修士論文提出前の原稿チェックリスト内容編
論文を提出する前に内容について3つのレベルで原稿チェックすることをおすすめします。印刷してチェックして推敲するというサイクルを、ミクロ・メゾ・マクロという三つの次元について合計3回やるのがおすすめです。(書式や参考文献についても抜け漏れがないか別途チェックする必要があります)
画面上だと間違いを見つけにくいし、キーワードを並べて俯瞰しづらいなどの限界があります。よって原稿は印刷することを強くお勧めします。プリンターがない場合は大学かコンビニのプリンターを利用するのがおすすめです。「コンビニ ネットプリント ファミマ」「コンビニ ネットプリント ローソン」などでネット検索するとやり方が調べられます。
ミクロ・レベルのチェック
ミクロ・レベルの原稿チェックは単語と文に焦点をあててチェックする。
1.1 単語
- できる限り辞書に準じた用語を使う。
- 辞書どおりの意味では使わない、あるいは、一般的に広く受け入れられている定義が存在しない概念や用語については、必ず初出時に定義あるいは説明をしている。
- 経営学専攻の学部4 年生が常識として知らないような言葉ならば必ず初出時に用語の説明をいれている。
- 一般的に使われている言葉を特別な意味で使っていない。どうしても避けられない場合は定義する。
- 略語は初回使用時に必ずフルスペルを示したのちに使用している。
- 造語は自論にとって不可欠でない限り使わない。使うときには必ず定義してから使用する。
- 過剰な形容詞や修飾語を用いていない。たとえば、「史上空前の…」「とても…」「非常に…」などはどうしても必要な時以外は使わない。
1.2 文
単語を文法にしたがって並べたものが文である。できるかぎりわかりやすい文を用いるようにする。
チェックリスト
- 主語と目的語を省略していない。
- 主語と述語が対応している。
- わかりづらい複文になっていない。主語と述語が1 組ずつあるのが単文。文中に主語と述語が二組以上あるのが複文。複文は意味が曖昧になりやすいのでできる限り単文にする。
- 断言を避ける目的で「~的、~風、~性、~調」を不用意に使っていない。
- 修飾語、形容詞、副詞の修飾先がはっきりしている。つまり、ある文が複数の意味に解釈されない。
- こそあど言葉(これ、それ、あれ、どれ)を使いすぎていない。
- 対応する日本語が存在する限り、カタカナ表現を使っていない。
- 意味の曖昧な複合熟語は使っていない(Google で検索し、1,000 件以下ならば別の表現を考える)。
- 体言止めを使っていない。
- 同じ接続詞(そして、つまり等)をすぐ次の文で使っていない。
メゾ・レベルのチェック
メゾ・レベルのチェックでは、文章に焦点をあてて推敲する。特に段落ごとの構成と論理性に着目する。文を意味のまとまりごとにまとめたのが文章である。事実と事実の解釈、自分の主張や仮説をごちゃまぜにしないようにする。
チェックリスト
- どれが事実で、どれが自分の主張で、どれが推測なのかを読者が理解しやすいようにしてある。
- 自分の主張と他人の主張(先行研究)を明確に区別し、他人の主張については注があり検証可能になっている。
- 先行研究を紹介するときに単なる列挙になっていない。「XXXによると」「YYYYによると」「ZZZZによると」と同じフレーズを繰り返して先行研究を列挙している場合は、ただの紹介になっており、書き手による評価が抜けている可能性が高い。
- 文章において時制が統一されている。突然、過去時制で自分の行ったことを説明しているときに、突然、現在時制になったり、未来時制になって「~するつもりである」と今後の予定を語りだしたりしない。
- 一つのパラグラフ(段落)は一つのトピック(話題や主張)でなりたっている。複数の主張が入っている場合は二つ以上のパラグラフに分ける。
- パラグラフ内部において視点が統一されている。ある文では消費者目線で述べているのに、次の文は前触れもなく政府目線になり、さらに次の文でまた消費者目線に戻るということが発生していない。
- 各パラグラフの最初と最後の一文をハイライトして、そこだけを通して読めば大体の論旨が伝わる。(マクロ・レベルのチェックへのつなぎ)
マクロ・レベルのチェック
マクロ・レベルのチェックでは、論文全体の一貫した流れ(global flow)が読者に確実に伝わることをチェックする。
チェックリスト
- タイトル、序章で提示した主張が、結論で示した到達点と対応している。
- 序章の最後の数段落に含まれるキーワードをハイライトする。同じく全ての章の最初と最後のセクションに出てくるキーワードをハイライトし、全てのキーワードが一貫していることを確認する。本論となるチャプター(例えば第4章)の結論部分に出てくるキーワードが序論に一度も出てこないような場合には、序論を推敲してそのキーワードが4章で重要になることがあらかじめ読者に伝わるように工夫する。
- 修論全体の論理構成(global flow)について、序章の最後に手短な記述をしている。
- その論理構成が、読者にとって容易に理解可能な論理的もしくは物語的統一性を有している。例えば「本論では山頂から議論をはじめ、次に森林部について再検討し、その下に広がる平野を概観し、最後に川が注ぎ込む大海原について分析を行う」とか「砂糖の生産者について分析し、次に最も重要だった都市部消費者の消費行動について検討し、最後に両者の関係を媒介した行政諸機関の役割について分析する」というような例があげられる。
- 章と章のつなぎ目(すなわちある章の最後の段落と次章の初めの段落)を読むと論文全体のglobal flowについて読者の理解が深まる。各章のイントロを読み始めるとき、読者は次のような疑問を感じる。「山頂についての分析を読んだ後、なぜ次に森林部についての議論を読むことになるのか?」「生産者について分析を読んだ後で、なぜ次に都市部消費者の消費行動を再検討について読む必要があるのか?」序章の最後に提示した「論理的もしくは物語的統一性」をうまく援用しながら、こうした読者の疑問(Why this topic?)に応えるような形で新たな章をスタートできると読者は全体の統一感を感じることができます。