず、髪ひけそびえ立、声いといたうかなしげに、〓羅尼や何や口やまず、よみぢがへりして、たゞ黒にすざまじ、こゝに釣たる鐘は、大菩さちの御杖にかけて、はる/\こゝににと〓、遠江の国何の郷、何がし寺の物也とか、一つの伝へには、北畠の中納言殿の、奥より上られし時、道にて陣がねにとり来られたるともいふ、そのまここ〓を問あきらめんもよしなしや、又こゝより五十町ばかり奥まりたる所を、小〓と〓、そこは年毎にこの七日といふ日、天の下平らかに安けからんを、いのり行ひ奉る也、この御法にあはゞやとて、へふなんこゝに詣づるなりける、谷にくだり、坂路ふみこえつゝ、からうじて到る、日は山ふところに暮はてゝ、物とも見さだめがたし、板屋のあやしげなるに、板敷の上に、おみの木の葉打しきて、〓むしろを其上に並しけり、ともし火もかゝげすこゝに明すべく聞ゆ、囲炉のほだ木のもゆる光に、人〃さぐりあひつゝ、誰がしはこゝにか、あなうしや、腹のさむきと〓、飢ともこゝに死なん命のかたじけなき、たゞ/\大菩さつをたのみ奉れと〓、親恋し、女恋しとかこてるが中に、こゝにおきつるもの、いづちへかゆきし、かくたふとき御/\にも、盗人の入ぬるよと〓、あなかま、あないみじ、さるものうたがひなせそ、心あかくてあしたをまて、神だにつかふまつる御徳には、物失ふべくもあらず、けふこゝかしこにて誓しこと忘れやせし、天狗といふ神の、屋の棟に立て聞せや給ふ、ゆめ/\といましむ、皆わなゝく/\、夜の明るをねんじるを、五日の夜の月、窓のひまにさし入るを、仏の来迎ありしやうに、人〃手すり伏拝む、山ふかき所は、月あかしと見しは、忽にむら雨木立を鳴し降くる、枯枝などの吹折れてや、屋の上にばさと落るを、あはや天狗つぶてなめり、あなとて、死入ばかりの声して泣さやめく、おのが声だに山彦の呼かはしつれば、くはやと〓あへつゝ、夜はやう/\明ぬ、かしら髪もしらげぬべし、立出て見たれば、思はずよ、こゝは山のかひのいとさく、道もなきに、大なる木どもの、雲すきも見えずおひ茂りたるに、よべの雨の名残の雫、絶ず落て、身にしむ所也、こもり屋こゝかしこ、十あまりぞ立たるに、入つどひし人〃、千〃あまりなりとや、草高く生て、常には人すまねば、むつかしげなるに、ひりかけをさへし散したれば、物うくわびしきことかぎりなし、木立は、おみ、むろ、岩楠のたぐひのみにて、松杉などはみえず、鳥虫の音も、ふつに聞えぬわたり也、山深き所は、なべてかゝるにや、ならはぬには、いとかなしくおぼしなりぬ、我やどりなる人の三四人、こゝより奥の、経が岩屋拝みせばやと〓、したがひはべらんにはとて、蓑笠よろひ、跡につきて行、山を巡り、谷をこえつゝ、道もなき小篠原の、肩過るばかりなる中を分迷ふ、十町ばかり来て、もとの小篠と〓、こゝにも大ぼさち、利元大師の御堂ならび立たり、今の所には、後の世に移されしと〓、行〃道も有やなしや、されば年に一度はこゝに分入て、紀のみ熊野に行なひすとか、昔はそなたより拝みめぐりつゝ、御〓に到るを、ずんの峰と申せし、逆なりと〓吉野の道は、再び聖宝僧正の開かせしと〓り、僧正は光仁の御〓にて、修験道のたふとき御伝へのかしこみを思ひ給へらるゝにも、ひたぶるに心して、頼みたいまつべき御〓也けり、利元大師と申は、僧正の御贈名なり、からうじてさす所に到る、見れば、いとも大なる〓をうつろにゑりて、けたに削りなしたれば、御経いくらをも納むべし、何やくれやの御かたみどもを見奉るにも、〓にかくれ神は、此御為にたぢからを尽してつかんまつりしにこそ、神変大菩さつの御ことわりいはまくもかしこかりけりと、天の下に物のさとり有人のかぎりは、あふぎてたゝへ奉るべき御名也けり、今朝より雨はをやみたれど、蓑笠あゆひしとゞにぬれとほりて、時しらぬ寒さに、思ひもぞ出る、清見原のおほんに、み芳野、みゝ峨の嶺、一つには御かねが〓とよみしも見ゆ、山の神を金精めう神と申す、又吉き物語に、此山にて、こがねの丸がせを給ひしと〓事も見ゆれば、おろそげなる翁が思ふには、御金が嶽てふ名の由心うべかりける、

        みよしのゝ山分衣ひるまなみ、秋の時雨に涙そへつゝ、

行尊僧正の笙の窟の雫は、おこなひ人のあはれなるを、何におとす涙ぞやと、おのれとがめられて、かいやりすつべく、猶分入ば、釈迦が嵩、三かさねの滝にもいたるべしと聞、人〃おぼし入ねば、もとの小〓かき分つゝくる、其三層の滝は、西上人のいきてよめる〓有しかと思ゆ、いざ見まほしきを、一人はいかでと、今ひとつの心のゆるさねばえゆかず、其時こそあれ、今はうつゝなく迷ひ行心の、すゞろに到て、仰き見れば、

        山こそはかさぬとを見れ滝つ浪、くもを披きて雲に落るは、

あやし、山づみの工みなせることは、人の思ひがねの外なるが多かる、物しり達は、何物をもいとせめてことわり尽さんとするこそ浅はかなれ、こもり屋の上に、大こくの窟といふは、大名持の神のすませたまひしにや、世に大黒と称(トナ)ふるは、一に大己貴と書るよりや、こゝにつどえるにひ行者達が、一夜さんげと云事して後に、此岩や戸に詣づ、其まうづるさまは、閼〓汲桶を荷ひつれ、楊が枝のけづりかけしを、手に持そへ、口にくはへしさま、いと戯たりな、あまた打つゞきてのぼり行、いきて何わざ行なふらん、小笹分しにうみつかれて、追ものぼらず、此夜月いと清し、

        みよしのゝ芳野の奥に旅寐して、世にゝぬ秋の月を見るかな、

光はよひのまにて、入かたとおぼしきより、雨しきり也、今夜もうく、わび泣して明ぬ、七日の行ひ、あしたより雲の名残なくて、人〃歓ぶ、まろうど来れり、奥山住の里人といふ、老たる人の、頭に黒き巾をかゝぶりて、あやし、額に角(ツノ)有かたちを作りなし、身には、駕輿丁の着べき麻布衣を、ふし染にして、僧俗のけぢめしられぬ出立したり、大ぼさつのまへしりへに、よろづをつかんまつりたる、かくれ神のみ末の人と名のる、行者達よ、御身を守りの札いたゝかせ給へとて、只銭ほしげなり、さるはおく山人といへど、此御為には、やつこらまとなりて立走るよ、もろこし魯ほうと云し人、これが神変を挙て空ぼめせしを、人あさはかに、又是をば大ほさつとあがむる也けり、行なひの時になりぬ、神べん利元の御堂の前に、護麻木高く積はえ、導師をさいだてゝ、げんざたちあまた、いかめしきかたちして参りたり、千人にあまれるといふがうざ、此まへしりへにはひふす外は、木にかゝり、岩ほに腰うたげて、拝みせんとす、げんざのどきやう、れい〓ふり立て、螺は時〃に吼る、ごま木の煙、御堂の軒に繞りて、空に昇る、黒くすざまじ、日の光をさへて、谷峰にたなびくを、声のかぎりあげて、いみじくたふとがる、天の下の事は、この煙のなびくまゝに、しるし見ると云、事はてゝしかば、おのがどち/\呼かはしつゝ、帰る山路あはたゝしげ也、どろ辻と云所より道たがへて、どろ川に下る、さな下り八十町と云、下りて、めての高きに岩屋有といへど、足折たればいきても見ず、寺あり、〓川寺と申す、文字につきて思へば、とろ川のとろの岩穴なるを、今はとうろうと呼よ、寺は南のみかどの、足利が為にせばめられ給ひて、実城寺の皇居をさへ再びこゝに遷しませしとや、むべもさる御造ざま也と見給へしらる、何をおぼししらるにはあらねど、昔しのばるゝに、身にしみておぼえ奉る、

        みよしのゝ奥こそあはれ世を捨て、入にし人のうきは数かは、

むかしも山口の花見に分こし時、如意輪寺にたゝせます、後だい醐の御陵墓(ミサゝキ)に詣たいまつりしに、木立いとかんさび、物心ぼそく、すゞろに悲しくもおぼえ侍りしかば、

        み山木の日影もゝらぬ下露に、ふりそふものは涙也けり、

まぢの小路殿のいさめおぼしにかなひなんには、かゝる所におはさふべきやはと、恐れみながらも思ひはべりし事をさへ思ひ出にき、こみなみ坂といふは、河南と書べきを、下れば河戸の里と云にむかへられては、この坂路、荒野のさまにて、しもとだにおはぬ草の原也、時しる花のくさ%\、そよ吹かぜになびきあひたり、萩の花、しのゝをすゝき、桔かう、をみなへし、野藍、りうたん、我見しらず名づけもしらぬ花〃、行(ユク)てに色をまじへて咲みだれたるが中に、何ならんかんばしきが、吾荒砂の袖にしめる物から、いといたうすゞろに物いはまくすれど、此見るにはまけて、口はふたがりながら、

        またも来て衣はすらん露ふかき、野はみながらの秋の色香に、

柿本の朝臣の、秋つの野べに花ちらふとよみませし、かしこの昔をこゝにうつし出られて、かひ有けふの山ぶみ也けり、下市の水うまやにて、墨壷を取忘れし事をさへ思ひ出しかば、こゝよりの道は、むなしくて止ぬべく成ぬ、  此昔がたりは、秋の夜のつれ%\言に、いにしへ何くれの事どもいひなぐさむが中に、吉野の奥のたゝずまひをかたり聞ゆとて、つゞめき出たるを、あるじの信美さかしく筆とりて、かいつらねられし也、三十とせ余りのいにしへは、おぼろかにこそあれ、されど譌言して何せんに、たがへるふし%\は、垣根の〓草にかいつみやりてん、

            初秋

月あかき夜を誰かはめでざらん、ふん月望のこよひ、庵を出て、わづかに杖をひけば、鴨の河づら也、雨ふらぬほとなれば、月は流を尋てやすむらん、おとをしるべにとめくれば、むべも清しとて、人々手にむすび、かいそゝぶりなどして遊ぶ、風高く吹、雲消え、影さやかにて、何をか思ふくまのあるべき、月見ればすゞろに物の悲しきぞとは、竹の中より生れ出し〓よ人の、天にいまやの別をしむにこそ、泉〓れども煮るへき物もゝたらず、酒もとむる家もちかゝらずとて、たゞさしあふぎてかたり語すとはなしに、大かたの人は、往しへの跡につきて、八月のこよひ、文作り〓よみ、杯の流のまゝにあそぶよ、さはをかしき一ふしをはらみなしては、夜よしとのみ思ひためしにあしたより雲立まよひ、野分立物の音して、村雨さとふり通りし跡の雲まより、さし出たる面輪うれしけれど、さすがに思ふにたがふことのあるには、とばかりながめすてゝ、さしこめし〓戸のすきまより、物にさらはでさし入たる光は、目さめ、心もすむらんかし、さてしも君まつばかりに夕とゞろきして、居たちつゝあらんも、あひなう若々しかるべき、時はいつにあれ、よひあかつきをもいはじ、垣ねの萩の葉のさやぎ、草深き虫の音のみやは、〓夜の花の木かくれ、時鳥一二声の音づれ、山里の門涼みに、蛍三四つ飛かふには、命ものばへなんこゝちもせらるべき、雪霜のしら/\しき光などは、あまりにすざましとやいはん、しらぬ浪路の舟とまりして、苫のすきもる影は、いかにわびしからんものこそ、もろこし人の、友どち舟うかべて、さがしき山の岸陰に、物のねかましく遊びたらん人には、さすらへずばいかで、かゝる境の秋を見るべきとおぼすらんと、罪なくてさるわたりまでをと、ひとりごち給ふと、いづれ、都府楼近きにも、たれこめていませし君こそは、月をかなしきものとも打守り給ふらめ、老が家をうしなひ、人をもさきだて、世に落はふれよろぼひつゝ、命生たらんを、しばしにてもと〓人々に扶けられて、めゝしくあなづらしき身の、月見て遊ぶは、何心ぞや、        哥もよむとはなしに、

        月こそは影も身にしめ初秋のさよ風すゞしかもの河つら

        月見つゝ夜の更行ば久かたの天のかはらも河たがへして

         中秋

八月十日まり五日、あしたより空いとようはれたり、故郷人誰かれ、こよひ月見んと云かたらふ、野や分まし、棹やとらせんといふ、翁、今は都住いして、野山の秋ともしくもあらじ、みをつくしのほとりまで漕せんにはとて、軽らかなる舟もとめて、酒よき物などはとゝのへたるべし。

五百津舟つとふ中を漕そげて、河尻にたゞよひ出ぬ、月はやく生駒根にさゝげ出たれば、夕汐満たたへ、風そよめくにぞ、蘆の浦廻きたなくもあらず、武庫の高嶺に入日のにほいのこりて、西の海はろ%\と見わたさるゝ、帆手打つれて入来る大船、いさりすとや漕出るちひさき舟、秋の木葉のみだれに散うたきり、鴉のいつこにか、やとりさだめて飛かへる空、鴎のあさりすと、をりゐる渚、さしくる汐の波がしらに踊る魚の光は、昔もあまたゝび見しを、此夕べあそびそむるこゝちせられて、いともたのし、おのれよりさきにうかべし舟、あとより追くる舟、皆千里の外に心を遊ばしむとぞ見ゆ、糸あり竹あり、しらべいとをかしうて、海の神をおどろかしつべし、月はいと花やかにすみわたるほど、宮人のかくる栲ひればかりの雲もなびかず、星の林のもみぢも、こよひの光にはまけたりな、風いさゝか吹きいでゝ、波のあやいとよう見極めらる、暮はてぬれば、繞れる山はをぐろう成て、淡路島さすがに見えずなりぬ、友垣一人が云、こよひの遊び、誰々も心くまなくこそおはすらめ、唐哥やまとうた、きたなげ也とも打うめき出ばや、翁先よめと云、あひなの言や、昔の貫之躬恒にあらずば、こよひの影に光あらそふべきかは、洞庭西湖にこがれ出たらん棹の哥も、酔のすゝみにこそ、ほこりかにも打出べけれ、翁が木の芽煎て、はかなうすさめるこゝろに、何ごとかまねび出ん、舟のよそめばかりに、哥やふみやはかなふ遊ぶらんと見おこせたらんを、ほまれにしてやみなまし、此さしあふげる影にも、面ふせつべきわざなれと云、一人が高らかに、棹にさはるは桂なるべしとうたふ、淀のわたりの夜ぶかきてふためしに、これをあはれがりて、人々よまずなりぬ、月は中空にかゝやきて、あか/\とすみわたりて、常世のまろうどのかり/\と鳴て来たるぞ、いと珍しな、海の色は、青にびのきぬ引はへたらんごとに、さすがに風ひやゝかなれば、きぬかさましと云べき人もなきわたりに、飲みほし、くちみちて、すゞろ寒しな、かへらやと舟ばたをたゝきて、かぢとりにもうたへと云、かれも酔たれば、棹の哥をかしげにうたふ、須磨よりや明石よりや吹、西の風にいざはなれて、漕もてかへるほどに、夜は丑みつばかりにや成ぬらんと云、

         月の前

文治それのとしの秋、八月十五日、鎌倉の大将殿、鶴が岡の宮居に詣でさせたまふ、れいの事のて、御供つかうまつる人々、みさきおひ、御あとべつかふまつれる、渚に遊ぶ蘆たずのあゆみして、疾からず遅からず、つらをみださずねり出させ給へるを、大路に膝折ふせ、かしこみたいまつる人あまた有に、けいめいして、あなとだにいはせず、世にいかめしくたふときみ有りさま也、かへりまをしして、御手輿にめさせ給ふほど、さとき御まじなりに見とゞめさせ給ひ、みはしの忌垣のもとのかしこまりをる法師のあるが、見上奉つらつき、旅に飢て、いと痩黒みずきたるに、衣杖笠などもかたゐものゝさましたるが、めを偸みてうすゞまりをる、なほ人ならずおぼしけん、あの法師がす行するやう、名をもとへとおほせたうぶ、御輿ぞひの若ざむらひいそぎ走よりて、有りがたく御目たまへり、いづこよりのすぎやうぞ、名をもまうせよと云、ゆくりなきにおとろきざまして、雲水にありか定めず侍ものにて、名は円位と申すと云、聞しめされて、さればこそ聞知たれ、穴熊のたけき獲ものゝたぐひならで、賢き人得たるためしに、いざなひかへらん、我あとにつきて来たれといへとて、召つれさせ給へり、御館に入せ、御さう束改させ給へば、やがて大となぶらあまた照しかゝやけにたり、けふの道ゆきづとゐてこと仰たうぶ、法師参れとて、おまし近き所の、一間なる所の、すの子に召されたり、大将殿見おこせ給ひて、昔ははこやの山の御宮づかへせし人の、世をはかなきものにおぼししみて、身は黒くやつれしたれど、月花の歎キのほまれは、物の心なき吾妻人さへ聞知たるぞ、文字の数だに哥とのみ思ひしも、かう指むかひては、ものゝふの負じ心もあらずなりぬるぞ、八百日ゆく浜の真砂の中には玉とて拾ひ収めたらんを、かたりて聞ゆべく仰たうぶ、いみしくかしこまりて、思ひかけず、大木の御蔭に参り侍れば、いともかゝやかしきにぞ、たゞ夢路たどるやうに侍りて、聞え奉るべきことも侍らず、さとき御まなこに見あらはされ侍るこそ、いとも有がたけれ、伊勢の海ちひろの浜におり立ならひ侍れど、かひあることも打出侍らぬには、是とて捧奉るべくもあらず、君にもかねて学ばせ給ふともゝり聞奉る、天のしたまつりごちたまふ御うつは物の大いなるに、おぼしよらせ給ふには、かけてもおよぶまじきをさへおぼし知り侍る、大虚に羽打つけて飛たづの声、霜枯の浅芽がもとの虫の音、いかで取なめて聞ゆべき、あなかしこしと申す、打ゑませ給ひ、弓とりし人の、もとの心のたけきには、よむ哥も、直くあからさまにと聞はまことか、哥はものゝふの荒〃しき心には、よみうつすまじきものに、宮人達はさたし給へりとや、軍に出立て、笛つゞみの音、馬のいなゝきは物とも思はぬを、この三十余りの学びには、こゝろのおくるゝはいかに、こはかしこき御心にもおばしまどはせ給ふものか、いにしへの代〃の帝は、馬に鞍おき、弓矢みとらして、軍にやゝせたまひし、其おほんをよみ見奉れば、たけく直〃しく、しらべもいと高しとこそ打聞侍れ、いでや〓よまんとては、ますらを心をとりかくし、あてになよびかにのみよみうつすべくするこそ、此道のいみじき煩ひなれ、君がさとくたけき御心のまゝに、打まねばせたまはんには、今の世の人、誰かは立あへ奉らん、三尺の〓をとりて、大風起り、雪飛揚すとうたび、槊(ほこ)を横たへて、烏〓南にと咏ぜし君達は、鞍の上にて文に遊ばせ給ふならずや、玉造等がいみじきをすりみがき、染殿のやしほの色も、はかなき目うつりばかりは何にかは、されど谷ふかき鴬の声、信濃路出る荒駒のあゆみ、いつれの道、何のわざにも、始よりすぐれたらんは、鬼にこそ侍らめと云、人〃あれ聞給へ、世はすてのがれても、頼もしき人の心ならずや、汝が遠つおやの秀卿といひしは、世にいみしき弓の上手となん聞ゆ、伝へたることもあるべし、かくこそとおぼししみぬることは、忘れずてそあらめ、事一ことにても教へ承るべく、こはます/\恐れ有御とはせなり、御物語のはて/\は、つは物の道しばしも怠らせ給はぬ御心より、野山をすみかの痩法師にだに、物とはせ給ふことのかたじけなさよ、むかひ奉りては、をこがましく、家の伝へなりなどゝて聞えや奉るべき、まして有がたき大宮づかへをいなみたいまつり、みおやたちのいつくしみをさへあだなるものに、年わづかに〓五にして家を出たるいたづらものゝ、弦ひき一つだに心にとゞめしことも侍らず、たゞ一言のわすれがたきは、賞を重くし、罰を軽くせよといひしと、任ずる者をはづかしむれば危しと云い有難さよ、士卒の疽を病るを吮(すひ)しは、将帥のさかしきにて、国を治め、天の下をしるべき君の御心に非ず、軍を出したまへることの、あやしきまでかしこくませるを、余所ながら見聞奉るには、此かたの御とひゆるさせ給へとて、額(ひたい)を板敷にすりつけて申す、君ゑみほこらせたまひ、口とく心さとき法師也、こよひは月見る夜ぞ、物がたり今ははたしてん、人人とかはらけとりはやし、暁かけて遊ばん、まれ人は酒のまさるべし、しゝ猿の中に立交りて、〓よめと云ともよむまじ、たゞ我まへにあそべ、風ひやかなるにも、あかず飲、ものきたなげに喰ちらす人〃は、あたゝかにもこそ、此火とり法師に参らせよとて、白かねもて作りたる猫のかたちしたるを、とりつたへて、君より賜はるとて、前に置たり、しゝ猿は猶心たけし、鼠をだにえとらぬ痩法師が為には、似つかはしき御たま物ぞとて、三度押いたゞきぬ、あした御暇たまはりて立出るに、御館の人やどりに、誰殿のわらはべならん、くゝり袴のすそ、朝露にぬれそぼちて、いと寒げにをるを、見て、是とらせん、火埋みて手足あたゝめよとて、彼きら/\しき物をあたへて、かへり見もせず立去ぬ、童打おどろき、これ見給へ、見もしらぬ法師の、見もしらぬ物をためひつるはとて、青ざむらひに見すれば、目口をはたけ、かくたふときほうもつを、誰かは得させん、ぬすみやしつと云、さらに/\、道のそらにかゝるものやは有べき、あなおそろし、殿に奉りてたまへと云、やがて御たちもて参り、つかふる君を呼出、しか/\の事となんと申す、いとあやし、大将どのゝ法師にたまはりしを、いかでわらはにはえさせけん、いぶかしとて、先いそぎて聞え奉る、君打ゑみたまひ、彼ゑせ法師、あなづらしく、をさなげなるものくれしとて、腹だゝしくや思ひけん、我門のまへに捨行つるよ、法師とても男だましひくなくば、修行もえせぬなるべし、されど家を出て猶身を守り、才に誇りて、野山にまじり、〓よみてのみあるは、捨人の棄らるべきあさましさぞかし、一度けがれし物、其童にとらせよとて、取おろさせのみあるは、西行後にこの事を人にかたりて云、右府はまことにねぢけたる君なり、口に密し給へど、心にははりのあはすぞ、漢高の大度、曹盂徳の智略あるに似て、天下の人、みな此君の網の中にいれられたるは、我仏の冥福と云事を生れ得させけん、たゞ悲しむべきは、神の御裔の、この後やう/\あとろへさせ給はん世の姿なるはとて、涙とゞめがたくして物がたりしとなん、心なき身にもこれを聞伝へては、秋の夕暮ならずも、打ひそみぬべし、

          劒の舞

伊予守源の朝臣、鎌倉の大将殿の御心にたがはせ給ひしかば、都をひらきて、よしのゝ山ふかくかくれさせ給ひしかど、そこにもはたえおはさで、いづちしらず逃れゆき給ひけり、おもひ人静の子、かひ/\しくこゝまで従ひ奉りしが、中〓の御情をかうむりて、都にかへるべつく仰せたまはりぬれば、打泣てとゞまりしを、山の法師等、やがて捕へて、うての使に奉る、御行方あからさまにしらずと申せは、問べき便の人なれば、猶うたがはしさに、あづまに召下したまへりき、本より直々しき操のまゝに、しり侍らぬ事を、問せ給はんより、命めされよかし、天の下は御心のまゝならずや、いづちに逃れかくれ給ふとも、つひにはえらてまはん、いみじき事見奉らぬほどとて、其後は露ばかりも言を交へず、いかにし給ふべくもあらず、たゞ守らせこめ置給ひぬ、御代はをさまりしかど、猶怠るまじき此頃に、いたくくし給ひてやおはしけん、靜は天の下の扇の上手となん聞、一さし舞て見すべく仰たうぶ、いとつらくうるさく、今は立舞べくもあらぬ身のほどを、打泣ていなみたいまつる、北の方より御使あり、うち/\の仰ごとを、さこそ情なくもおぼしうとむらめ、いとほしきことなれど、此御心をとり、月日過さんほどには、御ほらからふたたび枝をつらぬさせ給はん世をも待つけ給へ、其御契の為にこそとて、いでかくすゝろぎて聞えたいまつるなれ、されど御土器のはえばかりには情なし、氏の大神にまうでゝ、廷〓の君の御身つゝみなかれのにきごとして、神をいさめたまへかし、おほけなく天の下の為、御はらからの御中むつまじからん御為に、心ゆかずとも、打まけてたゝせ給へと云聞えさする、さすがに頼まれて、涙をおさへつゝ、いかさまにも御仰のまゝにかしこまりぬと申す、大将殿よくもすかいこしらへつ、神もたのしとや御覧すらんとて、日をえらびていそがせ給ふげる、其日に成ぬ、あしたより空清うはれて、み垣の内外の松杉のむら立、枝をならさず、鳥の〓りほがら/\とのどかなり、大将どの、北の御方、若君たちの御こし、かきつらね出させ給へり、捕はれ人のは、あづかりの武士の中に取かこみて、御あとにつきて参る、みてぐらあまた、あほん神のふと前に高くつみはえなし、かんなきがふとのりと言

大宮の内にとゞろき聞ゆ、事はてゝ、なほらひ殿に入らせたまひりける、いで物見るべく、北の方若君はみ簾たれこめておはす、老たるものゝふ達、左みぎに居なみて、袖打たれこれ見る、いと物いく、心にもあらで、〓垣の中よりすゝみ出たり、烏帽子の緒むすびたれ、色こきゝぬ打かさねたる上に、山藍すりもとらせし袖長きに、赤き袴のこは/\しきをふみはらゝかし、立たるさま、あてにこめいて、しろくにほひかなる面輪の、すこしあとろひしやとおぼすは、まみのあもげなるやうにぞ打見えたる、絵にやうつしうべきと、人〓さゞめきあへり、ものゝね高くしらべあはするほどに、扇をやをらりかざし、袖すこしへるがへし、声はいとほそうにほひありて、先あはれとぞ聞たまへる、その歌、        み草かる、鎌倉山のや、神のづ垣の松には、鶴ぞ巣をくふ、線とせのどちに、あし引の山のさくらはや色香あくまでも見ん、かぜふかぬ世に、

一さし舞をはりて、ふし拝みす、君をはじめて、人々あかずめでたしと見たまへり、又立あがりて、  みよしのゝ、吉野の山はや、時なくぞ、雪は降と云、其雨の、時なきが如、我涙の雨はふりける、よしの山、雪ふみ分て、いづちしらず、いしき君はも、いとかなしげにうたふを聞人、みな身にしみて、鼻からくおぼゆ、又立ちあがりて、木曾の麻衣ならぬ色よき袖を、まくり手にして、扇は劒と打ふりつゝ、

山ゆかば草むす屍、海ゆかば水(ミ)づくかばねぞ、大君の、国のみ為に死なんと、立しみ心の、たけく直きを、誰いひさきて、世にははぶらしけん、狡兎は死して狗(イヌ)は煮(ニ)られ、高鳥尽て弓は嚢(フクロ)に、うたての古言や、いたはしの我君や、

かくうたひつゝ、ぶたうあらゝかに、扇をはた/\と打はららかしつるは、誰をかうつと見る人あやしがる、これまで也とて、幕をかゝげて入ぬ、大将殿おぼす、はての劒の舞いは、我を憎しとてうちしならめ、さは物かづけたりともうれしとも思はじとて、御硯召手、御たとうの物の香しめる紙に、御筆はしらせ、取つたへさせ給へり、

        をみなへしぬしなき宿の庭草は、くねりてひとり立がゝなしき、

又、

        我ぞ先見てましものをあだの野のくずのうら葉の恨み聞にも

今日は胡地の妾ならぬを、せめてのわ心やりにてありわびよとなん、見奉りては、涙いよゝとゞめがたくてぞある、其紙のはしつかたに、墨つぎ、見わかつまじく、はかなげに書きて、そこに棄置たるを、又とりつたへて、御前に奉るを、とりて見たまへば、

        鎌倉のみこしが崎によする波、岩だにくやす心くだけて

あはれのことや、よくいたはれ、放ちてかへすとも、いづちにかいぬべき、直き操を枉(マク)るわざして、しひて物とふなとて、情しくこめおきたまへるとなん、かたりつたへたる。

  漢高斬韓信、右府滅廷尉、佞大一般、然韓信外臣、廷尉骨肉、残忍過漢高者矣、

  つゝ良布み  四

----------$ つづら4.txt ( lines:1361 ) --------------------< cut here

----------^ つづら5.txt ( date:95-05-15 time:00:00 ) ------< cut here

  つゝ良冊子  五

  水無瀬川

安永庚子冬十月、遊于京師、道歴摂北、而過水無瀬川、々在于山城国界也、然溯流尋径、乃入渓澗中、巌上之飛湍高丈許、所墜激浪撒珠、其響与松風相応、濺々走下、未陟百歩、水浅涓々、石出沙明、旋入幽篁裏忽然不見下流、而渓遠林過、即出前略、則〓間丈余、水勢倏洶湧、足以潅田野矣、於是始覚、其脈潜地中、乃于此復湧出乎、説文云、水脈行地中〓々、蓋此類也、嗟呼造化一奇事哉、于此古人之詠詩、不待解而旨趣自了然、因以賦之二章、        阿理弖那幾、豫乃多免之登波、加都志連騰、美難世能河伯廼、女豆羅師伎可母、        微南珂味八、毛三遅知礼婆叙、弥奈勢我破、斯堂仁文安紀乃、以呂半迦与部類、

              〓{赤+おおざと}簾留銭

        伴蒿蹊の家に人々あつまりて、題を分て文かける、其題、蒙求と云文の中に探れる。

風俗通云、〓子廉、飢不得食寒不得衣、一介不取諸人、曾過姉飯、留銭席下而去、毎行飲水常投一銭井中

むかし、飢て物ほしみせず、年寒けれど、秋の虫のつゞりだにさゝず、肩のまよひもわびしともおぼさずなん、まいて塵ひとつだに世にもとむべきかは、氏は〓氏にて、名を廉と云、むべも譌ならぬ親のたまものなりけり、姉ひとりもたりき、それの郷、それの人の女にて、其家なんよき酒つくり、田圃多く領じ、門高く、家の子あまた召つかひて、いと賑はゝしかりける、されど此廉なる人、おのれいふがふなく、爪くはるゝとにはあらねど、常にいきとむらふこともをさ/\せざりけり、あね君よきをのこ子ふたり、女の子一人、朝ゆふ前におきすゑて、万たらはぬことなき世にも、たゞこのおとうとの心ひとつをとりかねて、時〃使して、何やくれやの物おくりやれば、いともかたじけなきよしに推いたゞきて後、使のろくにとらせて、いさゝかのものもとゞめざれば、いともすべなく、かなしうおぼしわづらひにけり、かど人物へまかる便にとむらひにけり、いとうれしうて、北おもてなるところの、我おましにゐていきて、年月のことゞも、心ぐまなくとひみかたりみ、いかで時〃まかん出たまへ、かくておはすを、あるじもあたらしきことゝは、ことにしもの給へるものを、こゝにも日ごろとゞまりたまはんには、いとうれしくなん、いたいけなるものらが、かいそゝぶるはむつかしけれど、あはれとおぼしめぐみて、おひたゝんやうをも見つがせてよなと云、あるじ外よりかへり来て、世に稀人こそ入せけれ、酒いかで参らせざる、問はせ給はぬことは、おのれがたい%\しさに、とがむべうもあらず、こゝなる人と時〃申出る事、あたら物しりと人の羨むを、青雲の志だにおはせぬ、あひなうさふ%\しき、いともいぶかしきは、物まなびなん、そのかたのためとこそ承つれ、世をまつりごつべきみかど参りをもせで、ふかき山はやしに逃かくるゝためし、我世より見れば、いかなることともおぼししられぬよ、壁のこぼれにとなりの光をたのまんより、身の財もていかでかゝやかさゝる、何某とか云かしこき人の、銭ばかりたふときものもなし、翼あらねど空をかけり、足なくて千さとをゆくなど、いと有難きことを書あらはせしを、人のよみて聞せ給ふるまゝに、いよゝます/\あが仏とも、君とも親ともかしづき奉るにや、人なみ/\になりて、親おほ父より住ふりし所〃すりし、いな倉酒ぐらの町をつくりそへ、あの見ゆる竹の葉山の限までは、おのが田ばたに領じ成ぬ、あながちに世を逃れまくおぼさば、此わたりいづこにも住給へ、朝夕のことどもは、子どもらがみつぎ奉らむ、おひさき有ものらに、うち/\家とみさかゆべきことををしへたまへかし、猶うちゆるびて、こよひもあすも御物がたり聞えかはすべし、にひしぼりのこの頃、おのが二つの眼をてらして、多くの手足をあだ/\しからせぬを、銭の神はよしとやおぼすらん、只今たゞ参りきこゆべしとて、走り出つ、姉君立かはり、あるじはかくねもごろになんおはす、ひたぶるにおもひたのみ給へ、世に御為あしからじ、親のたのみとなんおぼししみぬるにはとて、いとはなちがたく聞ゆ、たゞかたしけなしとのみ、もだしがたくぞこたふ、めのわらはのさがしげなるが、やをらさうじあけて、おものいとよう侍り、参る、汁もの、あつもの、何くれと取そろへたり、ゐや言しつゝくひはてぬ、茶くだものまで心ゆくあるじなり、けふなんむね/\しきことの侍りて、このあなたまでまかんで侍るを、こゝ打かたぶきて過し侍らんは、いとなめしとて、かしこに待わびたらんが情なし、遠からずまうで侍らん、せうどの御うしろみさせ給ふみ心ざしの、いともかたじけなきを、朽ばみたる袖にはえもつゝあへず侍るとて、つと立て出づ、姉君あなう、我おもふなかばをもおぼさぬには、何ごともきこえたまはずと打うらむ、あるじゆじも来あひて、こはいかにぞや、さりがたきおこなひどもかつ%\おほせて、やがて参るへくずるを、わりなの御いそぎや、けふは放ちてん、とく給へとて、門送りす、姉君いと本意なげに、居させし所の塵はらふとて、むしろとりやりたれば、物そのしたにあり、あやし、とりて見たれば、銭いくらをつゝみて、みあへ代と書つけたり、あまりのことににくゝさへなりて、これ見給へとて、見すれば、さるにても、物しりばかりかたくなしきものはあらぬ、かた居などのさまなるを、おのれ見にくしともおもはで、独世をすましたる、中/\につらにくし、おひさきあるものら、ゆめ物学ばすなと爪はじきをして蜂ぶきたる、世のことわりとは、誰も聞つべし、あね君せんすべばくて打なかれたる、かしこきにや、あらずや、しらずかし、昔もかゝる人は珍らかなれば、しるしてつたへたりき、

        古戦場

唯心尼、我難波のやどりをとひ来て、かたりなぐさむるほとに、れいの手ならひにすべく、物らいいひてきかせ給へと云、翁もしばし物わするゝには、何ごとをもまなび出べきを、山の紅葉、野の浅芽の色づきたらんも、月影きよく、雁のつれわたらんも、かう垂こめてあるには、心もゆかず、いふとも何のにほひやあらん、それは年のはにあかぬあはれながら、耳ふりたりし、あながちなることを今おぼしいでたるを、求め奉らばや、このごろよみつる、もろこし人の、いにしへの戦の場を過て、いとかなしげなることかいたまへるが、まん名に書すくめたるには、よむにこは%\しく、聞知まじきことのみ多かり、これが心ばへ、すこし学びて聞しらせ給へと云、あなさあし、それは秦か漢か、近き代かなど有には、猶ものあたりにも、世の乱をおぼししみて、打も出らめ、治まれる世の民章の、さるずざまじきさかひに行いたるべくもあらず、ましてまのあたりなることならぬは、何の〓もあらず、いともあだ/\しきを、されとわざをきらがたつゝ舞のたぐひに、見聞ぬことをもかたり出てなぐさめんにはとて、物によりかゝりたるまゝに、つぶ/\とつゞしり出たる、いと物ぐるほしきはかなごとなりや

昔、しづ屋のうし、難波の大城もるつらに召加へられて、まうのぼり給ひし時、信濃の国、きちかうの原といふ所を過て、よませ給ひし哥、

        ものゝふの草むすかばね年ふりて、秋風寒し桔〓のはら

此哥、加茂の翁のよしとほめさせしかば、友垣の中のは、いとほまれあるものにかたりあひ侍りき、其野はや、人のかたりしを、今おぼし出れば、かぎりもなくひろらなる所也、西のかたの、大木蘇、小岐曾の嶺を越て、此野にはくだり来るなり、東は、諏訪、和田、風ごし、碓氷の嶺〃に立つゞきたるべし、それがあまりの山〃嶺〃、立繞りたるには、ゆくさくさ、おてもこのも、限のありて見ゆれば、さばかりの原野ともおぼさぬなるべし、夏過、秋風吹き立て、篠ずゝき蘆がやに、はひまつはるゝ真葛の、うらみおもてみさやぎたつ、露は御笠と申せなど云べく散みだれしには、道ゆく人の、弓末のみに見えがくれして、はたご馬の、行〃人すまぬ霧の籬に立隠るゝ、こゝなん、甲斐越後、此国のますらたけのを、たゝかひの場(ニハ)にて、旗さし物は、今見る雲きりのたえ%\なびくに似て、弓ほこつるぎ刃の乱は、尾花高がやよりもしげく、大ぶえ小笛の音は、ありかさためずゝだく虫の声か、吹きわたる風の音か、仇がうつ鼓か、こゝちまどひぞしぬべき、けふはかなたにかちほこり、あすは又うしろを見せて追うたるゝよ、そのあたむすびし始をとへば、深きうらみの有にもあらず、かたみに、竜の雲にのりてみ空をかけりわたらんと、ほこり奢れる心の、すざまじきがなすにこそあれ、流るゝ血はいさゝ川とせかれ、砕くる骨はさざれとも敷みちぬべし、かくて年ふりたらん後は、此あらかねの土の下は、こと%\屍の積うづみたらんが上にこそと、ふとおもへば、身の毛たち、つめたき汗は衣をとほすべし、ゝか心まどひしては、霧原望月の野に、放かふ駒のいなゝきを驚かれぞする、残れるあつさの空に、流るゝ星のゆくへを、鬼の火に見のおそれして、ゆく手や近き、こし方やなどおぼしまどふを、心をしづめておもへば、我其仇か、かれをかたきともうらむべきにあらず、大君の御垣の内つ国也とも、いづこの土か人の骨のうづもれたらざらん、年をふり、土にかへりては、春のあら小田すきかへすより、千町のおくてかりをさむるまで、男をとめのよごれまみるゝひぢりこも、そのいみじきものゝまじこりたらめ、今まのあたりならずとも、かしこき人はおぼしゝるらめ、あなはかな、あないみじ、猶うたへらく歌は、

        みこもかる、信濃の国は、山ゆけど、野ゆけどあらき、其道の、ちぶりの神の、み心も、荒びやすらん、国がらに、あれます人も、あらし雄の、たけびをらびて、人国を、己が家庭(ヤニハ)に、人の君は、おのがやつこと、仇むすび、恨みをむくひ、大鳥の、長き啄(ハシ)して、とれどあかず、家をばいてゝ、親も子も、かなしき女をも、うけ沓を、ぬぎつるが如、いかりの猪の、かへり見もせず、劔太刀、夜るもとり寐て、夏虫の、ともしつけまで、身をわすれ、刃をしのぎ、戦の、場(ニハ)に死すとも、紫の、名高の浦の、名をゝしみ、末の世までに、かたり次、いひつぐことを、ひたすらに、もとむる人も、天つちの、かぎりあらねば、いさ雄とて、人のほむるも、此野らの、草葉における、しら露の、落てくだけて、後あらんやも、

            反歌

  千はやぶる人をとらふと馬はせて、あら野の末に日はかたぶきぬ

  篝たきたてつきなめてをちかたの、仇まもる野に月すみわたる

  後の名をたのみはてずばますらのをの、命を風の塵になさめや

        聴雪

あはれ/\、老たる人ばかり、見ぐるしく朽をしきものはあらぬ、昔は都べの雪いかならんと、風だにさむく、雲の立まふ夕べは、出やたゝましなど思ひをうごかせしに、それさることにて、この四とせばかりいにしへ、こゝのやどりもとめて、住つきぬる時までも、む月それの日、雪いとふかう降つみたるを、待よろこべる友どち、ふたりみたりかいつらねて、きえがてまでも野山にまじりしは、たゞきのふの如わすれぬを、かうもおとろへけりな、都を雪のふるさとにせよと、伴の翁のよみて聞えられしに、又小沢の翁の、いかにながめつらんとて、

  かつ咲てかつ吹ちらせ花よりも、花なる庭の松のしら雪、

となんいひをくられしかば、

  さくとちる風のながれのあやしきは、空目の花の林なりけりと、

かへし聞えしなどおぼし出らる、今は目こそうとけれ、足こそなえたれ、この降雪に物ばかりはいはんとて、紙すゞりとう出たれど、指は亀のごとにかゞまりて、筆あゆますべくもあらねば、おき火かいまさぐりつゝ、こしかたをしのび、今を打なげきては、れいのくりことすなん、いとはかなしや、神な月、時雨の雨に染し木末の、散はてゝ後は、野山は色なくなりんて、高きいやしき、おのがほどほどに冬ごもりして、春を待こそわりなけれ、あしたより雲けしき立、嵐はげしきに、やれたる窓の紙は風を啜りて、いといたう寒きに、夕づけて雪やもよほす、物のふつにえたりしに、たゞしと/\と鬼のあ

ゆみてくる音するは、雪かみぞれかと、はひ出て、北の窓すこし明て見たれば、ほどなき庭をさしおほふ、隣の松が枝の葉に、いとしろう降つみたるを見るにも、いでいかで出やたゝまし、比枝比良に立つらなる山々、高きは雲にかしらつき入、ひくきは物につゝまれたるさまして、よそほひ立、ゑめるが如く、妬めるに似て、我天の下のかほよ人とや打ほこりたらん、野は、もろこし人のしろかねをしくと見しは、猶曇りげなり、神の織けん栲の白布を、幾千々むら引みだりたりと見ば、そも機ばりのけぢめ見ゆべし、林は、さか木葉に木綿とりかけて、神の出ましのみさきにさゝげ出たつとも譬ふべし、やゝ光をのこして暮はてぬと見る/\、空晴、風すこし吹て、雁がねの鳴てわたるほどに、月や出ぬと、すの子に立いでゝ見れば、はやく山のはをはなれて、昼よりもけにあかくしら%\しく、星のかゝやきそひて、千里の外までも、いさゝけの隈もあらじと思ふは、かくひたやごもりして、閉たる眼にさへ、まさめのけしきして、心なぐさむなん、いとあやしき、埋火たきつぎ、湯たぎらせ、木の芽の香のみすゞろひをり、へいじかはらけとりはやさぬ、よそめいかにさふ%\しからん、我難波人は、雪は都の物とのみ思ひこがれては、いかにながめつらんなど、そのをり/\はとひこしつるを思ふにも、老たるおのればかり、見ぐるしく、口惜き人はあらし物を、かうまで居かゝまりぬれば、山と降つみ、巌とこほりたる下にうづもれて、春立ぞともおぼししらぬ、三越路の山里人ぞ、我は

          其二

雁がねの故さとゝしも云める、越の国々はや、冬の雪の山とふりつみ、いはほとこり、深き谷は丘となり、喬き木末も、道の芝草と埋もれ、或は崩れなだれて、旅行人の関路となりて、老たる駒さへさすかたをうしなふ、さるわたりならぬにさへ、あはになふりそと、いにしへ人のなげきしは、これが〓はすなりけり、宮古べの雪は、しぐれふるかんな月過て、風ひやゝかに、雲がちなるには、朝よひとなく、照日ながらに散かひて、衣寒しもといひつゝも、立出て見れば、高山端山、なべて赤はだかに見るめなく、野ははたつ物こそあれ、下紅葉せし小草もかれはてゝ、霜に砕かれ、風の塵とゆくへなく吹まよひ、いは橋ふみこゆる山川のせも、薄ら氷とづるほかは、さゝやかにだに音もせず、野路の小川のさゞれもしがらみも、風に吹かはかされて、池沼は忘れ水とや見すぐすべき、さはこゝを瀬と、きは%\しく、あめにみち、つちを覆ひて、降つむながめのしら/\しさよ、雪よ/\、冬をおのが時とはすれど、大かたの年なみを見るに、む月立て、望の日ごろまでにこそ、一さかたらず降つみて、あな面しろのながめはあんなれ、冬をおのが時とすれど、春はおのれまろうどざねに、心ゆくあそびする〓、む月立、なほ吹風は寒きにも、日の影うら/\と、山の南おもてに霞たな引そめて、去年よりふゝみし梅の、ゑみをひらき、鴬の初音さゝやかならず軒におとづれて、芽はる柳の枝は、空に動くけしきなん見ゆ、さるは人の心もゆたけく、高きいやしきゐや/\しく、よろこびをのべつゝ、うときもいきかひして、ことなきを祝ふたのしさよ、唐うた、やまと歌、道道しげに、糸竹の遊びも何も、春をまづことぶくなん、年のはにあかぬためしなりける、雪よ/\、冬をおのが時にて、春をいかに、霞をけち、花を降うずみ、鴬の涙を氷らするは、物みな嫉ましくするか、人のこゝろをなぐさめ、人の心をいたましむはなぞ、あめのしたのかほよ人の、あやにくなるさがにも似たるか、あしたより雲けしき立、照日ながらにいと寒き日、立出て見たれば、

  たちめぐる山の嵐にくだかれてちるかみやこの春のあわ雪

          応雲林院医伯之需、擬李太白春夜宴桃李園序

やよひの望の夜ころ、かすみながらに、夕かけて月いと花やかにさしのぼりて、庭の桜が枝に先かゝれる影の、花に色をあらそふは、似る物もなくあはれ也、人々此木のもとにおりゐて、酒くみあそぶ、あるじの翁いへる、月日は〓を射るにたとへ、人の命はゆく水の跡なきに云も、こよひや引てはなたぬほど、瀬によどむひまといはゞいかに、さはいたづらにながめんやは、花の思はんをやさしみたまへとて、かはらけをすゝめ、筆硯さゝげいでゝ、物求め顔なり、まろうどさね云、行水と、過る齢と、ちる花を、まてと云にとゞまらずとや、我如きはとゞまりて何ごとをかなすべき、年もゆけかし、水もよどまざれ、たゞこよひの花ばかりは、あすは雪ともと打まもらへをる、わかくさがしだちたる人の云、酌てあかぬは、大伴のそとの君こゝにおはすに似て、言に挙てうたはゞ、貫之躬つねも昔の人ならず、酒ははかりあさくとも、ことのしらべつたなしともいへ、此めづる心ばかりは劣らじものを、我先とて、打うめき、はやりかにて、  大はらや朧の清水春の夜の、  月をさくらにかけてうつれる、酔なきせぬ人の云、山のたゝずまひ、水の流、時々の草木の色香、鳥の声虫の音、いにしへ今たがはじを、これめづる心ことばの、古きにおとるこそ、いとも爪くはるゝわざなれば、我は中々なることいはじとて、袖たれ、打もだしをる、一人は觴を挙げながら、  桜花影のやどれば久かたの、  かつらの枝もともにかざゝん、翁さひたる人の、  よしさらば齢は花にゆづらなん、  かたぶく月よ我をいざなへ、さすがに打泣たるはうたてし、まろうどざねも心すさびやして、  咲花のしづくにぬるゝ我袖を、  月にほすとて夜は更につゝ、あるじいとう酔ずゝみして、人々の詞の花は、木末も色なくぞ見ゆ、風はさそはねばちりもはじめず、月もあかときかけては、春の夜みじかくもあらじ、酒の泉猶尽ぬそとて、ほとぎはうしとり、声いとたからかなり、  この酒をかみてたゝへし壷の中に、  長き月日は有と社きけ、物らいはぬ人々は、おのがじゝ酌つゝ、御罰いたうかうむりぬといひてなん、

故郷

一夜力斎主翁かたりて云、蘇子瞻云、唐に文章なし、唯韓昌〓の、李愿が盤谷に帰るを送る序のみきら/\し、常に是にならはまく思ひては、筆を止る事幾度、あゝ彼をゆるして独たゝしめんと、此語につきて、此序を憩(まま)なふこと年久し、前には太白の春夜宴を、国ぶりにかいあらためて贈られしを、世に珍らかに思えて蔵めたる又是をも其ためしならばやと、試るにあらざれば、これをいなむは蘇子にまねぶに似たり、よしや、これが注かく人にならふべく、若とみたがへ、心をあやまるとも、道々しからぬたはわざは、人とがむまじきぞとて、筆はとりぬ、いと鼻しらむべきさがしらなり、むかしの人も、世にあへるあり、時を失へるあり、其あといともおほかめるを、更にかぞへあげんが〓はしき、世にあへるが賢きにもあらず、時うしなへるが愚なるにもあらず、身の幸ひののおくれさいたち、あひあはぬにこそあらめ、世に遇てほまれとる人の、後におとしめらるゝもあり、楽しとするもうしといふも、求るまゝにはあらぬ、誰があたふるたま物ぞや、昔は聖の御代にうまれあひて、賢しと云人の、ひとりは高きみくらにのぼり、一人はやまにはひかくれしをおもへば、身のほどのたがひあるをいかにせん、世にあへば馬車を道にとゞろかし、みかどに参りては、つかさ/\のうえにをり、思ふを奉り、言を納れまゐらすに、君を始め、このしらせます国の限りは、其事行なはるゝは、いとも有かたき幸ひ人也けり、さるは求めねど、四方の国つ宝を庫につみ、山や江や、獲かたき物を、朝夕の箸に下し、心のゆくまゝなるを、かしこき人は、足るとのみにはあらで、あな恐ろしとさへ思議りては、忌さくる人もありしとや、これを露ばかりもおぼししらで、あたゝかに打かさね腹ふくるゝまでくらはんが、酬ひあしからず終るもあり、或は中空にしてやめられ、あるは後いかならんとつかへをやむる、/\をかしこしとせば、出るを愚也とせんか、出て遇ざるは退き、挙らるゝは進む、是ぞ世に立人の心にして、おのがほど/\をたもつなりき、あながちに隠れしぞきたらんもたがひたらめ、すゝむべくにしぞくは、身をあやまれるにて、後とりかへさまほしき世もいでこんものぞ、又退くべき時をうしなひて、罪かうむるを、後いかにせん、垣ねの菊を折はやし、南の山を朝やひに打望みたりし人は、此いはほの中にかへりしたぐひの、ほど/\をたもちて安きを楽しむ也、やめられてかなしともおぼさぬ人、ことにたふとし、我と避て飢につき、水に入し人を、おろかなりともいはぬは、さるべきことわりのいとせめたるにこそおはすらめ、罪なくて、海山のおもしろき所の月をみてましと、独ごちし人は、おほやけにまめ/\しからぬにはあらで、みそかに打歎かるゝよしも有つらめ、かの谷深き所の民は、心こそ木すぐなれ、つらつきおに/\しく、鳥のさえずりに物いひつゞけなんは、何かたらふべくもあらぬ、そも故郷なればこそあれ、こゝに帰るは、心を安きにおかんの願ひ也、しらぬ国、とほき境にゆけば、山は高くそば/\しく、ありその波おどろおどろしくて、すむ人もかたちこゝろのおに/\しからんには、いきて誰とか交はらん、都わたりこそ、山のたゝずまひ水の流、木草の花も、おのずからにこやかに、あなおもしろとながめらるゝ、こゝを棄ていづこにかは、されど在たき所をさえうしとおぼすは、たゞやすき一かたのねがひにたがふからなり、世を見れば、若き男どもの、酒うる家にうかれ遊ぶにさへ、十にふたゝびなどや心にかなふらめ、大かたはあるじが立まひを空ぼめし、〓姫等が心をとりつゝつとむるには、思ふにかなふ夜こそとぼしからめ、怒をたへ、足らざるをしのぶは、いともくるしげなりとは老て後にこそ思ひしられ、物ひろくしり、人にこえたらんとおもふも、若きほどのはやり心の煩ひなり、物学ぶは、人におもねるに等しと云教へもありとや、田舎とても、ひなのみやこといふあたりの人は、このわづらひをもとむるまけじ心の多かり、都にあれど、老がごときあやしげにおひ立しものは、こゝのふる堤の陰に、かたゐものゝさましてよろぼひをるにも、むかし、かたはしばかり見聞しことさへ、名残なくわすれにて、眼やみつかれ、花の匂ひ、月の光もみとゞめぬは、在て何のかひやはある、中〃に昔の田舎住こそしのばしけれ、さきのほまれ、後のそしりも、あなわづらはし、只うまれたるほど/\に、寒からず、ほしからずば、人の国、ふる郷のけぢめもあらじ彼谷ふかきところの有さま、いきて見るとも、すまであはれをしらんやは、住て都のわびしきは身のほどの貧しきなり、退之の文の、世にひとり立たるは、天のたま物か、つとめて到れるか、是ゆるしてしりに立人も、おのがほどをしりたるなり、出てはつかへ、遇ざるはしぞく、其ほど/\にあんずる人の楽しみふかきをさへ思ひしらる、それにつきてうたへる歌、山高み、めぐれる谷の、水きよみ、木草の花は、春秋の、色香あらそひ、鳥の声、ほがら/\と、明ぐれの、しづけき空に行雲は、こゝろなしとふ、心しも、ありやあらずや山深き、谷隠れして住民の、しのや葦あへ、松の戸の、待こともなく、夏冬の、うさをもいはで、昼はも、田刈斧とり、夜はもよ、真柴折たき、かづら〓ひ、おのがほどなる、なりはひを、うしともあらず、たぬしとも、しらで在ふる、故郷を、何心して、天雲の、よそに見すてゝ、此谷の、深きゆいでゝ、中空に、そびえ立たる、喬き木に、遷りて見れば、こち%\の、枝葉をしげみ、香ぐはしき、花をよそほい、真玉なす、実をばさゝけて、大宮に、つかへまつれば、天のした、おほふばかりの、袖ふりはへ、ふつまに鞍おき、あぢまさの、車とゞろに、飛騨人の、縄引はへし、大路さへ、所せきまで、雲の籏、風になびかせ、まへしりし、八十ともの雄等、弓箭おひ、鉾つきたてゝ、あゆまする、つかさにしあれば、皆人は、野辺の鳥むし、七種の、宝はさゞれ、家にあれば、錦をまとふ、こし細の、すがるをとめら、右にゑみ、左に媚て、うまざけの、泉をたゝえ、山に入、江につりえたる、くさぐさを、かしはでめして、かしは葉を、敷とりなべて、あかなくも、きこしゝ家は、いつのまに、和泉の杣が、うつ斧に、枝葉はしぼみ、根をつらね、薪となしぬ、そを見れば、高きはいづら、青雲に、聳えし峰は、世の塵の、積てなりにし、山なれば、くづれたをれて、赤駒の、あがきに砕き、玉ぼこの、道行人の、わら沓に、くゑはらゝかし、はて/\は、夢がたりして、ほまれとて、人の羨む、紫の、名高のうらに、よする浪、磯にみだれて、後の世に、そしりくだしぬ、あしたには、楽しと見しも、かげろふの、夕べになれば、そことしも、かきけたれつる、燈火の、光も闇に、天の戸の、岩屋戸たてゝ、こもらしゝ、神代のかかたり、おもほえて、今のうつゝに、思ひえば、おのがほど%\、一日には、三度ならずも、かへり見て、それにつけつゝ、ありなめと、おもふはたゞうゝ゛に、うら安の、やすきをたのむ、こゝろひとつぞ、

        李氏は

出て遊ぶ魂は夢路かうつゝかもさむればかへる故郷の宿

        我は

故郷にあらぬ都に存わびてかへる日しらぬ歎をぞする

        硯の銘

すゞりはや、石のなめらかなるをよしとす、石なめらかなるは、たゞに玉にたぐひす、玉はや、値かぎりなくたふとしと云も、月なき夜をてらす光こそおとりたれ、いかで玉の弟とや云べき、誰か云し、硯はにぶきに生まれて静なれば、齢は世もてかぞふへし、墨や、ふんてや、さかしきほど/\に、命も月に日にをはるとなん、おのれ思へらく、此三たり心をあはせて、はらからなし、千世万代の昔をつたふるいさをの、齢もおなじといはゞいかに、鈍きにうまれて、よはひ久しきと云は、きのふの山路の不材の木のたとへこそあたりたらめ、海をふかめ、はだへをなめらかにすりまがきつゝ、玉にたぐふらん物を、いかでにぶきに生れしとは云、ふみは君也、硯はおみのつかさ人なり、筆や墨や、各かろからぬつかさ/\につかふまつりて、いみじきいさをゝたてたらんが、永き代に朽せぬめでたさよ、いにしへの云、真手は壊れず、真硯は損なはずと、此ことわりをうまく心うべかりける、されば山にもとめ江に探るは、聖の君の、臣のつかさをえらぶにも似たりかし、玉をもとむるは、かほよ人をえらぶにおなじく、光やかたちをめつ゛るむなしわざにしもおぼゆれ、硯なめらかなりとも、堅きに過れば、墨を鈍からしむ、やわしけれは、するはくたくにひとし、そゝや往しへをとむれば、竹をあみて漆をおとせしと云光の、石なめらかならずばと誰しもおぼすなるべし、又聞、硯のおろそげなる、筆ついえ、墨あらびて、友を損なへりとや、独硯のみならず、よろつ゛のことしからざるはなしとなん、さは色やかたちをえらぶは後なりけり、かれうたへらく、

神の代に汐の満ひる玉てふも常なき物を何かもとめん

光こそ玉にはおとれ世の為にひかりをみするたまは此玉

海づらに雲をおこして行かたに浦洲の鳥の跡は見えけり

  右は学半斎翁のもとめにて

        風鈴

峰なす夕雲の立居する此は、必よ、南の風の薫りくると云、むべも河内の足立の尼がおとづれ聞えしに、取そへて、風れうの詞、かうばしき紙二ひらに書つらねたるを、被きて見たれば、思ひぞ出る、こは此春、翁があたへつるかしまし物が上を、なつかしびて打出し也けり、是をもろこしの何がしと云大とくの、〓身口に似たりとは、かたちの見にくしとにはあらで、西より東よりの風をいとはず、物らいひつゞくるを、にやう舌とや疎ませけん、口は瓶の〓くに守れのいましめをしらぬげに、風だにふけば、滴丁凍やまず聞ゆるはんにやの声の、いともかしましきは、ふん土の〓の手枕をおどろかすを、あな憎しともうとむらん、なめて世にあるものをおもふに、鳥虫の音、木草のさやめき、浪の立居も、おどろ/\しからぬはなつかし、たゞ打しづもりたらん時は、あはれ、けはひばかりも聞えよとおぼゆかし、心ふかき人の、声を息の下にひきいれて、物云こそいともにくゝこそあれな、常陸の海の伊賀が埼、打もつゞかぬことを、舌とくさへづるは、をのこだにあるを、まいてをみなはいともはしたに、なめしとも見おとさるゝを、我はさとらで、木末の日ぐらし、〓の葉がくれのむら雀、くるとあくとに物の音をさへうばふぞうたてある、此中空なる物が、野辺の松虫をまねび、遠山寺の夕べを告るよとおぼしなさるゝ時は、文よみふける眠の友となり、つら杖に物おもひつゞくるをもやめてんを、誰かはうとんずべき、峰の松風琴の緒にかよひ、〓のそよぎの笛竹にやと聞まがふは、野分吹立、門さしこむるゆふ暮ならずかし、世に風を待、風をいとふものすくなからず、たゞ/\人の音づればかり、たえずふけかしと思ふも、老て物がなしく、心のひまの多かるになん、

        枕の硯

盗人書をとらす、鼠硯を〓ずと聞つるを、あやし、我あらぬひまに、たゞ一つある硯を、蓋とゝもにわりすてしは、人のしわざにはあらじ、神やなしましけん、さは老ほれて、あだ/\しきすさびやめてんと思ふを、〓いとまある心のわづらひては、又もゝとめまくす、値たふときはいかでと、木に作らせしを、是はた神の焼ほろぼさせ給はんかし、此あらたなる友を枕辺におきて、夜はつれなし、あしたよりとひみかたりみなぐさむなん、人笑へとしもしる/\、此ごろ人のかたりて聞せ給へる、六〓上人の十春のこと%\、玉の声なるに次て、人々のおなし響をなんさえ/\鳴させ給へりとや、我にも是にやまと〓よみ次べくもとめらるゝ、いと思ひもかけぬ事なりとて、打そむけをる、み心にたがへるは、御かんだう、いとかしこし、をかしき物かたりもとめ来て、罪あがなはんとて、いにし跡に、おきわすれしやうにて、彼十の題ばかりかいつらねて見するなりき、さがしき人のしわざやとて、取をさむともなしに、机のはしにおきぬ、その人あしたとく来て、よき茶くだ物たいまつる、きのふの題のこゝろうけ給はらばや、御枕の硯に、筆かはらせたまへと云、つらつきいとにくけれど、けふは何して永き日くらすべきと、おもひつる心になだめられてぞ、いかさまにもはかりて、翁をもてあそばせたまへとて、火とりの肩につら杖つき、此さかしに物がたりするやうにてなん、むかし、清原なる人のむすめの、世にすぐれてさがしきがおはしけり、をさないよりも、親のいつくしみのあまりに、唐やまとの文らひろくよみならはせたまひしかば、やう/\およずけゆくに、おのづからめゝしからざりしかば、後はたよからじと、みそか言する人もおはしけり、年月におぼしおきたりし事ども多かりけれど、家やまづしかりけん、紙のとぼしさに、いたずらにえしるさてなん過いたまへりける、つかふる御かたの、何のろくにか、よき紙あまたたうびしかば、つふねのいとまあるをり/\、筆とり、心のゆくまゝにつゞしり出たまひけり、其はじめに、春もやう/\明ゆく空のけしき、先おぼし出たる、よむにさへ心のどけくぞ有ける、む月のおほやけ事はたさせたまひては、いとまありげにて、宮人たちの桜折かざし、永き日ぐらし、かはらけとりはやさせたまはん、生ての世にだにたのしくば、虫に鳥にもよしならばやとのたまひし、酒壷の君の酔泣も、春の花のもとの遊び、たぐひあらじと思ふを、秋の月の前にはいかでとや、春秋のあらそひと云事して、立むかへる宮びわざの、おのがひくか【224.TXT】 たに、しひていひさだむるよ、それさもあれ、道々の教へにも、我ときえたりとほこりかなるも、おのがまことの心のはいかゞ思ふらん、とへかしな、是きくわかき人は、あが仏ともおしいたゞくべし、如来の提婆をしをり給へりしかば、かくまで我をさいなむはいかにとゝへば、不平の心には、おなじ心してとこたへ給ひしとか、争ひの直からぬなんかゝりける、物いへばよそ/\しく成もてゆく、老は誰しもしかりとや、春に心よすとも、秋のあはれ思はざらんつれなし、霞引わたし、くもりげなるあした、やがてはれゆけば、九重のとのへにめぐれる山々の、大かたは見どころなるを、ゆかで思ひのいたれるを、若き人しらんやは、

右春晴

又八重雲たちかさなるけふは、雪か雨かと見る/\、ふる屋の軒の玉水も、たる氷も、心あたゝかならん人は、是かいそゝぶりても遊ぶべし、

右春陰

夜はなほ長きをなげく老こそあれ、すむあたりのつい垣をもれて、三くさの笛竹の音、空にすみのぼり、魏々洋々のしらべ雲のうらより落くるを聞侍るには、いかばかりみ心すさびしたまふらん、しらぬにあはれのすゝめるは、世にめでたき物のねなれば也、七日の節会の夜、日の御かどの前に、御轅いくらかき捨て、仕丁等〓垣の人やどりにかゞまりをり、火たきほこらしつゝ、手足あたゝむる、そ夜過ぬらん、ねり出させ給ふ、松あか/\と照させ、もんりうの御かた%\、左みぎにそひ、沓おとから/\とすべり出させ給へる御かたちども、世にゐやゝかにたふとく拝まれさせたまへるは、たとふるに物もあらずなん、誰やの^軒に泣こゞゆるみどり子の、沫雪ふりかゝれるを見つけて、あたりの人よりつどひ、いかに/\とはかりあはする、あはれ/\、捨し親はいづちにかはひかくるゝ、すべなき世に在るわびてこそかゝらめと、いきゝの人も打ひそみぬべし、

右春夜

あかつきは春こそわきて、峰の松のひま%\あかねさし、横雲かゝれるあしたは、えもいはれずにほひかなり、風さと吹て、花の香おくりくるそなたを見れば、鴬の舌とく鳴て、枝うつりするさまうれしげなり、旅たつ人の、馬の上に残の夢を見つけるに、衣はゞき、露霜にぬれとほりて、いといたうさむし、山さくばかりの〓子の一声には、目やさむらん、染ぎぬにも、花鳥ぬひちらせしすそに、ほの/\なるはめでたし、【226.TXT】 山は駿河なるぞ、御国の外にもたぐひなく高きと、夷の国人の、こゝにたゞよひ来て物がたりしを、なにがしにの法師のから哥につくりて、世にとゞめられしを見しが、都方には日枝なん秀たるを、近江の人は、比良尚たかしと云、駒とめて、此をのへの花見し人の目こそうら山しけれ、我ふる郷にては、武庫山さしもそびえたちけれど、たゞあか金を打延たるやうにて、見のうたてし、伊こま嶺朝ゆふに望まるゝ、此東おもてなる大和人も、おなじながめに云は、かたちなりとゝのひたればなり、又是につゞきて、葛城や高間の山、ふたかみの峰々を西に、春日高まど、布留三輪はつ瀬、南なる鷹むち山、多武の嶺打こえて、よしのゝ方も見ゆると云、藤原のみやこ人のよみたりしをおもほゆ、見わたせは霞かゝれる山々も、名にはかくれぬ大和国ばら、三輪山なん立出も走出もよろしと見る、昔まうで侍りし時、よぶこ鳥のしば鳴し事おぼしいづ、しるしなき音をも鳴かな三わ山の、杉の木むらに誰呼子鳥、

  右春山

三輪川ははつせ川より流れて、末は竜田の立野にいたりて、立田川とよひしを今は大和川とよぶ、それは河内の国に入ての名なるをや、帰路に落来てとしの川とよめる、山城川をさかのぼりにとは、まだ難波江こがするほどの御〓なるべし、さる遠しろき流れも、野路のいさら川も、池沼も、なべてぬるめる春は、魚も千さとにのぼりゆくとやそれは師にしたがひて、道にすゝむたとへごとゝも云人あり、

右春水

雨ははるさめぞおもしろと云、花の父はゝのやうにいへと、うたて嵐のさそふ散がたには何とか云、蛙の妻よぶと聞人もありしが、おほかたは雨もよの声とて、衣ときあらふをとめらが憎しとうらめるものを、沢田に水たくはへまくする里ゝには、かしましものともいはで、

        右春雨

雨もよならでも、月は霞めるよひ/\を、よき人のしく物なしとのたまひしは、思ひのいたりがたう社侍れ、

        右春月

春寒しとは、鞍馬の初とら詣、比良の八講、かすが祭の御つかひざねのみさう束の、杉の下道、雪解のしづくにしとゞに立たぬれさせ給へる、又東大寺の〓(けん)ざく院のおこなひする夜、つぼねして居明す、いかに寒【228.TXT】 からん、難波船のてを曳のばして、淀わたり過、伏見の岸まだ夜ぶかければ、宿の戸あらく打たゝかするに、応〃とのみに、あけぬほど、さえかへりし河風いといたうさむし、しかならん夜ごろに、医師の門けはしく音なひて、さりがたき方のむかへ来たる、立出て見れば、空たかく、星きら/\しくかゝやきたる、身にしみとほりて寒かるは、おのが上にもむかし思い出らるゝを、又年ごとにはあらねど、恋くればよしのゝ山路風さえて、花の林に雪ふりかかる

        右春寒

あはたゝしく風にちる花故に、夢見草とはいふよ、そも躬恒の君にやもとづきけん、年こゆる夜の敷〓のならひの、是やいめのうき橋とも云べし、さてしも云つゞくれば、後はたとりかへさまほしくこそ、そゝや、かひなくたゝん名のをしといはれて、むなしく手引こめたらん君は、爪くはれ、いかにさふざふしくやおはしけん、

        右春夢

尚日高し、哥よめとて、えらべる題、追擬十春、そやの鐘鳴てよみはてぬ、

        春天

風もなく晴たる春の空見ればつかさのいろは緑なりけり

        春日

日を春と思ひそめけり垣めぐるいさら小川の音のゆたけさ

        春雪

沫にふる春の雪まの春日野にしめしやけふと若菜つむ人

        春水

山の井のあさきになれてむすぶ手の雫もこほる春の嵐に

        春風

めはるより枝になじめる春風のとはぬ日もなし野路の青柳

        春野

草茂みあすの御狩にしめはへしかたのゝさくら今盛也

        春江

あはと見し舟は入江に漕はてぬ千さとや来けんながき春日に

        春行

此春は花見がてらの故さとにちりての後も日数へしかな

        春眠

いきたなき朝戸をもるゝ春の香に日影も高し起よいざ子等

        春宴

此殿の齢をいはふ庭もせにあすは雪ともさくさくらかな

この筆とる人は、翁をよくすかいこしらふる人なり、

硯材以豫章者、蓋神代之遺制也、覆舟之名見礼月令、及古事記播磨風土記等、所用、文成筆止、覆而置之、別不以蓋也、訓不世賀太、因播磨風土記爾云、

        雨かはづ

みな月つごもりがた、むら雨一日ふた日降とほりて、秋の初風すゞしきあした、此里の人々、みとおしおひ栄ゆらん事を喜びつゝ、我やどりを、もろこしの何がしの亭になずらへて、人びとあつまり、ひと日くひのみしつゝ遊びのゝじるなべに、せんざいの花々あはせしてん、それいとをかしき事也とて、さま%\花がめとりなみ、露打そゝぎつゝ、枝たはめはすかしなどして、是観る、めずらしく心ゆく遊びなりけり、其くさぐさや、夏秋のけぢめをいはず、おのがまゝに咲きほこりたる、くれのあやのはとりらがたてぬきの工みにも、まことのいろ香はひときはにほひかにこそあれ、荻が花のやゝほころびそめし、きちかうは唐ことにこは%\しけれど、蟻の火ふきと云名の、〓にはまねぶべくもあらず、しろきはちすの花さゝげ出たるは、いくらの城にや代らん、無価の珠とは是をこそと思ゆ、

きつばた時過したれど、猶色あひはすぐれたる、高きつかさ人の袖たれておはす覧にむかひや奉る、一日の栄の朝〓は、奈良人の、秋の七くさにかぞえしは、むくげなりしとぞ、なでしこの花、唐やまとのくさ%\多かめれど、古き〓物がたりなどに云は、水かれし川辺の真なご原、草(五ノ三十二オ)むらの中より、なよびかによろぼひたるをぞよみたる、それは秋の末、かんな月の此までも、かつ%\咲のこりしを、後撰集、さらしなの記にもいはれたる、しのゝをずゝき、まだき穂に出ねど、袖打ふりて人まねきたらん、秋の野末のあはれ忘んやは、をみなめしをむせる栗の如しと云は、文字のたがえるにて、何某の壁の賦に、黄なるは蒸シ栗に似たりと有よと、江の帥のいはせ給ひし、寔に栗はむさずとも黄なるをや、菊は唐よもぎといふ名、哥にはよまねど、此花やさう和の御時にめでそめしともいへど、唐国のきくさはひにて、こゝにも秋の山路の、露霜によろぼへるが、花に似ぬ香の、いきゝの袖にうつすばかりなるは、久しき代より有けん、よめが萩の花の今も摘はやさぬたぐひやともおぼさる、此くさ%\は、いにしへよりめではやせるにつきて、哥にはよむを、是があまりなるも、色香などやをとらん、檀どくの花と云名は、本師の菜つみ水くみ薪こりつゝ、道学ばせし山にやおひ出けん、さるは御寺ごとに植おぼし給ふべきくさはひなるき、射干をからす扇と云名、物に見えたる、是が実の黒きをば、ぬば玉と云とぞ、古こと知のいはれし、漢の馬援と云人、〓〓(よくい)の実をなゝ車に積て、夷の国よりもてかえりしと云、光をおび、かつ粥にも煮てくらふと聞には、野なる真玉とは、是をやと思ゆれど、射干玉と正に書しをもては、まがはじと云よ、名と物と、いにしえより呼たがへつるが多かればいかにせん、秋かいどうは、花の色、春咲木にもをさ/\おとらじものを、それは花散て後、葉のくろみづき、あつごゆるがうるさし、けいとうの花、くくたちよりもいとたけ%\しく、やしなひえては、猿田彦の神の、すめみまの尊のみさきおいて、つきならし給ふ長ほこは、是がゝたちしたらめ、猶多かめれど、から名やまと名のまさしからぬはおきぬべし、茶かきたて、餅くだ物くひつみつゝ、ひねもすなん、山里のさふ%\しさも忘れたりな、簀の子にゐざり出てさしあふげば、伊駒高ねに雲も居ず、草香江の沢田の千町はろ%\青やぎて、鳥の声は、此岡の松のむら立囀りかはし、草むらにすだく虫のね、心ぼそげながらも、いとなつかしうあはれ也、かれも是も我をなぐさむよとおぼしよろこべるにも、たゞ春の霞秋の夕霧ならで、物のあや見さだめがたきひとつなん、我身に寒き秋なりける、人々歌よめり、            萩                            租畳

棹しかのまだき恋せぬ秋のゝに匂ひなつかしはぎの初花

            はちす

吹風に露もこぼさぬ蓮葉のはなに朝日のひかりまばゆき

            すゝき                        公達

誰をかも松の木陰の花すゝきまねくたもとにかよふ秋風

            かきつばた

かきつ機手折袂の露にさへこきむらさきの色にうつろふ

          あさ顔

日影さす匂ひもはかな中垣に露おきまさるあさ顔の花

          常夏                      常之

夏草にまじりてさけど撫子の露に秋そふはなのさかりは

          菊                        唯心尼

山ぶみの家路のつとに折てこし香ぞなつかしき白菊のはな

          桔更

秋ちかう成も行かな故郷の野らにと宿はすみはそめねど

          翁もよめと云に

むら雨の後のあしたの女郎花誰にわかれの露のなみたぞ、

重正けふ来たらず、哥よまぬ人々も、花になん心づくしゝて、ふん月十一日、きのふの夕づけてより雨ふる、うま時にはれぬ、十日にひと度のためしいとよろこぶべし、里人云、是や銭米のふりたる也、野分だに吹あれずばと、竹のねぐらの雀をどりしてよろこぶさまいとたのしき、あやしの小家どもの垣ねを過て、かたるを聞けば、此雨よ猶ふれかし、田ばた大かたにゆきたらひぬれど、あすあさてのほどや、又せき入切とほし、露のいとまあらんやは、我ともにあづけし里をさ達のゑみほこりたらん、中々につらにくし、年もやがて暮れゆくべきを、今より思へば、しもと杖打ふりてさいなまれん、あさましの世やなど、おのがどち/\いひあへなげく、あく時しらぬげに、さこそはうらむれ、うらぼん来たらばをどりて遊ぶらん、秋の祭りには物むさぼりくらはんなど、是うちたのみつゝ待たらん、啄長き鳥のさるきざみ/\の人がらなれば、此いひごとは神も罪ゆるし、仏ぼさつもあはれと見つがせ給はんものぞ、たゞ/\銭の神ばかりは、塵もつかぢと、よらせ給はぬ人のほどなりけり、右寛政十年の夏五月廿日まりより、文月のつごもり方までの事を、日なみのさまに、唯心尼に筆かはらせし、山霧の記と云中に書出せし也、目おもくやみていたはりすと、河内の日下の里の、正法寺と申す御寺にやどりしてありし時のことなり、

        旌孝記

人の世にあるや、大かた才能のほまれの、名を求めてしらるゝと、もとめずして聞ゆるのさかし愚のけぢめはあれど、此二つは倶にいたづら事なりける、子の親につかふるこそ、このいやしき名を思ふにはあらで、親のたまふぇるうみの真心を(五ノ三十六才)しも損はず、学びて行なふと、庭のをしへをかうべにしてつとむるあり、又学ばず受ず、只露ばかりもたがはじとする人のたふとさよ、近き世に見聞は、いと貧しき人の子の、まだあけ巻めざしなるほどより、誰が教を見聞きにもあらず、いと有難き志もてつかふるは、うみの宝の子とこそ思ひしに、やう/\およずけゆくまゝに、そこに在とだに聞えぬは、いかに成立けん、いといぶかしうもこそあれ、つかさ位高ききん達は、御親兄の前に冠を正し、かたちつくろひ、ゆめたがはじとかしこみ給へば、御心の怠りはいかなりとも聞え流れずおはせりき、富人の子も是にならひて、よしあしの名は世に聞えぬ(五ノ三十六ウ)にや、今の世がたりに人の聞えし、都六条わたりに、馬場の何某と云人、兄の病ひして、はかなかりしことにつきて、つかふる君の御いとまたまはり、母一人、兄の子のをさなきをつれて、市に隠れたりしに、親をかしつき、みなし子をいとをしむまめ心を、あたりの人の見聞て、おほやけのみことのまゝに、うたへ出ん事を告しらせしに、あなかなし、この親につかふるをほまれとせんこと、いとも恥あること也、我はあからさまにこそ物すれ、召れて物問せ給はんに、何とかはこたへ奉るべき、うたへ出られぬさきにとて、母をおひ、をさなきが手を引て、夜にかくれ、いつちへも逃去んとす、家ぬし隣の人〓あはてまどい、かく(五ノ三十七才)たふとき志をうばふへからずとて、うたへの事止まりぬ、今は昔の御宮づかへに召かへされ、家ををこし給へりとや、又我難波の故さと人の、母一人を、兄おとゝ妹はらから三人がゝしづきて、兄は老いゆくまゝに、めとれといへど、いかなるものゝ出来て、親につらきことやあらんとてむかえず、弟といもうとは、人の養はんといへど、母のかたはらをさらじとてゆかず、母物に詣てんといへば、おとゞひ二人して興にかきのせ、になひもてゆく、妹はつとそひてなぐさむる、はたおほやけに聞し召れて、物かづけ、重く賞ぜさせ給ひし也、或人の母是を聞て、あなたふとし、かゝる宝の子を産ならべし人は、神ほと(五ノ三十七ウ)けの化身にや、たゞいぶかしきは、めとらず養なはせず、後いかなりともはかり思はで、其こしに乗て出遊ぶらん親の心こそしらねと、我にかたられし、これも世のことわりに承り侍りき、又鎌倉の何がし寺に住せ給ふ大とこは、伊予の国大洲のうら辺に、いさりする人の子とか、知識の名天の下に聞えたまひしかば、国の守の菩提院に召れて、道の教へを聞せ給ひし、この便につきて、まづ母の老ておはすを拝み奉らんとて、詣で給ひしに、母のいはく、おもひきや、蜑の子のかくたふときになり昇りて、かうの殿の御召をさへかうむらんとは、されどそれたゞ才能のかたの学びをえて、まこと仏の教へにはうときにやあらん、さき/\の便ことに、文に巻そへて、黄がね白かねをおくりたまはること、いかなる心そや、今の子の立走りて、網曳釣だにせば、たうとき財宝をも何にかはせん、この贈らるゝは、世の人の仏に奉りし物ならずや、さらば道の為にこそちらすべきを、浅ましき世わたりする身の、是を納めて、いかばかりの罪をかむくはれん、親の為思はぬなり、いと恐ろしさにかへすぞとて、つゝめるまゝあまた投あたへぬ、大とこおそれみかしこみ泣わびぬとや、これら人のかたりしまゝなれば、まこと偽はしらねど、学ばでもかくたふとき人もありけらし、庭の訓を受、會子のふみをよみし人の、かたはしだにえおこなはぬは、なべての事、陵遅とか云文字の心にながれくだりて、誰もつとめねば、たま/\なるを召上られて、物かづけ、名を旗にしるさせて、家の風を国にひゞかせ給ふこと、いとかしこきまつりごとになん侍る、伊予の国今治の民矢野養父といふ人、六十踰るまで、母刀自につかふまつり、千ゝの一つもたがはしと行なへるを、国の守召上られて、しろかねあまたゝまひ、且国のいましめをゆるべて、絹着ることを親子ともにゆるさせし事を、遠く都に在、其弟宮河保恭と云人、はかせ皆川の翁に請て、つばらにしるさせ、国に贈りしなへに、我にもことくはへてよと、人して求らるゝ、我この人を相見ず、且皆川がしるせし事、再び述べきにあらず、さりけれど、世の宝の子の、六十こゆるまで操のたがはざりしことを、羨みつべきものに、世がたりども一二つ書出て贈り侍る、噫、我父に別て四十余年、母二人、さきなるはいときびはにて、面をだに見知奉らず、後の母は今己に十四年のむかし人となし奉りぬ、いまぞかりし時は、日を愛すべき心を露ばかりもゝたらず、大方の事ども御心にたがひて、重き罪かうむりしものゝ、いみじき人のうへを思ふには、みな月ならぬ汗に衣をとほし、長き息をのみつがるゝこそ、いともうれたけれとおもふも、くいの八千度かひなきことになん侍る、養父の父尚正と云人、国ぶりの哥をよみて翫ばれしとや、父の好める道也とて、次で学べるも孝の篤きなり、我も哥とむ事を深うおぼし入たれど、父母の庭の訓へにあらぬには、私ごとにして、是もつかへにたがへるひとつなりけり、さるは何のいたづらなる名をやもとめん、さがし愚ははた親のうみのたま物なれば、我なすわざかは、養父、名は畜、俗称は養三郎、父尚正、俗称は丹助、安永七年、齢六十五にて世を去ぬ、母ふさ、窪田氏、今年齢八十五、いとも世に有りがたきかたり言になん侍る、

        干時亨和二年三月かいしるしぬ

----------$ つづら5.txt ( lines:1521 ) --------------------< cut here

----------^ つづら6.txt ( date:95-05-15 time:00:00 ) ------< cut here

        鶉居

つながぬ舟とこそいへ、波によせられては、しばしとまりの岸も有りけり、長柄の浜松の林はすこし隔たりたれど、隣れる杜の木の、千年の陰にさしおほはれて、よそより早き冬ごもりの竹のあみ戸を、夜は引きよせしまゝに、是をもたなまるゝよとひとりごつを、刀自が聞とがめつて、よしや、釘さしかためし小がなも、君いまさぬ夜は、昔は物すざましかりしを、今の時ゝのひとりねねんじわびつゝもあかすは、歳と云ものの心えさするよ、よう年をわたりて住つき給はぬにも、めでたしと思ひし家には事しげく、君がおぼしゝらぬ物うさの侍りしを、此草むらの宿には、かうのどけき世も有りけるをと、をびしさにかふるには、よしともあしとも思ひ定むる心なんあらぬと云、あなかしこし、さらずばいかでかゝるものぐるひを見つぎて、三十年がほどをねんじ過させ給はん、かう常にもたはれごとしてあらせるを、人はしらで、おに/\しとのみ忌にくまれ給へれ、此御有さま、さいふ人ゞに見せ奉らむが朽をし、とまれかうま(六ノ一ウ)れ、かしづきはつべきには、うしともうらめしとも思はで、ただ/\夢路のたどり、一夜の草のまくらに思ひ過して侍ればとて打しづもりをる、竹の戸やをらに推ひらきて、寐やし給ふらんと云つゝ入くるは、此里にすみふりし飛騨人なり、やゝ寒うなり侍るには、おのがわざのいとまのみに成ぬるを、くすしばかりにはおはさずぞ侍る、雪見給ふべき窓あけんとの給ひしはいかにと云、さは云つれど、此ごろの貧しさにはえせぬ、いと朽をし、あはれ/\、宝だに乏しからずば、此森陰をも建ふたげてんものをと時〃打うめく、このわづわはす神こそなつかしけれ、この神は世の人にもつきて物(六ノ二才)に狂はするが中に、茶かきたつる人〃こそ殊にも煩はさるれ、其友どちはかりあはすには、たゞ/\〓のあといさゝかもふみたがへじとするよ、笠翁と云しすき人にも神のつきて、西湖に臨む家づくりして、さまゞ工みなせしが、其ことゞに我より出ざるはなく、舟にまじるし、株を守人をあざめる、其事一家言と云ふみに見たりしが、我も此人にならはまく思ふは、たゞおろそげ也とも、便よからん事を宗とすればなり、昔五井の何がしと云し難波人にも神のつきたれど、財乏しさに、なさばやと思ふつくりざまをば、文にあらはして思ひをやりたるは、物しりて心の高き也、又思ふてのみ(六ノ二ウ)になゞるは、李唐の高祖の、隋の時の宮女をめしつどへて、物がたりせさせし中に、年くるゝ夜に、大宮の内ともし火をかゝげず、玉のいと大きなるを間毎に釣たれて、庭火たきほこらせ、其光をうつしとりて、かゞよひかはさせしかば、さしも広あなる殿のくまゞ、おちなく見わたされしと聞給ひて、心しばし是に酔せ給ひしかど、立かへりて、あないみゝじ、さることのはてゝは、我に国をさへあたへつるよとて、いよゝつゝしみいませ給ひしとぞ、よろづおのがほどをかへり見てすべき物に云、されば天下の下おしゝりたろ君の、そればかりの事何かはと云べきを、思ひのまゝにはせじとお(六ノ三才)ぼしゝこそ、三百年の久しきをたもち給ふべきはじめの君なれば也、蜀の山〓たらんにも、猶とくりはてず、都をにしひがしに広めて、殿の名ことゞ唐の代にならはせしも、天りやくの火に跡なく成んては、やゝくだりにくだりて、簾のすだれ、うばらからたちに垣、あやしげにめぐらせ給ふ、かなしき御世も有りしと云、いにしへに又立かへりて思はゞ、足一きざみあがりの宮、尾花さかぶき、黒木の柱のためしに、いたくかなしふべきにもあらじ、まして己が友のふせ屋の、ひた出に稲がらのむしろ取しきて住べきを、ほどゝと心得たらんにも、たゞ便につきては、いつも/\神にわづらはされて、身の程を忘れゆくめり、そこは神の御使して、雪見る窓をもよほし来るよと云に、飛騨人片ゑみして、我ともがらのねぎごとに、ぬしはかたかれ、柱は弱かれと申すは、此御物がたりにもかなふらめ、壁ごとに窓ゑりはたし給ひては、又立かへり、さむ風の為にふたがせ給へ、さらずば何して世をはひわたらん、岩根したゝかに杵築の宮つきならし、木曾の山よしのゝ奥に、いづみの〓人入みだれ伐出しつゝ、つくりみかかせし寺も、神やしろも、天狗と云神のほこり来ては、跡なくほろぼすを見れば、おろそげに時〓つくりそへ給へるをこそよかめれ、あなさかしの我をわづらはす神言や、くしの教へ、能仁の道のふみも、注かく人の、おのが心のひく方にことわり云まぐるよ、ひとゝせ九重の内外名残なくなりし時、一劫と云灰は是にやと、人の泣かなしみし声は、沢辺の鶴ならで、天に聞えあぐるばかりなりしを、我独さがしだつにはあらで、四の海、静なる代にすむ民も、しばしの波の立居をぞ見ると云しを、むべ/\しく云たりなど云人も有けりとかたるを、刀自かたはらより、ふみよむと、此すみわづらはすとには、よくもふかう思ししみ給へるには、さま〓空に思し出たまひて、夜ふくるをもしらず、舌とくおはすよと云、飛騨人ふところがみの中より物とり出て、是なんさきに見せ給ひし、秋鹿よぶ笛を、此ごろの暇につくりて侍る、こゝろみさせ給へとて見ず、ほうの木をすんばかりに、けたにはあらでけづりなし、鹿の子の腹皮もて口をつゞりなしたり、我もたるをもとうでゝくらぶれば、あらたにこそあれ、たがふ所なしと見ゆ、いざ吹てこゝろみ給へ、まなびつたへたうびてよと云、とりて音を入るに、所は山辺ならねど、松の下庵の風に吹おはせては、よそにかなしとも聞らんかし、飛騨人はやくまなびとりて、いはらじの御目こそいたくおもたげなれとていぬ、門出て、二十歩ばかりや過らん、しらべ高〓とふきつゝゆく、我もいで吹あはすれば、草むらの虫ともの声たえたるは、聞しらぬにか、ゝれも戸に入ぬるにや吹たえぬ、此飛騨人は、田舎ならぬ木工の頭にて、かうさかしきわざをなんあいを

る人なりける、歌よまずばとて、ふし戸にも入らず、        誰しかとねざねてや聞鳴かはす秋の末野のさよのあはれを、        あし曳の山のさつ男がよぶ鹿の小笛に秋の風のかなしさ、兎賀野ならねば、こよひに絶るとも、人の心をわづらはしめずこそ、刀自もよむ、しかぞともすみも定めず鳴音かな山辺に今は入らぬはかりぞ、あした野にゆくをのこ等が、夜んべの鬼の声のおそろしきを聞つやとなん、山遠き里人は、聞しるましければ、

        其二

世を避る人のかしこきにならへるにはあらで、たのむ陰を、加茂の古堤のほとりに、おしふせたる庵づく利して、柱にかいつけける、里住の松の扉をさしこめて、心を山のおくになさばや、又ひとりごたるゝ、絶/\の宿の煙に身をなさで、はひかくれなん事の悲しさ、老〓、まなこやみつかれしには、身投てんふかき谷をこそもとむべけれ、あはれなる山陰のすみか、いかでおぼしよるべきを、彼五井の何某の書おかれしもの〓中に、いとをかしき事をこそ見出たれ、

日、造室法、僧兼好云、以宜夏為佳、確言也、余衍其説云、開豁東南、仍設戸套爾収之、如常式、乃環以縁、々方言也、戸外簷下、連布竹或板、以便登降、猶衣有縁、々外置水盤、連筧引水、以盥嗽、又以潅庭中草木、室西北必牆壁、々下鑿低〓、以通風、亘席亦設戸開闔、或垂葦簾可、北距牆壁五六歩、就建書庫、西北隅植竹、以遮夏日、東植梧桐数十株、以障朝日、厠溷必於室北、異屋別牆、架板為歩、低欄左右、防傾跌、溲缸囲在厠外、倶勿及日、即及日、臭甚虫生、方暑登降〓、穢雑不可耐也、其製以意消息可、溶室必於室東、勿与溷相及、世人与溷相隣、浴時臭大不浄潔、是皆以燕居之室、及書斎、四席半六席八席、爾言、若其正堂、自定法、然不失此意爾可、余性苦熱、夏日屈膝危坐、倦憊殊甚、於是有書斎別式、以四席半六席為限、営造依前制不用縁板、磚地設榻或椅、皆倣漢人居、鑿北壁設水盤茶具、茶人謂之水〓者、具噴壷以酒磚、庶可以耐煩敲、冬日別制牀、以排布磚上、仍席如常式、以禦寒、到夏則徹去牀、是一室二用、鳴呼此営、不過費三四十金、事可辨矣、以財乏、且居屡〓、故竟不果、可欺、因以遺好事者可謂為他人作嫁衣裳矣、又哂曰、富貴之家、冬夏適居、何必一室二用、窮措大之言往々如斯、

これや文に心をやりて、ねぎ事をはたさざりしは、いとも有がたき人の心也ける、おのれも若きより家つくる事をあかぬものから、此文のをかしきにつきても、心をこそ山住にはえなさゞれ、すむ庵ばかりはとて、をちこち思ひめぐらすに、まなこしひまどへるには、便おほつかなき境には、心ばかりもえゆかで、南禅寺の内に、昔しばしかほど仮初ずみせし庵の、今は荒につきて、野となりし処をなん、先おもひよれるまゝに、彼はかせの、人の為にと云、我そのすき者と名のらん事、人笑へに、かつは物狂ほしけれど、心ばかりに云、

一室僅八席、中以四席為起臥之処、而左右四席、以居常当有物備焉、南面亘席、設戸開闔籬、庇下垂葦簾、蓋炎夏庭地焦爍、烟気蒸室中、故将禦之、籬上或竹欄、可以倚肱、宜納涼宜〓月、室中東壁亘四尺、所蔵之書画一二幅展観焉、其北〓〓置文机、又北坑火炉、架上置飲器茶具、及米塩焉、西壁亦〓戸〓以昇降、但使客不入耳、其北一席垂梅花紙帳、以為蔵褻衣被褥之処、北窓半席、開戸迎風、戸外板縁、東庇下竹架上、水甕湛飲漿、但烈寒之夜不貯、恐堅氷破裂、西北東司別宇、以廊通之、廊間置水盤、且火炉沸香湯以避臭也、然小室不堪寒暑、故屋上以芽覆之、且東西壁外簷下垂葦簾、々中蓄柴薪、以山嵐之気、唯〓外除之、然春朝秋夕坐望戸外、則粟田独秀如意叡嶽、低昂断続、青濛々雨隠々、北〓相対黒谷吉田、峻宇層塔、映帯竹樹如画、丘陵田野似織、或聞野鴬水鶏、或聴鵑声鹿鳴、松風颯々、草虫〓々、足以為閑友矣、北籬外泉声潺湲、恰似枕流、而有乞火唳茶之憐、扶老最志誠、薄命之病隠、舎此又何処耶、然土木之費今靡所〓、黙而止矣、噫、斯言為誰書而遺之、惟是解憂遣悶已、

しかすがに山住ものどもかなるのみにはあらで、夏は毒ある虫の啄をいたみ、冬は霜ゆき氷の朝なゆふなは、いかに思ひきゆらん、花は散てもやがて出じといひし山ごもりの、すまであはれをしらんやはと打なき、又雪のふる日は寒くぞあるなども云つる、三たせがほどのありさまも、おほながら心のかよふなりけり、其住捨し跡、をちこちに見れば、す行と云事のいみじさ、なほ人のまねぶべからぬをさへおもほゆ、又世の乱に、都の内外も荒にあれゆければ、たゞかり初の庵づくりを、車につみてさまよひあるきしとや、あなう、〓〓(ほぞ)折れ、柱ゆがみて、すきまの風をやいたむらん、かくても世に在ふべきは、すぎやうの大事にやほだされけん、さるかたの教へ、ふつにおぼししらぬには、いぶかしむべうもあらずまん、たゞ心のかよふまじきは、河原のおとゞの〓〓〓のありしさま、宇治殿の河辺のたゝずまひ、西園寺どのゝ津の国吹田(すいた)の山荘なとは、翁等がいやしき思ひしては、露ばかりもおぼししらるまじきものぞ、又大宮づかへをゆるされ、或はやめられて、野山ののがれし人のうへは、ふみにつたへてあまた見聞が中に、つかさのきむの色ながら、山ふかく入しこそいみじうたふとけれ、みかどに立ては世をまつりごち、庵のどかに住なしては、あまねく病にしるし有楽をなめわきて、そくいんとかの心をいたらせしとや、わづかのよねに腰は折らじとや、其始やりさる操ならんには、さる下づかさには出たつまじきを、事にあたりていさやかへんなん、帰れば童等が門むかへして立をどり、田ばたあまたもたるには、濁れる酒乏しからず、垣ねの菊を手折て、軒にあたれる南の門を望み、心なくさむにも、一たびはおのがさがしきにいざなはれて、世には立交はりけん、緒すげぬ琴に趣をしらば、つかへの道のうるさげなるを、いかで思ししらざりけん、又隠るゝを名にて、人の望みをえまくする人は、翁がくらき眼にさへ見とゞめらるゝをや、心たかきがはひかくれずして、よく隠るゝにいたりては、いかで見たまへしるべき、いひつゞくれば、あやしのしこ翁と、世の人つまはじきやすらん、ある人のいへる、山棲のたのしきも、園の趣をかへては、人目をかしからんと営むには、市朝の人に同じとや、うべも心たかき人の言は、思ひしみて忘れぬぞかし、翁世に立さまとふ事、三十とせあまるが中に、村居ふたゝび也、世の人云村居必閑寂幽趣ならんとや、翁云、しかれども愛憎のふたつあり、其愛すべき者、

遠山青靄匹練  昿野陰霽成籬  菜花綉繍  霜葉丹青  春曙  秋夕  月夜旅雁  深更寒〓  春雨簫々  草露顆々  総角駆犢時謳且叱  野寺鐘声夕悲旦待  霜如衾  雪為〓  菘菁鮮美新穀先嘗

其憎むべきもの、

亢旱祈雨  三冬無被  藁〓糲食  三月、垂蚊帳非綿或紙輙入  蜂結房人来則螫  蛛布網除即〓  春夜蛙鳴妨眠  秋風暴吹害禾  野鼠飢〓牆  狐狸〓盗飯  或水濁或柴薪乏  無朋無話  貧民餓鬼  里正閻王  誰言粒々皆辛苦然  税稲非精不納  又思、苦楽不偏、風雪雖不可出門、開〓済気直先臻、古人云、硯之発墨者必費筆、不費筆則退墨、二徳難兼非独硯也、大字難結密、小字常局促、真書患不放、草書苦無法、茶苦患不美、酒美患不辣、万事無不然、僕云、世途将亦如斬哉、

文なん唐ざまは習はねばたど/\しきを、五井の博士のしりに立てまねび出たる、狗の尾継たりとや、老のほれ/\しくて、垣ねにすだく秋の虫の、つゞりいと見ぐるしくもさせるものか、

          こを梅

鴬の宿、春かけてしめしも、やう/\あれゆくさまに、梢にしぼみ、木ごとに散こぼるゝも、香ばかりにほはしきは、雪にこほりに、寒きあらしをもたへしのぶが、こと木にすぐれたればなれけり。

きさらぎ立て、水の鏡をくもらせては、老をかくさふとするよ。

風けぬるく、野山のかすみをかしう引わたしたるを、おのが時ならずとて、散はつる心の、いとすざましな。

おなじくさはひながら、紅にゝほふは、薄きもこきも、香こそおくれたれ。

春知顔とは是が盛をこそ云べき。

すむ庵の軒ちかう五もと六本枝をかはし、色香をきそひつゝ咲出たるに、春日のかゝやかしう照かはして、いと花〃しきに、鴬の木末なつかしう、又是にうつり来て、巣つくりなどするは、子をばいかでかうまんとすらんと、人のとがめたまへるばかりに、住なれ〓もにくましからずなん。

花のかたち、こきもうすきも、すこしふつゝかめきて、八重にあつごえたるを、よき人の見たまひては、若き女房の、おもてあらはにゑみほこり、かはらけとりはやし、今やう一手二手、扇打ひろげてまなび出たるさまになんおぼすらめ。

さればあまりにやしほに染つきたるは、枝もこちたく、うたて打見らるれ。

春毎にめなれなつかしまれては、この花さかざらましかばと思ひなりぬるは、さすがにあてなることゞも見しらぬ心から相おもふなるべし。

やう/\散がたになれば、薄きはもとより、こきもあさましうさめゆくを見れば、雪とまがひしには、むべもおとりて見ゆるをや。

きぬの色あひ、紙のかさねなどをうち見ては、まさりげにてぞ。

それはた世にあてやかならん人の、針目をかしうひねりぬひてめさせたまはんと、墨次はかなう書けちたまふらんをこそ、いとめでたしとは見奉れ。

髪の末ほそり、ひたひすこしあがりたる人の御為には、いとむとくにやとおぼすはいかに。

まして世をすて、ふかうそぎなしたらんおのがたぐひの、今は手だにふるまじきけざやかさを、身におはぬ言めでして何にかはせん。

夏の来て、さみだれのころに、三つなゝつ落こぼれたる実をひろひては、せちみのいみじものにたふべかりける。

されど高きいやしき、老もわかきも、先めうつりするは、この花の色あひになん。

しかすがに解あらひぎぬの黒みずき、黄ばみなどしたるを見れば、こと色よりもうたて思へば、ゝやりかに花一時の色とは定めらるゝなりき。

山風さと雨をさそひては、ひと夜のほどに散はてたるを見るに、色は即空しく、仮初ものなること、是につきてもおもひしらるゝなりき。

河内国くさ香の郷の唯心尼が、すむ軒の木立に、あるじにかはりていへるは、しひたるもとめのさりがたければ也。

今や花の時過にたるは、昔聖武のみかどの、西の池の宮の花の宴を、五月のそれの日に、御遊び有し例をおぼし出てぞ、物はいふなりける。

僕己不才且不幸、泊然三十年、齢将七旬、心力形骸漸衰、死後無一人之有〓骨者〓、是以卜寿蔵〓南禅山中西福精舎之紅梅樹下、且作棺以託寺僧優遊俟天命己、於是二三名家以老友之故、斯文、鳴呼不亦幸哉、

                                学半斎

此翁何所余、年蔵卜寿、厥卜在難ぜ南禅好文木所有、先試入写生、応将造化手、十月渡江春、新題属旧友、会長翁五年、生天恐不後、亦嘗営寿蔵帝郷遊待久、墨痕同暗香、文名余不朽、

                                力斎

翁之清節不羈、可比梅樹勁幹屈曲不撓驕干梅、々可不愧干翁、余不能詩賦、聊書此語塞其需云、

  右二章応瑞画上之題言

          長夜室記                                        南畝子

客歳干役浪華吏事之余、見一奇文、云是餘斎翁文、激賞不已、願見其人、既見之常元精舎、不啻奇其文而其人亦奇矣、乃請山家記翁亦不拒、不日而成、益信其奇之為奇也、小杜所謂、杜詩韓筆愁来読、似以麻姑手爪掻、余於翁文亦云、夫一見而贈縞帯一絶、而不復鼓琴、古人之於知己有如此者矣、今歳聞、翁作長夜室以蓄〓、一棺未蓋、万事既休、予亦瓜期将還江戸、便道過京与翁訣矣、噫、翁無用於天壊間々々々亦無用於翁、無用之用知者幾希矣、白日照々、長夜冥々、昭々之中冥々如此、冥々之中亦有昭々者否、是我独奇翁、而人所以不奇翁也、翁、上田氏、名秋成、号餘斎、一号無腸、又号休西、去客於京、、梅花紅嬌芳〓、堪敵含英茹華之文雅、翁可

棺をつくらせて、その蓋にかいつけゝる。

  長き夜の室としきけば世の中を秋の翁がすむべかりける

一日紅梅の樹下に遊びてよめる

                                                    信美

        散まではゆめ手をふれじ梅の花をるをゆるしの色に咲とも

                                                    信愛

        消がての雪にたくへて咲出るまがきのうめの花くれなゐ

                                                    間斎

        きつゝも妻こひてふる鴬のなみだや梅のいろをそむらん

              我もよめと云によむ

        紅はふゞみながらに散てまし咲をうつろふはじめとおもへば

          嵐山夕暁

老が世に心とめねばこのはるの、はなに名こりの旅寐をやせん、ひと夜の草の枕の夢がたりに、花の散のみ見つゝあかせし正夢は、いかにはかなうもおはしけん、いめ破る、嵐の山の松の声、むせび流るゝ滝つ瀬の音、此むれ来る人のさはめきには争ひかねたりな、かはづうぐいすも是が為に音をいるゝよ、恋する人の夕とゞろきの、おのれ胸さわがるゝには、立かへてあひなうも有かな、やゝ家路に行わかれては、山の色、水の面くれはてぬるを、あやし、花の影のみ朧に見ゆるは、うつゝの夢のたぐひにかも、其うつる瀬ごとに、かはづの声のさゑ%\しきは、たが〓垣にやしらぶん、木にのぼる魚の躍走りても、花に宿はからぬなるべし、河州の鳥の声、千代をことぶくよと聞も、ひが心なる翁こそ、いまはしく耳ふたがるれ、こよひ礒枕ならぶる人〃は、あかずも聞あかすらんかし、花の日数のしばしなるには、八千代の声は、鴉てふ鳥の虚ごとにや習けん、春の花、秋の紅葉も、ときはかきはの色ならば、いざ駒なめてともとめこじ、ちればこそとは、世のことわりをいはれたれ、夜の更るを告るかねの音は、花にさはらぬをとて、人〃やすいして、明ぬほどより、うつゝの夢路をたどる/\、滝にむかひて見れば、夕べは山のみな暮はてしにも、水の色にとめて見し、其影の夜すがらなりしは、明行まゝに梢にかへるも、ときと遅きは、濃さうすさにこそあれ、本ごとに朝心して、かたちつくろふさまを、何にかたとふべき、そゝや南の殿の簀の子に、つかさ人次〃居並給ひて、袖たれ襟を正して、〓づかさらが立まひ御覧ずらんにや似たる、きのふけふ、とからず遅からぬが、峰におひのぼり、〓にそひ、峽にかくれ、ときは木のひま%\、繞れるが如、蟠るに似て、尾を曳、雲に吼、或は落たきつ瀬なし、流に影見るとしづえを垂、空に指ざし手とりかはす梢、さま%\に色香きそふとぞ見る、まだき散そめねば、花おもげにも見ゆるかな、けさの雨もよに、空はつるばみの下染して、雲のむらごの立まひは、月をのみ妬むにはあらぬか、河霧の立とも見えぬが、峰に立昇りては、〓火たくいぶせさに薫りみちて、小雨打そゝぐ、袖がさかづきつれてくるほども、かへり見すれば、薄雲我跡をうづみ、さとふりく、風吹くそはねば、散もはしめず、けふを盛のほまれ顔なりけり、朝かはづのかくれぬ声、木伝ふうぐいすの高音、いと竹の曲におよばぬあはれさ也、雨しきりならねど、けふの日ねもす〓しほれて、梅の花がさ求めわびぬへし、又かはづの夕かけてこゞろくを、誰も耳〓だゝするを、妻呼あはれによみたりしは、出ましの宮のとのゐ人の、家の妹恋しらにおぼす心まどひして、なれもこそとは打泣たらめ、老が頼める人をさいだてゝ、けふこそ花に腰は反すれ、ことしばかりのながめとおもふには、此谷くゞが声よ、あはれ/\と聞ゆるなりけり、よひあかつきのけぢめあらずも、現の夢の正夢を、又もいめの幻に、ちりかふさへ見ゆるなん、昔の〓恒の君が花ごゝろにもあらゆるかな、〓もはた夢がたりのやうにて、夕浪に影ほの見えし桜花香は夜すがらのかぜにかをれる、雨もよふふかき霞のひまもれて花に色かすあけぼのゝ空、いろわきし花もかすめるあま霧に朝よひしらす鳴〓かな、山彦はこたへこそせね鴬の声のさかりのはなの木がくれ、

          桜天并序          間斎

滝原豊常、設桜花宴于西峨、会者無腸老翁、小川布淑、前波黙軒、田山敬儀、沢益等、都十有五人也、可謂盛事矣、無腸翁有夕暁篇、叙事歴々、令人遺想不止、予復傚顰賦桜天篇一章、聊買余勇而已、実癸亥二月十九日也、

春立七十有五日、処々桜候多一律、今年正月有閏余、稍覚催芳春脚疾、上京何処無鴬花、就中西峨富烟霞、友人折管兼訂約、〓筵〓得売酒家、是日桜天色如卵、郭外春陰濃烟暖、嬌鴬百囀呼吟朋、戯蝶雙飛迩女伴、吾曹扶翁後群至、同人跂望虚坐遅、相逢先忻并四難、団欒把杯、訪幽致、乗酔晩歩峽水頭、春漲一面碧于油、満山春風香靄合、臙脂滴膩、欲流昏鴉已定遊人散、渡口寂々舟閣岸、愛看花辺暮色遅、山光水色互続断、石鶏呼雨自弄声、水禽驚夢時打更、共驚簾罅已生白、起曳枯藤重吟行、曙色〓濛雨靄々、天然画幅真妙絵、芳潤正知花魂王、或疑此中女仙会、金母蹈雲欲朝天、毛女横陳枕岸眠、青童捧珠王女蓋、白鸞彩鳳相後先、須叟乱雲生松枝、起滅無端幾追随、到此花事極万態、生看花未看此奇、々々況復得奇文、吾曹何須更云々、帰来燈下離簑睡、両袂翠煙帯余芬、

          秋芽

蝉の羽衣猶なつかしまるれど、朝おく霧夕吹風は、秋を告る便のいとこそうれしけれ、垣ねの荻のおいしはぶける声、〓ちかゝらぬきり/\すの鳴音、月の光も花ゝしき比なり、

あへる友みたり四人さそひ出て、野や分ましと云、雲まの若菜をこそ春日野にはまじるべけれ、高円の野べの秋萩かざゝばやとて来る、ならはぬ道芝は、まどふともなくて、いとおぼつかなさにぞ、袖裳すそしとゞにてあゆむ/\、野づかさめける所に、こむらさきの色花ゝしく、霧起きみだり手、はつ/\咲初しをかひあるものに、まづとめよりて見れば、おしふせたらんさまのいほりして、人もすむとぞ見ゆる、あなづらしけれど、まよはし神やつきたらんとて、さしのぞきてものとへば、いとも古代なる翁の、谷ぐゝか大名持のおまへにはひ出たるさまして、いづちの便にこゝに来たまへるぞと申す、秋芽の花見はやさんとて、ふかう分入ぬ、いと朽をし、一枝だにかざゝで家路たどらんはと云、翁かたゑみして、をかしの御ありきや、さは千年のむかし人達にこそおはすらめ、此野の秋にめでゝ宮居つくらせ、御幸あまたゝびなりしこと、文に歌に伝へたれど、今ならねはるかの世に跡なくなん成んて、おく露も吹風も、色にゝほはぬには、山もはた、里人のこりすさび、刈あらして、〓かほ鳥の宿をうしなひ、鹿の立どもあらはに、いとあさましとこそみゆれ、されど山つみかや野姫のみ心ばかりはあらびはて給はじものを、谷峰のをちこち、野のくま/\には、御袖にほはすばかりは咲たらめを、そうこそ分入せ給へと云、かたちをもてはろうずましき教へをさへ思出られて、人ゝ恥かゞやしつゝ、翁はいみしの物しりにこそおはしけれ、昔の飛火守し人にてやおはしつらん、物いはゞ猶やさしからめとおもふ/\、墨つぼに笹葉の露そゝぎておそる/\かいつけみす

        たかまどの野べ見にくれば袖ひぢて露ふる人にあふがともしさ、翁のあまたゝびおしいたゞき、あなめづらか、さればこそ古こと好せ給ふ御かた%\なれ、聞もならはぬには、何ごとか御ゐや申奉らん、かはづうぐいすのねにも聞過させ給へとて、もえさしたる竹柴の炭して、垣ねの〓の葉ひとひらつみとり、かいつけ出すを、とりて見れば、

        秋萩の花すり衣見るなべにつゞりさせとも虫のなくなる

都人のいとけがしとや思すらめ、心もことも身のさまも、きたなき麻呂にこそ侍れといひて、打かしこみをる、此野の遊びこゝを去ていづこならんとて、芝生の塵打はらひつゝまどゐして、翁酒たうぶや、かれひもゝたるはとて、桧わり子草の上に置ちらし、人々物聞んげに、山辺の鹿の膝折ふせ、あら野の〓のはひもとほりつゝ、あるはつら杖つき、打しんじをる、何くれのかたりごとの、いとめづらかなること多かり、杯の流あまたゝびなるに、翁も酔しれて、けふこの野に遊ばせ給ふ御〓よみて聞せ給へ、翁もすゝびたるまゝにまねび奉らんと云人々けふよまずばとて、打かたぶき、うめき出せる、いともはれの哥にて、れいよりはきたなげなる、いと朽をし、                                        祝部基因

高円の山の麓の真はき原古枝みだれて花さきにほふ

                                        度会氏麻呂

たかまどの野行山ゆき秋芽の花すりごろも我ぞ匂はす

                                        高向日蔭

芽の花つぎてさかなん益等をの射る高まどの野べの露原

                                        大了法師

高まどの野路の荻原むな分てをしかの通ふ道は見えけり

                                        和気垂水

高まどの宮出の朝の袖すりて露のむたにぞ芽の花ちる

                                        鞍作植竹

はぎの花今盛なり高まどの野にいほりしてひとやどりせん

        やゝ聞ふけりて、さてよめる、                                        翁

身のはての枕のをかのはきの花人のかざしにけふは匂ひて

およつれごとも文字のかずばかりはとて見する、人々酔ごゝ地して、たゞぼめに、ふかう心をまではもとめずや有けん、秋のならひに、暮やすき日は伊駒高ねに落かゝる、今はあかぬ別を告て、又まうでん云、とく出たゝせ給へ、野には犬と云おそろしきものゝ立はしりて、くひつくぞかし、そなたをさゝせ給へ、御かた%\の家路ぞと、ゆびさし教へて、もとの田ぶせにはひ入ぬ、見かへる/\、野づかさこそ見ゆれ、夕霧のまよひに立やこめけん、何も/\あらずなりぬ、ふる言あながちに学べば、又そのかたの迷はし神のつくぞかし、ゆめ/\、

        枕の流

みな月の初より、秋かけて、河べのやとりのあらはなるにも、打みだりがちに、老てはゐやなきを、人〃のゆるしかふぬりてありふるほどに、ひと夜小雨打そゝぎ、人げなくさふ/\゛しさに、〓やせましと、まくらによれば、べうざの尼、こよひこそいとものどかなれ、よひねめづらしとて、うれしげに戸たてなどす、夢もまだむすばぬほどに、廂の古すだれの、おのがどち打たゝかひさやめくほど、立よろぼひたるやり戸を、おすかたゝくか、やれたるまどの紙は、あつものをすゝるおとしてともし火やけたると、人よびおこせば、物におそはるゝやうにて起もこず、秋たちて幾日もあらねばといひけんをも思ほゆ、枕の流はさゞら浪や立、ふなぎほひこそせね、棹かぢのいきかひ、よそろ/\など声よびかはし、漕わかれ行とぞ聞ゆ、やゝふけゆくまゝに、ならべる軒、岸のむかひの家どもの、ひし/\と鳴さやげるは、何ならん、ぬす人や入ると耳そばだゝるゝを、あらで、西みなみの風あらく吹来たるなりけり、野分とて、小田の益等男の立走りつゝ、竜田彦の神あらびなたまひそと、なげきするにも似たりかし、さりけれど、此年のあしきよなど聞ぬことのうれしき、老が貧しきにつきては、年ゆたかなりとも、あしくとも、何ばかりのことかは、富人もはたしかるへかりけり、いにしへより秋にあひておどろきざまに、或はさびしさをかこつ人は、其おぼしよるところさも/\゛にて、哥よみ文つくる人ばかり、身ひとつにおぼししめてかなしむことの、かへりては心そらなりとやいはん、家をうしなひ、かなしきめこをさいだてゝ、ひとりおきしたらんには、春の曙秋の夕べも、さふ/\しさはさらなり、今はかけても思ししらぬいにしへの戦ひの場の、幾とせ経ても人住つかぬあら野らの尾花高がやおのがまゝになびきあひたらんに、雨ふり風さむき夜は、鬼の火の飛走たらんおさへ、まさめならずばおぢまどいもせじ、はぎの花をみなべし、くらゝりんだう、真葛のはひあるきた覧に、夕べをまたで鳴さかる虫のこゑ/\、名もしらぬ小草の花ゝ、露霜にもみずる浅茅原、木枯にちりかゝる何くれの広葉の、から/\と音して、そことはてなく走り行も、山の紅葉のから錦なるをも、かなしとのみは誰もなかむまじきをや、木の葉の落るは、下よりめぐみつのぐむからぞといひしを思へば、天つちのまゝのあはれを、うらみつべきことかは、秋に心をよする人は、春のにぎはゝしきを、うたてたれこめてもあらめ、荒たるこの宿の秋の夜といへど、吹ゆがめだにせずばと思ふ/\、戸や吹はんつらんとて、しばしもまどろまぬに、我尼は、ゆめ此夜のさわがしきをしらで、うまいせしほどに、夜はやう/\明ぬらん小舟どもの漕つれて、かたりごとするは、河じりうかに吹つらん、入つとひしが打そこなはるゝばかりにはあらじかしやう/\吹よわりたれば、おのがとものつみはこぶたよりこそよけれとや、鴉のやどり立てよびかはしつゝいづち行らん、やをら起出て、朝戸やりはなちたれば、雲の名ごりこそすざましけれ、あかねさす空の、この大江に影うつれるをみれば、いつもの花のいつも/\、曙ばかりうれしきものはあらずなん、ひとへ打かさねたれば、秋のさむさもさびしさも、いといとなつかしうて、おもふにかなふ此よとは、昔打出しおのがちたなきことをさへおぼし出られてなん、一木だに影見ぬ軒に音たてゝなにゝ声かす秋の此夜は

                                間斎

草に木にそれにもからで大空に高く聞ゆる秋のこゑかな

癸亥之秋、寄包干阮先生浪華大江橋〓寓舎之日、一夜天已三更、四壁蕭寂、清風嚠亮、怡如在万里波〓之中、話次偶及秋声賦、先生卒然口占乃文、予走筆記之、即時文成矣、鳴呼〓文捜索古人之遺失、而悲哉之情尽干此矣、謂之吾家欧公恐不強也、享和癸亥初秋晦夜、〓纜干大江橋西、偶風雨暴至、不能上岸、倉庚、因臥、既而着北岸、宿通家某、有使侍婢通干先生、及暁天少晴、走詣文階、獲観此巻、如余不文、徒苦干実、不能華干其文如先生巧撫其景、能践其実、不及熟読終篇、遂服其妙々兼具、因跋、                                                      十時梅〓{厂+圭}

            三余

あしのまろやのかみ初ずみの、はやも六とせに成ぬ、風にかたぶける軒のひさし、ぬぐらはひのぼる壁のこぼれはさてもあるを、あなかしこ、かや野姫の神のみ心のあらびたまひて、雨だにふれば、枕にそぼち、〓はしとゞにぬれとほりて、夜をいも寐ず、よしや、なげのやどいの花の影におぼしなすを、こちたくなげく人の為にふいあらためさす、野べにかりこしかやのみだれは、飛騨人の真がなもてけずりなすが如に、あなすが/\さ、翁が為の萓の宮居ぞとかたゑみして、心ゆくよろこびはすなりけり、一夜暮ぬと見る空に、雲立かさなりて、ふりに降つゝ、かしら出すべからずにも、こちたかりし尼の、いとこそ嬉しけれ、面しろの雨やと云、おとせぬ草ぶきも、窓をうち、〓をたゝきつゝ、夜たゞこれに、夢もあらじをと、炭たきほこらせ、茶煮させてすゝる/\、かたり言す、雨夜の物がたりとて人すなるは、にぎはゝしきあたりの遊び也、〓高ゝにふきなせし御館には、園の林や、池なみやにめさまされて、かはらけとりはやし、みやびごとずんじ出給ふ覧、昔の帝の、これがおとのうときをおぼしたらぬものに、よるのおとゞのひさしに、板さしはさませて、聴雨と是をなん名つけたまへりしとてや、過れば民のなげきともなれど、天つ水乞得ては、ひと日一夜あそびのゝしりたるやどりおば、喜雨亭となんかいつけしとや、こよひの雨をうれしとあもふは、いさにかへつる喜びのあまり也、あなおもしろの軒のしづくやとて、戸すこしやりはなちて見たれば、くらき夜にも、庭たづみのながれあふに、ともし火のかゞよひて、落たるくもはこゝにはひ入よとおぼすにも、かや野姫のあらみ玉は、こよひぎ玉におぼしゝづもらせて、おほけなき袖うちかづけたまへることのかたじけなさよ、此またあらびたまはんまでは、世にはひがゞまりをらん翁かは、  此夜らやみつのあまりの雨ごもり文見し窓は昔也けり

  うしと歎嬉しとも聞よるの雨は昔もしらぬ恋の乱れか

  冬の夜に何をたのめて明す覧かやがいほりの雨をもりつゝ、

        享和癸亥霜月廿一日の夜、ひとり言を、尼にかゝせおきつるを、廿二日のあしたかい清めぬ。

          よもつ文

此文は、瑚〓尼の三とせになりにし比に、又めのとのやうにてめしまつはせし、はしための身のまかりしをさへおぼしなげきて、夢がたりを書せし也。

わざとに書あらはすべきにあらねど、このふみどものしりへに、かいつらねつ。

夢に六つのけぢめを云も、なべては愚さの煩ふにや、うつゝのいめてふなん、ましてやるかたなき心のまよひなりける。

  幻の人のゆくへをたづぬねれば、おのが心にかへるなりけり

霜こほり、風いたう身にしむ夜、れいの寐ざめがちなるにも、しばしまどろむやうなる、枕を、おどろかしてくる人あり。誰ならん、かしらもたげて見れば、この三とせがほど、我をいたはりかしづきしうばら{松山貞光俗称いさ}なり。

「難波よりまうのぼりし後は、かり初ぶしのやうに日ごろ過せしが、よくこそとひ来たりつれ。いとおぼつかなかりしを」

と云。

「いとかたじけなく、いかにおはすらん、心もとなくてのみ過い侍りしを、こよひめづらかなる御使してまゐで侍りしなり。たゞ今いきて住つきたるに所に、ゆくりなくいきあひ奉りしかば、御ありさま、かつ御むすめの御事、我もまめ心して御宮づかへし奉りしやうをも、つばらに物がたり聞え侍りしかば、『いとうれしき事、御いとほしさおぼしゝらぬにはあらねど、国の境ありて、たゞ物のへなたりつれば、いきて見奉らんとも、またこゝにむかへたいまつらんとも、すくよかにはおぼしたゝずなん。そこには四十九日がほどかしこにいきかひてん。便につけて、文ひとつ参らせよ』とてたまひぬ。猶のたまひしかど忘れつ」とて、さゝげ出たるを、いそぎとりて披き見れば、にび色のこまやかなる紙に、れいのことえりなく、まめ/\しくかいすくめたり。

しばし見奉らぬほどゝおぼしゝを、此まめ人のかたるを聞けば、三年なん過い侍るとか。こゝには春秋と云時もなく、年月とかいひて、指折かゞむるわざせねば、垣ねの忘草おふしたつるにもあらでなん。墨の江の小浜の蜆、あきてだに見えさせ給はぬ御目の、いといたう悲しき。常の御ことに、いさぎよく、ほど/\海川にも入てんなど、こちたく聞え給へるを、うたて耳過し侍りしを、今もしいきす玉などのさそひ出覧、いとおぼつかなく思ふ給へらるゝなり。御むすめのみ心にかなはぬとてないたまへる。人の心〃なるは其面の如しと、常に教へたまはずや。世に玉あへる人やはある。手を折れば、十と云つゝよつを歴て、御宮づかへし奉りしほどにも、かうじさいなまれ、からくおぼえしも幾そたひぞや。たゞ見はなちたまはぬをのみかたじけなきものに、老よろぼひつゝつとそひ奉りしは、松の操の教へにならふにもあらで、身幸ひなく落はぶれ給ふいとほしさの一すぢをなん。ふかうおぼしゝみぬるものからいかにせよとか我を捨けんの御かこち言、いと身にあまりかたじけなう承侍る。おに/\しとて人のいむなるをもおぼししりつゝ、たふまじき御ほんぜうこそいともすべなけれ。御よはひ高く、世にしられたまふを、むごにいひくだし給へるを、誰もあたらしきものに聞えたまふなり。御ひかり、くすしの御とく見給へるをおもふに、御世も猶しばしあらせ給はんがいとほしき。物狂ひ云名はやうよりおひたまへる、いでやみ心なる世も出こじものを。かういへば、御仏に物きこえ奉るためしにもこそ。いともかしこけれど、此うどん花のたよりに、くり言たど/\しく聞えたいまつる。あなかしこしともかしこし

  よもつ坂千曳の石もとりやらんあな動きなき君が心は

かへりてはおに/\しくこそ。

 よみはてゝ、「今は国たがひつれど、野中の清水もとのこゝろざしのまゝなるぞいとかたじけなき。よろづとくねんじてんといへ、竹のねぐらのめなし鳥も、朽をしくかへり聞えずば」とて、此文のうらに、たゞ言みじかくて、

むかしの人のいへる。国を去、うからやからにうとまれ、家わざをせず、あそびてかへらざるは何人ぞや。是を狂蕩の人と云。又才能にほこり、名をひゞかさん事をのみつとめ、おのれをいかなりともかへり見ぬは何人ぞや。是を智謀の人と云。此ふたつともに道を失ふとや。翁此ふたつをのがれず。さらばみじかき才に苦しまんよりは、狂蕩の人と呼れて遊ばん。一つだにうれたき眼を、見はたけて何せん。死は安しと聞、只今たゞ追行ん。国へだてゝはいふひがなし。

  取放つ千引の石のやすけくば越んよやがてよもつひら坂

「是奉れ、相むつまじく翁をまてといへ」と云。

うばらかしこまりて、「こゝにはかゆきようして誰かはまゐらす、まめ麩時〃煮て奉るや。いとおぼつかなくなん。とく出たゝせ給へと」

いひて、目さめぬ。

あな恥かし。愚さのあまりには、かくあさはかなる夢見はすなりけり。

        露分衣

                            瑚〓{王+連}尼

あはれ/\、身一つなる此秋を、いつの日にかは忘るゝ、煙の下に拾ひとゞめしを、みおや達とひとつ所に納むべく、我をも召つれ給ふべきに、したがひ侍りて、都の二条河原なる真行寺と云にさゝげまうづ、こゝにしも今更なる別れの、すゞろにかなしうてぞ、誰も世に在はてぬ身をながらへて、いつまで袖の時雨ひまなき、長月十日あまり一日のけふよ、しぐれの雨に袖笠して、いづこしらずおくれじとあゆむ/\、下の社の森陰に来ぬ、はやうをさなかりし時に、過させ給ひし親達の、難波にうつり給ふに従ひまゐらせたれば、都の名たかき所〃も、老ゆく今まで尋も見ず、今の母君のおはする世には、いかでと思ひたえにしを、此はかなき便にこそ、をかしき野山にはまじりぬれ、いとめづらしな、糺の川にさしおほへる梢どもの、やう/\匂ひそむるを、なつかしうながめらるゝ、秋ふかみ、色ならぬ枝もいろぞます、まなくしぐれの雨のふれれば、ことしの夏のえやみは、まさしう此下風をはじめぞと聞え給へるには、したにはおそろしけれど、すくよかなるけふの御遊びに、過にしうさもわすられて、いと面しろうてなん、十日まり三日の夜の月を、嵯峨野に見すべく出たゝす、したしきひとの御女をそゝのかしまゐらせて、おのが友に物がたりしつゝ行、梅津の里なる橘の君のかりとむらひつれば、けふは内参りし給へるよしにて、はゝそは、若草の御かた/\立むかへ、よろづねもごろに聞え給へり、此軒ちかきはじのもみぢ、いとよく染たるを見て、時雨するもみぢの秋を尋来て、先木のもとのうれしかりけり、こよひこゝにとしひての給へど、心ざす野の草枕むすばんとて、あながちながら立出づ、さか野の厭離庵と云は、去年の秋とひよらせしゆかりして、わりなくやどりもとめ侍るに、尼君心ゆくあるじゝ給へれば、うたて思すまで打とけたる、いともなめしかし、此いほりは、昔京極の中納言の君の、老て住給ひし御跡にて、其世のかたみなる柳の井てふ泉あり、又御むすこのれんぜい大納言殿の御墓のしるしもたゝせませり、いほりのたゝずまひ世に似ず、木立物ふり、砌の苔ふかうむしたるに、露打ちらしつゝすだく虫の音のよわりげなる、かれやこれや、とりあつめたるあはれさの、身にしみて思ゆるにぞ、聞しよりおもひしよりも悲しきは、さ峨野の庵の秋の夕暮、月早くさしのぼる、雲がちながら、いくとせかゝけし思ひの雲はれぬ、小倉の野辺の秋の夜の月、見せまつれば、やがて其はしにかゝせ給へり、思ふ世のあるは命ぞ、猶や見ん、嵐の山の春の曙、さは打たのまれてなん、此ともなひし君の御哥、わけそめしさが野の原にやどりして、心くまなき月をこそ見れ、ながめつゝあれば、秋風に、雲のまよひも吹はれて、更行空にすめる夜の月、翁、  露寒き秋の庭虫鳴て所がらなる月のさやけさ、山風やひくといさめ給へば、名残あれどぐしぬ、あくるあした、この野のくま%\わけ見んとさだめ給ひしも、けふのそらのゝどかなるに、高雄山の梢の心にかゝりて、打こえゆく、大沢の池の面は、木葉散うきて、秋菊の影も見えず、梅が畑と云を過て、見れば、染つかぬ梢ながらに、久方のもるゝ光をもみづとや見む、となんいひて過させ給へる、むべも雁の〓はおほはねど、露も時雨もゝらぬ林なりけり、こゝに心よしのおはして、山づと一枝給へるを、さしかざして、とがの尾の橋にたゝずみ見れば、こゝなん思ふにまさりて、いとをかしく染なしたりと見る、此光のまばゆさには、いふべきやうもしらずて、いほりにかへれば、梅津の経すけの君とくよりとひ来て、待わび給へり、山づと見せ奉れは、

手折こし一枝にしるき高雄山みねの紅葉の染るそれぬは、

物がたりとばかりして暮はてぬ、君おくりがてら、河辺に出て月を見る、橘の君、

山の名のあらしに峰の雲晴て川せさやけき月を見るかな

我おきなの、大井川早瀬にくだく月かげの末はかつらの波にすむらん、照かはさせ給ふ、つとめて又とひ来り給へり、けふ此野のしるべして給ふべき為なり、たゞふた夜のほどを、千よのむつびして、別がたくす、尼君のたまはす、昔の君の御たむけだになくて、あはたゝしげに立出給ふよと、翁かしこまりて、しき嶋の道しるべせし君とへば、さがのゝ原の苔の下露、尼君とりつたへて奉り給へり、〓を出るより、をちこちたづねありく、をぐら山ふもとの御寺にまうづ、此峰なる時雨の亭と云は、まこと円光大師を火はうむりし奉りし御跡なるを、何ものゝ偽言せしぞと、物知のかたり言せしよし、尼君の聞え給へりしかば、昔しのばしからず、のぼりても見ず、檀林皇后の御はか、野の宮の跡拝みめぐりつゝ、大井の大寺なる三秀院にまうづ、こゝに任有亭と云は、近き世のすき人の跡とめし、いと幽なる庵のなつかしさに、窓ども打やりて遊ぶ、こゝに橘の家とじより、さゝへわり子もたせ御使あり、いとかたじけなくなむ、翁、昔此いほりに一夜明し給へることのおはせし由を語り給へり、御〓ありしと、なげきこる山にもいらじ、けふよりは、うきを命のあるにまかせん、思し出てかたり給ふなべに、から〓壁におし給へり、枕是碧渓石、衾便丹楓〓、終身只任有、詩思一僧禅、もとのあるじをしのはせる心ばへなりとぞ、こゝは山の姿川の流、世にならぶ所なしとや、わきて、春ごとの名にしおひたる嵐山、紅葉の秋の色やまさらんと申せば、我は云、春のあした秋の夕べにまされりと、から〓うたはせ給へり、秋を引かたにいひしは、大津の宮の古ことゝのみ思へりし、ぬかだ姫のみ心ばへのしのばしきに、ならひていひしを、いと古き代よりも争ひはてぬことゝや、杯の流あまたゝびなるに、酔ひほころびしかば、経すけの御〓有しかどもらしつ、河をわたりて、法りん、松の尾、月読の社拝みめぐりつゝ、やゝふかう、西方寺にわけ入、こゝもなかばゞかり染て、いとにほびかなり、此庭のたゝずまひ世に聞えたる、昔は流璃の閣とて、いときら/\しくゆほびかなるがたゝせしを、今はほろびて、名をだに聞しらぬよ、梅津川をわたりて、梅津の橘の家にやどり給へる、男どちは聞しらぬ昔のことゞもかたりあはせ給へり、をみなどちはめゝしきことのみいひつゝ、笑ふ/\、夜更て、枕の野辺の風のおとかときけば、うたて、むら雨のそゝぐ也けり、あなうとのみにあかしぬ、立まふ雲のひまより、かゞやき出る朝彦の御影いとうれしく、猶しばしをと聞え給へど、古さとに心ひかるゝ事のあれば、あるじのけふの内まゐりの御あとにつきて、又都をさす、こも枕、高瀬こぐ舟を、いめ人の伏見の岸に乗かへて、夜べのなごりのむら雨の雫を、苫のひまにわびあへつゝ、夜をすがらに、目もあはでなん、

        夏野の露

田鶴の居る、長柄の浜松陰にすむ翁ありけり、身の病はたさんほどを、いとかり初なるいほりして住けり、此垣の隣に、世に貧しきが、親はらから住人あり、心ざしの直かりければ、朝夕とひかはしつゝ、ねもごろになんかたらひける、女をむかへて、をのこ子の生れしを、かいだきて見す、いとおほきやかに、玉の光をさして、めでたかりければ、誰も/\よろこびあへりけり、此子のふたつと云年に、うばゝ病して死けり、年月ふるほどにあひぎやうづき、舌とく物らいひて、万にざえ有と見ゆるを、翁いとうつくしがりて、身のなやめるやうをも忘るゝ物に、膝の上のすゑ置て、いとほしみ給へりき、我はまして是をのみかしづくやうにて、翁の物、おのがものをぬひつゞりて打着せ、とりはやすにぞ、此一さとの貧しきが子もたるは、あやしうねたがり羨むものも有となん、三つになりぬる秋の比より、ふとしもなやましげにて、すくよかなりと見しも、やう/\おとろへぬるにぞ、翁かなしがりて、薬のしるし見せ給へと、さながらにてなん年も暮にける、親はまして、神仏に願たてけり、此ゆゝしきめ見るにたへがたくて、心も乱るゝばかりなるに、人の教ふるは、いづれの御神、み仏にまさりおとり給ふはあらじを、地蔵ぼさつなん、かうやうの時は打たのみ給へと告るまゝに、近き所に祭れるに、日毎あゆみて、かきくどきねぎごとして打あづけたいまつれど、いかにせん、三わの山もとしるしなくて過行こどに、いとたのみなく、いみじきこと限りなし、春さり、夏の初の、此ぼさつの拝みすると云日に、道びかせ給へるにや、むなしく成ぬ、あなや/\と泣さけべどかひなし、翁足ずりをしつゝ、声をあげてない給へり、是をも見るめのくるしくて、いかなるすくせにや、親にまさり、おひ立たらん末までを、とやせまし、かくやなどうち/\おきてさせ給ふものを、今は何も/\かひなきぞと、枕にのみ独ごたせ給ふ、此二とせがほどは、よろづにおそろしきまでおとなびつるも、長かるまじきにやなど口〓云、限りあれば、野に送りいきて、灰になしはてぬ、さほうよりして、何も/\我翁の徳になんおこなひ給ひぬ、手足もゝがれて、立ゐだに心にまかせず、ないくらすほどこそあれ、煙の下に拾ひとゞめしを、今はとて、難波なる一心寺と申御寺にをさめまく、我肌につけて、翁を扶けつゝ、はるばる詣はべりて、  花見れば、秋の霜にもあふものを、このなでしこよ盛またずてといへば、翁は耳ふたぎ給ひて、物もいはせたまはず、こゝに納むとこそいへ、捨ゆくものに、杖をもつきたがへて、こいまろび給へるを、涙に目のくらみて、〓かねつゝなん、日をふれど、さらに/\疎からず、人目むとくにこそおはしけれ、五月雨降はらぬれど、心はさらに/\あかゝらずとて、ひとりごち給へる、声はせで、目にのみ見ゆるされだれの、闇のうつゝの山ほとゝきす、是のみならず、此里のやどりのうたておぼす事ども多かめれば、今は旅に飢て死なんとしも思しさだめて、先都を心ざし給へり、おくれじとしたがひまつる、我ふる里なれば、昔おぼし出て、まぎるゝ事も有を、中ゝに浅はか者とやおぼしたらん、みな月の七日は、園の神の御祭とて、大路せく人立つどへり、物見べき心にもあらめど、ゝもによろぼひ出て、をちこちしあるく、あるものならば、是見せたらんに、ゑみさかえたらんを、いな、世にしもあらば、けふこゝに出たゝんやは、ほだしならぬことの〓をしと、みそかごとしつゝも、此きら/\しくまばやき、さま/\の物もめざましからず、人のいつき子のいたいけしたる、あきものゝいみじくつくりたてたるを見ては、是得させたらんにはとさゝやきつるを、とくよりしか思ひつれ、今は物も見じ、色香とて人のめではやすは、我為の鬼のすだくにぞ有けるとて、やどりいそがせ給ふ、み心のいとほしさいはんかたなく、御うしろみする身も、ともに涙をのみそへまゐらす、いといふがひなしや、忘れんと思ふ心の中ゝに、見るにまされるうさにこそあれ、かくばかりしのぶ心を、ゝさなきがしらで、恋らん事のかなしさ、何にとゝまれる世ぞと、又うちなかるゝよ、此照日にも、しとゝにひぬ袖なるを、見て、都の友垣達の、さる〓のみこつむ薮原に、待人とてもなきを、何いそはしくいなん、今さばならずとも、月を嵯峨野大くら江にながめ、紅葉を北山のくま/\にかざせよかし、伊駒〓すこしはるけきには、此枝のみ雪見ずてやは、いづこも/\草の枕のかり初ぶしをと聞えたうびぬるに、み心のとゞまるとはなくて、よしや、〓がぬ舟は、風のまにまにとてなん、白雪のあはだつ山の〓に、〓ふたつは入まじき宿もとめて、何すとか明しくらすにも、さすがに見きく事どものめずらしきは、あしかる事のみになれこし、難波ゐ中のしずのめがひが心になん、いつの暇にか、かゝるはかな言して打おき給へりしを、物の中にさぐり出たる、やりすてんは、わすれんとするひとつの心なり、しかすとも豈わすれんやは、とまれかうまれ、老くだち、活べきにあらぬ命には、よそめやさしくとも、露分衣とゝもにかい清めて、したしみあつき御寺にをさめ奉りぬ、本九条の農家の女、いときなき時に、植山の某に養なはれ、父母にしたがひて、難波にうつり来たる、年〓一、我にかしづき、去年の冬、五十八にして世を逝たまひぬ、常に多病の故に、齢五十一と云年、我母、おのが母をも見つぎはてゝ、髪を薙き、名をも改む、文よみ手習ふわざは、はか%\しからざりしかば、人に見すまじくせしに、おほくはとゞめもおかずなん侍る、

つゝらぶみ  六  大尾

後序

蓋吾見世善和歌者矣、未聞善国文者、凡国文之難、非〓今也、自古而然、若夫古今集序之駢儷也、三鑑之典実也、勢語之簡潔也、源氏之繁富也、可謂金声而玉振之也者矣、嘗読扶桑拾葉集、皇朝文藻、炳焉渦可観、而至於中葉以下、則意達而已矣、唯惺〓長嘯二老、以脩辞為文、所謂豪傑之士者、然藤偏於古、而贅牙難読、豊偏於漢而〓〓可厭、蓋国文之難不其然乎、辛酉祗役浪華、得見餘斎翁、邂逅相遇、願適談劇、翁手書歌若文数篇見贈、吉光片羽、可以為儀、意在筆先、如不覚其難者然、甲子有崎陽之命、倉皇上道、々過浪華、再見翁、々年七十、禁絶筆硯、平生所著、蔵之香火院、有昇道師者、与翁善、固請上木、吾聞之喜而不寝、到崎視事、薄書堆案、余冬偸間、略綴数語、郵致諸昇道師、不知吾之所蘊、能中翁意否、

        文化紀元甲子仲冬之吉、江戸大田覃、書於瓊浦客舎

                文化丁卯春発行

                              江戸  須原屋平助

                      書林        大坂  大野木市兵衛

                              京        小川五兵衛

                                    菊屋源兵衛

----------$ つづら附.txt ( lines:462 ) ---------------------< cut here