----------^ 文反古1.txt ( date:95-05-15 time:00:00 ) ------< cut here

隣にすむ翁のふみほうく。これかれ百たらすを。壁草にとてかいつかねおかれしを。ぬすむとはうつしとゝめたりしを。みそかに。友垣の中のまめひとゝつねにのたまふれは。柳斎のもとへ携へゆきて見せしかは。あないみし。よんへの夢に。ぬきみたれたる玉ともをひろひあつむとせしほとに。目さめぬ。これはまことのたまよりもとて。おしいたゝかるゝほとに。人来れはとりかくされたり。いかにものしたまふらん。

                                                                      清規

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  婦美保宇具  上

  藤原宇万伎ぬし。難波の任みてゝ。あつまに帰らせし時。奉れるふみの御答。

秋もやゝふけ行ものから。猶土さへさけぬへき暑さを。いかに物し給ふらむと。うしろめたかりつるに。御せうそこを得て落居侍りぬ。一日まうのほりしふしは。何くれとあるししたまひしそいとかたしけなき。出立もいとちかつきぬ。今更に別まいらするかなしさをおもへは。何しに世にことにはなれむつれまつりけむと。中々になん。故郷にかへらむ後も。御ふみもて御問事とも聞え給はんとや。をちなき御こたへも聞えかはし侍るへし。こんとしは阿妻へまうて給ふへく。うち/\にはおきて物し給ふとなん。いとうれしき事。いかてはかりたまへ。けにかす/\の御おくりものいと/\かたしけなく。ことに壁代の料紙は。をりからわきてめて侍るなり。猶まうてゝ御ゐやもきこえ。つきぬ御名残もと思ふ給へらるゝを。きのふけふ新さき守等こゝに到りて。問かはし事。何くれとことしけゝれは。又の御まのあたりははかりかたう。いとゝつきぬおもひなむ。いもの君へもくれ/\よきにきこえたまひてよ。

        あつまちの不二のしは山しは/\も。なれてものおもふ別れするかも。

聞え給ふ御哥のかたしけなきに。こたへまつるのみなり。何事もかきりある筆にはえつくしやらすなむ。

        紀の殿の御内。清子のうまのはなむけのふみ。

雨のゝちは。袂すゝしきかせも音つれ侍れと。猶のこるあつささりかたきを。いよゝ平らかに。年のなかはのことふきも祝い給ふらんかし。且ひとひの御返りに。此秋ゆ。なにはの大城守りたまふまけにて。ちかく出立給ふよし。聞えたまへる。うつたえにおもひもかけぬ事にしあれは。胸つふ/\となりぬ。さるは大君のみことかしこみ。幾千よろつ度も。ゆきかひ給ひなんことをほき聞ゆるものから。みつの浜松。まちわたるへき一とせの月日を。何こゝろして過い侍らまし。されとかしこにも便につけて。なかめ草なともみせ奉なんに。御筆くはへたうひてむと聞え給へる。いとうれしけれ。そもいつちゆ。たのみまいるへき。そのやう委しうきこえおき給へかし。はたこしの縮布あら/\しけに侍れと。はるけき道の露わけたまはん。みのしろ衣にもとてなん。御出立はいつはかりと定給へるや。なか/\に聞しとおもへと。猶おほつかなきこそわりなかれ。今しはしほともあらば。またも聞えまいるへし。けふはにきはゝしきにまきれて。かたはしをもえ聞えはへらすなむ。あなかしこ。

山のつゝみなくて。かしこにいとゝくいたり給はんことのみねき侍る。はたとゝまりたまへる御こゝろのうちもおしはかり侍れは。をり/\文して。御有さまをとひまつるへきを。うとからすおほし給ひぬへく聞えおき給はれかし。

        師また三年経て後の御役立の時に。聞え給へる御文。

初春の御たよりを。鴬も〓にかけて早く来たりぬ。旅寝といへと。ふるさとの荒し垣ねには。立かはりてめつらかになん。若菜何くれはつかなから生出しを。後の便にみせまつらん。千秋万代かたみにつゝみなかりしことなと。こなたかなた聞えかはすほとに。事しけくて。御交りはまつ怠りぬ。

一  万葉集三四の巻収めぬ。十三十四とりかへてまいらす。木に上りし十二の余は。是のみそ翁の手して書つめおかせしなり。残の十四巻は。した書なからにあるを。尾はりの黒成にかして。此度はあらす。たゝとひたまへ。学ひの梯立也。

  使のあわたゝしけに申せは。おくられし物の御ゐや申さて。何も/\春めきてめつらかになむ。

        また

百首よみてみせたまへる。いつれも事なく承るものから。こゝにとゝまる事。幾月日もあらねは。問こと怠らせることほいなく侍れ。歌はおのれ/\か才のかきりありて。よきあしきをいかにせむ。たゝとひたまへるかうれしさ。これは此まゝにてかへしまつるなり。

是は三年へて後の役立の時なり。師のふみあまた有しを。乞にあたへてあらすなりぬ。これ等難波の友垣のもとにて写しとりし也。

          馬の鼻向に。奉れる文。

御出立もほとなく侍るには。物こち/\しくとひきこえ奉るへくもあらす侍る。さき/\問奉りし中に。三五つとり用ひ給ふへく。よろこひ何事か。これに過へく思ふたまふるなり。一日の御暇うけ給らはや。江に棹さゝせて遊はせ奉らん。いさりする者もつかうまつらせて。いさゝけなりともとらせてみせたいまつるへし。細合方明。木村孔恭等。舳艫に参るへく。桂常政。御あつらへの絵〓けて是もと申。ひと/\とゝもに。猶御名残の御物かたり承るへく。船は大城の北の岸に。朝とくよりよせさせ侍るへく。ねかふは其日はいつと承らはや。けふならすとも聞えさせ給へ。

          また

おとつ日はよくこそ出させ給ひし。空も清うて。ひと/\よろこひぬ。みなよく申せと申侍る。

一  めくませ給へりし御書とも。とりそろへてかへしまつる。爪跡墨のけかれあらは。御赦かふむるへく。吾嬬の君を難波にあらせて。物問奉るおのれは。世の幸ひ人にそある。一  万葉集猶問もらしぬらめ。初にかへりて。今一度求め奉らん。されと雁の翅の重きはかりはえ見出侍らし。

一  日本紀。契沖か考へしを。よしと聞えたまへる。御本に合せて。御たかひに書とゝめぬる事。うとん華也。猶末の巻々は吾妻へもたせたまへ。

一  古事記の考正。写しとりぬ。猶問申へし。

一  秋の暑いと安らかぬを。つゝしみて出たゝせよ。御日をいつと奉るへく。大川のへのつゆ原に。朝とくより出て。御馬の鼻取向たてまつらん。あなかしこ。

師またのとし。都にまうのほらせし。道の空よりあつくして。水無月十日といふ日にむなしくならせし。御はうむりに参りあひて。柩うつしをさめ奉るとき。御髪のみたれをすこしそきて。吾妻の覩自の御許へ贈れる。其つゝみし紙に。物聞えし我言はわすれたり。八代子の御こたへ。

おもひきや我せの髪のおちをつみ。便のつてにかくてみむとは。

ぬはたまのせこかくろかみうちなひき。いませしさまのおもかけにみゆ。

今まてもかはかぬものを黒髪の。みたれてさらに袖しほるかな。

しらせたまふこと。いたつらにのみあかしくらし。学ひも侍らねは。思ふたまふことえよみとりも侍らねと。恥らふへき御中らひならねは。みせ奉る。とくかいやり捨給へ。

写し出るにさへ。胸つふるゝ昔なりけり。

        伊勢人末偶へ答

市の中なるくすしは。日々東西南北の人と指さゝるには。夜かけて立走るつゝ。御こたへ怠りはへる。御事なくてとうけ給はりて。よろこひ侍る。

一  古事記伝。十二十三の巻々。馭戒慨言かへし奉る。此次々なほと申せしかと。先是煮て止へし。さても宣長と云ひとは。私言多くいひ。肯かたき事とも多かる。宇万之国といへとも。かたし国の人にて。僻言におひたゝしかは。京。難波のひとは。かく云狂たるいはれとも従はぬそかし。もしや時を得て。海の内に教広(上八オ)まりぬとも。釈迦。孔子の前にかこみし。人ひとりにもあたらぬ稚き輩也。読過ごせし所々に。ぬき出ていふかしむと云しかと。此便にもえみせ侍らす。やかて鈴鹿山雪に袖笠して越たまはん時。こゝに問たまへ。なくさめにとおもふなり。また手枕の巻もくはへて奉る。是は写しとゝめすそある。此事前坊の聟兼にておはせは。時々御息所へ参り給ふへきを。色好み給ふ名のたかきから。御むすめの御ために。しうねきさかをあらはして。打かすり聞え給ふはて/\に。乱りこゝちなりしなと書てこそ。君はまたはたちに足せたまはぬには。御母とも申方に。打あされて物のたまはんやは。みやす所よりこそみたりこゝちしてと。誰もおもふなり。ゐ中におはせは。言えりし給へと。おもひはあたらぬものそ。とりかくしてあれかし。

        末偶へまた

なめしとて罪ゆるすましくとや。いとおそろし。人は心々に物いふを。誰かは一すちにぬきとゝむへき。宣長のおしやる事ともは。我に似よ。来よと。ひたすら言しては。おほやけのまつりことにもそむきて。罪はそなたにこそくふりたまふへけれ。から文よむを。必しもしこれこととおしやれと。また是によりて人の心ひらけ。大君のまつりことも。儒仏を両輪にして道ゆかせたまふなりと。人皆おしやる也復古と云事をもはらおしやれと。さらに/\いにしへにかへり来事有へからす。たゝ打まねふは擬古也。物を博くもよまて。世におもひあからむするわかき人の迷ひ路そかし。いつれの国とても。我に朝せよとて来たらんかは。よき国には便して。得見んとする。是通信のいはれなり。またも便せし。いそしき世に立走りて。いたつら言問かよはさむやは。

  雄の蜑かかつくあはひのかたもひは。たれ打たのみ言かよはさむ。

        人の女の手習に。書てあたへし月なみのふみ。

もろこしまても行てふはるのひかりには。人のこゝろもひとつ言して喜ひなんすなる。(上十オ)鴬の初音のおとつれにも。みなみさかりにおはす事を。あかすしも承侍る。さは七日のあを馬。夕かけて建春門に参りて。左右のおとゝ達の御まかん出拝み奉らはや。夜にかくれていさなひ奉覧。松なとはこゝに物すへし。たゝ打かつき。かろらかに出させたまへ。今しはし侍れは。其あひたにうけたまはるへく。あなかしこ。

              其二

みつのみねの杉のかさしのけふいかならん。大和おほ路さりあへす。いきかよふ袖の色あひ。さま/\ににほしからむ。車とゝろかせ給ふこそ。あて人はみおもひやりなけれ。此柳みしかれど。こまやかに染しかはせまいらすなり。やい米いとあやしけれと。浅茅か里より参らせしかは。いさゝかたいまつる。いとよう晴たり。いつ方にもおくれたてまつらし。心うき立ては。中空のしら雲になむ。

              其三

ゆふへ須磨よりかへりて侍りき。浦山のたゝすまひかたり聞えむに。しはしあらぬほとの。おほやけ事しらふるに。えまいらす。浜つと。蜑かかつき上しにいきあひてなむ。

          わたの底ひかりみえねはあはひ玉。こゝろふかむるかひもなきかな。

にこり酒くはへてたてまつる。須磨てのむこそといふ古ことおほし出たまはんには。いとむくつけし。桜一枝うつろひしかと。これも。

              其四

夜へ。ふくるもしらて。琴かいまさくりて侍りしほとに。月の窓にあか/\とさしいりたるを。あはれと見出せしに。ほとゝきす一二声なきてわたるを。おのれ一人とおほしゝに。隣の庵のすのこに。老たるこゑして。

        みやまにはまつひともなしほとゝきす。たた此里にをちかへりなけ。

誰聞ともしらて。いと高らかなり。こたふるにはあらて。

  此里をしをりはかりにほとゝきす。都をゝちのおとつれやする。まくるこゝちしてそ在し。また西にすむ法師の。いつもあかつきおきしておこなひ給へるを。こよひはいとはやくて。観自在ほさ。物打鳴してたふとけなり。山辺はこゝも猶(上十二才)ほとあれと。住かひありておほゆ。うき世の外のも。御いとまあらは出たゝせたまへ。されとぬれは夢のみおほくて。御かた/\を見奉らぬことなきこそ。中々に物うく侍れ。よきたよりにつきて。あはたゝしなから聞え参らす。

  其五

墨の江のみとしろ田植るを。見に出たまへりしとや。いきあいし人の告侍き。空も清うて。をかしき御ありきにこそ。なほらい殿の風流。みはてて帰り給はむには。芦分ふねささせて。蛍のひかりに盃巡らせたまはむこそ。ことにをかしく侍らめ。此あかきに物狂はしくおはせし。兵部卿のみこころには。まさりていとのとかなる御遊ひそかし。あなたのし。雨うちそそき出しは。御枕の頃ならん。こよひゆふつけて入せたまはらはや。彼琴。笛の上手か。あからんと申こせしなり。今やううたはせ侍らん。そなたへも召るへく。野ちの一つはしかよはせはへらむことを。さきに申せしかは。よろこほひぬと申て侍りき。

  其六

はちすの花咲ぬ。有明月をかしき程にあゆませたまへ。垣ねのなてしこ露こまかにおきみたりて。目を青からしむ此頃なり。永源寺の越渓。人のおくりしを。いまた壷の口とちめしままなり。御ために開きてむ。試みさせたまへ。木末の日くらしにも出たたせよ。侍とりて。御物かたりうけたまはるへく。さる人二人みたりなむ侍る。

  其七

月みるは。世こそりて中の秋の遊ひとすれと。年ことに野分吹立。雲のまよひ安からす。或は雨にさへられ。詩つくり哥よむ人の。腹藁とか云物むなしくすとや。さは春の花の前のみしつ心なしとにはあらす。此望の夜ころよ。猶あつきけも。夕吹かせにはらひつくして。さやけき空に出るひかりの。ますみの鏡とも打むかはるるか。いとめてつへく思ふは。かたは心とやおほすらん。しかいひしひとももろこしにも有しかとおほゆ。白河の出居はききよめさせぬ。蜘の井にはかけまつらし。御駒あゆませ給へ。道芝の虫のねもあはれならめ。

  其八

初鷹狩の御獲ものおくり給へる。是にすすめられて。かはらけとりはやせしほとに。暁露のさむきに目さめぬ。いとかたしけなく。たたにつとめて出まいりしこそ。心ことにきよらにおほえ侍りし。滝口にひとすくなにて。おそくまかんてしかは。御ゐやこと怠り侍る。罪ゆるさせよ。園のひら柿。此頃の野分に落つくしたれは。あまたはえ奉らす。物をしむさかとやおほすらむ。いと恥らふへく侍る。

  其九

御なり所におはすと承りぬ。此秋なん豊の貢もいとはやに納たまひ。新なめの物千くらに。おきたらはしみさせたまふなむ。世にたのしてふ事は此ことに侍る。おのれわつかにしりて侍る所も。民のをのこ等なけき申さて。蔵つけ〓つらひきつれ来る。是たた大君のおほn恵みのあまりて。おのかともにさへ至れる事のかたしけなき。

  あつけ奉りし。帯二振たうへよ。かりて侍りし米つくのひにもたせ奉る。あなかしこ

こそかに。

  其十

墨絵一まきみせたうひぬ。紙のあつこえたる。たけの帙子のやつれをしもみれは。六七百年はかりの物にや。しひて其名あてまとはさんよりは。古代のかたみとのみに蔵めたまへ箱こそことにめつらかなれ。〓てんのこほれ。おき

口のふくらかなるを。しはし有たに。見まさりせられてありかたし。すなはちかへし奉る。此菊うつろひたれと。錦あたたかにみゆれは。

  其十一

今朝の朝戸明たれは。野山いと面しろう。鳥の声たに埋れて。人のいきかひなく。いとも静なり。いかになかめ出したまへる。酒あふらもとめに。市に人出すたよりして聞え参らす。

  問こしとおもひすてては跡つけて。ふむたにをしき庭のしらゆき。

あすさへふらは。必ふみわけさせ給へ。れい。の和上むかへて。しやうもむ聞せたてまつらむ。

        其十二

賑はゝしき御許には。春の御むかへいそしさのみにおはすへきを。御使して。れいのたまはりぬ。いてや千代重ぬへき松の色こきに。針目つふ/\とこまやかに縫て賜はりぬ。

むかふ春の初子は。せちみやん事なけれは。弟ねの野辺にきそはしめすへく。御ゐやは春のたいめに。こなたよりの。よねや。麦や。野山の物。是さへれいにて侍れは。

山かつの貧しさ。みゆるしてをさめたまへ。かはらてそ千秋よろつ代に。

六十になりけるとしの冬に。都に出交はりてそ。よみふりたる。あらたなる六十首。

かいなめて。小沢芦庵のもとへみせて侍れは。こといさゝかくはへて。かへさるゝに。

あらたまの春にもならは書てたへ。横川のかすみ神のみたらし。

かせはやき山はけしきを立かへて。よかはの杉にかすみたなひく。

はふり子か清むるあとに木の葉ちりて。神のみたらしこほりゐにけり。

やかて書ておくりぬ。

栗田山のふもとのやとりを。瑞竜山中の。何某の庵に住かふる時。たよりにつきて。蘆庵のもとへいひやる。

かしこの人のいさと云に。けふあはたゝしく移ゆきぬ。道のほとちかくなりぬれは。御暇にはとはせ給へ。すきかましくはあらねと。すこし広きかよしと也。垣のもとを過る谷水の音のさやけきかめつらし。是は最勝院の滝の末にて。けかれなしと云。纓すますかはりにはあらねと。夏来たらは。御足洗ひて遊はせ給へ。

  山に入かしこきあとにならはすも。うき世の道にまよひてそこし。

          蘆庵翁かへし

  われも世にまよひて入し山住よ。いさ身のうさをともにかたらむ。

なほたいめに。よろつは。

            時々来たまひては

        ひやかなるたに水をさへ庭にみて。ねたくそおもふ夏の山かけ。

            かへし

        ねたきてふかことなからもうとむやと。こゝろひやせる庭の谷みつ。

            園のきちかうの花の色の。送りしに

是みたまへ。

        夏と秋ふたあゐ染の花の色の。うつしの露も玉にあらすや。

          年の暮には。蘆翁より。れいに炭切て。おくらるゝに。

さむさいやましにこそなり侍れ。いよゝたひらかにおはすや。あとの月の中頃より。さむかせに吹しかれて。今におきもあからすて。みつからはえまうてす。人してとひ奉る。

        すきまかせ身のしむ老の末のやま。こす月なみもしはしとそなる。

            返し

御たかひに。山陰の寒さを。すきまの風に煩はせたまふとや。やゝをこたりさまにと。使の人に承りぬ。いとよろこふへし。猶よくいたはらせたまへ。こゝにもおちうはら。かたみになやみかちになむ。賜わりしは。夜ひるのともにうちくへて侍らん。またありその石花貝。故さとのなつかしきには。何も/\いとかたしけなく奉りぬ。此ころは。

        なへて世の冬にこもれる宿ならは。のとけき春の日影またまし。

また御こたへまてには。

        かきたれし老のしはすの年波は。末の山をもこゆとこそきけ。

          此おくられし哥は。すみすこしと云詞を。句ことにいたゝきてと。後におもひしりて。いと恥あることのおもへりしかは。独ことに。

過うしやみちのく山のまつ。こす年なみはしきなみにして。

          琴子かみせし文に。筆くはへて返す。

いにしへ。こまの国へ。御使にゆきし人のめの。巣守にて在を。いかにと人の問よりしかは。秋きのいやふたこもりをおほせと。打わひしとや。またもろこし人の。君をおもへは満月のことし。夜々光をかくとなけきし。それさるものにて。二三日の程も。月か過らんとおほしなるこそ。人妻の直々しき心なれ。雲なかくしそ雨はふるともと。なかめ出せしみねうちこえて。そなたの国へ出立けむを。長月のしくれの雨のゆふつけて。ひと夜ふりあかしたる。つれ/\の枕に。有つる事ともかいつけおきて。みせまつるへくする。なか/\に仏の御経をうつし。御名となへたらん。まめ/\しけにこそあれ。是にくらふれは。いといたつらこととしも云へかりける。あないみし。あな筆くはへてまいらす。

        あしひきの遠山鳥のをむかひに。ぬるよのまれも

        陶ものつくりならひてんとて。人来ても。ものかたりせてありつゝ日ころなりしかは。あるひとより。

        とふことに加茂川の辺のはにつくり。なとひとことのをしへたにせぬ。

            こたふ

  すゑものゝ末たのまねはかしこけに。何をかたらむとひはくるとも。罪のあかなひに。此〓。おしゆかみたれと参らす。吉備の国の土。また便にたうへよ。

  瑚〓尼か。とみの病して。むなしく成しとき。蘆庵翁の聞えたまふる。

  をしめともさらぬ別れはいかにせむ。ひとりのこれる老そかなしき。

  老らくのひとりおきふすかなしさを。わか身のうへにおもひこそやれ。

御とふらひにまいりたくおもへと。寒さにたへす。人して問奉る。此品はさしおかせて。今とおほさん時。此者におほせ付らるへし。また御使も候はゝ。此もの御つかはしあれ。何によらす雑事相達へし。仰こされ候へ。

              かへし

        おきふしはひとりとおもふを幻に。たすくる人のあるか悲しさ。

万御こゝろゆかせたまふなめに。たゝおしいたゝきぬ。御おくり物。さかし人も先とゝめぬ。やかてかへしまつらむ。

          翁よりまた

こたひの事とも。またしらぬ難波より奉りしとてなむ。いといみ/\し。

        なけきをや君はそへけむおくりもの。たまはる我はうれしけれとも。

なきあとに。陸奥より馬の来たりけん昔も。ふとおもひ出られ候ぬ。きのふいさゝけの物なりしを。度/\の御いや。かへりて恥かしくなむ。うつはとも返したひぬ。御わつらはしさも。

  きのふ使の者に。くはしうのたまひこされしに。すこし心おちゐ侍りぬ。さても猶雑事等候はゝ。のたまひこし給はるへし。

          翁また

年も今はとなりぬ。つれ/\なるましき去年の此ころをさへ。おほし出らん。おもふも泪くまし。たゝ/\まきらさて給へとて。去年今年のかたりき。試たまへとて。

        やい米のもし御こゝろにいるもあらは。これをとをいへまたまいらせん。

          こたふ

        やい米の胸やく老かおもひをは。誰かゝるまて心いらなむ。

          ありわひつゝ。翁へ。

さてもめゝしとおほすらむ。誰にかはかうまて聞ゆへき。京。難波の人々の。としころたのもしけに云しは。みな死やうせけむ。

        栗田やまあはれとひとのとひこしは。跡なき空のかせのしらくも。

        逃水のにけ落みせてむさし野の。草のまくらもかさしとやする。

ゆめ。人になきこえそ。

          翁より

二鼠あらそひ走り。ほとなく御月忌。おほし出され候。事多く候半。いんさき。なき人の御手すさひの色紙短籍たまはり。さらに袖をぬらしおもひのへ。一二首。麁香一捻。霊前へ供し奉る。

            色不異空。々不異色。

        なりはひの薄墨色のそめかみも。さるへき法のすなひなりけめ。

        今は世に心なれそめそしら紙の。しろきそおのかもとつ色なれ。

一  あはたの雲。むさし野ゝ逃水。うけたまはりしを。其をりあはたゝしさかへしもせて。あとにてくりかへし候に。翁も此年頃。あまたゝひおもひあはする事おほく。感吟にたへすおくれながら。

        あともなき人の心のあはたつ雲もかせをまちしか。

        もとよりもむなしけれはそ君よ余所にのみ見て。

  只々何事も0お干しけち手。一煎の清気に本心をやしなはせ給へとねき奉る。此麁菓あるまいに。あなかしこ。

        一とせのたむけ草を。物とりそへて。難波の阿弥尼より給へる哥。

        ひとゝせのむかしといつかへたつらん。みしおもかけのわすられぬまに。

            かへし

        まほろしにたつとし月はなかりけり。夕へあしたか去年のむかしか。

          小沢翁より

いと/\うとくへし我をしも。とひたまへりし御こゝ炉差しの嬉しさ。言にもつきぬを。筆のはいかてとおもふ/\。いやをたにとてなむ  そも/\こそ見たてまつりしよりは。おもたちよりはしめて。ゐたちいとわかやきたまへるなむ。道のためにもいとたのしうこそおほえはへれ。寒さもいましはしならん。いとようしのきたまへ。初春のつとひおほしいてゝ。梅。何くれと心よせたまへりしに。老馬のおも荷おひたるに。小つけとか。病になやまされ。春の霜にうて。御こたへたにせて過つる。つみさりところなくなむ。

        言そへてたまへる梅そはつるの。くさのしろのみやひなりつれ。

薬たまへるに。

        わかえます君にあゆへく給へりし。くすりのみつゝいかんとそ思ふ。

新むろのもよほしきゝて。

        とくたてよさらは都にすみぬへき。心おちゐむ君か新むろ。

人のあたへしまゝ。あやしからんもしらて奉る。此一くさは。もと人に心みさせたまひてよ。あなかしこ。

  常にしたしく召まつはせし君の。あつき御こゝちにふいたまへるか。長月の朔日といふ日。世をはやうせさせ給ひしに。そのころは。かふ内の山里にいきて。しはしならすやとりしたるを。御内の人々より。訃しらせ給へりしかは。御身ちかきかたまて。こたへ申奉る。

大嶋加田のひと/\より。三日の御背右そこ。山さとには。六日のあしたに。つたへ来たりぬ。都を出し日より片時わするゝひまなく。神ほとけに。おほんことなかれとねき奉るも。なほおほつかなくおもふたまへられて。此御たより披き侍らぬにも。先胸つふれ。くらき眼見はたかりつれは。あなかなし。北の御かたをはしめ。御はらからのきん達。いかに泣まとはせたまふらむ。御児の足すりしつゝ。したひなけかせ給ふらん。まして其かたの御心のほと。おしはかり参らせては。聞え奉るへきこともあらすなむ。老て云かひなく。世に立さまよひ。をしからぬ命もて。おそれみなから。かはり奉らさることの朽をしき。今は何事もおもはて。目や泣つふさむ。さるにても何のすく世にてや。かけても参りつかふましき御あたりに。おまし近く召れ。あやしき物かたりともを。耳とゝめさせ給ひ。罪かうふるへき言あやまちも。見ゆるさせたまひ。いとも/\かたしけなく。よろつをめくませ給ひつる事。おのれこそ御罰にてとく死んを。なか/\に生恥かうふりて。いつまてかあらん。さらは都にかへらんのこゝちも。足折たる思ひして。おほしもたゝすなりぬ。御はうむりは廿一日となむ。内々さたし給ひぬと奉り侍りつれと。御おくりつかうまつるへくも侍らねは。そなたの空をさしあふきたてまつりて。ふい拝みしたてまつらむ。北の御方。そなたにも。おなし道にとおほし成たまふらむ。仏のをしへには。定まれるものに聞知侍る。御涙のひま/\には。御心をしつめさせ給ひて。若君のおひたちかしつきを。御こゝろつよくおほし立給へ。翁かやめるまなこには。こゝの尼に筆かはらせて。申聞えたいまつる。くり言はてしなからんには。苦しさのまさりぬへけれは。申さすなりぬ。御なみたのひまに聞えあけさせたまへ。あなかしこともかしこし。

  またの便して

夢ならはやとおもふに。はたゆめならさりけり。難破まても。足なえたれは。かき荷はれて出侍りて。ひとりこたるゝ。

かゝらむとおもひしらねはしはしとて。告し別れそなかきわかれに。

なか/\に都は遠し追しかむ。君しはしまてよもつ坂路に。

此春賜ひし。逍遥院とのゝ。御手つから合わせたまひし。やま人。黒方の二くさを。上つゝみに御筆してかいつけ給ひしを。こゝにもて来たりしまゝに。御手向草に。くゆらせ奉るなへに。

をしからぬ君か御ために焼昇す。けふりかへしのうたてくもあるか。

又翁か兼てもたる。めう香五くさに。くはへて奉る。

        名残袖

ひるまなき君に別れのなみた川。けふそなこりの袖はくちぬる。

        はた手

ゆふことに立出てみるいこまやま。雲のはたてをおもかけにして。

        八木

神まつる宣〓かさゝくるしらけよね。しらけいとはぬ君にませしを。

        無名

久かたのあまつ使の名なし〓。ねなきあしともしらて別れし。

        老木花

名もつらし片枝はつかにめはる木を。花とみられん老か身のすゑ。

しるしとゝむるも。なか/\にうたて侍る。はかなかるりつる事とも申契り奉りしを。追つきて御まのあたりして。かきくとき。かつは御心のかきりも承るへく。あなかしこ。

おもへは/\わすられぬことそ多かりき。物かたりせさせて聞せたまへる。いとよろこはしく時々まうのほり侍りしに。あすのよひ雪いと深しとて。御使ありて。

        御文

たのねこしこゝろもよはのしらゆきに。あすはとかねておもひきりにき

御返し。すなはち。

        君みむとたのめしをけさのしらゆきに。しらすや老かおもひきゆとは。

年のくれかたの。御賑はゝしき事ともの。うちつゝき給ふとて。春にと御使給はりしかは。承り侍る。かく奏し給へとて。

  春かけてからきしほちのふみなれは。としのこなたやとまりなるへき。

ふみは土佐日記にて有しかは。

二月の頃。御まへの薄こを梅に。御文ゆひそへてたまへる。

  みせはやとおもふはかりに日数さへ。うつろふはなは折もあやなし。

こたへ奉る

うつろはぬいろかをみれは君により。はなの日数もかことなりけり。

岡の梅と云題に。

水茎の岡のやかたの春とへは。あさけのかせにうめかをるなり。

  かやうによませたひしとて。人みなをしみたいまつる君なり。新中納言。正三位。  御よはひ〓八にて。〓去有しなり。

  大沢清規か母の六十の賀に。云贈る。

はゝそ葉の御陰に。いはひのむしろしかせる由。聞えらるゝ。其日まうてゝ。相与に喜ふへし。六十は。万の事を聞まゝにといへは。直き限なるも。わかくはやりかなるさがの。おとろへにこそあらめ。よくつかへ給へ。鶴亀松竹も。よはひのはてあり。たゝ日をゝしむと云そ。考子の有かたきこゝろなれ。はらから達に代りて。われ申さむ。

いさゝらはちよとはいはしもゝとせの。よはひに家のさかえをはみよ。

よきことをいはせのもりのときは木の。つらなるえたにあふみよ。

扇二もといはひてまいらす。絵は何かしに。鯛浜栗をかゝせたり。貧しき此頃。真魚はもとめてえまいらせす。

        故さとに。月をわたりて在ほど。十時梅〓{崖-山}

人こぬほとに。しはし眠りつれは。夢うつゝとなく。物のねの聞ゆるに。目さめて。あやしさに。簾かゝけたれは。御舟よせられたる。上手の手をのこさすふいたまへるには。古屋の梁の鹿も立舞。水にかけみる雲もたゝよひぬとそみる。そらやけふは。世に響聞えたる。赤壁の遊ひ有しゆふへなり。昔おほし出て。棹はさゝせ給ふらむ。舳艫にはへりて。御供つかうまつるへきを。ぬるきこゝちの名残して。え従ひ奉らす。ひんかしのほのになるまて。すのこにうちかしこまりては。昔の人か。我はと。あやしう心なくさみてはへる。去年の秋こそ。かのいにしへ人の七百六十年になりぬとも聞にはいよゝ身にしみてあはれにおほゆ。さていつこに棹はとゝめさせけむ  月のいとあかゝりしには。人々のから歌すゝろきて打出させけん。取なめてみせたうへよ。はた酔の名残にふいたまふらむ。さめて後にと乞まいらす。

昇道法師。中秋望夜大雨。あした。喜雨の詞をえらひておくらる。

いたつらに月みむよりはさと人の。まちえし雨を聞はたのしも。

月にこそひかりはみえねあめとふる。桂の露を人は玉てふ。

雨もよし月も見まくのほしけれは。ねちけひとゝや人にみゆらん。

月かけは雲のいつこをわたるらむ。雨にふけゆく九重の空。

こよひしもあたら月夜とさかしらに酔泣すらん人そおほかる。

        答

物の名有や。喜ひを忘しとてなむと聞しか。かなしきにも名有うたてさよ。今は井中住して。中々に月めてむより。里人の待恋し雨こそうれしけれとおほすよ。寔によきに交はり。あしきには近よるましき教への例なる。翁も昔の田舎住に。秋立ては田ところかたはしもたらねと。としことに。竜田。広瀬の大神。あらきかせあふるゝ水あらせとねき乞し事もありしか。今は忘れつれと。夜は目なし鳥の月みむともおもはす窓のかみのあかきは。空さやけしとはかりおもひ捨て。まくらによるを。あはれとおほせ。よんへの雨のけしからす音せしかは。

朽ぬれはやへふく蘆のひまやもると。月みるよひもわれはしらすて。

けふよく晴ぬ。庵を昔の喜雨亭におほしなして。こよひのかけの花々しからんを。なかめ明させたまへ。

土師方観か。我かたちを作りておくりしを。おきまとはして。八条の大通寺の内なる実法院へ。しはしおかせよといひやりし文

にくさけなるものもたせ参らす。いつこの隅にも打やりておかせたまへ。土師かたのまぬ事して。御寺を煩はし奉ることよ。あはれ破くたけよかし。土にかへらむをとおもひつゝ。えこほたぬ。心きたなさよ。

蘆蟹のあなうと世には在わひて。かけとむへくはおもはさりしを。

とうちなけかるゝになむ。

郷友蒹葭。源大夫の和名抄十巻なるを得て。今ある二十巻の本と。たかへる所々を考へなん事求めらる。其頃病して。田舎に在しかは。暇有まゝに。安くうけかひしかと。身のいたはりにかゝつらひて。一とせ余り怠りしかは。とく返してよと聞えこさるゝにそ。夜昼におふな/\かゝなへはてゝ。是に巻そへし文。

年もやう/\暮ぬめり。家こそりてつゝみなく。春をむかへたまはんこと。あかぬためしにことほき申す。わつらひの神は。賑はしきあたりは窺はぬものか。和名抄の事打ちおかねと。病のひま/\にて。月をわたりぬる事。なめしわさにやおほすらん。今はよろつをうちやめてつとめてん。今しはしも。年の内にとおほし立ぬ。

一  此十巻なるは。那波氏の木に上されしにくらふれは。よしとおもふこと多かれと。猶源大丈の家の本にあらすおほゆ。物の名さたむる事。西の国の字には。何と云ものと云考えをつとめたる。此書の宗にそある。官名国郡殿堂等の。ここにのみの名をまて。かしこにむかへて云へきにあらす。これを省かは。十巻はかりにて足ぬへし。又西土の何某の書を引て。史記。前後の漢書。文選のそれの所にとも。つはらかならす止み。又序辞はまたく同しくて。巻数。部数の目の多少の異なるは。必しも後の人のさかしわさしてとも云つへし。さは此書もいつの代の火に亡ひて。またきはあらぬけなり。十巻なる先に補なひなして。二十巻は後にとそ思ふ。猶もとめたまはゝ。いつちの雲のうち。壁のこほれよりも出くらめ。つとめたまへ。

一  古言をもて。古を探る人の。此書を必便として。もはら物云も。猶尽さぬか。これより往しへの代々に。西土の学道さかりに行なはれてより。古ことを取失ひ呼たかへつゝ。あやまてる事とも少からす。和名鈔のたくひは。中古に立ていにしへを伝ふとおもへは。又中古の誤りを後にわたす梯にもなりて。ひたすらにたのむへからぬこと。古書をみるにこゝろえらるゝなり。これは。神代のかたちを絵かくに。清見原の冠さう束もてと云し人の為に。見おとさるへし。今の代に有職とか云学業に。古をさくる人おほかたこれなり。

一  としかへるとも。城市にはとく出ましけれは。まして御あたりまてはいかて。垣ねの梅咲ぬへし。若菜これやかれもえ出へし。摘煮てすゝむへし。残る寒さ過してとはせよかし。をこたりぬともそれまてには。

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婦美保宇具  下

  都に来てしはし親しかりし人の。春は吾妻へ立へきよし聞こえて。年のいはひものおくらるゝに。こたへし。

御事とも承りぬ。俄ならぬ御出立にも。万をあはたゝしう聞えたまへる。しかこそ侍りつらめ。餅。しらけよね。海の物。山の物。心もちひてたまひぬ。うはらはことになむ。猶たいめに申侍らん。

        ふる卿にすみてあらましを何にこの。都にひとのわかれしにこし。

さりとも。をちなき文のいきかひしてあらは。

        谷直躬に。こたふ

年はこゆともとおもふを。かし置つる書ともとりそろへてもたせらるゝなへに。とめつるもかへしぬ。猶忘れてとゝこほりたるもあらは。又聞えたまへ。れいの物にくはへて。嵯峨野のうま芹。つく/\しは。猶むさし野のほりかねの井ならめ。うはらには酒たまへる。すき物なれはよろこひぬ。よく申せと云。

        同人に

歌や文やみせたまへる。そなたには教えふちてかたらへは。筆くはへて参らす。から文から哥のさかしさには。是はおとりておほゆるも。親のたまへるうつは物の。用ひにたかへるなるへし。たゝ心やりに云なくさめよかし。老かからふみえかゝぬ同し事也。

一  越は河野の本姓にて。谷氏を改らるゝ事承りぬ。直躬をも魚臣と書かへて。奈遠美と呼へとや。人の世に仮名の法とていかめしきには。直。猶は。古くはなほと書。今のには奈遠と書。字には抱はらすして。なをみと呼んことみゆるすへし。たゝ魚臣奈於美と書へし。我霊語通の仮字篇よりて法にはかゝはらしとか。仮名の法。今古ともに人の立たるなれは。

我口にかなへて。人はいかに云とも。耳過してあらんもいにしへなり。既に云し。李笠翁か画伝に。有法の極無法に帰すと。此事絵のみならす。吾は無法にかへり。又有法に従て書は。あらそひのやくなきを逃るゝなり。されは此仮字編もいはてあれと云人あり。ことわりなから。猶かゝるはるこゝろからなれ。魚臣も奈遠美と書そ。我も人も口に叶ふへけれ。さて文字の心いかなりや。学はぬ方にて。たいめに聞こえたまへ。

  文化三年の仲秋より。春かけて。瑞竜山下の。我香火院。西福精舎にやとりてあるほとに。波速人のもとへ。年の暮におくりし文。

此ころは便りほとふるものにおもゆるは。老の物わひかちなるにや。事しあらは聞えなくさめよかし。こゝには過ぬる霜月つこもりかたより。月こえて三日のあひた。山かせはけしく。雪いさゝかならすうちちりて。たきつく炭も。神やけつらむ。夜に入て。かせなき。やゝ人こゝちおほゆ。此二日は。寺にあつまり来て。一とせのをこたりことゝも。かうかへしらふとて。

御堂のつゝみ。暁おそしとならす。三たひの後にそつとひて。此日の弁にあたれる家より。いと大なるひら鍋に。気のめう/\と薫たちて。かんはしき荷ひもて来たる。汁の物とそ云。大根芋の子煮たゝらしたり。さて門なみのひと/\。手々にひら折敷に。赤兀たる椀に。飯高々と盛て。つけ物のひら皿。窪つきなと。何をかこほるゝはかりにてさゝけ来る。すこしよろしき家なるは。刀自。うはら。小姫らか大事とはこひつれて。我たのむ人にそなへてかへる。凡二三十人。箸鳴したてゝくらふさま。いと賑はし。人々あかぬまゝにくひみちて。又おのか家にはこひかへす。又あつまり来て。まとゐする中に。今年の長と云男。座の上に。膝高くあやうけに居て云。此秋なん誰々もよろこはしく。刈収めて貢物定のままに奉りしかは。よしとほめ言給へるそ。世に嬉しとは。かゝるを申へかめる。さは年のためしに。此座代りたまへ。誰殿こそと申。口々ならねと。ことしの秋のよろこひは。そこの徳にこそ有けれ。猶其まゝに居て。こむ年のことあつかりたまへと云。あなかしこ。ことしの暮るをさへ待久しかりしを。何の罪にか猶あれとは云。うらみつへき物にこそといふ。人/\の囀り聞わくへうもあらす。時過るまてからかひしか。誰代りつらん。やをら打しつまりぬよときくに。又物さわかしくて。ひとゝせのことしらふなるへし。あるか中に。物よみ書。かそへことする人は。たゝふたり三人にや。それたに浜のまさこちあゆみかねて。幾度も/\数のつもりたかへりとて。かしらいため。あつめし額も時々あをむきては。のひあくひしつゝ。組しひさいたしとや。なてさすりて。わろき烟の香くゆらす。室の八島に立のほるを。こゝに立せますあみた仏は。いかにうるさくやおほしつらんむ。よみ書えせぬは。くりやにしそきて。あなむつかし。よみかきと云事をたのみて。一とせのとゝこほりは出くるなり。しらす学はぬ我らか家にも。春をむかへて。何おもふことあらす。こゝに秋の頃より。まれひとのやとりておはすは。世の物しりとて。あるしの法師の。いたはりかしつきたまへるか。目を病て。立居おきふしあやうけにみゆ。よみ書にをさ/\しきと云も。物かゝぬおのれ等には。今はおとりたまへりとそ。あまりに此ふたつを大事として。目つふされたる。おろかの人なりと云。いな。神仏は。罪ふかき人に。かゝるからき事ともおほせて。前の世のむくいはたさせ給ふなり。学はぬしらぬ方よりみれは。まれ人の翁のみならす。あの座上に打広かりをり。事むつかしけにしゝらかし。煩へる人も。あはれ同しむくいなるへし。さては物しらぬ吾ともの家にも。春をむかへて。うまき餅の数はおとらす。十はたとかそへし。かまへて/\子ともらによみ書ならはすな。はて/\は目やつふれむとて。声たかくかたりあふ。奥の長ともは。ことはかりをへけむ。いとよし目出たしなといひて。盃めくらしそむ。よみかゝぬひと/\も又ゆきて。物くひあきしつゝ。亥や過むらむ。みな立て去ぬ。あるしのひとり。小法師。二人ひねもす。夜に入ても。念仏たにをこたり。めん蔵に居くぐまりおはす。されと年よかりしと聞。こゝに宿りしたる身もうれしけれ。あまりにめつらしき事。ありつるまゝをかいしるしてみす。世に落はふれつるにつきては。またかゝるをかしきことにもいきあひぬるそかし。

        山さともとしなみくさはおひにけり。いつこうきょの外にやあるらむ。

賑はしきあたりはさこそとおもひやられぬ。今は何事も聞えす。

          正月七日。難波へ便に云やる。詩はなくて。

        しらゆきのとけてしつくの下庵に。いかてよはひのふりつもるらむ。

          二月六日。雪のふる日。誰やにかつかはしつる。ことはもありしかと。かきとゝめ          す。

        のこりなくさけはうつろふくれなゐを。やしほにかへすけさのしらゆき。

          浪速の。長保かもとへいひやる。

花もみちにかこつけられんことうれしくもあらねと。都の人もをちこちかりありく此ころなり。いとまぬすみて出たゝせよかし。嵐やまやゝちりぬと聞。天の下の見ところとはいへと。あまりに人立こみ。陰の休らひも静心なく。酔しれては。うちたゝかひ。疵なとつけたりと。とし/\きこゆ。花こそおなしけれ。いとあやうき所なり。東山。ときおそきか。足つからさす。夕かけてやとり遠からねは。のとけし。たゝ十二日の暇にも上らせよ。さきに申つる。古塘のふせ屋を。む月の末より。きさらきの廿八日と云に。かにかくして移しはてぬ。御寺のやとりしはしとおもひしに。二百余日を過しぬる事よ。臥居せし所の壁に。

        いのちとてたのまぬものをなからへて。つひのやとりをまた立いつる。

とかいつけぬ。あはれいかに。いつまて立さまよふらむと。おのれたにいふかしきを。人はまして。此丘の上に。十とせ余り昔。かり住せし事のよしにて。またまよひ来ぬ。かの滝の末の流は。今にかれすそある。れいのつくらせて。茶煮て遊ふ。

        夏山のしたゝる末をあかす汲て。老は是にそやしなはれぬる。

さてはみそかに。庵のうちはかりを。養老紀元と物にしるしぬへし。

一  抑此迷ひ入りしこと。釈氏の因縁とそおほゆ。此隣の家の情にて。今やう/\こゝろ落居ぬ。さるは。住はてむいほりしめぬる山かけに。岩木の友をもとめつるかな。

  常盤かきはゝ人のこゝろにも有けるを。しらて。

一  山陰なれは。よろつ世はなれて思ゆ。卯月ついたちの日。

        夏山をもらせる軒の古簾。青きにめをはあらためにけり。

又。

        庭もせの木末をわたるくものゐに。かゝりても世にあるかかなしき。

  猶多かれと。れいのわひ泣なれは。うたておほすへく。

一  鴬を先と。百鳥の声。軒をめぐりて春なり。今はあつからぬほとに出たゝせよ。

        めのもとへ。こたふ。

やゝ秋たちぬ。猶ひるまはさる物にて。夜もいねかてぬ。山陰すら。市の中はとおほしやるを。度々とはせるは。ことしけきか中にと喜ひぬ。

一  よろつまめやかにこゝろもちひて聞えらるゝ。いとうれしき。ほしきものは此世のいとまのみ。

一  まことならすもとおもひしを。またもきこえさせしそおとろきぬ。みしかよの尾上の松のふきたえたるとや。またわかうて。末たのまるゝことなとはたおほすらめと。たゝはかなうのみおもひくつをるゝ此ころなり。

  かきなしてしらへかよひし玉松の。ありかやいつらとめてゆかまし。

  名もつらしみねはいつらそ玉琴の。かよひしまつのかせにくたけて。

峰子と申せし名の。実にかなへりとおもふを。名つけし親のこゝろいかゝおほすらむ。

  とふ鳥のあとさきよにおもへてふ。をしへはかねておもひしる/\。

さても世にひさしきは。うきことかきあつめよとてか。

        難波へ。また。

雪ならは。幾度袖はらいつゝも。とひ来まさんをと。うたてのけふは。たゝこもりてのみ。人待こゝろもあらぬ寒さに。軒のしつく玉をぬきていと清うすさまし。都ならはなか/\に言もかよはし。御文やかてひらきてみるに。たひらかなりときゝて先よろこふなり。一  筆研。此世のいとまやりつとおもひしに。奈良人の来て。小倉色紙のうら書せよともとむ。くらき眼みはたかりて書たる。やかて墨につくらせてと聞ゆ。

  老ぬれは世の人数かなには江の。あしかりわさのをとこなりしを。

やまひゝまあれと。

  冬こもる庵の戸たゝくあらしより。猶いとはるゝひとはるゝひとのおとつれ。

とさへうちかこたれぬ。

        月次の文。手ならふ人に。

きのふ若なつみに出させ給ふとや。かくれ神のこゝに告しらせたまへりき。野への雪も名残なくけたれしとや。古草交りたらんも。去年おほし出させたまふへく。二の寅に詣しひとの。まことには見奉りしとそ。夕さるあらしをもいとはせす。いとも賑はひてかへらせ給ふを。御あとにつきてあゆみし人の。今朝こゝに来て申つる。ようそしらせたまはさりし。かひ/\しうこそ侍らね。くれなは御手とり。御腰おしても。まめ宮つかへし奉んを。春立てより。かうにくまれ奉ることのなけかれはへる。男やま。ふもとの野かせの。あなくね/\しと。いよゝおほしうとまれなんを。筆の末おほしなり侍りき。さかな言御耳になとゝめさせ給ひそ。此梅。となりのなか垣にたちて。きのふけふ薫りみちぬ。一えたみせまいらす。あるしの君に御ことの葉もとめたまへ。御園の林には色香おとりたりとも。

                かへし

常のさかの物つゝましうあらぬを。御内の人の。にはかなるに。とりあへすして出ぬ。ゆめ/\御許へ聞えしとは。かまへこそせねと。たゝすの神に見とかめられしには。今更の身そきもいかにせむ。たゝ遠々にも伏拝みして。罪のあかなひ申奉る。ゆるさせ給へてよ。野山は露やう/\引わたしたりとみる/\。山嵐こそ春しらぬつれなさよ。摘草何くれ。またき。はつかにもたせまいらす。根芹こそ老たるさまなれ。さるは中垣の。いろかほこりかなるをみせ給へる。御方にさへなつかしきは。唐ふみに。徳あれはとをしへたまへるためしに。めつらしうおしいたゝきぬ。其徳の君に。年月へたゝりて侍るこそ。身幸ひなう社はへれ。かくいひ/\て。言巧めるわろ人にや。おほしなし給はんことのかなしき。ゆめ/\。

              二

春雨ふりつゝきてさふ/\しきを。いかになかめ給ふらむ。こゝの翁の。おきふしにわひしとなむ。こちたくておはすかいとほしき。若きものらさへ。何事をか云つゝ。空を守りてはなけく。人すくなゝるには。かゝるつきてもわひ泣なんせらる。琴かいならすへきよはひにしも侍らねは。手を膝にあらせてうちむかひ奉るのみ。絵一ふた巻しはしたまへ。翁なくさめて侍らむ。寒さもいや/\しくなりぬ。雪にやふりあらたむらむ。をのゝ里の物たゝたきすて在わひぬ。翁の御ためにつくらせしか。あまりに濁りたれと。小瓶なから奉る。こよろきの蜑か手わさは。香も味はひも鄙ふりにたれと。

            かへし

御有さま承りぬ。鎌くらのおとゝの。雨やめたまへとのたまはせし古き御ことの葉を。こゝにもすんしかへしつゝ侍る。ひるまより誰々あつまらせて。からうた。やまと哥。題さぐりつゝ。かはらけめぐらせ給へは。けふは賑はしくて。おほとなふらや。何や。てうしさせてなむ。絵三巻。棚におきつるを。先参らす  なかくととめさせたまへ。御よはい高しとて。みなことふき奉るを。御みつからはいかにおほし給ふらむ。いといとほしく侍る。市原女か薪木もてこしに。蕨をりそへたるを。是よく煮て。よひのまのかゆまいらすに。とりそへてたいまつりたまへ。給へるはよくすみてはへれは。翁。まらうと達にすゝめたいまつらん。

              三

御子達おとゝひなから。神路山へ詣させ給ひぬとや。能こそ出しまいらせたまひぬ。日なみよろしうて。うちはやりすゝろかせ給ふらむ。くさのまくらはあはれなるものに云めるを。此いきかひなんいときにはしくて。かひ/\しうもあらはなと。此御喜ひにつきてもおほしなりぬ。まう出て御ことふき聞えたてまつるへくおきてつるほとに。日ころ過ぬれは。先使して申奉る。真魚はかなたこなたより。日毎参らせんには。あな。阿漕か浦とか。かこたせんには。同し男の蜑のかつきしあはひ玉。是もうたてやおほすらむ。何某かつくれるもちひ。くさ/\の色をかしさに。とりくはへて奉る。かならすよ針なとらせそ。神のとかむと云。やかて相坂の御むかへを。日かそへてまちとらせ給へ。あなめてた。

            こたふ

俄なることにて。そうの君にあつけたいまつりぬ。ひとよも外にあらせぬうひ事にしも侍れは。おなしくはあとにつきてともおほしつるを。嘶する物のみちさりあへすと聞には。おそろしうてなんおほしたゝすなりぬ。いかにむつかるらむ。心もとなくてのみ。あさらけき物。草のもちひ染わかちて。いとうるはし。おしいたゝきぬ。けふの夕けや。何やに。とり/\祝はせなむ。うちつゝきて日のよろしきこそ。幸ひあるあひさきにおほしたのまれて。うれしくなむ。いとありかた。

              四

うちつゝきて長閑なる空のけしきに。河尻にさをさゝせて侍りき。夕つけて汐のたゝへくとみる/\。若蘆の。かせもふきわたらぬに。さや/\と涼しけなるおとするは。汐さゐとかいふとをしへられしかは。裳の裾濡さるゝおもひしてなむ。小浜の蜆手まさくりして。よつ五つひろひぬ。是もても家路わすらるゝものをと。つふやきしかは。いさなひ申せしくす士の。舟のはたはうしとりて。うたはせ給へる。

        あさりする入洲の小貝けふはしも。口とちてのみくらしやはせん。

をかしとうけ給はりしかは。みせまいらす。

              五

安屋女のやかたのあやめ。あふち。とちそへて参らす。是聞しらせしにや。温明殿の大庭に。五日の昨日の御例して。かり初ふきして造らせたまふよし也。丹波の国何の群何かしの里人の。年のはに参りて。これつかうまつるよし。何かしの君のつかさとらせてとか承り侍る。おしいたゝきてをさめ給へ。

              六

照日のおそろしさ。万家紅炉の中にとや。女文字ならぬは。舌つきこは/\しうて。且はことわりしられすなむ。此春の暇につくらせしところに。風よう吹入て。すゝしさに。誰かれ夕毎につとひて遊はせたまふ。今宵は何かし殿の御入せにて。哥よみてんと。物もとりあへす御むかへにとく出ぬ。ひそかなる所に。そとまちとりて侍らむ。今たゝ今。御物かたり聞えかはしはへらん。琴はゆるしなかるへし。軒に松風とゝもに。あるししたてまつらむ。又舌かろく物いふ人来あひしを。とゝめおきぬ。をかしきことともかたらせなん。夜こそみしかきにとく出たゝせたまへ。

            七

余波のあつさを。たひらかに過させしとや。年のな(下十六オ)かはの御祝ひ物。麦縄。三千歳の木の実賜ひぬ。御かへり言申奉るへきを。河内の母のもとよりむかひせしかは。其人またせつるほとにて出ぬ。けふまてなめしきを。たゝ/\赦させたまへ。父母のいとけなかりし昔なからにかい撫さすりつゝ。かたしけなきこと聞えたまへは。ともに稚きこゝちして。かへりみちわすれしかは。あるし。人来させし也。枝折りさしたるくま/\もまとはて。おとつ日の夜にかくれて来ぬ。暑さに。あしく荷はれて。かしらいたさに。きのふはふし/\てのみ侍りし。山つと何もあらぬころにて。旅のしるしみせ(下十六ウ)奉るものもあらて。これは奈良人の。母かもとへおくられし。法華寺の尼君達の手すさみなるいたいけものなり。御児のねふりさましにみせ奉る。

            八

きのふこゝに人つとひて。草合せといふことして遊はせたまひし。盆に植。かめにさゝせ。或はつみはやして。花皿にいろ/\ましへ給ふ。露うちそゝきかけて。とりなめしをみれは。遠き野山に交りつるこゝちなんおほゆるに。ひとりすきかましき御方の。虫篭にくさ/\のあはれなる声ともを。花/\のくまにかくれておかせしかは。(下十六オ)ゆふへ待遠に鳴かはしたる。うき世の外の庵住よ所ならすおほえはへりき。あはれすゝめるまゝに。うちつゝかねと。ひと/\にまねふとて。

        花のみな露のさかりの秋の野に。くまなき空の月をまたれて。

みそかに引き直してたまはらはや。おもふこころはへたに通りたらは。こと葉は一文字もあらぬものにてもよし。

            九

はやうしぐれそめて。冷かなる朝夕を。賑はしうしておはす由。染殿の男の。けさこゝに来て聞えしか(下十七ウ)うれしき。御服の御いそき承りぬ。山の木末も。竜田姫のとくとつとめ給ふ此ころなり。世は長閑にのみおはすあたりも。ひねり縫まめたち給へりとや。ましてあやしき宿には。牀近き虫の。つゝりさせと啼に催されて。色深き野林にも出みす。くす士望月の御許より。いろこくかんはしき菊に。茱臾(萸)の〓くはへてたまはるを。こゝにはわらはへのかいそゝふりて。塵塚にやすつらむ。あすの御ことふきに。三寸にひたしてきこしめさはや。山路の露のまゝならぬをと。こゝろおくれつれと。御よはひのつもりは。是に肖させすともとてなむ。(下十八オ)

            十

五日には御茶給はるへく。これに参らむこと。いのち延はる喜ひにもはへるを。橘柚あからみたれと。去難きに遠近むかへられて。申傾くとも宿にはかへるへからす。老の痩骨に。荷重く負さるゝは。くす士こそ世にいみしき煩ひ人はあらし。武蔵屋有廸。柊屋寛助参らるゝ由。ゆかしくにくき事とも。此人々に聞え侍らむ。御たのみの御玄猪の臼。今より申入て。戴きはへらはおくるへし。昔のひとの。日の愛すといひしは。親につかふまつる孝子のこゝろなれと。老は此いそき業につ(下十八ウ)きてそ。唯過る月日のをしまるゝなる。あなう。ゝたての家わさや。

              かへし

小名彦那の神。世にふたゝひ出ませしとて。人申あへるには。御暇いかてとおほしつれと。此鮭。古志の国より人走らせておくりしかは。もしやとて聞え申せしなり。夜長の御なくさに。土器とらせたまはんには。かたしけなく侍るへし。八九日の夜。こゝものとかにて侍る。薄く奉らむ。牧。大野の御かた/\。御右に参るへくと。月影寒くとも入せたまへ。(下十九オ)

  二度。申こひ奉る。ゐ中より申こしつるに。ことしはと申やりつ。月中の玉杵の後に。申おろさせたまはゝ。よろこひ申侍るへし。

            十一

おもいかけす朝戸明たれは。いと面しろく降つみぬ。そこにもなかめさせ給はん。よひより埋みおきつる火かいさくりて。暁にいつも汲すいつみの。たゝ今音なきまてわきかへりぬ。若きにまけて出たゝせよ。奈良より霰酒おくりしを。すゝめまつらん。又彼さきに申つる。俊頼朝臣の色紙みせ奉らむ。とく/\あゆ(下十九ウ)ませよ。まつの枝条ははやう雫するなり。

              こたふ

此せはきにさへ。御庭是かためにや作らせけん。こゝにも稀人のとひ来て。詩つくらむと頭かたふけて。また何こともうち出す。雪はきゆとも。玉あられのうま酒に。やかて参らむ。御壁のしき紙うとん華なり。とかくして。昼のものたうへてのち出申へし。

            十二

永仁の宸記にみ出させて。文臺のかたちくはしく書つけて給ひぬ。急きつくらせて。春の筆始。これに試み侍らむ。これまた年のいそきにくはへて。万あはたゝしきことのみなり。柴木はこへる姥等か。をりそへて来し寒紅梅。雪ふりかゝれるまゝならはやと。しれかましくおもふたまへらるゝ。胡元瑞にならひつくらせし。紙帳の中にさしくはへたまはらはや。

              かへし

きのふ使まいらせしやかてより。あまりに空のとかなりしかは。加茂の下上の御社拝みめくらむとて。ふと出ぬ。とけ霜の道芝ひやかにこそあれ。みね/\はかすみひきわたして。あたゝかなりしに。昼かたふきてかせ吹立。雪いさゝかならすうち散りぬれば。袖かつきて。くれはてぬほとりにかへりぬ。大根土つきたるまゝにまいらす。又彼とめこかしの菴を過て。しれ/\しなから。

        其世にもうとかるひとの数なれは。こゝ見過してとほりこそすれ。

今も誰人か住てはへるさまにて。心にくゝこそありし。年のうちに猶たいめして。御物語ともうけ給はるへく。おのれもかつ申へきことともゝはへるには。

        としつめと老ぬためしか野はゝやも。わかなあまたのゆきのしたもえ。

これは春のことはのやうなり。身祝ひてんとするほとに。

          柳斎か。忘貝にそへて。

過たまひ師のもとにて。かつ/\御まのあたりせしのちは。おもひなからうときものに侍りしを。ちかきころ御いほりに時々問まつりて。何くれのこととも承るなへに。よろつ葉のうたのあけつらひこそ。ことにありかたく。一日もをこたらしとおもふたまへりしに。とみにふるさとの使来りて。あすなむ出たつ。いともほいなきものから。

        わかれてもわすれぬ君にわすれかひ。もたるかたしを先奉る。

さきにうけ給はりてはへれは。これはある網の浦のむら君のたひつるなれは。こたひはかならすとりよろひて。奉らむとおもふたまへるなり。やかてかへりてなむ。

              かへし

名のみ聞ふりて。またみしらさりを。このたひしめしたまへる。いとこそめつらかなれ。いさゝかおもふにたかひしものから。よはひのかきり翫ふへし。むかしはした紐に。それのくさゆひつけしためしにならひて。常に腰にはさみてむとおもふなり。

        いまはたゝうさたのしさもわすれなん。ねかふかひあるしるし獲しかな。

ことよくはたしてとくのほらせよ。都のひと/\みなたちまちぬるよしなり。

難波にありてやまひせしほとに。人の白ふようをみせしを。まくらにおきて。あす云やれる文。

        露なからいく日もあれな秋にさく。花のつかさの君とおもへは。

        黄鳥啼煙二月朝。若教開即牡丹饒。天嫌青帝恩光尽留与秋風雪寂寥。

        黄鳥啼煙二月朝。若教開即牡丹饒。天嫌青帝恩光尽留与秋風雪寂寥。

        黄鳥啼煙二月朝。若教開即牡丹饒。天嫌青帝恩光尽留与秋風雪寂寥。

といひし人もありけり。まことに。かほよ人のよく化粧せしにはしかすといひしを。わかゝりしむかしは。いひたりとおもへりしに。それか朝寐〓のおもなけならんには。くらへまさるへし。

        草ならぬ秋の芙ようの花もかく。ひとのいろかにしほむはかなさ。

抑一日の栄の。ことはなにみまさりする。槿花。けにこし。黄蜀葵。吉貝のくさ/\。ゆふへをまたぬとはみれと。朝な/\に咲かへてのおほむに。こと花よりもさかりひさしきをめつへかりける。此花をおくりしみこゝろにはあらて。老か此ころやまひして。たのまれぬいのちのもとには。心ゆくものをと。めかれす打まもれは。花先。我にさいたちてこそありけれ。

        柴かくれにふゝめるあすのはなみれは。けふのいのちのたのまるゝかな。

又もみせたまへかし。

          大田南畝子の。西役をおくる文。

おもはすよ。あつまに別れし君を。けふまたつくしちにおくるへきとは。かゝるをもて。むかしの人は命なりけりとはいひしよ。

        あふことのかたきを我はならはねと。えそたのまれぬあすのいのちは。

          難波の。竹窓に。

我せうそこや何や。集めておかれしに。猶下かきのちり/\なるもあらはと。隣の家ぬしにみそかことかよはしたまへりとや。この人きすくなるまゝに。常に我かたはらに来て。眼ひからせるうたてさよ。先そこのもとめのこゝろえかたくこそあれ。されと文とたにいへは。いへは。いたつらことさへ穴くりとめてよむ人あり。翁も若きときは其人なり。今とりかくすへきともおもはす。またみせんともなし。或師のしめされし。名もとめて何せん。たゝ好たること。いひたきこと。筆にいはせてのちかいやりてむ。もとめすとも書へきは人しるへし。此こと此ころみし。隠居放言と云書に。猶よく云たり。隠士好名。禅僧亦好名。凡為隠士者。喜著書。喜立言。皆好名也。凡為僧者。喜開堂。喜説法。是亦好名也。倶不趨名耳と。おのか属の僻々しく隠れん」とするも。人にしられんとこそはからね。おもふことのゝしりちらし。筆走らする。名をこのむよといはれて。こたふる言あらね。いかにもいへ。誉彼我のきらひなくは。前のほまれ。後のそしりをもおもはし。なへてはおのか綱ひくかたに云からかふなり。孔子。釈迦の出て。聞わきたまはぬには。いつれかちまけさたむへき。かたるなかの人の。吾うふすなをほめたてゝ。都にまさりたると云におなしをさなことなり。又一人の翁か。月日は吾那に生まれたまひて。あまねく世を照したまへは。いつちの国も。奴隷と申て来たりつかふへしといふは。私の中にもおろかなる到なり。今存牟我良須と云鏡もてみれは。かたち正しくさたまりたるにあらず。是を太陽太陰の精と云。国のことわりにうなつく人多し。神代物かたりの奥〓遼濶。究めすしてよし。しいていふ人は。無識也と云しは。よしともよし。しらるましきをしらんとするは。しれ/\し。今は無識の人多くて。ことひろくも学はす。高くほこりかなるをとへは。わつかに口もくひかぬる者らかこゝろなり。詩つくりうたよみて。手とり釜ひとつさへ時々ひやかなる者らの。いひあるくこととも。わかき人の耳よろこはすのみ。道々しきことは。たゝおほやけの御おきての外なし。からもやまとも藝技の家と云名。いにしへは見きかぬ事なりき。こゝの足利の世のさわきより。縉紳達の所領を奪はれて。かなしき物から。我は何の家。何と云ならひは。我にきかすはさたまらぬよと。みそか言して世をわたらせしを。始にて。今のおほんまつりことゆきたらひ。民さへやすくおき居して。子。うまこのさかえを。喜ひのあまりにねかふなるを。まして冠を正し袖ひろくかいつくろひ給ふ御あたりに。何のおほしなやむことのおはさむ。彼藝技は。今はこれにちかつき奉りて。いやしき市人も立ふるまひ。くちかしこく云なり。茶かきたつるは。朝夕の雑事なるを。大事ありと云。足利の世の乱によりて。おこれるわろくせそかし。そこの家業。手かくならひは。家ことに。みなさかし愚をいはすつとむへき藝技なれは。偽りかさりなく。人に徳つくるはいみしのわさなり。翁かともからの。世に立はさまれて。いのちなかきは無益なるものなれと。天禄とか命数とか。さのかきりは苦楽のあひたにたゝよひてあるから。人のためにえならす。人に役せらるへきにあらねは。たゝ薄く着。淡きをくらひて終らむの外なし。無益の草紙世にのこさしと。何やかやとりあつめて。八十部はかり。庭の古井にしつめて。今はこゝろゆきぬ。

        なかきゆめみはてぬほとに我たまの。ふる井におちて心さむしも

とよみしを。隣のひとおもしろしとやおほすらん。此井を夢の井と名つけて。しるしの石たてむとはかり。そこにもとめて書たるをみす。これも貧しき翁か。そのついえわきまへかたく。且後には園圃のわつらひとなるへけれは。みてのちやりすてたり。何の書にか。

去郷士離家。疎六親無居無産者。謂之狂蕩子

とみよれは。翁かなすことのもの苦はしきは。罪かうむりて止へし。杖たにうたれすは。名のあしかるをいとふまし。此庵の反古。さくりて何わさにとや。とゝめて一葉も参らせす。

  いつもの筆十柄はかり。たよりにのほせてたいへよ。

          柳斎におくる

過つる夜は、やまひのひまにて、埋みかねたる手まさくりするほとに。よくこそとはせ給ひつれ。茶煮て奉るへくもあらす。御てつから湯くみつゝ。遊はせたまへるいとうれしき。いぬにやなりぬらん。常にこゝろたけっくおはしつれは。道のくらきを。いかにしてともおほさぬこそ嬉しき。さてもいたつらものかたりしてとゝめつる。すみの江の長居の浦あそひ。いと/\さむくこそおはしつらめ。ひとりこたれては。

  ひるをたにひとめかれぬるやまさとに。あかつき遠き老かさね牀。

物いへはみゝふたからん。後のたよりに。かなしけならぬ事聞えまいらせむ。

男もししらぬとち。ことかよはすによすかあるふみもやとおもふ給ふめるに。さいはひに此ふたまきをえたり。めゝしくやさはみたるかたこのめる人は。いかゝおほすらん。すが/\しき心もちひむあたりには。なほいみしくこそ。とまれかうまれうひまなひのために。木にゑらせんとおもひはへれと。ふみをさへ井にしつめし。おきなの心にはかなはしな。されとひるあれは夜あり。世にあるもの。いつれか。毀誉をまぬかれむや。おのれ其つみをかうふりて。ふみのはやしにをとらせてむ。さきに翁の都々良婦美あれは。いまは文反古とうはふみかきあたへん。これもかの罪人のしわさなるを。大沢ぬしにかはりて。かひ/\しくこそ侍らぬ。

        文化五年戊辰二月

                                              松本柳斎

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        文化五年戊辰仲夏

                                    二条通富小路東江入

                                          吉田四郎右衛門

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其の二(刊本未所収)

〔前欠〕必よゆかてはあらし。妹の君へもよきに聞えたまへ。いそきて申事は、前しりへになりて。

          慧遊尼へ

新らしき春を、垣ねの小草の若き人ゝは、めつらかに事もなくてむかへたまふ覧。老ほけ目は打かすみて、何なすへくもあらす(「おほしたゝす」ト改)てなん。年たつあしたことに、

        ふる雪は沫に流るゝ山かけに、春のいききの衣さむしも。

となん、おほしやらるゝ(一字抹消)。二日筆試むとて、

        春はまつこなたかなたに君を祝ふ、わか菜つむ野の雪のむらきえ。

かふ内の尼、みやこの春をめさむるものに、山風に打散雪の身のいたつきにならんとも思はて、立走りつゝ物見る。猶有かたき事はたして、此廿日比には帰るへく、内々定め聞ゆ。其便に又申へし。指は亀の如くにかゝまりて、筆とる事の苦しく、口もはた春の氷に。

        細合半斎ふたゝひ難波にうつらるゝ時、おくられし留別の詩。

一床方丈室、稍似病維摩。閑適自高臥、生涯只詠哥、青雲路応近、白首友寧多、去住難相与、葦航重過。

        こたへは、やかて浪華にくたりて。

此ころこゝにくたり給ふらん。つきて問まゐるへく侍るを、さりかたき事に、三四日田舎にいきて、きのふなんかへり侍りしかと、又けふくす師のもとへ参れは、れいのかしこに在て、え参らす。あまりのなめしさに、とりあへす聞え奉る。贈たまへる御うたの、いとまはゆきこゝちして、こたふへき言もしらす侍れは、打もたして止ぬ。

  うらもなくかたらふほとに古さとを、あふさきるさに老や過なん。

目なしの跡は、墨のきえてみゆましきを、おしはかりにもよみとらせよかし。猶たいめに委しく聞え奉らむ。あなかしこ。

        河内の足立の尼かおとつれ聞ゆ。世のつねならぬ事来しかは、とゝめて置つ。

ことわりのあつさもいと堪ましく侍るを、いかにそや。さきには正法寺の大とこ、まうのほらせて、御まのあたりせしとて、くはしくかたらせしかは、悦ひたいまつる。時々せうそこ聞え奉るへきを、御目いたませ給はんをと、日数つもりぬ。怠りの罪かしこし。

一  水無月十一日と云日、ひねもす雨しめやかなりしに降次て、夕立日毎に田はたうるほひ、此秋そたのみありと、人皆喜あへりしに、十五日の昼ま過して、空は墨を摺流し、山風とゝろにて林をゆすり、雨は物打こほす如に、神鳴はためき、谷川も道もひとなめに白波立走りつゝ、いとすさましと見る/\、岡の上なる池の堤さけて、家の内へ落くる水は、滝つはやせなし、庭もせに二せかあまり流あひて、恐しさいはんかたなし。ますら男ともはせ来たりて、つい垣をこほち、此勢ひをむかんとす。をちこちの鐘、つゝみの音、空に呼かはして、すさましさいはんかたなし。其時の心すさましさはんかたなし。其時の心おしはからせたまへ。公みちはおほやけ事にて大津へめされ、宿に残りしは、云かなきめのわらはのみか、泣さやめくをやくてにてなん。今は山も里も、竜の都へ押立ゆくにやと、肝たましひも身にそはす。男ともむしろ畳や戸や、何くれの物はこひ出つゝ、からうしてせきとめれは、酉の時も過て、雨やゝ晴ぬ。里人のかたるを聞は、こゝの野に神二つ落て、畑つものそこはなれ、里〓の堤きれ、はらからの田二町はかり失ひつとそ。されと人ゝつゝかなく、家もはつかに破れしのみ。あしたの空、日はきら/\と照、なから、名残の雨打ちゝくはかり也。何も/\濡とほりて、いふせさおはからせたまへ。きんみちも此事しらせしかは、しはし御暇たまはりて走帰りたり。又まうのほる便につきてたひ奉らす。年ころ憂にたへし山住の、かくいみしきめを見つる事と、すく世のほと猶いかならん。思ひしられて、いといたう悲しう打なかれ侍る。

一  此布あら/\しけと、年のなかはのはしめのことほきにたいまつる。何くれの事につかひ捨たまはんには、あつさの名残、よく/\いたはりたまへとねき奉る。此度も立のいそきの便して、くはしくも聞えまつらすなん。

              こたへ

公達かすさに有つるやうとも問て侍れは、世に恐しかりつる事を、つゝみなくて過しやり給しをなん喜ひす。国の名、凡河内といにしへは呼れて、江に河にせかれたりとはいへと、今は国かた、いにしへならす。まして端山にしりかけたる里には、みつはめの神のあらひたまふましきを、いかにせん、たゝ/\事なくてありしこそ嬉しけれ。都なに波といへとも、所につきたるわさはひの、時々おこり出るには、御あたり静ならんとうら山るゝ事もありき。うら安国といへと、いつこも/\のとけくてのみはあらぬよ。たゝよくねんして行なひたまへ。天つちの永きにくらふれは、一またゝきはかりの命そや。

一  おくらるゝは、蓮の糸もての御手すさひにやと、おしいたゝきぬ。

一  公達、大津のかへさにもし問来たらんには、よろつまのあたりならん。従者には何事も聞えすそあるに、渠かしはし煙くゆらするあひたに書つるには。

故さとにしはし在る頃、建仁寺の環中長老の、建国寺の御やとりより、きこえたま          へる文。

  貴況奈何、過日恵旨之約期、在初三初四、引領跂望、聞爾終不獲聞跫音、寓処無事、一日如年、況両日乎、翁其病耶、不然則何以胎、伊阻、翁生平信義、誨人、豈其食言哉、必有以也、不恵帰装、已卜七八両日、多在七日、翁亦上船、不敢乞報、示艸。

        こたふ

御とがめかうぶりぬ。其三日のうま時過して出立侍るに、難波の大橋の上にて、杖つきたがへてまろびしが、疵いさゝかもつかざりしかど、けのゝぼりて侍りしかば、ちがへしの神の、岩さくたぢからもなくて、かへりふしぬ。

きのふもけふも、あやめ軒にとりふけかざり、粽いざなど立さうどくに、まぎらされて、使もとめかね、え参らせず。

此わづらひの神のかゝりたれば、御供もつかうまつるまじく、都にまうのぼりて、御杖いくらをもかうむるべく、あなかしこし。

波の上たひらかにと、せめてねぎ奉覧。

  あづまの南畝子にこたふ。

みな月十六日の御かへり言、ふん月是の日披きて侍る。

何くれの事ども承りぬ。

うま子達、赤もがさことなくすくよかにとや、こゝにさへ悦ひ゛すへ゛き事に待りき。

一  先師う万伎手向のから歌、取あへす贈らる。はゆま使といへと、いつこの空になつさひぬ覧。こゝには其日はてゝ後おしいたゝき待る。よみと(「て」ト改)ふ国には、月日かそふる事なしと聞には、ときおそきも何かは、御志即さゝけ奉りぬ。折つみ焼くゆらすにはいろ香まさりてなん、昔の人も喜ひたまはせなん。

一  から歌や文やあまたかいつけて見せ給はる。幾度か読かへして、旅やとりのうさ忘つる事のかたしけなき。芳野拾遺の康方の物かたりは、流に臨める宿には、殊にをかしくも待る。こゝに日毎いさりする小舟ともの、網引せしまゝを、朝ゆふにいさなめせと呼つるにつきて、彼は危し、是はやす気也とさへおほしては、かのめでさせたまひし帝の、わかうはやりかにおはせし事をなんおもほゆ。

一  旅やとり、ふる郷なからめつらしうて、秋かけてとゝまりぬ。江に臨める家のうひ/\しうて、人も多く問来ませり。都人も彼是、なけのやとりして、万にをかしき事もあんなる。ことしは七十と云齢に、かきりの遊ひの下心して、蘆のうら波よせかへるをもいとはて、送りむかふるほとに、あつきけや冷かなる夜や、身のいたつきして、日此過しつゝ、今しもとゝこほりて。

一  後の便に贈りし赤壁の片もひは、此月それの日にと、はやき便求つるに、かうやうの物かち道よりはおほつかなしとて、真〓しゝぬき船に積てと、人の取おこなひつ。海の神や奪ひつらむ(「ん」ト改)の思ひして、いと心もとなき。

一  十六日の夜、梅〓かすゝろき立て舟うかへ、我やとりの許によせつる。ぬるきこゝちの名残に、え出たゝて朽をしかりき。篠崎の博士、〓〓の上手にて、江の浪をたゝせ、うき雲をたゝよはせつゝ、漕せ行に、泣児の跡におひてもいかましを、すの子にやをらはひ出て、ほのになりまて聞をり、日も暮ぬ。月あか/\とさし昇たるには、あたら夜とのみにふいたるは、老はかり心の(一字抹消)ゆかぬことの多かるよとは、兼てしもおほし知つゝなん。是につきても、此春おくられし、後〓赤壁記うまく呼かへして、其端にかいつけし。

  蘆たつに我身をかへて角田川、月の遊ひの空にゆかなん。

又ひとり言に、

  唐人の舟うかへつる山陰の、くらき波にも月のさやけさ。

初秋なからもすゝろに寒かりけん。昔おほしやられて、身にしむ夜也。昇道法師もこゝに在て、

  月にふく竹のしらへはしつた巻、昔にかへるふしも有けり。

なといへと、猶まくるこゝちしてふしぬ。舟の人々のから歌、其あした十時より見せたまへれと、煩わしさに。

おもへとも/\いかにせん。雲たに行のほらぬ高嶺を、中におきては、筆こそたのもし人なれと、そなたに目くれて、昇道人のかはりてたまへる也。あなうあなかしこ。やゝ涼しく成ぬるほとに、月かはらは都に(と)おもふ。それも旅やとりなから。

        斉収法師へ

野の萩の御いさなひ承りぬ。秋立て幾日もあらねは、猶はるけう思ひて侍りしに、露分衣とりあへす出ぬへし。おなしくは日入りぬ(「高き」ト改)ほとにかへらなん。夕つけは酔なき人の多からんには、あやうくもこそあれ。茶くた物はかりはもたせたまへ、人立こみたる所にて、きたなけに物くはんは、いとみくるしくもこそ。たゝ今たゝ出たゝせよ。老の心みしかきには。

        斉収にこたふ。

春の光には、同し塵の立居てゆるさす。御あたりこそ、ことにいそはしくおはしつれ。ことしの雨の名残の玉しける大庭も打しめりて、みかと拝みやめさせてんと、かしこきなからおほし侍りしを、寒き風に吹さらして、おなし御ためしなりとして、信よしの喜ひせらるゝを、ともにかたしけなくおほえてことほきす。昼つかたより、又も降にふりたるもめてたし。釈迦の御弟子といえと、木のもと岩のへの行なひならぬには、風も塵も吹たゝめ(る)を、いとはやも聞えたまへる。いといたうまめたち給なん、いと嬉しき。翁ことし、長篇二章壁におして、後は何事もいはす。野の遊ひこそうれしけれ。梅もこゝかしこ大かたに散ぬへくいへと、え出たゝす、雨のみにこもりて過しぬ。雪も時ゝふれと、降けたれてつむは稀になん。御やとりもとむへきは、きさらきにや成ぬへき。順宣法師まうのほりてんと聞ゆ。ふりはへてむかへかてらに出たちたまへ。よろつはたいめにうけたまはるへし。

        信美におくる。

きのふ夕たちし後は、山風のひやゝかに簾をうこかし、垣繞る滝の末のむすへは、寒くしもおほえられて、心あらたまり、筆硯もうとましからすあれは、先聞えまゐらす。御寺のほうもちとも、けふ風にさらさせる日也。ひつし過れは(「のかしこに」ト改)取をさめたまひぬとか。扇かさしてとくあゆませ給へ、そと拝ませ侍らん。池の蓮の朝露けぬほとにはと思へと、花はやゝ乱れぬへし。夕懸てやとらせよ、いさよふ影、こよひは花やかにさし昇るへし。酒いさゝか冷させおきてん。猶たいめに聞ゆへき事も侍るには。

        かへし          信美

尼君の携へ給へる御さうそこ、添承りぬ。御やりとりは、きのふの夕立にひやかなりとや、市の中は雨きほふほとこそ。晴わたりては、日影のぬりこめなとにきらめきて、いとあつかる。降にたにしかり。いかて名残のけふまてはとおほしやらせ給へ。抑御寺の宝物虫払はせる日也、いさなひ給はんとや。うとん花の盛にあへるを、とくはせてまうつへきを、あやにくにおほやけ事有て、ひつしの貝吹まては(「に」ト改)はえまかん出侍らし、ゆくりなくては見る事のかたきをいかゝせん。よしや其にはおくるゝとも、高峰にいさよふ月の、垣ねの流にうつろふけしき、さそとしのはしきに、冷させたまふ酒ありと聞にさへ、のんともひゆるはかりにてなん。とり/\打おくへからねは、夕つけても問奉らん。ゐやは御まのあたりにとて、くはしからす侍る。

  右は瑞竜山中に萬居せし時也。

        おなし人に。

聞えさせし事打もおかねと、目のいたはりする比にて、やす/\とは見はてぬほとに、山里はおほすより、ことにわひしくてなん。

  山こもる旅寐の床は沫雪の、ふるともなしに年をつもりて。

たまへる物は、風の落葉のすへてたふへかたきに、是なんやすけにてよろこひぬ。翁さひては、をさな心して、日に幾たひか物むさほりくらふを、おのれはむさ/\しともしらすてなん。

        同人に。

ふるさとゝ思ふ物から、いとまあるりをり/\は、すゝろなつかしさに、波路漕れてまうつるも、老さりぬれは、浦嶋の子かこゝちしてなん。立よる陰もとほしきを、いつも/\まめなる御あるしこそ嬉しけれ。

土佐日記の事、稲荷山の荷田の延年か写さまくを(「云)ト改)を、梓弓ひく方に先こそまゐらす。是かいしるせしは、今はこゝらの年を過し来て、をちこち改めまく思ふ事のあななるを、くらき眼には書生めん事のかたきまゝに、打やりおきつるを、春の霞、秋のさ霧、おほつかなき処々は、たいめに問たまへ。都の花猶名残あるも、晴れぬなかめに、いつこもいつこも散はてぬへし。ことにかたしけなき人のこゝちそこなはせしとや、夜昼心もちひさせたまへ。時々病したまふこそいとほしけれ。何くれといちはりしたまはん、いみしきさいはひ人也。何の罪にか、子といふ者のかたはらにあらぬには、いかてさる世をしもと羨しく思ふ也。此来る三日の夜に、又漕れてまうつへし(「く」ト改)、うちうちはかりをる。よろつはまのあたりに聞えん。

申つる人のために、かしつる三巻、天の鳥船とくかへしたまへ。墨の江の岸の小貝ならんには、ひとうらむへし。

        河内の山里人におくる。

ふる年廿六日の御せうこと、廿八日の夕付て披き見つ。御事もなく春を迎へて、長閑におこなひおはす覧、いと喜はしき。繋かぬ船の老か上には、春ともおほししらぬを、あはれみたまへ。さきにみせたまへるこたへは、百三十四日の比にや、目のいたさに、瑚〓にかゝせて、是参らせんとおほしゝほと、十五日の朝、とみの病にてはかなく成ぬ。涙に涙なく、恋るにかひなく、たた我をもつれゆけと、さひけをらひぬるを、友垣等あつまり来て、たすくるやうにて、十六日の夕へ、黒谷の丘に灰になし奉りぬ。在てたに心ほそき年ころなりしを、其夜よりの有さま、おほしおほしやり給へ。何くれの事ひとつとして、するわさに、たゝ衾打かかふり夜ひるとなくてなん。

一  御こたへ申つるは、十七日のゆふへ、難波まてつかはしつるに、なき人の書しも巻そへて、はかなかりし事一くたりはかりに告聞えし。廿三日の便にかの家より、人わさとに来たるに問しかは、今頃とときつらんと云し。披き見たまはは、夢のうき橋たとり給わんをと、おしはかりてはひとりこちてのみ在しを、猶中空にたたよひつるとや。年かへりては、雁のたよりも、しはしたゆるならひに心いられて、此春のはかなき初便のて告参らす也。

一  ありわふるままに、先は難波に出たたんと思へと、たか宿も春をことふく比に、けかしく忌きらはるゝをいかにせん。御許こそ世の外のおこなひ人なれは、ゆきてしはし在なん。うき事かたりなんとおもふを、うたてき者にやおほすらんと、ふとはえしも出たゝす、先聞えて後にとて申也。はたとせこなたの交り、おほし忘れすは、情しき御かへり言うけたまはりつへくこそ。

一  あまりの事に、手むけなともよみてんとおほさす。柩の内へ入奉りしことは、つらかりし此とし月のむくひして、いかにせよとか我を捨けむ。蘆庵翁のもとより、をしめともさらぬ別れをいかにせん、ひとり残れる老そかなしき。かえし、世の中のさらぬわかれにをしからぬ、老かいのちのすへなさ。又おくれる翁の哥、老らくのひとりおきふすかなしさを、わか身のうへに思ひこそやれ。かへし、おきふしは一人と思ふをまほろしに、たすくる人のあるかかなしさ。翁又常にやい米くふと聞て、去年ことしのを、わかちものしておくらるゝに、やいこめのもしみ心にいるもあらは、是をとをいへ又まゐらせん。かへし、やいこめの胸やく老かおもひをは、誰かゝるまて心いりなん。ある人炭切ておくらるゝに、すみはてぬ世のためしをはしるゝも、灰になしつる人そこひしき。多かれと、書つくるたに涙のさしくみて、筆も立よろほひてなん。

        尾張人大館高門へこたふ。

御せうそこ何事かと抜きて侍れは、我机におきつる陳昌其の茶略を、去年の春もていきて、此度木にゑらすよしにて、いと清う書せて見せたまへる。あたへしや、奪はれしや、とまれかうまれ、若うはやりかにこそおはすれ。御こたへ教ふる日(「に」ト改)はあらす。常によきをえらひて、独すゝろひ、人にもすゝめつゝ、むかし今の事思ひ出て、かたりもあはする外はあらしを、何人にいさなはれてや、十とせあまりいにしへ、かゝるに似たる二とち、何とか名付て世にほこらしくせし。思へは取かへさまほしきを、後おほしあはせよかし。遊外高処士は、茶を売とみつから呼て、実には茶に隠れて、世を玩はれし也。されは、其品をえらひ取用ふる調度も有にまかせて、是に心を致されしにあらす。梅山秘録の、あらまし言なるを看てもしらるゝ也。大枝流芳は、品を闘かはせ、水をえらひ、器ものゝ形のたよりをすき/\しくて、清湾茶話のまめたちたりし、茶に耽り名をも求められし人也。雅游漫録の万にわたりしを見よ。風流にをさ/\しきは、誰にゆつるましき者歟。吾友木村世粛は、いつれの道にもたと/\しからす、すきかましき名を、天のした海の外にさへ聞えしかは、暮と明とに、人をあかす送りむかへつゝ、いともいそはしく、是を撰ひたゝかはす遊ひには、まめならすありし也。老はたゝ病にかはかされて、三椀のかきりを過ては、是に狂はされて、古ことあなくり出て、書あらはせし中に、五月雨、秋の雨の煮るに宜しと云しといひしは、思ひのいたらさる也。雨はなへてくさりに過てくされやすく、色香をもくもらする。是につきても、かしこの〓中の水のあしきをは思ひしらるゝ也。又ちかき比は、遠き国々より都の水を荷ひ運はせて、いかに試むるや。一夜のほとたに、すめるは濁り、かろきは重く、味はひをさへかふるものを、〓の尾の大徳は、朝な/\硯の水を改めよとさへ、いましめたまへりき。山海百里をこえ来て、もとのまゝなる物やは有へき。是より中流の水也なと、人きゝおとろかすはかりの事こそかたからめ。文中子の、真水は味無し香なしといへるは、よき人の上にたとへしとは聞つれと、日を経て潰えたらむ、煮るへくもあらす。水は近きにえらひて、遠きにもとめされ。今この陳子のすき/\しきをよく読て、おほしのとめよかし。老も昔は是遊ひに耽りしか、今はついての宜しきをさへ、たと/\しきをは、此ふみの世に行はれん事、心にはあつからすとあほせ。若き人よ、我言にあらす聞おきて憲としたまへ。

蘇東坡云、除煩去〓、世固不可以無茶、然暗中損人、殆為不少、昔人云、白茗飲盛後、人多患気、後不患黄、雖損益相半、而消陽助陰、益不償損也。

蘇東坡云、除煩去〓、世固不可以無茶、然暗中損人、殆為不少、昔人云、白茗飲盛後、人多患気、後不患黄、雖損益相半、而消陽助陰、益不償損也。

蘇東坡云、除煩去〓、世固不可以無茶、然暗中損人、殆為不少、昔人云、白茗飲盛後、人多患気、後不患黄、雖損益相半、而消陽助陰、益不償損也。

よくおもひて玩ひたまへ。耽るはよからす。狂ふにいたりては、万のわさも我を損なふへし。彼東坡、老ては煮て人にすゝめ、みつからはまれ/\にとそ聞。あなかしこ、ゆめ/\。

        森川の女の病してあるとて聞て、なくさめかてらにとひやる。

あつしきも少をこたらせぬとや、いと喜ひぬ。起ふしまかせぬには、春来てもとおほしのとまて、日ころ永けれ、夜はましてと思すらめ。なくさめつへき物、山住して市に出ねは、是とて参らすへくもあらす。れいのにほいなきことも、しはしはとてなん。まつしき人は昔もかゝるへし。年くるゝてふと日ふた日と成て、あした晴たりと見しも、夕つけて風いたく寒く、西に北に吹まよいひつゝ、雪もよ也とは誰も云めり。日暮はてゝ問こし人の、笠あしたもとめていぬ。やかてより雨ませにと、あるしのきこえ給へる(「り」ト改)。埋みし火の灰をもれて、室の内あたゝか也。紙の衾打かさねたれは、心ゆくものにほと/\眠入たり。れいのめさまさるゝ事に起出て、戸おそやれたれは、望の夜はかりにさやけくもこそと見ゆるは、六ひらの花の榛に咲そひて、木竹にかゝり、垣穂にふりつみて、くらき眼にさへしら/\しとそ見ゆ。こそ見給へと人呼おこすへもあらす。夜やう/\明ぬるよ、窓の紙ほのか也。やをら戸やり放ちてみれは、見し夜のさまから、松の葉末より雫して、庭もせきは/\しく、偃臥たる竹むらのほとおきあかりて、さら/\と音なふは、雨露よりけに声ありておもしろ。小鳥とものうれしけにさへつりて枝うつりする、鳥のねほれしやとおとろき声して飛立ゆく。簷ちかき山々は、はたらなるか目馴ねは、幾たひか見やりつるなへに、比叡はいかにと望めは、猶雲につゝまれてなん。立ならひたるわら屋の棟より解初ては、くゝり染したれと、紅ならぬかあかすおほゆ。

あるしは越の国にうまれにて、時々冬けしきとはすかたりしたまふを、けふそゝのかし奉れと、うたての雪こもりやとて、湯のみをすゝろひおはす。けふは建春門ゆるされて、いやしき入たちつゝ、うんめい殿のおまへにぬかつきたいまつる。れいは蟻なとのはひかるさまなるおを、いなり山にかへるとのい人の、こゝに立よりて(「し」ト改)に尋れは、我御よむへきも人も来たらす。めつらしからぬこと、独は打出へくもあらすと思ふ/\、

        白雪のとけてしつくのした庵に、いかてよはほのふりつもるらん。

猶いはゝかなし気にて、うたておほす覧。くす師たのもしくとや、心と養ひたまへ。都にめつらしき事あらは、又聞えん。筆も心のまゝにはあゆまねもの故、後のたよりに聞えむ、あるしへもよきに。

        難波人重政におくる。

稚き人の嵯峨まうての便して、御音信あるへくと、指を折りつるに、家の風にきはしく、事行なはすよしにて、とヽまらせ給ふなん、喜しすへきものから、たいめに申へきつもりの事ともを払ひ尽さぬか、さふ/\しく思ふ給へらるヽ也。さきに申つる、古つつみのふせ屋を、む月の末よりして、きさらきの廿八日と云日、かやかくしてうつしはてぬ。御寺のやとりはしはしと思ひしも、なヽ八月を過ごしぬ。臥居せあい所の壁に、

いのちとて頼まぬものをなからへて、つひのやとりを又立いつる。

とかいつけて来ぬ。あはれ、いかに立ちさまよふ覧と、おのれたにいふかしまるヽを、世の人はまして、常に老ひかめる心しれるかた/\さへ、あやしのありさまやと、おほしうとませ給ふへし。うつりこし丘の上は、十とせ余り昔もかり住ませし所也。粟田山の麓をこヽに来たりし時、蘆庵翁の許へ、告へき事の便に云やりし。

山に入かしこき人にならはねと、うき世の道にまよひてそこし。翁のかへしは、

我も世にまよひて入し山住よ、いさうき事をともにかたらむ。

こヽにひと度問来て見給へりしか、垣を(「の」ト改)内を最勝ゐんの滝の末清うなかれて、茶を煮るに宜しかりしを忘れぬものと、隣りし人の今まてかはらす相親しめるを、かたしけなさに、又迷しこし也。蘆庵の岡崎の庵も近けれは、時々問きたられて、

君かすむ宿の水おと聞つれは、濁る心もあらはれにけり。是にこたへしは、

我庭のさヽれ石こす谷水の、すむとはかりは人なめりけり。又ある日、翁

ひやかなるたに水をさえ庵に見て、心すみぬる夏の山陰。

是にも、

ねたきてふかことなからもうとむやと、心ひやせる庭のたにみつ。此流こたひも汲へきやう先つくらせて、

夏山のしたヽる末をあかすくみて、老は是にそ養なはれぬる。

此言によりて、庵のうちはかりは、養老紀元と物にしるさまくおほし成ぬ。

一  抑こゝに又迷ひこし事、釈氏のをしへの因縁となん思ゆる。へうさの尼逃失し後は、こゝかしこと住つかて、十月あまりを過しぬるを、此隣れる家の恵みにて、今は心おちゐぬる事のうれしさよ。さるは、

  住はてん庵しめぬる山陰に、岩木の友をもとめつる哉。

ときはかきはとは、人の心にも有けりとおほししられて喜ひす。

一  山陰なれは、よろつの事世離れておほゆ。卯月ついたちの日、

  夏山のもれて(「をもらせ」ト改)る軒の古簾、青きに眼をは改めにけり。

又、

  庭もせの木末をわたる蜘のゐに、かゝりてそ世に在るかわひ(「かな」ト改)しき。

猶多かれと、れいのわひ泣なれは、こと/\は見せまゐらすへきにあらす。

一  鴬を先と、百鳥の声軒を繞りて、春めかしき松かせ、竹むらのさやき、木草の若葉なといひつゝくれは、心ゆくやとり也。事ともはたして、暑からぬほとにまうのほらせよ。谷水に茶煮てすゝめ申へし。誰々の御かたへも、心やすくおほしたまへと、つたへ給へ。七十こえしかと、人めはすくよかなるよし也。

        小川布淑へ贈る。

来る月の十日は、昔のう万伎ぬしの手向くさつみ焼日也。ことしや限ならんと思侍(る)には、人ゝむかへて哥よみてん。御暇おはさうするには出たゝせよ。庵の中幾人を入奉るへからねと、垣ほに植おきつる夕〓、其頃はた咲つへし。申傾かぬほとに入せよ。庭もせにむしろしかせて侍らん。あす波の神に、小柴ならすよくまひしておきつくし。さて打よりて額かたふけん。此かきほにまつはるゝ物を題にて、哥やふみやいつれをもゝて来てたむけたまへ。閑斎、柳斎、近けれは、前波、田山、をち方人におはせは、もしおほしたゝは喜ふへし。信美こゝより申さん。人々云つかひたまはんにはとて、老かれいのはやり心して申なり。九日十日の中いつれにもあらむ、是は日をとりてかへり言たまへと申。

  昔の所に又(「むかしこゝに」ト改)仮初住せし時、小沢、伴の翁達、又誰かれ迎へて、たむけよみし事ありき。あるはなく、あるはおはせと、うとく成しもあり、是をも思出て、さま/\昔しのはるゝなりけり。人ゝのほかにも、今一二人はおはせよかし、是もよきに。

  こたへ        布淑

暑さのたへかたきにも、たひらかにすくい給ふなむめてたき。今こん月の十日は、昔のしつ屋の翁をおほししのはるゝ日也とて、たむけ草つみはやさせん人数にかすまへ給、いとうれしき。庵せはしけれは、あす波の神にまひして、庭中にと聞えたまへれと、こたひの御いほり(一字抹消カ)かまへ、風よう吹とほすけれは、まかてん人うらやみ心こそつくへけれ。されと日盛の照はたゝかむに、道ゆくは汗しとゝなるへし。申のかしらはかりにまかり侍らん。其ほとほこりかに開かん、垣穂の花を題にてよみも書も、おのかまに/\と有に、短きもくす(「つ」ト改)たに奉りてん。おとつ日、前波や、田山や、云あはせ侍れは、十日こそよきいとまと申すから、やかて其日を定め侍りぬ。信美、昇道、柳斎もしめされしとや。今一二人とあるには、豊常、遠からねはいさなひ侍らむ。是かれなゝつやつおよひふすけれは、手向草一つかねもあらんを、なきみたまの笑ひ草ともしたまはんかし。

いにし年、一たひそこに庵しめたまひし夏、十余り七とせの手向せらるゝとて、我なきを父、伴の翁なとむかへ給しも、思し出るとよ。十とせ許過るには、なくも疎くもなる世のさまを思ふには、誰も/\泪落すへし。小沢のみなまたとて、我友からを年比うとみ給はて、かゝるにも先、聞えかはしたまふはたうれしうて。

  おなし人より。

あかねさし照かゝやくも、夏にかはらて、夕かけまてわひあへるを、いかにおはします。おのれけふは、岡崎の人々に約る事ありて、彼あたりに出たちはへれは、行手なからもと思侍しに、きその夜俄に心ちそこなひ、明るまてもあなはら/\といたみたるに、いたうこうしつゝ、たゝ枕にふして、

  一とせを恋わつらへるたな機も、枕はなれす君侍今日を。

かうあらましのたかひぬるから、童して問奉る。さきに給へる(「はせし」ト改)三十首の、こかねに玉におほえ侍りて、うら山しく、彼に〓にならひて、つゝけ侍る一巻をとりも見たまはゝ、此道のさちになん。もとよりふかくもおもひしつみ侍らて、たゝうかひたるまゝをつゝけ侍るから、哥とも見え侍らし。御めふれて、一首にても合点給はゝ、病も愈侍るへし。彼御詠も今一うた書もらし給へりとおもふ。おくの方にしるしたし給はゝと、是ももたせ奉る也。猶聞えまほしき事も、かしらもたけてあらんに(「か」ト改)、久しうはたへかたくて。  なぬかの夕。

              こたへ

御使たまへるよんは、竹のねくら鳥れいの物わかつましきには、御文御哥「〓」きしまゝに置つるを、心あてに是やもらしつと思さるを、書て見せまつりしに、はたしかりきはけさなん定めつ。扇よみくはへて見せたまへる。是もをかしきあふさきるさにこそとて、筆おかす書て待りき。さてこゝちそこなはせしとや。夏は誰もしかこそ。老も今にすゝしからて、枕をたのみつゝ猶在わひぬ。垣ねに荻は植ねと、いたくからひ声をならひて、夜すからなるか中につきて苦しき。されと病して暇をふたくも、むた人のひとつの幸ひ也。すくよかならせは、暮ぬほとより出たまへ。れいのうきたる物かたりして聞せまつらんものそ。

  二巻ともに先返し奉る。常にならせし後、書くはへてたまはれし。かへしは、

        あまの川岩かね枕真袖もて、はらふになれて年も経にけり。

  こゝのやとりうひうひしきには、松か根はかとかとしくまきわつらへる也。

          又聞ゆ。

きのふ御使して、「〓」首書清めたうひぬ。いつも夕雀ねくらまとはす比なれは、披きも見す。今朝の枕かみに置しまゝなり(し)かは、先とて手洗ひ目おしぬくひ、二たひまてよみて侍る。あないみし。我垣ほはふかさしの花は、是か為に散されて、老のやせ骨いたきまて、うつふさに曳倒されぬ事よ。今は都田舎に左右なきぬき手にこそおはすらめ。小沢の翁今おはさは、えいや声して手打ちならし、ゑみさかえたまふらめとおもへは、まけし心もうせて、ともによろこひぬへし。猶ようつとめたまへ、此道みさかりにこそあれ。なまなまのすさひ等か、大路打はたかり、いかめしくねりゆくさま、いとうたてしとおもふ時なり。残りの事ともはたいめに。

        皆人のさひてふ秋の夕かほは、あさましきまて老しほみにき。

          長谷川(「なには人」ト改)長康にこたふ。

すけるに病むと云。賢きさとしこそ耳いたしかし。おくられしは、筑紫かたの名に聞えて、いともうれしく侍るを、やかて試むるに、気はけ(し)く味あつきか鐺製のさがなれは也。是にはくさくさ有て、賜へるは上の品にそおくへき。是につきて、去歳の夏、醍醐の法師の手もすまにして贈られしを試み(「む」ト改)れは、気はすくれて清く、孤悶を破り、枯腸を潤す事、三椀を侍す。其製を問へは、蒸すを一たひに、鐺炒七八度也と。又培養をいかにとゝへは、園林の茶は糞培を専らとするのは、利を射るかため也、我園わつかなれは、時々蕪穢を刈去のみ、糞培の茶あまくして気鈍し、是茶のほんしやうに非すとそ。其品は上ともかみならねと、此論聞つへし。此言につきて思ふ事あり。

漢の袁宏の漢記に、

西域天竺国、有仏道焉、仏者、漢言息(「覚」ト改)也、将以覚悟群生也、其教也、以修善慈(心)。為主不殺生、専務清浄、其精者為沙門、沙門漢言息也、蓋、息意者、慾帰於無為、又以為人死、精神不滅、(随)復受形、生時善悪、皆有報応、故貴行修善道、以(〓)精神以(至)無生、而得為仏也。東坡是をいたましき者に云。其語曰、是中国始有仏道時之語也、雖浅近、大略具足矣、野人得鹿、正爾煮食之耳、其後売与市人、遂入公庖中、饌之百方。然鹿之所以美、未有糸毫(加)於(煮)食時也、云云。

すへて食味は庖丁の調和に本味を失ふ。此教へ、漢土の翻訳とかに、塩梅を加へて、本師の真味にやたかふらん。東坡の今そかる代に至り、談論高く覚悟精しきにおきて、易牙ならすは、まことの味をしらぬはかりにや、庖丁か巧みに欺かるへし。宋の時運人の才ひらけ、儒仏の二教を始、よろつの藝技にくはしき事いにしへに過たるには、糞培の真味を失ふとおなし例かとも云へし。是はやくなき囀りなれと、おもふ言露も残さしと、老のくり言はすなりけり。又おくらるゝにつきても、思出る事は、出雲の国の山僧の、老か茶を論して品をもとむると聞て、すむ山の茶を贈らる(「ん」ト改)とて、先詩を寄らる。其詩、

不老多奇勝、園春瑞草生、候唯須緑嫩、抹那必捨鎗、気与巌僧潔、味留雲脚清、兎山真可〓、鹿谷莫能争、換骨嘗三椀、忘眠到四更、非緑君一顧、安取大方名。

詩は学はされとも、句々の芬香に先心をすまさる。但其味香は試されは知へからす。兎山の〓は賞すへし。鹿谷は今は上品なし。同しくは茶とゝもにおくらるゝとも遅からしを、三とせ過れと、今に是亦あた物かたり也。

一  やゝ冬こもりすへく成ぬとて、炭のあたひ給はりぬ。年のなゝふ書てかへ参らす。昔の人の、

  おもひきや深山のおくのくぬ木炭、雪のふる日の友とせんとは。

とよみし。是は利休のよまれし(「哥なり」ト改)といひし人のありき。翁か為には、親めのとゝも頼まるゝ也。

  打くへて君とかたらん山住の、世の外にしも春はありけり。

  馬の背たはむはかりもほしき物は、是なりき。

        畊父か、大津の呑湖堂のかり初住にいひやる。

御やとり、朝夕ひやかに成わたるへくおもひやりせらるゝ也。此ころは比枝の嶺に、雪降つみしと人の告聞ゆるには、そなた面いかなりけん、山風も敷波も荒にやあるらん。たゝ打かさねて着ふくれ、炭焼ほこらせつゝあれかし。岸根は汐ならねは、吹しかれて初氷結ひやす覧。哥にはあまたみえて心さむき所なり。是につきたる(「てそ」ト改)思出たる事あり。

   三〔以下欠〕

おなしく此ほとは御使たひつるそかたしけなき。照つゝくあつさにも、ことなくおはさうつるみ有さまをつはらにしりて、喜ひまつる也。くはしう聞え給ふ事とも承りぬ。宿直の文字、倍臣の勤番にも用うるは甚哉。此文中とのいと有もいかゝ有へきと、誠に宿直の文字にあてゝ僣上といはゝ、さもあ覧歟。惣て皇朝のことはゝ、文字を捨て、ことはの上にて義をもとめてこそ云へけれ。たとへは、日本紀中、朕の字皆われとよめり。皇朝はもとよりすなほにして、あなかちなる名をつけ、教へを設け給はねは、後に文字はいかに書なすとも、こと葉は悉には侍らす。さるを文字によりてあけつらふ時は、われてふことも朕の字也といはゝ、たゝ人の事に云へきかは。かゝるたくひいと多し。宮といひ殿と云。もとよりすへらきのみあらかの名なる事はいちしるしく、宮はすへてをいひ、殿は其間毎の名也。その殿を守とて、つかさ人達夜ことに入ていぬるより、とのいとは云り。されとみあらかをは宮と云、大臣の家居をすへてとのと云も、私ことにはあらて、古き時よりの名也。されは大臣より上の人達の殿を守るを、とのいと(「人」ト改)といはんに、何のはゝかりかあ覧。宮つかへともいはましかは、それすら、世くたり、ことはうつりては、すへらき皇子ならぬにも、宮つかへといひし事、物かたりふみなとには見え侍りし。まして今のあつまにまして、天の下政申給ふは、くらゐは大臣にまし/\て、御有さまはいにしへにたとふへきなし。其大殿を守るをとのい人といはん事、いかて僣上の罪有へき。難波人蘆火たく屋におふしたるものらまてにも、聞せまほしと云類は、漢文にも云るか、古語に多し。ふみのこゝろは、只みつからの上にて、蘆火たく屋はもとより、みつからのすみか、者等といへるも、本よりみつからの家内の者らにて、それをいれへれは、おのつから外人のことはこもれるは、文の常のならひ也。みつからをいと/\へりくたりて云を、いかて奢れるといはん。さるを人のめにさみゆるは、古人の文といへは、見る人ゐやまひて、こゝろを用うるか故に、もとの意にはなき事まてもゝてつけて説なせとも、今の人書たりと聞ては、なめきに見なし、かついさゝかの瑾をさへ求めんとする。今の世の人のさかは、我も人も同しかれは、さ見なし聞なさんもさる事そかし。かたほとりのおきなに聞せて、説得ぬは必改しとさへ聞侍れは、能々人の耳にもきこゆるさまに、改め給ふへし。さらは蘆火たく屋におふしたる我め子等まてにも聞せまほしきを、すゝけたる耳にはなと有へき歟、猶かうかへ給へ。とのいてふ事も、既に云し如く、ことわりはしるけれは、おのれかふみには書つへけれと、そこの文なれは、よく意を得たまはては、いかゝ有へき。そか上にとのいてふ言はなくとも聞ゆる文のいきほひなれは云。云まけにしてそか暇にはなと、あらたまひなんか、能考へ給へ。此書と書てこし給しは、都の梅村何かしかうなかせるまゝにやりつれは、あらため給はん為に、きのふ便ありて、取にやりつるか、また返ことは聞えこぬ也。かへしなはとくまたすへし。猶きこえぬへき事も有へきを、一日二日のあつさにらうせしにや、筆とる事の物うくて、是のみ書つるも、いとみたりになん。よく心してわきまへ見たまへかし。いもの君へも、よきに聞えたまひてよ。あなかしこ。

あし曳の山辺にはあれと、新室の壁草かりにえも出たゝねは、はやも土こほれ柱よろめきて、風いとはるゝひま/\のうてたさに、年月筆あやまちしかちの葉のかきりもて、幾重しらす張めくらすをかたはらに来てたすくるまめ人の、かつ/\読見ては、あたらしとや取をさめしもしらす。秋の時雨打そゝき、虫のねさかりにて、夜長きをわふるかあはれとや。彼とちつゝりしをとうてゝ、うるせくかいやりたまへる中には、御目霞めるまゝに、是をいかてとおもふもあり。又またからすとも、汐貝の玉なるへくもおもひつゝ、みそかわさしてえさせよと、難波の其人のもとより、うち/\聞え来たる。吾露しらぬ事ともゝ、世のあはれにおほしあはせては、是はかりとゝめおきつる也とて、つふ/\よみて聞ゆ。かしこむへき事、にくみつへき事、恥ありと思ふかきりは、かたくゆるさす。吾言なからも、立かへりては耳あらためらるゝにそ。処々筆くはへなとしつゝ、今更心きたなき事も有けり。せうそこ文は、をちなき問ことゝもの、昔しのはるゝにも、是とり捨しそのかみや、物狂ほしかりしよなとおほし出らるゝを、此まめ人は、たゝあはれかりつゝ、是捨たまへ、拾ひし親の心に物せんとや。さきのつゝらふみのためしにも、猶こりすまのうらみやかさぬ覧。かつ初紅葉のはちみるへきか、老かくすせの悲しき也。されと今いかにせん。目もみゝもふたきてあらはや、はた口とちめぬむくひにこそと、友垣の中には哂はれつへけれ。此ふみのうは書もとめらるゝ。新むろにはあれと、こほるゝ土はしらのひまおきなふへき、壁草としもたゝによはゝや。(以下空白)

かへ草二の巻

  ふる郷の友、木村孔恭の家にあつめられし、渚の玉と云ふみのはし書を、先比難波の役立におはせし年もとめて成し文也。せうそこの中には取ましへ(「ふ」ト改)ましきを、彼書木村のいまそかりしほとには、世におしひろめたまはらさりしかは、此はし書もいたつらものにてなんあるを、あたらしさに、此度写出てくはふる者也。

たまちはふ神代の事に、貽貝蛤貝とふ名のはしめて聞えしは、やまひいやすへき薬に用ゐたまはんか為也。人の世となりて、こゝらの貝の名古きふみにみえしは、をし物のまけになも有ける。しかはあれと、珠洲の海にあはひ玉をかつらにかけ、夜玖島にまたら貝をとりては、さかつきになしけるも、古き代の事なりけり。されは後の世と成(以下欠)

          物問人にこたへし文。

古き歌よむへきやう、度々聞え給へる。筆とる事の苦しさに、風の流の雪あわ/\しく過しつるを、しひてせめ聞えらるゝ。翁もたと/\しきことはりなから、私言此度答聞ゆ。ゝめ六の耳になつたへそ。万葉集は歌のおやなれは、先読見つへきを、是にのみ習へは、都人も田舎の囀りになるかうたてし。四千五百余りの中には、舌たみてこち/\しきか多けれは、よきをえらはむには、む月の梅の香かくはしき、きさらきやよひの桜花、そむとも絵かくとも、うつしえかたきにほひにならへる人あるへし。それにあひて問まなへかし。延喜の撰奏より八度の次々に、いみしき上手達の出たまひて、こと/\玉の声をひゝかせ給へる。そか中には、おのかむき/\に立別れ、くさ/\に取たてゝ教へたまへるを、実には人たのめなるへからねは、たゝ古き跡につきて、おのれうまく思ひはかりつゝ、打出んほかは有へからす。物よくこゝろえて後は、あを雲にむかひてよめと云もかしこし。学はすしらす、おのかさかしらにほこりて、打あふきたらんも、亦うたてし。梢の日くらし、蘆原のゆふ雀、かしましきまていひしらふ聞にくさよ。教ふるは学ふの半也とて、葎の門をひらき、人むかへとりては、篭にこむる春鳥の、舌習はせさするのみを、つとめたらんもいと拙し。是をも文字のはかせ、釈迦の御弟子のつらにや、こゝろう覧。さる人は我に似よと教へたつるに、いささかにてもたかふふしあれは、つらふくらし、蜂吹たらん、いと見苦し。谷より出て喬きに遷り、親ならぬ巣を離れて、高音振出たらんは、おのれ/\か生れ得たるにこそあれ。教への為に圧れて、あたらさえの延さらむは惜むへし、悲しむへし。万の道初学ひの始(「はし」ト改)たにひらきてたはらは、師も友也、昔の人も友也。老もわかきも皆同し。万葉集を読ふけりて、鵺ふくろうの夜声をのみよみうつすと、後の世に立たるめゝしき心つかひをのみ、哥とおし戴くとは、歌よむましきに生れたるにて、つひの世まても、おのか心より述やらすやあ覧。しひてなとひそ、独窓のもとに学ひ、たまあへる人にかたらひなんには、何の惑ひか有へき。国隔ては、朝よひならす問も答ふも、心ゆかぬもの也。後のたよりには、をかしき事とも聞えたまへ。あなむつかし、あなさかしら。

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