(序)

大かたの世をみるに、よくもあしくも哥よむ人のさはなるを、なぞ文かくわざは思ひ絶ぬらん。

さはかりそめのうたの言書すら、むげにつたなくたゞことなるが、見ゆめれば、常にかたらふ人には必これをときていざなふことに侍り。

こゝに建のあやたりてふ人は、身まかりて今は廿とせにもやゝあまりぬらん。

それはじめはいかにしられたるが、やう/\古き文どもを翫びてのちは、古事記の片うたてふ名をとりて、あるはせどうかのかた哥などいふふりをしも唱へ出たり。

にひばりつくばを過ていくよかねつるの御歌を祖とすとかや。

其事はおのれかゝづらはねば置ぬ。

ふみにかく事にとりて、古き辞をいまにかなへて、をかしくもあはれにもあやなすわざの並ぶ人なんなくおぼゆるを、此ごろの若ききはゝしらずもやあらん。

其かけるものゝはやう木に離たるも多かれど、このすゞみ草はうもれて年へたるを、こたび世におほやけにせばやと文屋叢桂堂おもひおこしてなん、うつしあやまてる所あらんをば正し、はた一言をもそへねとあつらふるに、おのれもしたしとにはあらねど相しる人なりき。

又ふみかくことを好むこゝろのかよひたれば、今も世にあらましかばとなん、しのぶの露も袖にかゝれば、やがてもとめにしたがふ。

そも/\このところ%\のけしきども、まさしにみるがごとかきて、すゞしさもさむさも身にしるこゝちすなるを誰かはめでざらん。

さは其めずる心をよすがにて、此筋をまなばんはいとよきまなびならずや。

故かたへは古人の志をたすけ、かたへは後の人をすゝめて端書の筆を染ることしかり。

                                                      易得亭蒿蹊

須須美艸

去年もかうなむ侍しが、ことしは殊(こと)に海龍神(わだつみのかみ)の、悉(ふつ)に詣給はず、さるはいけも川もあせにあせて、さすがに龍田彦はふきわたらせたなへど、これもあつけき風のみにて、いづこに涼とらむくまも侍らず。

かゝることは、年比雨をば事ともおもはで、やう/\三日斗も降つゞく時は、あなしこの雨や、あなうもれたる雲やなど、いひこらし奉りし罪にこそと、唯ひねもすにうちなげきて、いとかしこけれど、あま雲をほろにふみあだし、鳴とよみ給ふ御神をさへ、請(こひ)のみ奉るころなりけり。

菰枕(こもまくら)高くなして眼をさましつゝ、ふしておもふに、むかし身さかりに、ゆきめぐりしくま%\、遊びしつる所々の、いと涼しかりし際(きは)を、今だに心を遣りて思へば、これにまさるまぎれも侍らず。

やがておきあがりて、さりしかとゞもかいつけて見るに、いとくだ/\しく、却てひそかに心を遣りつるたのしさにはしかず。

さてこそこ心の百を、筆のひとちになむとゞめてやみける。

まして是見む人は、なにとも思はずやおはすらん。

                              太気能綾足志留数

伊よの国の海辺(うなべ)に、よしだといふ所あり。

みな月ばかりそこに行て、心しれる人のがりとゞまる。

さて、文月六日といふに、船より同じ国の小津(をず)といふ所にゆかふずるといふに、主方(あるじかた)より、さゝやかなるふねに、水子(かこ)ふたりなぬつけて、我をのせて送れり。

夕つかたより打のりて出る。こゝは入もている湊なれば、この沖をとほろむ船どもゝ、大かたは漕入(こぎり)来ず。さるはいさなとる舟、或は近きわたり行かふ舟のみぞ、をちこちこぎつれたる。山は高からで木立はらゝにおいたち、崎々はおもしろう海原にさし出て、白浜だつ所には、網どもはしひろげ、魚屋(なや)めく家には、いとうすくけぶりの立のぼるが、風をいたみて、磯山松になづさふなど、あはれなるけしきなり。ひぐらしといふ蝉の、こゝら鳴わたりて、こなたかなたとびうつるほどに、日ははやくれぬめり。さて山間(やまゝ)の水門(みと)を漕いづるに、風はいとほそう、ひがしざまにふきのぼりて、さゞれなみうちよするに、ふねは平らかにて、ひとひらなる帆をまきあげたれば、唯飛なす行なり。

空をみれば波の上に伏たれて、天の川瀬はさくなだりに流落るかともみゆ。

月が入がたになれば、風なほすゞしくて、瀬といふものゝ海原にあなるが、さら/\となりさやぎて。

武蔵の国、秩父といふ山間に、赤岩といふ所あり。

こゝはある大徳のかくれがにつくりて、いふれおはしける岩屋のむろ也。

みな月いとあつきころ、そこに行てやどりす。

凝々しき巌根をめぐりくる水の音、先清し。

めのまへにすゑたる、蓮の花形せるあかゞねの鉢にたるはしつゝ、また溢落るは、長き白紐をさしおろすごとく、深き谷方に流下る。

松柏おひふたがりたれば、日のかげさらにもらず。

朝にけに吹風はたゞ葉月ばかりの音せり。

もたる扇もはなちおけば、まして蚊帳引はらむ夜すらもなし。

みちのくにくだりて、なつを過しけるに、戸のせといふ林の下にふかき渕のあるに、よく水潜するおとこを入て大網をひかせ、鱒うぐひなどいふ魚をとらしむ。

さはなほに鱠にしてくらふ。

さて大きやかなる木の陰に、毳など打敷て居れば。

むさし下総の両国に、うちわたせるはしのもとに、川柳のさしいでたる所あり。

そがもとにちひさきふねうけて、持網といふものをさしおろして、夕汐にのりくるうをゝとるなり。

手長海老とふ物ぞいとよき。

空は水のごとくにて、うすき雲は、西のかぜに吹けちたれば、たゞあからさまにて、冨士がねこそみゆれ、筑波峯こそ見ゆれ。

さるは友どちのうたよみしとて、束短かき筆して、波のうごくまゝに、あやしき鳥の跡つけむとすれば、紙はふきとられて。

伊勢のくに亀山の国府を、文月のすゑに通り侍るに、俄に夕立の雨ふりきて、神いといみじう鳴とよむほどに、物売る家にはひ入て、しばし有間、雨は瀧のごとくに降落て、木積なす物みな流しもてゆく。

さるは家の翁童どもが、物な流しそ、ぬらしそなどいひさわぐ。

さて雨はふり通りぬぞといふ。

まことにかみのとよみもいと遠除て、今はをちの方ぞいたくふるらむとおぼゆるに、鈴鹿のやまの方はいと青く、木群/\けざやかに見えつゝ、ぬれたる森の上に、夕日影の指わたりたる、又なくうれし。

坂の下といふ駅にやどるに、月の影さへいと冷やかなり。

此あかつきこのやどりを立出る際はまして。

文月の朔日、豊前の国なる羅漢寺に詣づ。

川に添ふて行道は崩落たれば、其川の辺の岩山をきりうがちて、人かよふ道とす。

さは荷を打たる馬さへ行かふばかりにしたり。

そこを行に、寒き風吹とほして、冷やかなる滴の、笠の上にしたゝるなど涼し。

寺は山ひとつが岩なる中に造り入たれば。

あかつき初瀬山にまうでゝ、堂の前なる欄に立よりてみれば、朝風はるかに谷より吹のぼりて、瀧の響そこはかとなし。

水無月はつかばかり、宇治川ちかく住人の家にやどりて、子の時ばかりに目をさましつゝきけば。

五月の末いとあつけきに、越の後なる高田といふ国府を立て、道十里ばかりきて、関居たる駅にやどる。

ゆあみなどしてふせるまでは、いかに今夜のあつけさを明さむとおもひ居るに、俄に山颪のかぜ吹わたりて、庭の葛葉さわぎ立ぬ。

常に大殿の御前にさぶらひて、御物語つかふまつる。

遣り水のこゝろばへおもしろく行めぐりて、御庭のいとひろき、なつはかくてこそ。

下総の国牧野は、くさのみ高くおひしげりて、あやしうほそき道のみ行かふ所なり。

さてみな月に行に、なつの草むらの日にむされて、かをり来るがたえがたう、つちは黒みたる所もなく、あつき日に照さけて、風はさすがに吹ども、かのかをりぞ、頭わづらふべくおぼゆ。

さてあせかきなぎて、いきづき行に、やう/\家村の有に、しばしやすらへば、かなたの薮原を吹ならして、夕風のそよぎ出たる、よみがへりたる心地す。

美濃のくにへ行に、柳のいと大きなるがもとに、道行人おほくむれゐて、渡し守を呼まにみれば、あさ瀬のいと清らなる所に、白き鷺の五つ六つ下立たるが、冠の毛を河風に吹なされたり。

文月のはじめ、二荒山を拝みて直に高原といふ山をこえて、会津のかたへ行に、夕つかたになれば、谷河にかたかけたる家にやどる。

水のこゝろいと清げに、夕風吹わたりて、三日月のさし出たる。

糺の涼とるとふころ、行て遊びをりしに、あやしき雲ぞといふほどこそあれ、一むらさめのふりく。

このもかのもに立かくれなどするに、晴たれば、木の間の雫しめやかに落て。

木曽の山路を行に、みな月の七日なりける、雲のいとおそろしく立くるが、神ぞ鳴べき、いかにせむとおぢたるに、さなくて、あめのみいたくふる。

蓑代衣着もあへずて、唯ひぢにひぢて、しばし笠やどりす。

山風の吹とほるにつれて、雲のきえゆくを見れば、漸々申の時斗なり。

いゆきて福嶋のうまやにやどる。

谷川をみれば、七日のよの月かげぞ、なみの上にくだけちる。

美濃の国なるながら川のほとりに、しれるひとのあれば、鵜川断わざを見むとて、文月のすゑそこにやどりて、夕になれば、ふねうけて、さしいでたる岩の陰に、竿をとゞめて待ほどに、上つ瀬より、八つの舟に八つの篝さして漕下り来。

近くにみれば、炎の影のいとおそろしく又あつし。

さは十まり二つの鵜をひとりしてつかふが、いと苦しきさま也。

月ののぼる比になれば、かゞりどもはうちけちて、かの鵜にも魚喰せなどし、しばらく川の上にはなちて、おのがまに/\水をかづかせ、又ふねにひきあぐれば、いとくたびれたるさまして、羽根などはしかともつくろはず、そのまゝ頭をさしかくして眠る也。

さてみな舟をあがりて、おのが家にかへるらん。

此川かぜのいとすゞしきに。

みな月十日、備前の牛窓といふ湊に舟泊て、風のいと涼しきに、苫屋かたの上にはひのぼりてみれば、都従西の国に下る人の、老たる友として、舟やかたの上にうち足組つゝ、碁打てゐたり。

かたびらの袂は、ひら/\と打そよぐ也。

みな月ばかり鹿嶋の方へ舟従下るに、男どもの馬洗ふとて、いとふかき所に追入れつゝ、川柳のほづえおし折て手にたぎもち、肩ゆ尾筒のべにかき撫れば、馬はいとこゝろよげなり。

若狭の小浜に行て、みな月ばかり帰るに、めしつれたる男瘧のこゝちしければ、日もまだ高けれど、細川といふうまやにやどる。

前の山路にてあせばみたるかたびらを洗ひなどす。

又裏の谷川に簗うちたれば、鮎子の寄るとて、此さとの子どもら、升にはかりてうりに来。

いと高き山の麓なれば、異声に鳴蝉の、こゑのおちいとあはれにきこえて、をちこち鳴わたるほどに、日は山のはにかぐろひぬ。

あらしの山のこなたの川のべに、群居て涼とる。

あつけき日は、みねにかくれて、夕ぐれのいとはやきこゝちするも、所がらなり。

清瀧川にゆけば、うなじに水そゝぎかけたらむばかりにおぼゆ。

なつはこゝにすまむや。

いと広きおましに、唐のとむしろとふ物を敷て、そがうへに心しれる友どち、静に物がたらひし、午時斗は水飯やうの物たうべて、すこしうち眠る間に、清き湯あみ所しつらひつゝ、はや湯帷子などいふに、やがて浴して、さて西日の影弱りたるに、四条の大路を東ざまに行て、川風にあひたる。

いさゝけゆかりありて、いと貧しきが、今夜はとゞまりてなど、せちに聞ゆれば、黙もならず、今夜ぞ蚤とふむしにくひ殺されんと、ひとりごちてをるに、暮むず比、あやしき筵もて来て、夕皃の花のいと白くゑみたる棚のもとに居らす。

さてみれば、蜀黍の丈高う生ひたるが、葉のひらめくいとすゞし。

久しく尾張のなごやにをりて、みな月の末まかり帰るに、友どち送りす。

いとあつき日なり。

いずこまでおはすべきとて、或寺の前にていとま申ける。

さて宮なる海畔の家に汐の心を待間、先涼し。

よかなりとて舟にのれば又あつし。

漕出るまに/\見れば、渚に立る鳥どものおどろき立て行が、雫おとしたる涼し。

亦松の行かとぞよめる〓の如も有かな。

いとたへがたき比、墨田川のこなたに、亦打山といふあるがもとに、さしいでたる渚の、菰いとしげくはひなみたる所に、一丈ばかりなるふねうけて、夕ぐれの月を見るに、影は爰もとにさし来て、波のうへにたゆたふ。

箱根山に、十の沢となんいふ温泉の道に、みなずきばかり行てたびねするぞ、なつしもおぼへず。

夜になりて、月のあかき、又あかつき雰こめたる折々は、川などの蛙、いとおもしろきこゑして鳴なり。

松杉高くおひなみたる山の寺の、洞なせる門にたちてをれば。

厳嶋の島輪に舟はてぬ。

かくて登りてみれば、百まり八のともしびぞ、わたどのめく長家の軒につらゝにてらして、かげは汐の満くるにうつらふ。

宇佐の御神にまうでゝ、即そこの祝子なる人の家にやどる。

夜はいとあつくて苦しくも臥たるに、あかつき雨ふり出て、寅のみつばかりに立出れば、唯長月ばかりのこゝちす。

七月七日、肥前の国園木といふ所につきぬ。

今夜なむ五里ばかりの山の夜道を行て、とにもかくにも、あすは長崎になむ着べきとて行。

夜は丑ばかりならむ、海路を見れば、あまの声の聞ゆるをよすがにて、山守の家にたどりつけば、あかつきの星の影は唯きら/\として、並たるまつの風ぞ、波のむだ吹わたる。

みなずき望のよ、西の風いとしずかにおひぬれば、大津のべゆ舟を出して、辛崎をさしてゆく。

月の光に物のかげのうつるにおどろくにやあらむ、五寸六寸ばかりなるうをの、舟の中にをどり入。

かゝるは殺さぬ物よとてみな/\はなちける。

さるはよみて見れば、十まり二までは入りける。

是喰でなどいふ人も侍り。

さて更行まに/\、みな袷もたりしやと問あふ。

みな月望の夜、伊与の国なるみつの浜といふより、松山の国府にむかへられて行。

松なみたて、いと清き真砂路なり。

うみの音は背向にきいこえて。

みなづき高野のみてらにまうでゝ、ある院にやどりす。

かたびらはありのこと%\着かさねたり。

そがうへに衣かしたまへとなんいひき。

夕ぐれの雨しめやかに降出たるに、〓の葉に雰こめたる。

湯浴など心よくして、四条の大路を南ざまに下。

川のべに立てみれば、高瀬の舟を、綱手して引のぼる。

日も入りたれば、人かげもさゝで。

はじめて浪花に行人を、舟ゆゐてくだるに、先うどのゝ芦をぞとふ。

又水車なむ見たくす。

日の暮むずる先に、淀のはしを過べきやなど、竿さす男に幣すれば、いそぎて遣りける。

さて橋は是也といふに、かはぼりの多く飛散る。

さてかの車ぞ、水を汲かへしていそがしげなる。

なつばかりは彼にだにならむやといふ人ぞ、いと肥て汗ばめる。

さるはかくすゞしきせかいにさへ。

雨乞とふことのむかしより侍るが、歌にさへめでたまひける。

天のみ心は、今だもかはりたまはじを。

さてからびたる畑の中に、神杉とおぼしきが立るもとに、小さき社のあるに、赤き髪かゝぶりたるさとの子どものおほくあつまりて、古きつゞみを打ならしをるぞ、おもしろげもなき。

さるは天の神のめで給ふべしともおぼえねど、さることすればからなず降来。

さて見れば、大路も河なして、谷川などはいと黒き水のまきかへりたるに、川添柳は風に吹かへされて波のまに/\行むとす。

沢蟹などいふ虫は、〓の子のうへにはひあがり、鯰などいふうをは、井のそこに入かくれて爰を住所とかまへたり。

さるきはに、あがたわたりにいきあわせたる、いとすゞし。

黒鴨といふ鳥の雛は、菰の中にかくれて見がたきものを、夕立の雨のはげしく降たるに、水の高くなりて、かの隠るべうもあらず。

たやすくとられたるをえて、心ばへよき池のべにはなちてみる。

田面の蛙おもしろく鳴わたる夕、門田の稲葉につゆのたちのぼるなむ。

いなずまの光は、火をきり出すばかりにて、いと黒くこゞもりたる雲の中よりあからさまに見ゆれば、稲のはらむとて、里人はめづめり。

さてあつしといふ間に、清きかぜの吹出て、おそろしげなる雲はいづちゆけむ。

ねり雲雀とふ物は、翼をかふるとて、羽は皆ぬぎすてたれば、高く飛うもあらぬなり。

さるころをしりて、小鷹すゑて、かの居るべき原の草葉を分つゝとらす。

木陰もなき所なれば、唯照りにてられて、かゆきかく行するほどに、沢辺の、一むらしげりたる木陰にやすらひて、藤の鞭の先を打やはらげたるに水をしめして、鷹の嘴かいそゝぎなどす。

又水をうちたゝきてみすれば、よく馴たるは飛入て水浴もすなり。

さる間に人皆は、夕風にむかひて瓜〓む。

みな月よしの川の鮎くはむとて行。

山のたかき低き、のぼるにはいとあつく、くだりにはいと涼し。

まして川の辺は。

笠やどりしけるに、醒井もちいといふをつくりて売る家なりしかば、先水にほとびて。

大納言どのにていまそかりしが、そむきたまひて、仏をのみおもひておはしける有り。

我心よくしりたまひてげり。

文月のはじめみともして、清水の観世音に詣て、音羽の瀧のもとなるみ寺にやすらふ。

此日打くもりて風心よく吹けり。

上総の国にみな月ばかり行て、慰むわざもなく、ゆふぐれにこもり沼(ぬ)のいと広ほとりにいでゝ見れば、菱の実(み)をとるとて、わらはどもふねにのりてこぎめぐる。そが中に笛をなむおもしろく吹ならすが有。

中々に其声のしらべとゝのへるにはまさりて涼し。

文月のなかば、みちのくに下るに、あともへる男、つとめて起出る癖(くせ)ありて、朝鳥鳴てわたるよ、今朝はいとおくれたるとて、むつけておき出たり。

いとねぶたしといへば、今行所は浅香山影さへ見ゆるとよみ給ふ所なりといふに、さらばとておき出て行。

まだあけぐれなるにみれば、高からぬ尾上に松の浅く生立たる所有。

そがもとに山の井といふが有といふ。

そこに餠うる家の有しかば、戸を扣きてあるじを呼おこしたり。

かくて朝風の山よりふきおろすぞ。

伊与の国小津といふ所につく。

しれる友どちしばしと留るに、ひと日二日居れり。

かくする間に、雨二日三日次て降ほどに、前なる川のわたりもたゆべくなりぬ。

居る所なむ岸にのぞみて、いと高く涼しき舎り也。

さてかの高き水を、小船に真楫(かい)立たるがおしきりてわたり来(く)。

何事にかとおもへば、ものゝふの子が、いとこを切り殺して、血つきたる太刀をひきさげて、そこなる竹むらの中にかくれ入ぬといふ也。

所の守高楼(たかどの)にのぼりおはして、御前なるわかうどゞもにおほせて、彼(かれ)まのあたりにて切べし、もとより焼太刀の廉(かど)打ならして戦ふべき間、よく心がまひして参れ、我は爰ゆみむとのたまはすよし也。

さる間に川水はいやまさりて、唯今にもわたり叶ふべからずなどいふに、いそぎにいそがせて遣はさる。若き武士(ものゝふ)ふたり、うるしにてぬりくめたる小さき笠を着、身には金衣といふものをきて、いと長く直(なほ)なる太刀をはきて、かこ十人ばかりに舟を漕せてわたる。いとめずらかなることなれば、これを見むとて、此方(こなた)の岸には人々つどひむれて目をはなたず。世に河むかひのすまひとて、かしこからぬ物にす、まことにしかり。舟はからうじて着ば、打あがりて鍔(つば)うちならし、鞘(さや)の口をゆるぶるさまなども見ゆ。さてかの竹むらをさして行。今ぞ此河原に追出してたゝかふなめりとみるに、何のこともなし。さて川は渡り叶はずなりぬれば、とありかゝりといひ越る人もなし。立まつ人はしびれといふ病にかゝりて、あしを引てなむ行あが(まま)れぬ。さてふつか三日斗して舟の行かふ時にきけば、かの人をきりたる若人は、とくたかむらの中に、腹かきやぶりこやせりとなん。さてこそしづまりたりしなりけれ。此雨の後は日に/\涼しくなりつれば、その時のことはわすれず。

伊勢の国いせきといふ所に、久しくしりたる友がらの有にいてやどる。いと高き所にて、風は常に吹いる。あたりちかき山に貝の石になりたるが有るに、行て見れば、いたら貝とふ物の、ひしとこゞもりて、大なる石とはなれり。そをうちかきてもてかへりき。川なんいくつもわたりて行所なり。

みな月はじめ関のうまやをたちて、石部とふうまやにやどりす。此家のうらべは三上山にさしむかへり。所には小さき富士なりと云。まことにさるかたちせり。あまりに風の吹とほすにいりて寝つ。

奈良なるもさなれど、七条大路におはします盧舎那ぼとけの御堂のうちにまさりたる所もなし。夏は。

中津の君の江戸なるみたちは、塩留(しほどめ)といふ所なり。みやびこのみ給へば、ひたぶるにめされてまうづ。

御庭の池水いと広きに、水鳥の往て有り。

又南ゆ吹来るは、阿房上総の海びをわたる風なり。

上総の桜をしらす君の、別業は浜びにて、まらうどたちおはしますときは、網子どもに、まのあたりなる海のさちせさせ給ふ。

右のおほいまうちぎみの御とのぞいと広き。

わたどのゝたれむしろはづかなる時なし。

いとあつきころいく度もまうのぼりしに。

多武の峯と、初瀬と、高野など、いづれも夏なき所なり。

さるも愛宕のみねには。

加賀のくにゝ宮の腰とふ湊あり。

折々行てみるに、沖行舟の東ざまにおふときぞ、風いと涼しき。

加賀の国を立ていせの国をさしてゆく。

みなづき中の五日斗なるに、淡海の国にて、あるあがたにやどる。

合歓の花おもしろくさきたる家にて、そがもとの。

湯槽をすゑてゆあみさせたるに、子持ちがらすの梢にゐて、笑ふにかあらむ鳴とよむ。

月出て暮ぬ。

伊勢に国なる青山のかなたに、しれる人のがりやどる。

文月六日の夜なり。

此日夕立のしける。

其雨のけにや、又山のふもとなるけにや、此夜はいと寒きばかりにて。

皷子花ぞいとにくげに、あつけきものを、行も/\堤にて、是が花のみぞとかく咲きたる。

さて是をくだるに、大きなる川あり。

日もくれんずころゆくに、椎の木にやあらん、いとくらきがもとにやすらひたれば、はやふねにのれといふ。

かくて見れば、相知る人が此わたし守して居る也。

さてとゞめられて、其夜はそこの家にやどる。

夜ふけて水鶏ぞ鳴ける。

越の前なる湯尾峠を、みな月斗にこえける。

のぼりつくまに/\いと寒し。

中の川内などいふ所又しかり。

我住家の庭はいとちひさけれど、草ども多くうゑつるに、いと青々として、夕つかたに水そゝぎなどすれば。

あまりにあつきまに/\、しら雲のたつたの神に弊祭りせん、国中に雨ふらん風をふかしめたまへと、雨乞ふ哥よみつるに、よきときにや、三日ばかりするほどに、風吹かはりて雨のそぼふりける。

我は此うたを、かの御神のめで給ひつらんと思ひほこりて居なり。

さて涼しければ、かのまぎれにすべきおもひぐさも侍らず。

けふはみな月の五日にてしるしはてぬ

                                                                              綾太理

涼みぐさといひて書るものを、人にみせ侍るに、うべ心よげなる所どもかな、とてもあらば、秋より冬さりて、物のこゝろばへいとしめやかなるころしも、又いかにも是は寒からむとおもふ時しもの有さまを、かいつけて、これが次の巻とせよ。

彼を見これをよみて、げにもと思はゞ、心に夏はなかるべしと、そゝのかし聞ゆるにのりて、やがてさるさまの侍しことを、おもひ出るまに/\しるしぬ。

こはことに時ならねばや、唯あつきにまけたる心地す。

葉月ばかり甲斐のくにゝいきける。

まだあつけかりしかば、ひとへなる旅の衣のみしていきけり。

山高く谷深き国なれば、風の音も水のひゞきも、異国には似ざりけり。

さて行めぐる間に、長月にも成りむ。

武田信玄主の大城のあとみしぞあはれなる。

此主此城の内に兵を伏せて、箭を作り、馬を養しめしとき、かく秋萩の所得がほに咲をゝらむとはおぼしてむや。

むしのこゑなどはいとかなしく、雲の行来も唯はかなきさまして、日も暮るに、袖もしほゝに濡てかへりにけり。

此夜嵐の音高くきこえしが、俄に寒くなりぬ。

おどろきて帰るべくするに、爰は富士ゆ背向なれば、長月十まりひと日といふに、雪は真白にて、をちこちの高峯にも降ける。

  きさらぎばかり、越のくにゝこだる。

近江の国長浜といふ所を過ば、雪は三尺ばかり敷て、浜風いと寒し。

木の本といふ所にやどる。

こゝなる地蔵ぼとけは、よきことを人に授けたまふとて、忝なき仏になむ申ける。

是さへ雪にふりこめられたまひて、寺とも分ざれば、詣来る人もなし。

夕暮に参りて見れば、鷦鷯、といふ鳥の、住所うしなひたるにや、堂のうちに飛入ける。

同じ時湯尾峠を越るに、松桧は木垂にこだれて、まだあかつきなれば、雪の高くかゝりたるを、谷風の吹のぼるに、えだ共はふきかえされて、さとこぼるゝ、いとおそろし。

能登の国に松任といふ所有。

入江に打渡せるはしありて、いとおもしろき所也。

さは此はしに立て見れば、海の魚どものあると有が、此江をさしのぼり来。

赤目は唯黄金のひかりしたり。

さゆりといふうをは、水の色して消たるばかり也。

よくみれば、眼の光るぞそれなりける。

平目はおそし。

鱸はいとゝし。

頃は葉月中の二日なりけり。

爰従一里ばかり行て、涌浦といふ湯沐所の有に、こもむらとて行。

此涌浦はよに似なき温泉也。

海の中に毳ならば十枚ばかりも敷たらむほどして、島の有が中に、いと/\熱き湯の涌出。

そを汲て湯槽にたゝはし、又汐などをも汲入て、其中にいり居る。

いかなる病も癒とて、他国よりも參りく。

此島へわたるには、いとあさき海なれば、かしこくもあらず。

おのが自師棹さして行也。

又やどりは、其磯間なる海人の家かりて、朝夕のわざも打まけつゝ居(をる)也。

かく在(あ)る間に、野分の風いたく吹て、前なる畑(はたけ)の黍稗(あはひゑ)どもは打たふれ、又其島は、一夜が間に高汐の底にまぎれ入ぬれば、かの湯槽(ゆぶね)は波にのりて、そこはかとなくたゞよひありきぬ。

松前の国の守くだり給ふを、送り奉らむとちぎりまいらす。

きさらぎ十日あまり六日、よべより雪ふり出ぬるが、あかつきみれば、三尺(みさか)ばかりになりて、江戸の大路なれど、行かふ人ひとりもなし。

ことさらに風の心地して煩らひ侍りしが、此日まうでざらめやとおもひて、雪をばふみさくみて、千寿(せんず)とふうまやまで迄行。

道のべを見れば、うゑたるからすどもにや、おほくすだきて、雪を穿(ほ)りて物くふ。

神無月に小春といふ比の有は、此国にはいはぬ言(こと)を、唐哥には、十月小春天気好(かむなづきのこはるてげよし)とよみたれば、今は此からことにならひて、しかいふめる。

さるは日ざしのいとうら/\に侍るほどいでたちて、鴻の巣とふ駅(うまや)に、しれる人のがりやどる。

夕つかたしぐれの雨ふり出たるに、木の葉散まじりてさびしげなるを、雀のおほくすだきて、さへづる。

何を思ふにかあらむ。

かの前の大納言にてましけるがおはしたり。

雪かきはらひて入奉るに、惟頼(これより)してもたせ給へるは、愛  の山にて、氷(こ)らせて作りたるよしの物也。

友どちのがりとひ侍けるに、けふはいと寒きに、もの煮てたうぶといふ。

なゝりといへば、鰒(ふぐ)にてあなりといふ。

こはおそろしといへば、おのれひとり浦島が子にてあらむとやおぼすとて皆にくむ。

われも負(まけ)で、命はさばかりにくき物かはと  (のり)つゝ、雨まじりに降雪を打払ひてかへりぬ。

あがたわたりには大根引(おほねひく)とふことをす。

朝霜のいたく降たるが、漸(やう)々消わたりて、履(くつ)などのしづく路(みち)を、かゆきかくゆきみるなむ。

秩父郡(ちゝぶ)の寄居(よりき)とふうまや有。

又荒川とふ河を隔て、西のかたに、鉢形といふ山ざとあり。

其わたりに、神無月ばかり遊びゐて、夜(よる)も友どちかいつらねて、そこをわたるに、いとほそき声して鳴行烏有。

亦わたし守をおこせば、いと寒げにねむたげにて出来(いでく)。

あな暑し、いと涼しとて、夕毎(ゆうごと)に立出つる河のべば、古草枯しぼみて、水は清らにいと細くて流れ来るに、いなおふせ鳥のおりゐて、石の上をうつりありく。

祗園の森、安井の林も、このは皆ふり落て、唯物のあらはなるに、物まうでする翁(おぢ)と老女(おば)が、腰かけて休らふ。

音羽の瀧のべは、氷凝(こおり)ていとおそろしげなるに、何を願ふ人にやあらむ、ゆかたびらひとつ打きて、そがもとにうずくみ居る。

碁打てむとて友どちの入来(く)。

さらばはやも来で、日はくれぬめりといひつゝ、七つ八つと打ならぶるほどにくらくなりぬ。

そこあけよとてひらけば、寒き風の吹いるに、夏は日も長く、さむくもあらずといふぞ。

物わすれいたくする人にあらむ。

大とのゝ御庭は、山をおはせたる池水の広きに、鴨がねの来ゐて鳴。

龍安寺の池の  鴦(をし)は、見ぬ人ぞ多かる。

道陸(みちのく)に下りて年をこえけるに、いと珍らかなる事はみき。

二月にもなれば、さすがに春雨の次てふるに、丈斗ふり敷たる雪の、うはべは氷りあひて、踏どもたゆまず。

さるは沼も渕も分ねば、唯いほびかなる野べのごとも有を、馬などのこやしたるかばねを捨おきて、狼の寄来べきかまへしおき、よき時をみて、多の猟人、五里ばかりの間を、よの間に打かこみて、其夜は雪の中に立明し、あくれば寄せ来るほどに、狼は俄におどろきて、西東にかけめぐり、すきまあらん所を、逃出べくすれど、垣ほなす人立たれば、終にくたびれて、たやすくいけどりにとらる。

其夜猟人になりて夜をあかしけるぞ、物にも似ぬ寒けさなり。

道奥にくだりて、かの猟なむ見つるなへに、角鷹を遣ひて見せむやといふ人の有に、めずらかなることなれば、やがてあともひていきける。

二月ばかり、雪のよく凝たる此、脛には蒲もて作れる足結し、足には、橇とふ物をはきて、かの雪の上を渡るが、この沓ぞ異国にはあまりにみぬもの。

そは飯櫃なす桑の細枝を押曲て作りたる物也。

これをはけば、いと深き雪のうへを行も、平らけき地を踏なす待れど、よくなれねば踏違てこけまろぶことあまたたびあり。

さて高き峯のへに、かの角鷹をすゑてのぼる。

いかにおもからんなどいへば、日此ならして侍れば手もたゆからずといふ。

さるは此鷹は、鳥摶わざはおそくて、唯兎狐ざまの物にあひては、いととしといへり。

又雪降国の兎は、冬となればひた白くなりて、雪のうへにはそれとしも分らぬを、此鷹とく見出て、身じろぎすれば心得つつ放けるに、飛くだる羽風の鳴とよむにや、兎らは耳とき奴にて、彼が羽風をきき、唯おぢにおぢて動もえせず、笹がくまびにうずくみをれば、いと安く捕られたり。

さる所をみるに、頭はつかみくだかれ、骨は押折られてぞ死居ける。

かく猟しありくに、俄に空かはりて、雪吹とふ物の吹くるぞいと苦しき。

こは雪のこまかなるが、風に添ひて来る也。

息だもつぎあへねば、こころえぬものは、山路にふして死とぞいふ。

加賀の国大乗寺といふ寺あり。

こは多の僧のあつまりゐて禅とふことをす。

きさらぎばかりその寺に行て、おのれも禅とふことをすべきなどいへば、いとふつつかなれど、何を見そこなひてや、ゆるしてげり。

世の常かく行とむらふには、足槽などに湯をたたはして足あらはせ、火桶に火などもて来ていらふを、是はさるあるじだちたることもせねば、沓の氷になりたるをばとりて、おくべき所におし入れ、水もて足あらひて、堂めける所に上りをる也。

さてみれば、有とある人は皆壁にむかひて、袖をかき合、足はいたげにくみてすわりゐたり。

ものいふ人なければ、此方も猶いはず。

先此よのまじらひに、かかることやあらん。

麦蒔ころは、かの春のさましたる日も侍り。

又しぐれのみ打ふりて、立出べうもあらぬ日あり。

さるころしも、あがたわたりに行てをれば、いとさびしくも有かな。

みる物とては、からあゐの花の、はたけの中にひとり立たる。

また高からぬ峯に、異木はなくて、松のみいとつれなく立る。

かたゐが〓打着て、四条わたりの橋のうへにふせりたるに、霜のいたく置だる。

桃の木の葉散果、いとさびしき梢に、唯ほしすくまりたる実の、ひとつふたつとどまれる、なににかならむとおもへる。

かの小春だちたるあたたかげさには、虫などのとびありくこと侍り。

そが中に蓑虫なむ、頭斗をさし出して、物みるさまなるを、俄にかきくもりて雨のふり来れば、かの打かづきて引いりぬ。

日はいと短きを、けふがうちに、十里まりの道はゆかめとて、いととく道立したるに、三条の大路を橋にかゝりてゆけば、さぶる子どもの、いとうすき衣着たるがおき別れてかへる。

夜も流し、哥物語どもを考えあはせむとて、此方彼方に行つどひて、さて子二つ三つにかへるに、月のいとあかき。

きさらぎはじめ長崎を立て京に帰るに、生の松原を通るほどに、風のむかふざまに吹て、菅笠を吹とられたれば追ひて行に、かたへの池に落。

伴へる男、脛をまきて入れば、氷の音ぞ、ひし/\としたる。

弥生の末信濃の国に行。

上毛野のわたりは、花皆ちり過て、麦のみいと青さかえたるに、坂本とふうまやにいかれば、をちこち桜咲て、山吹などもいろこく、わかなやう/\青めるに、又なむ春の心地す。

さて碓氷の山の桜さかりにて、うぐひす心よげに鳴とよむ。

さてのぼりつきてみれば、山のいたゞきに立る木どもは、まだ枯にかれて、木のめもはらず。

雪はこのもかのもにのこりて、吹来る風いと寒し。

豊のあかりきこえしめす、御庭のさまぞいと寒げなる。

そが中に衛士たちの篝まゐらするは。

神無月はじめ、〓取の浦より船にのりて、鹿島のかたに行。

夏のころも通り侍りしが、菰いたく生ふたがりて、いづこともわかざりし。

今は水のきはみいと広て寒し。

細き入江めく所に漕入たり。

そこは浦屋だちたる家むらの有が、色こき稲どもかりわたして、岸べにおふる榛がえに打ちかけたり。

又土大根を縄にあみて、こもかけならべたり。

朱雀門と羅城門との中道は、今はかすかに残りてあり。

さて霜降月にもなれば、此道の右ひだりには、水菜とふ菜をふさに作りて侍り。

あかつき見れば、濡たるさまにて、霜のいたくおける。

浪花よりのぼる舟は、綱手して挽なり。

のりてのぼるに、苫吹鳴らす風の音のみか、綱を挽ならす音ぞ、枕がみに響て、いもねられず。

そが中に旅人めきたるは、いびきあはせてふしたり。

さて此わたりはいづこにかと、問へども/\うるさがりて、かこどもはこたへず。

やう/\目さましたる翁が、物なれたるかほして、おひな、今ははやひらかたにも有べき。

かこたちさならずやといへば、とものかたよりふとき声して、今唯今漕出し舟にはつばさもあらずなどいふ。

いとにくし。

さてみれば、夜中をさして照る月の影も、雲にかまぎれ入けむ。

いとくらきに、川千どりのむれて鳴行。

しはすばかり西大寺に、しれる人のありて行とむらひける。

かの糸よりかけてとよめる柳はこれぞとて、いと若き木のうゑて侍るが、凩のかぜにいたく吹れて、春待こゝろも侍らじとみゆ。

出羽の国秋田の郡に、物しりにておはしける僧の、山寺に住て居給ひしがもとへ行ける。

長月十日まり二日、ことしこそいつもはあれど寒けれ、雪などもはやく降こめ、冬ごもりせむかまへせばやとて、瓜夕皃などの実の、あさましく小さげになりたるをとらせて、塩におさしむ。

さて有に、其次の日、かきくもりて雨ふりけるが、やう/\白きものゝかてゝふるほどに、みるが中に唯真白になむ降かさなりて、目のまへなる松も柏も、うもれにうもれにたり。

京わたりは月見る夜なるを、かゝる雪の中にこもりをらむ、いと口をしき国がらには侍るよ。

しかすがに長月なれば、楓の紅葉、ぬるでうるしなどいふ木の上に降れるは、紅のきぬに真綿打かさねたらむさまにぞ、見所は侍りき。

修覚寺といふ山は、院のみかどの離宮にて侍りしが、其わたり参りしついで、かいまみに拝みて侍る。

紅葉の高き低き数しらずうゑられて、岡のつかさに、御宮ぞかすかに残りて侍る。

島のこゝろばへいとおもしろく作らせたり。

神無月なるに、しぐれの雨いたく降来。

友どち行けるが皆ぬれて、下なる加茂の御社のみまへ迄、からうじて帰り来。

さていかにせむとて立てをれば、友がきはかりて、毳引はりて行がよかるべしとて、しかして走りゆく。

あらしにたえぬ紅葉の、風につきて飛来るが、衣につくなむいとおもしろき。

又そこへ、心ある人の道行が、笠おほくもたせたりとて、こなたを誰ともとはず、唯かしておこし給へり。

あがたわたりの厩をみれば、朝などはあたゝげに、烟の立のぼる物なり。

浜松の駅まで、行足らはさむとていそぐに、短き日なれば暮なむとす。

馬に打のりて、しぐれのいたく降るにむかひてゆけば、やう/\をやみて、西の山際のすこしあかくなりたるより、夕日かげのもれ出たるが、今行わたりの垣ねに、うす紅なる山茶花の咲てあるにうつらふ。

いずこにありつらむ。

武蔵下総のふた国の中を流るゝ墨田川のべに、古き塚の侍る寺有。

其塚は梅若とふ児の跡なりとて、みな人あはれがる。

又其塚のうへに柳の侍るも、其事につきてなどいふ。

しはすばかり行て川のべをみれば、枯たる芦の葉打みだれたる中に、白鳥とふ大鳥の、浮居て、頭をば水底にさし入つゝ物はむ。

武さし野といへど、今はいずこともなし。

西の山際に青梅といふ里の有に、しれる人多く侍りて、神名月のはじめに行。

此さとのべは玉川とて、大きやかなる川のながるゝが、かのさらす調布とよめる所也。

たち出てみれば、岸の紅葉いたく散て流るめり。

長崎の湊は山の打かこみたれば、唯池などのさまして、時となく、舟うけて人ゝあそびす。

しはすのいと寒き時なれば、黄なる菊のさゝやかなるが、おほく岩根に咲出る。

そをみむとて、船うけて漕めぐるぞ、此み国にしては又なき所なり。

神名月のはじめ、高雄の紅葉見に行。

こは又くだらの山を猟くらすともかゝるいろ侍らじ。

橋の谷川にかゝりたる、岩根のもみじことによし。

さて柴うるをみなの家にやどりて、朝なむおき出れば、霜のいたくふりかゝりたる。

かのから紅にくゝるとて、とよめるけはひになむ。

これもかへさはしぐれにあひて。

きさらぎと葉月は、風の心定まらずとて、船人は忌月なり。

さるを帰るべき時になれば、浪花にこひのりて、赤間の関につく。

風は東ざまに吹ほこりて止ず。

波はうちかへすばかりにたちかさなりて、我々をおどろかし侍りき。

おもひ出るにいと寒きこゝちす。

中津の君のみまへに侍りて、御物語りつかふまつるに、夜の更けぬる時は、みたちの中にやどらせ給はりける。

さはいとあたゝかなれど、あかつきまかりかへるには、橋などにいたく霜おきたるに、人のあとあからさまにつきたる。

あづまに下ること侍りて、神名月はじめに道だちす。

夜ごもりに立出たるに、日の岡といふ所にて、ほのかに物の見えにくるにみれば、火たきて人ふたりなむゐける。

何ごとにかと思ふに、罪人の頭うたれたるが、木にかゝりたるを守るなり。

かくいま/\しきことのついでに、おもひ出しことの侍る。

奈良に行とて、唯ひとりくだり侍るに、奈良山ちかくなりて日もかたふきたるに、ゆきいたくふりく。

佐保川のあたりにいたりて、米負はせる馬どもの多く来るに、かたへに立そげたり。

さて見れば、物かきたる板のおちたふれて侍るが、ふりかゝりたる雪のくまより、此者何々の罪によりてとふくだりの見えけるほどに、いとあやしくて、いよゝゆきをかきのけてみれば、此所にかうべをかけたりとみゆ。

はとおどろかれてあふぎみるに、おのが頭の上に、髪いとながくおひたるに、ゆきのおどろに降たれたるかしらの、われをにらまへたるさまにて、二つまでなむ有ける。

いと寒からざらむや。

箱根の山をこゆるに、時雨のあめを吹きはらふとて、嵐のいたくとよめるに、湖の波も打ちさわぎて。

しはすも二日三日といふなれば、みやこべともおもほえず、人の心もゆるばで、唯足をそらに行かふ。

神無月のなかば、能登の国なる一ノ宮を拝みて、富来といふ浜べに行。

大きなる石の打かさなりたるに、波はとゞと寄来。

磯ちどりのおほくむれゐるが、寄れば石のへにとびあがり、引ば波間に下りゐて、いそがしげに物ひろふ。

奈良なる氷室の御神は、笛舞などのかたを領すにや。

長月晦日といふには、それらの人多くつどひて、打はやしてまはひす。

常なれば所の人は来てみず。

紅葉のいとよくてりたる陰に、うつろひて見所有。

媒はらふことをすなる、いとかしがまし。

家ごとに打たゝく音にぞ、朝がらすをおどろかしてむとおぼゆ。

ひさしく物うたがひしつるうせ物の、畳のあはひより出来るぞ、いとなほなるかな。

附録

爰に附けて録すことは、旅のうへの歌に文に、よしあるべき古言どもをいさゝか書出して、それらの便とす。

そがなかにいまもいふめる言の侍るは、これをみてそのことのもとをしれとなり。

又そのことをとれるもとつ書は、国史歌集、其外故有ことゞもはかつ%\出す。

猶そのことのかたへに一二字をしるすをみてそのもとつ書をしるべしとなむ。

さるはかねてあらはせる、哥文要語、前のはし書ぶりのたぐひ、おほに古語どもを出せり。

爰にくさ%\古語をかい入たるものは、西山物語、本朝水滸伝、後のはし書ぶり也。

又ひとへ衣、とはしぐさなどいふ書にも、こち/\古語をとるべし。

又吾徒のいだせる詞艸小苑とふ書には、こと%\いにしへの発語をあげて、つばらに古語の意を説きあかしぬ。

今このみちをこのむ人、これらの書をよみて、其古言をとらば、おゝほにたりなむといふ。

  天部

天部,[万葉集]天づたふ入日

天部,[万葉集]日もくれ行ば

天部,[万葉集]朝くもり日の入りぬれば

天部,[万葉集]真日くれて[真日といへばくもりなき日也]

天部,[万葉集]日ならべて[毎日なり]

天部,[日本]日蔭(しけ)て[日くもりてなり]

天部,[祝詞]夕日のくたち[日のおちかゝる也 くだちは降なり]

天部,[続日本]ひねもすがらに[終日なり]

天部,[古今]幾日もあらねど

天部,[古事記]青山に日が隠(かく)らば[茂山に日がかくれなば レナの返しラなり]

天部,[万]霞立長き春日

天部,[万]うら/\に照れる春日゙[今のうららかなり]

天部,[万]朝影夕影

天部,[源氏物語]霞のけしきもあわたゞしくみだるゝ夕かげに

天部,[源氏物語]遥にかすみわたりて

天部,[万]明闇(クレ)のあさぎりがくり[明くれは暁むとして又くらくなることをいふ]

天部,[万]夜わたる月

天部,[万]月[ク]夜よし[月夜と唱ふるは都久与の仮名による]

天部,[万]朝月[ク]夜[ありあけの月也]

天部,[万]夜ごもりに出来る月[遅くいづる月なり]

天部,[拾遺]月の衣[月のかさ也]

天部,[拾遺]かた破(ワレ)月

天部,[万]清き月夜

天部,[うつほ]池の広きに月おもしろくうつれり

天部,[万]苦しくも降くる雨

天部,[後撰集]くもりふたがり降雨の

天部,[後撰集]初しぐれふれば

天部,[万]夕立の雨うちふれば

天部,[万]こさめそぼふる

天部,[万]雨雑り雪の降夜

天部,[菅万]松のはにやどれるゆき

天部,[古今]白雪の所もわかず降しけば

天部,[万]大雪ふれり

天部,[万]きのふのゆふべ降し雪かも

天部,[万]時じくに雪は降とふ[時じくは常也とふはといふ也]

天部,[万]あかつき露

天部,[源氏]つゆけき秋

天部,[万]旅人のやどりせん野に霜おかば

天部,[万]夕凝(ゴリ)の霜おきにけり

天部,[古事]西吹明て雲はなれ[西風にて霽(は)るゝけしきなり]

天部,[拾]くらやみ

天部,[万]雷のしばし動て刺くもり

天部,[万]天雲の近く光りて鳴神の

天部,[古]風吹ば峯にわかるゝ白雲の

天部,[いせ物語]立居る雲やまず

天部,[祝詞]白雲の下居向伏(オリヰムカフス)かぎり[天の見ゆるかぎりをいふ]

天部,[土佐日記]黒き雲俄にいできぬ

天部,[拾]夜の間の風

天部,[後撰]かへしの風[北風の南にかへすたぐひ也]

天部,[万]山こしの風

天部,[祝]朝風夕風

天部,[源]あかつきの風にわびて

天部,[源]いとすごく打しぐれて、木のもと吹払ふ風の音など

天部,[拾]旧年(フルトシ)

天部,[万]春めきにけり

天部,[万]夜寒

天部,[万]秋づく[あきめくなり]

天部,[祝]天の壁(カベ)だつ極み[天際なり]

天部,[後]いと寒し

天部,[万]寒き夜すらを[よすらは夜さなり スラノ返しサ]

        地部

地部,[祝]国の退(ソギ)立限り[退立は果をいふ]

地部,[万]真路(ナホヂ)

地部,[万]曲道(ヨギヂ)[余道(ヨヂ)にて今いふわきみち也]

地部,[万]山田のみち

地部,[万]崗前(ヲカザキ)のだみたる道[だみはたわみにて曲れるなり]

地部,[万]夜道(ヨミチ)

地部,[万]山道

地部,[拾]遠道

地部,[万]舟道(ミチ)

地部,[万]舟路(フナヂ)

地部,[万]治道(ハリミチ)[新たに作れるみちなり]

地部,[万]道をたとほみ[唯遠みなり タトの返しト也]

地部,[万]里廻(サトワ)[廻はめぐりをいふ]

地部,[万]山並(ナミ)の宣敷(ヨロシキ)国、川次(ナミ)の立合ふ郷(サト)[山も川もとゝのひたる国郷なり]

地部,[万]赤駒の{句-口+言}(ハラ)ばふ田居[田居はゐ中也、唯あれたるゐなかをいへり]

地部,[万]穂田(ホダ)の苅場(バ)[稲の苅時なり]

地部,[万]引板(ヒキイタ)[鳴子也、源氏には引板(ひた)とも]

地部,[万]槙の板戸

地部,[万]黒木の屋根は山ちかし

地部,[古事]荒峯(アリヲ)[あらき峯也、ラキの返しリ也]

地部,[万]荒峯(アリネ)

地部,[古事]闇山(クラヤマ)[茂山なり]

地部,[古事]端(ハ)山[はづれの山なり]

地部,[古事]枯(から)山[草木のはへぬ山なり]

地部,[拾]古さとの山

地部,[古事]海路(ウナヂ)

地部,[日本]水中(ミナカ)

地部,[日本]重浪寄(シキナミヨスル)[立かさなる浪なり]

地部,[古事]波限(ナギサ)

地部,[古事]大沼(オホヌマ)

地部,[万)大舟(オホフネ)

地部,[日本]浮宝(ウクタカラ)[舟のことなり]

地部,[後撰]稲(イナ)舟

地部,[万]藻刈舟(モカリフネ)

地部,[万][古事]夜船(ヨフネ)

地部,[拾]難波津は闇(クラ)めにのみぞ舟の着[日暮になり]

地部,[万]酒屋[此例によりて何やと書べし、魚屋はもとより古語]

地部,[古事]真床(マドコ)[中央の座なり]

地部,[万]奥床外床(オクドコトツドコ)[おくの間表の間なり]

地部,[日本]田荘(ナリドコロ)[下屋敷なり]

地部,[万]食薦[物食ふ時敷席をいふ]

地部,[和名]邸屋(ツヤ)[問屋のことに書べし]

地部,[日本]稚(ワカ)室[新宅なり]

地部,[万]新室(ニヒムロ)

地部,[万]寝床屋(イトコヤ)[寝所なり]

地部,[拾]朝ごとに我掃宿(ハクヤド)

地部,[拾]ぬしなき宿

地部,[拾]あばらや

地部,[後撰]丸(マロ)橋

地部,[古事]吾家(ワギへ)

地部,[日本]柴垣

地部,[日本]高垣[高塀にも書べし]

地部,[日本]姫垣[ひくき垣也

地部,[日本]枯(カラ)垣

地部,[古事]垣下(カキモト)

地部,[後撰]おどろかし[かゞしなり、そほつともよめり]

地部,[日本]田(タ)の阿(ア)[畔なり]

地部,[日本]粟田(アハブ)[粟生にて粟畠也、すべて物のはゆる所を生(フ)といふ]

地部,[日本]{田+嘆-口}(ハタエ)[波陀詠の仮名書なり、耕麦田のことゝあり、畠枝の意か、稲はもとにて麦は末なればなり、補{田+嘆-口}字和名には紀を引て八太介(ハタケ)とあり、紀ノ自注には波陀詠(ハタエ)とあり、或説に詠は咳字歟とも計字歟とも云、今按該(ケ)字の書誤歟、こゝに引れたる耕麦も和名の説なり、又耕田{土+龍}ともあり、今もいふはたけなるべし]

地部,[後撰]荻の焼原[焼野なり]

地部,[万]春野焼野火(ヤクノビ)

地部,[拾]春の田

地部,[万]秋田

地部,[後拾]くさがれ

地部,[後拾]木(コ)の下水

地部,[古]小竹(シノ)の苅杙(カリグヒ)[刈かぶなり]

地部,[万]榛(ハリ)原[あづまにてははんの木といふ]

地部,[万]萩原

地部,[万]芝野

地部,[古事]一もとずゝきうなかぶし[大和の一もとすゝきとよめり、うなかぶしは紀に頗傾の字を用ゆ、うつむく意なり]

地部,[万]冬の林

地部,[後撰]むすばふれたる雪の下草

地部,[いせ]我いらむとする道はいとくらう細きに

地部,[後撰]花ざかり

地部,[拾]美山(ミヤマ)桜

地部,[源]大きなる木の根のいとあら/\しきに

地部,[古事]稲殻(カラ)にに(ママ)はひもとほらふ女〓蔓(サネカツラ)[もとほらふはもとるなり]

          人部

人部,[万]門出(かどで)

人部,[万]立む装束(よそい)に[旅支度(したく)なり]

人部,[拾]いづかたへ行

人部,[万]いづ辺(べ)のかたに

人部,[拾]かのかた

人部,[万]見立[旅の道]

人部,[拾]道行人

人部,[万]うち捨人[世すて人なり僧にも書べし]

人部,[拾]遠ク行ク人

人部,[拾]遠道

人部,[催馬楽]先なの[先の人なり]

人部,[拾]かたゐざり[腰のたゝぬなり]

人部,[万]今日かけふかと

人部,[後撰]待遠にのみ

人部,[後撰]度々

人部,[後撰]いひあはせ

人部,[古事]行及(ユキシク)[行着なり]

人部,[万]追及(オヒシカ)む[おひつかん也]

人部,[古事]率(ヰ)て行[伴ふなり]

人部,[拾]夜深きにかつ%\もけふは七日ばかり[少しの間にはなり、七日ほど暦たりといふ義なり]

人部,[古]長居

人部,[拾]熊のくらはむこともおもはず[捨身の意なり]

人部,[後拾]見ぐるし

人部,[万]たもとのくだち[袖の破れなり]

人部,[補][万]麻衣肩(アサゴロモカタ)のまよひ[麻衣はもめんも同じまよひは破れなり」]

人部,[源]ふとりぐろみ[たびにて日にやけたるさま]

人部,[日本]昼寝

人部,[古事]枕方足方(マクラベアトベ)

人部,[万]手向よくせよ[旅立に道祖神をまつるをいふ]

人部,[古事]左受枳(サズキ)[山神を祭る仮庇なり、今物見のさじきにあてゝ書べし]

人部,[古事]秡具(ハラヘツモノ)[神祭の具なり]

人部,[古事]足結(アユヒ)[今の脚絆に書べし]

人部,[日本]足結手つくり腰つくり[こしの作りは身つくろひなり、川をわたるさまによめることばなり]

人部,[延喜式]脛(ハギ)[上に同じ]

人部,[万]浦の尽(コト%\)行かくれ島の崎々隅も落ず[隅もおちずはのこらず也]

人部,[日本]獣の乾跡(カラト)も見ず[往来のたえたるをいへり]

人部,[古事]島にはふらば[落ふればなり]

人部,[拾]巣守[島にたとへて留主居するをいふ]

人部,[拾]野伏山伏[やどり定めぬ意也]

人部,[拾]となりかくなり[どう成ともかうなりともなり]

人部,[万]馬ぞ爪づく家恋ふらしも[馬のいそぐなり]

人部,[万]浅瀬踏(フム)

人部,[古事]息(イコイ)[息請にて休む義也]

人部,[古事]集ひ(ツド)[あつまるなり]

人部,[古事]阿芸登比(アギトヒ)[論也(アゲツロヒ)]

人部,[古事]無礼(イヤナシ)

人部,[古事]比古豆良比(ヒコヅラヒ)[引摺(ヒキズリ)なり]

人部,[万]真木立(マキタツ)山従(コ)見降(クダ)せば[ゆともよりともいふはよりといふ義なり]

人部,[万]擢合(カヂアヒ)の音聞由(オトキコユ)[櫂(カヂ)は今の艪(ろ)板の打あふなり]

人部,[古]人の身もならはし物ぞ

人部,[万]まさきくあらば[無事にあらば也]

人部,[万]麻流禰(マルネ)[丸寝なり]

人部,[万]此よの明むと待まゝに

人部,[万]くらき夜は苦しきものを

人部,[万]喘(アヘ)て漕出な海上(ニハ)も静けし[喘は息をつくなり]

人部,[古]いづれ都の境なるらん

人部,[万]百重山越て過行[多の山なり]

人部,[万]青山のそこともみえず

人部,[万]白雲も千重になりきぬ[跡の遠ざかるなり]

人部,[万]犬じもの道に伏居て[じもはなどゝいふほどの詞也 途中に煩ひ臥せるさまをいふ]

人部,[万]夜旅

人部,[古事]牡蛎(カキ)貝に足踏ますな[足をそこなふなといふ意なり]

人部,[土]夜更て西ひんがしもみえず

人部,[土]月を見て西ひんがしをしりける

人部,[落くぼ]をかしき餌(エ)袋[食物を入る袋なり]

人部,[万]暁と夜がらす鳴ど

人部,[万]笠なしにして

人部,[古事]君が行[旅行なり]

人部,[古事]夜戸出[夜出なり]

  旅のうへに書べき調度並食物生類

旅・食・生部,[古事]火打袋

旅・食・生部,[古事]火打をもて火を打出し

旅・食・生部,[万]蚊火[鹿火ともあれどかやり火にも書べし]

旅・食・生部,[後撰]かやり火

旅・食・生部,[拾]枕筥(マクラバコ)

旅・食・生部,[万]木枕(コマクラ)

旅・食・生部,[万]針袋

旅・食・生部,[後撰]上着(うはぎ)

旅・食・生部,[万]馬乗衣[いかなる裘かしらず、今もめんにて合羽のごとくせるものにもとりなして書べし]

旅・食・生部,[延]湯槽(ユブネ)[居風呂桶]

旅・食・生部,[延]円槽(マルフネ)[手水たらいなり]

旅・食・生部,[日本]{晶+毛}{登+毛}一領(アカガモヒトキ)[毛氈なり、かもは毛席なり]

旅・食・生部,[和]藁履(ワラグツ)[草蛙なり金葉には  わらうづと書り]

旅・食・生部,[古事]玉盞(タマモヒ)[何にても水晶のうつはに書べし]

旅・食・生部,[万]高杯(タカツキ)[菓子盆]

旅・食・生部,[万]蒸衾(ムシフスマ)[あたゝめたるふすまふすまは夜具]

旅・食・生部,[蜻蛉日]海松の引干(唯干たるみるなり)

旅・食・生部,[落]草餅

旅・食・生部,[落]焼米(ヤイコメ)

旅・食・生部,[古事]手火(タビ)[松明なり]

旅・食・生部,[日本]{火+赤}炭(ヨコシスミ)

旅・食・生部,[万]酒壷(サカツボ)

旅・食・生部,[万]菅笠(須気須賀[すげすが]ともにかな書なり)

旅・食・生部,[枕]太刀[枕におく太刀なり]

旅・食・生部,[和]湯かたびら

旅・食・生部,[延]たなごひ[手拭なり]

旅・食・生部,[万]つと[土産なり]

旅・食・生部,[日本]かみらひともと[蕪(カブラ)一本なり]

旅・食・生部,[世継]ほしどり[焼鳥なり]

旅・食・生部,[万]勇魚[イサナ]

旅・食・生部,[大和物]しほざかな

旅・食・生部,[万]乾鰒(カラアハビ)[串貝のたぐひ]

旅・食・生部,[延]漬塩(ツケシホ)の雑魚(マゼヨウ)

旅・食・生部,[源]湯漬(ユズケ)[茶漬けとはいまもいはず]

旅・食・生部,[いせ]餉(カレイ)くいけり[乾飯、今の旅の昼飯に書べし]

旅・食・生部,[日本]早喰(ハヤグヒ)

旅・食・生部,[日本]飯(イヒ)に飢(ヱ)て[うゑてなり]

旅・食・生部,[古事]酸(スヘリ)[今のすへるなり]

旅・食・生部,[日本]飯粒(イヒボ)[めしつぶ也]

旅・食・生部,[古事]食物(ヲシモノ)[唯食物なり]

旅・食・生部,[古事]味物作具(ウマシモノソナ)へて進(スゝ)む[料理をいふ]

旅・食・生部,[日本]紫菌(ムラサキノタケ)[今のしめじに書べし]

旅・食・生部,[拾]松だけ

旅・食・生部,[拾]こにやく[こんにやく]

旅・食・生部,[日本]秋(アキ)葱[秋のねぶか也]

旅・食・生部,[和]冬葱(フユキ)

旅・食・生部,[古事]蛤貝(オホガイ)[はまぐりなり]

旅・食・生部,[日本]白蛤(ウムキ)[はまぐりなり]

旅・食・生部,[万]一杯(ツキ)の濁れる酒

旅・食・生部,[後撰]山がらす

旅・食・生部,[万]朝がらす

旅・食・生部,[古今六帖]子持がらす

旅・食・生部,[古事]庭雀

  取成(トリナシ)て書詞の例

取成,湯杯(ユズキ)[茶碗也、酒杯といふにならふ一切の椀るいは皆杯なり]

取成,かさね箱[重箱をよみにとなへて古語と聞ゆるものなり]

取成,手拭(タナゴヒ)だつ帯[三尺手拭なり、だつはめくと同意の詞、これ三ツの古語を合せり]

取成,紙のともし[源氏には直に紙燭(シソク)とあり]

取成,ともし提(サゲ)て[挑灯なり]

取成,[補]手火(タビ)[是は万葉の詞也、松明(ツイマツ)のことなるべけれど今挑灯に取なしても書べしや]

取成,松明(ツイマツ)ざまの物[是も挑灯也)

取成,菜(ナ)どもを煮しめて[精進にしめなり]

取成,たばこ入る袋[たばこいれ、補けぶりぐさ入る袋とも書べし]

取成,薬入(イレ)を提て[印篭]

取成,焼る魚[焼肴]

取成,魚(ナ)を忌む日[精進日なり]をがみする夜[逮夜なり]

取成,[万][大拝(オホガミ)とあるは天皇の御物忌のことをいへれば也]

取成,さる日にあたりて[精進日也]

取成,物の蓋に入て[硯蓋などに書べし、器財(キザイ)は大かた延喜式に多くの名目あり又食物類の名和名抄にてみるべし]

取成,荷をかたにふりわけて[両かけなり]

取成,米代(コメデ)のみにてやどる[木賃なり]

取成,よみて[算用なり]

取成,一枚(ヒラ)の金(コガネ)[金一両也、うすめなるものを枚(ヒラ)といふは古語、金一枚(ヒラ)とも]

取成,こがね一分(クマリ)[水分(ミタマリ)の神社と有にならふ又金壱角(コガネヒトケタ)とも]

取成,しろがね一はかり[両はかりといふ、古語]

取成,銭一ツ

取成,銭一百(ヒトホ)

取成,銭一貫(ヒトツラ)