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皆さん、今回のスライド発表にお越し頂き、ありがとうございます。
クラシックモーターサイクルという趣味文化という事で、いわゆる旧車のオートバイ趣味における文化的・経済的な側面にスポットライトを当てて、ご紹介して行けたらなと思っています。
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はじめにこの発表に対する注意です。
本発表には個人の主観が多く含まれているため、どうしても誤った内容を発信している恐れがあります。というのも維持費等の費用面では個人差が大きいことや扱う対象物の年代が古く、またその研究も学位を備えたプロフェッショナルではなく、学術的な下地の薄い個人の研究に拠るものが多いためであります。
また、旧車の維持によって発生するいかなる怪我や損害は発表者・VRC社会文化協会では補償しかねますのでご承知おき下さい。
自動車・バイクは交通法規・マナーを守り、楽しく運転しましょう。
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発表者の自己紹介です。
私、モオリスと申します。トヨタ自動車のお膝元、愛知県出身です。地元の工業高校の電子系学科を卒業後、輸送機器メーカーに就職・勤務しております。ここ大事ですが、高卒です。学術的な下地は薄い人間が当発表を行っております。余談ではありますが、自動車・バイクに興味を持ったのは高校卒業後で、界隈としては比較的遅めです。それ以前は生物や博物館の趣味がメインでした。
普通自動車免許取得後すぐ普通自動二輪車免許を取得してその時の現行車・スズキのST250 E-type、スーパーカブの旧車、いわゆる行灯カブと言われるものの維持を経て、2017年からイタリア旧車の世界に飛び込みました。
その半年後のコミックマーケット94から裏庭工芸のサークル名で同人活動を開始しました。
VRChatに来たのはコロナ禍真っ只中の2022年4月から。同年8月からはVRChatイベントのVRC博物喫茶及びVRCエンスー天国の主催をさせて頂いております。
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今回発表の内容はこのようになっております。まずそもそも旧車とはどのようなバイクの事を指すのか?という話から、その価値の付き方、維持費やその他諸々の諸経費のお話、文化としてのアクティビティやコミュニティの解説、そして界隈にいる個人から見た今後の課題について解説していきます。
さて、みなさんはクラシックカー、いわゆる旧車とはどういうものだとお考えでしょうか?
これはwikipediaからの抜粋ですが、辞書的には「過去に製造された自動車やオートバイなどの車両を指す語である」となっています。
でも、それだとただの中古車も旧車なのか?ということになってしまいますよね?中古車と旧車違いは何なのか?この発表では発表者が実際にコミュニティに属している1950年代から1960年代のモーターサイクルを例にあげて解説していきたいと思います。
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とはいえ、基本的には生産された年式によってジャンルが変わっていきます。
まず今まで市販されていた車種が生産中止になります。この状態の車種を絶版車と呼びます。
その中でも1970以降から2000年代にかけて市販されていた車種、中でも1980年から2000年にかけて生産されていたものをヤングタイマーと呼びます。実はこのヤングタイマーと呼ばれる概念自体は新しく、後述するオールドタイマーに対して作られた言葉です。
この時代の車種は丁度日本ではバブルの最盛期に当たるため、華のある、高性能な車種が多く大変人気のある年代になります。しかしながら部品の減少や生産の困難さも相まって維持は比較的難しいです。相場も最近は高騰しがちです。
さて、それ以前に生産されていた車種をオールドタイマーと呼びます。このオールドタイマーが狭い意味での旧車となります。今回お話しするのはこれらの年代の物です。
その中でも特に第二次世界大戦以前に生産されたものを戦前車と呼び、それはそれで別ジャンルとなっています。
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さて、ではそもそも旧車はどのように値段をつけているのでしょうか?試しに中古車サイトを見てみると同じような車でも値段は大きく違ったりしています。
では、相場がそもそも無く、業者は自分たちの感覚、もしくは当てずっぽうで値段を決めているかというと当然そんな事はございません。相場というものが、明文化はされていないものの業界の暗黙知として当然あり、それを基準として業者・個人の自己判断で価格が決まります。この相場は変動があります。
この相場の変動が車種由来の値段の差です。この差は車種の人気や希少さによって決まります。当然、人気があって希少な車種ほど値段は高くなります。元々の車種の値段も考慮には入ってくるのですが、年数が経つに連れ元々の値段の影響は減って、人気の影響が大きくなっていきます。
車種由来の値段をある種の基準として、そこから値段が上がるのか、もしくは下がるのかを左右するのが、その個体特有の差。いわゆるコンディションです。
ちゃんと調子よく動くのか?走行距離はどのくらい走ったか?動かないのならどのくらい劣化しているか?といったものがコンディションです。当然、完調であれば高いですし、不動でも車体の劣化が少なければまぁそれなり、劣化が激しく錆だらけであれば価値は大きく下がります。
フレーム修正やレストアといった補修、各パーツをカスタムパーツに変更していたり車体やエンジンに手を加えた改造を行っているかが左右します。
これは勘違いされる方も多いのですが、基本的には補修や改造を行うと価値は下がります。あくまで基本的にはであって例外は多いですが…
あとは滅多にないですが、レースでの優勝車やショーでの展示の実績、有名な方のレストアや改造を受けたもの、当時、正規でごく少数輸入された…などの車両の歴史、いわゆるヒストリーによって価値が付くものもあります。
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例を挙げましょう。この2つのオートバイはパッと見かなり似ていますが、スライド右の写真はCR110と呼ばれるホンダが1962年に市販したレーシングバイクの公道仕様車です。このモデルは国内外を問わず非常に人気が高い上、総生産台数はかなり少なく、50ccのバイクとしては異様とも思える高額な値段で取引されています。
対して左のバイクはドリーム50というバイクでホンダが1997年に市販した50ccのスポーツバイクです。このバイクは前述したCR110のオマージュであり、年代も新しくて生産台数も比較的多いため、比較的安価で入手できます。とはいえ最近はこちらも高騰してますが…
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もう一つ例を挙げると、この2つのバイク、Rumi 125 Turismoはモデルもグレードも一緒、生産年数もほぼ同様のモデル、どちらも実働ですがその値段は10万円単位で異なると思われます。
これはコンディションが異なるからで左の個体はレストア済み、部品の欠品・一部改造ありのもので動作や性能的には問題ないものの、史料的な価値はあまり高くはなりません。対して右のモデルはほぼノンレストア、当時の塗装や部品をかなり多く残した個体で史料的にもかなり貴重な個体になっています。
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さて、車両を購入したら車両の維持です。
とはいえ、基本的には普通の車やバイクと同じようにその車両にかかる維持費と基準として考えて貰えればOKです。そこからプラスアルファで値段がかかってくる感じですね。まぁ、これが安くすむ場合もあれば車体価格以上かかってしまうこともあるので難しいのですが…
とはいえ、どんなに状態の良い個体を買ったとて、トラブルは起こると思った方が良いです。というわけで工具代と整備費用は必要です。
その解決費用は車種やコンディションによってピンキリです。メジャーな車種であれば整備情報も豊富で整備できる人も増え、部品は潤沢になるためコストは下がります。
そしてこれは必ずしも年式が古くなればなるほど高くなるものではありません。むしろ80年代から90年代の車両よりも60年代の車両の方は安くすむ場合も多々あります。これは古い車両の部品の方が小規模な設備でも生産できたり、車両の構造的に修繕もしやすく、工数、作業にかかる手間や時間が抑えられて安くなる事に起因します。
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以下は一例で、私がMotobi 125 ImperialeTurismoという125ccのバイクを1年間、ノントラブルで維持したときの大体の諸費用の例となります。
車種的に言えば旧車の維持費としては最安価に近いと思います。ただ、地方在住・レンタルコンテナ等を借りているのでそこは個人差大きくなりそうです。コンテナ無しで38000弱なので、やっぱりショバ代は大きいですね…
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そしてこちらがトラブル対処のための工具代です。なるべく必要最低限、初心者が扱うグレードの工具として相応しいものをチョイスしました。これでエンジン関係を除く消耗品交換と簡単なトラブルくらいなら大体こなせます。50000円強くらいですね~。
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正直目をそらしたくなる費用面の次はお楽しみのアクティビティやコミュニティの紹介です。これのために旧車に乗ってるワケですからね。
まずは一番シンプルなツーリングやミーティングです。
これは個人の集まりであるオーナーズクラブの他、自動車雑誌を出版している出版社が主催している場合もあります。有名なところでは栃木で行われている英国車が多いパイオニアラン、や長野・群馬で行われるイタリア車・国産車レーサーが多いハイランドギャザリング、国産の普通車が多いアサマミーティングなど…色んなミーティングがあります。
レースやスポーツ走行を行うとイベントもあります。これは大小問わずサーキットを貸し切って持ち寄った旧車のレーシングバイクを走らせるイベントです。危険を伴い安全性を確保するため、専用の装備品が必要になったりと敷居はかなり高いですが、公道では絶対に発揮できないレーシングバイクの性能を引き出せるのでとても楽しいです。これは関東圏のイベントが多いかな~といった感じです。
ミーティングと若干被るのですが、車両を展示するだけの展示会というのもあります。展示するだけなので費用も安く済みますし、オーナー間のコネクションを作っていけたりと以外にバカにはできないです。
最後に部品交換会、いわゆるスワップミートというのもあります。やってることはフリーマーケットと一緒で、それの自動車版ですね。部品が安く手に入ったり、あんまりお目にかかれない車両やパーツに出会えたりはするのですが…まぁ、治安は若干悪いのでまぁ、ご興味のある方は行ってみると面白いかも知れないです。
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最後に旧車趣味界隈の今後の課題を、完全に主観ですが語っていきたいと思います。
まず第一に趣味人口の高齢化です。
これは大きな問題でありまして、やはり車両やコミュニティの維持が難しくなってしまうという根本的な問題であります。若い人に引き継げば…となりますが、いくらオートバイブームで多少盛り返しているとはいえ、参入してくる若人はかなり少ないです。少ない上に以下の問題もあり、引き継ぎがより困難なものになっています。
とはいえ、旧車や車種を扱った漫画やアニメ作品も少しづつ見かけますし、若い旧車のオーナーさんも一時と思うと見かけるようにはなりました。
車体や部品の高騰や在庫の減少、それにより共食い整備をせざるを得ない現状です。
共食い整備というのは、維持している個体の他に部品を確保するためのドナーをもう一台確保している状況の事です。これを行うとということは当然ドナーは犠牲になるという事です。現存車両は減っていきますが、部品が無い以上、これを行うと他ありません。比較的、リプロダクト品という当時の部品を再現した新造の部品が存在する英国車・米国車、旧共産圏の車種や、当時の部品が多く現存するイタリア車やフランス車はまだマシなのですが、国産の旧車はほぼ絶望的なのが現状です。それでもアメリカに輸出されていた車種は前述に理由で多少マシではありますが…希少になれば部品を抱え込む人も出てきますし、さもありなんといった感じですね。
ただし、一部の人気車種にはなってしまうのですが、日本にもリプロダクション品のパーツを作っているメーカーは存在していますし、車両メーカー自身も古い人気車種の部品を再生産しようという動きも見られますので、必ずしも真っ暗なわけではないです。
そして、昔の車両を走られるということは現在の道路環境に全くマッチしていない車両を走らせるということです。環境や騒音性能は全く考慮されていませんし、一部年代の車両は暴走族に好まれます。
マナーや交通法規を違反する運転によるイメージの悪化があります。
安全性も現行の車両と比べると大きく劣るため、運転者はより一層丁寧な運転が求められます。このように旧車の運転は少なくないリスクを伴う行為であります。
これに関しては結構難しい問題でして、バイクが持つアイデンティティの一つにある種の不良性というのがあるのです。そこから一歩抜け出して、ある程度ジェントルな趣味としての立ち位置になれれば良いのですが…一応、イメージアップとしては各地方自治体と協力した旧車イベントやDGR(The Distinguished Gentleman's Ride)のように募金を呼びかけるミーティングイベントの存在もあります。
こういった事を鑑みると未来は決して明るくはないのですが、やはり旧車にはそれ特有の面白さや工学史・産業史的な価値も大きいです。
これからもなるべく末永く乗れるように努力していきたいと思います。
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では、それなりの費用をかけて、そこまでしてなぜ現行車ではなく旧車に乗っているかと言いますと…
まず現行車にはないデザインや機構です。これはやはり時代による技術的なものとそれに対する設計思想の差が大きいのですが、やはりその時代時代のデザインを楽しむというのがあります。
そして、操作が難しいがゆえに乗りこなせた時の感動は大きいです。旧車は複雑な操作や癖がありますが、それぞれの部品要素の動きを感じられる楽しさがあります。これは運転しやすさと引き換えな所はありますが…
希少性がゆえにバイクが被ることがない、このバイクに乗っているのは自分だけという特別感も旧車ならではの良さといえるでしょう。同一車種であっても歩んできたヒストリーは違いますので細かい仕様違い等で他車と区別できるのです。
最後に修理や改造など、自分の手を加えられる範囲が大きいことも魅力の一つです。故障しても自力で直せたり、高性能なアフターパーツを付けたり、果ては自分で部品を自作して修理したりと自分で手を加えられる楽しさがあります。
総合すると最近のバイクがライディングそのものを楽しむ体験重視の楽しさと比べて旧車趣味は自分で車両に手を加えたりするホビー的な楽しみが強いように思います。
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今回のスライドを作るに至って参考にしたホームページは以下の通りになります。
Motobi Club Giappneは日本の1950年から60年代のイタリア旧車のオーナーズクラブです。様々なツーリングやミーティングを企画しております!
以上です!ここまでのご清聴、ありがとうございました!