ユーモアクラブより転載。

北広次郎エッセイ集 ミスターヨーロッパだより

第2号 『日本孤島とアフリカの距離』  (そのニ)

 以前訪日した時、たまたま甥の用事があって一緒に出かけた途中、赤坂に立ち寄ると言い出しました。そしてネオンの輝く赤坂の狭い通りで車を止めました。そこで赤坂の韓国系経営のバーの前で片言の日本語で通行人の呼び込みをやっている光景を偶然見ることになりました。突然甥が狭い道路脇に一時停車した深紅のフェラーリの中で、私に「10分待っていて欲しい」と言い残しよほど急いでいたらしく慌てて走ってビルの中に消えました。ところが三十分経っても甥は戻ってこないので段々心配になりビルの入り口の前をうろうろ覗いて見ました。が何処に居るのかさっぱり分かりません。私は英国式に駐車違反取締りのポリスが来ないかと気が気じゃなくなりました。あたりはネオン輝く繁華街の幅の狭い通りなのに、そのくせ車は一方通行ながら頻繁に連続的に通過しています。早く甥が出てきてくれないかと祈ってフェラーリの周りをうろうろするしかありませんでした。この大型のフェラーリは、ここでもどこでも大変目立つので通行人たちが寄ってきてオープンカーの内部をじろじろと覗き込みます。こちらはいらいらしていて迷惑この上なく落ち着きません。そのうち、中折れ帽子かぶった黒服の一見ボクサー上がりみたいな黒人が、私をお客さんにならないかと声をかけて来ました。私はつい反射的ここは英国のような錯覚を起こして、英語で答えてしまいました。その風貌から、てっきりラスベガスか英国でよく見かける、レゲの本場ジャマイカから来ているクラブの用心棒の黒人ドアマンだと、脳内PCが勝手にインプット作動を起こしてしまいました。そこで持前の好奇心の虫が湧きだし、出身国は?と訊いたのです。ところが私の想定外の回答が彼の口からこぼれ出したので一瞬驚きました。彼はアフリカ大陸の南の小国から東京に出稼ぎに来ているといったのです。そこへ、似たようなタイプの別な黒人の男がやはり手持ち無沙汰層にぶらぶら彼のところへ近寄って来て、私の方をちらちら見ながら立ち話をしていました。その男も別な店の呼び込みをやっている南アフリカから来た同郷人だといいました。私は、イギリスに住んでいて、たまたま今は日本へ旅行に来ているといいましたら、分かったような、分からないような顔をしていました。

 しかし英国に四十年住んでいる私にはこんな形でアフリカ大陸南部地区国人が日本孤島の中に、単に旅行者として来ているのではなく、既に出稼ぎ人として住みこんでいるという現実を目の当たりにし、更に地球が縮小していることを実感した時でした。