2023年2月
2024年4月改訂
脳型ソフトウェア設計ガイド
BRA駆動開発におけるSCID法に基づいたBRA設計
The Whole Brain Architecture Initiative
本ドキュメントは、脳参照アーキテクチャ(BRA:Brain Reference Architecture)駆動開発に基づいて脳型ソフトウェアの設計データであるBRAデータを作成し、公開する方法を示したガイドブックである。
現在の神経科学においては、脳の様々な領域において解剖学的構造の理解が進んでいる。脳と似た形で認知行動を再現する神経回路モデルにおいては、そこで実現される計算機能が、それを支える解剖学的構造に整合していることによってその妥当性が高まる。 脳参照アーキテクチャ(BRA)駆動開発では、BRAという標準形式で計算モデルを記述したデータを構築し、それに基づいて脳型ソフトウェアの開発を進めている。 BRAデータは、標準化された脳型ソフトウエアの記述形式であり、解剖学的構造の記述である脳情報フロー(BIF:Brain Information Flow)と,その構造に整合的に設計された仮説的コンポーネント図(HCD:Hypothetical Component Diagram)からなる。 | 図1 |
BRA駆動開発にもとづいて作成されたBRAデータは、BRAES(BRA Editorial System)と呼ばれるサイトを通じて投稿することができる。投稿後、審査プロセスを経て採録されたBRAデータは、BRAESにて公開・共有することができる。
図.データの作成から公開までの大まかな流れ
投稿データは以下の四種類のデータである。
ファイル名称 | 形式 | 備考 | |
BRAデータ | .bra | テンプレート : Template-v2-1.bra | |
BRA image | BIF image | .xml | draw.io で作成 (参照:本資料 BRA image/FRG imageの作成) |
HCD image * | .xml | ||
FRG image * | .xml |
* 解剖学的構造に関するデータ(BIFデータ)のみの場合は、作成・投稿不要
本ガイドでは上記の投稿データの用意、および投稿方法に関する以下の三点について順に説明する。
BRAデータ形式は、主に解剖学的構造を記述した脳情報フロー(BIF)形式と、その構造と整合するように多様な計算機能を記述する仮説的コンポーネント図(HCD)形式によって構成される。BIFと整合するようにHCDを構築する方法として、Structure-Constrained Interface Decomposition(SCID)法 [Yamakawa 2021]があり、この中で機能階層図である機能実現グラフ(FRG:Function Realization Graph)が設計される。
以下の表1に示すように、設計されたBIFの情報は、BRAデータのBIF関連シート(Referencesシート、Circuitsシート、Connectionsシート)と、BRA Imagesの一つであるBIF Imageに記述される。BIFデータに整合的に構築されたHCDの情報は、BRAデータのFRGシート、BRA Imagesの一つであるHCD ImageとFRG Imageに記述される。
表1: BIFとHCDを記述する3種類のデータ
HCDファイル | ファイル名 | HCD data (BRA dataに改名予定) | BRA Images |
データ形式 | Google Spredsheet | 画像データ | |
BRA上の情報 | BIF | BIF関連シート | BIF Image |
HCD | FRGシート | HCD image | |
FRG | FRGシート | FRG image |
以下では、BIFとHCDおよびFRGの概要について説明し、次章では具体的な設計方法について説明する。
脳情報フロー(BIF)は、脳内の解剖学的構造を様々な粒度の「Circuit」をノードとし、それらの間の軸索投射である「connection」をリンクとして表現した有向グラフである(図2参照)。このBIFの情報は、BRAデータ上のBIF関連シート(Referencesシート、Circuitsシート、Connectionsシート)と、BRA Imagesの一つであるBIF Imageに記述される。
ここでCircuitとは、BIFグラフ構造において、何らかの連結した神経回路に対応付けられるノードである。Circuitは視覚野全体や視野V1(一次視覚野)などの領域を表す場合もあれば、新皮質-基底核のループに対応する場合もある。また、複数のCircuitがカバーする領域が重複していてもよい。Uniform Circuitは、ある脳領域における特定の細胞タイプからなるニューロン群として設計される(解説: Uniform Circuit: 脳を参照する最小粒度 参照)。Uniform CircuitはCircuitの最小単位であり、かつ、それのみが出力connection(つまり投射)の始点となる。したがって、それ以外の他のすべてのCircuitは、1つ以上のUniform Circuitを内包する必要がある。BIFデータの各Circuitに登録する属性は、CircuitID(Circuit ID)、IDの情報源 (Source of ID)、Circuit別名 (Names)、下位の
Circuit(Sub-Circuits)、上位クラス(Super Class)、Uniform Circuitか否か (Uniform) などがある。ここでは、括弧内にBIFデータ中での属性名を示した。
connectionはBIFデータ中のリンクに相当し、図4Aのリンクに示すように、脳内のCircuit間で信号を伝達する軸索の束である。connectionの起点はUniform Circuitに限られるため、Uniform属性がTrueに設定されているCircuitのみ、Projections属性にリストとして投射先を記述する。投射先毎に記述される情報は、投射先のCircuit、軸索の(平均)数、新皮質の間の固有の階層的な方向(フィードフォワード/フィードバック)などである。
BIF データに Circuit中のニューロンのおおよその数(Size)やconnection中の軸索のおおよその数(Size)など、定量的な値を記述することは、やや煩雑ではあるが、いくつかのメリットをもたらす。1つ目は、コンポーネント間でやりとりされる信号の量が問題となる計算モデル(Leaky Integrated Fireモデル、Artificial Neural Networkモデルなど)を実装する際の参考となることである。2つ目として、送信する情報量の上限を推定できることは、送信の前後にあるコンポーネントで行われる計算機能を検討する際にしばしばヒントを与える。
図2 脳情報フロー (Brain Information Flow: BIF)形式
A: BIFの概念図、B:Aの一番左のCircuitを拡大し、その中の2種類のニューロンを模式的に描いたもの。C: BIFデータの各Circuitを表す属性。
解説: Uniform Circuit: 脳を参照する最小粒度ネットワーク化されたコンポーネントからなるソフトウエアにおける設計要素において、最小の要素はインタフェースに含まれる単純な引数であろう。単純な引数とは、1次元または多次元のベクトルで表現される変数である。 そこでBRA駆動開発では、脳において参照すべき最小の解剖学的要素は、「特定の細胞タイプで構成されたニューロン群としてのUniform Circuit」であるとした。このUniform Circuitの概念は以下二つのアイディアから成り立っている。
図2Bにおいては、ある脳領域において、2種類のニューロン群が、異なるUniform Circuitを構成する例を示している。 |
HCDとは、BIF上で興味の対象となる脳領域(ROI)が担うタスクや機能を達成できるように、そのBIFの構造に整合するように機能を分解した仮説的なコンポーネント図[1]である。HCDの構造をBIFの構造と整合させるため、HCDはBIFの構造を流用して作成される。具体的には、任意のHCD上のコンポーネントはBIF上の特定のCircuitに対応づけられ、任意のHCD上の依存関係はBIF上の特定のconnectionに対応付けられる。HCDの情報は、BRAデータのFRGシート、BRA Imagesの一つであるHCD Imageに記述される。
なおHCDは仮説としての性質が強く、脳の真実と一致しているという保証はしばしば乏しい。そのため、いずれのBIF上のCircuitに対しても、異なる複数のHCDを割り当てうることを許容することで互いに矛盾がある仮説を記述できるようにしている。他方で、確実性の高い機能(たとえば、座標系など)を記述するための共通HCDも設定している。
図3 BRAの記述例
A,B,C,Dがそれぞれに対応している
脳のように機能するソフトウェアを構築するためには、部分(より細かな部品がどのような機能を実現するのか)から全体(ソフトウェアの部品あるいは全体でどのような機能を実現するのか)へと機能を積み上げるボトムアップ設計だけでなく、全体(ソフトウェアの部品あるいは全体でどのような機能を実現するのか)から部分(より細かな部品がどのような機能を実現するのか)へと機能を分解するトップダウン設計を並行させて機能階層図[2]を作成するリバースエンジニアリングが有効なアプローチであり、後述のSCID法もこのアプローチにもとづく設計方法論である。このような双方向設計では、設計仕様書内の機能記述がボトムアップ設計あるいはトップダウン設計のいずれに由来したものかを明確に区別する必要がある(区別をしないといずれの方向由来の機能であるかが分からなくなり、機能の理解や評価において混乱を生じさせる原因となるからである)。このような問題を避けながら双方向設計を行う機能階層図として、Function Realization Graph(FRG)が提案された。
FRGは、図4に示されるような、機能ノード間の依存関係を階層的に示す機能階層図である。各機能ノードは Node ID によって識別され、ノード間の依存関係は Subnodes を通じて定義される。FRG(図4A)は脳の解剖学的構造に整合するよう設計されたHCD(図1B)上に構築される。言い換えれば、FRGの終端ノード(Leaf node)は、HCD上のいずれかのコンポーネントである。
図4. FRG(A)とHCD(B)。FRGの終端ノード(Leaf nodes)にあたるコンポーネントによってHCDが構成される。
特定の機能ノードに関連するノード属性の一覧を表2に示す。Node IDで識別される機能ノード毎にもつノード属性は、Subnodes、Requirement、Capability、Interface、Implementation、Uniform circuits、Output semantics、Projected circuitsである。
表2. ノード一覧
機能属性 | 記述内容 | 記述形式 | Component | Group node |
Node ID | 機能ノードを指定するID | 記号 | 必須 | 必須 |
Sub nodes | 依存する機能ノードのリスト | Node ID | ー | 必須 |
Output semantics | Uniform Circuitが出力する信号に対して外部からの付与した意味 | 自然言語 | 必須 | Auto |
Requirement | 機能ノードに対する要求としての機能。入出力のOutput semanticsにより位置づけられる。 | 自然言語 | 必須 | 必須 |
Capability | 機能ノード内部のImplementationによって実現される機能。 | 自然言語 | 必須 | 任意 |
Interface | 機能ノードのインタフェース | 疑似Code | Auto | Auto |
Implementation | 機能ノード内で行われる計算処理(メカニズム) | 疑似Code | 必須 | Auto |
Uniform circuits | 解剖学的構造: Uniform Circuitの集合として表現された脳領域 | BIFデータ | 必須 | Auto |
Projected circuits | Uniform Circuitから他の脳領域への投射。基本的に軸索投射に対応する | BIFデータ | 必須 | Auto |
特定の機能ノードに関連するノード属性の一覧を表2に示す。Node IDで識別される機能ノード毎にもつノード属性は、Subnodes、Requirement、Capability、Interface、Implementation、Uniform circuits、Output semantics、Projected circuitsである。
図4を例に挙げると、Node ID βに対してSubnodesとはNode ID AとNode IDδが対応する。Requirementとは、このNode IDβに上位の機能を達成するために求められている機能(Required function)である。
Capabilityとは、その神経科学的な構造によって実現される機能であり、Requirementとは区別される。代表的なCapabilityには Network Motifによって実現される機能があり、一例を挙げると、Reciprocal inhibition network (motif)によって実現されるadaptive switchがある。
コラム:CapabilityとRequirementここでは機能に関して混乱が生じやすい Capability(ボトムアップ設計由来の機能)とRequirement(トップダウン設計由来の機能)との違いについて、Reciprocal inhibition を例に挙げながら説明する。Reciprocal inhibitionは下記のような神経回路網である。 図5. Reciprocal inhibition (motif network)の例。を入力とし、を出力とする神経回路網である。は抑制性の神経細胞集団であり、互いに抑制結合をしている。ここでの各神経細胞集団は Uniform Circuit であり、単純な引数(ベクトル表現で表される)をもつ出力を有するとする。 図5の回路はいかなる目的を持つ回路の中に組み込まれようとも入力と出力のパターンに対して switchingを行うという機能を失うことはないし、あるいは回路に組み込まれなくてもこの回路自体はそのような機能を有する。これが、Capabilityと呼ばれるものである。実際、この回路の入力と出力について、簡単な神経回路網モデルを用いてシミュレーションを行った結果を図6に示す。 図6 となるように入力を与えたときの(左)の時間発展と(右)の時間発展の様子。(なお、ここではとした) 一方で、「意思決定に基づいた行動選択を行う」という機能を実現する回路の設計という例を取り上げる。ある二つの行動選択をそれぞれ表現した入力があり、それらの入力の強い方に応じて適切な行動を出力するという回路を考えると、これは図5の reciprocal inhibition を用いれば可能であると考えられる。(天下り的ではあったが)このように先に系の目的から決められた「意思決定に基づいた行動選択を行う」のような機能が Requirementである。Requirementを実現する方法はいくらかあり、その中にこのReciprocal inhibitionのCapabilityを持った神経回路での実現も可能性として含まれている。このことから、RequirementがこのCapabilityをもった神経回路で実現できるということを説明するためには、この神経回路のInput/OutputのSemanticsに注目し、それらが確かに前のUniform Circuitから伝わってくるか、あるいは後のUniform Circuitに伝わっていくことで矛盾がないかを合わせて説明する必要がある。 |
BRAの設計はWBAIで発展したBRA駆動開発の中心的な技術であるBRAの設計方法論であるStructure-Constrained Interface Decomposition (SCID) 法を用いて行われる。
SCID法は、解剖学的知見に基づいて特定のROI (region of interest〜関心領域) についてのBIFを構築し、そのBIFに整合するようにROIが担う最上位の計算機能(TLF:Top-Level Function)を達成するようにBRAを設計することで、BRAを構築するリバースエンジニアリング手法である [Yamakawa, 2021]。SCID法で得られる脳神経回路に整合したBRAデータが、脳型ソフトウエアの設計情報として活用しうるものである。
図7:Structure-constrained Interface Decomposition(SCID)法
本手法を用いるBRA設計者は、基本的には次の3ステップに従って、着目する神経回路(ROI)の解剖学的構造と整合しつつ、そのROIが担うトップレベルの機能を達成できる機能階層の体系化を行う。
※上記においてStep.1とStep.2は相互に関連して検討される
以下では各ステップについて述べる。
このステップでは、ROIと想定される範囲の周辺でヒトおよびヒト以外の哺乳類のコネクトームなどの解剖学的知見を調査・収集する。そしてROIとして着目する解剖学的構造は、BIF Imageとして記述される。その記法については「BRA imageの作成」を参照。
なおBIFとして蓄積する解剖学的構造は、Supplemented human connectome with other mammals' (SHCOM) である。ここでSHCOMとは、現状の神経科学知見を総合して得られるヒトのメゾスコピックレベルの解剖学的構造として蓋然性の高い仮説である。Circuitの単位は、原則としてAllen Developing Human Brain Atlas Ontology (DHBA)[Ding, 2017] の脳領域を用いるが、Uniform Circuitとして対応付けるのに適当な要素がDHBA内に見つからない場合には、新たに追加する。SHCOMの構築を脳器官ごとにみると、大脳新皮質はヒトと非ヒト類人猿の知見を合成してSHCOMを構築し、皮質下の多くの領域についてはげっ歯類を参考としてSHCOMを構築する。
DHBAによる全ての脳器官を基盤としたBIFデータは、WholeBIF(WholeSHCOMに改名予定)として作成済みである。しかしSCID法の過程では必要に応じてCircuitやConnectionsを追加することは可能である。追加方法についてはBRA Data Preparation Manual-jp (v2対応)における「BIFデータの作成」を参照のこと。
このステップでは、人間と動物の認知行動に関わる諸科学の知見を調査しながら、設計対象とする脳領域 (ROI) と、そこへの入出力信号と整合的なTLFを決定する。
一般的に、ROIの範囲が狭く、そこに含まれるBIFのネットワークが単純であれば、対応付けうる機能仮説の可能性は増え、制約が弱すぎてしまう。よって、続くStep. 3において、生物学的に適当でない機能仮説を効果的に棄却するために、 ROIをある程度広く確保しておく必要がある。
そしてHCDで決定されるTLFは、BRAデータの FRG シート上の根ノードに相当する Node ID の Requirement列に記載する。
このステップでは想定するTFLにおいて、原理的にはTLFの入出力仕様(入力する信号のOutput Semanticsから出力する信号のOutput Semanticsに変換しうること)を何らかのかたちで保証しておく必要がある。その方法としては以下のような方法がある。
また、対象として決定したROIが WholeBIF のCircuitsとして未登録の場合には、BRAデータのCircuitシート上で新たに作成する必要がある。
この作業では、BIF上のCircuitとConnectionからなる構造に整合するように、ソフトウエアのコンポーネントを設計し、それらの連携よってTLFを達成しうる機構のメカニズムを作成する。
このために HCD Image (HCDレイヤー参照) とBRAデータ (BRA Data Preparation Manual-jp (v2対応)参照) の作成を行う。参照するBIF上の解剖学的構造には必ずしも明確な階層構造は存在しないとしても、HCDの利用者が理解しやすくなるように TLFは階層的に機能分解がなされることが望ましい。
TLFを達成できるようにコンポーネントを分解することは、ソフトウエア開発において一般的なものであるが、それがなす構造がBIFに制約されている点が異なる。
HCDにおいては、connectionの投射元はUniform Circuitに対するコンポーネントに限られるという制約がある。この制約を満たすため、非Uniform Circuitに対応するコンポーネントは、その内部のUniform Circuitに対応するコンポーネントから出力を行う必要がある。
そのために都合の良いUniform CircuitがWholeBIFにあればそれを用いればよい。だがそうしたUniform Circuitsが未登録の場合には、BRAデータのCircuitシート上で新たなUniform Circuitを作成する必要がある。そのUniform Circuitはできれば何らかの解剖学的知見からサポートされるように設定することが望ましいが、それが難しい場合には、仮のUniform Circuitを定義し、それに対応するコンポーネントを出力元として用いる。この新たに追加したUniform CircuitのSocuce of IDカラムの値は多くの場合に”makeshift" になる。
HCDの設計としては、以下の作業を行うこととし、それは FRG シート上に記載される。記載方法については、BRA Data Preparation Manual-jp (v2対応)を参照のこと。
本HCDにおいてコンポーネントとして利用する解剖学的部品であるサーキットを決定する。
その結果の記録は、FRG シートの各レコードのCircuit IDカラムにサーキットの識別子を記述することによる。
コンポーネント毎の機能を端的に表現するラベルを決定する。このラベルはHCD Image上での表記にも用いられる。
その結果の記録は、FRG シートの各レコードのComponent Label (HCD number) カラムに決定したコンポーネントラベルの文字列を記述することによる。
コンポーネントが、Uniform Circuitに対応する場合に限り、その投射先となるコンポーネントをFRG上のCircuit IDカラムに記載されたサーキットの識別子の中から一つ以上選択する。
その結果の記録は、FRG シートの各レコードのOutput Circuits (HCD number) カラムに決定した出力先のサーキット識別子を記載することによる。
他のコンポーネントからの入力(I(入力されるサーキット識別子)で記述される)から、このコンポーネントの出力(O(このコンポーネントのサーキット識別子)で記述される)への変換を実現するプロセスを決定する。
その結果の記録は、FRG シートの各レコードのProcess (HCD number) カラムに決定したプロセスを記載することによる。
このコンポーネントの出力(O(このコンポーネントのサーキット識別子)で記述される)に対する外部からみた解釈を決定する。
その結果の記録は、FRGシートの各レコードのOutput Semantics (HCD number) カラムに決定したOutput Semanticsを記載することによる。
HCDの利用者が理解しやすいように、TLFは階層的に機能分解がなされることが望ましい。このために考案された Function Realization Graph(FRG)の考え(本資料の「Function Realization Graph(FRG)」の項を参照)に基づきFRGシートに必要事項の記載を行う。
ここでは、神経科学、認知心理学、進化論、発達論など様々な分野の科学的知見から論理的に矛盾している HCD の候補を棄却する。
もちろん、これらの検討の結果、ユニークなHCDが決定されることは望ましい。しかし、より重視すべきは、棄却を免れるHCD候補を包括的にリストアップすることである。その理由は、様々な科学から得られる知識が不十分であるというだけでなく、脳全体のHCDを構築するための共同作業のために有益だからである。つまり、HCD候補を複数個用意しておくことで、その後のROIの拡大や他のHCDとの統合(HCD統合を参照)の段階で、あるROIについての可能な候補が1つもなくなることが回避しやすくなる。
言い換えるならば、可能なHCDが十分に網羅されていないためにHCDがユニークになっているなら、まだSCID法は完了しておらず、Step 3-A が進行中の段階であるとみなせる。
BRAデータ Review Toolを用いて形式的な審査を自身で行う。Review Toolの使い方や、形式審査の結果については以下のドキュメントを参照すること。
この形式審査はデータ投稿直後にも自動的に行われる(参考:BRAデータのBRAESへの投稿)が、事前にReview Toolを使用しておくことを強く推奨する。
BRA imageは、ROIの解剖学的構造を表現した回路図(BIF-image)とコンポーネント図(HCD image)からなる。FRG imageは、FRGを表した図である。形式はxmlファイルで、draw.ioを用いた作成を推奨する(以下の説明では、draw.ioを用いた作成について説明する)。
BRA imageでは、BIF image、HCD image、FRG imageを分けて作成する。作成にあたってはxmlファイルで作成できればいずれのソフトウェアを用いてもよいが、以下では本ガイドが推奨するdraw.ioを用いた描画方法をもとに説明を行う。なお、Appendix に drawi.ioの利用方法について簡単に説明する。
※1 終端点の変更方法
図8. 矢印の終端点の変更方法
図9. 矢印の終端
Semi-Transparent レイヤーは、BIFレイヤーとHCDレイヤーを同時に表示した際に、HCDレイヤーの内容物を見やすくするために不透明な長方形を描画し、BIFレイヤーの内容物を覆い隠すために挿入する。
不透明度60%の長方形(枠線なし)を作成し、BIFレイヤーに記載した内容を覆うように配置する。
HCDは、BIFを記載したレイヤーとは別の最前面レイヤーに BIF の CircuitとComponent との対応が分かりやすくなるように描画する。
draw.ioで作成したHCD imageの具体例を以下のリンク先に挙げる。
BIF image と HCD image の例を以下に示す。
Sample 1:BIF / HCD image
Sample 1-1: BIF image |
Sample 1-2: HCD image |
Sample 2:
その他、HCD imageにおける大脳新皮質のBIFの描画方法やConnectionに関する用例については、HCD Image - Sample.drawio の用例に示す。
大脳新皮質の例
FRGの機能階層を図で表したものを FRG image という。この図は以下のフォーマットに従って作成される。
図.FRG image の例
作成した BRA imageを以下の2つのxmlファイルで出力する。
ファイル名は、以下の命名規則で行う。
ここではBIF/HCD/FRG imageを作成するにあたっての draw.io の使い方について概要を解説する。
1. draw.io にアクセスする。以下のような画面になれば、「新規ファイルを作成する」を選択する。
※以下のような画面になった場合、「Google ドライブ」を選択し、「認証が必要」と言われたら「認証する」を選択する。認証が完了すれば上記の画面に遷移する。
2. デフォルトの「基本/白紙ファイル」を選択し、「作成する」を選ぶ。
3. BIFの神経回路構造とHCDのコンポーネントの構造をそれぞれレイヤーを分けて作成する。レイヤーは「表示⇒レイヤー」から作成する。
4. レイヤーのウィンドウが現れたら「レイヤーを追加する」を選択し、「BIF」と「HCD」のレイヤーを追加する。(追加したレイヤー名をダブルクリックするとレイヤー名が変更できる)
5. 図を作成する。draw.io の具体的な使い方については、公式ページを参照のこと。
https://drawio-app.com/tutorials/
6. 作成した図を選択し、 xml ファイルとして出力する。
「ファイル」→「形式を指定してエクスポート」→「XML…」
「選択範囲のみ」を選択して、「エクスポート」を実行する。
ファイル名は、画像ファイルの命名規則を参照のこと。
コラム:Mermaid形式の利用draw.io は Mermaid形式と呼ばれる Javascriptベースのフローチャート、ダイアグラム描画ツールの記述形式をインポートし、描画することができる。Mermaidは、リンク先画面にある「Live editor」からアクセスできる。 例えば、Mermaid 形式ではダイアグラムは以下のように記述される。 graph TD; Component_A-->Component_B; Component_A-->Component_C; Component_B-->Component_D; Component_C-->Component_D; ※Mermaid 上では、以下のように出力される。 この記述をdraw.ioで読み込むことで、draw.io上で図の表示が可能である。読み込む方法は以下のとおり。 1.「配置」→「挿入」→「高度な設定」→「Mermaid」を選択する 2.ポップアップ画面に、Mermaid記述形式で書きたいダイアグラムを記述し、「挿入」を押す。 3.現在のシートにダイアグラムが挿入される。 Tips. 表示形式の変更 作成された図をすべて選択し、「配置」→「レイアウト」から、様々な表示形式に変更することができる。(以下の図は横向きフロー図の例) |
作成したBRAデータは、BRAデータ投稿専用フォームからデータ一式を投稿することができる。投稿データは審査がなされ、採録されたデータはNPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)のポータルサイトであるBRAESにおいて、Creative Common License(CC-BY-SA:表示-継承)により正式公開される。
データの投稿から正式公開までの流れを以下にまとめる(下図点線個所)。
図.データ投稿から公開までの流れ
用意した投稿データを、以下のフォームから提出する。
※投稿するデータについては、「投稿データ」を確認すること。
|
フォームで回答する内容は以下の通りです。
全ての内容は英語で記入を行ってください。
表.投稿専用フォームでの質問項目と回答内容
質問番号 | 分岐 | 質問項目 | 回答内容 | 必須/任意 |
1 | Author Names | Contributor(s)の名前を記載してください。 | 必須 | |
2 | Project ID | Project IDを記載してください。 | 必須 | |
3 | BRA Data | 投稿するBRAデータの spreadsheet を添付してください。 | 必須 | |
4 | BIF Image | BIF Image の xml ファイルを添付してください。 | 必須 | |
5 | Does your BRA data include FRG data? | 投稿するBRAデータに HCD や FRG を含む場合は yes を、含まない場合は no を選択してください。 | 必須 | |
6 | 5でyesを選択 | FRG Image | FRG Image の xml ファイルを添付してください。 | 必須 |
7 | 5でyesを選択 | HCD Image1 | HCD Image の xml ファイルを添付してください。 | 必須 |
8 | Name | 連絡の取れる Contributor の氏名を記載してください。 | 必須 | |
9 | 上記の連絡の取れるContributor の連絡先を記載してください。 | 必須 | ||
10 | Comment | WBAの担当者(Manager) あるいは Reviewer へのコメントがあれば自由に記載してください。 | 任意 | |
11 | Affiliation | 上記の連絡の取れる Contributor の投稿時の所属を記載してください。 | 任意 | |
12 | Consent | BRAデータおよび図(BIF/HCD/FRG Image)はCC-BY-SAで公開されること、Allen Institute の Terms of Use に同意することを了承してください。(了承されない場合は投稿ができません。) | 必須 |
投稿すると直後に、投稿時に登録されたE-mailアドレス宛に以下の件名で投稿受理の旨のメールが送信される。
その後暫くして、形式審査結果がメールで返信される。
※形式審査には時間がかかることがありますが、しばらくしてもメールが帰ってこない場合は、担当者(bra-support@wba-initiative.org)までお問い合わせください。
前節で述べられたように、形式審査にパスしたデータは専門家によって審査される。審査結果はaccepted/conditionally accepted/rejectのいずれかであり、以下の件名のメールで返信される。
Acceptの場合は、すぐにBRAESよりBRAデータが公開される(c.f. BRAデータの公開)。Conditionally accpeptedの場合は専門家の審査結果に応じて修正を行い、修正データをBRAESから再度投稿する(c.f. BRAデータのBRAESへの投稿)。Rejectの場合であっても、専門家の審査結果に応じて修正を行い、修正データをBRAESから再度投稿することを推奨する。
Manual-reviewは次の三つの観点から生物学的妥当性が審査される。
表2に示すように、BIFの信憑性 (authenticity)、HCDのBIFへの整合性 (consistency)、HCDの機能性 (functionality) の3つの観点からなる。Authenticity評価は、BRAデータ中のReferenceシート、 Circuitsシート、 Conntectionsシートにおいて行われる。Consistency評価とFunctionality評価は、FRGシートにおいて行われる。
表2: BRAデータの評価観点
BIFの信憑性(authenticity) | HCDのBIFへの整合性(consistency) | HCDの機能性(functionality) | |
審査基準 | BIFに記述された構造/現象記述要素が、BRAデータベースに未登録であり(新規性)、現状の何れかの神経科学知見に直接・間接的に支持されている。 | HDC内の全ての構造要素が、BIFのROI内の登録済み/予定の構造に対応している。 | HCDを構成する、コンポーネントの依存関係構造に基づく振る舞いの連鎖によって(のみ)ROIが担う目的を達成する動作機序を構成できる |
HCDデータ中の対象シート | References, Circuits, Connections | FRG |
Manual-reviewでreviewerが書き込みを行うManual review columnsは、審査対象となる4つのシートにおける以下の列である。この項目を確認の上、適宜修正を行う。
Error code番号の確認はCommentary of BRA Data Review Tool から確認できる。
Attribute | Description | Values | Mandatory | ||
属性 | 説明 | Description | 値の記述 | 必須記述事項 |
Error Code-1 | 手動によるエラー評価の Error Code番号をリストから選択 | Select an error evaluation error evaluation from the list from the list | Error Code | written by Reviewer |
Error Code-2 | 手動によるエラー評価の Error Code番号をリストから選択 | Select an error evaluation error evaluation from the list from the list | Error Code | written by Reviewer |
Other Error Codes | Error Code-1, Error Code-2以外に Error がある場合には「Error数: Error Code番号」で記述 | If there is Error other than Error Code-1 and Error Code-2, describe it in "ERROR Code Number" | Error Codes | written by Reviewer |
Review comments | 審査にあたってのコメント | Comments on review | text | written by Reviewer |
Reviewer | レコード内容のreviewer名(First, Middle, Last) | Name of the person who reviewed the contents of the record (First, Middle, Last) | text | written by Reviewer |
Reviewed date | 審査を行った日付 | Date of review | date | written by Reviewer |
Manual-reviewにてAcceptになったBRAデータは以下のサイトにてCC-BYライセンスのもとで公開される。
BRAデータ公式ポータルサイト:
https://sites.google.com/wba-initiative.org/braes/
BRAデータ作成にあたり、BRA駆動開発について知るための資料を以下に挙げる。適宜参考にされたい。
[Yamakawa 2021] Yamakawa, H. (2021). The whole brain architecture approach: Accelerating the development of artificial general intelligence by referring to the brain. Neural Netw. 144, 478–495. https://doi.org/10.1016/j.neunet.2021.09.004
[山川 2022] 山川 宏 (2022). 全脳アーキテクチャ ─ 機能を理解しながら脳型AIを設計・開発する ─. In 認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開 認知科学講座., 横澤一彦, ed. (東京大学出版会), pp. 209–249. https://www.utp.or.jp/book/b609203.html
[1] コンポーネント図は、計算機能を担う複数のコンポーネントと、それらのコンポーネント間の依存関係を表現する。ここで 各コンポーネントは、関連する機能(またはデータ) のセットをカプセル化したモジュールである。コンポーネント図はオブジェクト指向ソフトウエアの構造をモデリングするためのUML(Unified Modeling Language)に含まれる主要なダイアグラムの一つである。
[2] 機能階層図とは、システムやソフトウェアの機能の記述を階層的に表した図である。ここでの階層関係は「階層の上位にある機能は下位の機能群によって実現される」ということを表す。