ver1.3  2020/04/16 18:00

コロナウイルスについて、もっと知りたい人のためのQ&A

(大人版)

ウイルスの名前はどうやって決めますか?

いろいろな名前の理由があります。今、流行っているコロナウイルスは、表面にコロナ(ギリシャ語で「王かん」)のような形がたくさんできるので、そのような名前になりました。昔は、ウイルスに、流行りはじめた場所の名前を つけることも ありました。例えばスペインで流行り始めた(と思われた)「スペイン風邪」がそうです。でも、場所の名前をつけてしまうと、その場所の人が全員その病気にかかっているわけではないのに、全員がかかっていると思われてしまうかもしれません。そのため、ウイルスに場所の名前をつけるのは、止めようということになりました。

 

ウイルスはどうやったらうつりますか?

まず、私たちの体は、とても多数の細胞という、小さな部屋のようなものからできています。私たちが生まれるときは、一つの細胞から始まりますが、それがどんどん分裂し増えて、体の中の役目を分担するようになって、私たちの体は成り立っています。

ウイルスは、動物や人のなかで増えます。いま説明した体の細胞に取り込まれると、細胞が働いたり増えたりする仕組みをそのまま乗っ取って、ウイルスのコピーを作らせます。

増えたウイルスは、咳やくしゃみで出るしぶき(飛沫)などによって、動物や人の体から、また外へとび出ます。その後は、空気の中の水滴に入ったまま漂います。(この水滴がどれだけの距離飛び、どれくらいの時間漂うかが、他者への感染しやすさを決めます。距離は2-3m、湿度は高くなると長時間飛ぶようです。これを念頭に、感染防止をしてください。)

それを別の人が吸い込みます。そうすると、まずウイルスの粒は、吸い込んだ人の、粘膜(ねんまく)というところに、くっつきます。粘膜は、例えば口の中や、鼻の中の、赤くて湿った表面です。この時、吸い込んだ水滴の大きさによって、口や鼻から、肺のおくのほう(肺胞)までの、どの場所にくっつきやすいかが、違います。咳やくしゃみの しぶきの大きさだと、鼻やのどに くっつきやすくなります。

粘膜にウイルスがついたら、ウイルスはそこの細胞や近くの血管の中に入ってしまいます。ウイルスは、はじめにも説明したように、人間の細胞に入ると、人間の細胞をだまして、自分たちウイルスのコピーをたくさん作らせます。そうすると、免疫細胞(めんえきさいぼう)という、けいさつ(警察)やしょうぼう(消防)のような働きをしてくれる細胞が、だまされてウイルスを作っている細胞や、それで死んでしまった細胞や、コピーされて増えてしまったウイルスの粒を見つけて、それらを攻撃し取り除きに来ます。

このように、免疫細胞が、ウイルスに対して戦いをしていると、この免疫細胞などから、全身でそれに協力してほしい、という「お願い」の信号(シグナル伝達の分子)が出ます。すると私たちの体には、熱や痛み(えんしょう=炎症=といいます) や、咳 や くしゃみ など いろいろな症状が出るのです。

でも、その戦いや「お願い」信号の出方が弱いと、症状が出ないこともあります。(これを無症状感染といいます。)症状がなくても、ウイルスが増えていることもあるのが、困ることです。ウイルスが増えていることを、その人も周りの人も、気がつけないからです。

 

なぜ皮膚(ひふ)ではなく、口や鼻から入りやすいのですか?

口や鼻のなかを見ると、例えば、手のひらなどの肌(はだ)の皮膚とは違います。皮膚よりも 赤くて湿っています。ここを粘膜といいます。赤いのは、血管が表面に近いところにあるからです。粘膜からウイルスが入りやすい わけは、一つは、皮膚には存在する角質〈かくしつ…垢(あか)になるところ〉が 粘膜には存在しないからかもしれません。ほかにもいろいろ理由が あるでしょう。

 

ウイルスはどうやったら死にますか? 手を洗う時は石鹸をつけたほうがよいですか?水だけではだめですか?

ウイルスは、実は生き物ではありません。一方で、細菌・バクテリアなどは、生き物です。違いは、自分だけで増えるか、栄養を取り込んで何かの活動をするか、というあたりです。ウイルスはどちらもしません。つまり生き物とは言い難い存在です。ですので、「死ぬ」ということはありません。ただ、ウイルスは、人間や動物などの生き物の細胞に入って、自分を増やさせ、その細胞の機能を破壊し、また外に出て別の人などに感染します。この働きを、止めたいのですね。

ウイルスの粒は、おおまかにいうと、入れ物と内容でできています。入れ物にあたる膜は、その外側と内側は水にとけ(親水性)、でも真ん中が油にしかとけない(疎水性)性質です(脂質二重膜)。(実はこの入れ物の構築は、私たちの体の細胞の入れ物=細胞膜=と同じです。)その入れ物の中に、自分をコピーして作らせるための情報(遺伝子=DNAやRNAといった核酸)が入っているだけです。それなので、その入れ物をこわしてしまえば、ウイルスとして働けなくなって、人の細胞に入れなくなり、だから ふえなくなります。

 

(洗い方)このウイルスの入れ物(膜)の壊し方は、油に溶けやすいところも、水に溶かしてしまうことです。そのためには、油を水にとかせる(よくあわだてた)せっけん(界面活性剤)や、濃いアルコール(濃度70%程度)に一定の時間つけることです。水だけですと、ウイルスの入れ物が壊せません。ウイルスの働きは止められません。

 

密閉空間が良くないのはどうしてですか?

ウイルスは、咳やくしゃみの時に出るしぶき(飛沫)に大量に入っています。このしぶきは、せきやくしゃみをした人から1~3メートル、空気の中を飛んでいくと言われています。ウイルスを増やしている人が、咳やくしゃみを近くですると、だから、うつりやすいのです。(マスクなどでこのしぶきが空気の中に飛んでいきにくくなれば、感染しにくくなります)。また、窓を閉じて、換気をしないでいると、ウイルスの粒がたくさん詰まった水滴が、部屋の空気の中に、たくさん残ったままになってしまいます。また、湿度が高いと、さらに、こうした水滴が空気中に残りやすくなります。そうすると、部屋の中にいる人たちが、それを吸い込むことになってしまい、感染が広がるきっかけになる可能性があります。

 

なぜ1~2メートルくらい離れているとうつりにくいのですか?

咳やくしゃみでできた水滴は、だいたい1~2メートル飛ぶと言われているからです(もっと飛ぶこともあります:確率的なもので、絶対2メートル以上飛ばないということではありません)。もちろん、咳やくしゃみでできる水滴の大きさはいろいろできます。大きさが小さくなるほど、もっと遠くまで飛んでいく、あるいはそのまま空気中で漂うことはできてしまいます。ただ、水滴が小さいほど(水滴一粒の体積は小さくなるので)中に入っているウイルスの粒の数も少なくなるでしょうし、また、咳やくしゃみでできる多くの水滴は1~2メートル飛ぶもののようです。それなので、1~2メートル、離れることが感染(飛沫感染)を防ぐためには大切と言われています。そして、空気中に長時間漂っている水滴のウイルスからも感染(空気感染)しないようにするには、部屋の換気をよくしたり、部屋の湿度を高くしすぎたりしないことが必要となります。(なお、気道粘膜の感染予防には、気道は保湿が有効です。この意味ではマスクが役立つと考えられます。)

 

同じところにいたとしても、ウイルスに感染する人としない人がいますか?

同じようにウイルスを吸い込んでしまっても、それがどれくらい多くの細胞に入りこんでしまうかは、吸い込んだ人の免疫の働きなどによって違います。そのため、同じように吸い込んでしまっても、全員が感染するとは限りません。

 

ウイルスに感染している人がさわったものをさわると、うつってしまいますか?

コロナウイルスがたくさん入った水滴が、咳やくしゃみから手のひらについて、その手で持ったり触ったりした何かの物体に付いてしまうこともあるでしょう。ドアの取っ手、テーブル、筆記用具、などなど。こうした、さわった物体が、どんな材料でできているかにもよるのですが、ウイルスとして働けるままで、数分から長いときには数時間以上、ウイルスのついた 手でさわったあとに残ることもあるようです。それを別の人が手でさわって、そのときに、そこに残っていたウイルスが手についてしまうことは、あるでしょう。その手で、鼻・口・目など、顔をさわって、粘膜からうつってしまうことは、絶対にないとはいえません。(手でさわっただけだったら、うつりません。それで手をよく洗おうということになります。顔をその手でさわって、粘膜につくと、感染するかもしれない、ということです。)もちろん、もっとたくさんのウイルスが入った、咳やくしゃみのしぶきをそのまま吸い込んでしまうよりは、ウイルスが少ないので、あぶなくないと思われます。でも、注意しておくに越したことはないでしょう。

 

どうして咳やくしゃみをしても体の中のウイルスは全部出ていかないのでしょうか?

細胞は、一度ウイルスに感染すると、その細胞が死んでしまうまで、ウイルスのコピーを作り続けてしまうようです。その間は咳やくしゃみでウイルスを外に出しても、どんどん体の中で新しいウイルスの粒が作られています。そのため、咳やくしゃみだけで体の中の全てのウイルスを出してしまうことはできません。

 

1-2m離れるのに、手を広げて測ってみよう、といいますが、その時に手と手が触れてしまったらうつってしまわないのですか?

手同士で触ってしまうと、手にウイルスの入った水滴がついていれば、その水滴をもらってしまうこともあるでしょう。この手で顔をさわると、うつってしまうこともあるかもしれません。だから、手を広げるときにはお互いに手を触らないようにしておきましょう。

 

くしゃみの水てきは、どのくらいの速さでとんでいくのですか?

時速 100~300キロメートルと言われます。なんと新幹線と同じくらいの速さです。

 

ウイルスはとても小さいのに、

どうしてせきをしても、マスクの網目から出ていかないのですか?

ウイルスは、咳やくしゃみでできる水滴の中に入って空気中に出ていきます。ですので、ウイルスの粒(直径0.1ミクロンサイズ)そのものよりは、ウイルスが入った水滴(直径数ミクロンサイズ)を、遠くの空気の中へ出ないようにすれば、ウイルスが空気中に出てしまうのを防ぐことができるのです。直径が10倍違うだけで、断面積は10 x 10 = 100倍違います。

 

どうして細胞は悪いウイルスをとりこんでしまうのですか?

細胞の表面は、何かじょうほう(情報)を伝えるもの(物質・分子)や栄養などがやってくると、それを受け取って中に入れる働きがあります。ウイルスはそうした細胞の仕組みを使って、細胞の中に入り込みます。(今回の新型コロナウイルスが細胞に感染する足掛かりにする一つは、ACE2という細胞表面のタンパク質といわれています。)

 

どのようにウイルスは自分のコピーを細胞に作らせるのですか?

ウイルスの入れ物が細胞の中で開くと、遺伝子(材料は核酸:DNAまたはRNA)、つまりコピーのための設計図のようなものが出てきます。このウイルス遺伝子は、人間の細胞が増えるときの仕組みで使えてしまいます。それなので、ウイルスは人間の細胞のしくみをそのまま横取りして、どんどん増えていきます。

薬を作るのに時間がかかるのはなぜですか?

まず、どんな物質(化合物)がウイルスの増えるのを止められるか、探さないといけません。ウイルスを増えなくするには、ウイルスが細胞に入るところを邪魔したり、ウイルスのコピーを作れなくなったりさせたりする効果が必要です。それを、調べて、探さないといけません。これに長い時間がかかります。

次に、効果がある物質が見つかったとして、それが本当にたくさんの人に効くのかを確かめないといけません。それだけでなく、副作用、つまり望まない働きで、人の体に害が出ないか、確かめる必要もあります。特に、ウイルスが増える仕組みは、人間の細胞がその材料(タンパク質など)を作る仕組みと同じ仕組みを使います。だからウイルスが増えるのだけを止められているか、よく気を付けないといけません。これにも長い時間がかかります。

 

ウイルスに感染したら、治らないのでしょうか? 治るならどうやって治るのでしょうか?

普通は、ウイルス感染は治ります。例えば、インフルエンザ感染もウイルスによるものですが、治りますね。新しいコロナウイルスに感染しても、何も症状もない人もいます。症状が出ても、普通の風邪のように治る人もいます。

でも、今、困っているのは、新しいコロナウイルスに感染したことで、息を吸う働き(詳しくは、吸った酸素を、肺から血管を経て体に取り込む働き)がうまく行かなくなってしまう人も出ているからです。

もし息が吸えなくなったら(酸素が体に取り込めなくなったら)体が働かなくなって、人間は、死んでしまいます。しかし、息が吸えない原因となっている状態を治す方法は、体の免疫が正常に戻してくれるのを待っている他に、まだないのです。機械(人工呼吸器・酸素吸入など)を使って、濃い酸素を吸ってもらったり、息を吸いこむのを 助けたりするのは、できますが。

今のところ(3/30に発表されたランセットLancet誌の記事による)、新しいコロナウイルスにかかった1500人のうち1人が亡くなるくらいの割合と計算されています(0.066%)。インフルエンザウイルスだと10000人に1人くらい(0.01%)と計算されていますから、それより少し多いようです。

なお検査で新しいコロナウイルスにかかっているということがはっきりした人の中では、100人に1-2人くらい(1.5%)が亡くなるように計算されています。

ではどうやったら治るのでしょうか。まずウイルスが入り込んだ細胞は、ウイルスをたくさん作らされた上に、普通はそのまま死んでしまいます。すると体の免疫細胞がこれを「掃除」します。その時、免疫細胞は、だんだん「勉強」し、ウイルスを見つけられるようになっていきます。もう少し詳しく言うと、ウイルスにくっつける抗体を作っている免疫細胞が増えて、たくさんその抗体を出せるようになります。ウイルスを見つけられると(ウイルスに抗体がくっつけるようになり、それを免疫細胞が目印にできるようになると)免疫細胞がウイルスも壊せるようになります。こうして、ウイルスも、ウイルスに感染した細胞も体の中から減って、治っていきます。新しいコロナウイルスも、同じようにして治っていくと思われます。そうして免疫が新しいコロナウイルスを体から追い出し治るより前に、息(酸素)が吸えないのが悪くなりすぎると、亡くなってしまうようです。

免疫細胞が戦っているのを助けるのに、薬はないのでしょうか? 細菌・バクテリアだと、それらは「生きている」ので、それを邪魔できる薬があります(抗生剤)。でも、効く薬が作られているウイルスは多くはありません。なぜかというと、ウイルスを増やしているのが自分の体の細胞なので、邪魔するのが難しめということがあります。また、ふつうのウイルスなら、体の免疫の働きだけで、しばらくすると治って、死ぬような状態になることはほとんどないため、薬が必要になることはあまりないというのも理由のひとつでしょうか。

でも、体の免疫だけでは治らない・治りにくいウイルスには、薬が作られているものもあります。(コロナウイルスは今の新しいものが出るまでは普通に治るものと思われていたので、薬がまだありません。)薬があるのは、インフルエンザ、みずぼうそうの原因のヘルペスウイルス、B型・C型肝炎ウイルス、エイズの原因のHIVウイルス、などくらいです。

薬の働きは大きくわけて二つあります。薬の働きは、一つは、ウイルスが人の細胞に入り込むのを邪魔することです。もうひとつは、ウイルスが増えるのを防ぐ働きです。この薬は、ウイルスが細胞に入り込んで増えるために必要な核酸に似ていて、ウイルスの増殖の際にこれを本物の核酸と勘違いしてとりこみ、ウイルスのコピーが止まります。そうすると、ウイルスはそれ以上増えなくなります。

●監修

狩野光伸(岡山大学 SDGs担当副理事・教授(外務大臣次席科学技術顧問))

森田由子(知識流動システム研究所フェロー、日本科学未来館科学コミュニケーション専門主任)

●企画・制作

知識流動システム研究所(担当:小泉周 自然科学研究機構特任教授)

小村俊平(岡山大学学長特別補佐、ベネッセ教育総合研究所 主席研究員)

長谷川里奈(NPO法人教育テスト研究センター研究員)

本教材は、どなたでもご自由に印刷・転送いただけます。内容の改変はご遠慮ください。また、冊子「コロナウイルスについて一緒に考えよう」も、ぜひご一緒にご活用ください。

E-mail:stop_corona@smips.jp Website:https://bit.ly/3bW3k8X

児童版はこちらからご覧いただけます:https://bit.ly/2yvpy2S