春さめしつかにふりておもしろ。雨の歌軒の玉水とかそへもせで、あした、れいの亜檀の手習に、清うこそあらね。

春雨に蛙こゝろく我園の池のみ草は青やきにけり

うくひすの羽吹の風にちる梅を窓打雨にきゝそまかへる

はるさめに絵巻かへして古ことをかたるに倦す明や近けん

年たちてとひこぬ人を雨にとめてこよひ巡らす春のさかつき

きのふ見しかすがの野辺の桜はなこのふる雨に散か過南

憂をそふる涙なからにはる雨を面しろとけふはかめくらしつ

淀舟のきしのとまりの春さめに隣の友のたのもしきかな

ちる華ははや瀬の浪に流あひて雨おもしろき初せの山郷

暖に降あめなから摘て亭んのへのつみ艸おひ過ぬらし

さゝれこす音雨の川の春雨に水上ちかきこゝろこそすれ

春雨に天のかく山雲篭て麓海なす埴安の池

薄くとも衣かさなん君やとれこよひの雨は春の物なり

花観んと思ふ都にたひ寝して静心なきあめのおと哉

さほ川のかはつきかむとはるさめに裳すそぬらして継はしわたる

みよし野は花にこもると思しに春雨さむき宿り也けり

故さとを思たえてもはるさめのほろとなかるゝ雨のおとかな

見渡せはよとの大橋中たえてはるさめ濁り水かさまされる

雨聞にやとりし庵はあまりにも春の夜さひしあかしかねつる

大井川岸の御寺にやどりして雨に色ある春の夕は

春雨は枕の琴にしらへして今宵緒たえの橋となりにき

はるさめに井出こす水をむすいつゝいつ山振は影をみせ難

はるの雨ふるのゝ若な往つまん滝なすけふは思出らる

我やともたひねの夜はにいねかての牀うくはかりもるそ春雨

皮き見るふみにも人のあま篭り春待つけし心寒しも

玉矛の道さへわかぬはるさめにやとり近しと頼つゝくる

雨ふかき西のみ寺の古柳陰たのまれぬやとりする哉

富人のたまひし綿はわゝらけぬ春雨さむし翌はなにせむ

はるさめのはれまのふしのゆき見れはぬれしともなきひかりなりけり

鐘の音は夕かなしと思しに桜花ちり小雨そほふる

大はらの炭やく丘のすへり道春雨いく日煙絶ぬる

あすとたにたのまれはせぬ客衣ほしあへぬ雨に花ちりかゝる

此春はおもひたちしを雨つゝみ泊瀬よしのに我は日を経る

神祭るあすの卯月の憂雁ける日影わするゝ雨の明暮

          けふは香花院の未開紅をとて来たれは、たゝ一日ふられて、色はさめにたりける。

春雨のふりてし色にゝほふ梅うつろひやすき花にさりける

          此木のもとにいかめしけにうすゝまりをるは、我なき跡のしるしの石なり。蟹のかたちしたる、是は昔の若仲と云し、法のみちに志ふかゝりし人の、深草山の石峰寺にすみて、阿羅漢五百躯、涅はんの御かたちや何や、石にて作りおかれし、其残りのいはほめきたるにてつくりおかれしを、翁か無腸と云号なれはとて、人の運はせてたまひし也。

僥倖と云から事の、我は世のさひはひ人なりける、山霧にむされて黒つき、苔も青ことつきたりけり。是を昔人の名付てたまひしに、絵かきくはへておくられしに書すさひしは、

二螯且八跪、誰識内還柔、郭索是吾性、逡巡守独幽。

我大江先醒も書くはへ賜りけり。

眼高腹大振両螯適莫無腸何所馴、漢帝漫歎時巳後、横行詩客是舎人。

おのかいひしは、おのれこゝろ得たれと、先生博識、古事、文字のこゝろもえきかす、この幅は難波に在ほとに人の奪しかはあらすなりぬ。

又よしありて、おほけなくも六波羅入道一品の宮の、蟹のかたゑ書てたまはりしに、下の方につたなき筆してことくはへしは、よろこひのあまりに、物に狂ひしなりける。

津のくにのなにはにつけて疎まるゝあし原かにの横走身は

是は罪かろからぬ事よと、人のせめきこえしかと、後いかにせん、たゝおしいたゝきて蔵たれと、是のむくひにや、物の気の心になん、とし月へたりけるにそ心つきて、近き禅林寺に蔵めたてまつりしかは、よくせしと人も云。

又、御寺より券もたせて、御つかひの法したまへりける。

おそれありといひつゝれいの脳かちにて、御ゐや申にまもゐ出さりけり。

やう/\参りしに、けふなん御宝もちの虫はらはせらるゝ日にて、御経や何や、何かしの帝の御墨跡、何中納言何あそん達と申能書のかゝせたまへる巻々、から絵の仏像とり交て、ならへみたさせおかれしを、手にゆるされて、見せたまへる中に、かにの画もかけましへてありしかは、あなとさしあをかれ、かつ恐みて泪おとさるゝ。

又、御つかひたまひてめされしかは、おそる/\参る。

紫衣の大とこの、これへとなん。

はひもとほりて参る。

ちかう、とのたまと、打かしこみつる。

茶くたし、物たうひ、時うつるほとに、昼のけたうへよ、と御たい下したまへり。

かしこまりてたうへ侍る。

けふの御壁に、から絵のうつしの、唐子のあらそひ遊ふかたを懸られたりしに、賛をとおほせたうふ。

目くらく、日ころの筆けふはもたさりしと云。

近けれは取につかはされて、いさとなん。

ありかたさに泪こほれて、墨のうすく成しをもしらすなんはへる。

何とか書し、わすれしまゝに、絵によみつるを、西福の長老うつしてたまへり。

  児戯亦多欲、誰其仏性人、

  道と云をしへあらすは鳥虫のあらそひさまにおひやそたゝん

          春さめこからねと、けふもふる。物いひ残したるこゝちすれは、又よみける。

滝と見てなかむる雨の音さむく鴬さへも啼すそありける

くたらのの萩の古枝のそれとなく雨にしほれてうくひす鳴も

浪かゝる筒飯の社の広まへは満干もあらすふれる春雨

雨にぬれて小浜の蜆とる海人に家いつことてとへとこたへぬ

むさしなる品川海の遠あさに雨をいとはず海苔とる蜒等

あらそひの又はしまれり秋のよと春降雨の簷のしつくと

不尽見むとたのめし旅の日数をは雨よ霞よこもらせる哉

吾嬬にはもろこし声に啼と云雨ふかき夜の山時鳥

敷前にふる春さめをしのきつゝ君か真使怠りかぬる

柳たにまた芽はらぬを春雨の雪けしかてにけふも降つゝ

鴬もゐさせしとさへ守梅に雨そほふりて風交の音

から猫の妻こひ兼てはるさめにぬるとも入て軒に鳴声

風副て平の喬岑の法の声雨に波たつしかの水海

風交にふるは春さめつれ/\に文もよませぬ北窓の下

あさと言君かまゐりのから衣針目あらゝにふるそ春雨

あかぬ哉此山陰の岩し水にごれる波に春さめふれと

朝鴉けさはなかぬよ春さめのふかきにやとる門のを楊

そきてけふさすか悲しき山寺に春の日永く雨隠りする

手もひちぬ広せの川のしらまなこ今ふる雨に波たてゝ行

滋山の桜の林いかに散荒て久しき風交の雨

事とへは雪いくさかの物かたりこし路は雨のふらぬ国哉

東風かせは南と吹てむらさめの音をは何にたとふもの無き

花に似ぬ吉野の山の峰の雪はるゝを散と人は云也

三越道にかよふ有乳の関守は春雨幾日人もこえ来す

鴛のつまかぬれ衣はらふ見て春雨うしともろ声に啼

百礒城のとのいの友の春雨に定兼つる人の上かな

          けふはふり晴たれは、歌はいつはり言なりける。

難波にしたしき友の、病にもあらてこもりをると聞えしは、去年の秋の比なりしか、今に事はてぬとや。世に立はたかる人は、又世に煩へるなりけり。

されと、をり/\は株のへてふいたらん、病ならぬとて、薬も飲まし。

いとあわれ/\と思やりつるに、勢ひ花やきて問来たりける。

いかにそ、事はよくはたしつやと。

世の中の事久しう聞しらぬをほまれにて、まつしうくらすにあらすや、問明らめて何にしたまふと、ことわり也。

湯よくたきりつ、茶かきたてゝのめ、と云。

あくらくみて、何やらんかたれと、耳遠く、老にしかは聞えす。

旅につかれたらむ。

東相の湯わかせて、あふせん、と云。

是はめつらし、山を窓に見るさへ、湯あみしつゝ見ん事そ、とよろこふ。

わきつといへは、脱すてゝ、いさなみの大神の身そきし給ふさまに、昼なれと、桧にあかしてらすへきを、郭下をよみて、雪風呂とはなそ名つけし、と云。

猶なこりの寒けれと、今はふらし、春かけてふれ/\小雪、丹波の粉ゆきをさへ、ねかひつる名也。

横風にも、すたれたれつれはさむからす、ほとふるまてもはひ上らす、酔ては路たをれて、ひちによこれ、疵さへつきし事もありし、風なき日は、いと/\面しろし、時に後れて来たられしは、心の楽也、とかたる。

まろ人うらやみつゝ、世に驕り者也、おほやけにめされて、ひと屋にやこめられん、是はそのつみならねと、ゝいふかる。さりとは愚人なりといふへし、と喘ひてやみぬ、あすは上京の何かしに茶迄つる、けふ礼にゆく、とて走り出ぬ。

まことや、明日香河とは、山川の流にはあらさりける。

越後屋太兵衛と云人問て、さきに契つとて、妙心寺の何某の院の、古き味醤たうふ。

是につきて思出る事あり。

昔の漆師の紹朴かはいかいに、

  ふくの味そ妙心寺からもらひけり

常に念仏しやなるか、上手にはかくもいはれたりき。

此魚の毒ある事、誰もつゝしみて喰ぬを、若きさかりには是を好みてくひしかと、ついに病さりけり。

くすしに成ては、つゝしみてくはさりき。

  人毎に祟りまさねと千破夜ふるあしき神也いむわさをせよ

太兵衛は吉備の国の人也。

彼くにゝ、菅太中と、世に聞えし詩つくり在。

いかなる人そとゝふに、いとたはれたる師なり。

酒醸家にて、一さとにては富家になんある。

其子は常に酒売所に出て居けり。

先生外よりかへり来て、道にて詩つくりたり、腹のさむけれは、筆とるもあはたゝし、書よと。

承りすくに参る。

つふ/\吟したまふを、写て見せ奉る。

見て、いなや、我詩を好める事久しけれは、平仄合ぬ詩はつくりたる事なしと。

子はおそれみて、文字を問て書改めつと。

此子もよく作る由也。

国守のめされて、宝の者也とて、禄たまはりけり。

刀赦さるへき由を、みそかに打なけきて、参りて申、祖より百姓にそとて、さるいかめしき物は、えはき申まし、と云。

おもき臣の前に、あからさまに申来たりしか、みそかにさゝでそあれとそ、うれしひてかへりぬ。

あけの年、かうの殿のあつまのつかへに出させたまふに、御供つかまつるへき仰たうふ。又参りて、有かたく、御宮つかへに、旅の用意はすへし、たゝ彼ものは相口はかりの物の外もたらぬ、と申。

臣の打嗤て、かしてんとて、御佩かへを一口たまはりぬと也。

かうおもき御まへまても、たわれてなんある。

号は何、と問たれは、いくらもかゝせらるゝ中に、いとたはれたるは、幾世とよふ名也。是は、先生むかし都に物学ひに、旅ねほとふるあいたに、酒くみにすきたてる屋に時〃かよひて、酌とる女にいくよと呼を、かなしき者に打物かたらひ給しか、故さとにかへりて後、詩つくりては、きよとゝなへたまふ、文字をとへは、都なる思ひ妻か事えわすれぬから、名につきて幾世とは書よとなり。

人を嘲き人をそこなひたまはさると也。

西福の長老戸を推きたり給て、永観堂のまへにたてる悲田梅さかり也、歩めと。

御ともつかうまつりて行。

すこし過たりとは見れと、紅こくことくれ藍の花には似す。

香はほこひてはるかの門の外にまてかへる。

追風の薫りてめつら也。

律師のむかし植おかせし木なりとそ。

うべこと木には似さりける。

  幾入の此紅そ春の日にてらしかはして香にかをる也

隣の人の、坂本へたふとき物拝みに行とてゆけり。

さ夜になりて帰、趣かたらんとす。

朝けたうへて、机のもとに、れいの、さてきのふのうとん華のさきしは、嵯峨の帝の御毫也、山の第二世義信大和尚の戒師にて、光定と申せし法しの、随緑せられたりし事のよしを、御手習の物に、たわれさせしなりとそ。

山の一の宝物にて有しか、総見院とのゝ腹あしき君なれは、法師か令にたかふ、いと憎し/\、御堂も僧坊も焼亡せとて、武士とも多くつかひして、咸陽宮の一炉になしぬ。

めう/\たる中を走りぬけて、岡本半介輔といふわか侍、庫にはしり入て、この御巻を得手、のかれ出たりしとなり。二まきなりしか、ひと巻は粟田の宮へさゝけたて祭り、一まきをとゝめて、明くれ手習しほとに、嵯かやう成と云名のほまれ高かりける。

治まれる世になりて、井伊殿へめされて、千石といふおもき禄を賜りて、世代つかへける。

今の山の正覚院の僧正は、常に彦根とのに参りかよひたまへりて、したしく法の道のことわり説聴せたまへりけり。

この巻の、今は此とのゝ物にたうとめたりと聞て、乞て見、ついに是たまはれ、山のたから也、中堂にもとのむかしに納めんとそ。

いと殊勝なりとてたまはりし也。

都に手かく人のかきりは、はるゝゝ参りてたよりをもとめて、拝みたいまつる。

僧正かろらかにとう出たまひて、拝ましむ。

手なと触な、世にたふとき什宝なるそ、とおしゆる。

物見たけの人〃は、いつはりたわれて、念珠おしすり、六字をとなへ/\拝みす、うつして木にゑらせはやと願ふ者ありし。

おそろしき眼して、物しらぬ奴僕なるは、手たにふるましき御を、とく去れ、とて追出したまへりしとそ。

されと、今度中たうにをさめたまへれは、勅ふうとか、いとかたしけなき事に成よ。

みそかにとて、都なる上田咸幸と、名にきこえし手かきを傭ひて、双鉤背朱のつとめをなん、たのみ聞えたまへれは、其人相しれりしかは、おして参りて見たる也。

合紙の色も、千とせとは見えぬ計に、秘めて有しに、御墨つき濃く、第三河の玉をしきなみたるやうにて、はしめのほとは、つふ/\と楷字をつとめたまへりしか、興に入らせてか、草の手にみたりに漫りてかゝせたまへりし。

末に咲て書すと、しるし給しは、戒状を帝のあそはすへきにあらぬを、ことわらせ給し也。

是はたとふるに物無そ侍る、はやく天の〓女の神か、あまのいはや戸の前にて、乳たれほとあらはに、わさをきたりしにや似ん、見ぬものゝたとへは、よくにたりとも云へし。

戒状とか申ものゝよし也。

あな、しりにつきてゆかましを、されと、目くらき老の、物もかゝぬか見て何せん、からねこか黄金くはへてあそふかと、かたへにゐる人嗤はん。

よくそゆかさりける。

智山の明星院は、年来の御朋に申かたらひしかは、旧しうまうてさるに、まう出侍る。

立迎へたまひて、よくこそ、老の春風にふかれて来たりしよ、とて饂とんあつく煮て、あるしたうふ。

まゐりししるしにとて、亜檀を筆につくりて、哥一二つ書てまゐらせしなめに、このあたんは梵字書つへき物かととへは、しらす、秦の代に、法顯三蔵の渡天ありて、御経の巻獲はやと請たまへは、かの国の大徳たちは、御経を口碑につたへたまひて、文字にはうつしたらす、と息つかれて、こゝに死なん命ならは、口まねひしてもあらん、御をしへのたふときことわりともを、東に帰りて弘めたきねかひ也、いかにせん、と問へは、しからはうつしてかへれ、とて筆や何やたうふ。

紙にはあらて、樹の皮はきたることくの物にて、今つたふる貝多羅にはあらす。

ふんてはくろかねして、針のやうなり。

又かねのつはみを入てたうふ。

漆のやうなる物をつけて、にしりつくるほとの事にて、料紙には痕つけたりける。

多くはえかゝでとそ。

此事は古道を伝へたる書典に見ゆ。

阿它牟の事いさゝかも見あたらすとなん。

あなおそれしらぬを、人のかたりしまゝに、書て参りし也。

賜へ、たゝの筆にて、又たゝの歌よみつるとき、見せ奉らん。

いな/\、我手に入しは竜の腮の物也、さき/\たまへるは、同寮のために、鼠にひかれしかは、ひとひらたに。

あすしなんもはかられぬ翁かかたみよ、とて取かへしたまひぬ。

ありかたく、且いみしき恥になん。

亜檀にて書つるあたんの哥

  この筆の得かたき心おもへれは仏のをしへいかでさとらん

  かにかくに筆はあたんを浪速江のよしあしなしに試みそせし

師とひたまへる、哥と云物ふつに聞えねと、翁のよめは、ことわりしらで翁のよみつるをほしくす、此うたいさゝか聴えたりな、かにかくとは、なにはの芦の岸へに、穴すみする物に云かけたりな、打わらひつ申す。

あらす、かにかくとは、常の言に、とにかくといふ心なり、かしこう承りつる、あしよしなとによせてはあれと、甲鬼かうへをのみ云しにあらすと。

打傾たまひて、知らぬ事さかしかりて、我こそ辱かきたりとなん。

夕風のさむきはとて、乗輿たまはりぬ。

ひろけれと、すくみをりてかへりぬ。

さ夜にはならさりけり。

栲亭子詩題

野梅

  春くれは先さく花を挿頭とて野のをちこちに駒あゆまする

暁梅

  はるの夜のあかつき起を遅しとてたゝかでも外にたてる梅の木

夜梅

  思ふ事千〃にくたけていねかてにあなう目とちて花の香聴む

渓梅

  こえくれは梅かゝゝをるみちたえにあらぬは渓のふかき方かも

月梅

  久かたの桂の華と云めるは我此軒の梅にさりける

落はい

  散花も心あれはそ宮人の酌て遊へる〓の上

老梅

  名をとへは其樹なからの花なれと片枝は朽てあらぬ姿に

黄楳

  うめてへはうくひすやとり羽ふきしてあらぬいろかにうつしてしかな

紅梅

  こき薄きたか手わさかも呉藍の梅よこちたく色のことなる

緑梅

  浅みとりこきてそれか名にたくへ春而巳に色をうつす此木は

垣梅

  けふる也かきほをうめのはひわたり折たわめしは何の罪そも

弧梅

  家移すあとにつれなく立る哉いろ香をぬしにうとまれやせし

新梅

  古としに造りあらたむにひ館にひさく梅もこゝにたちけり

古梅

  ふる言にいひからされてしめゆひし垣さへくちぬ名に高き梅

蟠梅

  こゝはそもたつの都にあらなくに梅わたかまり松は鱗を

晩梅

  おそきてふ花の名たてに問くへき人さへ比をかそへ忘れて

疎梅

  あなうめの花の枝風に吹折てひまあら/\にうめかゝゝをる

遠梅

  遠方にたてる梅花蒼青と見のまかへるはそれかあらぬか

平城の古梅園のあるし、去歳ちきりおきし花をつみて見せらる。

薄こをはいなりけり。

紀の朝臣の昔おほえて、うつゝなく代りてよめる、

  こきいろを言にさかせど幾春の正目の花のこゝろわすれぬ

院のあるしにかはりて、

  いく春も薄きを花のこゝろなるたかまかへてかここに咲せし

花みせられしゐやことは、

  故さとを都にかへてにほふ梅七代栄えしむかしならはや

云、今はつせなるは、我そのより接穂せし也とそ。

千とせ近くは幾度かおひかわるらむ、老弱きのろんなう咲こそうれしけれ。

さて、其院は今にありや、名さへゆかしくおほゆ。

梅も軒にかはらて立りや、と問へは、院はあり、花はそこにあらす、名の木なれは人に見すへくして、御堂に昇る高〓のあいたに〓したるとそ。

さてこそあまた度おい枯へき故あれ、そこの園の木よくやしなひて、初せのむかしとゝめよかし、といへは、承りぬとて去ぬ。

  ゐんの名は、雲井坊と申よし也。

雪ふる水こほる下に、鯉あそふかたに

  風たえてあまきりくれは水も無きよどのゝ沢の雪のあしたは或人よしと云。

かかるたくみは、廿とせはかり昔にこそ云はめ、とて笑ふ。

隣の人の、紙のかたひらに、応端か、けに牛子の花、いろをつけて書たるに、物かけと云に、

  あさなさな露をば珠にぬき兼て垣穂をわたる花の乱は

春雨又一夜降あかして、いこそねられぬ。

神代かたり、けふあすにははたしなんとて、歌よむ、

  夜ひるなきむかしなからにあらはあれ天にかよひてことゝひそせん

  かく山と見しはひとよのはるさめに春かく山をあをきまなこに

  国つくる神のいさをのあふき見る雲も波たつ八重のしほ風

  いもせてふ事そかはらぬゆきあひてうましをとめとのらす古言

  久かたの天の鳥船はやこけなくか道は野山しけき春也

かた言にうみつかれしかは、歌もすゝます。

八雲たつの御うたのうら怖しきはかりに止ぬ。

文化五年春二月廿七日のあした、筆抛すてぬ。

  瑞竜山下狂蕩子七十五齢書記す

これはかりは、神代かたりにくはへて、のこせよかしとも思はす。