放射能汚染の危険性(メモ)

2011年5月17日

東京大学物性研究所

押川正毅

Twitter: http://twitter.com/#!/MasakiOshikawa

この文書の短縮URL:  http://bit.ly/kkLXul

私の住む柏周辺の放射能高汚染地域(茨城県阿見町〜東京都葛飾区金町間を含むベルト状の地域)が注目されています。 http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-385.html

http://www.nnistar.com/gmap/fukushima.html

もちろん、福島県の一部ではさらに非常に高い汚染が文科省公表資料でも明らかになっています。  

http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/__icsFiles/afieldfile/2011/05/06/1304694_0506.pdf

このメモでは、じゃあ、その放射能汚染がどの程度問題なの?という疑問について検討します。その過程で、よくなされる被曝線量によるリスクの判断に潜んでいる(かもしれない)問題点についても指摘します。たとえば、空気中線量が 0.5 μSv/h の場合、仮に一年間その値が継続しても被曝線量は 4.4 mSv です。「世界には自然放射線でそれくらいになる場所はあって、特に健康被害は認められていない。だから、0.5 μSv/h の場所で心配するのは馬鹿げている。」と言うような議論を良く聞きます。しかし、そのような判断は単純に過ぎる可能性があります。

データが十分でないことと、まだ考察が不十分でこれは暫定的なメモであることをご了承ください。誤りもあるかと思いますので、お気づきの際はご指摘頂けると助かります。また、言うまでもなく私個人の考察結果であり、所属機関や所属学会の公式見解とは全く関係ありません。

以下でも一部触れているように、研究によってそこから示唆されるリスクが異なり、リスクについての正確な理解は得られていないのが現状でしょう。「科学的に確立されたリスク」はあまり大きくないかもしれませんが、実際のリスクはもっと大きい可能性があり、個々の判断や政策的な判断にもそのことを考慮する必要があるものと考えます。

原発事故の危険性についての一般的な議論は、別文書 http://bit.ly/hPeUyF にまとめています(最新の情報を反映できていませんが)。

1. 現状

5月上旬の時点で、原発事故はまだ収束しておらず放射能の放出も続いているようですが、3月中に比べるとかなり少なくなっているようです。(今後については必ずしも予断を許しませんが。)特に、柏周辺の汚染は、主に3/21〜3/22の降雨の際に起きたものと考えられます。それから1.5ヶ月経過しましたので、I-131(半減期8日)等の短寿命の核種はかなり減少したはずで、現在観測される線量は Cs-134(半減期2年), Cs-137(半減期30年)等の長寿命の核種による汚染から来ているものと考えられます。実際、柏周辺で計測される放射線量はかなり安定しており、なかなか減少しなくなっています。

具体的な線量は計測場所によりますが、典型的な例として、地上1mの計測で  0.35 μSv/h としましょう。問題になるのは、事故前の通常時の線量ですが、これは柏周辺での事故以前の測定がないことからよくわかりません。しかし、関東地方では通常 0.05 μSv/h 程度のようで、柏周辺で特に高くなる理由は見当たりません。ここでは、簡単のため通常時の線量を 0.05 μSv/h とします。

すると、

                      0.35 μSv/h - 0.05 μSv/h = 0.30 μSv/h

が、放射能汚染によって生じている分の線量ということになります。これをとりあえず柏のモデルとしましょう。私は柏に住んでいるので柏が念頭にありますが、他の地域では状況にあわせて数値を入れ替えてください。もちろん、柏市内でも場所によって違います。ともかく、このようなデータを元に、どの程度の健康被害があるか?を議論するのがこのメモの目的です。

2. 外部被曝量

Cs-134は2年で半減しますし、放射能が外部に流出する分もあるでしょうが、簡単のため1年間状況が全く変化しないとします。このとき、この場所に1年間いると受ける(放射能汚染による)線量は単純計算で

                0.30 μSv/h * 24h/day * 365 day/year = 2.6 mSv/年

です。これだとICRPガイドライン(通常時)の一般公衆の被曝限度 1 mSv/年 を超えてしまいます。が、これだけならそれほど深刻ではないとも言えるでしょう。

また、上記の計算では遮蔽効果のある屋内で生活する時間などを考えていませんので、実際の被爆量はもっと少なくなるでしょう。

3. 安心していいのか?

上のような計算だと大したことなさそうです。実際、2.6 mSv/年は日本の自然放射線の水準よりは高いものの、世界にはこれ以上のところは結構あります。しかし、それで安心して良いとも限りません。

標準的な理解では、発がんリスクは被曝線量に比例することになっていますが、100mSv未満のいわゆる低線量被曝に関しては見解がわかれているのが現状です。ある閾値以下ではリスクは無いとの主張もあれば、比例関係を仮定するよりも実際のリスクは高いと言う主張もあります。

さらに、健康に対するリスクは単純な被曝量の見積だけでは済まない可能性もあります。実際に汚染された環境で生活していると、砂ぼこりなどに含まれる放射性物質を吸い込んだり、放射能を持つ食品を食べてしまったりします。このように放射能を体内に取り込むと、体の内部で放射線を受けて被爆する「内部被曝」が起きます。原発の周辺地域を除いて、この内部被曝の方が大きな危険であると考えられます。ICRPなどのリスク評価では、この内部被曝についても被曝線量を推定してそれに基づいて行うことになっています。

しかし、このような評価には批判もあります。内部被曝であっても放射線は放射線なのですが、体内に取り込まれた場合、核種によっては例えば体内の特定の場所に固定されてしまうことも起こりえます。この場合、周囲の細胞は強いダメージを受けるので修復が間に合わない、といったことも考えられます。実際、たとえば、ヨウ素131は甲状腺に特に強いダメージを与え、甲状腺がんの原因になる、と言うことはよく知られています。甲状腺がんについては、それが元々非常に稀な病気であったこと、ヨウ素が集中する甲状腺でがんが発生する、等の理由で因果関係を明確にすることができました。しかし、他にも未知のメカニズムがいくつもある可能性もあります。原発事故で放出される人工的な放射性核種は、長い進化の歴史で生物が経験してこなかったものであり、生体が防御するメカニズムが十分でないことは十分にあり得ることです。様々な放射性核種を体内に取り込んだ場合の挙動や生体への影響がミクロなレベルで十分に理解されていない以上、ICRP的な評価では内部被曝によるリスクを十分に捉えていない可能性があります。

いずれにせよ、内部被曝のメカニズムやその危険性は十分理解されていないと言って良いでしょう。十分理解されていない一方で、内部被曝の危険性がICRP的な評価よりも高いことを懸念する立場もあります。これは、多くの研究でICRP的なリスク評価が不十分であることが示唆されているからです。(反対の立場の研究者もいます。)

(ICRP的な内部被曝のリスク評価や、その問題点については http://bit.ly/hPeUyF でその一部を紹介しています。)

4. 原発事故後の汚染と発がん率の相関

科学の基本は実験・観測事実です。特にメカニズムが良くわかっていない場合は、確立されていない理論に頼るよりも、実際のデータに頼るのが王道でしょう。チェルノブイリ原発事故は、当時のソ連に限らずヨーロッパの広い範囲に放射性物質を撒き散らしました。スウェーデンも汚染されました。Martin Tondel氏らは、この影響を明らかにするため、スウェーデンで地域ごとの発がん率を調べ、それが各地域の汚染状況と関係するかどうかを調べました。このような研究では、どのようなメカニズムで被害が生じるのかはわかりません。しかし、逆に言えば内部被曝も含めあらゆるメカニズムによって放射能汚染が引き起こす被害を推定できる可能性があることになります。いくつかの論文がありますが、ここでは以下の論文の結果について紹介します。

Increase of regional total cancer incidence in north Sweden due to the Chernobyl accident?

Martin Tondel, Peter Hjalmarsson, Lennart Hardell, Goran Carlsson, Olav Axelson

J Epidemiol Community Health 2004;58:1011–1016.

主要な結果の表を引用します。

この表の各行は、汚染度(Cs-137の密度)別に、がん発生率の相対比を示したものです。汚染が最も低い(3 kBq/m2未満)地域での発生率を1としています。いろいろな列があるのは、年齢その他汚染度以外にがん発生に関係しそうな要因のいくつかについて補正した結果をそれぞれ示しているからです。一番右の列が、Tondel氏らのできる範囲で全ての要因について補正したものです。仮に汚染と発がん率の間に比例関係があるとすると、このデータから読み取れるのは、

Cs-137の汚染 100 kBq/m2 あたり、がん発生のリスクは相対的に11%上昇する

ということです。(ここでは一番右の列についての結果を論じますが、どのような要因について補正したかに結果は基本的によらず、発がん率と汚染の相関が示されていることも重要です。)

※ なお、この結果が本当だとしても、Cs-137がリスクの主因であるとは言えません。(そういう可能性ももちろんありますが。)単に、この研究ではCs-137は汚染度の指標として用いているということです。たとえば、より微量の放射性核種が主因で、その量がCs-137の汚染度と相関があるため、と言う可能性もあります。

ただし、この研究には(統計に基づく研究に常につきまとう)統計的な誤差や不確定性があることには注意が必要です。100 kBq/m2の汚染について、相対的リスクの向上は統計学的には95%の確率で 3%〜20%の間に入るとのことです。3%と20%では大違いで、11%と言う数値は精度のあるものではありません。しかし、彼らの研究からは、相関があると言うことはかなり確からしく見えます。

もちろんこれは論文だけで「チェルノブイリ事故で放出された放射性物質による汚染のためにスウェーデンでがんが増加した」と断定できるわけではありません。この論文の結果は偶然かもしれませんし、何かの間違いである可能性もあります。しかし、一つの有力な状況証拠だと言えます。

Tondel氏らの結果が本当だとしても、どのようなメカニズムでこのような結果が生じたかはわかりません。個人的には内部被曝の影響と考えるのが自然に思えますが、低線量の被曝に予想以上のリスクがあると言うことかもしれません。いずれにせよ、この結果が本当であれば、ICRP的なリスクの見積は過小であるということになります。そして、ICRP的なリスクの見積が正しいと言う強い証拠もないのです。(あくまでも、一種の理論。)

と、ここまで書いたところで、京都大学の今中さんによるTondel論文の日本語解説があることを知りました( @jun_makino さんの tweet より)

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No104/CNIC0602.pdf

※ 上記論文に続き、2006年  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16421911

と 2011年(!) http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21112071

に同氏らの論文があります。(Twiter: @makotokondoh さんよりご指摘。有難うございます。)

2006年論文では、上記2004年論文と異なる調査方法によってやはりCs-137による汚染度と発ガン率の相関を調べています。事故からの年数が経過すると相関は若干低下するものの2004年論文と同様の相関が見られています。

2011年の論文は2004年・2006年論文の調査とは全く異なり、同じスウェーデンを対象にしていますが、チェルノブイリ事故の影響の調査ではなく、むしろ自然放射線による低線量被曝の影響の調査のようです。この論文で調べている地表からの放射線強度と発ガン率の相関については、はっきりした傾向は見られないようです。ただし、さきほど述べたように調べているものが違いますので、2004・2006年論文の結果と矛盾するものではありません。(2004/2006年論文のチェルノブイリ事故の影響が、単純に事故に起因する低線量被曝だとすると2011年論文の理解が難しくなりますが、他の考え方もあるでしょう。私としては、素人考えですがチェルノブイリ事故による汚染の被害の主因は内部被曝ではないかと考えています。この説にとっては、自然放射線の強さと発がん率の相関が見られないのはむしろ自然です。このあたりは、また補足させて頂きたいと思います。)

いずれにせよ、現状では2004年論文の結論が否定されたとも確立されたとも言えないところです。リスクが実際にどの程度あるかは非常に難しい問題ですが、以下はとりあえず、上記の2004年論文に基づく試算です。

5. Cs-137 汚染密度は?

Tondel氏らの研究結果から(例えば)柏での健康被害を見積もることにします。すると、Cs-137による汚染密度が必要です。しかし、残念ながら私の知る限り土壌汚染の詳しいデータは非常に限られた地点でしか公表されていません。大きな要因は、このようなデータを得るには線量の測定よりも高価で台数の少ない機器が必要だからでしょう。しかし、重要なデータですので、なるべく多くの地点での分析を早急にすすめるべきと考えます。

いずれにせよ、現状でデータが無いのはしかたないので、手元にある線量のデータから推定することにします。まず、現在の汚染は主に Cs-134と Cs-137によるものとし、他の核種は無視することにします。(この正当性は良くわかりませんが。)

地面の上に一様に汚染が拡がっている場合、1 Bq/m2 の放射能が高さ1mで測定した空気中線量にどの程度寄与するか、が核種ごとに推定されています。正確には想定する条件によるようですが、ここではIAEAの資料 http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/te_1162_prn.pdf

に基づいて考えます。

Table E3 の Conversion factor CF3  Ambient dose rate from deposition [ (mSv/h)/(kBq/m2) ]

がここで必要な係数です。

Cs-134: 5.4E-06  (mSv/h)/(kBq/m2)  = 5.4×10-6 (μSv/h)/(Bq/m2)

Cs-137+Ba-137m: 2.1E-06  (mSv/h)/(kBq/m2)  = 2.1×10-6  (μSv/h)/(Bq/m2)

(Ba-137mは Cs-137のベータ崩壊によって生じる不安定原子核です。ここでの議論上は、中間段階で生じるBa-137mのことは忘れてCs-137から出る放射線強度を扱っていると考えて差し支えありません。)

今回の事故で放出された Cs-134とCs-137の比率は、ベクレル数にしてほぼ 1:1 程度のようです。(例えば飯舘村の測定データ: http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No110/Iitate-interim-report110404.pdf  )

1.節で議論したように「汚染に起因する空気中線量」を0.3μSv/h と仮定し、Cs-134とCs-137の汚染密度が等しいとすれば、それぞれの汚染密度は

   ( 0.3 μSv/h ) /  [ (5.4+2.1) ×10-6 (μSv/h)/(Bq/m2) ] = 4.0 × 104 Bq/m2

つまり 1平方メートルあたり 4万ベクレル ということになります。

[余談]

4.0 × 104 Bq/m2 は 4.0 Bq/cm2 と等しいですから、2核種の合計で 8.0 Bq/cm2 ということになり、4 Bq/cm2 以上という放射線管理区域の条件に余裕で該当してしまいます。つまり、空気中線量では条件を満たさなくとも、汚染密度によって放射線管理区域になってしまうのです。柏ですらそうなので、福島県のかなり広い地域も該当します。ちなみに以前の事故の際は施設外で汚染が広がったため条件を満たしたところはちゃんと「一時管理区域」を設定していたんですね。 平成9年3月11日に発生した動力炉・核燃料開発事業団「アスファルト固化処理施設事故」(INESレベル3と評価)の報告より:

「3月12日にアスファルト固化処理施設周辺の汚染状況を調査したところ、一部にβγ線による表面密度4Bq/cm2を超える汚染が認められたため施設周辺(約10000m2)を一時管理区域に設定するとともに放射線モニタリングを開始した。」

http://www.jaea.go.jp/jnc/pnc-news/npuresa/P9704/PE97041003.01.html

今回は何かそんな規定はなかったようになってしまっていますが、小さな事故の際には法律や規定を遵守、事故が大きくなると無かった事にする、のでは規定の意味がありません。

さて、上記の推定の結果、Cs-137のみの汚染密度で 4.0 × 104 Bq/m2  = 40 kBq/m2 ということになりました。これをスウェーデンでのTondel氏らの研究結果にあてはめてみましょう。(なお、ここでCs-137のみを考えるのは、あくまでTondel氏らの研究がCs-137の汚染密度に基づいて行われているからです。Cs-134や他の核種が無害だと言う意味ではありません。)スウェーデンの分類では、最大でも 120 kBq/m2 だったので中程度の汚染ということになります。Tondel氏らの結果をそのまま適用し、汚染密度と発がん率の間に比例関係が成り立つとすれば、ここで仮定している「柏モデル」では

      汚染のない地域に比べて発がんリスクが相対的に約 4.4% 上昇する

ということになります。ただし、95%信頼区間を適用すれば、1.2%〜8.0%の間と言うことになります。また、上記の数字は人口全体についての評価なので、子供についてはリスクはもっと高い(高齢者については低い)[追伸:かと思ったのですが、この件に関してはそうとも限らないかもしれません]でしょう。この結果の受け取り方は人それぞれでしょうが、私としては意外と大きくショックを受けました。

6. その推定は正しいか?

先に議論したように、Tondel氏らの研究結果にも統計的誤差・不確定性があります。また、Tondel氏らの研究が正しいとしても、福島原発事故では状況が違っている可能性もあります。(たとえば、Cs-137を基準に土壌汚染を考えていますが、放射性核種の構成比が異なっていてCs-137について同じ汚染度でも実際の被害は異なる、という可能性もあります。)

これらの不確定性以外に、上記の議論で問題になるのは Cs-137の汚染密度の推定です。(これについては、ちゃんと大規模な汚染調査をすれば良いのですが、今のところないので。空気中線量についてはガイガーカウンター等による有志の報告が増えていますが、土壌汚染についてはまだ報告は非常に少ないです。)考えられる誤差の要因をいくつかあげておきましょう。

・I-131, Cs-134, Cs-137以外の核種の存在: これを取り入れると、Cs-137の汚染密度の推定値は上記より小さくなります。ただ、他の核種が放射性Csに匹敵する量存在し、推定に有意に効いてくるという根拠は今のところ見つけられていません。(もし効いてくるなら、食品等の安全基準にもその核種を含めるべきかもしれません。なお、プルトニウム等のα核種は空気中線量にほとんど影響を与えないので、存在してもここでのCs-137の汚染密度の推定には影響しません。もちろん、もし存在すれば、健康被害と言う面では重要です。)

・地面の状態 上記の計算は、アスファルトやコンクリートの場合に適用できるようです。

牧野淳一郎さん  http://jun-makino.sakura.ne.jp/Journal/journal-2011-04.html#29 によると、ICRPでは上記IAEAの1/2程度の換算係数を使っているとのこと。「ICRP の資料は On soil to planar source at depth 0.5g/cm^2 とあるように表面でなくて土にある程度しみこんだものを考えているからと思われる。IAEA は理想的な平面。」(私自身は原資料をまだ確認していません。)土に染み込んでいる場合、土の遮蔽の効果により同じ量の放射性物質による汚染でも空気中線量は小さくなるということです。私の(あまり系統的ではない)測定では、コンクリート地面でも、公園等の土の地面でも線量は大雑把には同じくらい、あるいは若干土の地面の方が高い傾向が見られました。これと上記の話を合わせると、土の地面の方が汚染密度が2倍以上高いことになります。これはむしろ自然で、雨とともに降下した放射性物質は、アスファルトやコンクリートの場合かなり流れて行ってしまいそうですが、土の場合は良く吸収することが考えられます。

と言うことは、土の地面を仮定すると、汚染密度は上記の2倍以上。その他いろいろな不確定性も考えて悪いケースも想定するならば、2.5倍程度の 100kBq/m2 のCs-137汚染も考えるべきかもしれません。その場合は、スウェーデンの分類では最高レベルの汚染になり、発がん率の向上も 11%以上ということになります。

7. とても参考になるデータ

非常に参考になるデータとして、日本分析センターが所在地の千葉市稲毛区での測定データを公開しています。(なお、このデータの存在に付いてはMHさん、Twitter: @wiredgallileo さんに教えて頂きました。ありがとうございます。)

http://www.jcac.or.jp/senryoritu_kekka.html

そこでは、空気中線量は現在 0.13 μSv/h 程度。仮に通常時の線量を 0.05μSv/hと仮定すれば、汚染による線量は 0.08 μSv/h。上記の議論を適用すると、Cs-137の汚染密度は 約 9 kBq/m2 となります。また、土に染み込んでいる場合は、その2倍の 18 kBq/m2 程度も予想されます。

これだけだと先ほどと同じで単なる推定ですが、日本分析センターは土壌中の汚染(蓄積量)も測定して公表してくれています。

たとえば「腐葉土」のデータを見ると、確かにCs-137の汚染密度が 10〜20 kBq/m2 程度で、上記の簡略な推定とほぼ一致しています。また、Cs-134とCs-137の汚染密度がほぼ等しいことも、上で行った仮定を支持しています。「芝生の下の土」については、注釈にあるように芝生に蓄積している分が多いと考えられ、ここでは無視します。(グラフもここでは省略します。)

上のデータと、柏周辺の線量の高さを考えると、柏周辺で 40 〜 100 (?) kBq/m2 と言う先程の推定もそれほど悪くなさそうです。

不思議なのが3番目の「小石混じりの土」のデータです。Cs-137の汚染密度が(対数グラフなのでわかりにくいですが)10kBq/m2を大きく超えています。こちらをベースにして柏の汚染の推定をすると、さきほどの推定よりも大きなものになるかもしれません。

日本分析センターでは、降下物中の放射性物質の測定もしていますが、この蓄積量はその累計も大きく上回ります。どう理解するべきか良くわかりませんが、一つの可能性として、他の場所に降った雨水がここに流れ込んでいたようなこともあり得るかと思います。いずれにせよ、近い場所でもこれだけ汚染状況が違うと言うことは念頭に置いておくべきでしょう。

7. 他の地域では?

さきほどは柏(のモデル)について考えましたが、他の地域についてもTondel氏らの結果を適用することができます。これは簡単な計算ですが、以下に例をあげます。

(以下ではTondel論文の不確定性は考慮せず、100 kBq/m2で 11% を仮定します。)

千葉市稲毛区のモデル   空気中線量: 0.13 μSv/h  自然バックグラウンド: 0.05 μSv/h

                                          差分(事故の汚染による放射線):  0.08 μSv/h    

                                          Cs-137 汚染密度推定値: 9 〜 22.5 kBq/m2

                                          Tondel論文から推計した発がんリスクの相対的向上: 1〜2.5 %

郡山市あたりのモデル   空気中線量: 1.25 μSv/h  自然バックグラウンド: 0.05 μSv/h

                                          差分(事故の汚染による放射線):  1.2 μSv/h    

                                          Cs-137 汚染密度推定値: 160 〜 400 kBq/m2

                                          Tondel論文から推計した発がんリスクの相対的向上: 18 〜 44 %

文科省によると子供にとっても安全(空気中線量 < 3.8 μSv/h)らしい福島県の一部のモデル

             空気中線量: 3.65 μSv/h  自然バックグラウンド: 0.05 μSv/h

                                          差分(事故の汚染による放射線):  3.6 μSv/h    

                                          Cs-137 汚染密度推定値: 480 〜 1200 kBq/m2

                                          Tondel論文から推計した発がんリスクの相対的向上: 53 〜 132 %

なお、上記の幅は、何らかの信頼区間と言う意味では全くなく、柏モデルで議論したのと同様、地面の状態や局所的な変化も考えて土壌汚染を素朴な見積の 2.5倍まで見積もったものです。Tondel論文が正しいとしても、汚染度が高すぎる場合には直線的な関係は崩れているでしょうから、あくまで参考程度です。しかし、各地でかなりリスクが高まることは懸念されます。