微量放射能漏れを監視する
2016年12月 ハカルワカル広場:二宮
ハカルワカル広場の微量放射能監視プロジェクトは2015年4月以降、たくさんの人たちの協力で活動を続けています。
この活動の意義に関しては、協力者のみなさんがそれぞれの思いをお持ちだと思います。呼びかける側としては当初次の3つのようなことを考えました。
残念なことに、日本の原発は再稼働が進み始めています。「あきらめ」と「無関心」が私達を覆ってくることは一番恐れるところです。
「あきらめ」や「無関心」は未来に対する無責任の表明であり決して許されていいことではない、その思いを新たにするに、このプロジェクトの意義もより重要性を増してきていると感じます。
引き続きより広い範囲に呼びかけながら、この活動を続けていきたいと思いますので、是非ご協力よろしくお願いします。
以下、具体的に今までにやったこと、これからやりたいと思っていることを説明していきます。
ハカルワカル広場で測定活動を行う中で、福島事故の影響で一般的に放射性セシウム100Bq/kg程度の汚染が発生した八王子地域でも場所によってはかなり高い土壌汚染が発生していることに気が付きました。
放射能は雨と共に地上に落下して土壌表面に吸着されたようなのですが、「どのくらいの汚染雨水を表面で受け止めたか」ということが大きく土壌表面の汚染度に影響します。
一般の場所よりはるかに大量の雨水を受け止める場所として、雨樋の水が地面にしみこむところがあります。そうい場所では福島事故から4年たった現在でも数千Bq/kgの測定値が出てきます。
参考までに、2015年2月のハカルワカル広場の測定データで、八王子市内で雨樋下土と一般の庭土を比較してみます。
上側の青線が雨樋下土のスペクトルでCs137,Cs134のピークがかなり鋭く出ているのがわかります。この土はCs137+Cs134の合算で3030Bq/kgが検出されています。下側の赤線は一般の庭土で同じようにCs137,Cs134のピークは出ていますが、雨樋下に比べるとかなり弱いです。こちらの測定値は合算で106Bq/kgでした。
このように雨樋下土はかなりセシウムが濃縮されています。過去のデータを眺めると10倍〜100倍くらいの範囲で濃縮がおこるようです。
雨樋下の土はマイクロホットスポットになるので要注意ということなんですが、これは微量放射能漏れを検出するには「濃縮して検出されやすくなっている場所」ととらえることができます。10倍〜100倍という濃縮率が場所によってまちまちなので、測定されたデータから平均的な放射性セシウム降下量を推し量るのは難しいのですが、「微量放射能漏れがあった」という事実を察知するためには使えます。
もし仮に、10Bq/kg程度で土壌を汚染する新たな放射能漏れがあった場合、悲しいかな福島事故のせいで土壌放射能汚染バックグランドが100Bq/kg程度に上がってしまっているため、10Bq/kgの上積みは10%の変化にしかなりません。これは測定誤差の範囲に入ってしまうので、「今回はちょっと高い目の数値が出たねぇー」という話で終わってしまって、新たな放射能漏れを検知することはできません。
しかし、雨樋下の土を除染して一般の100Bq/kg程度の土で置き換えていた場所であれば、新たな汚染が濃縮される結果、100Bq/kg程度が数倍の値に跳ね上がり、確実に何か正常でない事態であることを認識できます。
その認識さえできれば、ゲルマニウム半導体式測定器などによるさらに正確な測定を行うことで、より詳細な事実を調べることもできるでしょう。
すでに高濃度に汚染されている雨樋下の土をまずすでに測定済みの汚染度の低い土に置き換えることが、この監視活動の出発点になるわけですが、
どうせ置き換えるならできるだけセシウムを吸着してくれる物質に置き換えるほうが感度が上がる
ということはあります。そこで比較的安価に入手できるセシウム高吸着物質として評判の高いゼオライトを使ってみたらどうかと考えました。
ゼオライトはamazonで20kg入り袋が2680円で売っていたので、これを入手しました。
ゼオライトは若干緑がかった砂のような感じのものですが、非常に細かい粒子のものも含まれています。
まず購入直後のゼオライトの放射能を測定してみました。
測定結果としては放射性セシウム不検出でしたが、測定器が出した数値ではCs134を大きく誤検出していました。
その原因はカリウムとトリウム系の自然放射能が非常に強いせいでした。
右図が測定スペクトルですが、上側の青線がゼオライト、下側の赤線はバックグランドのスペクトルです。
スペクトルの右端の方1460KeVのK40のスペクトルがかなり強く出ています。ハカルワカルで測る土の中にはカリウムが強く出るものも時々ありますが、バックグランドの2倍くらいの高さまでが多く、このゼオライトのように3倍近い高さで出るものはめったにありません。
200KeVの少し右にある強いピークはPb212でトリウム系自然放射能です、トリウム系の他の自然放射能としてTl208が583KeVに出しているピークも観察できます。
この測定データはベースになるもので、これから増えた分に注目する必要があります。
やはり、これはちゃんと確認しておく必要があります。
そこで実験をしました。
ハカルワカルに10000Bq/kg程度の汚染土を保管しています。これとゼオライトを密着させて、水に浸した状態で数週間放置します。その後ゼオライトだけ取り出して、数日かけて乾燥させます。
そのゼオライトを測定してみて、購入直後の測定データと比較します。
まずその汚染土データです。2015年3月14日の測定で10800Bq/kgでした。
スペクトルは右図ですが、セシウムが強烈に出ています。
余談になりますが、同じ土を3年前に測った時は、Cs134を示す796KeVはCs137を示す662KeVの半分くらいの高さでした。かなり比率が変わったのがわかります。
ゼオライトを土に密着させて水につけるのに、そのまま混ぜてしまうと後からゼオライトだけを取り出すのは不可能です。うまく混ざらないようにするために、ゼオライトをお茶出し用の小袋につめました。
右の写真の様な感じでつめていきます。
測定の条件をそろえるために、初期状態のゼオライトの測定は、右の写真のように小袋につめたものをマリネリにつめて行いました。
この小袋を網戸の網で覆ってから土に密着させました。後から小袋を取り出しやすいように工夫したつもりでしたが、網は不要だったかもしれません。
網で巻いたゼオライト入り小袋をまずバケツの底において、その上に汚染土をふりかけます。そしてその上から水を入れて泥水状態にします。
その状態で4週間放置しました。
4週間後バケツの中は、底の方は泥水が残っていましたが、表面は乾燥して右の写真の様な状況でした。
網を切り裂いて、中の小袋を取り出し、そして一袋ずつ丁寧に水洗いして小袋表面についている泥土を落としました。
取り出した小袋は右写真の様に並べて数日間放置して完全に乾燥させます。
1週間後、乾燥が完了していたので、再び小袋ごとマリネリにつめて測定しました。
結果はCs137,Cs134の合算で88Bq/kgでした。
スペクトルを下に示します。
青線:汚染泥水に4週間つけた後
赤線:購入直後状態
黄線:バックグラウンド
セシウムがゼオライト側に移行したことは明らかです。
しかし10000Bq/kgの土から移行した量は1%以下です。
この実験だけではゼオライトの吸着能力を評価するには不十分です。
汚染土がどのくらい強くセシウムを吸着していて、泥水状態にした時にどのくらい水の方にセシウムを放出したのかが不明です。
ゼオライト以外に別の非汚染土を使って同じ実験をして、ゼオライトと放射能を比べて低ければゼオライトの方が非汚染土より吸着能力が高いとはっきり言えるでしょう。
不十分な実験でしたが、とにかく移行したことは確認できたので、後はゼオライトの評判を信じて進めることにします。
ゼオライトを小袋につめるのが大変なのと、お茶出し用小袋が雨樋下で長期間破れない状態を保つことは難しいと考えられるので、実際に雨樋下に配置するのは不織布袋で試すことにしました。
上の写真が雨樋下に不織布袋に入ったゼオライトを配置した様子です。
この場合、雨水受け石の様なものがあるので、その上にのせています。
一般的な雨樋の終端は右写真のように直接土に水をしみ込ませるようになっている場合が多いでしょう。
そういう場合は、水がしみ込むあたりの場所を少し掘って、ゼオライト袋で雨水を受けるように置くといいでしょう。
福島事故影響下にある地域では、表土が風で再浮遊するせいで、常に再降下による放射能降下が微量にあると考えられます。
その影響がどの程度あるものか調べるために、数カ月おきにこの不織布袋からゼオライトを取り出して測り、データを採取する必要があります。1年間程度測定を続けて、季節の変化なども十分に把握した段階で、平常時と異常時の違いをキャッチする準備が整ったことになるでしょう。
事故が発生した時でなくても、定期点検や廃炉工事などでは、微量な放射能が環境中に放出されています。原子力施設の近辺ではそういう微量放射能放出を監視することは非常に重要です。福島事故の影響と重なる地域では、近辺の原子力施設の影響なのか、福島事故の影響下で汚染された表土が再浮遊・再降下を起こしている影響なのか、それを見分けるのが難しい場合もあるでしょう。
粘り強く継続的な測定を続けて、データを集積することで見極めることも可能になっていきます。
上のグラフは今ま測定を継続している4地点の測定データをプロットしたものです。3地点は八王子市内で、緑色の点の御前崎市は浜岡原発にかなり近いところが測定場所です。
セシウムはゼオライトに吸着されるとほとんど離れることがないので、測定値には降下してきたセシウムの量が積算されたような数値が出てきます。
同じ場所でも時期によって降下量がかなり違っていることがわかります。セシウムの再浮遊・再降下は気象条件に大きく作用されることを考えると、これはもっともなことです。
御前崎の測定結果では2016年6月の測定で初めてはっきりしたCs137を検出したのですが、これは中部電力が浜岡原発の放射性管理区域内解体撤去工事を始めたことと同期しており、そこから放射能が飛んできた可能性が大です。中部電力も微量に飛んでいることは認めているようです。
現在、雨樋下に不織布袋入りゼオライトを配置して、1〜3月に1回程度ハカルワカル広場に持ってきて測定してくれる人を募集しています。この測定の料金は無料です。
遠方の方はゼオライトを乾燥させてから宅急便で送ってください。測定した後再び同じゼオライトを送料着払いでお繰り返します。(このプロジェクトのための特別な資金があるわけではないので、送料の負担はお願いしています。よろしくご理解ください。)
協力していただける方はハカルワカル広場までご連絡ください。
測定結果はスプレッドシートにしてここで公開しています。
さらにグラフ化したシートも公開しています。