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ポップ・ミュージック読書会第二回,永冨真梨「カントリー・ミュージックの新潮流と多様性 ステレオタイプを越えて」
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2020/12/19

ポップ・ミュージック読書会第二回

レジュメ作成:♨️

課題文献:

永冨真梨「カントリー・ミュージックの新潮流と多様性 ステレオタイプを越えて」(大和田俊之編著『ポップ・ミュージックを語る10の視点』アルテスパブリッシング、2020年)

Spotifyプレイリスト:https://open.spotify.com/playlist/2XtSxWTuu7RLsn5e59SoYA?si=JJgCrKEISxGtZZmVjQzQcw

Youtubeプレイリスト:

https://www.youtube.com/playlist?list=PLQavQLlTp5HsKXTT3xQkGGTCoRV6XuBXx

各章まとめ:

0. 導入(p.274〜275)

Carolina Chocolate Drops - Country Girl [Official Video]

ステレオタイプ

黒人音楽=政治的・文化的にリベラル寄り/カントリー=保守的な白人がやっている男性中心主義的な音楽

➡「そうしたステレオタイプが果たして正しいのか?という問題意識」

「黒人や女性、LGBTQの人たちもカントリー・ミュージックを作り、受容しているのだという事実を抜きにして、カントリー・ミュージックを正確に捉えることはできません」

1. 近代的な音楽として生まれたカントリー・ミュージック(p.276〜280)

主要なカントリー・ミュージック研究

ビル・C・マローン『Country Music,USA』(1968)

三井徹『カントリー音楽の歴史』(1971)

➡「カントリーは保守的・伝統的な生活をしていた白人たちの民族音楽から始まったんだという、いわゆる一般的なカントリー・ミュージックのイメージを強調した著作」

近年のカントリー・ミュージック研究における代表作

パトリック・フーバー『Linthead Stomp: The Creation of Country Music in the Piedmont South』(2008)

「カントリー・ミュージックは近代の産業化のなかから生まれた音楽である」

アパラチア山脈の麓にあるピードモント台地にて繊維工場の労働者兼ミュージシャンだった白人たち=初期のカントリー奏者たちの声を掬いあげ、新たな視点を提示

チャーリー・プール(ノース・カロライナ・ランブーズを率いたバンジョー奏者)

ノース・カロライナ州ランドルフ郡出身。スプレイ(現在のイーデン)という街の工場で働く。

「初期のカントリー・ミュージックが生まれたのは、むしろ煙がもくもくと立ちのぼる工場が連なるような産業化が進んだ街なのです。」

Charlie Poole『Don't Let Your Deal Go Down Blues』(1925)

https://open.spotify.com/track/4G256hG6hEXV3DFdfaIxJb?si=UCfdhT42QsGASqwhAFF3ew

https://music.apple.com/jp/album/dont-let-your-deal-go-down-blues/193077713?i=193077778

Charlie Poole and the North Carolina Ramblers, ca. Of 1923:Posey Rorer, Clarence Foust.

https://en.wikipedia.org/wiki/Charlie_Poole

2. 分岐するスタイル(p.280〜284)

ジョセリン・R・ニール『Country Music: A Cultural and Stylistic History』(2013)

・「田舎くささ」を前面に出したスタイル

Lulu Belle & Scotty『Remember Me (When The Candlelights Are Gleaming)』(1940)

https://open.spotify.com/track/5mjywmrC4szb2zeq69c1By?si=P-xFtaFERcyqKpKor_2KHg

https://music.apple.com/jp/album/remember-me-when-the-candlelights-are-gleaming/349037652?i=349037668

・チェックシャツや裾の広がったドレスなどを着用

・ビング・クロスビーなどが始めたとされるクルーナー唱法を使用

♨️<クルーナー唱法といえば、以前ライターの高橋健太郎さんがクルーナー唱法=電気録音以降という定説に異議を投げかけるツイートをしてて面白かったです。「ビング・クロスビー以前からクルーナーな歌手はいた訳です。アート・ジルハムとかニック・ルーカスとか、彼らはアコースティック録音時代にすでに歌唱を残している。

・ウェスタン・スウィングの流行

Bob Wills & His Texas Playboys『I Ain't Got Nobody (And Nobody Cares for Me)』(1936)

https://open.spotify.com/track/51ZE2SE8XF1ZAlNEHQ0rfw?si=EioAsRhkR1yFZ4Jjykp9rA

・カウボーイ・ソング:ロマンティックなスタイルのカントリー

Sons of the Pioneers『Tumbling Tumbleweeds』(1934)

https://open.spotify.com/track/4rfYACmesNvTpKO9bDke6m?si=zxKdTFW0Tlqd4OL4lnwEZw

https://music.apple.com/jp/album/tumbling-tumbleweeds/304772875?i=304772920

・ブルーグラス:チャーリー・プールに代表されるストリング・バンドの発展形

ビル・モンロー・アンド・ヒズ・ブルーグラス・ボーイズ『Roll in My Sweet Baby's Arms』(1980)

The Best Of Bluegrass - Roll in My Sweet Baby's Arms 1991

https://youtu.be/iy_CZDtIuz0

・ホンキー・トンク:ウェスタン・スウィングからの発展形

Hank Williams『Honky Tonk Blues』(1951)

https://open.spotify.com/track/54xFE5UXlyzRQWiyMwW5YI?si=hRKTpAqXSPe_3_uWxAl_mQ

https://music.apple.com/jp/album/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%BC-%E3%83%88%E3%83%B3%E3%82%AF-%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%B9-single-version/1434632702?i=1434632865

・「特徴的なのは、ペダル・スティール・ギターが使われていることで、トゥワンギーな音が聞こえるようになります。トゥワングとは、音が一度下がりながらスムーズに上がるような音です。」

3. ナッシュヴィルへの集権化(p.284〜288)

50年代後半以降、カントリーの需要が減少

➡「1958年ごろからレコード会社、レコーディング・スタジオ、マネージメント会社、出版社などをナッシュヴィルへ集権化し、カントリー音楽をより商業力のあるジャンルに育てて全米の主要文化にアピール」

カントリー・ミュージック・アソシエーション(CMA)の設立(1958)

・カントリー・ミュージックの歴史や知識の体系が作られる。

音楽スタイルの飛躍的な変化

Skeeter Davis『The End of the World』(1962)

https://open.spotify.com/track/5DTOOkooKFUvWj1XQTFa09?si=ECOMyVVtRg2l4zSPSrA4Lw

https://music.apple.com/jp/album/the-end-of-the-world/258618389?i=258619200

「ナッシュヴィルへの集権化が進み、チェット・アトキンスやブラッドレー兄弟がスタジオを建設すると、その周りに楽曲出版社、マネジメント会社、ブッキング会社などが集まり、『ミュージック・ロー』と言われたカントリー音楽産業の中心的な地域が発展しました」

・プロデューサー→作曲家→セッション・ミュージシャンの伴奏→アーティストの歌唱というトップダウンの分業方式

・楽曲のみを提供するソングライターが集結

4. ベイカーズフィールド、アウトロー・カントリー ナッシュヴィルへの反発(p.289〜291)

・ベイカーズフィールド

「自分たちのバンドを持っていて、バンドで楽曲を作り、同じバンド・メンバーで録音する」

Buck Owens『Act Naturally』(1963)

https://open.spotify.com/track/3JWEMzwpcWCvu4Qw1BIbYi?si=eg92XfuXS4yiGsQ8Oi1qvA

https://music.apple.com/jp/album/act-naturally/961376351?i=961376354

・トゥワング

・低いうなるような、しかし軽いテレキャスターの音

・アウトロー・カントリー

「プロデューサーにコントロールされるような音楽製作を嫌ったアーティストたちが、テキサス に移ったことから成立したスタイル」

Waylon Jennings, ウィリー・ネルソン『Good Hearted Woman』(1971)

https://open.spotify.com/track/3CqLvQ9fPOLtLIKb7r5ti6?si=C6wTkv7ITmen09TAzFWKPw

https://music.apple.com/jp/album/good-hearted-woman/642641845?i=642641847

・スティール・ギターの多様

・シンプルなアレンジで楽曲のなかに空間がある

Sturgill Simpson『Railroad of Sin』(2013)

https://youtu.be/nvnXiG0zhyM

クリス・ステイプルトン『Tennessee Whiskey』(2015)

https://open.spotify.com/track/3fqwjXwUGN6vbzIwvyFMhx?si=H-6OcXUBTgemY2ovtMhSlQ

https://music.apple.com/jp/album/tennessee-whiskey/1440827477?i=1440827492

5. アメリカーナとカントリー・ミュージック(p.291〜295)

アメリカーナ・ミュージック・アソシエーション(Americana Music Association)

「カントリー、ルーツ・ロック、ブルーグラス、リズム・アンド・ブルースなどのアメリカのルーツ音楽に強く影響を受け、ルーツの色を残しながら、これら従来のジャンルには当てはまらない現代の音楽を、アメリカーナと呼ぶ」

ザ・バーズ『The Christian Life』(1968)

https://open.spotify.com/track/09Log6FEFHidQheeA6Ymjo?si=Z4mNsteWQMCoKc7LchUzIQ

https://music.apple.com/jp/album/the-christian-life/281801812?i=281801846

ロバート・プラント, Alison Krauss『Killing The Blues』(2007)

https://open.spotify.com/track/4MiX7j4kYbWZlGOimqFvtE?si=6ekBFDuVSieqRuNXRwIJ6A

https://music.apple.com/jp/album/killing-the-blues/1440777888?i=1440778173

William Bell『Born Under A Bad Sign』

https://open.spotify.com/track/1Sn1WzR3MjmWW4GGTPxG9X?si=QjMTR73xRD6RXYAIoBgozA

https://music.apple.com/jp/album/born-under-a-bad-sign/1440936204?i=1440936211

Buddy Miller & Jim Lauderdale『Looking for a Heartache Like You』(2012)

https://open.spotify.com/track/0CcS1CDLPIDoJLLS6J02Cv?si=Pe-Qj3TgRdm8ItbugtSi7A

https://music.apple.com/jp/album/looking-for-a-heartache-like-you/1048480564?i=1048480858

Lori McKenna『Humble & Kind』(2016)

https://open.spotify.com/track/4ZBFIzNwC3QUn0pdqIy1JN?si=lGwEcEoGQj-NMCUMoEOLzQ

https://music.apple.com/jp/album/humble-kind/1121556699?i=1121557133

ヨーヨー・マ, Stuart Duncan, Edgar Meyer, Chris Thile, Aoife O'Donovan『Here and Heaven』(2011)

https://open.spotify.com/track/54CtOOuhXdUKGpG0KsEVDD?si=om0RKH2mRV2xUFhPEx6u7Q

https://music.apple.com/jp/album/here-and-heaven/1152184580?i=1152185362

「アメリカーナの流れのなかで、ブルーグラスがバークリー音楽院のアメリカン・ルーツ・ミュージックというプロジェクトで取り扱われ、たとえばデル・マッカリーなどの大御所が講師として呼ばれたりもしています。バークリーのようなハイエンドな領域にまで、ブルーグラスが入りこんでいるというのは興味深い傾向だと思います。」

6. カントリー・ミュージックの多様性ーセクシュアリティの問題を例に(p.296〜302)

カントリー・ミュージックが多様化する一方、人々のカントリー・ミュージックに対するイメージは多様化が進んでいるのか?

ナディーン・ハッブス『Rednecks, Queers, and Country Music』(2014)

➡「現代におけるカントリー・ミュージックのイメージについて論じた研究書」

例)Foo Fightersによるカントリー・ミュージックに対するパロディー

Foo Fighters - Keepin it Clean in KC

https://youtu.be/6e5hRLbCaCs

Foo Fighters - Hot Buns (Censored Version)

https://youtu.be/k-Cvgm7Fp8w

「カントリー愛好者は絶対にゲイというセクシュアリティを擁護しないだろうというステレオタイプが横たわっている」

〈非ステレオタイプのミュージシャンたち〉

・作曲者が同性愛者であることをカミングアウトしたうえで作った曲

Kacey Musgraves『Follow Your Arrow』(2013)

https://open.spotify.com/track/4CLPNURPcKztF9RRdcWLGP?si=daRf9FRBS66CR3I6Su6aMg

https://music.apple.com/jp/album/follow-your-arrow/1440858493?i=1440858612

・人種問題やテロリストとの戦いで犠牲になっているイスラム系の人々への差別にも踏み込んだ歌

Jason Isbell and the 400 Unit『White Man's World』(2017)

https://open.spotify.com/track/4aFguJzpSvDaSVBGu3e4Jc?si=0P4pAxlnRp6sZhbmNW4pgA

https://music.apple.com/jp/album/white-mans-world/1216344634?i=1216344978

・カントリーの多様性を象徴する存在のひとり、ダリアス・ラッカー

Darius Rucker - Wagon Wheel (Official Video)

https://youtu.be/hvKyBcCDOB4

〈非ステレオタイプのカントリー・ファンやミュージシャンの紹介だけでは不十分〉

・Lil Nas X『Old Town Road』がビルボードのホット・カントリー・ソングのチャートから削除されるという事件

【レビュー】Lil Nas X "Old Town Road" | カントリーはラップではないが、ラップはカントリーだ

https://t.co/vaztN6RuVK?amp=1

「バンジョーをサンプリングしたトラック、カウボーイをモチーフとしたリリック、ゲーム『Red Dead Redemption2』の映像を用いたMVなどあからさまにフィクショナルなウエスタン要素が散りばめられた同曲は「カントリートラップ」として注目を浴び、カントリーチャートにもランクイン。全米チャート、全米ヒップホップ/R&Bチャート、全米カントリーチャートの3つに同時ランクインするという前代未聞の快挙を成し遂げた。しかし、Billboardによってこの曲は「十分にカントリーじゃない」と判断され、一度はカントリーチャートから除外されてしまう。この一件はヒップホップシーンを越えて広く議論を巻き起こした。白人文化であるカントリーのチャートから黒人のLil Nas Xが除外されたことを「人種差別だ」と断じる向きもあり、またカントリーの大御所Billy Ray Cyrusも“Old Town Road”をサポートしリミックスに参加。リミックスのリリースが更なる話題を呼び、遂に全米チャートで1位を記録したほか、カントリーチャートにも返り咲くこととなった。」

〈今後の課題〉

・カントリー・ミュージックの楽曲やビデオのなかで人種やセクシュアリティの問題が、どのような目的で、どんなふうに表現されているのかを細かく見ていく必要

・カントリー音楽と保守派との「実際の」つながりを精査する作業

「わたし個人としては、日本のカントリーをはじめとした、アメリカ国外におけるカントリー・ミュージックについて、論じていくことが必要であると思っています。主なテーマとして、カントリーを演奏する、もしくはカントリーを批判することで表現されようとしていた『日本人の男性像』とはいかなるものであったかということを研究しています。」

感想:

前回のポプミ会では、シティ・ポップを例に、ジャンルの構築に間メディア的な力学が働いている(構造や響きだけではなく、歌詞、カバーアート、MV、ジャーナリスティックな言説などが複合的にジャンルをつくる)ことを学んできたが、今回の永冨真梨「カントリー・ミュージックの新潮流と多様性」では、いかに一旦ジャンルに染み付いたイメージ・ステレオタイプが(実際とは異なったものであるにも関わらず)いかに強烈に作用し続けてしまうかが明らかにされた。

しかし、こういう永冨真梨さんみたいな研究活動がそのままステレオタイプへのカウンターとして機能するような仕事ぶりには憧れる...かっこいいと思いました。