ユーモアクラブより転載。

北広次郎エッセイ集 ミスターヨーロッパだより

第4号 国内外裁判について  (その二)

 一方私は日本の特に重要なる犯罪にかかわる刑法に「時効」が有るのは全く理解できないのである。「真実は一つなり」と言うことと、時効は矛盾すると考えている。時効とは「真実は一つなり」の追求の「中途放棄」であり「諦念放棄」に過ぎない。重大犯罪事件について迷宮事件に時効という誤った便法で終止符をつけてしまう制度はこれこそ矛盾した刑法思想である。

 時効という制度は時にして、時効が来るまでうまく逃げ延びれば勝ちだという、ブラックジョーク的な悪しき思想に繋がるのである。食に関する偽装ケースが30年も続いていた日本列島国。罰則のない法律法令というのは全く意味がないことを知りつつ、繰り返し勧告注意で済ましても見くびられ軽視されてきた日本列島国は正にブラックジョークの国である。

 最近中国食品の禁止農薬汚染問題が発生して日本国内でも騒然としているが、皮肉な事に中国の食の安全問題と日本の食の偽装問題は正に同根。同時多発的でありこれこそ国の最大のブラックジョークであるとしか言いようがない。

 私は重要なる凶悪犯罪事件に関しては、日本国は「時効」を廃止すべきであると以前から強く考えている。明治維新以後の翻訳六法の中でも政治・経済・保険・海軍に関しては大部分英国法を模範にしたが、刑法と民法は主要部分的にドイツ法を採用した。それにより明治維新以後の日本国は英米法の属地主義(出生地主義・発生地主義)を採らず、独法の属人主義(血統主義)を採用した。しかし、第二次大戦以後ドイツもEU同盟合州国法に変貌した。したがって三浦和義容疑者の場合には、属地(発生地)主義としての米国ロスで起きた事件の捜査をロス警察で続行するのは理にかなっている。沖縄で発生した米軍兵士の少女暴行事件を日本の警察と裁判所が裁くのは当然と言う理屈と同じである。

 ブラジルの場合はこれとは異なる。日本とブラジルの間では犯人引渡条約がない。これは日本ばかりでなく、世界の他国に対しても同じで、ブラジルは特殊な憲法をもっているからで異例中の異例である。映画にもなった英国での運搬中の大金を強奪した列車強盗事件の犯人の一人がブラジルに逃げた時も、一応形式上妻と離婚していたが、犯人の少年の息子は国際電話をしょっちゅう架けてきていたが、スコットランドヤードは、犯人引渡条約締結が無いため逮捕できず、ブラジル政府からは引き渡しを断られた。もう一人別な犯人はオーストラリヤに逃げていたが、交通違反をして運転免許証から身元がばれて犯人引渡条約国同士なので英国に引き渡されたのである。このブラジルのケースも変形ブラックジョークだが、これにはオチがあり、捕まってもいいから老後は英国で過ごしたいと自ら英国に帰国を申し出たのである。この現金運搬列車強盗事件においては、誰一人暴行殺害を受けた被害者が居なかった。

 サイパンからロスへの移送を要求されたのに対し「2003年に日本で無罪が確定したのに」と異議を唱えている当時の日本側弁護士は、日本国内しか見えてない。国際的感覚視野が欠乏していると言う印象しか湧いてこない。考え方によっては、当時の弁護の仕方の誤りをつつかれるのを恐れてか、面子の問題か或いはマスコミ利用の売名行為かとも見えるような雰囲気としか思えない。日本の法律適用解釈が、世界の法律適用解釈と同じとか、或いは優位にあると考えているとしたら、それは大いなる過剰認識・過剰意識でしかないといえる。日本の法律は万国共通で国外にも通用すると思う法律家が居たらそれは大いなる錯覚でしかない。例えば日本の医師免許や弁護士資格があったら、そのまま欧米で自由に開業できるかというとそれは出来ない。現地の資格免許を取り直さないと、法制の整っていない発展途上国は別として、欧米先進国では、改めて現地国での資格免許を取らないことには開業できないのである。日本の法律を盾にとって、外国の法律も同じであるはずと考えるのは到底無理である。

 かって赤軍派が起こしたハイジャック事件でも、日本国は超法規事項として扱うしかなかった。超法規とは超放棄と同類項語である。  (この項 続く)