◆寛政改元

む月某の日、橘の経亮のせうそこ来る。ことし天明九年を寛政元年と改らる。勘文は高辻前中納言殿胤長卿なり。左氏伝の文字とか承る。寛安、文長、文化、享和なとの撰奏ありしかと、諸卿の僉議にさためられし也。其日ことほきたてまつれるは、

    あひに逢て我すへらきのまつりことゆたけき御代に住そたのしき

と申侍るも、またくしら河のきよき流よりとおもふたまへらるゝになん、と申こさる。内の宮つかへ人すら、今のあつまの大まつりことを、かうやうにいみしくさしあふき奉れるそ、わたくしなくめてたきようゐにしも侍る。そもくあつまの大とのゝ、天のしたあつかりまをしたまふ始の、元和元年よりことし寛政のはしめの年まて、百七十五年を歴たまへりき。此代ゝの事をおほしわたすに、いにしへよりかゝる御時はあらぬとこそおほゆれ。天なる神代の事、又、皇孫の尊の降臨ましませしより、磐余彦の天皇のはつ国しらしませるまての事ともは、おほそらことにしておきぬへし。天わう日向の国よりおほしたゝせたなひて、大和の国に出ましたまひ、あまたの梟師らをほろほし給ひ、畝火山のへのかし原の都に大まつりこときこしめしゝ後、崇神のおほん時まて、御代は十嗣、歳は四百五十余年かあひた、しるさるへき事もあらさるは、君は神なからに直くましく、臣達はわたくし心をおもはす、民くさは偽をならふ事なきにそ、うらやすの国とたゝへをへ奉るへき御代く也ける。崇神の御時、武埴安かそむき奉りしを事のはしめにて、代ゝことにこそあらね、或は御兄弟御墻の内に 鬩きたまひ、或は臣達もきたなき心を抱きて、民のすなほなるをさへ、横風に吹なひかするほとに、凡千七百余歳かあひた、干戈百年のいとまなかりし物に思ゆ。それか中にも、島の大臣か三世のいきほいを振へるこそ、皇統もやかて奪ひやすと、よむに汗を流すはかりなれ。妖僧権をとりて、君を淡路へうつし奉ることのあさましさよ。それをさへためしとて、御はらからのせめきに、上皇を讃岐に苦しめたまへるはいかに。君かくまて礼を乱りたまへは、臣達も又ならひて、三帝をまて島国にはふらし奉れる世も出きぬ。さてしも、侫臣君を吉野に逐奉しより、天の下ほとく麻のみたれなして、世の末には、いふせき芦垣の宮に、あらき風をいたみたまふみありさま、江村の何かしか、まのあたりに見たてまつりしと云をよみ見るには、涙すゝろにとゝめかねたり。そのあひた、武将と申も、かなたこなたうはひかはりつゝ、たゝ虎狼の争ひに三百余年を過し来たりぬ。これらの跡を考ふるに、君もかしこきためしをとりたかはせたまへる故とは申なから、臣たちの罪そかろからさりける。かゝるに、今のあつまの御徳の、ありかたくも百七十余歳、吹風条を鳴さぬ大み代とをさめさせたまへけり。しかすかにさきの大まつりこと、うたて聚斂の臣にとりおこなはさせられしかは、民くさの心の静ならぬやうなりしを、たゝいまの御おきては、なへて享保の昔にかへさせたまへるよし也。さるは御代はよろつ代に、民くさはいやさかえに、猶行末のかきりもあらしと、天の下の人、立踊りつゝえみほこれるは、今此御時になん有ける。又み国のみにもあらす、もろこしにても、かゝる世は、三代とか申より後には見わたらすとおほゆ。文王の沢枯骨におよひ、魯公の賢をたふとひ、親をしたしめるも、百年を待すして周道漸衰の語、昭王の代にいたりて見えたり。西都亡ひて東にうつりし後は、我足利の代ゝにひとしく、漢高の大度を有為の君の由にいふも、骨たにひえぬに、呂氏の乱あり。文帝は沈潜にして柔にかち、武帝は高明なれと剛に過、おのく面に譲りて実なく、詐を民にしめすの瑕を、こゝにはしむる歟といへり。周朝八百年、漢家は四百年と云も、指をかゝむれは、実にして、治はわつかに百年をたもつ事なし。唐の太宗そ、希世の君とあふくへし。然とも、其弟の妃を納て、閨門のまもりなし。武氏の簒も太真の乱も、端を此君におこさせるものそ。五代のいとみにいたるまてを、何そ三百年と称すへき。宋祖の治に志の大いなるより、仁宗つとめて恭倹を行ひ、民の心を得れは、英宗の謙遜に賢良をあけもちひたるについてゝ、垂簾の政のかたしけなきにそ。乾隆より元祐にいたり、百三十年の治、この唐、虞、商の後に、こゆる時なしといへり。明又三百年をとなふれと、宋の百三十年に似たる時もあらす。こゝをもて思へは、今のおほん代の百七十余載は、我御国のみかは、かしこにても、三代といひし後はあらぬよと、こゝろ得らるゝ也けり。昔加茂のまふちの翁か、山をよめる哥に、

    ちはやふる神のしつめしふたら山ふたゝひとたに御代はうこかじ

この歌、まことによくかなへりとそ承侍る。又有徳院殿の御作とて、もれ聞侍るから歌、

    八月浜楼海水秋、朱簾所捲暑威収、太平猶亦莫忘剣、三尺竜光四百州。

此御心はへを、懸まくもかしこけれと申とき侍らんに、中秋浜の大殿に出ましたまへるに、秋風海つらを吹わたりて、千帆こゝにつとへるをみそなはしたまひて、御こゝろもさはやきたまふまゝにおほすには、我見るかきりかは、やへの汐路のあなたなるから国のさかひまても、あつかりまをす天のしたなるは、いともかたしけなき我みおやの、ふたらの大神の御徳をかうむれる也けり、其御いさをのはしめをおほし出れは、かく治まる御代にも、干戈わするへからす。それわすれなんには、たちまち干戈動き出んものそと、おほししらせたまふに、漢高大度の古ことおほしよりて、打出させ給ふ也けり。誠に有かたき御作也とそ承侍る。されは、今の御さたともは、此み心よりの、むかしにかへさせ奉らせたまふよしなるを、けふのよろこひにつきて、申もかしこけれと、ことほしきしるしとゝめ侍るものになん。あなかしこ。

            ◆寛政改元頌

茲歳春正月。以天明九年。改寛政元年。勘文高辻前亜槐胤長卿也。抑東君執政。自元和元年。〓今百七十五載。升運治化。自開初而最例希少矣。夫神孫降臨于日向之談。惟是奥〓霊怪。不可以語耳。神武東遷于大和。国中之梟賊悉滅亡之後。〓崇神十世。四百五十余之間。史之無所記者。君顕神而明。臣質直而忠。蒼民不治以譌。撃壌鼓腹。可比西土三代之治而当此朝。武埴安叛之後。雖非世々。或皇族〓墻。侍臣搆私。或東征西伐。且海外の役。大小の干戈。千七百年間。更無有百年の休也。蘇我三代の驕暴。皇統殆将断。毎読史。汗流肝冷。妖僧弓削執権。廃帝遷于淡路。又以是為例。幽上皇于讚岐。次而三帝崩于海鳥。或逃竄。而都于吉野之陵。五畿七道。績麻如乱。虎狼相嚼。〓鳥相〓。殆二百年。晦冥莫見天日也。然而世々考之。君雖放失治柄。臣之犯罪尤不軽者也。爾今東君執政。百七十余載。蒼民撃壌鼓腹。謳歌万歳。以此時。推考於西土三代之後。無以相競之世矣。文王之沢。及枯骨。魯公之賢。昵於親衆。不侍百年。而云周道漸遂行衰。西京亡東遷後。等我足利之三百年。漢高有為之君。然未以骨冷。而呂氏之乱興。文帝沈潜克柔。武帝高明過剛。各而譲無実。似諍示民始于此。周朝八百年。漢家四百年。屈指則正実。而治世僅無持百年也。唐太宗。仰為希世之主。然納其弟妃。閨門無守。武氏之簒。太真之乱。起於其端者邪。到五代之闘諍。何可称似三百年乎。宋祖之志誠。仁宗之恭倹。寔得民心。英宗之謙遜。挙賢良。垂簾之仁政。臣民和。自乾隆到元祐。百卅年。唐虞商以降。更無踰時。朱明亦三百年。舟矣。余也雖孤陋之貧民。遇此升運治化。豈可不似謌哥哉。〓忝伝聞。有徳殿君。中秋感懐之御作。謹而奉書写焉。

    八月浜楼海水秋。朱簾所捲暑威収。太平猶亦莫忘剣。三尺竜光四百州。

                    寄山頌                 賀茂真淵

    知婆也夫琉、加微乃志豆米之、布当羅夜万、不多々毘刀太仁、美予八宇期可自。

                    追擬

    婦他良成満、阿対摩能久迩登、(二十六才)吉紀都留遠、志牙伎弥迦祁波、故々耳師安梨計理。

    万歳々々万々歳。

            ◆七十二候        上田無腸述

                    春

年なみにおくりむかふといけるわさせねと、齢かくまてつみにかるかな。昔の人いへる、生へきかいき、死へいかしぬは、あめのたまものゝまゝなり、活へきかしに、死へきかえしなぬは、御罰かうむれるなりとかや。さは何はかりのあしきあこなひやせしと、おのか世をかへりみすえとあらす、さきのよのむくいなり(け)めと、我知らぬつみ科は、あなうの花月夜のおほろなるを、死出の田長よ、あからさまに啼て聞せかし。

あなうの花の月影に           七十二歳餘斎

山棲して世をのとかに過す人は、月日とてかそふるわさせす、まして暦といふふみもとめもみす、寒尽て年をしらすといはれたりき。此かり住する軒のならひは、なへて大宮つかへして、日毎まいりまかんするには、春を迎るにこそ、かしこきためしとものおほかめれは、いそはしく立はしりつゝ、ことよく云かはし、いきかふを見聞には、梅鴬の色香のあらすとも、おのつから知そむる便のうれし。かりきぬかましき人のおとつれ来給ひて、年を迎る哥、ほこりかにきこゆるなへに、いかにそや打出たらんにはとて、もとめ皃なり。かくはいひしとて、

    人やりにあらぬ心のそれをさへおもふにまけて年も暮にき

年かへりては、

    初春のうれしきけさは昔にてゆふへをうさのはしめなりけり

うちゑみて、例の翁か人きゝ忌しくのたまへるものか、今歳は七そちの上を二とせくはへませしかは、いにしへより稀なりとて、打羨みつゝ、人はことほきせまくこそいへ、よしや、ともかうも心やりならんには、のたまへかし、是かあまりには、春をおほししらせる歌、四の時々なるあはれを打出て聴せよかし、こゝに御齢のたかきに叶へる題もてまいりぬ、ひとゝせの中に、七十二候といふことをついてたる暦の侍るを、かそへあはせてよみたまへ、さいつ人のさることいひしを見聞ねは、いみしく憎ませ給ふ陳腐とかには、汚されたまはしと云。此ついてしは、もろこしの月令と云事にもとつきて、こゝにかなへて、それの博士の家に撰はせしならめ、よき日あしき日なと、こち/\しく事たてたるは眼いたきを、此ついての数はかりは、ことしを限りに、おもふねきことのしるしみるやとて、是をとゝめてなん、例の誹諧とかわさをきことして後思へは、此すき人にいさなはれつるよと、おそろにもおほししらるれと、是つとめける二日三日の程は、春さえかへるさむさ忘るゝよすかとも成しことの、うれしくも侍るもの歟。

                    鶏始乳

    春のたつけふやかけろのうむかひを日足すてふ日の始ともいはん

後漢の説文に、人と鳥とは子うむを乳と云、獣には産と云と見えしを、清の廖文英の云、此説無稽也、人も産と云、獣亦有乳、々産鳥獣に分つは泥めり(と)云り。老おもふに、古典は孚とのみ有しを、後にくはへしより、又後にさる説は出けん。説文また、爪の部に、孚は卵なりとみえて、別に卵の字もありて、無乳卵生也と云しは、叶へるなり。人と獣とは、哺乳の養有て、日足すと云。羽虫鱗甲は、卵生にて、おのつから分かれたるをや。礼の月令には、雉〓〓乳とつゝきて、季冬に記されたり。

            東風解凍

    春はふくこち巨勢山の風をぬるみ河洲の氷きしをなかるゝ

            黄鳥〓〓

    鴬の高ねあらはの木伝ひをみてのみけふの春日くらしつ

            魚上氷

    氷とちししたにそみしを春風にひまゆるされて浮ふ池の魚

            土脈潤起

    山城の鳥羽のつくり田あらすけは日かけまたたれておふる若草

月令に、雨氷の節といふより、穀雨に至るほとの気のこゝに起るといふ。是月也、天気下降、地気上騰といへり。

            霞始靉

    霞そめて野山にたなひく夕はえを竹の にみる人や誰

春気の霞々たるを、 逋と云。霞とは、上古に字をかりたかへたれと、久しき例にしか心得らるゝも、 る文には目のいたき也。

            草木萌動

    国栖人の遊ふ芝の野もえそめて木のめは花のおそけにもあらす

月令には、孟春也。

            蟄虫啓戸

    大和へにこゆる坂路の穴虫のねをこそなかね小草隠れに

月令には、仲春、是月也、日夜分、雷乃発声、始電、蟄虫感動、啓戸始出、先雷三日と見ゆ。穴虫、戦国史にみしと思ひしかと、暗記覚束なし、今はうつゝに。

            桃始華

    さくやとて野に出てみれはほのにほふ遠山もとの桃の林は

            菜虫化蝶

    花にむれて蝶や我ともおもほえし園の青菜の色におひしは

            雀巣檐

    笹ふきの軒をたのめてつくる巣にはやきやとりの夕雀かな

暦云、雀始巣。

            桜花華

    初花ははつかなからにみよしのゝ山口しるき木立なりけり

暦云、桜始華。

            雷乃声発

    なるかみの音のとほとにねさむれと春雨いたく窓の戸をうつ

            玄鳥到

    水深きいけの塘の柳はらいつゝはくらのやとりしめけん

            鴻雁北

    かり帰る比にしあれと夕霧の北としいへは風のさむけき

月令、季冬、鴻雁北郷と見えて、是月又鴻雁来と云は、いかにとおもふに、注に、自南方来と云は、来去の字、詞章につきて、かへるともくるとも心得られるは、こは助けて云のみ。古典は、こゝもかの土も、代々に失はれ、或は闕、或は補ひわさして、又後の惑ひとなる。或人の云、注はおのれ覚束なさからに、私ことして筆はとるよと。是は戯言なからことわりなるものそ。此鳥こゝには、春霞たつを見すててとよめけれは、孟春を時とするを、花なき里にといふ詞にまとひて、此月には出しけん。

            虹始見

    ゆきふれて袖はぬらしつかへりみる野路の小川のはるの夕蜆

月令、季春。

            蒹葭生

    難波江の汐のひかたの古杙によそりて生るあしの角くみ

暦云、葭乃生。

            霜止苗出

    置霜の忘れかたなる垣の中になよひておふや菊の若苗

            牡丹華

    桜には我まされりと思らめ園のほたにの深き色香は

            〓始鳴

    山ふきの影にゝほへる神南備の川瀬のかはつ初声をなく

山谷にすむも田野にあるも、声こそ異なれ、同類にて、かたちすこしたかへり。山谷に鳴は、音清亮にて面白し、田野陂沢のかしかましきものは、いにしへよまさりし也。兼盛か山田蛙、拾遺集に沢水にとよみしか、始なりけむ、ゆかすしらす読に成しからとそいふ。万葉集には、秋の題によめり。石〓といふものにて、六七月の間、山谷に鳴といふこと、物さためする人のいへるは、あたれりや否をしらす。一名谷くゝと云。月令、仲(孟)夏に螻〓鳴と云を、蛙也と云注は、あたらぬ成へし。

            蚯蚓出

    水ぬるみゝすの淀野の岸みれはこほるゝつちに虫のもつるゝ

此物、秋になれは吟声にくからす、又火をともして、秋蛍にまかふ。地竜と名をよそふ、唐人の文には有ける。

            竹筍生

    荒果し野寺の墻穂しめゆひて竹のこの比人まゝもれる

            蚕起食桑

    たのしさよかふ子さかりのよをすから桑はむ音を枕にそきく

月令、蚕事畢と、中(孟)夏にみゆ。季春より夏かけて、今にいたるへし。

            紅花栄

    露分てすえ摘はやすくれなゐの花に粉蝶の袖もにほはん

            麦秋到

    穂に咲て色にあからむ高したの麦の秋風吹といふなり

月令注、秋者百穀成熟之期、於此時雖夏、於麦則秋、故云麦秋。

            蟷螂生

    鎌の刃の利かまならぬは夏草をはひわたれとも刈よしもなし

風を飲露を喰ひてといふかとみれは、能蝉を補と云。又、蝿、蛛這抔をもとる、殺虫と云名の由也。又天馬と云名有、飛かたちもて云なるへし。一殻百子をうむと云。我みしは蛍に同しく、叢林の葉に枝に殻ならん、泡沫のことき物よりも生す。されと、百子をこむるはかりの状にはあらす。しかるもあるやしらす。

            腐草為蛍

    卯の花をくたすなかめの岸陰の草根なからに蛍なかるゝ

月令法云、腐草得暑湿之気、故変為蛍、又離明之極、故幽類化為明類と見ゆ。田舎翁の云、秋にいたりて、木草に卵をうみつけ置しか、夏に成て、是かゝへりて飛去とそ。老か住し所の岸陰の叢樹ニも、しろう泡のこときものゝ、時にいたりてか、半ならす蛍と成て、其始一二夜、あかきこと物に似さりしか、わつかに飛去てとゝまれるなり。さは卵生なるを、人の邦にては、腐草のなれるとや。造化の不測窮むへからす。書によりて見とゝめさる説は、聞へからす。

            梅子黄

    夏陰の葉隠れニうめのきはむ也夜ひる降つる雨の音哉

            乃東枯

    夏草のしけきか中におのれのみかゝるを時と露になえふす

月令、孟夏、靡草死。注ニ、草之枝葉非細者、陰類陽盛則死、云ゝ。乃東は夏枯草也、和名うつを草。おもふに、麦また霜雪の下に抽出て、夏枯死す、然れども陽物にあらす、いかて涼列を耐て出生んやは。陽物も陽盛なるに剋せられるへし、陰物の陽に死するも有へし。一概に書ましく。

            昌蒲華

    宮人のかへ(つ)らにぬける花あやめ長き根そめの色立にけり

            半夏生

    鳥のねに植そめし田をはて告る羽陰草の夏の中そら

            温風到

    朝露のひやかなりしを袖かへす風たにぬるき夏の道芝

六月の風を、いかて温とはいふ。温は寒□の適也と云り。白居易の苦寒の詩に、褐裘覆結被、坐臥余温と云を思ふにも、また寒冷暑温とは、常にいふにあらすや。

            蓮花開

    朝な/\花あらたにもたてまつる御法の庭の池のはちす葉

            鷹習羽

    たかゝひのはねならはしにあか時にわくる霜原

            桐結花

    咲そめてもゝはふるやの軒の花夏をかきりの名にやおふらん

月令、季春に載す。是には三種有て、花も遅速有へし。花紅なるか盛久しきとて、百日紅と云名あり。月令の季春に出すは、白桐と注見ゆ。是は実のらぬもて、花桐と呼とそ。此木寔に暦書にて、枝毎に十二葉、閏年には十三葉を生すといふ。試みねはしらす。一葉落て天下秋也と云によるにも、数学生なること称すへし。白桐の材用琴箏に造るのみならす、最多し。又文士の簷に櫺に日を蔽ふは、梧桐也。昔田舎なりし庵の簷に植し木の、我住ぬ世にもおひ延しを、伐らせて、難波の家の廂の柱に立そへしか、猶二とせあまりは、碧色かはらさりし。是を常磐木と呼ぬる情なし。又桐油といふ名ありて、此木の実の油をとりて漬すれは、紙絹に雨を透さぬ故に、雨中の行人これか為に助られて、袖裳をしほらぬなり。

            土潤溽暑

    むら雲の空の名残をあらかねの下よりも蒸すけふの暑さは

炎暑は正気也、是にいためらるゝは、人の柔弱の病るなり。溽暑も時の気なから、是は不正なるを、いかて気候として載しや、思はさるなり。

            大雨時行

    きのふけふあすもふらなむ浮雲の野山をめくる秋のむら雨

月令には、季夏なり。夏秋の間にあつさをはらひ、草木をめくみて、徳行ある君に似たり。哥よむ人、大方は、晴て後すゝしさをのみよむ、今降さまもいはてやあらん。

            涼風来

    かはほりのたのめし羽風わすられて衣うすしと夕暮の空

            寒蝉鳴

    牀の上に木すゑの蝉の声落てうたゝね寒し秋の夕風

月令、仲夏、蝉始鳴と見えて、又秋に寒蝉鳴と云。此種尤多し。大小、彩色、同からす。〓郎、〓馬、〓〓、其種分かたし。蜩は小蝉也、〓とも云。西土の国々に、〓螂、〓蜻、麦〓なと呼かはれると也。〓蛄の春秋をしらぬと云も、夏鳴蝉とも云り。仲夏を始のみならす、一とせ卯月の始に、大原のを分し時、梢ゆすりて鳴物を、畑にたつ男に何そと問しに、日くらしとこたへし。かたちをとへは、蝉の中には殊にちいさしと云。秋に夕つけて鳴をのみ云には非す。清少納言の冊子には。五月にも云たり。万葉集には、蝉の題、こと/\日くらしとよみたり。蝉と云唯一首のみ。此属おほかるを、問わきて何せん。彼卯月の梢にかまひすし(き)は、山蝉とも云とそ。

            家霧升降

    きりの海の波の立居に夕かけてわたりはるけし猪名のさゝ原

            綿樹開

    白砂のあすをたのみて帰る野ゝ袖にこほるゝ秋の草わた

爰に殖る吉貝と云名有、吉貝とも云。古、吉の訛 。寔に能たからにそある。

            天地始粛

    露みれは艸木をみれは身にそしむ秋去衣誰にから南

            禾頴登    暦云、木乃登。

    秋の田の八束のたり穂露をおもみ年よろこへる里のならひに

月令、是月也、農乃登殻、天子嘗新。こゝには、新嘗祭中冬に行るゝ也。

            草露白

    月照す最中の秋のさよ更て草葉も白し露の乱に

            令鳥

    おもひ出る神代かたりのをしへ鳥まなくしは鳴妻呼兼て

            玄鳥去

    打しくれ雲のいつこに鳴かみの音とゝろかぬよひのさねとこ

            鴻雁来

    和田原千里飛こえくる雁をまれ人と人の待もこそすれ

季冬に北ニと云、孟春に来と云。こゝに来賓と云、是のみつはらにゃ過たる。注者、前

に来るを主として、爰に賓(と)云也と、扶ていへと。

            水始涸

    誰もかもまねく尾花そ棹もなき野川の小舟岸によこたふ

             菊花開

    秋の香の野山にみつる此比は垣ねの菊の色さかりなり

             蟋蟀在戸

    きりきりすぬしなき庵にはひ入て明るをしらぬかれ/\の声

月令、季夏、居壁と有、注、生於土中、此時羽翼猶未能遠飛、但居其穴壁、至七月則能飛而在野矣。詩七月篇、七月在野、八月在宇、九月在戸、十月我入干牀下と見ゆ。一名蛬、又蜻〓、促織とも云は、我入干牀下といへは、こゝに霜夜のきり/\すとよみたるか相似たり。是はこうろきとも呼て、冬のはしめに猶有を、促織とはたかふへし。彼は夏秋の間に野山の鳴音の、きりはたと聞ゆるは、人の家に入来す、冬来ては鳴へからす。さて蟋蟀は、おのかとちよくたゝかふとて、是を合して勝敗をみる遊戯、この国には古より聞えす。

            霜始降

    草枕薄き衣を片敷ておく初しもをはらひかねつゝ

            霎時旋

    かきくもりまなく時雨はふるの山となりてかさの山路露けき

十月為〓といへは、しくれの雨は是か。霎、〓等は、小雨といへは、秋冬のあひたのみに非す。〓又作〓。

            楓蔦黄

    岩にはひ崕に林のつたかへて秋はこゝとて人のとめくる

            山茶開

    冬つはき花さへ葉さへ深き香をつみ煮て我は酒にかへなん

冬椿と名付たる、偽とやいはん、椿の属也と、ひとのいへはそ。春さく椿は香なし。茶を玩ふ我友は、春の芽を摘て、日に当す乾かして貯ふる也。花も白きは煎るへし。春咲を椿といふは、刀劒の鐔に似たれは、つばの木と名は設たるへし。黄山谷か水仙の賦に、是に先たつと云たる山〓にはあらぬか。冬に至りていひくらふる花は時になし。今産物の士の云、山菅は夏の初に花咲きて香もなく、味は酸くて、茶品に用へき物に非す。

            地始凍

    玉しきの御庭のけさの沓音はいさこさへすら氷る寒けさ

            金生香

    いろにかに梅に先たつ花名のこかねのさらに似るものそなき

            虹蔵不見

    足洩の山田の井手の水かれて朝たつ虹も見えす成けり

            風払葉

    うつの山わか越くれは色もなき のはちらす木枯の風

            橘子黄

    たちばなの陰ふみたえし故郷にむかしを忍ふかくの実そ是

            閉塞成冬

    山はたの粟生豆生も刈をさめ冬こもりするみ吉野ゝ里

月令云、天気上騰、地気下降、天地不通、閉    成冬。おもふに、天地の気、上下して絶るには、其間万物しはらくも立へからす。冬といへとも、木葉の零落は、下より芽くむ故也と云り。又、寒にとちらるとも、陽は下に気をして、麦苗抽、乃東枯、水泉動と云は是なり。いかて閉塞して不通とは云よ。又、人の語如此もの、まれ/\聞ゆ。

            熊蟄穴

    しばせ山しはしの冬のあなくまの済とめまとふ薩人のとも

            〓魚群

    やま川の淵にむらかるさけの魚をもらさしとさへ網はもわたす

            乃東生

    おく山のくちきはあらぬうつほ草うらわかも霜の

            麋角解

    かましゝの袁達もつのたにおちたらば代々にそ蘇我の家はさかえむ

            雪下出麦

    冬されは雪は日毎の越路にも下萌て(十五才)麦の深みとりなる

            芹菜生

    芹川の野辺の御幸は絶にしを深田のわかないや生にけり

            水泉動

    枯のこる冬の池水けさみれはさし枝の松の影のくたくる

            雉始〓

    春ちかき霜の原野ゝ朝かけに林かくれのきしの一声

此〓、雌雄相共に啼と云は、いかゝそや。山鶏晨鳴、野鶏朝鳴、又雉〓舁なと云も、此尤ともに鳴にはあらす。扠此〓の字、雉のなくのみに用ひたり。

            隷冬華

    山かけのかれ生かしたのふきの花あなにか/\し香には匂へと

            水沢腹堅

    諏訪の海の冬のわたりの安けくは神のまゝにそなへてあらまし

月令、氷方盛、水沢腹堅と見えて、注に、氷之初凝、惟水面而巳、到此則徹上下皆凝、故云腹堅は聞えたれと、暦書の目には詞たらす。

物をたかへ理をあやまてるも、はた多からん。されと、酔こゝちして、晨に

時を失はせし罪かゝむらむらぬこそ、民草のうら安きなれと、かゝるにつきても、よろこひは春なりけれ。

                    秋

抑七十二候の事、此頃人の視せし七修類藁と云書に、其始、呂氏春秋ニ見えたりしを、漢儒譌りて、礼記の月令に書加し也。後魏の世に、是を暦書に載す、故に、其禽獣草木、北方の種なれは、江南の老学識尽しかたしとそ。況や、国土異にて、月日の恵み同しからさるには、物同くとも、異さまに、又かたみに同からぬか生出へし。儒家、兎角彼土を本としていふよ。かしこにても分明ならぬ[を]、此土にあて定むへきかは。牽合附会、〔我〕わつかに識たることの中さへ、眼いたく耳ふたかるゝを、博士達はいかに憎まませ給はんものそ。此七十二候と云は、五日を一候として、六候を一月、一歳七十二候となす。其本三節一季をなし、六季を積て一時とす、故に一歳廿四季ありといへり。数学の道は、陰陽五行を宗として物を窮むれは、天地の大なるも法局の中に〔納れて〕、活動も此令めに行る〔ゝ〕か如し。是を打向ひて聞には、うなつかるれと、退きて仰き観、俯して察らむれは、半はかりやかなふへき。しかおもふも、老か拙き才の涯もて云は、はた当らぬ成へし。されと、思のまこといさゝか打出て、永〔き〕日を空しからしとて云也けり。老之老来るとしなみを顧れは、春立といふ日の、疾き遅きにも従はす、雪凍必しも東風の吹解にも非ず。年たつあした、野山に霞引わたして、長閑し〔と〕みる其夕つけて、又風烈しく泡雪打散つゝ、尚冬深く思ゆるは、都は殊にそある。さあらん歳は、〔春そとて〕穴虫のうこめき出へくもあらす。此近き年並は、冬暖にすきて、後に雪も凍も嵐もいとさむきを、試みはかりに数学の人にとひしかは、されはよ、天地はたゝに死物の如くにて、我法局の入来りたれと、太陽の活動の繁かれかたきにつきて、同しからぬなり、法は大方にて、是を常とすれと、気候のおくれさいたつも亦、常といはゝや、時ニたかひ、又立帰りて行あふもの故に、我学道は立そと聞えらし也。さは、禽獣草木も此活動に従ひて、ときおそき事、現に誰も見る所なり。さるから、いたつら言なるを、老の玩学にはいふそかし。

氷の漸解て魚の浮遊ふを、獺の取て天を祭〔る〕と云。或人是を見とゝめしとて語る、鯉魚の頭はかりをうつくしく喰残して、岸の上に置たる、実にゐや/\しけなりしとそ。さは余餐也、先取てまつると云に〈は〉叶はす、それ〔か〕則禽獣の道に〈て〉やある。思ふに、彼等も子を産て、養ひたつる愛隣の等きをみれは、子も反哺のつかへと云事して、恩を酬ふに、親の世にあらぬは、其霊をまつりて、しかゐや/\しくするや。さは人の道の同しきを、天地を祭るとは、例の儒家の妖言也。豺狼も亦同し祭すとや、時の違へるは、捕るへき時の同しからぬなり。夫に方円の鋪物のたかひありと、かのみし人は、さるわさ迄は語られさりき。儒家は何事をいふにも天と指す、其天はさま/\にあてゝ教ふ、道学といふも、大方は相似たり。釈氏そ天帝も我道に帰〈依〉すといふ。此〈窮理〉数学の士は、天地を法局に納めては、死物にひとしと云り。此学術は、文学の士の代々にあやまれるを、西洋〈耶蘇〉の人の時々来て教〔へ〕しかよしとて、今は是の伝えにつきて、専行ふ也とそ聞侍る。

雷の声を発すは、伏陽の気の時至りて散す、これに驚て出る虫の、必す三日先立てといふは、いふかし。或は、孟春、仲冬〔春〕の令めをたかへしは、其国のたかへるまゝ、己か見聞まゝにこそ。唯気候の遅速に、年々後る(従は)ゝ也。法はなくて叶はぬ物の、是を守らは、天地の乱るゝとせんに(か)、活動変機に大小ありて、恐るへきも時々有として、心はやすむ(ん)すへき歟。

鷹の鳩と化し、田鼠の〓と化す、是等はふたゝひ前身にかへるを云。腐草の蛍、雉の蜃、爵の蛤の属は、それの侭に終る故に、化(す)とはいはすとそ。凡物の化するや、我見しは、鳥虫介魚の属、又、木竹の石に化する、ふたゝひ前身にかへりしを聞す。又、薯蕷のむなきに化したるを、正に見しと云人ありしかと、復ひとは語らす、いと怪しき事なり。〔(羽倉翁書入。藤堂楽〓は伊賀藩臣也。国に在し時、薯蕷の半鰻に化したるを、領分より出したると語る。其后、隠岐興澄、湖東小川に在しころ、山寺の僧長芋を切たるに、菜刀にに(ママ)当るもの有、取上てみれは魚釣也と。是は鰻のいもに化したる也。天地造化の事、かたよりて云へからぬか。信美聞たる事をこゝに記す。)〕

又云、鷹は義禽也、時到迄(れ)は、先撃て祖先祭ると云。此鳥は猛にして、常に殺伐の気、面にあらはるゝ(れたる)を、いかさては云。義は、今日万鍾明日飢とはいはすや。利害を論せす、宜しきにすゝむを義と云也。くらへと飽すして、眼を忿らし(め)、爪を磨て、たゝ攫(撃)まんとす。是かはるに成ては、喙觜柔らかに鈍くなりて、心も癡におくれてそ摯攫あたはす、〓鳩と化す、又布穀にもと(とも)云、見とゝめたる人に問へし。其化る理におきては、聴へくもあらす。又、田鼠の〓と化する、是は石鼠かなる也。毛詩に、碩鼠々々、無食我苗と見ゆる、是也とそ。又、雀鼠、〓鼠、句鼠也とも云。又、蟠蛄と云そ独異なる、これは、螻〓を蛙也と云にやより。(釼)玉充の論衡に、蝦蟆化為とり鶉と云につきてや、陸徳明、鄭康成も、蛙也いへり。いつれみとゝめたる人につきてそいふへかりける。此鶉をかふ人のかたる、歌よむ人は、必よ秋をもはこ(ら)の音に(と)いへと、五月雨の比を盛に、秋立ては絶て声なしと云り。法のものに違へるは、是等也。〓、一名鶉。

玄鳥の春来て秋かへり、雁といきかひをたかへるは、実に暦書とたのまるゝなり。約を偽るらぬは、范巨卿に胸潰さすへし。

清明風と云風、季春に東南のかたより吹。此風ふけは、万物斉くとゝのひて、時宜しとそ。故に、人潔斎する也と云る(り)。おもふに、二三月の間は、風吹迷ひて定まらす、夏立て(は)おたしけれは、和清と云、是は此国にては年々(大方)然り。或説に、春は下より吹升る故に、紙鳶よく風に乗る、夏は空を吹(き)、秋は下吹(吹下す)、冬は土付て吼るか如く(して)寒し(く吹)と云。是は正し言也。呂氏春秋に、は(八)風とて方をさすに、東南より吹を薫風といふ、一には清明風とも云、時はたかへれと、季夏の空よく晴たるに吹を、南風薫すと。これをは清明風と云はやに。

穀雨(降)は三月の中旬也。孟春の雨水の節の後は、土膏つきて穀種に便する故に、此名ありと云。雨水の節、仲春の令も有て、是月なり、無 川沢、無    池もみゆ。雨は国語にあまつ水と云か、いにしへ也。天を指てあめと云、其方よりくたれは、然云へし。是は、皇孫の天くたりませし後に、御膳津水にふらしたまへると云か古伝なり。かくをさなける事、今は教ふとも聞をらんやは。

虹のはしめてみゆるは、天地の一字合てと云、又(は)陽気下り(て)、陰是に応(す)る(か)雲と成りて雨を降らす、陰気起こり、陽是に応すれば、虹と成ると云も、共に心ゆかす、只、雲の薄きに日の影の漏てといふは、ことはりめきたり。彩霞とて、あした夕の雲の靡きの、日辺にあるかれうつれるに似て、この色とりは(有よ。夫は)雨気を含まされは、紫霞、丹霞なと云て、虹の、紅、青白を駁るにはたかへれと、其色あるは同しかるへし。此字如何なれは、虫に従ふやと問に、〓〓と云おそろしきものゝ、堰臥かたちに似たれはといふ。虹の漂水を飲ともしは、夫にや有し。頭は驢馬に似たりとそ。其始名つけもしらぬには、此ものによせて、字は作りしか。〓〓、此国には見聞す<そ>あるを、強て云へからす。色赤き虹と云て、雄なり、青白なるは〓と云て、雄也と云も、彼〓〓によせてか。いまみるは、赤、青白をましへたれは、虹〓の孳みて立といはゝいかに。天弓とは、かたちの弓を彎にとて名付たるか。美人虹と云名、文人の言子疎多けれ。唯日と雨の気交りて、質をなすと云に従ひて、止へきのみ。大方は、村雨過て名残の空にとおもふを我四十余りのむかし、田舎なる庵を出て、難波の城市を指す、日よく晴れたる空に、西南の方に虹の立上りしを、田草取老の、あやし、あのみゆるは苫か嶋の虹也、我若き時〔に〕、かしこより立て後、風雨はけしくて、田稼を害せし事ありきと云を、耳過して行し。はた、其日〔の〕末の時斗より、城市のうち風俄に吹たち、雨は横さまにはやちつゝ、瓦を飛し、庇をおとし、物を空に巻上て、雷のことく鳴はためる、何やらん礫打ちつくるよと聞るゝ、いとすさまし〔きり〕き。時はかりにてやみぬ。人のしき/\〔に〕つくるは、海潮、虹の立てしかたより湧上りて、津にのは入てある船は、うちたゝかひ打そこなはれつゝ、浪に追及れて、河々に走入、築地、石垣を崩し、長橋の中をふつに截切て、凡三十余リケ、船は大小の数知らす砕かれ、人の溺死は幾千ニ百口ならん。又村戸の斃れたる、我いきかへる二里の行程にも、幾はくならん。大宅はおしゆかめ、小家は打潰して、みるめのあさましき。此風凡三十里〔許〕を吹とほりしと云。みな月廿三<といふ>の事也。稲葉は抜棄たるさまに、綿の花ふさ一つたにとゝまらす、葉さへ落尽て枯柴と成果ぬ。彼あしたに見し美人虹は、褒似、楊妃の類にてや有し。苫ヶ嶋は紀の海に在て、便よからぬ所なりとそ聞ゆ。

螻〓鳴といふを蛙なりとは、あたらぬか。蛙は山〔谷田〕野いつれにすむも、としはやけれは、中春より〔も〕こゝろきいつる也。呂氏の書、北方になれりといへは、立夏といふもしかるへし。是を土狗といふて、穴に住、夜は出てといへは、物たかふへし。螻蟻と云ものにはあらぬか、探るへし。

苦菜秀と云を、毛詩〔に〕、誰謂荼苦と云に当たるはいかに。後に一画を省て、茶に作りしと云には、冬花咲、芽もおひ次て出る常磐木なり。冬の芽を摘て、臘茶と〔呼〕て制せし事、唐の時にみえしか、今は穀雨におくれ、夏かけて<時と>摘はやせるに叶はす。詩は政事の苛きに耐ぬなけきに、此苦き菜をさへ、世にくらふれは、<是は>飴に薺にひとしく憇〔き〕そと云にや。上古烹煎の制をしらす、〔此〕茄てくらへは、辛苦の比興あたるへからす。此苦き菜は何ならん、秀〔る〕と云時をもては。

大雨は湿暑の気騰りて雨となる、夏秋の間に、歌にはよむ。是かあつさを払ひてそ、涼風来、寒蝉鳴、白露くたりて、天地の気粛然と云り。霜露を降るといへと、草葉にのほり、木末に雫するも、冷気のゝほるかきり也。雨雪も同しきを、是は地気の力の限もて、高きに至れは、降〔る〕とは云よ。秋漸更ては、露の霜に結ふ。此霜は、冬のあした白く置渡すとみるは、夜あけ日の出ぬあひたに、露の俄に凝てな<れ>る也。氷といふも、さゆる夜すからには閉すして、夜明起出て、盥嗽のそゝける雫のたゝにむすふをみれは、子一ツより陽気のいたると云はかことにて、夜中過明はなるゝまても、<極>陰<の>気に閉めらるゝを、漸太陽のさし昇る〔極み〕にこそ、凝も結ひもすなれ。さるは、数学の理にして、活動の変気と云も、大かたは常有ものにて社あれ。火毒とて陽に破らるゝを劇しと教へしかと、亦、陰毒の人をも物をもそこなふこと、あまたみきたりぬ。いつれか過たる〔か〕よろしからん、かた/\によるなと教へそかし。春の時に、夏秋冬の令を行はれては、しか/\の害ありと云。夫も時々の序のさい立おくれ、春の氷も雪も、秋の扇はなち難きも、正気にはあらねと、人〔みな〕病んやは、ものそこなは〔れ〕んやは。疾む傷はるゝは、人々虚弱卑薄のなす所をいかにせん。

抑七十二候の数も、呂氏春秋、月令〔等〕に数へあらゝけは、いくらにもいはるへし。陰陽は云つへし、五行はかそへ出てあたらねは、又事を加ふるを、昔より見る所なり。歳を四時に分ちて令めしに、五行の理こゝに黙するには、皐月を長夏とゝなへて、数に配する<に>そ聞よからぬ。凡一より十に至る、悉く用あれはこそ<かそへ出たれ>。いつれを陰、いつれを陽、問もてゆかは、口は閉むへし。或人の云し、九を数の限として子は九なり、<是を>合て丑は八なり、又合て寅は七なり、卯は六、辰は五なり、巳は四なり、又午より九に立帰りて亥に至るも同し。是は其始何の為に初九なりや、何の理に<て>かく数を立やととはゝ、黙<止>せんものそといはれたり。

天の高サの限しられぬも、人のかそへし数もてはからるゝは、先我数をつみ/\して、足されは又幾度<を>もくはへてこそ、月日の左右に旋<る>をしるとは思やれ。さは理の大なるを仰くとへれと、云尽されぬに至て、始て人の不知の涯あるを知るゝ也。五行は、<其>もと官名に始れりとや、是をもて、天地をいへはいはるゝよ、いはれぬに至りて、口は閉むへし。或は、五行の相互に剋せらるゝと云も、火の金を剋し、金の木を剋するは、人の手をからされはと云説もあり、あな煩しのものさためや。七十二候の名物、こゝの拾芥抄に拾ひ出しは、西土のはしめは後魏の時なりけん、この国土に<は>叶はぬものゝ有には。我よみつるは、こゝの数学の博士の、次手<を>立てられしとそみゆ。かしこに時気のたかひは必有へきを、撰へきを漏し、あらてもと覚しきを采出てとみれと、いまさかしらして物すへきにあらぬを、此哥よましめし人の、我友かきの中に、翁をもふきかてらよみてん。されと、同あひもの競ひさまならん、かたてし。あらたに題えらひてよといふにつきて、おのかおもふまゝに、次序は立しなり。をこわさにしもあれと、よしや世にあまねからしめんとにもあらす、歌好<む>あまりの物狂ひか戯わさは、それの博士達も、みゆるさせたまはんかし。

春気靉靆 東風暖和 凍雪解 鴻雁北 菜蔬嫋 草木萌 梅花馥郁 百舌宛転

月令、仲夏に反舌無声とみゆるは、こゝのうくひすの、五月には音を入ると云に叶ひしとて、此さかしらはすなりき。杜子美の百舌を題せし詩に、百舌来何処、重々〓報春、知音兼衆語、整〓豈多身、花密蔵難見、枝高聴囀新、過時如発口、君側在讒人。此詩を、注者の、百舌は反舌也、能其舌を反して百<舌>鳥の音に随ふと云。知音兼衆語と云、こゝの鴬の親につきて習へるに似たり、且、春を報すといひ、花密にしてかくるゝといふ、枝の高きにうつりてなと、句々能叶へり。月令、仲夏に倉庚鳴とあるを、黄〓也と注す。彼はかたちこゝの鳥より大けく、羽色黄にて黄鳥と云、こゝの緑色に似す、囀りも<又>異也、嚶々と鳴とは、其声もて鴬と名つけしよ。鳥の名、其声もて呼事、和漢<に>多し。百舌は衆鳥<の音>をかぬる<の>名、反舌は其声<の>反転の義歟。物さためする学士の説に、此鳥の舌長くて、尖は反りて喉にむかへりと云は、偽弁成へし。又、反舌を蛙なりといふ、五月に声なしと有を思はぬよ。彼是思ひめくらさすは、何万に<か>まとひゆ かむ。

日夜平分 焼野耕田 電発声 蟄虫出 水温満沢 百花爛〓 燕雀巣 穀雨降 山民摘茶封〔村〕婦養蚕

宇治、信楽の園圃は、今は穀雨の節におくれて夏をかけたり。西土にて〔は〕、社日清 明に摘を上品とす。一旗〔二鎮〕は其頃なるへし。こゝには葉やゝひらき〔き〕て、光 沢きら/\しきを、時といふなり。

緑樹陰翳 原野叢茂 杜鵑啼 水蛍明

杜宇、子規、不如帰、物同しき由也。いかなれは、西土の人、此啼音をいみきらへる〔 に〕や。宋人の送別〔に〕、騎馬出門三月暮、楊花無頼雪漫天、客情只有夜難過、宿所 先尋無杜鵑、いかに耳ふたかるゝ物とも〔は〕聞らん。こゝには、野人入、端夜〔みし か〕をいねてにして待こふ〔る〕は、物のたかへる〔に〕や。又は其始に、愛憎のたか ひに習ふにも有し。楽天か詩に、帰思鳥と云そ、こゝのほとゝきすにて、杜鵑と〔に〕 は違へりといふ人もあれと、是前〔亦〕慥成説とも思えす、且物令〔さだ〕めもよしな し。彼土にては、季春を専に云〔よ〕。こゝには、卯月を初音に、おのか五月とよむ。 用〔国〕のかたひて〔に〕は、時もいさゝかのたかひ〔かはり〕有へし。

麦秋風温 秧天雲昏<秧音央禾苗> 黴雨油然 日北至兮

或は梅子の熟する時なれは、梅雨と云とそ。出梅といふて、其侭〔終〕をしらせたれと 、必あたらぬと云り。卯花くたしさみたれのとよむを、万葉集に<は>、只一首なから 、春されは卯花くたし降雨のとみゆるは、としの早きにつきて、垣ねの花の咲出しを、 春雨幾日も降にふりて、杓やくたしけん。いにしへの哥は、天地のまゝに、見るまゝに 打出たれは、後の人時たかへりとて、私に改るも有、法を堅〔かたくなに〕守りて、さ て顧みよ、万の物も事情も、国のかたひも人の心癖も、こと/\行合ぬ成〔也〕へし。

梅子落 鹿角解

かきつはた衣に摺つけ、ものゝふのきそひ狩する時は来にけり。鹿の角を取て血をさむる良剤なれは、薬猟とも云て、武士の競出る也。かきつはた、我もすりて試しに、花の色にはおとり〔て〕、にをはしからす、唯時の興<はかり>にやすさみ〔ひ〕つらん。かきつはた、あやめ、少つゝ異なれと、惣て昌蒲の異類ならめ。海外〔の〕商舶にとへは、胡蝶花、燕子花なと指わかつとや。こゝにても、木草あきなふものゝ呼わかつ名は、古に非すかけり。つはめ、〔否〕垣津花なと、私の心/\にいへと〔ふは〕、依かたし。

蛙吐囂ゝ 蝉吟断続

昔の田舎住に、田植はてゝ水せき入し後は、十里にも響きて啼とゝろかし、短夜のいきたなかりしを、思ひ出るも〔う〕たてし。蝉もまた、五月雨過るを時と、極〔梢〕ゆすりて午睡をさまたくる、いとにくし。樗、柳、槐の葉かくれは異〔殊〕に。

南風薫 雲峰奇

清明風とも云〔て〕、東南の風なること、既にい〔云〕へり。

水萍華 〓麦栄 大暑爍砂〔礫沙〕 白〔雨〕覆盆 涼風来 寒蝉鳴

蝉の賦に、応時候也と云、実に暦書也。〓南子に、無口而鳴、飲而不食、三十日而蛻とみゆ。鳴〔蝉〕は羽ふき也〔して〕〔音を出す〕とも云、又雌は声無ともいへり。

星河横空 月桂落子

天文暦数の士に星河の事を問へは、いさゝかならす説たかへり。窮むへからぬをきはめて何せん。月中〔の〕桂樹を伐来たると云物話(語)、誰かは信ずへき。其子時ゝ落ると云、かゝる妖言も、文章には玩ふへし。日は天照す大神、月は月読の尊と、ひたふるに言窮むる人うたてし。今は眼鏡の制工妙にして、是をもて望みれは、神とて木に刻み、絵に写す人のかたちに等しき物に非す、変動常なきを見そめて、太陽、大陰の精と云は、聴へし。又、陰陽と云ものにかたとり難〔ちな〕けれは、寓言となりと云人もあり。水烟雲霧も、有とみれは、頓て散してと〔ゝ〕むへからす。〔あの仰き見るを陽精陰気と云を、譌妄とは云へからす。〕中/\に形を人にかたとりて、情慾も是につきたる神代語こそ、いたつらなれ。桂樹を不時花と云は、秋のみならす、影のさやけきを譬ふる〔歟〕。

天地粛 白露冷 盲風吹 陰霧瞑

月令に、盲風は疾風となりと注す。暴と音同しきか〔の通へる〕。中秋の比、野分とて、草木を吹しをり、嘉禾を害するわろものか〔ゝ〕名也。

禾穎登 果瓜熟 夜漸長 虫〓盛 玄鳥去 鴻雁来 菊花黄白 艸樹纐結 水乃涸 霜始解〔降〕 〓雨施〔旋〕 雷鳴収 蟋蟀入牀 百穀登場 林木枯 橘柚黄 麦苗抽 松柏凋 〓南至 庭地凍 人閉蔵 六獣穴鹿、微霰飛珠 凝雪鋪銀 池氷牢堅 水禽浮游 寒梅開 歳菊含

こゝに福寿草といふは、歳菊花といふ。共に草木商ふものゝ呼名にて、古にあらさるへし。

            ●新題〔詠〕各探之<作>

            春期靉靆                                    餘斎

    山もりかもるとふ山に引〔く〕注縄のたえ/\みゆる靡く霞に

            東風暖和                                    勝憑

    あふ坂の関吹越ゆる山風の音もけぬるき春に成ぬる

            凍雪解                                            黙軒

    長閑なる春の光にみねの雪沢辺の氷うすく成行〔く〕

            鴻雁北                                    信愛

    霞立〔ち〕影のとかなる春の日にしつ心なくかへる雁かね

            菜蔬嫋                                    黙軒

    かき払ふ朽葉か下にうらわかき春の若なは萌初にけり

            草木萌                                    餘斎

    我宿の軒に垣根にめをはるの時にとなれは人のとひくる

            梅花馥郁                            間斎

    春風は吹とかよへは咲さかぬもひとつにかをる梅かか

            百舌宛囀                            仝

    あら珠の春来にけりと舌とくもくりかへしつつ鳥のさへつる

            日夜平分                            敬儀

    初霞きのふかたちし春〔の〕日の夜とひとしくやなるかみの空

            焼野耕田                            布淑

    片岡や野やくけふりの立なへにふるの山田をかへすますら男

            電発声                                    仝

    咲花の雨にちるやとおもひねの夢驚かす神の一声

            蟄虫出                                    黙軒

    あら鉱の土のしたよりうごめきてこもり声にも鳴蛙哉

            水温満沢                            重賢

    いつしかに氷もとけて水ぬるむ沢ふは〔にそ〕春の色〔は〕くまるゝ

            百花爛〓                            餘斎

    よせかへる浪も色ある灘波のうみおしてる宮の咲きころ

            燕雀巣                                    敬儀

    つはくらめ雀もおのか巣つくると永き日くらし羽もやすめす

            穀雨降                                    餘斎

    春雨の降のゝさくら散しよる〔はてゝ〕井戸〔出〕越水の音のまされる

            山民摘茶                            信美

    廿日あまり一日を時とうち群て木の芽つむ也莵道の山里

            村婦養蚕                            村常

    賎の女かこかひはしむる時きぬと里の桑の葉つみやしけり

            緑樹陰翳                            間斎

    夏かけの閨の妻なる葉かしはの梢ひまなく繁り合にけり

            原野叢茂                            豊常

    かる人もなつのゝ原のおつから草の葉山と成にけるかな

            杜鵑啼                                    勝憑

    人のまつ時におくれつ〔す〕ほとゝきす名のりてわたる声そ聞ゆる

            水蛍明                                    信愛

    行川の水のなかれにうかひてもひかり消ぬは蛍なりけり

            麦秋風温                            信美

    夏衣袖ふきかへす夕風に小田の畦こす麦にあを浪

            秧天雲昏                            黙軒

    雨雲の曇に出てさなへとれ照日にか〔う〕ゑはよられもそする

            黴雨油然                            勝憑

    ふりしより晴る間もなく四面山の雲をかさぬる五月雨の雨

            日北至兮                            布淑

    日のかけの永き限と成ぬれはうりの山にあかねさしいつ

            梅子落                                    〔維済〕

    昨日かも花と見えにし梅かえの実も色つきておつる木のもと

            鹿角解                                    信美

    薬狩さつきの山路踏分ておちたるしかの角もとめてん

            蛙吠〓々                            重賢

    早苗とる比にしなれは夕ましに田の面の蛙鳴とよむなり

            蝉吟断続                            維済

    鳴捨て木末をうつる程ならしをり/\せみの声のとたえは

            南風薫                                    間斎

    夏はいとこゝろ引れぬ南ふく風打かをる唐琴のうら

            雲峰奇                                    餘斎

    峰畳む雲のまよひをおはしまに見果てすゝし夏の夕かせ

            水萍華                                    敬儀

    おりたちて早苗とらはや我門の田井の浮草花咲にけり

            瞿麦栄                                    黙軒

    朝な/\いやはつ花の咲そひてさもとこなつの盛みすらん

            大暑爍砂                            維済

    行かひのあまたにみえす天つ日のてりはたゝける浜の真砂地

            白雨覆盆                            敬儀

    賎の女か小麦の糟をゆりてほすひらかをかへす夕立の雨

            涼風来                                    信愛

    秋きぬと目には見えねと朝戸出の袂にしるき風のすゝしさ

            寒蝉鳴                                    〔勝憑〕

    聞からに淋しかりけり秋風のわたる木末の日くらしの声

            星河横空                            敬儀

    天川しらなみたてゝ秋かぜの吹わたれはやさやにみゆらん

            月桂落子                            維済

    植置て宿の光となしもせめ月の桂の実をも拾はゝ

            天地粛                                    敬儀

    吹立て桐の一葉を散しけりあめつちとの心あひの風

            白露冷                                    豊常

    あさ戸明てみわたす野へのひやけくも草葉の露は置まさりつゝ

            盲風吹                                    布淑

    さもこそは秋の草木の絶さらめけさの野わきに垣もたをるゝ

            陰霧瞑                                    間斎

    さらぬたにくるゝは早き秋の日にひるまもわかす昇る山きり

            禾穎登                                    仝

    いつよりもことし年ある秋の日やいともおもけにうちかふきたる

            果瓜熟                                    信美

    山かつの垣ほの木の実畑のうりやゝ色つきぬ秋更にけん

            夜漸長                                    余斎

    秋かぜの夜寒の里にやとりして明る久しと思ひ初ぬる

            虫吟盛                                    信愛

    秋草の花の盛にあらそひて野もせの虫の声/\に鳴

            玄鳥去                                    間斎

    住なれし宿なわすれそつはくらめ霧のまかひにたちは行とも

            鴻雁来                                    豊常

    秋〔の〕田の稲穂おしなへ色つけばそらにかりとぞ鳴て来にける

            菊花黄白                            黙軒

    そか菊の中にむら/\置霜と見えて白きや咲ましるらん

            草樹纐結                            重賢

    紅にあらぬしくれのいかにして草木を色にくゝりそめけん

            水乃涸                                    維済

    草木よりまつかれ初るぬま水を行かたなしと何おもふらん

            霜始降                                    餘斎

    初霜の今朝を昔はとはかりになかめすてしや我にかもあらぬ

            〓雨旋                                    敬儀

    暮やすき冬の日かけにあまたゝひめくる時雨の雨のあしとき

            雷鳴収                                    信美

    久かたの雲のとほそをとち果てなるいかつちの冬こもりせり

            蟋蟀入牀                            仝

    草かるゝ野へをうしとか蛬わかさねとこの下になくなり

            百穀登場                            維済

    百草のたなつものさへみち/\てゆたけきよには飢人もなし

            林木枯                                    黙軒

    冬来ぬと嶺よりはらふ木からしに紅葉の林くまなかりけり

            橘柚黄                                    豊常

    今は早いつこも冬に成ぬとてかくの木実の色に出らん

            麦苗抽                                    間斎

    山畑の雪を薄みに色みえて下萌しるき麦のはつ苗

            松柏凋                                    維済

    松かえの共に常磐の影なからさむさにたへぬ色はみえけり

            〓南到                                    信美

    けふ社は南のそらにめくりきて日の影なかくなるといふ也

            庭地凍                                    敬儀

    霜はしらまなく砌にたちしよりなか/\影は傾きにけり

            人閉蔵                                    布淑

    いとヽくも冬かまへして静原の里の翁のまつかきこもる

            六獣穴                                    信美

    奥山のうつほにすめる穴熊のあなうと世をや なるらん

            微霰飛珠                            重賢

    笹の葉に散てくたくる玉あられ庭もはたらに降せてもみん

            擬雪鋪銀                            勝憑

    白かねの光とみしは降しきて寒氷たる雪にさりける

            池水牢堅                            黙軒

    いけ水を幾重とちてか厚氷踏わたるへくいまはなるらん

            水鳥浮遊                            信愛

    おのつから群れつつ池の水面にうかひて游ふたかへあしかも

            寒梅開                                    餘斎

    年のうちにあすたつ春の窓の前〔の〕うめの暦もひらき初にけり

            歳菊莟                                    黙軒

    くれ残る年寄り含む菊の花春の光りを漏しそむめり

〔ヨ斎八    勝憑五    黙軒八    信愛五    間斎八    敬儀八    信美八    豊常五    重賢五    布淑五    維済七〕

〈右七十二候春秋二本者、羽倉翁手沢之書、餘斎翁書入有之。〉

            ◆七十二候新題

            春気靉靆

    山守かもるてふ山に引しめの絶々みゆる靡く霞に

            春風暖和

    春風に軒端の梅におとつれて鴬きなくとしのあしたに(「は」ト改)

            凍雪解

    よしの山谷の氷は解ぬれと花のかたみの峰の白雪

            鴻雁帰

    賓人と待しも今は帰る雁とこよときけはたのまれそする

            菜蔬嫋

    雪の下に緑はつかの色みゆる先とて君か為につまゝし

            草木萌

    我宿の軒に垣ねにめをはるの時にしなれは人のとひくる

            梅花馥郁

    けふこゆる春山なから雪つみて谷の深きに梅かほる也

            百舌宛転

    小簾の外に春風吹て鴬の声のあや鳴友もあらてそ

            日夜平分

    春立て手を折そめしけふなから夜は短くもおもひなりぬる

            雷発声

    天の原ふみとゝろかし鳴神の音をはをちにたのむさね床

            麦秋風温

    一重きてあつき山田に刈麦の秋風吹けと汗にそむ袖

            秧天雲昏

    さ苗とる空の気色をたのめてそしとゝにぬれて帰る乙女子

            黴雨油然

    打そゝく雨とをみしを猶さりに雲をかさぬ五月雨の空

            日北到

    日のかけは高天の山も暮にけりけふを限の空と見出せは

            梅子落

    紅の裳裾ふみしたき庭の面にあらそひさまに拾ふ梅実

            鹿角解

    春日野のをしかの角のおつる時を薬狩とてきそふものゝふ

            蛙鳴〓

    植果て水せき入る小山田に蛙波たてなきとよむ也

            蝉鳴断続

    夏山の陰のやすらひする人の鳴蝉のぬをにくしとそいふ

            南風薫

    みよし野ゝ南の山に雲昇る風にかをるは花かあらぬか

            雲峰奇

    嶺たゝむ雲のまよひを檻にみはてゝ涼し夏の夕風

            水萍華

    池広きさやさの岸による波の花をうかへて咲や水草

            蟄虫出

    音をたてゝ秋とやよるはまとふらめ庭に垣ねに虫のはひくる

            水温満沢

    水あさき春の山田の岸みれは雨にたゝへて波のあやおる

            百花爛曼

    よせかへる波も色ある難波の海おしてる宮のさくら咲比

            燕雀巣

    軒みれはつまやをみれはおのかとちすくる声ももゝの囀

            穀雨降

    春雨にふるのゝ桜散果て井出こす水のおとのまされる

            山民摘茶

    田哥にはあらて賑ふ信楽の里の並ひに茶摘をとめら

            村婦養蚕

    こかひする山ふところの里みれは戸毎静にとしといふ也

            緑樹陰翳

    袖なめてかもやのやしろの夏陰をことしも人のかみに詣る

            原野叢茂

    播磨なるいなみの原を分くれは夏はしけきの末のしら雲

            杜鵑啼

    あし引の山田つくれと時鳥死出路にかへる夕くれの声

            水蛍明

    やとりなき野辺の小川の岸くれは群てほたるの光をそみる

            瞿麦栄

    山川のかれ果てぬれと撫児は露をおもけに咲みたれたる

            大暑爍沙

    夏の日のひるはゆきゝもたえ/\に木曽路の駅さはへなす門

            白雨覆盆

    なる神は手まさくりたる音たてゝ雨ひらかたの岸に傾く

            星河横空

    ゆふ太刀の晴行あとの空みれは波たてゝ天の川瀬横たふ

            月桂落子

    月みると山の下〓とひくれはおとしてひとつ落る松かさ

            天地粛

    昨日にはかはりし秋の夕かな風そ身にしむ衣手のもり

            白露冷

    白露に香をや添なん秋風の色にふかむる野路の夕暮

            盲風吹

    北嵯峨の野分の風のあらけれは大井の岸に波さわく也

            陰霧冥

    丹波路は昼をはいつと霧こめてはるれはくるゝ山のふかきに

            禾穎登

    みとしもる神のみつ垣懸なめて晩稲ほす也数もたわゝに

            果瓜熱

    畑にはふ葉隠の瓜のみのるより軒の柿実照まさる也

            夜漸長

    秋風の夜寒の里にやとりして明る永しと思ひ染ぬる

            虫〓盛

    宮人の夕暮まちて出る野は虫のね高く今さかりなり

            玄鳥去

    ゆく燕春を憑みて傾ける日影もおのか故さとにして

            鴻雁来

    雁わたるとはた伏見田霧こめて声をしるへに落る夕くれ

            菊花黄白

    きせ綿の色にかくれぬ花々の香にかをる也君かみそのは

            草樹絞結

    初霜にゆはたをる也立田山川せの波も色に立みゆ

            水乃涸

    あせ果て野中の池の遠近に心をみする冬のあしたは

            霜初降

    初霜は甍をくたる朝朗露かしくれもさむき山里

            〓雨旋

    けさ晴て昼はくもれるしくれ空夜は枕におとつれそする

            雷鳴収

    雷の丘のすかるか冢の上に一声鳴てはるゝゆふそら

            蟋蟀入牀

    あるしなき宿ともしらて蛬夜とこの下のあかつきの声

            百穀登場

    八束穂の山田かるひまを高畠の粟生豆生のよろこひを添

            林木枯

    岐曾山のふかき林を吹わたり冬をしらするこからしの風

            橘柚黄

    立花のかをれる軒をなつかしと立よる袖も色にゝほへる

            麦苗抽

    畑つくる大根青菘のへたゝりに麦もはつかの冬のなかめは

            松柏凋

    たちならふ松とゝきはの柏木の霜にも同し色はみえけり

            〓南到

    糸遊の糸口たつる冬の日の影の永さは春の光りか

            庭地凍

    宮人の沓のおとさへから/\とあしたはきこゆ玉敷の庭

            人閉蔵

    誰人か文読窓の灯火の光もさむく冬隠せる

            六獣穴

    山深き穴にこもりて春待とにこものあらもの女は子たかりて

            微霰飛珠

    さつ人のいる野の原の山陰に霰玉うつあかしかねつも

            凝雪鋪銀

    白銀の対馬の貢絶ぬかもあられ玉しく大宮の庭

            池水牢堅

    ふしつけの下にをみゆる鯛鮒の鰭動かして何あさるらん

            水鳥浮游

    大沢の池のもり陰木のはしきて冬暖に游ふ水鳥

            寒梅開

    年の内にあすたつ春の窓のもとに梅の暦も開初ぬる

            歳菊莟

    伊吹山させもか下に春しらす福寿の草の色のよろしさ

寒と癇と相うちて、揮毫まゝならねは、たゝ新題をよみて、かくえらめりと見たまへ。あたゝかなる小春を得たらは、うつし改めて参らせむ。

                                                                                                    天罰

                                                                                                            七十よさい

                                                                                                                                    判

                                                                                            イ本

                                                                                                    天罰七十二翁拭盲眼書

此一帖なるものは、翁の艸稿なるか、故有て、白井懽徳ぬしのふたとちまてもたるを、こひうけて、そかまゝに写したるなり。かたみに異同あるをは、朱にてかたはらに書つけぬ。はた、てにをはのをれあひたるやうにて、いかにそやと傾るゝ処/\、なきにしもあらねと、抜群のをきなの糠嘗者の手のやうなれは、さることにも有なん。天罰しか/\の文字をふたきて見すらん、彼人のとはしらるへきものなりかし。後みん人おもひはかり給へ。

            文政二子の神無月、薔薮主人筆とりてしるす。

此一巻は、林讃州康満県の家蔵也。原本、仮字違、誤写なとゝ見ゆる所/\もすくなからねと、其侭に写し置ぬ。後日善本を得て対校せしむへきもの也。

            嘉永二年酉臘月

                                                                                            峨山青庚林康朗

右本、林石州康朗県主写しぬるをみせらるゝを、おのれ又写取て、仮字違、誤写等、可為斧正者歟。

            嘉永三戌年初夏

                                                                            春洞蓼翁居士 [花押]

            ◆追擬花月令

ふるさと人のとひ来て、いさたまへと云。すゝろくとはなしに、れいの出たちぬ。卯月の始より、日永きやとりのつれ/\に、七十二候のした書とうてゝ見する。此人ゝの中に絵かく人の、群芳譜と云ふのみはしにぬきおきしとて、花月令とて、ひとゝせの月なみなる木草の花ゝをえらひ、言をもくはへたるかいとくるゝには、おなし物からいふかしと思ふもあり、是をこゝにおふるくさはひにこくませつゝ、あらたについ手をたつる、いとまのみなる老か玩ひ草の、これはた、ことしはかりのよはひの数にゆひ折はてはやの、ねきことのけしうひか/\しき心やりにこそあれ。

    梅蕋吐

梁元帝纂要風一月両番花信云、陰晴寒暖、各随其時、但先期一日風雨微寒者即是、而以梅花為第二十一番、又花史左編花信二十四番云、第一信、曾端伯十友云、清友、張敏叔 十二客云、清客。

    迎春放

黄梅一名。

    蘋転緑

杜審言早春作、淑気催黄鳥、晴光転緑蘋。

    蘭幽香

一幹一花名独頭蘭、俗称春蘭、此土野生者香乏、唯有一種幽香者、花月令云、蘭〓芳、 是二物同類、為一種者可疑、花暦共出正月、此土多二月開。

    老竹落葉

    嫋柳繊眉

    山茶弄玉

草木薬方雑記云、日本国以山茶呼椿、而賞白花為白宝珠、近世点茶家専鍾愛之、昔年釈 策伝者著百椿鈔、此云都婆木、梁花信第廿三。

    連翹登架

和名鈔、云以太知草。

    筆頭莟

俗称土筆、又云都久々々志。

    地丁〓

和名鈔、云菫菜、俗謂之菫葵、野菜部、此云須美礼、按菫有数種、須美礼亦二種、葉尖 者、円〓者、花紫色亦有浅深、円〓者曰都煩寸美礼。

    桃夭々

梁花信第十九。

    梨溶ゝ

    海棠嬌

西湖遊覧志云、紅者貼梗、粉紅者垂糸、此花未開時純紅、至満開壮観漸衰、与紅梅一般、薄紅者林檎同類耳、曾氏云、名友。

    咲良妹

西土無是種、故字不可有、古来割桜桃用一字、允恭帝賜皇妃衣通之御製曰、花具波之、佐久良能免泥、言花開嬋妍可比皇妃之妹々、古言精妙以不可説之義曰久波之、御制花具波之咲也、良助音耳、蓋佐久良之名始于此乎、桜桃一名望春、俗称由須良梅、西土山生者有喬木、白楽天黄山谷詩云山桜、又云山花、笵石湖初見山花詩、三日晴泥尚没〓、幾時風雨過年花、湘東二月春纔到、恰有山桜一樹花、或云、此詩本邦人似詠春花、又白氏早冬詩、柘葉黄如嫩樹、寒桜枝白是狂花、斯句冬景、得暖開之状、此土与桜花相似、然物自可違、彼土無有此種也、近世釈道本詩、東来初見此花奇、無限春叢譲白眉、的〓〓珠三百斛、玲瓏玉樹万千枝、何妨〓李先春艶、不与寒梅遜雪姿若使〓娥宮裡種、凌光多似桂開時、又梁花信第七云金桜、是亦桜桃歟。

    木瓜砕錦

毛詩木瓜篇、投我以木瓜、報之以瓊〓、注木瓜楙木可食之木、孔子曰、吾於木瓜見苞苴之礼行、是賞子也、然花亦可愛、此土喬叢有二種、叢者花丹、喬者粉紅与海棠等、只可怨有刺乎。

    菜花繍綉

〓臺花、俗称奈乃花。

    山吹臨崖

是亦字以無可当、或説棣棠尚難従。

    躑躅映谷

花有丹紫黄白青、凡三四五月関連ゝ開、総称都々自、其開五月者、曰左都幾、長慶集、山石榴一名羊躑躅、又云杜鵑花、和名鈔、山榴、阿伊豆々之、或説、温庭〓海石榴詩、海榴開似火、先解報春風、是亦一種、而似春初開者、万葉集、以海石榴訓都波木、可疑。

    紫藤帚地

云不治乃花、楽天三月卅日題慈恩春色今朝尽、々日徘徊倚寺門、惆悵春帰留不得、紫藤花下漸黄昏、国詩学此結句、多云太曾加礼時。

    薔薇傍籬

此云以波良能花、花紅白、紅者重瓣、白者単瓣、而有美香、俗称野薔薇、又種尤多、有四時者、遂月者、与茶げた同類、共有刺、張氏云、媚客、本邦文人亦登架植盆、以為詩友。

    牡丹王

本名木芍薬、花信第二十二、張氏云、貴客、昔者蜀中刈為柴薪、到于李唐之代、珍賞大盛、貴之花王、而花有紅白丹柴、各浅深雑色、当時魏柴 黄之名聞于天下、但黄花後世乏、王敬美偶得之、以驕于人、其翌年変白、歎云、我已欺矣、斯土未見黄花、一書生話云、近曾見紅花白点者、大為奇、園主哂云、是雨点也、予往年雨後見牽牛花深碧白点者、与斯同。

    芍薬相

草種故以木勺葯為王歟和名鈔、云恵比須草、毛詩げたげた篇、維士与女伊其、相謔贈之以芍薬、鄭玄云、士与女往観、因相与戯謔、行夫婦之事、其離別則贈女以芍約、結恩情也思香艸有餘韻此忍情不可以忘者乎。

    新樹影似濁

    弱廬出藍水

    溲疏〓

和名鈔、一名楊櫨、此云宇都木、俗称箱根卯木、花初白漸変紅、又一名十姉妹、国詩喩以雪者、花葉共小、且不変色、後群芳譜云、水晶花是也、然同類花葉有大小耳、此云宇能花。

    罌粟散

此云介子乃花、有紅白紫重単瓣。

    垣津籏搨衣

漢名未詳、惟是菖蒲属、万葉集云、加幾川婆多、衣耳摺付、物乃部能、競狩寸留、時者来仁遣里。

    紫陽花玉毬

此云阿治左為、万葉集、云味藍、按訓宇末阿為歟、古語美称謂之宇万所謂宇万酒宇末人宇万志国、以美良味等字用之也、碧青殊美、故云宇万藍、又四艸葩云与比良乃花。

    萓艸佩帯

一名宜男艸、妊婦佩之則必生男児、又云忘憂草、此云和寸連草、〓康閑居賦云、〓草忘憂、合歓〓忿、言叔夜一日閑然兀坐、憂悶忿怒之情頻長、歎息猶不止、偶見于簷于墻二花之開、依是須臾似レ解2忿悶1乎、而文人伝之、口碑与宜男、効奏為同者歟、古歌、忘草我下紐に著たれどしこ の醜草ことにし有けり、此詠佩帯似宜男艸之故歟。

    昌蒲華縵

此云阿夜女草、聖武紀天平十九年五月五日、太上天皇詔曰、昔者五日之節用昌蒲為縵、此来已停此事、従今而後非昌蒲鬘者勿入宮中、釈氏五供養第二、以花〓為摘花、与今相違。

    楝花似濡

此云阿布知、梁花信第九、月令見三月、而云応候、花史左編第廿四信、以為立夏、此土花時四五月間。

    石榴如燃

俗称坐久呂、用字音。

    〓蔔禅牀清香

梔子花也、此云久知奈之、金陵瑣事曰、鳳臺門外白雲寺有〓匐一叢、西洋移来、花瓣似蓮稍痩、外紫内淡黄色、嗅之辛辣、触鼻微有清香、与仏経所云贍蛾花同、此土無此種、花初白漸変黄、与金銀花同船、曾氏云、禅友。

    百合園中趣多

此云由利乃花、ゝ品大小丹紅白、又山生有紫黒者、万葉集、云堅香子花也、奥羽産曝其根為粉食之、名云加多久利、所謂加多可期、由利之転訛也。

    石竹雨過

罌麦一名、此云奈伝之古、通志略云、其葉細〓花如銭、唐人象此為衣服之飾、李太白詩、山花挿宝髻、石竹繍羅衣、王荊公詩、已向美人衣上繍、更留佳客〓嬋妍、予昔年村居、多栽之成趣、試以糞培、夏秋間生長三尺許、幹茎梗直節々高、状如新竹、花亦大、宜哉石竹之名。

    芙〓浴露

荷花此云波知寸能花、或云、其花〓〓、其葉〓、其実蓮、其根藕、芙〓総名也、曾氏云、淨友、梁花信第十。

    鼓子蔓野

俗称午時花、又云昼顔。

    凌宵懸樹

和名鈔、云紫薹〓名凌宵、此云末加夜木、又云農世牟、花丹紅色。

    木槿萎夕景

一名舜、此云朝〓、一日栄者尚多、木芙蓉、黄槿、黄蜀葵、牽牛花、吉貝等、後世独以 牽牛花称、呼木槿、以字音称毛久芸、花紅白、或二色相混、梁花信第十四。

    胡盂盧暁天白

此云夕顔、其実苦憩二種、而甘亦変為苦味、非有別種也、鎮火祭詞云、匏、川菜、埴山 姫土神、以是三主種鎮火災、匏汲水之器、将令汨潅以滅火、川菜水藻也、投之火中弛以火勢、埴山姫土神、以土徳圧火之義也、上古以瓢為水器、今世点茶家、作以炭斗、変易如是。

    桐葉報秋

此樹実暦書也、云毎杪十肪二葉、閏年加一葉未試。

    葛花猶夏

此云久受能花、万葉集、入秋花七種。

    鶏冠長

一種短矮者名之寿星。

    淡竹〓

本名鴨跖草、此云都紀草、上古摘之花染着衣服、名云都紀草榻、又云野榻、又采以透骨 艸実搨衣、謂之山藍榻、又云山榻、或云野藍山藍。

    秋芽艶姿

此云波疑乃花、俗用萩字、万葉集、云秋芽、又云芽子、以其状呼之〓、或説、胡子花、 本胡種、故無字、銭塘天竺寺栽之、因名天竺花、又百菊集譜云観音菊、花自五月開至九 月、花頭細小、其色純紫、枝葉如嫩柳、其幹之長与人等也、形状相似、惟以菊不可名乎 、上古摘之花以榻衣、今以〓帋試之、紫色最勝於花。

    女郎妖態

此云遠美那皿之、万葉集、云女郎花、和名抄同、但為漢名不知之部、今世云敗醤、或云 、不当、楽天詩、請辛夷女郎花曰、怪得独饒脂粉態、木蘭作女郎花来、陸放翁詩、数点 霏微社公雨、両

叢閑談女郎花、幸夷一名木蘭、形状不可言女郎者歟。

    桔梗深青

和名紗、云蟻乃火吹、咏題用字音、云幾知加布能花、又一種有白花。

    〓香浅紫

和名紗、蘭訓不治八可末、今似〓草、因陸徳明説。

    芙蓉三酔

此花一日三換色、故云三酔、又云、初開白、次日稍紅、又明日深紅、如是則三日三酔也、一云拒霜花、予嘗云、秋花中之奇品、国詩無詠格、可謂花之不幸。

    木犀薫雨

一名嵒桂、叢生山巌間、花白名銀桂、黄金桂、紅丹桂、春秋有二種、或四時或遂月開者、皮薄不辣不堪薬用、惟花可収茶浸酒、予嘗試之収茶、其法去〓以収之瓶中、茶一層花一層、而後密封貯之、烹茗之時一焙而投之瓶、又采花陰乾、一撮投之湯亦可也、梁花信第十五、曾氏云、仙友。

    地楡閑

此云和礼毛加宇、和名鈔、一名玉鼓、此云阿夜太無、一云衣比須禰、按咏題和連毛加宇、源順之時未有此名歟。

    僧鞋破

俗称烏甲、烏頭花也。

    叢薄招行人

此云寸々紀、其穂云尾花。

    芳菊来貴客

曾氏云、仙友、張氏云、寿客。

    鴨脚黄

銀杏樹俗称以丁、秋来黄葉最美。

    拘杞丹

或罩疎籬、或登架、珠〓累々最壮観。

    霜葉紅于二月花

諸木不耐霜、其葉紅黄、一種有五 者、此云毛美治葉、万葉集、秋葉紅黄同訓。

    冬草白於銀沙臺

諸草秋色、唯凋枯変白。

    青女〓賽珊瑚

一名虎茨、俗称梅毛刀木。

    六蔽南天燭

    茶梅馥

俗称山茶花本同類、唯芬香有無耳、花史云、諸花凋謝之候、花如鵝眼銭、 粉紅心黄、 開宜耐久、此土花白者香芬秀、摘之陰乾、投之湯気韻可愛玩、味亦甘美、又花不問紅白 、春芽鎗簇之時、采摘陰乾 収之、烹茗瓶中撮一二葉以投之、則大助茶気、若過多則気 如丁香、却奪茶韻、予居常所試也。

    茗圃華

茶為上品、茗為下品、未知其分、唯有製之精粗已。

    水仙負氷

花鏡云、因其性喜水、故名水仙歟、或説、花形六出似画水字、故有斯名歟、古来有香艸 之名、凡香臭人之従所好、 雖悪臭又為善也、梁花信廿二番。

    寒梅搴燈

    柑橙貫珠

    盧橘綴金

枇巴花也、本草云、一名款冬花、高青丘詩、惆悵冬花樹下、一尊今日共誰開。

    古墳疎松寒

    社公老杉凋

    花王欲狐裘

    隠子被朱衣

    臘梅骨冷

    月季顔麗

薔薇一種有凌霜雪開者名云月季一名長春。

おもふに、西の国〓〓のあひたあたゝかにして、こゝにおひ出るとは、なへてさいたちた覧を、たま/\には、時をおなしくするもあり、こゝにもをちこちの国々には、さま/\たかひありとや。こはおほよそ、都、なに波の間に、我住ふりて見聞しをもて、此ついてにたてし也。いとわかきより、硯を耕へすあまりには、何事をもしらす、土かひ水そゝく遊ひは、わきてうとかりしかは、其いろ香つはらにはわいためぬ物から、たゝ人のかたり聞ゆるまゝになん、書なみし。是は又名の煩はしきまて多かるこそ、にし国のふみ作る人のやめるなりき。或はいにしへのあとをふむかと見れは、我をおやに打ほこりて名つけしもあり、又人のことをおひては、あらぬさまもてさきにこと物のしかるかありとも、探らて呼なすよ。薬なめわきしひしり達さへ、或は憇していひ、酸しと云、又からきを、苦い塩〔以下欠〕