放射線計測についての少し詳しい解説

放射線計測についての少し詳しい(長い)解説

(修正点がありましたらご指摘ください e-mail: clear.wt@gmail.com )

この文書の短縮URL : https://goo.gl/wDCvkm

2019/02/21 改訂        

(初版:2013/11/28)        

 

written by cwt (Twitter ID: @clear_wt)

この文書では線量管理基準を<空間線量をもとにした推定値>から,<個人線量計による測定>に切り替える事の技術的な意味を詳しくまとめました.

文書の後半は  

  • “放射線防護に用いられる線量概念” (参考文献1[1])                  (平山英夫 他,KEK Preprint 2012-44,January 2013),

(PDF) http://ccdb5fs.kek.jp/tiff/2012/1227/1227044.pdf 

    に示されたシミュレーション結果

  • “東京電力㈱福島第一原子力発電所事故に係る個人線量の特性に関する調査”(参考文献2[2]),および”同追加調査”(参考文献3[3]) の内容


を紹介し,一般向けに書き下したものとなります.

この文書は,実際に報道等で使われている用語の使い方に合わせた記述となっている他,説明を簡単にするため厳密さを多少犠牲にした部分もあるのでご注意ください(厳密ではないですが,間違いとならない記述をこころがけています).


注意! 以下の文書は無保証です.この文書により生じたいかなる損害の責任も執筆者が負うことはできません.元の文献にあたり確認するなど,自己責任での利用をお願いします.


[0] 最初に結論

(1) 正しく常時着用された個人線量計で測定された値(個人線量)は人体への影響を推定するための量(実効線量)とほぼ同じか大き目に出るので,個人線量計で被ばく量を管理すれば過小評価にはならない.

(この重要な点に触れず,従来の測定・推定方法より小さくなることだけを強調している報道も多く見られた)

(2) これまで行われていた空間線量率(周辺線量率)からの被ばく量の推定値は<一般に>実効線量に対して過大評価になっていた(例外が無いかの検証は必要=個人線量計での確認が必要).数割程度の過大評価であれば安全側に判断する防護の考えに照らしても問題は無いが,数倍の,しかも<実際のリスクを反映しない>乖離があるなら,個人線量管理への移行にも一理ある.

(3) 被曝量は一人一人異なる.ごく少数いるかもしれない例外的に被曝量の多い人を見つけ,適切な対策をとるために個人線量計は有効.少なくとも帰還後の短期間だけでも身につけるのが望ましい.

(4)以上は放射線計測の技術面から,測定・運用の方法,及び,測定値や推定値の妥当性について検討しただけであり,帰還問題,補償問題,健康影響問題は別途これとは別に慎重に検討する必要がある.

(これで納得のいく方は以下読まなくても問題ありません.)

[1] 放射線の量を表す値(線量)の整理

線量(放射線量)と一言に言っても多くの紛らわしい量(用語)があり,しばしば混乱の元になっています(報道でも間違えている例がまれではない).

測定においては,<何を測っているのか>を最初にきちんと確認しないと,妥当な値を示しているか(その値が正しく測れているか)の評価もできないので,まずは<線量>や<線量率>と呼ばれる値を整理します.

(0) <○○線量>と<○○線量率>の違い :前置き

まず,<○○線量>と<○○線量率>の違いから.

<○○線量>は(ある期間における合計の)放射線量を表し,Sv(シーベルト)という単位で表します.また,Svでは値が大きすぎる時,その1/1,000のmSv,あるいは1/1,000,000(百万分の1)のμSvを使って表記します.

 <○○線量率>は1時間当たりの放射線量を表し,先ほどの単位に時間当たり意味する ”/h” という記号を付けて,“mSv/h”,“μSv/h”といった単位で表記します(「1時間あたり△μSv」「毎時△μSv」と表されることもあります).この単位で表される放射線の強さの場所に居続けた場合,滞在時間を掛けるとその間の合計の線量が予測できます.

例えば,0.3μSv/hの場所に4時間いると

   0.3[μSv/h]×4[時間]=1.2[μSv]

 の放射線を受けると予測できます(時速30km=30km/hで,4時間進むと30[km/h]×4[時間]=120km進むのと同じです).

実際には,世間一般で「線量」と書かれているものが「線量率」を表していることがしばしばあり,「/h」の記号や「毎時」「一時間あたり」といった表記,あるいは文脈から「線量と書いているが本当は線量率を表している」と判断することが必要となります.

(1) 実効線量(率) E

(実効線量の単位:Sv.実際には小さい数字を表すために“mSv”,“μSv”が用いられる.専門の文献では記号Eで表わされます.)

放射線が人体に及ぼす影響を見積もるために作られた量.放射線の影響を評価するときはこの実効線量の値(Sv)との関係を表していることが多いので,非常に重要な量です(例えば,「100mSvを受けた時の影響は~~」と言う時の「100mSv」はこの実効線量です.

人体は多くの臓器や組織により構成され,臓器毎に放射線の影響を受ける度合いも異なります.これらも考慮して体全体への放射線の影響を見積もる時の目安となる量として定められたのが実効線量です.

具体的に実効線量を求めるには,

  1. 各臓器等に吸収される放射線量を求め
  2. それに影響の程度を加味した放射線荷重係数・組織加重係数を掛けて
  3. それらを合計します.

ここで問題となるのが,1)の過程です.人体内部の臓器が吸収した放射線量を求めるには人体内部に測定器を置かなければなりませんが,現実的にはそれは不可能です.そのため,実効線量は基本的に<測ることができない量>とされます.

人体への影響を見積もるために重要な量なのに測ることができない???これはとても困ります.しかし,測ることはできなくても予測することは可能です.実際には計算機シミュレーションによりこれを求めています.放射線が物質(人体を構成しているのも“物質”です)に当たった時の吸収のされ方は明確に分かっていますので,標準的な人体を良い精度で再現したモデルを用いたシミュレーションの結果はかなり正確です.放射線の種類,エネルギーと人への当たり方(放射線の方向)が判れば実効線量を計算機で求めることができます.

毎回この計算をするのは大変ですので,一定の強さの放射線が人体に対し

1)前から当たった時(AP条件)

2)後ろから当たった時(PA条件)

3)左側面から当たった時(LLAT条件)

4)右側面から当たった時(RLAT条件)

5)水平方向の周囲360°から当たった時(ROT条件)

6)上下水平方向含め,あらゆる方向から当たった時(ISO条件)

といった状況毎に,実効線量がどのようになるかを計算しておき(人体の臓器は色々な場所に非対称にあるので当たる向きによって実効線量は変わります),それにその場所の放射線の強さを掛けることで実効線量が<推定>できます.

なお,求め方の2)で述べた組織荷重係数は主として原爆被爆者の方の調査結果を基に定められた量ですが,複雑な人体の働きを考えてもその値を厳密に確定するのは困難です.また,過去にも係数は改定されており,今後の研究により変わることもありえます.そういう意味では実効線量はリスクを厳密に反映しているとは言えない,あくまで目安と考えるべき値ですが,現在の放射線防護の考えはこの値をベースに考えられていることが多いので,この値をそれなりに正しいと一旦認めて考えていくのが実用上は良いと思われます.

また,一般に人体への影響は1時間当たりの量ではなく,合計量に関係することから,通常は一定期間(例えば年間の,あるいは数年間)の合計の実効線量で考えることが多く,実効線量率として扱うことは少ないようです.

(2) 個人線量(率)・1cm個人線量当量,Hp(10)

(個人線量の単位:Sv.実際には小さい数字を表すためにmSv,μSvが用いられる.実効線量と同じ単位を使うので混同しないように注意.)

(1)で述べたように,実効線量は測れない量で,推定するのも簡単ではありません.そこで,個人の被ばく線量を知るために代用できる<測れる量>(「実用量」と呼ばれます)として定められたのが個人線量(1cm個人線量当量)です.放射線防護という目的を考えると,

個人線量 ≧ 実効線量

でなくてはなりません(防護に適した大きめの値になること=安全に配慮した側という意味で,<安全側>あるいは<保守側>と呼びます).

このような条件を満たす量として,人体組織と似た物質でできた平板(平板ファントムと言います)の表面から1 cm位置での線量,<1cm個人線量当量>(=個人線量)が定義されました(専門的にはHp(10)と表記されます).


実際の人体で考えてみると,放射線が来る方向の人体表面から1cmの位置は放射線の吸収量が多いことが分かっています.一方,実効線量で評価対象とする臓器の大半はそれより深いところにあり,1cm深さで評価すれば影響を大きめに見積もることができます.しかし,人体内部の線量は実測できず,実用量としての意味を持たないので個人線量(個人線量当量)は平板ファントムを用いて定義されています.

この値を示すように作られた測定器が個人線量計です.つまり,実効線量より少し高い値を示す測定器です.また,個人線量計は人の受ける放射線量を推定するための測定器ですので,放射線が来る側に使用者が身に付けた状態で定義に準ずる値を示すような調整がされていることに注意が必要です.

実効線量の代用として用いられることから,個人線量(Sv)として扱い,個人線量率(Sv/h)で扱うことは少ないようです.

(3) 周辺線量率・1cm周辺線量当量率 H*(10)

(周辺線量率の単位:Sv/h.実際には小さい数字を表すためにmSv/h,μSv/hが用いられる.実効線量と同じ単位を使うので混同しないように注意.)

(2)の個人線量は,人が測定器を身につけて一定時間その場所に滞在することで値を得ますが,個人線量はその場所の放射線の強さに比例します.つまり,<その場所の>放射線の強さがわかれば,その場所でじっと待っていなくても個人線量を容易に推定できるはずです.そこで,<その場所の>放射線の強さを表す実用量として周辺線量率(1cm周辺線量当量率)が定義されています.

周辺線量は人が身に付けて測定する前提ではないこと,及び,場所の特性は人に対してどちらから放射線が来るかと無関係であることから,どの方向から放射線が来ても同じ値を示す様に定義されています.一方,個人線量と同様に,表面から1cmの位置での線量として定められています.

具体的には,人体組織と似た物質でできた直径30cmの球(ICRU球)を考え,放射線の入射軸上の表面から1cmの位置の放射線量が1cm周辺線量当量と定義されました(単に周辺線量とも呼ばれる.専門的にはH*(10)と表記).この “ICRU球の表面から1cmの位置の放射線量” は,どのような状況の実効線量よりも大きいという条件を満たしています.

1cm周辺線量当量を示す様に調整された測定器は(γ線用)サーベイメータと呼ばれます.

(実際にはサーベイメータは<時間当たりの>周辺線量当量である,周辺線量当量率を表示する.ここで”γ線用”と限定したのはα線やβ線は人体の1cm深さまではほとんど到達せず,それらを対象にした校正を行っていないため.)

定義からも分かる様に,個人線量と周辺線量は密接な関係にあります.どちらも “人体組織と似た物質の表面から1cmの位置での線量” であり,文脈から判断できる場合には1cm線量当量とだけ書かれることもしばしばあります.また,ある1方向からだけ放射線が来ている場合,放射線の入射する側に人が身に付けた個人線量計の示す値は(例:前方から放射線が来る場合に腹部に付ける場合),サーベイメータの測定値×時間とほぼ同じになります(このように,本来は<ある条件下で>ほぼ同じ値を示すはずのものです.厳密には違いがありますがその差は小さい).

モニタリングポストと間違われることの多い,リアルタイム線量測定システムは周辺線量当量を示す様に校正されています.表示単位がμSv/hとなっているのを確認してください.

                   

        1cm周辺線量当量の定義 - ICRU球表面から1cmの位置

https://twitter.com/hyd3nekosuki/status/258145125274902528/photo/1 を許可を得て転載)

(4) 空気吸収線量率

(空気吸収線量率の単位:Gy/h.実際には小さい数字を表すためにmGy/h,μGy/hが用いられる)

空気吸収線量(率)の前に,まずは<吸収線量>から.物質に放射線があたると(主に電離という形で-田崎晴明著“やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識” p.23)エネルギーを受け取ります(吸収します).1kgあたりどれぐらいのエネルギー(Jという単位で表します)を受け取るかを表すのが吸収線量(J/kg=Gy)という単位です.

ここで,「物質」と広く表記したことに注意してください.物質によって放射線の吸収のされ方が異なったり,注目する物質の周囲の状況によって遮蔽や散乱の影響も変わってくるため(例えば,ある内臓器官の吸収線量を出す時等は複雑です),吸収線量は「何が」吸収したかを明記しないと意味があいまいになって意味を持ちません.

空気吸収線量は場の状態を評価する量として用いられる量です.吸収線量の定義から分かる様に,<空気が>電離作用により受け取るエネルギーの量を1kg当たりで表記したものとなります.

実際には,場の評価量として時間当たりになおし,空気吸収線量率(Gy/h)として使われることが多い様です.

空気吸収線量率は,空気を吸収物質と考えることで現実の場を良く反映しますし,周囲の物質による遮蔽,吸収,散乱の特性を考慮しないといけない1cm個人線量当量率や1cm周辺線量当量率に比べて特性補正等によるあいまいさの少ない,物理的な特性を反映した素直な量と言えます.専門書に記された空気カーマも,今問題になっているセシウムからのγ線を考える場合には同じであると考えて良いようです(ここは別の解説を参照してください).

空気(またはガス)が電離して発生する電荷を集める電離箱を用いることで空気吸収線量率を複雑な補正無しに測ることができます.しかし,電離箱はある程度強い放射線でないと測れないため,実際には低線量域ではシンチレーション式の検出器で測り,空気とシンチレーション物質の特性差を補正して空気吸収線量率を求めています.

モニタリングポスト(以下MP)はこの空気吸収線量率を測定しています.測定量に対して付ける単位は本来はGy/hです(機器本体についている小さな液晶表示はそうなっています).しかし,この単位は市民に馴染みが無いという理由により,現在は多くのモニタリングポストで数字はそのまま,単位のみSv/hと書き換えた大型表示板が追加で設置されています.

MPは長期的な変化を測定することを目的としているため,高感度の検出器を用いてばらつきを減らす事に加え,温度変化による特性変化の補正をしていたり,エネルギー特性を高精度に補正していたりするので,サーベイメータやリアルタイム線量測定システムより格段に精度や安定度の高い測定が可能になっています.

なお,モニタリングポスト(空気吸収線量率を測定)と,サーベイメータ(周辺線量当量率を測定)の値が違う,MPの値が低すぎる,という話が出ますが,そもそも測っている対象が違うためMPの値が低くなるのは当然の結果です(どれぐらい差が出るかは環境により異なる).また,上述の精度や安定度の点からもサーベイメータでモニタリングポストの厳密な検証を行うのは原理的にも困難です(おおまかな確認程度なら可能ですが).

(なお,この補正曲線を変えることで周辺線量当量率と空気吸収線量率の両方を測定できるようにしたシンチレーション式サーベイメータもありますが,「γ線用サーベイメータ」はJISでの定義から考えても通常は周辺線量当量率の測定用と考える方が良いように思います).福島県が実施している測定でも周辺線量当量測定モードに設定して測定されています.

(A) 空間線量率

空間線量率は(1)~(4)に比べると定義のあいまいさも含め取り扱いに特に注意が必要な用語です.

「空間線量率」の<数字>は(3)周辺線量当量を表す場合と,(4)空気吸収線量率を表す場合があります.

実際の運用では

・空間線量率はほとんどの場合(3)周辺線量当量を表し

モニタリングポストの測定結果を表す時のみ(4)空気吸収線量率(Gy/h)の数字をそのままに,単位のみSv/hに変えて表示 (すなわち,1Gy/h=1Sv/hと換算して表示)

されています

1つの用語に2つの実質の意味があるのは定義として成立していません.しかし,世の中に広まっている用語なので,実際の行政機関による測定結果の表記がどのようになっているかを以下に記します.

場の線量評価では一々測定場所にMPを設置するわけにはいきませんので,サーベイメータでの測定がおこなわれています.この数字をそのまま空間線量率として表示していますので,実質的な中身は1cm周辺線量当量率の数字になっています.これは,(C)でも述べる法令により,実効線量を高めに評価する数字である1cm(周辺)線量当量を<実効線量の代わりに>表示する運用です.

航空機モニタリングは超高感度検出器を搭載したヘリコプターで上空から放射線を測るものです.テストライン上において地上のサーベイメータでも測定し,上空での計測結果がそれに一致するように補正しているので,周辺線量当量を測っているとみなせます(※2019年2月追記:航空機モニタリングについてはある特定の条件下で地上での周辺線量測定に比べ過大な値を出す特性があることがその後明らかになってきました.地上でサーベイメータ等を用いて測った値とは別に取り扱う必要があります.詳細については別の解説「宮崎・早野第1論文 係数0.15のからくり[4]を参照してください).

一方,モニタリングポストの運用では,例えば環境放射線モニタリング指針(PDF) (http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/anzen/sonota/houkoku/houkoku20080327.pdf →リンク修正:http://www.nsr.go.jp/data/000168451.pdf )のp.42に,<実効線量の推定値を求める方法として>「ただし、緊急事態発生時の第1段階モニタリングにおいては1mGy=1mSvとする。」という記述があるのを適用し,空気カーマ(≒空気吸収線量)の値がそのまま(数値が高く推定されることを許容して)実効線量の推定値として<代用され>「空間線量(率)」として表記されています.

一般に「空間線量計」と称する時には,サーベイメータ(ガイガーカウンターと呼ばれるものもこれに含まれる)を指しますので,その意味でも<事実上>

空間線量率=周辺線量当量率    (モニタリングポストは例外)

と言えるでしょう.

なお,空間線量の解説として, 「空気中の放射線量」あるいは,それに類する表現を報道等でも見かけますが,「空気中の」という表現をしてしまうのはやってはいけない間違いです.「空間」と「空気中」は全く意味が違います.この間違いは放射性物質の浮遊を連想させ,誤解解消の支障となります.この様な表現がある場合解説者が基本事項を理解していないと考えられ,他にも間違いがある可能性が高いと思われます.

(B) 各線量の関係

以上で述べた各線量の関係を図で整理すると以下の様になります.

倍率関係については環境により左右されますのでおおよその目安と捉えてください.

また,1cm周辺線量当量(エネルギー補償付きサーベイメータ)と1cm個人線量当量(個人線量計)の関係に2つの倍率が示されている理由は後半で述べます.

注)空気吸収線量率と1cm周辺線量当量率(エネルギー補償付きサーベイメータ,リアルタイム線量測定システム)との倍率関係について

137Csからの直接線(0.66MeV)における空気カーマから1cm線量当量への変換係数は1.20ですが,それより低エネルギー側ではより高い変換係数(例:0.4MeVで1.26,0.2MeVで1.4,0.1MeVで1.65-これらはJIS Z4333で確認可)になります.そのため,低エネルギー側である散乱線成分の多い環境では1.2倍より大きく,1.4倍程度になることもまれではありません.

(C)法令上の話

電離放射線障害防止規則 3条2項には 「前項第一号に規定する外部放射線による実効線量の算定は、一センチメートル線量当量によつて行うものとする。 」と定められています.

なお,日本の法律では1cm個人線量当量,1cm周辺線量当量とも“一センチメートル線量当量”とまとめて呼ばれています(文脈から理解できるためか,用語には「個人」,「周辺」という言葉は入っていません).

[2]なぜ個人線量計での値が空間線量率からの推定より小さくなるの?-part1

2013年11月現在,被曝量管理の基準を[A]<空間線量からの推定値>から[B]<個人線量計による一人一人の個人線量実測値>に変更することが検討されています.

その際の議論では,[A]<空間線量からの推定値>に比べて[B]<個人線量計による一人一人の個人線量実測値>は小さくなる,と言われています.この理由には少なくとも4つの要因が複合しており,なかなか複雑です.報道等の解説にも誤解したものを多く見るので詳しくみていきます.

最初に記したように,放射線の影響を知りたい場合には実効線量をできるだけ正確に推計することが重要です.これまで行われてきた空間線量からの実効線量の推計値は

a) 地域の代表点(屋外)での空間線量を測定し(例えば,サーベイメータやリアルタイム線量計の値を使用.モニタリングポストは精度が高いが換算に注意)

b) 屋内での線量を家屋による遮蔽率0.4を地域代表値に掛けることで概算し

c) 個人の行動に伴う滞在時間を仮定し(屋外に8時間,屋内に16時間居ると仮定)

これらをもとに計算することで求めています.

例えば,空間線量(1cm周辺線量当量)0.5μSv/hと測定された地域に住んだ場合の年間被曝量の推計値は

{0.5[μSv/h]×8[時間]+0.5[μSv/h]×0.4×16[時間]}×365[日]=2628μSv≒2.6mSv

となります(但し,自然放射線分を含むので事故の影響評価ではそれを引く必要がある).

この推計に誤差が入る部分を見ていくと,

a) の地域代表値には,その値の測定誤差を除外して考えても,代表点の取り方による誤差があります.広く知られるように,放射線強度には場所による強弱があり,どの点の測定値をもって地域代表としても,ある特定の場所付近の線量とする際には原理的に誤差の混入が避けられません.この誤差は過大評価と過小評価の両方が起こり得ます.

なお,航空機モニタリングは広い領域の平均を取るので局所的な強弱の影響を受けにくく,比較的広域の代表値を得るのに優れた方法です(※航空機モニタリングの値の取扱には注意が必要.空間線量率の項にある注を参照の事).

b) の建物の遮蔽等による屋内の線量低減率については実測データ等から算出されたものですが,家屋の造り,周辺の状況により幅があり,一律に0.4とすると比較的大きな誤差が入ると考えられます.こちらも過大評価と過小評価の両方が起こり得ます.特に,学校等の鉄筋コンクリート造の建物の遮蔽率は高く,0.4を適用すると滞在中の被曝量が数倍の過大評価になります.また,事故前からあった自然放射線分にまでこの係数を適用できません.そのため,事故後の放射線増加分が少ない比較的低線量の所にまでこの低減率を一律に適用することはできません.

c) の滞在時間の仮定部分が最も大きな誤差を生む可能性が高いと推定されます.生活パターンは一人一人違い,誰もが8時間の外出をするわけではありません.例えば,就学中の生徒については,通学,体育,クラブ活動を通しても毎日コンスタントに8時間の屋外活動をする人は多くありません.また,他の年齢層でも屋内で長時間を過ごす人も多いはずです.このようなケースで一律8時間の外出を仮定するのはかなりの過大評価となります.

被ばく管理では過小評価の方が問題になるので,外仕事の多い人でも過小評価になりにくいように屋外での活動時間多めに設定されていると考えられますが,それでも時に万全とは言えません.例えば,農業で生計を立てている場合,この仮定を超えて屋外で作業していることも考えられます(年間を通しての平均でこれを超えるケースは少ないかもしれませんが).個人個人の実態にあわせた仮定を置くか,特に生活パターンが標準的な仮定と大きく異なる人は個人線量管理に移行する方が合理的です.

この様に,空間線量率(周辺線量当量率)からの実効線量の推計には誤差要因が多く,さらに過小評価となりにくいように値が定められたため,全体として見た場合には2~3倍程度の過大評価であると言われています(しかし,全てのケースで過大評価と必ずしも言えないので例外が無いかの確認は必要です.これは外部被曝量の多い人を見逃さないという,個人線量測定を行うもう一つの大きな理由になります.)

この様な理由から,仮定による誤差の少ない個人線量計による実測が検討されていますが,空間線量計(一般に周辺線量当量を測定するサーベイメータを指す)での測定から,個人線量計での測定に切り替えた場合,これらa)~c)に関する差に加え,d)<実際の利用環境下での>機器の特性差が入ってきます.

この「<実際の利用環境下での>機器の特性差」という条件付きの表現を取るには理由があり,結論だけ言うと,「広範囲に放射性物質が散らばり,主に周囲360度水平方向から放射線が来る場合に個人線量計を身に付けて測定した線量は,サーベイメータで測定した周辺線量当量に時間を掛けた値の約0.7倍程度になる」との計算結果が報告されています.また,実際に測ってみても(倍率は多少違えども)確かにそのようになっています.このd)については値が小さくなる傾向だけがあり,大きくなる要素はありません.この理由については複雑なので別の項にまとめます.

これら,a)~d)の要素が複合することにより,[A]<空間線量からの推定値>に比べて[B]<個人線量計による一人一人の個人線量実測値>は小さくなる傾向が生じます.特定の要素のみをもってこの結論を導き出している報道解説には誤解に基づくものが見受けられました.

[3]なぜ個人線量計での値が空間線量率からの推定より小さくなるの?-part2

個人線量計と空間線量計(サーベイメータ)の特性差の問題

周辺線量の説明の最後に記したように,<ある条件下で>個人線量と(周辺線量×時間)は一致するはずのものです.しかし,今回の原発事故の影響のあった地域で使用すると両者の間に差が出ることがシミュレーションや実測により明らかになってきています.この理由を以下詳しく検討します.

測定器はお互いに数値を比較する使い方をするため,同じ対象を測った時に同じ数値を示すことを確認する(場合によっては調整する)作業が行われます.これを「校正」と呼びます.この校正の方法は個人線量当量,周辺線量当量の定義を具体的に実現する方法としてJISで定められています.

校正の方法は日本ではJIS Z4511:2005「照射線量測定器,空気カーマ測定器,空気吸収線量測定器及び線量当量測定器の校正方法」等に定められていますが,多少の違いはあれど,他の国でも基本的に同じ方法が使われています.世界中,同様の基準,同様の方法で校正されていますので「日本製の線量計は低く出る」というのは全くのデマです.メーカーの独自判断で調整基準を変える事もできません.もしそんなことをすれば,検証によりすぐ分かってしまいます.技術者はそんなこと考えもしないでしょうし,もしそのような指示があっても技術者の良心からそのような操作は行わないでしょう.

個人線量計やサーベイメータを校正する環境(校正場)は機器前方から平行に近い放射線が来る環境と定められています.技術的な容易さといった理由もありますが,特に個人線量計の場合には,同じ空気吸収線量率を示す場であっても,前方から放射線が照射される条件(AP条件)の時が一番人体に対する影響が大きく(=実効線量が大きく),安全確保のためにこの条件での校正を行う合理性があるためです.また,個人線量計は人が身につけて使うものであることから,人体と同じ組成とみなせる材料でできた縦横30cm,厚み15cmのスラブファントムと呼ばれる物体の前面に取りつけて校正されます(ややこしいのは,人体の皮下1cmに測定器を埋め込めば示すはずの値(計算値)を,人体表面に付けた測定器が示す様に調整するということ)

この様な方法で校正するのには合理性があるのですが,一方,校正条件と異なる使い方,例えば体の前面に個人線量計をつけ,後方から放射線が照射された場合などには体で放射線が減衰するため求めたい値を示しません(この場合の<求めたい値>とは何か-後述).全ての条件下で定義通りの値を示す機器や校正方法を実現するのは原理的に不可能です.

では実際に線量計が使われる環境はどのようになっているか考えてみます.原発事故により放出された137Csと134Csが広く地面に分布し,土中に少し浸透した状態であると言われています.この状態の場所に人が立った時の放射線の照射状況は,周囲360°地面のある斜め下から放射線を受ける状況にあり,校正条件とはずいぶんかけ離れたものになります.この条件に近いのは実効線量のところにで説明した,ROT条件またはISO条件です(シミュレーション結果はROTに近いことを示唆しています).

この時に個人線量計にどのように放射線が届くかを考えると,

 ・体に遮られない前面から左右上下方向から来た放射線はそのまま線量計に入射し

 ・体に遮られる真後ろを中心とした左右上下までの方向から来た放射線は体により減衰されて線量計に入射

することになります.

全体として見た場合,後方からの放射線が遮られる分,個人線量計はサーベイメータ(空間線量計)に比べ幾分少ない値を表示します.

この様に,機器の校正条件と実際の環境が異なる事,及び,身につける個人線量計と体から離して使うサーベイメータという違いが,値の違いの原因となります.どれぐらい小さくなるかも計算されており,周辺線量当量に比べ,個人線量計の値は

・成人(1m高さ)・15歳児(50cm高さ)の体格の場合約0.7倍になる

・10歳児(50cm高さ),5歳児(15cm高さ),1歳児(15cm高さ)は0.7倍より少し大きく,最大で0.8倍弱になる

とのシミュレーション結果が示されています(参考文献1).

[4] 小さくなるのは問題ではないの?実効線量との関係は?

個人線量計の値が機器の問題で小さくなる!?とんでもない!と思われる方もいるかもしれません.

ここで基本にたちかえり,知りたい値は<実効線量>であり,それを実測する手段として個人線量計を用いていることを思い出してください.個人線量計の示す値が実効線量と同じかあるいは大きいことが重要で,それさえ満たしていれば目的に照らして問題ありません.これは自明ではなく,もし実効線量より小さくなるなら放射線防護上の大きな問題になるので事前に確かめておかなくてはなりません.

この点についてもシミュレーションで確かめた結果が出てきており,個人線量計の示す値は,実環境にほぼ則したROT条件での実効線量と同じか少し大きめであることが示されています.なお,この結果は成人(1m高さ)・15歳児(50cm高さ)・10歳児(50cm高さ),5歳児(15cm高さ),1歳児(15cm高さ)それぞれについて,測定高さと体格差(体の厚み等)を考慮した計算で確認されています.すなわち,子供も含め,1cm個人線量にあわせて校正された個人線量計で測った値は実効線量を過小評価しないと言え,これを放射線防護の基準とするのは一定の妥当性があると思われます.

一方で,条件によっては個人線量計の値は条件によってはほぼ実効線量と同じになるため,他の実用量とは異なり必ずしも余裕をもった値では無いことに注意が必要です.

なお,実際の環境では放射性Csから直接対象に向かう直接線だけでなく,他の物質に散乱されて(地中に浸透した場合,土に散乱される))低エネルギーとなった散乱線の成分を多く含みますが,この点も考慮されて計算されています.

ROTおよびISO照射条件時における1cm個人線量等量と実効線量の比較

http://www.slideshare.net/tomohiroendo315/20130518-endo-rev0  p.35を許可を得て転載)

また,この倍率関係については参考文献2)3)に示す(独)放射線医学総合研究所(放医研)と(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)による検証実験でも確認されています.

参考文献2)では実環境において個人線量計を身につけての検証実験を行い,成人の標準的な体格で約0.7倍となることが示されています.

参考文献3)ではシミュレーション,及び年齢別ファントムと個人線量計による実測で,個人線量計の示す値が実効線量を基本的には下回らないことが確認されています.さらに周辺線量当量から個人線量を保守的に(安全側に)見積もるための係数として,以下が提案されています.

放医研,JAEAの提案する周辺線量当量―個人線量換算係数

適用年齢

F(age)

生後から3歳になるまで

0.85

3歳から18歳になるまで

0.8

18歳以上

0.7

(出典:

参考文献3 https://www.nirs.qst.go.jp/information/news/2015/03_16/houkokusho5.pdf, 表8)

[5] ガラスバッジ・クイクセルバッジ

ガラスバッジは放射線を扱う職業の方が使う事からも分かる様に,信頼性の高い測定器です.次に述べる電子式の個人線量計は様々な要因により実体とかけ離れた高い値を示してしまう事がありますが,ガラスバッジはそのような事が基本的に起こらないようです.機器もコンパクトで,値をその場で読みとれない事以外は大変優れた個人線量計と言えます.


福島県で行われるガラスバッジ測定では自然放射線によるバックグラウンドの推定値(一例として,年0.54mSv)を引いた追加被ばく量の推定値が報告されます.バックグラウンド値としていくらを減じているかはメーカーにより多少異なりますが,測定精度を考えても気にするほどの大きな差はありません.

[6] 電子式個人線量計

行政機関の窓口等で電子式個人線量計を貸し出している場合があります.また,一般向けに市販もされています.表示器のあるものについてはその場ですぐ値を読めることが大きなメリットになります.

半導体式の検出器を使っていることが多く,安価な空間線量計(GM管式,シンチレーション式)よりも一般にエネルギー特性が良好で,より正確な値を出しやすいという特徴もあります.

一方,衝撃・振動を与えたり,電磁波を発生する機器(携帯電話,モータを内蔵した機器,空気清浄機,商品管理ゲート等)に近付けると,実際には放射線を受けていないのに大きな値を示してしまう事があります.これらが起こりにくいよう,携帯電話と同じポケットに入れない,振動対策のために付属のクリップで固定する等の注意が必要です.

また,測定値は自然放射線によるバックグラウンドを含んだものとなりますので,追加被曝量を知りたい時にはその分を引いて考える必要があります.


1時間ごとの値を読み出せる電子式線量計は被曝低減のための強力なツールになります.

どの時間帯に線量が高いかを手間をかけずに知ることができ,後で行動と照らし合わせることで対策を行うべき場所を容易に特定できます.

なお,ガラスバッジも,電子式個人線量計もどちらも個人線量当量にあわせて校正されているため,ほぼ同じ値を示します.また,どちらも常時身につけていなければ正確な測定値を示さないことに注意が必要です.

以下に電子式個人線量計の簡単な使い方の例をまとめています.

        積算線量計(個人被ばく線量計 PDM-122-SZ)の使い方

                    http://goo.gl/nxeTL4 ( PDF,google document )

[7] 空間線量計=サーベイメータ

周辺線量当量率の測定器がサーベイメータです.一般に空間線量計と呼ばれるものはここに入り,ガイガー・ミュラー管(GM管)式,シンチレーション式,半導体式等があります.俗にガイガーカウンターとも呼ばれるものもここに入ります.検出器の方式,エネルギー補償機能の有無による測定値の特徴は以下の様になります.

1) GM管式線量計,シンチレーション式線量計について

 これらのうち,エネルギー補償機能の無いもの(特に高価なモデル以外のほとんどが該当)は散乱線の領域でより高い感度を持つため,たとえ校正された機器であっても実環境においてはエネルギー補償付きの機器(こちらの方がより正しい値に近い)より高い値を示します.つまり,各線量の関係図に示した,モニタリングポストの1.2~1.4倍,個人線量計の1.4倍(1÷0.7≒1.4)よりもさらに高い値になります.

行政機関等の貸出でも使われるHoriba PA-1000はエネルギー補償が無いため実環境で高めの値を出すことが分かっています.他にも,「自分の線量計より,行政機関が測った値の方が低い」といった話の本当の理由はこのエネルギー補償の有無による差であることが多いと考えられます.

2) 半導体式の空間線量計について

半導体式は元々のエネルギー特性が良好であり,エネルギー補償付きと同程度の反応を示すことが多い様です.

サーベイメータの詳しい使い方については別途まとめた以下をご覧ください.

簡易放射線量測定器でできるだけ良い測定を行うコツ(第2版)

http://bit.ly/jCpLvz

[8] 使い分け

個人線量計(ガラスバッジ,電子式個人線量計)は人が実際に受ける放射線量を測定するにあたって最良の選択になります.一人一人の線量管理においては,各人が携帯する個人線量計が原理的にも最も優れています(他の方法は推定が入る以上,その精度をいくら高めても個人線量計での実測には絶対にかないません).さらに長時間の測定を行う事もあり,ガラスバッジや,3~4万円程度で入手可能な電子式個人線量計であっても,基本的な精度は高価なサーベイメータと同等以上であると考えられます.

個人線量計で測定した結果,対策を行う際には場所の特性を測る空間線量計が役立ちます.どの場所が高いかを把握し,対策を行うべき場所を特定できます.

また,個人線量計は実際の環境で長時間過ごすことではじめて測定できるもので,帰還前に数値を測ることが困難です.その場合,帰還後に長時間滞在する予定の場所数か所を空間線量計で測り,それにそれぞれの場所での滞在時間をかけて(さらに[3]で述べた特性差からくる倍率を加味して)足し合わせることでおおよその線量の予測ができます.

[9]FAQ

Q.1 個人線量計は後ろから来る放射線を過小評価すると聞きました.周囲から均等に放射線が来ると言う仮定が成り立たない時は問題ではないですか?


A.1 後ろからの放射線が常時強い場合には体の前面につけた個人線量計の値は過小評価になります.その場合,放射線の来る方向(後ろ側)に個人線量計を身につけるのが正しい方法です.
実際の環境では放射線がどの方向から来るか不明で,ある方向からの放射線が強いかもしれません.しかし,人は同じ場所で常に同じ方向を向いて暮らすことはなく,長時間の平均を取るとどちらの方向からも大体均等に放射線を受ける仮定は妥当だと考えられます.

Q.2 子供は背が低く,大人より地面に近い位置に居ます.この影響は考慮されていますか?

A.2 本文中にも示したように,1歳児,5歳児,10歳児,15歳児,成人と,身長・体格の差と,それに合わせた線量計の取り付け位置の差を考慮してそれぞれ計算・実測されています.体格の小さな子供は地面に近いため,受ける線量も少し大き目になりますが,個人線量計もその分大きな値を示し,測定結果は実効線量を過小評価しません.

年齢による被曝の影響の差異については別途考慮する必要があるようですが,測定方法としては個人線量計を用いることに問題はないと言えます.

Q.3 個人線量計(ガラスバッジ,電子式線量計)を使うときに気を付けることはありますか?

A.3 個人の受ける放射線量は,生活の場や行動により一人一人違ってきます.家族の中でも違ってくるので,測定期間中は自分専用の線量計を身につけて行動するようにしてみてください.特に外出時は極力身につける,それができない場合でもカバン等に入れて持ち歩くようにすると状況が良くわかります.あまり神経質になる必要はありませんが,きっちり測れば,他の誰でもなく,自分自身の現状を知る良い目安となります.

 1~2回の測定期間(ガラスバッジの場合1~2ヶ月)だけでもきっちり測れば生活パターンが変わらない限り大きく数字は変わらないので,その期間だけは持ち歩いてきちんと測る,次は暮らしに大きな変化があった時に再度測る,ということで良いかもしれません.

 厳密な測定をしたい場合には24時間身につけているのが理想です.一方,帰宅後も身につけて生活するのはわずらわしいという気持ちもわかります.その場合,長時間過ごす部屋に帰宅後の置き場所を設定したり,寝るときには枕元に置くなど工夫すると良いかもしれません.

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(補遺)

測ること(計測)で重要なのは

1. 測る目的を決めて

(例:放射線からの防護のため)

2. その目的のために何を測るかを決めて

(例:本当は実効線量を知りたいが,実測が難しいので代わりに個人線量を測ることにする)

3. 測るものに適した測定器を選んで

(例:測定器として個人線量計を選んで)

  (4. 測定器の出す値が測りたいものの値と一致しているかorどういう関係にあるかを確認して)

(例:測定値が個人線量の定義や実効線量とどういう関係にあるかを確認する)

5. 測定して

                (例:測定器を正しい方法で使って測定値を得る)

6. 測定結果を使う

                (例:判断に使う)

となります(4.は専門家が検証するのが通常なので括弧書き).

[参考文献]

1) “放射線防護に用いられる線量概念”

 (PDF) http://ccdb5fs.kek.jp/tiff/2012/1227/1227044.pdf

(平山英夫 他,KEK Preprint 2012-44,January 2013)

(掲載誌:平山英夫 ほか "放射線防護に用いられる線量概念" 日本原子力学会誌, 55, pp.83-96, 2013 )

この文書で紹介したシミュレーション等はほぼこの論文に記載された内容です.線量概念の説明もわかりやすく書かれています.

2) “東京電力㈱福島第一原子力発電所事故に係る個人線量の特性に関する調査”

https://www.nirs.qst.go.jp/information/news/2014/0418.html

本文(PDF) https://www.nirs.qst.go.jp/information/news/2014/04_18/houkokusho.pdf
                

参考文献1) に示す内容,放射性物質が地面にある実環境において,個人線量計の値とサーベイメータの示す値の関係を実測により確かめたもの

3) “「東京電力㈱福島第一原子力発電所事故に係る個人線量の特性に関する調査」の追加調査-児童に対する個人線量の推計手法等に関する検討-

https://www.nirs.qst.go.jp/information/news/2015/0316.html

本文(PDF) https://www.nirs.qst.go.jp/information/news/2015/03_16/houkokusho5.pdf

児童等,成人と体格が異なる場合に個人線量計が示す値がどの様になるか実測により確かめたもの.

4) “やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識”

(田崎晴明 著,朝日出版社)

        http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/radbookbasic/printversion.html

        

同内容が以下よりダウンロードできます.

http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/radbookbasic/

全ての人にお勧めの必携の一冊.

本文中で参照.

付録B.2に実効線量の求め方について丁寧な説明があります.

5) "今こそ復習!” 主任者の基礎知識 第11回 様々な線量

(PDF) http://www.jrias.or.jp/books/pdf/201304_SYUNINSYA_SUDO.pdf

(壽藤紀道,Isotope News 2013年4月号)

校正場と条件が異なる環境での個人線量計,サーベイメータのレスポンスについて検討しています.

6) JIS Z4511:2005

「照射線量測定器,空気カーマ測定器,空気吸収線量測定器及び線量当量測定器の校正方法」

校正方法の規定の他,空気カーマから,個人線量当量および周辺線量当量への換算係数も採録されています.

JIS規格については日本工業標準調査会の“JIS検索”
http://www.jisc.go.jp/app/JPS/JPSO0020.html

にて規格番号(”Z 4511”等)を検索ウィンドウに入力すると閲覧できます.

7) JIS Z 4333:2006

「X線及びγ線用線量当量率サーベイメータ」

空間線量計(サーベイメータ)に関する規格

8) JIS Z 4332:2002

「X線及びγ線用個人線量計通則」

個人線量計に関する規格

9) ガラスバッジによる個人の線量測定

http://togetter.com/li/778890

ガラスバッジの特性,測定値について計測の観点から検討したもの.コントロールバッジによるバックグラウンドの設定方法についてメーカーに確認した結果も記載

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(主な変更履歴)

2013/11/28 暫定版(実質的な初版)
https://docs.google.com/document/d/1EhVFXNbBiBpJPW4Nx_2CBu4SNcWgGU9-w-h4N6oC6Ug/edit?usp=sharing

2016/01/18 放医研・JAEAによる実測調査結果を参照して追記

https://docs.google.com/document/d/1l78jmRXQ5-cY_SSJiNneVwcurVPV2J38uyjkAOmnkgQ/edit?usp=sharing

2016/01/27 個人線量の定義,および関連の説明を修正

                     FAQにQ.3, A.3 を追加

2018/10/18 参考文献1) 2) のページ廃止,移動に伴うリンク切れを修正
https://docs.google.com/document/d/1IG4pK_1oS9SaMfvx79w3n2zcq-HazV1x62BVFoVkjHE/edit?usp=sharing

2019/02/21 航空機モニタリングに関する注意を追記,情報源ページ移転に対応した一部リンクの修正


[1] 放射線防護に用いられる線量概念

  (PDF) http://web.archive.org/web/20140430230510/http://ccdb5fs.kek.jp/tiff/2012/1227/1227044.pdf

[2] (PDF) https://www.nirs.qst.go.jp/information/news/2014/04_18/houkokusho.pdf

[3] (PDF) https://www.nirs.qst.go.jp/information/news/2015/03_16/houkokusho5.pdf

[4] 宮崎・早野第1論文 係数0.15のからくりhttps://docs.google.com/document/d/1RwKdz0XcOKXtUJw8KooYfJH_2lEI5X6lThiB02OGhr0