後篇端書風俗

  君に奉る詞

○御前の花さかりなるに「宴(ウタゲ)」[日本紀]したまふとてめされければ、まうでゝ、御酒(ミキ)たばひ御哥たばひけるにこたへ奉る

○おなじとき、御前ちかく「宍人(シゝヒト)」[日本紀料理人也]をめされて、魚(ナ)をつくらせ「鍋一口」(ナベヒトクチ)[延喜式]をすゑさせて、それを煮させて「めす」[万葉食(メス)也]。「間」(ハシ)に[万葉]夕風吹わたりて、食(メス)物にも御席(ムシロ)にも花いたく散かゝりぬれば、さむらふ人々にもやつがれにも、とみに哥よめとおほせあるに

○「初冠(ウヒカウブリ)」[伊勢物語、元服ナリ]したまふ御祝(ホギ)事のはべるにめされければ、まうでゝ、「かしこけれど」[万葉 恐レアレドモナリ]賀哥(ホギウタ)[古事記]奉る

○御嫡女(ムカヘメ)の君[日本紀嫁君ナリ]いらせ給ふに、奉るほぎ哥

○真鴨」[万葉]「一番(ヒトツガヒ)」[古事記]を川添柳(カワソヒヤナギ)[日本紀]の枝を折て是につけたてまつるとて

○御世継の君うまれさせたまふに、ほぎ哥つかふまつりて、御「産屋(ウブヤ)」[古事記]にたてまつる

○馬場(ウマバ)の殿にて、人々馬を走(ハセ)ながら弓射るわざしけるを[騎射ナリ]、見給ふ「なへに」[万葉、並ニテ其時トイウホドノ義ナリ]、かゝるものゝふのわざを哥によめとおほせありければ

○狩(カリ)におわしましけるに、雨のいたう[痛ニテ甚シキ義ナリ]降出て風も吹きければ、御「幸(サチ)」[日本紀、幸ハ得物ノ義ニテ則〓ナリ]もなかりし間、「沢田(サハダ)」に[万葉]川鴈(カハガリ)[日本紀、唯雁ノ義ナリ]の五つまで「あさりて」[万葉集、足探(アサリ)ナリ、餌食(エハム)サマナリ]さむらふと申ものゝあるに、御すがたをば蓑笠にやつし給ひて、物のかくれより「はなたせ」[万葉、放遣ルトヨメリ]給ふに取得ければ、それを御笑にて、鷹つかひどもにも御いとまたばひ、やがてかてかへらせ給ふに、御狩の歌あそばされて、御こたへつかふまつれと仰あるに

○散楽(サルガウ)[猿楽ナリ]まはせて見させ給ふ時、御かたへにさむらひけるに、鉢の木「とふ」[万葉、トフハトイフト云詞也]舞つかうふまつる中に、実(マコト)の雪いたうふり出しかど、俄に御〓{艸↓翳}など立さわぐべきをりにもあらず。さる間に彼の鉢の木のうへにふりかゝるけしきいと面白ければ、これがさまをとみによめと仰あるに

  祖父に奉る詩

○我祖父(オジ)の「命」[古事記、命ハイマノオコトゝ云詞ナリ]八十まり九つにおはすが、さすがに弓は「ひきまかなひ」[日本紀、彎弓(ヒキマカナヒ)ハ引曲ナリ]たまはねども、馬には「はひのり」[万葉]「たけび」[日本紀、イサムサマナリ]たまふさまの「をゝし」[万葉、コレモイサマシキ也]ければ、よみて奉る

○我祖父(オジ)の翁を「別業(ナリドコロ)」[日本紀]にすゑまゐらせて、時の草木の花など植こめてなぐさめまゐらするに

  祖母に奉る詞

○祖母(オバ)の命のいと「おいなみ」[万葉、老ノ義ナリ、イナミノ反イ]ておはすが、ことしは有馬の湯に我母「刀自(トジ)」[日本紀、刀自ハ戸知ニテ其家ヲシルト云義ナリ、依テアガムル詞トス]など伴(トモナ)ひおはさむとのたまふ。さは山桜の咲きをゝる[ヲゝルハ花ノ咲タワムコト也]頃ぞよかめれなどきこえまゐらするとて

○祖母の大刀自[母ナドヲ刀自トイフヨリ是ハ祖母ナレバ大ノ詞ヲモテイヘリ]、藤原氏にておはするに、大原の春日の御神[山城葛野郡]に「ぬさ」[万葉、幣ナリ]奉らんとて詣給ふに、伴ひまゐらせて

  父に奉る詞

○我父の命(ミコト)ひさしくいたづき[万葉]おはしぬるが、春に成りてをこたり果(ハテ)ぬるに[快気ナリ]それが祝事(ホギゴト)を花の林にゆきてしけるに、人々哥よみ[古事記]したまふにつきて、やつがれもよみて奉りける

○我父のみこと「壮年(ミサカリ)」[日本紀]に植給ひつる藤の、今ははひほこりてあるが、「時にもあらで」[万葉]花咲ければ、氏のさかえなどおもひて祝事(ホギゴト)し給ふによめる

○父の命に御杖(ミツヱ)奉るとて

○父のみことよき馬もとめ給ひけるに、ともに「よろこぼひて」[伊勢物語]よめる

○我父のみこと世にはかくれて[隠居ナリ]別業にすまむとあるに、とゞめまゐらせてよめる

  母に奉る詞

○我「母の刀自」[万葉]西の国の「寺巡り」[大和物語、西国順礼也]せんとて、弥生ばかり出給ふに「あともひ」[万葉、跡思ニテ伴ナフ義ナリ]まゐらせて

○母の刀自高雄の紅葉みにまゐりたまふに「ゐて」[古事記、伴ナフナリ、則帯ト云詞、オビの反ヰ、オビハクハヘ益コゝロノ詞也]参りければ、いたくうちしぐれて帰らせますべきにもあらず。さはとて宿(ヤド)るべき家もあらぬに、かねて柴うるとて市に来る女のいほりをしりて侍りければ、こひてその夜はやどる。唯刀自のおぼつかなくおもはせ給ふを「なぐさめ」[万葉]まゐらせてよめる

○冬のはじめ、母のみことに「綿衣(ワタギヌ)」[万葉、今ノ綿衣(ワタコ)ナリ、万葉ニキヌワタトヨメルヲトリナシタリ]たてまつるとて

  舅に奉る詞

○我舅の君のもとより、「よき酒あり」[伊勢物語]来てのめといひおこし給ふに、さはる事ありて参らざりしかば、かさねて哥よみして」いひおこしたまふにこたへける

○舅の翁の家に「倭鞍(シヅクラ)一口」[延喜式]もたり[持テアリナリ、テアノ反タ]たまふを、日頃こひけるまゝに、今はゆづるべしと聞え給へば、よろこびにたへでよめる[伊勢物語]

  姑に奉る詞

○我姑の刀自は妻(ツマ)[日本紀、妻は夫婦、タガヒニ云詞]におくれたまひて、ひとりつれ%\と[連々ニテタエザル心ノ詞、仍テ物オモフ詞ニモナル]こもりおはするを、いとほしくおもひて、家を「二鞘(フタサヤ)」[万葉、家ノ内ニシキリテ住ム家也、造リコメテ住ム故ニフタサヤノ家ト云]に造りかへ、庭などをかしくして、卯月ばかりうつろはせまゐらせけるに、いとおもしろく哥よみてたばひければ、こたへ奉る

○姑のをば君[老女ハヲバノ仮名ナリ]「蚕(カフコ)」[万葉]の糸とるわざなんよくしたまふに、「新桑繭(ニヒグハマユ)」[万葉、即カヒコノマユ也]の哥よみてたてまつる

  叔父に奉る詞

○我叔父(ヲヂ)[ヲヂノ仮名也]の「あそ」[日本紀、吾兄(アソ)也]「島このみ」[伊勢物語、庭好ナリ]給ひて、をかしき石どもたてくはへ、おもしろき草花など植こみつゝ、秋となれば人つどはせてうたげしたまふに、あるじがたに」[伊勢物語]さむらひて、その日の「賓客実(マラウドザネ)[伊セ物語、上客ヲイフ、実ハ頭トイフニオナジ]によみて奉る

○をぢの翁こもり居て書(フミ)読(ヨム)べき「新室(ニヒムロ)」[万葉、新宅也]を造(ツク)り給ひけるに、唐方(カラガタ)の墨奉るとて「くはえて」(後撰)まゐらす[クハエテハ添ヘテ也]

  兄に奉る詞

○我「いろせの命」[日本紀、兄ナリ]、君より禄(カヅケモノ)たまはりけるに、そのほぎ事すとてあるじまうけあるに[馳走ナリ]まゐりをりてよめる

○我「せうと」[伊勢物語、兄人ナリ]のみことあさり[漁猟ナリ]して得給ふとて、「口大(クチヒロ)の鱸(スゞキ)」[古事記]に手長(タナガ)の海老(エビ)[手長ハ祝詞ノコトバナリ、サルヲ俗云手長海老(タナガエビ)ニカリテイフ]など「交(カテ)て」[万葉]たまはりけるに、「いや」[日本紀、礼ナリ]申とて

  伯母に奉る詞

○我伯母(ヲバ)の刀自[ヲバノ仮名也]、やむごとなき殿にめされてまかづる[退出ナリ]とき、物「さはに」[日本紀、多ナリ]たうべけるを、あがちて[分ナリ]たばひしかば、いや聞え奉るとて

○伯母の君伊勢の国なる「うからが」[万葉、氏族(ウカラ)也]もとへ参り給ふを、おくり奉りてよめる

  姉に奉る詞

○我「いろねの刀自」[日本紀]人の家(イヘ)にむかへられて[嫁入ナリ]参りたまふを、ほぎてよめる

○いろねの刀自より、しはすばかり麻(アサ)の袴(ハカマ)・かたぎぬ[万葉、ヌノカタギヌトアリ]に「のしめ」[和名鈔]の衣そへてたまはりければ、いや申すとて

  兄嫁に奉る詞

○あのめの君[ニヨノ反ノ也、兄嫁(アニヨメ)ヲツゞメテ云]心持(コゝチ)あしくしたまふと聞きて、「花瓶(ハナカメ)」[古今集]に桜・山吹などをさしこめて、「墨江(スミノエ)の粉浜の蜆」[万葉]をくはへてまゐらするとて、かねて哥このみたまへば、兄(セ)の君のよみ給ふさまに、真名(マナ)がきにかいつけて奉る[是ハ兄嫁ヘノ謹ナリ]

○あのめの刀自におちくぼ物語の冊子(フミ)を借(カ)しまゐらするとて、此君の真実(マメ)[伊セ物語]におはす御心(ミコゝロ)をなぞへて[伊セ]よめる[落クボノ君ハ賢女ナリ、ナゾヘハクラベルナリ]

  弟へいふ詞

○おとうとへ申つかはす事のはべるついでに、時の哥かいつけてつかはしける

○おとうとが旅行するを、山をば馬にな乗そ、海をなわたりそ、よくゆきてよく来(コ)よ[此詞万葉ノハシガキナリ]など、聞えはべるとて

  妹へいふ詞

○おとのをとめが人の家をさめに行を[嫁入ナリ]、守(マモ)りは「赤子」(アカイコ)[古事記、赤子ハ賢女也]が心にならへ、みさほは「田主(タヌシ)が妻」[日本紀、烈女ナリ]をおもへなど、いさめてつかはすときの哥

○いもうとがもとへ、都のつとゝて金(コガネ)にて絵(ヱ)を蒔(マキ)たる[金粉ノ蒔絵也]鏡台(カゞミカケ)[和名鈔、加々美加介]、〓{赤+輕-車}粉(ベニ)[和名鈔、閇邇]、白粉(ハフニ)[和名鈔、俗ニ波布邇ト云トアリ]、白キ物ト云ハ雅語ナリ)、黛(マユズミ)[和名鈔、万由須美]、黒歯(クロメ)[和名鈔、俗云波具路米]の具(ソナエ)[道具也]、唐櫛匣(カラクシゲ)[和名鈔、漆ニテ匣ル厳器ナルヲイフトアリ]などおくるとてよめる

○いもうとが人につきて[夫ニ添テ也]遠(トホ)き国へくだりにけるが、いたくわづらふよし申こしぬるに、十五夜(モチ)ばかり月のあかき夜、ことさらにおもひ出ければよめる

  甥にいふ詞

○我甥なりけるが西の国に生(オ)ひ立て、ことしはたちばかりの男になりてのぼり来けるに、をさなくてわかれけれど、おもゝちのおぼえしにたがはねば、いとめづらかにて

○甥なる[ニアル也、ニアルノ反ナ]子がもとへ「桧折(ヒヲリ)の日」[伊勢物語、端午]、甲着たるものゝふの人形(ヒトカタ)[源氏物語]」をおくりけるとて

  子にいふ詞

○我子玉麻呂[子ニハ専ラヲイヘリ]をけふより「総角(アゲマキ)」[日本紀、今云半元服]にすべきほぎ事すとて

○我子清主けふなん「書生」(フンマナビ)[日本紀]はじめけるに

○真子(マナゴ)なる音住にさるべき[相応]妻をむかへけるよろこびに

○真子(マナゴ)[万葉]のなかりしほどに、うからなるものゝ次の子をこひ得て世継(ヨツギ)の子と定めけるとき

○我子正なりをいさむるとて、額(ヒタヒ)には箭(ヤ)は立とも背(ソビラ)には箭は立じといひて、君をば「一つ心をもてもり奉る」[続日本紀]物ぞなど申聞せけるとき

  孫にいふ詞

○孫なる梅麻呂に、おぢはかく老ぬ、唯家の名をおもひて「祖(オヤ)[万葉]の名な立そ」など申きかせける時

○孫なるものゝ嫁が子うみつとてうちよろこぼふを聞て、命ながきも品にはよりつなど、たはぶれ事にいひゝよみける

  我妹にいふ詞

○我妹(ワギモ)[万葉妻ヲ云]がゑつる梅のことしはじめて花咲ぬれば

○妹として庭造(ツク)りけるに[万葉妹ト斗モ云]、池にはなちたる鴛鴦(オシドリ)の子うみければ

○妹ゐて「あがたへ」[万葉ヰナカ也]行とて、あかつき道だち」[日本紀発路也]しけるに、時鳥の鳴てすぎぬれば

○妹が読をりける哥の冊子(フミ)に火取(ヒトリ)の火をうちこぼしてはべるに、所々「こがれて」[万葉下コガレトアリ]、そが中には見わかぬくだりいできぬれば、かなしがりつるほどによめる

○妹が神まうでしてかへさに、蔦(ツタ)のもみぢしたるに哥をつけてもて来たり。よみてみればふるき哥なるに、などみづからはよまぬぞなどいひて

○妹が熱〓(ヤイクサ)」[今モグサナリ]もて肩(カタ)のあたりを焼(ヤ)くに、たへがたきおもゝちしければ、「いはなが姫」[古事記悪女ナリ]ぞあれといひつゝたはぶれによめる。

こもりづまにいふ詞

○こもりづまの[万葉][カクシ妻なり]もとにゆきて夜深くかへるに、ちどりいと高く鳴て雪も「はだれ」[万葉、今〓ハツレナリ]ふりつゝ、雲をもれ出る月の影なども、さむけき川面(カハヅラ)にさしわたりければ、よみて道よりつかはしける。

○こよひとなん聞えし女のもとへ、風のこゝちしければくすりたうべてすこしもをこたりなばなど、申つかはすとて

○霧こめてはべる夕、おぼつかなくおぼえし女のもとへ

○あらはには住(スマ)で[伊セ物語][住ハ女ト一所ニ居ル也]はべる女のもとより、垣津(カキツ)[万葉][垣ナリ]のさくらいと「かそけく」[万葉幽ナリ]咲きそめてはべるはなか/\にあはれにはべるなどきこえける〓のこたへに

○人しらず住なしたる「妹がり」[万葉、妹ガアタリ也ガアタノ反ガ]行てかへさに、さゝやかなる庭に生ひさかえてはべる「なゆ竹」[万葉和節竹(ナヨタケ)也]の枝につけてべりける哥

○女のもとへ「紐鏡(ヒモカゞミ)」[万葉、今アル円鏡ナリ]をおくるとて、なときそ勿解ナリ、など申つかはしければ、こたへするに、又申つかはしける

○かすかにてすまふ[マフノ反ム住(スム)ナリ]女のもとへ、「駒さへ面高(オモダカ)には乗(ノ)りて来じ」[万葉ニ忍ブサマノ所ニ此意ヲヨメリ]、世の「こちたさ」[万葉、言痛の字意ナリ、トイノ反チ]のくるしきになど、いひつかはすとて

○霜いとしろうふれるあかつき、「出て来しあとだにいまだかはらじを」[伊勢物語ノ〓]など書ておくに

○しのびていきたりしに、高麗(コマ)の小犬(コイヌ)[狆ナリ]のよく馴(ナレ)てはべりけるが、見しりつればうれしげにてむかへけるを、あるじはさらにもあらぬよなどうらみて

○女のまだ「世経ず」[伊勢物語若キ女ナリ]と見ゆるに「ものいひて」[伊セ物語ナジムヲイフ]しば/\往かよひけるが、春の頃なりしかば雀(スゞメ)の子のよく馴(ナレ)てはべるを篭(コ)[カゴノ反コ也]にいれてもたり。さるを「とうでゝ」[源氏物語取出テ也]、手にすゑて見をりける間に、物におどろきて飛行はべるを、彼女が童(ワラハ)なす[万葉ナスハ如也]したひて泣ければ、いさめて読める。[源氏物語若紫ノサマナリ]

○しばしの間あがたあたりにかくろへとて、家もとめてをらせける女のもとより「田「うゝる」[伊セ物語]ときなり、水草などもいときよげにさむらふを見に来よといひおこしぬれば、こたへに

○妹がり往(ママ)てかへりてのあかつき、よべの事ども何くれと[源氏物語何カトナリ]申つかはすついで、おほがさ[和名〓傘ナリ]、あまぎぬ[和名〓合羽ナリ]、足下(アシタ)[和名〓今云アシダナリ]など、ひそかにかへし侍るとて

○妹がりとひはべれば、わか木の桜「みづ枝(エ)さし」て[万葉集若枝ナリ]、日のうら/\に[万葉ウラゝカ也]さしわたるけしきいとおもしろかりつれば

○秋の夜、風冷しく吹(フク)に、かよひて往ける妹がり行て月の出るを待ほどに、野にも岡にもむしの声のしきりにきこえければ

○笠やどりしてはべるに[万葉、雨ノハレヲマツ也]、女はうちそばみ[源氏物語、則傍見ニテソムク義ナリ]ながら、久しくみえ給はぬ間に「道しばは」[万葉]かくおひしげりてげりて侍るなり、けふだに雨ふらずは、などいひ出けるまゝに

○こもりて侍りける女のうしろめたう[伊勢物語、後見痛ニテ心モトナキ也]おもふ事はべりしかば、ためしてやみむと、異男(コトオトコ)[外ノ男也]の声づくりして門にたゝづみてはべりけるを、女(メ)の童のとく見出て告(ツゲ)たりけん、いと/\うらみてよみ出しほどにこたへて

○母ゐて隠(カク)れをりける女の、みづからはかくても侍らん、母の刀自のいとわびしくしたまふ、など聞えけるに、いかさまにもとおぼえければ、やどりをかへまほしくしけるとき

        友どちにいふ詞

「雨まじり」「霰ふり」[万葉]ける日、友がりいきしに、未(ヒツジ)の時をうつ鐘のこゑ[和名鈔於保加祢]のしけるに、いそぐとて「足下緒(アシタヲ)」[和名鈔、阿之太乎、今云足駄ノ鼻緒ナリ、ダトニゴルベカラズ]踏はなちて、いたく襪(シタクツ)[和名鈔、之太久頭今の足袋ナリ]に「ひぢりこ][祝詞泥ナリ]のつきけり。

浴室(ユヤ)[和名鈔、由夜、是ハ仏家ノ浴室ナルヲコ、ニハカリテ銭湯ノコトニス]もなきあたりなれば、そこなる亭(アバラ)[和名鈔、人所停集也、今ノ茶亭ナドニアテ、イフ]にいりて「足洗」(アスマシ)[延喜式]などし、さてかのひぢたるをば[古今集、ヒチトヨメル、漬ナリ、タシノ反チナリ]「垣穂」(カキホニ)[万葉]うちかけて、かへらんずるときとりてゆかんといひおきて、友がりゐりてそのありさまをよみける

○月[伊セ物語]のおぼろげなるに、「山の井」[万葉]汲とて水瓶(ミヅカメ)[和名美豆加米]、〓水〓(ミヅフルヒ)[和名、美豆布流比今云水コシナリ]をもちてそひ[万葉、ソヒハ岨ナリ]の小道をゆくに、鬼火(オニビ)[和名鈔、燐火於邇比人及牛馬兵死者血所化也]にやあらん[小青」(サアオ)[万葉]にてひかるものあり。とばかり[源氏物語、少時ナリ]うちおどろかれぬれど、心を定て「目勝」(マカチ)[日本記、ニラメカツト云意ノ詞]てみれば、朽(クチ)たる木のひかるにてありける。

さて我心のをかしかりつることをよみて、友どちへやりける。

○小野道風の筆のつたへとて、よく物書男をまねきて、硯(スミスリ)[和名鈔須美須利]、藁筆(ワラフミテ)[和名鈔和良不美天]を添えて出したりしかば、唐言(カラコト)はかゝで、書櫃(フミビツ)[和名、布美比都書物笈ナリ]より万葉集をとうでゝ、赤人の富士をよめる長哥をなんかいつけしほどに、称(タゝ)へてよみける

○けふは俳優・(ワザオギマヒ)[日本紀、今ノ狂言ニアテゝカク]みにゆくべし、さずき[和名鈔、佐受伎、古事記、山神ヲ祭ル仮庇也コゝニハ物見ノザシキニアタル]一問は御あるじつかふまつらん[此方ニテトラント也]、「食物(タベモノ)」[拾遺集]は橸〓子(カレイコ)[和名鈔、加礼比許ハ今ノ破子ナリ]にてそこより物し給へと申つかはすとき、たはぶれによめる

○我友よく火箭(ヒヤ)[日本紀、今鉄砲ニアテゝカク]を射(イ)けるが、おもほえず火の薬[ヱンセウナリ]にあたり焼(ヤキ)たゞれたりと聞て、油薬(アブラグスリ)[膏薬ナリ]をねりてつかはすとて

○庭のべの林に生(ナリ)てはべる林檎(リウコウ)[和名鈔利宇古宇]五十(イソ)まりまゐらす。冬にならば柑子(カウジ)[和名加無之]はいと多くもたり、いかばかりも奉らん。さて此ほどよめる

○うるはしき友[伊勢物語善友ナリ]より水取玉(ミヅトルタマ)[和名水精]ひとつ、日取(ヒトル)玉[和名火精]二つ、鰒玉(アハビタマ)[万葉真珠也]三つ、これをうりてよと申こしたるに、その代(デ)[万葉、代(デ)ハダケノ反デニテ、ソレダケト云義ナレバ価ノコトニナルをばいかさまにせんとて、かくはすなるなど申つかはすとて

          月次にいふ詞

○春の立ける日、つとめて[伊勢物語、初時見テ也礼(イヤ)申とて友がり参るに、「かゞみもちいひ[源氏物語]に、てりたる山橘(ヤマタチバナ)[万葉、今云ヤブカウジナリ]の物よりもことなるを[伊勢物語外ノ物ヨリモ也]添へて出されければ、是をとりてよめる

○きさらぎ初の午の日、稲荷山にまうづるとて「友がきひとりふたりして行く」[伊勢物語]に

○曲水(マガリミ)の豊食(トヨノアカリ)[日本紀、ニ始ル、其紀ニ見エタリ]を題(ウハガキ)にて友どち哥よむ。又あかきしろき咲わけたる桃の花の枝のいと大きやかなるを折て花瓶(ハナカメ)にさし、あるじがたより出されければ、それをもはしに書くはへてよめる

○春くはゝれる月[古今集、閏月ヲカクイヘリ又閏月トイフ例モアリ]、おそきさくらの花みんと、弾人(ヒキト)[日本紀、今ノ三味線ヲヒクモノヲイフ]、舞人(マヒト)[日本紀、今ノ舞子サマノモノ、歌人(ウタヒト)[日本紀、今ノ哥ウタフモノ]、俳人(ワザヒト)[日本紀、今ノ太鼓持ナリ]などゐてくらま山にいきけるとき、夜更(ヨフケ)たればみなやどりせんといふに、夜ごもりにいづる月[万葉、オソクイヅルツキ也]の「ひかりともしく」[万葉]、山のはにみえければ

○友がき[友ハ垣ノゴトクト云意]より「衣かへうきけふにもある哉」[古今六帳]とかきて、さいつ頃吉野の花見にまかれる時しつるとて、桜花を紙におしたるをもおくり給はりぬれば

○かざり粽(チマキ)」[伊セ物語]に花あやめのしろきを雑(マゼ)ておこしたる人のもとへ

○実無月(ミナツキ)ついたち、氷なすもちいひのほしたるを、醒(サメ)が井の人の[氷餅ハ醒ガ井ノ名物ナリ]おくりけるを、あがちてたうびければ

○七月七日(フミツキナヌカ)、蹴鞠(クエマリ)[日本紀クエノ反ケ]このむ人の、けふは垣(カキ)もたる人のもとへ参るに、ゆかむやといひおこせしかば、今はいさゝけなる事にかゝづらひてはべり[少シ用事ニカゝリテト也]、まづ参りたまへなど申つかはすとて

○望の月はいづこにてみんや、月はたゞきよき川の辺にてみるこそまされ、といひおこしたる人のもとへ

○長月九日、唐哥(カラウタ)このむ人の、けふはたかきところにのぼりて酒のむ日也、雲も立ゐぬに雨も降(フル)まじき、などいひおこし給ふこたへに

○「菊の花のうつろへるさかり」[伊勢物語、残菊ノホドヨキサカリナリ]見に来よと申こしぬる人のもとへまゐりて、酒のみしてあそびをりけるに、たちまちにしぐれだつ雨の横ざまに降来ぬれば、庭ゆ[従ナリ]ほどもなき出居(デヰ)[坐敷]也にはしり入など、いと心すさみ[興ナリ]なり。さは此さまを哥によめとて

○霜ふり月十まり五日、髪おきとふほぎ事すなる人のもとより「小豆(アヅキ)のむしいひ」[赤ノコハイヒヲシカ書リ]おこし給はりたるに、いや申つかはすととて

○としのくるゝいそぎにかいまぎれて、ひさしくとはざりし友がきのもとへひと日往

ければ、春にもならば「東山にかくれん」[伊勢物語]など聞えけるに、いさめてよめる

あるじぶりにいふ詩

○むつき、人のもとへゆきしに、唐人(カラヒト)のもてわたりぬるを長崎の津より得つとて、孟宗竹とふ[源氏]たかうな[雪ニ生ル中筍ナリ]の、しかもおほきやかなるを「あへ[日本紀〓ナリ給ふ。いと/\めづらかなれば是彼古ことをくはへてよみける

○きさらぎばかり、あがたを治(オサム)る人のもとへまゐりつるに、「夜のいとまに摘(ツメ)る芹(セリ)」とて[万葉]あるじしたまふに、ふるき〓の心をくはへてよめる

○ひな祭りとふ事するむすめの、あるじがたにて酒のみするに、来よと聞えつるに参れど、いたく酔負[下ノサ戸マ]しければのまであるを、さこそおはせとてしろき酒[白酒黒酒(シロキクロキ)トイフハ異物ナリ、今ノシロ酒ニアラズ、〓テ白キ酒トコトワル]を壷[トクリナリ]に入て、口には桃の弥重なる花をさし、又蛤貝(オホガヒ)[古事記ハマグリ]の実(ミ)を煮(ニ)ほし[イリツケ也]たるを物の蓋(フタ)[硯蓋ザマノ物ナリ]にもりたるを添て出したりしかば

○卯月はつかばかり、垣津のうの花さかりなり、来てみむや、といひおこしたるがもとへ参りてをるに、塩漬のみかも[万葉真鴨也]に茄子[和名〓]を交(カテ)てあへ給へり。世にはまだ見るまじき頃なれば、この茄子はととふに、駿河(スルガ)の国より唯五つなん得てはべるとあるによめる

○五月雨かきふらしくるに、友がきとひしかば、すこし時はおくれつれどこのあたりは海の遠きに、いと/\しほに馴てはべるをとて、なましき「鰹(カツオ)」[万葉]の身を陶盤(スエサラ)[延喜式]につくり入て出されてり。

いずこゆ得たまひしととへば、伊勢なる友人のおくりたがるが、おほくの「駅(ウマヤ)」[万葉]を経(へ)て参りつるほどに、いとおぼつかなしなどいらへ給ふに○いとあつき日、水〓(セキ)入たる家の、風よく吹とほす処にまねかりはべりて、参りてあそびをるあひだ、くさ%\あるじぶり聞え給ふ中に、「鷺(サギ)」[古事記]の肉(ミ)に「午房(ウマフゝキ)[和名〓]をくはえて出されたり。これをはし書にして人々哥よむ

○初秋[万葉]風吹出て早(ワサ)いひ穂に[万葉早稲(ワセ)也]出るころ、ちかきあがた人のまねくに、友どちしていきけり。

魚(ナ)はなきところなれば、たゞ野に生ふる草の実どもををかしくつくりてあるじしたまふ。またみずから瓜生(ウリフ)[瓜畑ナリ]にいきて黄ばみたる「熟瓜(ホソチ)」[古事記]を十ばかりとり来たりて、瓜盤(ウリサラ)[日本紀]にもりてあへ給ふに、皆よめる。

○葉月ばかり月はまだ細きころほひ、夜たゞ[万葉夜通ナリ]にあそばんとて、或山里に住む友どちのもとにいきて哥よむ。あるじがたより手ずから造(ツク)りたりとふ「濁れる酒」[万葉]に添て、雉脯(ホシドリ)[和名鈔、保之止利トアリ、鳥ノ肉ヲホシタルナリ、世継物語ニモ見タリ]を「平盤(ヒラテ)」[延喜式]に盛りて出されしかば

○長月の月見る頃、川の辺に住てはべるともどちのもとへいきてあそびをりけるに、梁(ヤナ)[万葉]に落たりとて鮎(アユ)[日本紀]の長の一尺(ヒトサカ)まりあるを、「篭(カタマ)」[日本紀]ながらもて来てあへたまひ、時ならねども終りの物は「うひしき」[万葉]こゝちすなりなどいらへ給ふによめる

○もみぢ散飛(トブ)ころ、ある山寺にまゐりてひと日あそぶに、こゝは「松茸(マツダケ)」[ごせん]のさはに生ふるあたりにて、さいつ頃ならばいかなる御あるじもつかふまつらんに、今は何もはべらぬときなり、いかにせん、など聞え給ひて、菊の葉を油に煮(ニ)て出したまふ。

又「大根(オホネ)などをうたせて」[古事紀ウツハ〓也]、むしにむして出し給ふに、いらへまゐらするとて

○氷魚(ヒヲ)[万葉]なんたうべしとてまねく人のあるに、参りつれば、あるじ「頭をかきて」[源氏物語]「ふりはへ」[土佐日記]なん〓(スリ)[和名、須利竹〓ナリ]に入ておこしたり。ちぎり[日本紀約束也]は違ひつれど、これめしてあそびたまへとて、さる心を読みて出されければ

○しはすばかり、あるじすといひおこしたりし友がりゆきしに、魚(ナ)は〓(シロヲ)[和名〓]、若菜(ワカナ)は茎立(クゝタチ)・おはぎ[万葉ヨメテノ類ナリ]などいふ春だつものをいとをかしうつくらせてあへ給ふに、出居(デキ)の「上坐(カミクラ)」[日本紀]をみれば、梅・山茶花(ツバキ)を瓶(カメ)にさゝれたり。これかれ「み冬」[万葉]ともおぼえぬこゝちするに、まずよめる

物をつかわす詞

○若菜をあやしきかたまに入てつかはすとて

○うぐひすの雛(ヒナ)の声よく鳴くを篭(コ)に入てつかはすとて

○継穂(ツギホ)して見むとあるに、紅(アカ)き弥重の梅の「秀枝(ホツエ)」[万葉]をすこし折りてつかはすとて

○あさりて得つる「藻節束鮒(モブシツカブナ)[万葉集小鮒也]と書て、それを〓につくらせてつかはすとて

○越(コシ)の国織(クニオリ)のあらたへ[越後チゞミヲイヘリ]に奈良の手調(テツクリ)[奈良晒(サラシ)ナリ]を添ておくるとて

○「琉球(ウルマ)[古今集]つゝじ[白ツツジナリ]の花に、「〓豆(ノラマメ)」[和名〓]の花を折くはへてつかはすとて

○竹の組笠(クミカサ)[網代笠也]一枚(ヒトヒラ)おくるとて

○「貽貝(イガヒ)の鮨(スシ)」[延喜式]を槽(フネ)ながら参らするとて

○鳴瀧出(ナルタキデ)の「青砥(アオト)」[延喜式]二丸おくるとて

○しろき荻の花にくはへて家つ芋[和名、以閉都以毛、是ハ里芋ヲイフ、万葉ニハ是ヲイモトノミヨメリ]おくるとて

○塩漬雑魚(シホヅケノマゼウヲ)[延喜式]おくるとて

○甲斐の国の「搗栗(ウチグリ)」[延喜式]を箱に入てつかはすとて

○梨(ナシ)[万葉]・柿(カキ)・「葡萄(えび)」[日本紀]を青き篭(コ)に入て贈(オクル)るとて

○東織(アヅマオリ)の狭綾(サアヤ)[俗云上州ザヤナリ]一疋(ヒトムラ)[日本紀]おくるとて

○「海鼠腹(コノワタ)」[延喜式]をさゝやかなる壷(ツボ)に入てつかはすとて

○黐鳥(モチドリ)[万葉]の「刀鴨(タカベ)」[万葉小鴨也]かた/\を、あやしながらとてつかはすに

○内子鮭(コゴモリノサケ)[延喜式]を「伊与簀(イヨス)」[源氏物語]に巻てつかはすとて

○「〓海松(マタミル)」と[万葉]「牡蛎(カキ)貝」[古事記]をまゐらするに

○「家人」[万葉]を伊勢の御神にまうでさするとき、はたご[和名ニ〓、波太古也、

俗ニ用旅篭ノ二字〓ハ飼馬篭也トアリ]「でに」[万葉、代ハ酒代ナド云類ニテアタヒヲ云]せよとて銭[和名]一貫(ヒトツラ)とらせければ、たはれ哥[興哥也]よみ出しほどに、こたへける

○羊(ヒツジ)の「毛衣(ケゴロモ)」[万葉]をよく作りてまゐらすとて

          得つるこたへの詞

○「白躑躅(シラツゝジの花に鮎(アユ)子」[万葉]添て給はりけるいやに

○鼠麹(ハゝコグサ)の餅いひ」[続日本後紀今云艸モチ也]たうびけるに

○連〓の花に」[和名]「網鳥(アミトリ)」[万葉]の〓雀(シトゞ)[拾遺集ニ雉モシトゞニヌレタリトヨミアハセタリ)を添てたまはりけるに

○「鯛(タヒ)」なす[万葉]鮒(フナ)[大キナル鮒ヲ云]二つを「陶盤(スヱサラ)」[延喜式]にもりてたまはりけるに

○いにしへのかたに作れる「靱一口(ユキヒトクチ)」[延喜式]給はりければ

○絞染(クゝリゾメ)[延喜式、今ノシボリニアテゝカキタリ]の「手拭(タナゴヒ)」[延喜式]二つまで給はりけるに

○「脛巾」(ムカハギ)[延喜式、皮ヲモテ袴ノ如クツクリテ馬上ニハクモノナリ]二条、脛纒(ハギマキ)[今云キヤハンノタグヒ]二条〓に八形尾(ヤカタヲ)[万葉、鷹ノ尾ナリ、八ノ字ノカタアルヲシカイヘリ]の「征箭四〓」(ソヤヨノリ)[日本紀]たまはりけるいやに

○名だゝる「琴一面(ヒトツラ)[延喜式名琴也]をゆづり給ふいやに

○金十枚(コガネトヒラ)、白銀五十枚(シロガネイソヒラ)、唐織(カラオリ)の錦二〓(ニシキフタムラ)、美酒(ウマザケ)[万葉]十舛(トマス)[延喜式]、「干鯛(ホシダイ)一箱たまはるに、いや聞え奉るとて

○稚室(ワカムロ)[日本紀新室也]つくりてはべるとき、湯槽(ユブネ)[延喜式風呂桶ナリ]、円槽(マルブネ)[延喜式、頭ヲモミ洗フタラヒ]洗足槽(アスマスフネ)までもあらたにつくらせてたうびけるに

○塩漬の細螺(シタゞミ)[万葉]に薬のみき[薬酒ナリ]一壷添てたまはりければ

○江鮭(アメノウヲ)[延喜式]の煮たると「鮭(サケ)の氷頭(ヒヅ)」[延喜式]を鱠(ナマス)[日本紀]にしたるを、重箱(カサネバコ)[今云重箱也]にもらせてたまはりけるに

○清げなるたばこの〓[タバコイレ也]に「火打〓」[古事記]を添てたうびければ

○足結(アユヒ)[古事記脚半也]、針〓(ハリブクロ)[万葉]などたばひけるに

○旅にもつべき「櫛〓(クシゲ)」[万葉]に「湯かたびら」[和名]添てたうびけるに

○日下江(クサカエ)の入江に堀(ホリ)つる蓮(ハチス)のはひ[和名、波知須乃波比、蓮根ナリ、古事記ニ日下江ノ入江ノ蓮トヨメリ]、龍胆(ノハグサ)[延喜式リンドウ也]の花を添てたうびけるに

○押鮎(オシアユ)[土佐日記塩鮎ナリ]、浜藻(ハマモ)[日本紀]をたうびけるに

○芦屋釜(アシヤカマ)[今云釜ノ名]「人具」(ヒトソナヘ)[延喜式]、高麗出(コマデ)の湯杯(ユツキ)[茶碗ナリ]一口たまはるに

○唐(カラ)の絹絵(キヌエ)、倭(ヤマト)の紙絵、二枚(フタヒラ)たうびけるに

○〓(フグ)[延喜式]のほし皮二枚、乾鰒(カラアワビ)[万葉串貝ノ類也]十まり五つを浜[万葉]づととてたまはるに

○ひりひ[万葉拾ヒ也]たまへるとて、うつくしき「磯貝」(イソガヒ)[万葉]ひとつ/\〓よみくはへてたばひけるを

悼の詞

○父君かくれ給ひぬるに「泣子(なくこ)なすしたひ」[万葉]給はん御心をおしはかりて、いたみかなしみはべるに、よみてたてまつる

○母君ゆくりなく[日本紀不意也]うせ給ひぬるよし。

「世の中にさらぬわかれのなくもがな」[古今集]とよめる歌も、今更におぼしあはさんをいたみ奉る歌

○御兄の君うせ給ひぬるよし。

御病(やま)ひともうけたまはらざりしに、いとはかなかりつる御別(わかれ)にこそ。さてかなしみなげきのいをよめるえせ歌[吉愚歌(にせうた)也]奉る

○妹君過(すぎ)たまひぬるよし。よべはいかなる夜にかありける。こと更にみどり子のおはするを、こひ泣給はんごとにはせんすべなく[万葉、ミドリ子ヨリ是迄歌ノ詞ヲトル]おぼさんに、いたみかなしめる心を聞え奉る歌

○しら玉となんおぼせる[万葉]「愛子(メヅコ)」[同]を「下(シタ)べ」[万葉

黄泉也]に「かき」[古事、ウチトイフ詞トオナジ]はなち給ひぬるよし。御心いかに侍らん。「かつ/\も」[古事記、少シニテモノ意]なぐさめ奉りたうて、かくなん

○はしむかふ[万葉、発語愛向フナリ]弟(オト)の君はかなくなり給ひぬるよし。日頃も床さらで「いたずき」[万葉]にかかり給ひしが、終にはみくすりのしるしもはべらざりしよ。さていたみ奉る歌

○妹君ゆくりなくうせ給ひぬるよし。

「いかにやいかに」[後撰集]「棺(ヒツギ)」[古事記ニ一木トアリ和名抄、比止伎]をうちて歌うたふ人[荘子ノアリサマナリ]のたぐひにおはすべき。よろずおもひはかられて、なに事も申さでかくなん

仏に奉る詞

○さる日にあたりぬれば、葬(ハフムリ)せる寺にまうでゝ、[日本紀]「水さへ[日本紀]飯(イヒ)さへ」奉り、殿に立せ給ふ釈迦(サカ)ほとけを拝み奉りてよめる

○父の「御墓所(ミハカドコロ)」を[日本紀]「掃清(ハキキヨ)め」[万葉]などし、寺守らせ給ふ観世音ぼとけにまうでゝ、告(ノリ)きこえ給ふ「御誓(ウケ)ひ」[古事記]のごとくもあれよなど、御名(ミナ)唄へ奉るなへ[万葉並ナリ]によみて奉る

○山のほとけの、ことしは御帳(ミトバリ)開(ヒラ)かせたまひて[開帳ナリ]、世にをがまれ給ふに、詣(マウデ)てよめる

賀(ホギ)の詞

○官位(ツカサクラヰ)をたまはりける人のもとへ、祝(ホギ)事聞え奉るとて

○六十歳(ムソヂ)のほぎ事したまふと聞て、えせうた奉る

○国の守より御馬たばひけるよしうけ給はりて、ほぎ参らする哥

○まな子の君「童姿(ワラハスガタ)」をかへ給ふと」[源氏物語元服ナリ]うけ給はりて、ほぎ奉る

神に奉る詞

○渡会(ワタラヒ)の宇治(ウヂ)の五十鈴(イスゞ)の川上(カハカミ)に鎮坐皇大御神(シヅモリマススメオホンカミ)[祝詞、是ハ内宮ヲサス、大御ハ至テ貴キヲ〓]にまうでゝ太前(フトマヘ)に奉る哥

○渡会(ワタラヒ)の山田が原に鎮坐豊受皇神(トヨケノスメカミ)[祝詞、是ハ下宮豊受ハ穀神也]の広前(ヒロマヘ)に奉る哥

○山神(ヤマツミ)を祝(イハ)ひ奉るに、桜・楓などうゑてよみてたてまつる

○伊勢の国なる能保野(ノボノ)にまうでゝ、倭建命(ヤマトダケノミコト)の陵(ミサゝギ)を拝み奉りてよめる

○櫛磐間門命(クシイハマトノミコト)・豊磐間門命(トヨイハマトノミコト)[祝詞、両神トモニ門ヲマモル神也]の二神を祭り奉るときよみて奉る

○八船豊受姫(ヤフネトヨウケヒメ)[五穀ヲ守ル神今〓稲荷ナリ]の神社(カンヤシロ)に詣ていのり奉りて

○道祖神(タフケノカミ)にぬさ奉りてよめる[是ハ旅ノ安全ヲイノル神ナリ]

○阿須波(アスハ)の神[祝詞、庭ヲ守ル神也]をいはい奉りて、まさか木[一説ニ〓、サカキハ栄木ニテ常磐木ヲ云、一説ニ云、是ヲ〓前ニ植ルハ浄不浄ノ隔ナリ、依テ境木ト云意ナリ、一説ニ云、〓代紀真坂木トアルガ此詞ノ始ナリ、仍テオモフニ今云正木カ、〓カノ反サナリ、然ルヲマノ詞ヲ省テサカキトノミ〓カ]などうゑけるとき

○氏の神に白眼〓毛(さめつきげ)の馬[今云サメ馬ナリ]「一疋(ひとひき)」奉るとて

○繋(つなげ)る駒(こま)のかた[絵馬ナリ]をかきて神社に「納奉(おさまつ)る」ときよみて奉る

○龍田の御神に[風ノ神ナリ]風祭(かざまつ)りしてよめる

○貴船(キブネ)の御神[闇霞ニテ水ヲツカサドル神也]に天つ水[万葉雨ナリ]をこひしとときよみて奉る

○御食(ミケ)[今云御善也]奉るとて

○種(クサ)々の幣〓(ヌサ)[クサ/\ノヌサハ五色ニキヌ也、今ハ紙ニカタドリテスルナリ]奉るとて

○初穂(はつほ)を千〓八百〓(ちかびやおかび)[稲ノ初穂ナリ、今是ヲカタドリテ銭ヲ奉ルヲ初穂ト云、〓ハ掛穂ナリ、八百千ノ詞ハ多キヲ云]奉るとて

○甘菜(あまな)、辛菜(からな)[甘菜人参ノ類辛菜ハ大根ノルイ]奉るとて

○〓(はた)の広物(ひろもの)、〓(はた)の狭物(さもの)[日本紀、

是ハ大魚小魚ヲ云]を奉るとて

○毛(け)の鹿物(あらもの)、毛(け)の和物(にきもの)[日本紀、アラモノハ大獣和物ハ小獣也]を奉るとて

○夜の守、日のまもりと守らせ給へと申事のよしを[是迄祝詞也]哥によみて「こひのみ」[万葉、コヒノムハ祈祷ナリ]奉る

○神の御祥(さが)[告ナリ]おはしまして、願ひの事ども事なく果(はて)たるに、ぬさ奉りかへて[始イニリシ時ノヌサト奉リカヘル心ナリ]をがみ奉るとき