プラネタリウムのプログラム

■はじめに

プラネタリウムの投影スケジュールをご覧になると、「一般投影」「ファミリーアワー」等、いくつものプログラムがあることが分かります。メインプログラムの「一般投影」、子でもたちや家族に人気の「ファミリーアワー」、小学校4年生、6年生対象の「学習投影」、そして、「幼児投影」です。1回の投影時間は約50分間。プログラムが異なっていても、いつも7名の専門学芸員が、その時々の季節の星や天文現象、設定されたテーマについて、生で解説を行っています。

対象が異なれば、自ずと、話のトーンが変わります。「幼児投影」ではみんなで歌を歌ったり、「ファミリーアワー」では家族で宇宙旅行に出かけたり、「一般投影」では少しだけ難しい天文学の話を織り込みます。

プラネタリウムを見に来た人は、リピーターもいれば、初めての人もいます。科学が好きな人もいれば、そうでない人もいます。星について学びに来た人もいれば、友人と楽しい時間を過ごしに来た人もいます。ワクワクした気持ちで来た人もいれば、日常から逃れるように訪れた人もいます。学芸員たちは、どんなプログラムであったとしても、どんな回であったとしても、人を星空で包み込み、人と星をつなぐ大切なきっかけになるよう、ひとつひとつの言葉をゆっくりと紡いでいきます。

来館者の心には、プラネタリウムでの体験がアジェンダとともに、いろいろな形で刻み込まれていきます。この章では、2011年に集めた来館者の思い出とともに、「一般投影」「ファミリーアワー」「学習投影」「幼児投影」について紹介していきたいと思います。

■人と星空をつなぐプラネタリウム

小学生の頃から、何度となくおとずれていた科学館。子供同士での初めての外出先も科学館でした。毎回プラネタリウムで見ては、家に帰って夜空を見上げていました。(40代・女性)

名古屋市科学館プラネタリウムが最も大切にしていることは「限りなく本物に近い星空の再現」です。プラネタリウムで見たことを本物の夜空でも探して欲しい。プラネタリウムのスタートは、いつも、夕暮れからはじまり、日没の時刻と場所、そして、夜8時の星空からの解説につながります。

夕空から暗空へ。つなぎ目のない35mの無限曲面に星たちが輝き始めます。シリウスは青白く、アルデバランは赤色に。本物の星にも色があるように、プラネタリウムの星たちも本物の星と同じような色で瞬き始めます。別の章でお話をしますが、この星ひとつひとつも観測データを再現するのではなく、本物の空を見上げた時に人が感じる色合いに、ひとつひとつ調整を行っています。

街中の空を紹介する時間は実は、暗闇への目慣らしの時間でもあります。そして何よりもみなさんの普段の生活の中で、見上げるとちゃんと星があるということを実感していただきたいからでもあります。

その後、街明かりや月明かりのない満天の星の下へみなさんをお連れします。夏であれば、頭上に吸い込まれそうな天の川が、ドームいっぱいに映し出されます。満天の星です。しかし、そこで映し出される星は、人の目で見られる9000個。技術的には最新の天文学が描く宇宙地図全ての星を映し出すことができますが、ここでは、あくまでも地球から人が見る事ができる星のみ。人間の目で見ることができる星を、実際に見あげた時の見え方で再現する。そのことが、来館者を本物の星空に正しくガイドする礎となるのです。

■一般投影

2ヶ月に1度来ていますが、星の話を聴くと、ほっとし、安らぎ、明日のエネルギー源となります。(60代・男性)

プラネタリウムの来場者の多くは大人です。なんとなく子ども向けの施設と思われがちですが、名古屋市科学館プラネタリウムでは、団体を除く、つまり、自分でチケットを購入した人の60%以上が大人です。平日等は、こんなに平日休みの方がいるのかと驚くくらい、いろいろな年齢層の人たちが訪れます。

星は、全ての人の頭上に同じように輝きます。大人向けの星空、子ども向けの星空はありません。ですから、同じ話をしても、大人はその人生の経験分、深く感動し、子どもはその素直な感受性で違う深みの感動をするのです。もちろん大人と子どもでは理解できる言葉や事象は違います。その事にさえ、配慮すれば、同じ星空の下でも同時にそれぞれの感性で感動できるはずなのです。大人60%という数字は、プラネタリウムが子どもだけの文化ではなく、大人を含む全ての人たちの文化であることを示しているのです。

一般投影では、毎月、テーマが変わります。こいぬ座や七夕といった「星座伝説」がテーマになることがあれば、膨張する宇宙やニュートリノの謎のように「最新の天文学」を扱うこともあります。また、皆既日食や流星ウォッチング等の「天文現象」をテーマにしたものや古代人の宇宙観や暦のように「人と宇宙の関わり」について解説するテーマもあります。天文学は、様々な分野があります。月に一度、今晩の星空とセットで伝えることで、広い天文学を色々な角度で説明することができるのです。

では、テーマはどのように決めているのでしょうか。これは、年に1度、学芸員が過去数年のテーマを参照しながら、その年の天文現象をおさえつつ、星座物語、観測最前線、観察ノウハウなどのテーマをバランス良く配置しています。たとえば、2016年度のテーマは次のようです。

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4月:ニュートリノの謎をとく

5月:太陽系の生命探査

6月:土星の環が見たい

7月:七夕と天の川

8月:火星のふしぎな動き

9月:暦と名月

10月:国際宇宙ステーション

11月:宇宙138億年

12月:クリスマスの星空

1月:星の誕生

2月:X線でみる宇宙

3月:双子の星物語

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6月の土星、8月の火星は、ちょうど観察やすい時にテーマを設定しています。また、金環日食や月食のような天文現象があるときは、現象が起こる前の月にそのテーマを持っていきます。きちんと来館者が観察できるように準備するためです。

1つの番組は50分間。だいたい前半30分間で今日の星空についてお話をし、後半20分間でその月のテーマについて解説をします。そのテーマ毎に、どんな星空を投影するか、解説図や映像はどうするか、どんなトピックスを盛り込むのか、テーマに添える音楽はどうするか、今日も学芸員たちとの番組作りは続きます。

■ファミリーアワー

子供の頃、体重が軽かったせいか、プラネタリウムのいすの背もたれをうまくたおせずにいた為、上映中ずっと父親にひじで押さえてもらった思い出があります。(30代・女性)

市民の皆さんから思い出を集めてみると、家族で過ごした記憶がたくさん綴られています。毎年夏になるとお母さんが科学館に連れてきてくれた思い出、おじいさんがお孫さんにひっぱられてきた思い出、お父さんとお弁当を持って遊びに来た思い出等。名古屋市科学館の場合、幼児と小学校4年生で、名古屋市内のほぼ全員がプラネタリウムに訪れます。その子どもたちが大人になり、今度は自分で見に来ます。やがて今度はその子どもを連れてきます。開館以来、そうした世代間のつながりができているのです。

そこで、家族向けにお届けするのが、この「ファミリーアワー」です。2011年(旧館)以前は、「キッズアワー」と呼んでいました。今は、子どもだけではなく、家族で楽しむプログラム、また、星空のビギナー向けのプログラムとして展開しています。

ファミリーアワーと言っても、分かりやすい言葉を使って天文を説明しているだけで、スタンスは一般投影と同じです。今晩の星空から始まり、3ヶ月に1度変わるテーマにあわせて学芸員が生で解説を行っています。でも、子どもが多いからといって、子ども言葉を使って解説をしたり、ドーム内を縦横無尽に飛び回るキャラクターを主役にしたりしません。

子ども向けにしてしまうと、親が他人事になってしまいがちになるからです。大切なのは、親が一生懸命、星と向き合う姿を子どもに見せること。その背中をみて、子どもたちは、科学に背伸びをしながらついていこうとします。こうやって、親から子へと、星の見方や科学との向き合い方を継いでいくのです。このような姿にキャラクターは必要ありません。なぜなら、星がキャラクターに語りかけ、キャラクターが子どもたちに語りかけるような構図は、親も子どもたちも、そのやりとりを眺める傍観者にしてしまうからです。自分と星空が主役で、自分が見る、自分が楽しむことが大切です。親も子どもたちも、星空と直接向き合って欲しいのです。

星と人とのつながり方は、千差万別です。感じ方や理解の仕方は、人それぞれ。でも、どんな時であっても、学芸員たちは、人がまっすぐに星と向き合えるように星空をガイドしていくのです。

■学習投影

小学生の頃、授業の一環として初めてプラネタリウムをみました。教科書に書かれていることが星空に投影されて、識る事が自分の世界と初めて一体となった瞬間でした。(年齢・性別不明)

名古屋市科学館は、1962年に開館していますが、開館から間もない1966年には幼児、1968年には小学校4年生、1974年には中学生を対象にした学習投影を実施しています。そして、1980年からは対応学年を増やし、今のスタイルへと続いています。小学校4年生向けの学習投影は、11月下旬から2月下旬ごろ投影枠を設定しており、名古屋市内の9割以上の小学生が参加しています。

50分間の内容は、次の通り。学習指導要領の内容を中心としながら、臨機応変にアレンジしています。

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小学校4年「冬の星座と太陽・月・星の動き」

プラネタリウムで星座を探したり、太陽・月・星が時間とともに動いていくようすを眺め、楽しみながら天体に関心を持てるようなお話をします。

〔導入〕

天頂と方角の確認

12時の太陽の位置(方角・高さ)→夕方までの太陽の動き

青空の中の月(上弦の月)をさがす

天文台作り

からだのものさし

〔夕暮れ〕

夕方から20時までの太陽・月の動き

〔月の形ともよう〕

いろいろな月の形(三日月、半月、満月)

表面の黒いもよう

〔星座の見つけ方、伝説など〕

最近の天体現象

秋季:夏の大三角・七夕の星・北斗七星・北極星など

冬季:秋の四辺形・オリオン・カシオペヤ・北極星など

一等星とその色

〔星の動き〕

星・月の日周運動

地球儀と星空の比較

〔宇宙旅行〕

ロケット打ち上げ(種子島)

地球と宇宙ステーション

〔朝〕

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上記のように指導案に沿った学習投影をする一方で、学芸員たちは、もうひとつの願いを持っています。それは、理科という授業を超えて、子どもたちに「星っていいね」と思ってもらいたいということです。教科書の内容は、基本的には教室で履修できるように作られています。プラネタリウムの下で学ぶのであれば、理科の授業を代替するのではなく、プラネタリウムでしかできないことを学んでもらいたいと考えています。時には満天の星空の下、時には地球から離れ遥か太陽系の彼方から、自分たちが生きている時間や世界を眺めてみる。そんな非日常の体験が、科学を身近なものにし、本物の星空へとつなげるきっかけになるのだと思います。

この地域の小学生ほぼ「全員」が、理科好きかどうかにかかわらず、同じ時間を共有し、同じ体験をする。このことは、とても大切なことだと考えています。毎年、3万人近い子どもたち全員が平等に星空を見上げ、宇宙の仕組みを学び、科学に興味を持つ機会を得るのです。科学館へ行ったことがある。楽しかった記憶がある。そうして皆が大人になっていくのです。

学習投影は、まさに地域の子どもたちの未来の宇宙観、科学教育の未来を作る仕事でもあるのです。

■幼児投影  

幼稚園の遠足で来た異空間は、まるで、宇宙旅行したような気分にさせてくれました(20代・男性)

毎年、名古屋市内外の多くの幼稚園・保育園が名古屋市科学館プラネタリウムに訪れます。その数、約3万人。とても多くの幼児・園児がプラネタリウムを体験しています。実は、「名古屋市科学館での一番の思い出を教えてください」という問いかけに幼稚園の遠足を答える人は少なくありません。プラネタリウムとの出会い、満天の星との出会い、地球以外の惑星との出会い、科学との出会い、さまざまな初めての出会いがそこにあるからなのだと思います。

幼児投影を導入した当初は、子どもたちだけでプラネタリウムに入れることがいいのかどうか議論があったといいます。親がいなくても大丈夫なのかと。しかし、子どもたちが、「初めての出会い」を、横にいる親の顔色とは関係なく、自由な感情で向き合えるということは、特別な原体験として心に刻まれていくことでしょう。

幼児投影は、一般投影より10分ほど短い40分間です。ロケット打ち上げや全天映像を使った星の物語等、映像を多く使っています。内容は下記のとおりで、2シーズンの受け入れをやっています。

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5月中旬から7月下旬「たのしいたなばた」

今夜みられる星を探したり、七夕の歌を歌ったり、宇宙旅行にでかけたりします。

2月下旬から3月上旬「たのしいほしまつり」

今夜みられる星を探したり、ふたごのほしのお話を聞いたり、宇宙旅行に出かけたりします。

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七夕の時期に近い数ヶ月のプラネタリウムは子どもたちの元気な歌声で溢れます。目に入るもの、耳に入る音で目まぐるしく表情を変える子どもたちは、未来に対する無限の可能性を秘めているように思えます。幼児投影は、そんな子どもたちの心に科学の未来の種をまいているのです。