難聴児、早期発見・早期療育への基本方針(案)に対するパブリックコメント

一般公開

ろう児・難聴児を手話で育てたい親の会

初めに

ここではろう児・難聴児を手話で育てたい親の会から「難聴児の早期発見・早期療法のための基本方針(案)」に提出する意見を参考資料として公開するものです。杉山さんの意見と同様、方針案に書かれている言葉を私たちが望む形に変更してもらうことを第一の目標とします。そのために「該当箇所」[1]を指摘し、その次に「意見」[2]が続き、「その意見の元となるソース」[3]が最後に続きます。

パブリックコメントを出す方へ

意見の書き方は自由です。複数提出もOK。ここで書かれている意見を参考に書いても構いませんし、自分が思うことを一言書くだけでも構いません。締め切りは令和4年1月9日となっており、それまでに幅広い意見を出すことが本当に重要です。

1)検討会の発表者について~手話話者当事者の少なさ

該当箇所:難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針作成に関する検討会 ヒアリング全3回

意見:

 本方針の作成のために開催された「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針作成に関する検討会」の発表者名簿を参照しますと、手話話者の聴覚障害当事者は全日本ろう連盟の石橋大吾氏の1名です。聴覚障害当事者ではありませんが、日本手話と日本語のバイリンガル教育を推進する明晴学園の玉田先生を含めますと合計2名になります。(検討会での発表者の人数は第1回:3名、第2回:8名、第3回:3名 合計14名のうち手話話者かつ聴覚障害当事者は1名のみ)検討会の発表を拝見しますと、音声・聴覚活用の内容が多く、手話で生きる聴覚障害者当事者、手話で子育てをしている親御さんたちの意見が十分に反映されているか、手話教育について十分な議論がなされたか非常に懸念しております。今年度末までに予算措置を決定すると伺っておりますが、当事者の意見を反映しているとはいえず、多くの難聴児の今後に関わることなので、来年度予算を計上した後も、この基本方針について改めて議論を行う必要があると考えます。

その意見の元となるソース: 難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針作成に関する検討会 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17475.html

2)「難聴児」と呼び方を固定するのに反対します

該当箇所:1ページ目のタイトル「難聴児」また全体の文に使われている「難聴児」

意見:英語では、教育学ではDeaf and Hard of Hearing(DHH:ろう・難聴)、医学的にはHearing loss(失聴)をよく使うようですが、本方針、また検討会は「ろう」を除き、「難聴児」という用語を選択しています。国内でも、「ろう教育科学会」や「全日本聾教育研究会」などの団体があるにもかかわらず、「難聴児」のみを用語として残していこうというところに、聴覚活用を中心に据えた基本方針を作ったという意図が読み取れます。

これは方針全体に見受けられ、「保健、医療、福祉および教育の多職種が連携」と、保健・医療を先頭にし、教育を最後に書いてあることや、「音声言語発達等への影響を軽減することや、手話等の言語・コミュニケーション手段の獲得を円滑にし」(p.1) と音声言語発達を最優先にしていることからもうかがえます。

本方針のタイトルは「ろう・難聴児の早期発見・早期療育〜」という名称に変えるべきであると主張します

その意見の元となるソース:DHHの使用を推奨、その理由を明記している論文を記載

参考:https://www.nad.org/resources/american-sign-language/community-and-culture-frequently-asked-questions/

3)「音声言語発達」ではなく「言語発達」に修正を

該当箇所:1ページ目、2)の部分「難聴は、早期に発見され適切な支援が行われた場合には音声言語発達等への影響を軽減することや....」

意見:「音声言語発達」ではなく「音声」を省いた「言語発達」に修正をお願いします。手話も言語です。この表現だと、視覚言語(日本手話)ではなく音声言語(日本語)に偏っており、中立的とは言えません。「手話は言語である」と定義した「障害者権利条約」が2006年12月13日の国連総会において全会一致で採択されました。従って、批准国である日本もそのように表記すべきです。

その意見の元となるソース:2006年12月13日の国連総会にて採択された「障害者権利条約」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html

4)「聞こえる人も聞こえにくい人も聞こえない人も共に生きる共生社会づくり」の具体的な計画について

該当箇所:3ページ目の2つめの段落<多様性と寛容性>

意見:「聞こえる、聞こえにくい、聞こえないに関わらず、多様性を認め合う寛容性をも

った社会、聞こえる人も聞こえにくい人も聞こえない人も共に生きる共生社会づくりが重要である。」と書かれていますが、具体的な計画の明記をお願いいたします。世界保健機関(WHO)が2021年3月に発行した「聞こえに関する世界報告書(World Report on Hearing)」で聴覚障害児の言語発達に手話言語が不可欠であることが明記されています。(p.125, 2.4.3)なぜかというと、音声言語にアクセスするだけの身体能力に差があるからです。これは聴覚障害者・難聴児の問題が音声言語を発達させれば良いという問題ではないということを暗に仄かしています。実際、聴力のある子でも、手話を早期から使用した子供には高い読解力があるということが証明されています。この「聞こえに関する世界報告書(World Report on Hearing)」に沿った計画を求めます。

その意見の元となるソース:

世界保健機関(WHO)発行「聞こえに関する世界報告書(World Report on Hearing)」(p.125, 2.4.3)

Murray JJ, Hall WC, Snoddon K. Education and health of children with hearing loss: the necessity of signed languages. World Health Organization. Bull World Health Organ. 2019;97(10):711–6.

Hall WC. What you don’t know can hurt you: the risk of language deprivation by

impairing sign language development in deaf children. Matern Child Health J.

2017;21(5):961–5.

Neil Glickman, Blog: Language Deprivation and Deaf Mental Health: Introduction to a Webinar, NAT’L ASS’N ST. MENTAL HEALTH PROGRAM DIRECTORS 3, https://www.nasmhpd.org/sites/default/files/Glickman_Language%20Deprivation%20Article.pdf[https://perma.cc/8XVA-KS68]

Hrastinski & Wilbur, supra note 5, at 157 (citing Charlene Chamberlain & R.I. Mayberry, Theorizing About the Relationship Between ASL and Reading, in LANGUAGE ACQUISITION BY EYE 221, 221 (Charlene Chamblerlain et al. eds., 2000))

R.J. Hoffmeister, A Piece of the Puzzle: ASL and Reading Comprehension in Deaf Children, in LANGUAGE ACQUISITION BY EYE 143, 143 (Charlene Chamblerlain et al. eds., 2000) (citation omitted)

Carol Padden & Claire Ramsey, Reading Ability in Signing Deaf Children, 18 TOPICS IN LANGUAGE DISORDERS 30, 30–31 (1998)

Michael Strong & Philip M. Prinz, A Study of the Relationship Between American Sign Language and English Literacy, 2 J. DEAF STUD. & DEAF EDUC. 37, 37 (1997))
Ann E. Geers et al., Early Sign Language Exposure and Cochlear Implantation Benefits, 140 PEDIATRICS, no. 1, July 2017, at 6

5)専門職の養成にアファーマティブ・アクションと情報保障体制の整備を要求します。また、言語聴覚士が心理職でないことをふまえるべきです。

該当箇所:p.2 脚注4「関係者の専門性」について、専門家が多様な方法でろう・難聴児と「基礎的な関係を築く」

意見:p.2 脚注4「関係者の専門性」について、専門家が多様な方法でろう・難聴児と「基礎的な関係を築く」と読めますが、手話を第一言語にする子どもの、認知、言語、心理等発達全般について支援することができる人員の養成が急務です。

本基本方針では、全般的に「専門家」を「言語聴覚士」を中心として考えているようですが、認知、心理発達の評価については臨床発達心理士や公認心理師のような専門性はないので、現在の言語聴覚士には適切に扱えないと考えます。保育所等巡回指導でも、言語聴覚士の他に臨床発達心理士などの心理職が同行して連携をとることが多いため、ろう・難聴児支援にも心理職の参入は必須にしていただきたいです。

また、アメリカやオーストラリアではaudiologist(聴覚の専門職)とspeech pathologist(言語訓練の専門職)はそれぞれ博士一貫5年、修士課程を前提とする別々の専門職です。日本の言語聴覚士が聴覚だけでなく、失語症等の言語領域、嚥下までを2年間の課程で学ぶのと比較すると、専門性に大きな開きがあります。

この際、手話を使う子どもの評価は、音声日本語での評価を行ってきた言語聴覚士・心理職(臨床発達心理士や公認心理師)のみでは、正しい評価は不可能ですので、理想的には手話ができる心理職の養成を推進していただきたいです。アファーマティブ・アクションを実施し、各地の心理職養成コースのある大学等で、手話ができる聴覚障害学生を受け入れることを提案します。

ただ、こうした人材は急には増えないため、子どもの手話の通訳ができる者を増やすべく、国立障害者リハビリテーションセンター手話通訳学科等を利用し、ろう学校での実習を含めて、子ども向けの手話通訳研修を行うことを提案します。子ども特有の表現に対応すること、言語発達を考慮に入れて関わることなど高度な専門性が要求されるため、アメリカではこうした学齢期(K-12)手話通訳の認定試験が実施され、ノースフロリダ大学などには修士課程に子どもを専門とする手話通訳の養成コースも置かれています。

 また、ろう・難聴児に適した特別支援保育ができる保育士、ろう学校の乳幼児相談担当者を専門職と考え、専門性を向上させるための研究や待遇向上を盛り込んでいただきたいです。そこで、幼児教育についての専門性を有する保育士資格と、特別支援学校教諭(聴覚領域)の免許を合わせて取得できる日本社会事業大学に、ろう・難聴早期支援のための専門家養成コースを設けることを提案します。手話教育について国内唯一の拠点である国立障害者リハビリテーションセンター手話通訳学科、幼児教育について高い専門性をもつ白梅学園大学、聴覚障害児教育の専門性が高い東京学芸大学が立地的に近いこともあるため、四拠点連携にて、手話の言語発達、幼児教育、特別支援教育について、教育プログラム開発を行い、単位交換制度などを活かして人材を養成していただきたいと思います。

その意見の元となるソース:Master of Science in American Sign Language/English Interpreting

Educational Interpreting concentration

https://www.unf.edu/graduateschool/academics/programs/American_Sign_Language/English_Interpreting.aspx

6)ろう・難聴当事者の参画の推進のための再教育の実施を要望します。

該当箇所:5ページ<多様な関係者の参画>に、「特にロールモデルやメンターとして当事者・当事者支援団体を連携体制に加えるように努めること」

意見:p.5<多様な関係者の参画>に、「特にロールモデルやメンターとして当事者・当事者支援団体を連携体制に加えるように努めること」とあります。

当方針が音声言語を中心とした支援体制構築のために紙幅を割かれていることに鑑みると、ここでいう「当事者」は、とくに人工内耳装用をしてある程度成功している音声言語使用者であり、「当事者支援団体」は、親の会を想定していると思われます。

ロールモデルやメンターは、ある程度学歴的に「成功」していないと親から望まれないと思われます。これまでの教育や情報保障体制の問題から、手話を使うろう者の成人は、高等教育を受けていない者も多いです。平成8年度と30年度の文部科学省のろう学校高等部卒業後の進路を見ると、専攻科・教育訓練機関への進学が50%を締めていたのが21%に減少し、大学進学が6%から22%に向上しています。ろう学校の卒業生の数は減っており、社会福祉施設へ入所や通所する者の割合が倍増していることから、ろう学校卒業生のうち知的・発達・身体障害等の重複障害の割合が増えていることも見て取れます。それでも大学進学者が増えているのは、大学側の情報保障体制の向上などが要因として考えられます。

平成8年(1996年)年度卒業生はまだ40代です。ろう教育の歴史から1993年頃まで手話がろう学校で禁止されていたことに鑑みれば、初等・中等教育の段階でも、国連障害者の権利条約で掲げられている権利のひとつである「自らに適した言語での教育」を受けられてこなかったこともうかがえます。こうした人々には、現在、再教育を受ける権利があると考えます。

この世代は、幼い頃はろう学校で手話が禁止されていたとはいえ、寄宿舎生活で手話を身につけた者も多く、そうであれば手話でのコミュニケーション能力を十分に身につけていると思われます。こうした人たちが、現在までの社会経験を活かしつつ、これから専門的な知識を身につけてろう・難聴児の支援に当たることができる人材だと考えられます。とくに子育てが一段落しているろう・難聴成人には、再教育課程としての特別支援教育や保育等の専門性を身につけるための専門職教育を受けてもらい、ろう・難聴児とその家族のよきロールモデル・メンターとして、早期支援に携わる専門性を身につけてもらうことが良いでしょう。障害者にとって、自らの専門性を活かした新たな雇用を創出することができ、かつて制限されていた学ぶ権利を復権するためにもやるべきことだと考えます。この際、地域毎に拠点となる大学や専門学校を選定し、アファーマティブ・アクションを実施し、手話ができるろう・難聴成人が学ぶための情報保障体制を整備するための予算措置を要求します。

その意見の元となるソース:http://doi.org/10.34382/00008686

坂本徳仁. (2011). 聴覚障害者の進学と就労ー現状と課題. 生存学研究センター報告, 16, 14–30.

7)偏りのない情報提供の拠点を聴覚特別支援学校に置くことと、専門性を高めるための研修の実施

該当箇所:埼玉県における聴覚障害児支援中核機能モデル事業(令和2年度)https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000845324.pdf

意見:令和3年5月28日の第2回基本方針検討会で南医師が解説した、国際的に支持されているろう・難聴児の「家族を中心にした早期介入(FCEI)」の原則のひとつに、偏りのない十分な情報提供があります。聴覚障害児や難聴児に対する早期介入のベストプラクティスでは、言語の選択とコミュニケーションモードに対する「偏りのない」または中立的なアプローチが求められます。

埼玉県のモデル事業では情報提供拠点を難聴に特化した児童発達支援センターであるそうか光生園に置いていたようですが、このような児童発達支援センターは、嘱託医の耳鼻咽喉科医と、4名以上の言語聴覚士を配置しています。一般的な児童発達支援センターは、子どもの発達を専門とする児童指導員および保育士の配置を求めているのに対し、難聴児の児童発達支援センターはこうした子どもの心理的発達を支える専門職の代わりに、言語聴覚士を配置して良いことになっています。しかし、上でも述べたように子どもの心の発達は言語聴覚士の職域を越えると考えられます。こうしたセンターや確定診断を行う耳鼻咽喉科のある拠点病院を情報提供の拠点にすることは望ましくありません。

ろう・難聴児の人間的発達の全体像の専門的知識・経験を持っているのは、聴覚特別支援学校(ろう学校)です。よって、偏りのない情報提供の拠点の第一選択肢はろう学校であると方針に明記していただきたいです。

耳鼻咽喉科医や、言語聴覚士は、「療育」つまり就学前までの難聴児の音声言語の成長過程を見ることができますが、その後はある程度音声・聴覚活用がうまく行っている難聴児・者が定期的な検診に訪れるだけで、聴覚活用をやめた者、うまくいっておらず検診に訪れない者のその後は、ほとんど知らないためバイアスがかかることが容易に予想できます。一方で、ろう学校の教諭は、乳幼児相談から高校部・専攻科まで一貫してろう・難聴児の成長過程を見守る立場であり、ろう・難聴児の成長について情報を持っていると言えます。

ただし、①聴覚特別支援の教員免許取得条件に手話の技能が含まれず、ろう学校に赴任してから手話を自己研鑽として身につける教員が大多数であること、②これまで乳幼児相談担当者は、専門性を磨くための研修などは乏しく、聴覚障害児の客観的な発達過程についてどのような知識を持つべきかという基準も自治体毎に異なることには改善が必要です。

そこで、①ろう学校教諭には手話研修を自治体負担で行うこと、教員免許状の取得要件に手話を含めること、この際、地域毎に行われている手話講習会ではなく、国立障害者リハビリテーションセンター学院手話通訳学科の知見を十分に活用すること、②国を責任主体にし、独立行政法人国立特別支援総合教育研究所等において研修プログラムを開発し、研修の受講促進と知識のアップデートを行うこと、が必要です。とくに手話での発達については、専門家が乏しいです。金沢大学の武居渡教授、宮城教育大学の松崎丈准教授を中心にすることを提案します。全国的に知識を敷衍するため、オンライン研修なども検討することが必要ではないでしょうか。

その意見の元となるソース:南医師による「FCEIの紹介(聴覚障害児のための家族を中⼼とする早期介⼊)」

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000785153.pdf

Mary Pat Moeller et al., Best Practices in Family-Centered Early Intervention for Children Who Are Deaf or Hard of Hearing: An International Consensus Statement, 18 J. DEAF STUD. & DEAF EDUC. 429, 434 (2013).

Merv Hyde et al., Coming to a Decision About Cochlear Implantation: Parents Making Choices for their Deaf Children, 15 J. DEAF STUD. & DEAF EDUC. 162, 163 (2010)

8)共働き世帯と「子どもの貧困」への対応として特別支援保育の充実のための方略を盛り込んでいただきたい。

意見:これまでの聴覚障害児教育は、とくに音声言語獲得については静かな部屋とマンツーマンの環境、そして母親等1人が常につきっきりで音声言語指導することが成功の要因でした。これは、主に父親の稼ぎで家計がまかなえること、母親がある程度指導ができることに依存しています。また、ろう・難聴児の支援拠点が都道府県に数カ所しかないことから、長時間の移動をともない、月2〜4回程度の指導をうけに支援拠点に子どもを連れて行く人手も必要です。このため、母親は仕事を辞めざるを得ず、ろう学校の近くに母子で転居して支援を受ける例すらあります。しかしこれは、核家族化・共働き・片親世帯が急増している現代の日本にはそぐわない方法でしょう。また、親の会等の代表者が、親の会の代表を勤められるくらい社会経済的なステータスが高く時間的な余裕があることも情報バイアスになり得ることに注意が必要です。つまり検討会で当事者や当事者支援団体の代表者を呼んでも、バイアスのないヒアリングができているとは言えないことに留意していただきたいです。

平成24年の児童福祉法の改正によって、障害児通所支援の統合と充実が図られました。基本的には障害児の療育を身近な地域で受けられるようにするという目標を持っており、児童発達支援センターは各市町村か人口30万人ごとに1箇所以上という設置目標を持っています。ろう・難聴児は発達障害児より発生頻度が低く、手話の集団を必要とするため、各県に平均で1〜2箇所しかないろう学校での支援が基本だと考えられます。

しかし、昨今の共働き傾向や子どもの貧困率の上昇という社会情勢から、児童発達支援センターが各市町村に必要だと判断されたように、聴覚障害児もまた、市町村単位のセンターか、地域の保育所で支援を受けながら日中過ごすことが必要になっていることは想像に難くありません。結果として、ろう・難聴児でも乳幼児期から保育所や幼稚園の音が多く、人工内耳や補聴器を用いた音声言語訓練に適しているとはいえない環境に置かれることがしばしばです。令和3年に制定された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」では医療的ケア児のケアの責任主体を家庭ではなく自治体に置き、親の就労継続支援も明記されています。まだ児童福祉法はそこに及んでいませんが、親の就労継続のための支援策は必要です。

そこで、日中にろう・難聴児が過ごす場所として保育所を中心に考え、手話ができる保育士を加配した拠点保育所をつくることを提案します。通わせるのに無理のない範囲で隣接自治体からも複数のろう・難聴児を受け入れ、複数の手話のできる保育士を配置することで、保育の5領域をカバーする幼児教育を提供することを提案します。とくに領域「人間関係」が手薄にならないよう、それを評価できる体制を整え、ろう学校や難聴児に特化した児童発達支援センターとの連携をしながら、ろう・難聴児の親の就労の継続、経済的な困難さの緩和を支援していただきたいです。

この手話のできる保育士の養成には、上で提案したアファーマティブアクションや再教育のほか、これまで職場で合理的配慮が得られず資格を持つものの保育の現場を離れてしまったろう・難聴の保育士などに光をあて、手話や難聴に関する専門知識を得るための研修制度を作り、修了生には手当をつけるなどの対応も求めます。

その意見の元となるソース:「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/20420210618081.htm

保育の5領域

https://hoiku-shigoto.com/report/archives/23360/

9)親に対する支援

該当箇所:2(2)③家族等に対する支援 二個目の○「手引き書等の作成、相談窓口の周知、難聴児の子育てに関する様々な情報〜家族等の学びにつながる教材※8を作成・配付すること。」

意見:聴覚障害児は9割以上が聴者の親の元に生まれてきます。(手話が現在まで一般社会で習得するものではないため、聴覚障害の子を持った親は突然聞こえない子どもとのコミュニケーションに戸惑うことになります。

人工内耳を装用するばあい、手術をした日を「お耳の誕生日」、耳年齢という概念を導入しているようですが、このような欺瞞的な態度はやめるべきです。なぜならば、子どもの発達は0歳台の前言語期をふくめ、脳神経回路の刈り込み、強化などが外からの刺激との相互作用によってなされるのが、各機能によって適切な時期があるからです。

前言語期には、親子のやりとりによって愛着(アタッチメント)が形成されます。この時期に適切な関わり合いが得られなかった子どもの例に、言語剥奪症候群の子どもたちがいます。

2(2)③家族等に対する支援 二個目の○「手引き書等の作成、相談窓口の周知、難聴児の子育てに関する様々な情報〜家族等の学びにつながる教材※8を作成・配付すること。」とあります。この注釈8に「手話を学べる場、当事者団体等の紹介」のような項目を付け加えて下さい。これは手話などのコミュニケーション手段も保障すると1.総則(2)に書いてあるため、整合性を取るためにも必要な項目です。

さらに、この家族等に対する支援 に、<手話学習機会の保障>を入れるべきだと主張します。

現在、聴者の親は手話で子育てをしたいと考えたとき、手話を学べる場が非常に乏しいのが現状です。ろう学校での手話学習会も月1〜2回ありますが、それでは足りないと思われます。近年は手話動画がインターネット上で見られることも増えましたが、学習者に良し悪しの判断はできません。また、地域の手話講習会は手話通訳養成のために行われており、子育てを終えた専業主婦を当て込んでの平日日中や平日夜に開催されており、乳幼児期の子を持つ親には参加しにくいうえに、目的が異なるため、使いにくいです。ろう・難聴児と早期に視覚的なコミュニケーションを取るための具体的な方略から、手話で子どもと話すために必要な語彙、子どもの手話の特徴などについての情報発信を国の責任で行い、手話学習動画を配信すべきと考えます。また、ろう学校での手話学習機会の確保や、ろう・難聴児の親が手話講習を受けるための費用も地方自治体の負担によって成り立つべきだと主張します。

その意見の元となるソース:聴覚障害児と難聴児の家族の90%以上は、手話を知りません。See Quick Statistics About Hearing, U.S. DEP’T HEALTH & HUM. SERVS. NAT’L INSTIT. HEALTH (Dec. 15, 2016), https://www.nidcd.nih.gov/health/statistics/quick-statistics-hearing [https://perma.cc/NLS3-T5BQ] [hereinafter Quick Statistics About Hearing] (“More than 90 percent of deaf children are born to hearing parents.”).

Tom Humphries et al., Avoiding Linguistic Neglect of Deaf Children, SOC. SERV. REV., 589, 598–99 (2016) (citation omitted) (stating that approximately ninety-six percent of deaf children are born to hearing parents)  

10)手話による言語と発達のアセスメントができる専門家

意見:
「保育所保育指針および幼保連携型認定こども園教育・保育要領の乳児保育および乳児期の園児の保育に関するねらい及び内容には、「社会的発達の視点「身近な人と気持ちが通じ合う」があります。そこでは、「受容的・応答的な関わりの下で、何かを伝えようとする意欲や身近な大人との信頼関係を育て、人と関わる力の基盤を培う。」とあり、その解説には「社会の中で生きていく人間として、子どもの発達において特に大切なのは、人との関わりである」ことが強調されています。乳児期においては、身近な特定の大人(保育士等)との「愛情豊かで受容的・応答益な関わりを通して、相手との間に愛着関係を形成し、これを拠りどころとして、人に対する基本的信頼感を培っていく」(保育所保育指針解説, p.101)ということを考えると、今回の基本方針(案)は手話言語による、人との関わりやコミュニケーションのアセスメントができる専門家について記載がありません。
「偏りのない」中立的なアプローチするためにも、手話という選択も推奨されるべきです。また、音声言語の発達が遅れている子どもが、言語発達が遅れているのか、他の発達障害などでコミュニケーションがうまくいっていないのかのアセスメントは難しいです。手話と日本語のバイリンガルの場合も、単一言語での発達と異なる様相を示すので、日本語だけのアセスメントをもって、言語発達を測って対応を決めることも難しいです。誤った測定によって、発達障害としての支援をされることもありますし、その逆で、言語が遅れていることを理由に発達障害が見逃されることもあります。

 手話による言語発達と認知発達やその他の心理指標のアセスメントができる専門家が必要です。年齢によってどういった言語表現が見られるべきか、という視覚的なコミュニケーション能力と手話言語のアセスメントが必要です。現在の言語アセスメントは、聴児に合わせた内容になっています。明晴学園で採用されているVCSL日本手話版の導入を強く望みます。また、心理検査の手話版の開発をしていくべきです。

その意見の元となるソース:

VCSL日本手話版、明晴学園が保持しています。

https://vl2.gallaudet.edu/visual-communication-and-sign-language

LEAD-K Language Assessments, CAL. SCH. FOR THE DEAF: EARLY START RESOURCES, https://sites.google.com/csdeagles.net/es-teachers/home/assessments/sb-210-lead-k


[1] 該当箇所とは、問題となる文や言葉のことである。ここでは、厚生・社会福祉の下で提唱された難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針(案)案件番号(495210313)から、特に訂正して欲しい・もしくは再検討を求める箇所のことである。

[2] 意見とはろう児・難聴児を手話で育てたい親の会から出された意見のことである

[3] その意見の元となるソースとは、その意見を支持する研究資料や、その意見の根拠となる証拠のことである。