質問状

平成24年 4月 16 日

元 元東京高等検察庁次席検事・弁護士

大鶴 基成 殿

                                  告発人 健全な法治国家のために声をあげる市民の会 代表 八 木 啓 代

1.当会は、東京地検特捜部による、いわゆる陸山会事件の捜査の過程で、内容虚偽の捜査報告書が作成され、検察審査会に提出された問題などに関して、本年1月12日付で、田代政弘検事の虚偽有印公文書作成・同行使の事実及び被疑者不詳の偽計業務妨害罪の事実について告発状を提出し、1月17日付で東京地検刑事部に受理されているものである。

2.貴殿は、上記問題が発生した当時、東京高検次席の職にあったものであり、以下に述べるところにより、同部の捜査に関して前代未聞の不祥事が発生したことに関して重大な責任がある。

大阪地検特捜部をめぐる不祥事からの検察の信頼回復のために法務省に設置された「検察の在り方検討会議」の委員であり、同事件のすべての公判を傍聴したジャーナリストの江川紹子氏が、「裁かれるべきは検察かー小沢裁判で見えた司法の『闇」』(世界、5月号)において、問題の石川氏の取り調べの具体的状況に言及し、田代検事が四回席を外して上司に報告に赴き、上司と思われる人からの電話も一度受けていたことを指摘し、「田代検事はいちいち上司の判断を仰いで取り調べを行い、調書を作成しているのだ。逮捕・勾留中の取り調べでも、同様のことが行われていたに違いない」と、上司の関与の疑いを指摘している。

また、江川氏は、田代検事が石川氏の取調べにおいて、従前の供述内容を変更しないように説得した場面の会話についても、石川氏が「わかりました。色々考えても、今まで供述して調書にしたことは事実ですから、否定しません。これまでの供述を維持するということで調書を作ってもらって結構です」と述べたとの事実と異なる内容が記載されていること、その一方で、「石川氏が再三申し入れた供述内容の変更に関する記載はゼロ」であることなど捜査報告書に明白な虚偽の内容が記載されていることに関して、「そんな虚偽の報告書を田代検事一人の判断で作ったのだろうか」と上司の関与の疑いを指摘している。

 

また、昨年12月16日の公判で証人として出廷した、前田恒彦元検事は、着任早々に、木村主任検事から「これは特捜部と小沢一郎の全面戦争だ! 小沢をあげられなければ我々の負けだ!」と言われたと証言しているほか、「陸山会事件を積極的に小沢さん(立件)までつなげたがっていたのは、当時の佐久間特捜部長と木村主任検事、大鶴次席検事ら一部の幹部でした。次の(大林)検事総長(当時、東京高検検事長)も乗り気ではありませんでした。それでも(部長らは)1億や2億、場合によっては4億円を出してこいと(現場に)言ってくるのです。私は佐久間部長に、想定しているスジ(ストーリー)を聞いてみました。夢みたいな話、妄想を語られました。私は率直に『裏献金は難しい』と言いました。ほかの検事も『無理』と言っていました」と証言したと報道されている。

同様に、この公判より前の昨年1月上旬、石川被告ら元秘書3人の公判前整理手続き中に弁護側から録音記録が開示され、報告書の内容との食い違いを把握したあとも、1年以上にわたり十分な調査が行われず放置されていたとも報道されているが、それは、まさしく、この田代報告書が、事実と異なる内容であることも含めて、陸山会事件の立件に極めて熱心であった上司の指示によって作成されたものであったからではないかと推定することは妥当であると考えられる。

3.本年2月22日の日本経済新聞、2月26日の朝日新聞に、田代政弘検事による虚偽報告書が、上司である吉田副部長の報告書にも引用されていたという事実が報道されている。また、当会では、田代政弘検事の虚偽報告書以外にも、副部長、主任検事らによる複数の報告書が存在し、それらの報告書も、田代報告書と同様に、検察審査会に提出されることを目的として作成された疑いがあるとの情報も把握している。

その情報によれば、捜査報告書の内容は、小沢氏の秘書等の関係者の供述調書のうち、小沢氏への報告・了承があったことを述べている部分(裁判所の決定によって、後に特信性、任意性を否定されて証拠請求が却下され、しかも、同決定において、そのような不当な取調べが組織的に行われていると認定されていることからみて、その取調の問題性については、報告書作成の時点で特捜部の上司も認識していたはずである)をことさらに引用したり、さらにそれらの文章に下線を引いたり注釈をつけたりしたほか、「元代表の供述は虚偽だ」等、検察官の個人的な感想と客観的事実が、判別しにくい形で書かれていたとのことであり、素人である審査員に、小沢氏の供述が虚偽であり、裁判になれば犯罪の立証は容易であるという印象を与えようとする意図が窺われるとのことである。

そうであるとすれば、それらの報告書こそ、当時、実際の取調べとは異なる虚偽の取調べ状況を記載した田代検事作成の捜査報告書と同等に、検察審査会を欺くという目的で作成されたことは明白であり、公正な検察審査会の審査を意図的に妨害する偽計業務妨害が成立する可能性が高いと言える。

 それを受けて、当会は、本年4月2日、そのような報告書が実在するのかどうか、また、実在するのであれば、その報告書の作成者名、報告書宛先、および、この報告書を確認したと思われる当時の東京地検関係者の名前を開示することを要求したが、現在までに、検察庁から返答を得ていない。

 しかしながら、検察庁という官庁の在り方から鑑みて、当時次席であった貴殿が、上記のような事態に関して、まったく実情を把握していなかったことは考えがたい。週刊誌等で、陸山会事件において、事実上の捜査指揮を執っていたのが貴殿であったことが報道されているのみならず、次席という立場として、重大な監督責任が存在すると考える。

 そこで、当会は、貴殿に対し、そのような報告書の作成の事実の有無、作成の理由、経緯等についてお伺いしたい。

 大阪地検における村木元局長の冤罪事件、前田恒彦元検事の証拠改竄事件等の不祥事からの信頼回復どころか、陸山会事件公判における田代検事の虚偽報告書作成問題の表面化、検察官調書の請求却下、特捜部の組織的な不当捜査の指摘、大阪地検での大坪・佐賀両氏の判決での特捜部の組織的問題の指摘など、特捜検察をめぐる問題が次々と表面化し、国民の信頼を失墜し、未曾有の危機にあるといえる。

そのような状況下において、当時、特捜部副部長として、一連の捜査において重要な職責を担った貴殿におかれては、健全な検察を求める市民からの疑問の声に答える社会的義務があり、説明責任があると私たちは考える。

 検察が国民の信頼を取り戻すためにも、上記の疑問に対して、東京地検特捜部における重大な問題を発生させた当事者として、きちんとした説明を行って頂くことを要望する。